憂「よいしょ…っと」

こんにちは。平沢憂です。
季節は夏、私たち高校生は夏休みです。
さんさんと照りつける日差しの中、私は両手いっぱいに荷物を抱えて出かけます。

ガチャ

憂「…あついなぁ」

なにをするかって?






家出するんです。



【家出初日 あずさの家】

ピンポーン

梓「はーい!」

ガチャ

憂「こ、こんにちは…」

梓「いらっしゃい、あがって」

憂「おじゃましまーす」

憂「ごめんね、無茶言って」

梓「ううん、大丈夫」

梓「それで、どうして急に家出なんかしたの?」

憂「実は…」




~回想~

唯「それじゃ、行ってくるね」

憂「いってらっしゃい。暑いから気をつけてね?」

唯「ほーい」

夏休みに入ってからお姉ちゃんは毎日のように夏期講習に行っています。
夏期講習が休みの日は軽音部の練習。
ちっとも私にかまってくれなくなりました。

憂「はぁ…」

憂(寂しいなぁ…)

ガチャ

唯「ただいまー」

憂「おかえりお姉ちゃん」

唯「ぬあー、つかれたよぉ」

憂「お疲れさま。ご飯もうすぐ出来るから待っててね」

唯「ういーっす」

コンコン

憂「お姉ちゃーん、ご飯出来たよ」

ガチャ

唯「…Zzz」

憂「お姉ちゃん?」

唯「…Zzz」

憂「もう、風邪引いちゃうよ」

ぱさっ

憂「おやすみ、お姉ちゃん」


こんな日が続いていました。
帰って疲れてそのまま寝ちゃう日もあれば、
宿題がたくさんあるからって早々とご飯を済ませる日もありました。
一緒に寝たいって言っても「課題が夜遅くまでかかるから」と断られ、
一緒にお風呂入ろうって言っても「疲れたから一人で入りたい」と断られ、
お出かけしようって言っても「忙しい」と断られ、私の寂しさは限界でした。

憂「ぐすっ、お姉ちゃぁん…」

最近の私はこんな風に夜な夜な枕を濡らす日々を過ごしていました。
もうこんな寂しい思いをするのは嫌だ。
どうしたら前みたいにかまってくれるんだろう。
受験生だし夏期講習やめてとも言えないし、
軽音部に行かないでなんてもっと言えない。

憂「…そうだ!」

私はひらめきました。

憂「お姉ちゃんを寂しがらせればいいんだ!」

そうすれば私の存在の大きさに気づくはず。
きっと前みたいに私のことかまってくれる。
でも、どうすればいいんだろう。
話しかけるのをやめる?でもたぶん話しかけちゃうだろうなぁ…。
お姉ちゃんを無視する?いくらなんでもそれはかわいそう…。

憂「…あっ!」

家出だ!


家出ならごく自然な形でお姉ちゃんを寂しがらせることが出来る!
ちょっとかわいそうとは思うけど、しょうがないよね。
私なんてもうずっと寂しくて辛い思いしてきたんだし。
でも、もしお姉ちゃんが心配も何もしてくれなかったら…?
ううん、大丈夫。きっとお姉ちゃんなら心配してくれる。
お姉ちゃんだって私のことが大好きなはずだし、大切なはずだ。
これは試練だよ、お姉ちゃん。
私からお姉ちゃんへの愛の試練。
絶対乗り越えてね。私待ってるから。

そうと決まればさっそく…。

prrrr

ガチャ

梓『もしもし』

憂「あ、梓ちゃん?あのね…」




梓「なるほど、それで家出をね…」

憂「そういうこと!」

梓「でも少しやりすぎな気が…」

憂「梓ちゃん」ずいっ

梓「へっ?」

憂「私は、真剣なんだよ」

梓「はは…そうですか」(おぉ、こわ…)

