第100話 マッハ中年の葛藤


…チリンチリン
ロキは夕日をその背に受けて軽快に舗装された道を走っていた。
昼に遭遇したサメ男以来誰とも遭遇することもなく、それはそれは順調なサイクリングだった。
この自転車(彼はこの自転車をスレイプニールと名付けていた)を駆って早10時間以上。
ロキは自身の運動能力を最大限に生かしいくつか自転車にまつわる特殊な走法をマスターした。
初めはバランスをとって走ることすら間々ならなかった彼だが、
今となってはハンドルから両手を放し体のバランスだけで自転車を走らす事も可能としていた。
ハンドルから放したその両手には沖木島の地図が広げられている。
(ここは大体D-2の辺りかそろそろ他の首輪実験もしたいところだな。…ん?)
ロキは眼前に割りと急なカーブを見つけた。
(あれを試してみるか…)
少し前に走った急な坂道で、彼は左ブレーキだけをかけた時に自転車の勢いで後輪が滑ってしまった。
だが、ロキはそのおかげで90度近いカーブを華麗に曲がることができたのだ。
彼はカーブを目の前にして地図をデイパックの中にしまいハンドルを掴むと、自転車のスピードを落とすことなく逆に加速させた。
そしてカーブの入り口に差し掛かった直後
(ここだ!!)
両の眼を見開き、ロキは左ハンドルのブレーキのみを作動させた。
ズザザーーーッ
後輪が滑り、舗装された道によって削られたゴムタイヤが黒いアスファルトの上に尚黒い軌跡を残す。
傾きがきつくなった自転車を無理やり起こしバランスを整える。
転倒しそうになっていた自転車を見事起こして、何事もなかったようにカーブを抜けた道を走らせた。
(成功だ!)
…チリンチリン
高難度の走法を成功させた祝福の鐘として、ハンドルに備え付けてあるベルを鳴らす。
(なんと心地の良い鈴の音だろうか。やはりこの乗り物は格別だな)
ちらりと時計を確認すると、まもなく18時を迎えようとしていた。
…チリンチリン
もう一度鈴の音を鳴らすと彼はいったん第二放送に備えるべく自転車から降りた。
(さて…この6時間で何人死んだのかな?)



(確か鈴の音が聞こえてきたのはこの辺りの筈だが…)
舗装されている道から少し外れた位置にある高木の影に身を潜めるエルネスト。
そこならば舗装された道からは死角になる、その上その人物を100m以上監視できるはずだ。
…チリンチリン
(近いな…、だがおかしい。さっき聞こえた位置と比べるとはるかに近い。この音を出している者は徒歩ではないのか?)
ズザザーーーッ
鈴の音とは異なる音とともにそいつは視界に現れた。
曲がり角をドリフト走行して飛び出す自転車。
そしてその自転車の運転席には褐色の肌をした青年が跨っていた。
普通の人間だったらその光景を目の当たりにしたら、
『なんでいい年した兄ちゃんが華麗にママチャリでドリフトかましていい顔してんだ?』となっていただろう。
だがエルネストは違っていた。
彼の中に宿った野生の勘とも言える第六勘が『あいつはやばい!逃げろ!』と告げていた。
もちろんその勘は『あの青年は痛い奴だ。係わり合いになる前に逃げろ』といった類のものではなく、
純粋にとてつもない戦闘能力を秘めた化け物だと彼を認識しての警告だ。
確かにこの勘は外れることも間々ある。
だが、数多の未開惑星の遺跡を探索し、今もまだ無事に生きていられているのはその勘のおかげであると言っても過言ではない。
しかし、エルネストはそれでもこの青年を判断しかねていた。
なぜなら鈴を鳴らして自分の位置を周囲に知らしめる行為は殺し合いに乗った人間にとって何一つメリットが無いからだ。
他の殺し合いに乗った人間をおびき寄せてしまったり、狩りやすい弱者などからは警戒されてやり過ごされるのがオチだ。
では、鈴を鳴らして移動しているあの青年の真意は何なのだろうか?
ここでエルネストはこの青年は殺し合いに乗ってないとして仮説を立てた。
(もし彼に俺の勘通りの実力が備わっていた場合、鈴の音におびき出される殺し合いに乗った者を返り討ちに出来るだろう。
 そして、その鈴の音を頼りに彼に接触を図るであろうタイプが他にもうひとつ。
 今の俺の様に接触する人間を分析した上で行動を起こすタイプだ。
 つまり彼は協力しあえる人物と接触する為、敢えてこの様な行動をしているのではないだろうか?)
確かに推察の域を出てはいないが、まだ殺し合いに乗っているより乗っていないと考える方が彼の行動に説明がつく。
(一先ず他の二人の事は隠しておいて彼に接触してみるか…)
決断を下し、身を隠していた木陰から出た矢先、その青年は時計を一瞥すると自転車から降りた。
どうやら彼は第二回目の放送に備えるつもりらしい。
(そういえばもうそろそろ放送の時間だったな。彼との接触は放送の後でもいいだろう)
エルネストはそう判断すると再び木の陰に隠れて、褐色青年の監視に注力した。



