死は誰にでも突然訪れる。
街を幸せそうに歩いているカップルにも家で誕生日会をやっている家族にも突然死は訪れる。
2009年の6月11日。
私が高校二年の頃に私の妹が事故で死んだ。
私が憂が死んだ事を電話で聞かされたあの日。
どうかなりそうだった。
ショックで自分自身をかき消してしまいそうだった。
1年年経った今も憂が死んでしまったショックから立ち直れずにいる。


私は憂が死んでしまった苦しみから逃げていた。
学校に行かず友達とも会わず、ただ憂の部屋で一日を過ごしていた。
憂がもういない事は分かってる分かってるんだけど、何故か憂の部屋にいると感じるんだ。
私の側に憂がいるんじゃないかって錯覚してしまうんだ。



誰もいない部屋で私はポツリと呟く。
返事は当然無く静かな部屋に私の声が消えていくだけ。
分かってる……。
死んでしまった憂を私が呼んでも返事が無い事ぐらい分かってる。
分かってる…だけど、私は憂の声が聞きたい。
あの明るく元気な声を私はもう一度聞きたい…。


朝、私が寝ていると憂が私を起こしに来てくれる。
食卓には憂が作った朝ご飯。
私はそれを食べて憂と一緒に学校へ行く。
それが日常だった。
今でも時々だけど夢を見る。
憂が生きていた頃の夢を見る。
本当にあの頃に戻りたい。
憂が生きていた頃に戻ってもう一度、憂と話したい遊びたい二人で色んな事をしたい。


私の願いは叶う事は無いと分かってる…でも、私はこれから何年も同じ事を思い続けるだろう。
憂の事が大好きだから。

唯「……………電話だ」

ケータイの着信音が微かに自分の部屋から聞こえる。
私は憂の部屋から出て自分の部屋へと行く。

唯「誰からだろ……」

ベットの上に置いてあるケータイを手に取る。
電話を掛けて来たのはりっちゃんだ。


唯「もしもし?」

律「あ、唯か?」

唯「うん」

律「今日は学校…来ないんだよな?」

唯「うん、ごめん」

律「そ、そっか…わかった…」

唯「ごめん……」

律「別に謝る事じゃ無いぞ!じゃあ切るからな」

唯「うん…バイバイ」

律「バイバイ」

唯「はぁ…………」

今日も学校に行かなかった自分にもの凄く嫌気がさす。
ケータイをベットの上に投げ捨て憂の部屋へと戻る。

唯「あれ……?」

憂の机の上にノートがある。
確か憂の机の上にはノートは無かった筈だ。


ノートの表紙には平沢憂と名前が書かれている。
多分、憂が学校で使っていた物だと思う。
ノートを手に取り開く。
まだ何も書かれていないみたいだ。
憂がまだ生きてればこのノートも使われていたのかなぁ…そう思うとまた憂鬱な気分になる。


突然、ノートに文字が浮かび上がった。
私は何もしていないしペンも持っていない。
私はただ、ノートに次々と浮かび上がる文字を目で追っていた。
一つ一つ浮かび上がる文字……それを全て繋げると文章になった。
ノートに書かれた文章はこう書かれていた。
『お姉ちゃん元気?』
不思議だノートに急に文字が浮かび上がった事…それに憂が私の側にいる気がする。
錯覚や勘違いじゃ無く本当に私の側にいる気がする。