憂「お姉ちゃんが私のことどう思ってるか、これで見極めるの」

憂「お姉ちゃんが本当に私のことを大切に思っているのなら、きっとこの試練を乗り越えてくれる!」

梓「でも、もし乗り越えられなかったら…?」

憂「そんなことないもんっ!お姉ちゃんは、お姉ちゃんはっ…!」うるうる

梓「う、憂?!」

憂「お姉ちゃんは、私のこと大好きだもぉん…」ぽろぽろ

梓「そ、そうだよ!大丈夫だって!唯先輩は憂のこと大事に思ってるって!だから泣かないで、ね?」

憂「うぅっ…」

梓「そ、そうだ!純も誘ってどこか遊びに行こうよ、ね?」

憂「うん…」


純「へぇー、そんなことがあったの」

梓「うん、いきなり泣き出したりしたからびっくりしたよ」

純「にしても、憂のシスコンっぷりは半端じゃないねぇ~」

梓「そう言ってあげないでよ。憂だって必死なんだからさ」

純「ま、仲が良いのはいいことじゃないの?」

梓「んもぉ~。他人事だからって…」

純「でも、心なしか楽しそうだね」

梓「まぁ、唯先輩のこと信じてるからね。今から楽しみなんじゃない?」

憂「梓ちゃん、純ちゃん!こっちこっち~」

純「はいはい、今行くよー!」



【あずさの家】

憂「はぁ~、楽しかったぁ」

梓「でもすごく汗かいちゃったよ」

憂「ねぇ、一緒にお風呂入ろうよ」

梓「え、ええっ?!」

憂「修学旅行の練習だと思ってさ」

梓「で、でも」

憂「ダメ…?梓ちゃん」

梓(うっ…。そんな風に言われたら断れないよ)

梓「わ、わかったよぉ」


【お風呂】

梓「はぁ~っ、気持ちいいーっ」

憂「梓ちゃん、背中流してあげる」

梓「えっ?!い、いいよそんな…」

憂「いいからいいから」

梓「う、うん…///」

憂「梓ちゃんの髪、やっぱりきれいだね」

梓「そ、そんなことないよ!」

憂「それに、いい匂いもする。うらやましいなぁ」

梓「う、憂の方こそ!身長もあるし、そ…それに…」

梓「む、むむ胸だってあるし…。私からしたらそっちの方がうらやましいよ」

憂「そうかなぁ?」

梓「あーあ、私ももっとスタイルよくなりたかったな」

憂「梓ちゃんは今のままで十分かわいいよっ」もみっ

梓「ひゃあんっ!」

憂「うふふ、梓ちゃんったらかわいいっ」

梓「うー…お返しだっ」むにゅっ

憂「きゃあっ!」

もみもみ

梓「うわぁ…」

もみもみ

梓(実際触ってみると予想以上におっきい…)

もみもみ

梓(それに比べて私は…)ちらっ

梓(へ、へこむなぁ…)ずぅーん

憂「んっ…//」

憂「あ、梓ちゃん?いつまで触ってるのかな…?」

梓「はっ!!ごめん、つい夢中で…」

憂「そ…そろそろ出よっか」

梓「そ、そうだね」

憂「・・・・・・」

梓「・・・・・・」

梓(う、うっかり触りすぎてしまった…)

憂(あんなに触ってくるなんて…恥ずかしかったよぉ)

【あずさの部屋】

梓「今日の純、髪型ちょっと変だったよね!」

憂「寝癖のせいかな?ちょっといつもよりボリュームがあったような…」

brrrrr

憂「あ、メール…」

梓「誰から?」

憂「お姉ちゃんだっ!!」

梓「び、びっくりした…。唯先輩はなんて?」

――――――

From:お姉ちゃん

Subject:うい!

本文:
何も言わずにいきなり出かけるなんてひどいよ!
しかも3日も…。どこでなにしてるの?