メモとペンを執りながらロキは自分に注がれる僅かばかりの視線を感じ取った。
(誰かに見られているな…。まったくさっきの放送の時といいどうしてこのタイミングで仕掛けてくるような真似をする輩が多いのか?
 まぁ、いいか。さっきのサメ男の時みたいに隙を晒して釣ってやるか…)
見上げると第一の放送の時と同様に空が急に暗転した。
それと同時にこの催しの主催者たるルシファーの声がどこからともなく聞こえてきた。
「フフン…、こんばんは諸君…」
(さて、さっきみたいに誰か知り合いが呼ばれた辺りで動揺して見せるか…)
一人また一人と殺された者達の名呼ばれる中、3番目にレナスがエインフェリアとして勧誘したメルティーナの名があった。
確か彼女は珍しいことにヴァルハラ行きを頑なに拒み続けている人物だった。
(面識など無いが、他に知った名前が呼ばれるかわからんし頃合いだな)
「なっ…、メルティーナがっ?そんな!?」
(さぁ、今の俺は隙だらけだぞ。来るならさっさと仕掛けて来い)
だが、一向に監視をしている人間が仕掛けてくる様子が無い。
(しまった。少しばかりわざとらし過ぎたか)
名前が呼ばれ続ける中どうしたものかと考えていたロキだったが異変が起きた。
死亡者の名前が最後まで読まれた直後、今まで居場所を察することが出来なかった監視者の気配を感じることが出来たのだ。
(へぇ、あんな所から俺を見張ってたってわけか。
 今までうまいこと気配を隠してたってのにばらしちゃって…。差し詰め誰か大事な人でも呼ばれたってところかな)
再び愛車(スレイプニール)に跨ると気配がした方向を進路にとりペダルを漕ぎ始めた。



