第106話 第三回放送
黒い闇に包まれた夜空に、主催者ルシファーの姿が浮かび上がる。
もはや驚く者はいないだろう。
幸か不幸か、参加者達もこの異常な状況に適応してきてしまっていた。
そんな人々の状態を知ってか否か。ルシファーは神経を逆撫でるかの如く、心底愉快そうに放送を開始した。
「ククク…ご機嫌いかがかな、諸君?
今放送を聞いている者は、このゲームの一日目を無事乗り切ったという事になるな。おめでとう。
二日目も、これまで以上に殺戮に励んで頑張って生き延びて貰いたい。期待しているぞ。
また放送の最後には、一つ朗報を発表してやろう。ありがたく思うがいい。
では、恒例の死亡者の発表から行おう…。
『ミラージュ・コースト』
『ガルヴァドス』
『チサト・マディソン』
『ジャック・ラッセル』
『アーチェ・クライン』
『藤林すず』
『ルーファス』
『アリューゼ』
『ディアス・フラック』
『ガブリエル』
『レナス・ヴァルキュリア』
『ガウェイン・ロートシルト』
『リドリー・ティンバーレイク』
『
ミカエル』
以上14名だ。
フフフ…これで残りは22人…。生存者も半分を切ったようだな。
これだけ人数が少なくってもペースが落ちないとは、余程諸君は殺し合いが好きらしい。
参加者を選んだ私の目に狂いは無かったようで嬉しいぞ。
続いて禁止エリアの発表だ。
今回もこれまで通り2時間おきに禁止エリアを増やしていく…としたい所だったが。
諸君らがあまりにも殺し合いをしすぎるもので、舞台の少々人口密度が低くなりすぎてしまった。
よって今回は禁止エリアを、従来の2時間毎から1時間毎に増やす事とさせてもらおう。
では、よく聞いておけ。
1時にD-6。
2時にE-2。
3時にI-6。
4時にE-4。
5時にF-6。
そして6時、4回目の放送と同時にG-7を禁止エリアとする。
覚える事が多いだろうが、ここまで生き延びてきた者なら大丈夫だな。
では最後に、冒頭で話した『朗報』についてだ。
諸君らはこのゲームの開始前に、私と対面した時の事を覚えているかな?
あの時、愚かにも私に歯向かった二人の末路を。
…本来は彼らもこのゲームに『生きて』参加する予定だった。
その為、二人に支給するはずだった支給品が余っているのだよ。このまま処分してしまっても良いのだが…。
ここまで速いペースでゲームを進めている諸君の事、恐らく消耗したり廃棄してしまった支給品も多い事だろう。
そこで、頑張った君達へのご褒美という事で、この支給品を今からそちらに送ってやろう。
勿論このご褒美は、先の放送で話した優勝者への褒美とは何ら関係も無い。安心して欲しい。
では、支給品を送る場所だが…。
E-2、菅原神社入口前。
C-3、鎌石村役場ロビー内。
以上の2箇所に、この放送が終了次第一つずつ送る。
どちらも一目で分かるところに配置しておこう。
…なお、菅原神社があるE-2は、2時に禁止エリアとなる。取りに行く者は注意するように。
では、今回の放送はここまでだ。
次の放送までにはさらに生存者が減るよう、心から応援させてもらおう」
「お疲れ様、社長」
三回目の放送を終えたルシファーに、労いの言葉をかける者がいる。
「盗聴器の調子はどうだ?ベルゼブル」
「順調よ。最も何人かは既に気付いちゃったみたいだけど…ま、それは想定の範囲内でしょ?」
ベルゼブルと呼ばれた男は、その言葉遣いと同じく気味の悪い笑みを浮かべた。
「…そうだな」
さしものルシファーもやや引き気味に返事をする。
「盗聴器がばれても別に構いはしない。むしろその方が面白いからな。…引き続き、監視を続けるようアザゼルにも伝えておけ」
「了解」
「それと、ブレアに何か変わった事は無いか?」
「特に報告は無いわね。今頃、何も知らずに休暇を満喫してるんじゃないかしら?」
「そうか」
芝居がかった喋り方をするベルゼブブとは対照的に、ルシファーは淡々と必要事項のみを話す。