憂『あ…憂だよ』

またノートに文字が浮かび上がる。

唯「…憂?」

憂『うん、久しぶりお姉ちゃん』

唯「本当に憂?」

憂『そうだよお姉ちゃん』


本当に不思議だ……。
憂が…憂が…ノートを通じて私に話しかけているなんて。

唯「本当の本当に憂?」

憂『そうだよ…嘘じゃないよ!』

唯「憂……夢だよね?」

憂『夢なんかじゃないよ…信じてくれる?』

唯「う、うん!信じるよ」

憂『ありがとう!』

唯「うん……でもまだ、夢なんじゃないかな?って思うよ…憂がこうしてノートで話しかけてくれるなんて……」

憂『ううん…夢じゃないよ……私、お姉ちゃんとずっとお話したかった』

唯「私も……私も憂と沢山お話したかったんだよ!本当に夢みたいだよ…」

唯「うぅ…憂…ひっぐ…寂しかったよぉ……」

憂『お姉ちゃん…私も寂しかった……』

唯「憂が死んだ日から…こうして憂とお話が出来る日を…ずっと願ってた…」

憂『お姉ちゃん……私が死んだ日から元気無かったもんね…』

唯「憂は今…何処にいるの?」

憂『お姉ちゃんの側にいるよ』

唯「そうなんだ……何だかそんな気がしてたよ…」

確かに…側に憂がいる。
姿も見えないし、声も聞こえないけど確かに憂が私の側にいる。

唯「ねぇ……憂?」

憂『なに?』

唯「聞きたい事があるんだ…」

憂『何でも聞いていいよ』

唯「死んだ後の世界ってどうなのかなぁ?」

憂『えーと…わからないよ』

唯「わからないの?」

憂『うん…何故か死んでからこの部屋から出られないんだ…だから天国とか地獄とか言われてもわからない…死んだ後も私の部屋から出られ無い事を除けば何時もと変わら無いよ』

唯「そーなんだぁ…」

憂『死んだ後の世界知りたかったの?』

唯「ううん…ただ興味があっただけだよ!憂はきっと天国に行くと思うよ!』

憂『ありがとう、お姉ちゃん…天国ってどんな所なのかな?』

唯「わかんないよー」

憂『そうだよね…何だか不安だな』

唯「憂が天国に行っちゃったら…ノートでお話出来ないのかなぁ?」

憂『わからない、でも私はまだ天国に行かないよ』

唯「うん…ずっとノートでお話したいもんね!」

憂『うん、そうだね』

唯「私が死んだ時に一緒に天国行こうね!」

憂『そうだね』


憂『あ、お姉ちゃん今日も学校行ってないんだね』

唯「ご、ごめん……」

憂『私が死んでから、まともに学校行って無いもんね』

唯「うん……」

憂『私からお願いがあるんだ』

唯「なぁに?」

憂『明日からは、ちゃんと学校行ってくれる?』

唯「うん、いいよ!」

唯「私、憂が死んだ事からずっと逃げてた…学校にも行かず、憂の部屋でただぼーっと過ごしてた」

憂『うん』

唯「だけど…明日から学校行くよ!」

憂『約束だよ』

唯「うん!絶対行くよ!みんなにも迷惑かけたから謝らないとダメだよね」

憂『頑張って!応援してる』

唯「憂?」

憂『なに?』

唯「あずにゃんや純ちゃんと話したい?」

憂『うん、話したいよ』

唯「明日あずにゃんと純ちゃんにこのノート見せるよ!」

憂『本当に?ありがとう!』

唯「きっと喜ぶよ!」

憂『うん!』

唯「あ…あのね、憂が死んでから…毎日が楽しく無かった…学校に行ってる時も部活やってる時も憂の事が頭から離れ無くて楽しめる気分じゃ無かった…でも今は楽しいよ凄く楽しいよ」