(オペラが…死んだ…?)
無情にも知らされた愛する女性の死。
その事実を突きつけられエルネストの思考と視界は一瞬真っ白になった。
ここで今自分が何をしていたのかさえ忘れてしまっていた。そう気配を隠すことさえも。
(オペラ…くそっ!誰だ?誰があいつを…。なんで…傍にいてやることが出来なかったんだ…畜生!)
今彼の思考を支配しているのは顔も知らないオペラを殺した相手への憎しみのみ。
そんな負の感情で満たされていた彼の頭の片隅からなにかが警告した。
すぐさま頭の中を切り替える。確かにオペラの死は辛いが、今は他にも成すべき事があるのだ。
咄嗟に顔を上げると残り数十mまで迫っている褐色の青年の姿が目に入る。
逃げようかとも思ったが、相手が自転車に乗っている以上逃げ切るのは困難だと判断し、クラースから借りていた大剣を構える。
「やぁ、さっきから俺をジロジロと見ていたのはあんただね?」
不敵な笑みを浮かべて青年が声をかけてきた。
こちらが武器を構えているというのに、素手のままこちらに歩み寄ってくる。
やはり殺し合いには乗っていないのかとも思ったが、俺の勘は依然と『逃げろ』と告げている。
額からは冷や汗が浮かび、背筋も氷かなにかを突っ込まれたようにゾッとしっぱなしだ。
「オイオイ、そんなに警戒することも無いじゃないか。こっちは見てのとおり素手だし、あんたを襲う気なんてないよ」
笑顔でそのように言い放つ彼は一見無害な好青年に見える。
(やはり俺の勘が外れているのか? とりあえずこいつの出方を待つか)
「そうか済まなかったな。少し前にとんでもなく強い奴と出くわしてな。どうも疑心暗鬼に駆られていたらしい」
一先ず剣を降ろし敵意が無いことを示した。
「そうかい? それは災難だったね…。ところで俺は信用してもらえたと考えていいのかな?」
「あ、あぁ…」
(俺の思い過ごしだった様だな…。とりあえず二人の所に戻って情報交換だな)
「実は同行者がいるんだ。俺達はここからの脱出を目指している。
 だが正直戦力的にはまだ心許なくてな。協力してくれると助かるのだが…」
「協力か…。あんた達が掴んでる情報次第かな? まぁ、善処はするよ」
人懐っこい笑みを返してきた青年を伴いエルネストはフェイトたちが待つ方向へと歩いていった。



「どういうことだ?」
第二回目の放送を聴き終えるや否や開口一番ミカエルはこう呟いた。
少し前に殺した茶髪野郎の名前が今の放送で呼ばれていないのだ。
交戦直後確かにあの男はルシオと呼ばれていたはずだったのだが…。
参加者名簿を改めて確認すると当然のようにその名前があった。
「つまり、仕留め損なったってことかよ?オイ!」
先ほどまで彼の中を満たしていた満足感が見る見る消えていき、代わりにグラグラと煮えたぎったイライラ感が募ってきた。
近場にあった電柱に一発鉄拳を食らわしへし折る。
当然この程度で彼の腹の虫が納まるわけではないが沸騰しかかった頭で現状を整理する。
(クソッ、あの野郎に一杯食わされたってわけか…。しかしどうすっかね?
 昼前からここでずっと獲物を探しているわけだが見つけた獲物は二組だけ。
 そのどちらからも逃げられたって事か。あぁぁぁぁっ! クソッ。ここでの狩りは止めだ。
 さっきの奴らもここに留まっている可能性が高いわけでもない。次の狩場に行くか)
ミカエルは目的地を選定するために、デイパックから地図を取り出した。
(さて、ここからだと氷川村も鎌石村も距離的には大差ないわけだが…。
 どっちの方が獲物が多いか…。おおっと、そういやまだ禁止エリアを書き込んでなかったな)
地図とにらめっこしながら、ペンで禁止エリアとなる位置に×マークと時間を書き足していく。
そうして完成した地図を見てミカエルは閃いた。
鎌石村がC-5とD-4の禁止エリアでまるで袋小路の様になっているのだ。
(てぇことはだ。鎌石村から出て行く奴はC-3の南か西から延びている道を使う可能性が高いわけだ。
 ついでに鎌石村で出くわした獲物の北側は海で、東側と南側は禁止エリアで封鎖されている。
 こいつは絶好の場所だぜ。ここからだと北に続く道を使うのが一番近いな)
いそいそと地図をデイパックの中にしまうとミカエルは平瀬村を後にした。
【F-2/夜(放送直後)】
【ミカエル】[MP残量:30%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)、軽い疲労、]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:狩場を鎌石村に変更]
[思考3:使える防具が欲しい]
[現在位置:F-2南東部、平瀬村]
[備考]:デコッパゲ(チェスター)は死んだと思っています。



