梓「だいぶ気が動転してたみたいだけど、唯先輩何の用事なんだろう」
梓「憂がご両親と海外旅行に行くって言ってたから、てっきり唯先輩も一緒かと思ってたけど」
梓「夏休みなのに全然練習してない理由はそこじゃないみたい」
梓「まぁ、純もジャズ研の練習で忙しいみたいで暇だったからちょうどいいかな」
ピンポーン ピンポーン
唯「待ってたよ、あずにゃ~~ん!」ガチャ
梓「おはようございます、唯先輩。突然どうしたんですか?」
唯「挨拶はいいから早く入って! 掃除機と洗濯機が反乱して台所が戦場なんだよ!」グイグイ
梓「痛た……言ってる意味はわかりませんが、大体の状況は掴めました……」
梓「うわぁ……想像より酷い有様ですね。何したらこんなになるんですか?」
唯「別におかしなことはしてないよぉ。一気にやった方がいいかな、って思ったから全部にスイッチ入れただけだよ」
梓「はぁ。ちゃんと手順通りやらないと駄目じゃないですか。それでこのフライパンの中の炭は何ですか?」
唯「色々炒めちゃおうとしてて、火を点けてからギー太弾いてたらこんなことになってたんだよ」
梓「よく火事になりませんでしたね……とりあえず、一つずつ片付けていきましょう。唯先輩は散らばったゴミをまとめて下さい」
唯「ごめんね、あずにゃん」
……
唯「やっと終わった~!」
梓「何とか元通りですね。それで聞きたいんですけど、唯先輩は旅行行かなかったんですか? てっきり家族全員で行ってるものだと思いましたよ」
唯「あぁ……」
梓「?」
唯「だって私……夏期講習があるから……それに受験生なんだから、遊んでばっかりじゃ駄目って憂に怒られちゃったし……」
梓「うーん、つい最近も夏フェス行きましたからね。それでお留守番してるってわけですか」
唯「そういうことなのです」
梓「いつ頃帰ってくるんですか?」
唯「えっとね、日曜の夜には帰ってくるって言ってたよ」
梓「今日は火曜日だから、まだまだですね。いつから行ってるんです?」
唯「一昨日の日曜から行ってるよ」
梓「たった二日間でこの有様ですか……」
唯「そういえば憂がすっごい心配そうな様子だったよ。一週間くらいお留守番できるって言ってるのに。失礼だよね」
梓「全然出来てないじゃないですか。私が憂の立場でも心配で眠れませんよ」
唯「うぅ、あずにゃんも私を出来ない子扱いにする……」
梓「事実ですよ。こんなんじゃ憂に叱られますよ?」
唯「あぁ、それだけはご勘弁を~! お願いあずにゃん、憂が帰ってくるまで私を養って下さい!」
梓「えぇ!? でも私も勉強とかギターの練習とかしないと」
唯「一緒にやろうよ~! お願いだよ~!」グイグイ
梓「わ、わかりましたっ。わかりましたってばっ! もう、それじゃちゃんと用意してくるんで一度家に戻ります」
唯「やった~、あずにゃんと同棲だ~!」
梓「へ、変な言い方しないで下さい! じゃあ大人しく待ってて下さいね」
唯「は~い。あ、アイス買って来て~」
梓「行ってきます!!」ガチャバタン!