――――――


梓「み、3日?!」

憂「うん、置手紙を一応書いておいたの。警察沙汰になったら困るし」


――――――

お姉ちゃんへ

3日ほど出かけます。
ご飯は冷蔵庫に入ってるから、あっためて食べてね。
火の元と戸締りには気をつけてね。

うい

――――――


憂「あ、3日間梓ちゃん家にお世話になるつもりじゃないよ?」

梓「いくらなんでも3日は唯先輩がかわいそうだよ…」

憂「いいの、これは試練なんだから!」

梓「それで、なんて返信するの?」

憂「返信?」

梓「返信…しないの?」

憂「ちょっとお姉ちゃんにお灸をすえなきゃ!」

梓「ええぇ~っ…」

brrrr brrrr brrrr…

梓「電話だよ、憂。唯先輩からじゃない?」

憂「うん。でも出ないで我慢我慢」

brrrr brrrr brrrr…

梓「まだ鳴ってるよ」

憂「もう、お姉ちゃんったら…//」

梓(ひどいことするなぁ…)


うれしかった。そして安心した。
お姉ちゃんが心配して連絡をくれたからだ。
本当はすぐにメールも返したかったし、電話だって出たかった。
でも、はやる気持ちを抑えた。

brrrr

憂(またメールだ)

――――――

From:お姉ちゃん

Subject:うーいー;;

本文:
うーいー;;
どうして電話に出ないんだぁぁ。
寂しいよぉ。ういー;;

――――――

憂「…ふふっ」

お姉ちゃん、大好き。



【家出2日目 昼】

憂「泊めてくれてありがとう」

梓「ううん。それよりもあと2日平気なの?うちにいてもいいんだよ?」

憂「さすがにそこまで迷惑かけられないから自分で何とかするよ。ありがとう梓ちゃん」

梓「わかった、それじゃあ気をつけて。うまくいくといいね」

憂「うん!またね」

私は梓ちゃんの家をあとにした。
さて、これからどうしよう。
自分で何とかするとは言ったものの、特にこれといったあてもなかった。
やっぱり戻って梓ちゃんの家にお世話になろうかな…。
なんてことを考えていた矢先、

?「おーい、憂ちゃーん!」

憂「あ…」

声をかけてくれたのは律さんだった。
後ろには紬さん、澪さんもいた。

憂「みなさんこんにちは。これから講習ですか?」

紬「ううん。今日は午前だけだから、これからみんなでお昼ご飯を食べに行くところなの」

憂「あの、お姉ちゃんは…?」

澪「唯は補習を受けてるよ、あとで合流するって」

憂「そ、そうですか」

律「それよりも憂ちゃん、その両手いっぱいの荷物はいったいなんだい?!」

憂「これですか?これは…」

私は事情を説明することにした。


律「なるほど、つまり憂ちゃんは家出少女ってわけか!」

憂「まぁ…、そういうことになります」

紬「家出少女…」ぽわ~ん

律「ふふん、こいつはおもしろそうだな…。よし!私らも協力しようぜ」

澪「おい律!なに馬鹿なこと言ってるんだ!」

律「いいじゃんいいじゃん。憂ちゃんも宿がなくて困ってるわけだし」

律「それに、唯が寂しがってる姿も見てみたいだろ?」ボソッ

澪「た、確かにそれは見たいかも…」

律「ムギも協力してくれるか?」ヒソヒソ

紬「えぇ、もちろんよ」

律「決まりだな」

律「憂ちゃん、私たちの家においでよ!」

憂「えっ、そんな!悪いですよ」

律「遠慮しなくていいって!憂ちゃんにはいつもお世話になってるからな」

澪「私たちの家に一日ずつ泊まれば、3日は宿に困らないだろ?」

紬「憂ちゃんが構わないなら、全然いいのよ?」

どうしよう。
置手紙には3日ほど出かけるって書いたから、明日には帰らなくちゃならない。
もし3人の家にお世話になったら置手紙の日にちを破ることになる。
私は考えた結果…。


A:置手紙の日にちを守る。(1日だけ誰かの家にお世話になる)

B:置手紙の日にちを破る。(3日間それぞれの家にお世話になる)

※どちらかバットエンドです。


最終更新:2010年08月26日 20:51