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放送終了後まもなくエルネストは見知らぬ青年を連れて戻ってきた。
こうして連れて来るのだから危険は無いのだろう。
同行者が増えること自体は悪くない。
ミカエルのような奴に襲われても私の生存率が上がるからだ。
私の目標は生きて元の世界に帰ることだ。
フェイトやエルネストと共にルシファーを倒して帰ろうが、最後の一人になって帰ろうがどちらでも構わない。
そう、手段は問わない。最終的に私が生きていればそれでいいのだ。
だから私はこの青年を歓迎しようとした。しかし突如として私の頭の中に声が聞こえてきた。
その声は私が契約した精霊達のリーダー格オリジンのものだった。
(おい、クラース。こいつはまずい。関らない方が良い)
(何を言い出すんだいきなり。見た所ただの好青年じゃないか。何の問題があるのだ?)
(人間である貴様では感ずることが出来ないのだろうが、あいつは神族だ。
 確かに今は能力の制限とやらで抑えられてはいるが、本来ならばダオスクラスの能力を有していてもおかしくない相手だ)
(ダオス並みの人物がいることは先のミカエルで確認済みだ。いまさら驚く事ではない。
 それに彼は殺し合いに乗ってはおらず、私達と情報交換をしたいと言ってきているだけだ。
 まぁ、警戒するに越したことはないが…)
「おいっ、聞いているのかクラース」
オリジンとの会話に意識を割きすぎたからか、自分に話を振られていたのに気づかなかったらしい。
「すまん、まだちょっと疲れているみたいだ。もう一回頼む」
声の主エルネストの方に向き直り内容を聞き返す。
「今後の我々の目的地の事だ、どうやらロキの情報では鎌石村は危険らしい。なんでも自転車で通過する際2,3人の死体を見たそうだ」
「だが、フェイトの傷の治療もせねばなるまい。となれば、進路を変えてホテル方面か?」
正直フェイトの事などどちらでもよかったが、話を合わせるには無難な回答だろう。
「やはりそうするしかないな。フェイトもそれで良いか?」
「はい。なにも自ら危険な場所に向かう必要なんてありませんしね」
フェイトもエルネストに同意した。
「さて、では今度はこっちの番だよな? あんた達が持っているって言う情報を教えてもらおうか?」
まぁ、目的地が危険だったってことを教えてくれただけでもありがたい。
こちらが持っている価値ある情報はフェイトのルシファーに関するものだけだ。
それもあまり希望の持てる情報とは言えないが。
「それに関してはフェイトから聞いてくれ」
エルネストに促されフェイトが口を開いた。