唯「ううぅ、あずにゃんが反抗期だよ~」
梓「はぁ、まったく唯先輩はもう……」
梓「着替えと勉強道具と……あ、ギター忘れずに持っていかないと」
梓「ああ言ってはみたものの、どうせ暇だったから唯先輩と一緒に過ごせるならいいかな」
梓「ちょうどいい機会だから何事にも真面目に取り組んでもらえるようにしなきゃ」
梓「えっと、他に必要なものはあったかな。まぁ、その時にコンビニでも行けばいいか」
梓「そういえば唯先輩、アイス欲しがってたっけ。後で泣き付かれても面倒だしね」
梓「……私の分も買って行こう」
ピンポーン ピン
唯「待ってたよ、あずにゃ~~ん!!」ガチャ
梓「わっ、びっくりした。どうしたんですか、その格好」
唯「あずにゃんがお泊りするから、気合入れて晩御飯作ってたんだけど」
梓「あー……」
唯「あの、その、台所が戦場で……」
梓「それはもう聞きました……それじゃ一緒に作りましょうか?」
唯「! あずにゃん、ありがと~!」
梓「わわっ、いきなり抱きつかないで下さい!」
……
唯「ごちそうさまでした~」
梓「お粗末さまでした」
唯「あずにゃん、料理上手なんだね。憂に作ってもらったみたいだったよ」
梓「ちょっと前から憂に料理教わってたんです。こういう事もあろうかと、ってやつです」
唯「ふーん。あ、でも次は私が作るよ! お客さんにばっかり作らせてちゃあ平沢家の名がすたるってぇもんです!」
梓「は、はぁ。じゃあ過度の期待はしないでおきますね」
唯「うぅ~、何か風当たりきついよぉ~」
梓「それより明日も講習あるんでしょう。ちゃんと準備できてるんですか?」
唯「いやだねぇ、この子は~。そこまで人を疑っちゃいけないよ。ほら、受講証もちゃ~んと……あれ?」
梓「どうしたんですか?」
唯「いや、あのね……確かここに入れたはずなんだけど……」
梓「まさか受講証無くしちゃったんですか!?」
唯「おっかしいなぁ、今日の講習の時まであったのに~」
梓「部屋にあるんじゃないですか?」
唯「あーそうかも。あずにゃんも探すの手伝ってくれる?」
梓「もう、仕方ないですね」
梓「それにしても……」
唯「何? あ、そこ危ないよ」
梓「おっと。憂がいないからって、これはちょっと散らかしすぎじゃないですか?」
唯「え~? 結構普段通りなんだけどなぁ」
梓「余計に悪いです! 片付けを先にしないと、見つかるものも見つかりませんよ」
唯「ぶ~。あずにゃん、憂より厳しいよ~」
梓「ふぅ……大体片付きましたけど」
唯「受講証、見つからないね」
梓「どうするんです? このままじゃ……あ、唯先輩の携帯鳴ってますよ」
唯「お、りっちゃんからだ~。もしもし、りっちゃ~ん? どうしたの」
唯「え、そうなんだ。うん、ありがと~! それじゃあね」
梓「律先輩、何だったんですか?」
唯「受講証、りっちゃんが持ってたんだ。私が持ってたら忘れそうだから、りっちゃんに預けておいたの忘れてました!」
梓「それじゃ意味無いじゃないですか……でも、何でわざわざ電話を?」
唯「唯の事だから受講証がない! って大騒ぎしてる頃だろうなー、と思ってだって。ひっどいよねー」
梓「完全に行動パターンを読まれてるじゃないですか。そもそも自分で管理してたら大騒ぎする必要はなかったんですよ」
唯「ううぅ」
梓「憂がいない間、私が責任を持って唯先輩の面倒を見させてもらいますから」
唯「え、わ~い。それじゃあ早速アイス食べようよ~」
梓「そうですね……それじゃあ明日の予習してからにしましょう」
唯「えぇ!? いいよ~、外でも勉強、家でも勉強じゃ破裂しちゃうよ~」
梓「これが受験生のセリフですか……いいから始めて下さい。私も自分の勉強しますから」
唯「あずにゃんのケチ~!」
……
梓「――それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」
唯「そだね~。あずにゃんもベッドで寝る?」
梓「ベッドは唯先輩のじゃないですか。私は床で結構ですよ」
唯「もう、愛いやつよのぅ~。一緒に寝ようよ~」
梓「け、結構ですっ! もう電気消しますよ!」
唯「あ~う~、あずにゃん厳し過ぎだよ~」
水曜日!