憂『私もだよお姉ちゃん』


憂『お姉ちゃんご飯とかどうしてる?』

唯「お母さんがいる時はお母さんが作ってくれてるよ!」

憂『お母さんが作ってくれてるんだ今はお母さんいる?話したいな』

唯「今は…お父さんの仕事で遠くにいるよ…ごめんね」

憂『お姉ちゃんが謝る事じゃ無いよ!お母さんがいない時はどうしてる?』

唯「えーと…コンビニでお弁当買ってる」

憂『コンビニなんだ…』

唯「う、うん…料理は今まで憂が作ってくれたからね…私あまり料理上手じゃないから」

憂『でも自分で作らなきゃダメだよ』

唯「うん…」

憂『私が教えるよ!』

唯「本当に?」

憂『うん、お姉ちゃんには早く一人で何でも出来るようになって貰いたいから』

唯「私には憂がいないとダメだからね!」

憂『お姉ちゃん…これからは私がいなくても一人で料理作れるようにならなきゃダメだよ?』

唯「うん!」

唯「でも…どうやって料理を私に教えるの?」

憂『私は自分の部屋から出られ無いから…あ、ノートにレシピを書くよ』

唯「うん!」

憂『冷蔵庫には何がある?』

唯「豚肉があったよ!」

憂『じゃあ豚のしょうが焼きにしようねレシピ今から書くからね』

憂『これで終わりだよ』

唯「分かりやすいよ!ありがとう」

憂『どういたしまして』

唯「もうお昼だし早速作って来るよ!」

憂『うん、火には気をつけてね!包丁も危ないし落とさ無いようにしてね』

唯「もぉー大丈夫だよ!じゃあ作ってくる」

憂『頑張ってね』



唯「出来たよー!」

憂『よかったね!』

唯「憂しょうが焼き見えてるー?」

憂『うん、見えてるよ美味しそうなしょうが焼きだね』

唯「ありがとー!」

憂『お姉ちゃん食べてみて』

唯「うん、いただきまーす」


唯「美味しかったぁ!」

憂『よかったね!』

唯「憂のレシピのおかげだよー」

憂『お姉ちゃんが頑張ったからだよ』

唯「えへへ~ありがとぉ!」

憂『うん、これからお姉ちゃんがいっぱい料理出来るようにレシピを沢山書くからね』

唯「うん!ありがとう!」


それから私達は夜中まで話した。
今まで憂に話したかった事を全て話した。
とっても楽しかった。
憂が死んでる事なんか忘れるぐらい楽しかった。
それに、明日が本当に楽しみだ。
姿は見え無いけど憂が喜ぶ顔が目に浮かぶ。
あずにゃんや純ちゃんもきっと驚くだろうなぁ…。

唯「憂おやすみ~」

憂『おやすみお姉ちゃん』

憂から返事が来た事を確認すると私は瞼を閉じた。



翌朝。

唯「うぅ……」

私は目を覚ましノートを探す。

唯「あれ?…ノート何処やったっけ?」

確かノート抱いて寝た筈だ。
だけど無い…布団をめくりノートを探すが何処を探しても無い。

唯「ノートが…ノートが無いよぉ…」

唯「ベットに無いよ…あ!ベットの下にあるかも」

ベットの下を覗くとノートはあった。
私はほっと一息付いてノートを開く。

憂『お姉ちゃんおはよう、このノートは大切なノートだから、決まった場所に置いて無くさ無いようにしなきゃダメだよ!』

唯「ご、ごめん…」

憂『それじゃあ、制服に着替えよっか』

唯「うん!」

唯「ねーねー憂」

憂『なに?』

唯「このノートの事みんな信じるかなぁ?」

憂『信じると思うよ!お姉ちゃんが信じてくれたように私の友達も信じてくれるよ』

唯「そーだよね!じゃあこのノート学校に持って行くね」

憂『うん!』

唯「じゃあ…行ってくるね」

憂『うん!』

唯「バイバイ憂」

憂『バイバイお姉ちゃん今日の夜ご飯のレシピ書いとくからね』

唯「うん!行ってきまーす」

憂『行ってらっしゃい』


唯「あ…りっちゃんから電話だ」

律「あ、もしもし」

唯「りっちゃんおはよう…えーと今日ね」

律「今日も学校休むのか?」

唯「ううん…行くよ今向かってる途中だよ」

律「そっか!!よかった…じゃあ学校で待ってるからな!」

唯「うん!バイバイ」

律「じゃあなー!」




学校。

律「今日唯が学校に来るって!」

紬「ほ、本当?」

律「あぁ!本当だ!」

澪「よかった…最近学校に来て無かったから心配してたんだ」

紬「梓ちゃんも喜ぶわね!」

和「本当によかったわ…私達が今まで遅れてた分の勉強教えないとね」

律「そうだな!」

唯「み、みんなおはよう」

律「来た!」


唯「えーと……」

律「久しぶりだな!」

澪「元気にしてたか?」

唯「う、うん…今まで迷惑かけてごめんなさい」

紬「迷惑だなんて…そんな事ないわ!」

律「あぁ!むしろ沢山迷惑かけていいからな!」

澪「うん…私達が唯を支えるから」

和「だから謝ら無くていいのよ?」

唯「みんな…ありがとう…」

唯「明日からは学校ちゃんと行くから」

律「そうかー!部活は大丈夫か?」

唯「うん!これからもよろしく!」

紬「えぇ!唯ちゃんよろしくね」

唯「あ…でも、今日は部活出来無いよ…ごめん」

澪「だ、大丈夫だって!」

唯「明日からは部活ちゃんとするね!」


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最終更新:2010年06月12日 23:09