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こいつらと出会って漸く情報が手に入ると思ったら言うに事欠いて
『ルシファーはこの世界の大元を作った創造主です』と来たもんだ。
俺の教えた情報も嘘八百もいいところだから、お互い様といえばそうなのだが釈然としない。
だがまったくの与太話と判断するわけにも行かない。
世界を作ったのがルシファーだとは思えないが、少なくとも複数の世界を繋ぐ事の出来る技術を持っている様だ。
でなければ、今ここで顔を合わせている連中の異質さの説明が出来ないからだ。
最初に遭遇したエルネストと名乗るおっさん。
一見すると昼間殺したサメ男の着ていた丈の長い上着を羽織っており、
その上着はミッドガルドやヴァルハラでは見かけない生地で出来ている。
そして極めつけは額にある第三の目。
不死者にならあのような異形の者もいるかもしれないが、やつは間違いなく生きている人間だ。
服装に関してはフェイトも同様のことが言えるが、明らかにこれも素材からして俺の知らない物質で出来ている。
最後にクラースと呼ばれたおっさん。
こいつの服装は割りとミッドガルドでも見かけそうなものだが、奴の中から漂ってくる人ではない者が放つ魔力。
この感覚は高位な精霊の物である事は間違いないのだが、少なくともこれほど高位の精霊を使役する術を俺は知らない。
だから認めなくてはならない様だ、異なる技術体系を持った世界の存在を。
だが、フェイトの奴が持っている情報を全て話したとは考えにくい。
現に何度かなにかを言いかけ、ためらった末に口籠る事があった。
きっとその言いかけた事がこの男の持つ真の情報に違いない。
だから俺は辛抱強くフェイトにもう一度問う事にした。
「本当にこれで君の知っている事は全部なんだね?」
俺が何とか怒りを表に出さない様、どうにかこらえて出した質問にこいつはしれっとこう答えた。
「はい、そうです」
ほう、まだ出し惜しむつもりかこのクソガキが。
どうやら痛い目を見ないとわからないらしいな。
直ぐ手に取れる位置に置いてあったデイパックから武器を取り出しフェイト目掛けて振り下ろす。
殺してしまっては聞き出したい情報も聞き出す事が出来なくなるので左肩を狙った。
だが俺の一撃は、エルネストによって阻まれた。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
突如として場の空気が変わった。
フェイトに「本当にこれで君の知っている事は全部なんだね?」と聞いたロキの様子がおかしかったのだ。
その質問に肯定の意を返したフェイト目掛けて斧が振り下ろされる。
どうやら俺の勘は正しかったみたいだ。
頭の片隅で未だにロキを警戒していたからこそ素早く反応する事ができた。
脇においてあった剣を拾い上げこの一撃を受け止める。かなり重い一撃で腕がしびれたが何とか防ぐことが出来た。
このロキの行動に二人もすぐさま臨戦態勢に入る。
「へぇ、まさか受け止められるとは思っていなかったよ」
「やはり殺し合いに乗っていたのか?」
剣で斧を弾き距離を開ける。3対1だというのにロキの表情には余裕があった。
「バカ言うなよ、ルシファーの野郎が気に入らないのは本当さ。だから、戦った事があるフェイトの持つ情報が欲しい。
 まだ何か知っているみたいだけど、あれだけ頼んでも教えれくれなかったからね。
 ちょっと痛い目を見てもらう事にしたんだけど…。邪魔だからおっさん達には死んでもらおうか!」
言い放ったロキの足元から歪な影が俺達3人目掛けて伸びる。
何とかその攻撃を散開することで回避した。
着地後一息付くような余裕は無かった。クラース目掛けてロキが風のような速さで接近する。
この中でクラースだけ武器を持っていない。つまり奴の攻撃を受け止めることが出来ない。
急いで割って入ろうとしたが、奴から伸びる影に阻まれた。
「ちっ! クラース逃げろ!」
しかしクラースはその場に立ち尽くしたままだ。
だが、クラースが手をかざした瞬間体全体が水で出来た女性の人影が現れた。
その女性が手にした剣でロキの斧を受け止める。
「やれ! ウンディーネ!」
クラースの号令を受けてウンディーネは剣を振り上げてロキを弾く、
後方に吹き飛ばされたロキに地面を滑るように移動するウンディーネが追撃の二太刀目を浴びせようと迫る。
「甘いんだよっ」
振り下ろされる剣撃を掻い潜りすれ違いざまに斧による一撃でウンディーネが真っ二つにされた。
「なるほど、確かに基は高位な精霊かもしれないけど現世で発揮できる力は、
 術者の精神力に依存するみたいだな。この程度なら何匹出て来てもわけないね」
嘲笑うかの様なロキの発言に舌打ちを返すクラース。
クラースの召喚術はセリーヌやレオンの紋章術と比べても遜色ないはずなのにああも簡単にあしらうとは。
(このままでは全滅の危険がある。どうにか隙を作らなければ…。だが、あいつには自転車がある以上振り切るのは困難か)
撤退の策を練っていた俺にフェイトが叫んだ。
「エルネストさん! クラースさん! 援護をお願いします!」
見るとフェイトは赤紫色のオーラに包まれていた。
何をするつもりかわからないが、なにか策があるのだろう。
(ならば俺のする事はただひとつだ。
 不慣れな武器を持っている時点で出来る事は限られているが、一瞬でもロキに隙を作る事が出来れば…)