梓「――唯先輩! 唯先輩!!」
唯「ん~……うい~? あと10分……」
梓「憂じゃないですよ、梓です! 唯先輩!」
唯「あ~、あずにゃんだ~。何か用~?」
梓「朝ですよ! もー、何でそんなにいっつもだらしないんですか!?」
唯「まだ早いよ~、世間は夏休みなんだよ~」
梓「唯先輩は夏期講習に行くんでしょう! ほら、朝食もできてますから!」
唯「あうぅ~、すまないね~」
梓「平沢家の名がすたるんじゃなかったんですか? ああ、それカバンじゃなくて枕ですよ! もう!」
唯「明日はしっかりやるよ~」
梓「朝から明日の話しないで下さい。とりあえず顔洗ってご飯食べて下さい」
唯「はいよー」
梓「ふぅ。憂がどれだけ万能なのか身に染みて理解できてきた……」
梓「今日はどうしようかな。とりあえず掃除洗濯……買い物もしておこうかな」
梓「それから唯先輩が帰ってくるまで自分の勉強でもしてようっと」
梓「……それにしても唯先輩遅いな。唯せんぱーい! どれだけ時間掛かってるんですか? ごはん冷めちゃいますよ!」
唯「うーん……あ、この髪型どうかな、あずにゃん」
梓「え? 別に悪くないと思いますけど」
唯「うーん、そうかぁ。じゃあこれにしよっかなぁ。あ、でもでもこういうのもいいかな」
梓「普段の通りでいいんじゃないですか? って、何やってるんですか! のんびりしてる時間ないですよ!」
唯「えぇ~? あずにゃんには身支度に時間を掛ける乙女の心はないの?」
梓「それとこれとは関係ないです! 早くごはん食べて出発して下さい!」
唯「わわっ、は~い!」タッタッタッ
梓「まったくもう……」
梓「……私もたまには髪型変えた方がいいのかな……」
唯「あずにゃんはそのままが一番可愛いよ~」
梓「!! は、早く行って下さい!!」
唯「すっごいカミナリ! 行ってきま~す!」
梓「はぁ……はぁ…………もう」
梓「お掃除、しようかな」
梓「――よくわかんない炭が部屋中に散らばってて大変だったな」
梓「あれで今までよくやってこれたなぁ。憂がいないとどうなっちゃうんだろう、この家」
梓「じゃあ次は天気もいいからお洗濯しちゃおう」
梓「唯先輩に任せたら色付いてるやつも一緒に洗いそうだもんね」
梓「あ、下着……」
梓「や、やだなぁ、女の子同士なのに! べ、別に気にしない気にしない!」
梓「うぅ……」
梓「結局干すから、しっかり広げて見ることになりました……」
梓「こう改めて見せられると、私って相当小さいんだなぁ」
梓「でもまだ高校二年だし、これからだよね。きっと」
梓「でもよく考えたら、憂も純も私より全然ご立派だ……」
梓「特に憂。絶対去年より成長してるような」
梓「あっ、憂は今いないから……ちょっと拝見しようかな」
梓「ちょっとだけ……ちょっとだけだから……失礼しまーす」ガチャ
梓「憂の下着入れはここかな? うん、あった」
梓「では服を脱いで……憂のを着てみると……」
梓「うっ」
梓「ぶかぶか……油断してると落ちちゃうくらい……」
梓「さ、さぁ、お買い物に行こうかな」
…
梓「これで用事はひとまず終了」
梓「お昼は適当にすませて、夕方には唯先輩帰ってくるだろうから、それまでに晩御飯の用意しよう」
梓「それまで何していようかな……」
梓「特にすることないから勉強でもしようか」
梓「唯先輩に厳しくしておいて、自分ができてなかったら恥ずかしいしね」
梓「えっと、この公式は……こうだから……」
梓「ふぁああ~」
梓「ちょっと眠くなっちゃった」
梓「少し横になろう」
梓「目覚ましセットして、と。お休みなさい……」
ピピピピピピ ピピピピピピ
梓「――はっ。あ、そうか眠くなったんで少し横になってたんだっけ」
梓「うん、ちょうどいい時間。晩御飯の用意でもしようかな」
梓「♪~ ♪~ ♪~」