ルシファーが気にかけるブレアとは、ゲームに参加者として送り込んだ
IMITATIVEブレアの事では無い。
スフィア社の技術者であり、彼の実妹である『本物の』ブレアの事だ。
エターナルスフィアの住民をプログラムとしか思っていないルシファーに対し、ブレアは『彼らはプログラムでは無く、自分達と同じ人間だ』と考えている。
もしブレアがこのゲームの事を知れば、間違いなく阻止しようと動くだろう。
それを防ぐ為予め彼女には休暇を与え、ゲームの実行を知る事が無いように処置を取ったのだが…。
聡明な妹の事だ、何らかの方法でこのゲームの事を知る可能性も低くない。
「油断するな。ゲームが無事に終了するまではブレアの監視も怠らないようにしろ。アザゼルにもよく言っておけ」
「はいはい。分かったわよ」
一礼すると、ベルゼブルは部屋から出て行った。
ここまでの18時間で、既に『数字上は』40人の参加者の死亡が確認されている。
このデータだけ見れば、予想以上にゲームは順調に進行していると言えるだろう。
だがルシファーには、ある懸念があった。
(あの、
ドラゴンオーブ…)
そう、ルシファーが疑問に思ったのはドラゴンオーブの効力についてだ。
このゲームに於いて、ドラゴンオーブが大きく働いたのは二回。
一回目は、参加者のルシオン・ヒューイットが銀龍としての力を取り戻した事。
二回目は、先程レザードが魔力を補って輸魂の呪を発動させた事。
確かにドラゴンオーブにはすさまじい魔力が封じ込まれている。
ルシファーは当然制限をかけ、一定以上の魔力は発動できないようにしておいたのだ。
しかしこの二つのケースは、いずれも想定を超える効力を発揮していた。
ドラゴンオーブを制限したプログラムに不備があった、とは考えにくい。
このゲームを行うにあたっては非常に念入りにチェックをかけたのだ。
シュミレーション結果にもバグは見受けられなかった。
(他に考えられるのは…何者かがこのプログラムに介入している可能性か…)
バグならすぐに修正したプログラムを組みなおせばいい。
だが最も最悪なパターンは後者。何者かにプログラムを書き換えられていた場合だ。
このパターンだと、その『何者か』でないと制限を修正できない可能性があるのだ。
「ベリアル」
「はっ」
ルシファーが呼ぶと、彼の背後にいた大柄な褐色肌の男が返事をした。
「すぐにドラゴンオーブのバグの修正に取りかかれ。それから念の為、ゲームのプログラムをもう一度全て見直しておけ」
「了解しました」
「それと…」
一度大きく溜息を吐き、ルシファーは続けた。
「…外部からハッキングされている可能性も想定しろ。もしハッキングされていた場合、その先を徹底的に調べておけ」
「了解しました」
ベリアルが退室した後、ルシファーも自身のコンピューターを起動する。
バグは徹底して潰さなければならない。自分のプログラムは完璧でなくてはならない。
スフィア社の社長にして天才プログラマーでもある彼にはそういうプライドがあった。
それ故、自らの最高傑作ともいえる『エターナルスフィア』も、バグを理由に消し去ろうとした。
だがそれは失敗し、エターナルスフィアは存続する形となってしまった。
(しかし、もしハッキングされているとしたら…。こんな事を出来るのは1人しかいない…)
ルシファーの脳裏に、エターナルスフィアの削除に強硬に反対していたブレアの姿が浮かぶ。
それを振り払い、ルシファーはゲームの管理に没頭する。
(今度こそしくじりはせん…このゲームは、何としても成功させてみせる…!)
静寂に包まれたスフィア社社長室には、キーボードの音が不気味に鳴り響いていた。
【第3回放送 終了】
【1時にD-6、2時にE-2、3時にI-6、4時にE-4、5時にF-6、6時にG-7が禁止エリアになります】
最終更新:2012年11月21日 19:38