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
今の僕に出来る事は限られている。
さっきの影みたいな遠距離攻撃を持っている相手に今の足の状態じゃ得意の接近戦に持っていく事すら出来ない。
向こうもそれを理解しているはずだ。僕の事を接近される前に迎撃可能だと。
けれど、本当はそうじゃない。
この技は準備がいるけど、発動さえ出来ればある程度の距離を一瞬で詰める事が出来る。
3対1の状態でああも余裕を見せ付けてくるロキは、こちらを甘く見ていると考えて間違いない。
その油断に付け込む事が今の僕達にある僅かな勝機だ。
エルネストさんが懸命にロキに食らい付いている。
その剣閃はすべてロキに見切られ最低限の動きでかわされているが、ロキの行動を大幅に制限していた。
「下がれ! エルネスト! 行け!ノーム」
エルネストさんが退避するのを待ってから、クラースさんが呼び出した謎の細長い生物がミサイルの雨となりロキに襲い掛かった。
巻き上がる土煙でロキの姿が完全に隠れる。
だが、相手もそれは同じ。あの弾幕の中では下手に動く事も出来ないはず。
そんな中僕が目の前に突如現れるなんて思っていないだろう。
『ストレイヤー・ヴォイド!』
体の回りのオーラがより一層濃くなり僕の姿が見えなくなる。
否。その場から消えたのだ。
この技は瞬間移動を可能にする技だ。移動先は先程までロキがいた場所。
移動直後の僕の視界には予定通り奴がいた。僕の突然の出現に驚きを隠せない様子だ。
「だああぁぁぁぁっ!」
強化型鉄パイプを握り締め横薙ぎに一閃する。
完全に意表をついた一撃だったのに、僕の一撃は彼の持つ斧で受け止められてしまった。
(くそっ、なんて奴だ。だけどここで諦めるわけには!)
ここまで接近できるチャンスは二度と来ないかもしれない。
すぐさま連撃へと繋げる。振りぬいた鉄パイプで斧のブレード部分に罅が入った。
『ヴァーティカル』
鉄パイプに闘気を纏わせ、全力で振り上げる。
巻き上げたオーラと共にロキの体がを打ち上がる。
『エアレイド!』
それと共に跳躍し続けざまに闘気を叩きつける。
「ぐわっ!」
流石にこれはダメージがあるようだ。奴の斧も僕の一撃で砕け散っていた。
(よし! あと一息。一気に決める)
ぶっつけ本番になるけれど、僕の遺伝子に刻まれた『ディストラクション』の力を解放する。
ルシファーの言っていた制限が気にはなるけれど、ここで倒しきれなかったら僕達に勝ち目は無い。
先程とは異なり僕の体からは眩い白銀のオーラが迸る。
そのオーラを右の拳に集約させ、バンデーンの戦闘艦ですら沈める破壊の光をふらつくロキに叩き込む。
『イセリアル』
(ほぼゼロ距離。これで!)
蓄積させた『ディストラクション』の力を解放させようとしたその刹那。
突如フェイトの視界がブラックアウトした。
ルシファーの課していた制限は、予想通りフェイトやマリア、ソフィアに対しては厳重にかけられていた。
一定以上のレベルでその力を解放しようとすると、
力を暴走させて彼らに本来備わっているリミッターを強制的に発動させて意識を奪うように細工をしていたのだった。
(くっ、一体どうしたって…言うんだ…?)
その事実を知る由も無いフェイトは浮かぶ疑問と共にその場に崩れ落ちた。
「エルネストさん…クラースさん…。逃げ…」