梓「えっと醤油は……あったあった。そして砂糖は……あ、切れてる」
梓「うーん。まだ唯先輩帰ってくるまで余裕あると思うから、また買いに行こうか」
梓「火は落としたし、玄関の鍵も閉めたし。よし!」
梓「ちょっと急いで行こうかな……あれ? あの人は」
梓「こんにちは!」
とみ「あら、あなたは確か……あずにゃんさんね。こんにちは」
梓「覚えてくれてたんですか? あ、一応私は
中野梓っていうんですが」
とみ「あの演芸大会は楽しかったもの。覚えていますよ」
梓「そう言ってもらえると嬉しいです」
とみ「それで今日はどうしたの? 唯ちゃんの家から来たみたいに見えるけど……」
梓「はい、実はかくかくしかじかという訳なんです。それで今は砂糖切らしちゃってて、買いに行く途中なんですよ」
とみ「あら、それは大変ね。ちょっと待ってて、今分けてあげるから」
梓「そんな。悪いですよ」
とみ「いいのいいの。困った時はお互い様、って言うでしょ? もらってちょうだい」
梓「あ、はい! すみません、必ずお返ししますんで」
とみ「気にしないでいいのよ。それよりも唯ちゃんの事、よろしくお願いしますね」
梓「はい! 憂が帰ってくるまで、責任を持ってお世話します」
とみ「ふふふ。それじゃあ私は寄る所があるので失礼しますね」
梓「あ、すみません呼び止めてしまって」
とみ「いいのよ。それじゃあね、あずにゃんさん」
梓「はい。私も失礼します」
梓「ふーっ、相変わらず優しいお婆さんだったなぁ。お砂糖も分けていただいたし」
梓「ではありがたく使わせてもらいます、と。多めに作ってお返しに持っていこうかな」
梓「後は唯先輩を待つだけ……あ、ちょうどよくきたみたい」
唯「あっずにゃーん! たっだいまー!」
梓「おかえりなさい、唯先輩。あれ? 律先輩に澪先輩、ムギ先輩まで一緒だったんですか?」
澪「話は唯に聞いたよ」
紬「梓ちゃん一人じゃ大変だと思って、様子を見に来たの」
律「唯は憂ちゃんに依存しまくってるからなー。大変だったろ?」
梓「いえ、そんな」
唯「みんなひっどーい! 私だってやる時にはやるよ」
梓「それ、ちゃんと朝起きてから言いましょう……」
澪「やれやれ、そんなんじゃ梓が過労で倒れちゃうぞ」
唯「えーっ、そんなのやだよぉ! あずにゃんどうしよう、栄養ドリンクでも買ってくる!?」
梓「そうならないよう、唯先輩が努力して下さい!」
律「これで日曜までって、本当に大丈夫かぁ?」
澪「でもまぁ、これで少しは唯もしっかりしてくれたらいいんだけどな」
紬「その辺は梓ちゃんなら大丈夫そうだわぁ。私達が心配するほどのことでもなかったみたい」
澪「この晩御飯は梓が作ったのか? 凄いじゃないか」
梓「あ、それは以前憂にレシピを教えてもらっていたので、それをなぞってやっただけですよ」
澪「それでもこれだけできるなら大したものじゃないか」
紬「本当。梓ちゃん、いいお嫁さんになれるわ」
梓「えへへ……」
唯「ええぇ、あずにゃんは私のお嫁さんになってよ~」
律「お前は現実を見ろー」
澪「それじゃあ、私達が手伝えるような事もないみたいだし、帰るな」
唯「あれ? もう帰っちゃうの~」
律「これ以上居て唯に構ってたら梓に睨まれちゃうからなー?」
梓「なっ! 何言ってるんですか! そんなことしませんよ!」
律「うひゃあ、こわーい。逃ーげろー!」バタバタ
紬「わーい」パタパタ
澪「おい律! 全く……悪かったな、梓。まぁ、身体壊さないように頑張ってな」
梓「はい、ありがとうございます。澪先輩も夏期講習頑張って下さい」
澪「ああ、それじゃあおやすみ」バタン
梓「ふぅ……律先輩もああ見えて心配してくれてたんだな。ふふっ」
唯「あずにゃーん、早く食べようよー!」
梓「あ、はーい! 今行きます!」
最終更新:2010年11月15日 21:42