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
(仕留め損なったか…。だがロキにもダメージがある。フェイトには悪いが撤退させてもらう)
「エルネスト! ここは逃げるしか…」
幸いフェイトがロキを吹っ飛ばしたおかげで、自転車からの距離が離れている。
「お前だけでも行け。俺はフェイトを助ける」
「バカを言うな。俺達だけではどうしようも出来ない事位判っているだろう」
「問答している時間は無い。どちらにせよ足止めしなければ逃げ切れないんだ! 行け!」
(クソッ、どいつもこいつも…。まぁいい元よりそのつもりだ。
 後ろ髪を引かれる思いではあるが自分の命には変えられん)
自転車の方向に走るついでに自分の荷物と、近場に転がっていたバックから飛び出た棒状の物を拾い上げる。
(これは!? いや、先ずは逃げるのが先決だ)
南側に行ったところで平瀬村しかなく、そこにはミカエルがいる。
北にある鎌石村もロキの話が真実ならば危険極まりない場所だが、
ロキの言っていた事は嘘である可能性のほうが高い。
自転車に跨り北に退路を取ると、クラースは盗んだ自転車で走り出した。

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

「フン、手間取らせやがって」
毒突くロキの足元には戦いの末敗れた二人が転がっていた。
しかし、この二人の肩は微かに上下している。
この二人はまだ生きているのだ。
なにもロキの気まぐれから生かされたわけではない。
どうしてもフェイトの知る情報を全て吐き出させたかったのだ。
その為にはどの様な手段が有効なのかとロキは考えた。
(おそらくこいつは痛めつけても、全てを吐かないだろう。そういった不屈の意志のような物が垣間見えたからな。
では、どうするか? そのヒントはこいつが意識を失う前に発した言葉だ。
あの瞬間確かにこいつは、おっさん共に逃げるように言い放った。
こういったタイプの人間はレナスが連れてきたエインフェリアにも多くいた。
このタイプの人間は自分よりも誰かが傷つく事を嫌う。だからこのおっさんも生かしておいたのだ。
フェイトの奴が意識を取り戻したら、目の前でこのおっさんを少しずつ解体してやる。
そうすれば今まで屈する事の無かったこいつの意志も必ず崩れるはずだ)
バックより取り出したザイルで二人を離れた位置に拘束するとロキはフェイトが目を覚ますのをじっくりと待ち始めた。



【D-2/夜中】
【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:80%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)ザイルで拘束中 気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)ザイルで拘束中 気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:正常・自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)]
[装備:グーングニル3@TOP]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:首輪を外す方法を考える]
[思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考5:自転車(スレイプニール)を盗まれてちょっとショック]
[思考6:フェイトが目を覚ましたらエルネストを痛めつけフェイトから情報を引き出す]

[備考1]: フェイト、エルネストの装備と支給品はその場に放置されてます。
[備考2]: ストライクアクス@TOPは破壊されました。刃部分の破片が辺りに散らばっています。
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

「ここまで逃げれば安心か…」
慣れない道具だったがかなりのスピードで移動できた。
とりあえず距離だけは稼げたはずだ。
短い付き合いだったが、あの二人は純粋にいい奴らだったと思う。
フェイトからはクレスに似た真っ直ぐな正義感そして、どんな逆境にも諦めずに抗い続ける不屈の心を感じた。
エルネストは年を食っている所為か妙な落ち着きのような物があり、
彼から聞いた仲間の話から察するに年長者として大いに頼られていたであろうことが推察できた。
どことなく自分とクレス達の関係に似ていたのではないかと思う。
そんな二人を見殺しにしてよかったのか?
(私の目的はあくまで生きて元の世界に帰る事。そればかりは譲るつもりなどない。
だが、フェイトの話通りならルシファーを倒すには彼の持つ力が必要なはずだ。
ここで見捨てる事で、エルネストの様に主催者に抗おうとしている者達の希望の芽を摘んでしまっていいのだろうか?)
正直なところこの様な会を催したルシファーは大変気に入らない。
出来る事ならルシファーの鼻を明かした上で元の世界に帰りたかった。
今更悔やんでも仕方のないことかもしれないが、実を言うとフェイトはまだ生きている可能性がある。
ロキがフェイトの持つ情報にこだわっていたからだ。
それを吐き出させるまで、生かされているに違いない。
もちろんロキの沸点の低さは先程垣間見たとおりだ、いつまでも続く物ではないという事も判っている。
それでも急いでこの自転車か、あわてて拾ってきたこのアーチェが使っていたデッキブラシを使えば、駆けつける事が出来るかもしれない。
深い葛藤の中暗い夜道を自転車で走り抜ける。
(助けに行くのならば私一人ではどうにもならない。かといって時間もない。
 ならば今から30分以内に協力してくれそうな人間を見つける事ができれば戻ってみよう)
(相変わらず甘いなクラース)
そうやって語りかけてきたのは精霊オリジンだ。
(わっ私はただ合理的な判断を下したまでだ。現状持っている情報ではルシファーを倒すにはフェイトの力に頼らざるを得ないのだからな。
 それに優勝してルシファーから逃げ帰るような真似をするより、あいつを倒して帰った方が後味がいいに決まっているからな)
(まぁ、そういうことにしておいてやる。ただお前がそういう人間であるから、喜んで力を貸している精霊もいる事を忘れん事だ)
(////っいいから必要な時以外黙ってろ!)
「うぉっ!」
暗い夜道をヘッドライトも点けずに、しかもオリジンと話していたのがいけなかったのか何かと正面衝突してしまった。
自転車からは投げ出されてしまったが幸い怪我をする事はなかった。
気を取り直して起き上がり、ぶつかった何かを確認してみた。
「!!」
ぶつかったのは物や何かではなく人だったのだ。いわゆるひとつの交通事故である。
しかしクラースが驚いたのは事故ってしまったからではなかった。
自転車で轢いてしまった人物の風貌があまりにも異質であったからである。
その顔には木製のなにやら能面のようなものが装着されており頭頂部は禿げ頭のカツラ。
体は僧侶が纏うような法衣に包まれ、
その手に握るイチジク形の入れ物からは一目見ただけでもTHE・劇物と判るような色をした液体が漏れていた。
こんな彼?でもおしゃれには気を使っているのか、首からはダイヤモンドの指輪に紐をつけたものをぶら下げていた。
(なんだ? こいつは? 取り敢えず助け起こした方がいいのか?)
クラースはたった今出会ったこの不審人物にどう対処しようか迷っていると、
その不審者はムクリと起き上がり、その無表情さが怪しさを引き立てている仮面をこちらに向け口を開いた。
「すまぬ。少しばかり気分が高揚していてな。周囲を気にかけずに走り回ってしまっていた。そちらに怪我などはないか?」
そう言いこの変態は立ち上がると聞いてもいないのに自己紹介を始めた。
「我は不死者王ブラムス。そなたと同じこの殺戮ゲームの参加者だ」
(不審者王? 一応自分の姿を鏡で見た事はあるんだな)
と、クラースの中でオリジンがつぶやいた。
(おいっ! 呼んでもないのに出て来るなと言っただろう。そんな事よりも困ったぞ。
 人を探してはいたが、まさか一発目にこんなわけのわからん変態と出くわすとは…)



【C-04/夜中】
【クラース・F・レスター】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:無し]
[道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:目の前の不審者王の対処]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[思考4:30分以内に協力者を見つけられたらフェイトたちの元へ戻る]
[思考5:思考4が満たされなかった場合はフェイト達の事は諦める]
[現在位置:C-4西部、鎌石郵便局付近の十字路]


【ブラムス】[MP残量:100%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO、袈裟@沖木島、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
ダイヤモンド@TOP、ソフィアのメモ、荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:情報収集(夜間は積極的に行動)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:目の前の刺青鳴子男と情報交換]
[現在地:C-4西部、鎌石郵便局付近の十字路]

【残り26人】




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最終更新:2008年12月06日 03:04