タタタタタッ
いくつもの足音が通り過ぎていく。
-走る -走る
-走る -走る -走る
ここは戦場、動けなくなれば死んでしまう。
ACT.02 「忌わしき兵器 ホモ戦車」
「地下第22ブロックまで制圧完了しました」
同僚が部隊長に報告している声が聞こえる。
今現在、敵テロリスト基地制圧作戦の真っ最中である。
敵テロリストの名称は・・・忘れた。
ブリーフィングでの資料に書いてあったが
いかんせんこの星の固有名詞は我輩にとって覚えづらい。どうにかせねば
まあ、作戦目的は覚えているから大丈夫であろう。
敵基地の爆破である。
破壊するならバンカーバスターを使えよ、という意見が出たが
お偉いさんは確実に爆破したいため、基地内部に侵入し
直接爆弾を設置しろと言ってきた。
まったく、素敵な命令を出してくれる人だ。
生きて戻った暁には、鉛玉をプレゼントしたいものだ。
「よし、これより最深部に進入する」
部隊長の指示を聞き、思考の海から脱出する。
「最深部は広い空間となっており、敵の兵器開発工場と思われる。
武装車両等が配備されている可能性がある、各自警戒せよ」
「「了解」」
兵士達の返事が廊下に唱和する。
さて、この先に何が待っているのか
まあここまでの敵テロリストのレベルを考えると
大したものではないだろう
ザッザッザッザッ
一際大きな扉の前までやってきた。
ここが最深部なのだろう。ガソリン、オイルの臭いがしている。
たしかに兵器開発工場の雰囲気がある。
「開けるぞ、総員戦闘準備」
ガガガガガガガ
大きな音を立てて、扉は開いた。
その先に、あの兵器がいた。
「なんだ?あれは」
誰かがそう呟いた。
広い空間の真ん中に、戦車のような物が鎮座していた。
戦車とは言い難い。キャタピラがあり、砲身はあるが戦車には見えない。
なぜなら、主砲と思われる部分はあるが
砲身の先に砲弾を出す穴はなく、代わりに髑髏の面がついている。
何故ここにいるのか?いやそんなことよりも・・・
一人戸惑っているうちに、件の戦車が動き出そうとしていた。
「敵生体確認?。兵装?、起動。ギャラルホルン発射準備…3…2…1…」
無機質な音声が響き渡り、攻撃準備が整えられる。
その動きを察知したのだろう、部隊長が声を張り上げた。
「各員、散開しろ、まとまるな!」
その声とほぼ同時に、戦車から雷光が放たれた。
あらゆる者を滅ぼす、荷電粒子の波だ。
砲撃前、咄嗟に右方向へと逃げ、柱の影へ入った。
「何故あの戦車がここにいる」
自身に怪我が無い事を確認しながら呟いたのだが、失敗だった。
隣に人がいることを忘れるほど、動揺していたらしい。
聞かれたのが下士官なら誤魔化しようもあるが、よりにもよって部隊長である。・・・チッ
「13、貴様、あの戦車を知っているのか!教えるんだ
光学兵器を搭載した戦車など、聞いたことがない」
なくて当然だ。あの戦車は我輩の星の技術である。
戦車の名は「
ホモ戦車」 (決して、青いツナギのお兄さんとは関係ない)
内蔵発電による電磁波での電子機器の無効化や光学兵器による誘導弾の撃墜などが可能であり
戦車の中に操縦士も砲手もいない自律駆動兵器である。
そのような大出力をまかなう発電構造は、ATPである。
人間の体内にあるATP--アデノシン三リン酸を分解することで電気エネルギーを取り出すというものである。
そう、ホモ戦車の材料は生きた人間、それも負傷して戦闘できなくなった人間なのである。
それを複数組み込んで一つの戦車を作り上げるのだ。
また、自律駆動というのは当然頭脳も組み込まれているということである。
このため数人の意識が混濁し、暴走の可能性が高い不安定な兵器という欠点がある。
この事実をそのまま伝える必要など、当然ない。
我輩はこの現状を突破する情報だけを報告することに決めた。
「あの戦車は、AI制御による自律兵器であります。
中に人はおらず、代わりに発電装置が組み込まれております。
弱点はAI制御のため、任務内容を細かく設定する必要があること。
先ほどのビーム砲撃の後、まだ追撃がないことから
曖昧な任務内容で起動したのでしょう。おそらく、設定されている内容は
目の前の敵を葬ること、そんなところでしょう」
[いいのか、それで。あの戦車は我輩の・・・]
心の声を無視する。今必要なことは戦友を一人でも多く救うことだ。
「メインカメラはあの髑髏です。よって、後方に周り込み
RPGでもお見舞いしてやれば良いのです。」
心の中で、尚も騒いでいる声を無視し部隊長に告げる。
ここは戦場だ、たとえ息子と言える存在であっても敵として出会ったなら
するべきことは一つ、トリガーを引くだけだ。
「良し、2番隊、聞いていたな、ケツヘ周りこんで、砲弾をありったけ
プレゼントしてこい!」
インカムから「了解」という返事が聞こえる。
通常であれば、光学兵器によって迎撃されるだろうが
あの戦車は主砲発射前に、明瞭な言葉を発していた。つまり…
程なくして、戦車は抵抗どころか動くことさえなく爆散した。
RPGが発射された時、髑髏が笑みを浮かべているように見えたのは…
よそう、我輩に言える資格はない。
「すまん。54よ」
しかし、心は反して言葉にしていた。
それから先はアクシデントもなく、無事に爆弾を仕掛け
テロリスト基地を爆破した。
ブロロロロロロ
和気藹々と、勝利の雰囲気が漂う
AMS基地へ帰還する車両の中で、一人考え込む。
気になることはただ一つ、我輩がかつて開発させられた
あの戦車を誰が作ったか…ということだ
この星に天才がいて、偶々同じ兵器を作った…というのはナンセンスだ。
それよりも可能性があるのは、我輩の宇宙船「ゴリ押し」のメインエンジンを入手したのだろう。
メインエンジンは研究記録の保存媒体でもあるから、
どうにかして我輩の研究記録を見て、技術を流用したと考えるべきだ。
つまり、今回のテロリストを追っていけば、目的の一つ
宇宙船の修復の目途が立つ。そうと決まれば奴らの名前を調べねば・・・
周りを見回すと、すぐに目的の物は見つかった。今作戦の資料である。
ハラリ ページをめくり目的の名前を見つける。
「ゲゼルシャフト」
それがテロリストの名称か、さてどうやって追い詰めていくか・・・
よりにもよってあの忌わしい兵器を作るとは、遠慮はいらんだろう。
色々な方法を考えていると、同僚に声をかけられた。
「どうした、13 勝ったというのに相変わらずの無表情だな。嬉しくないのか?」
「顔のことは言うな、生き残った喜びで表情筋が痙攣しているだけだ」
「そ、そうか。まあなんだ、誰だって緊張くらいするもんだ・・・」
そう言うと同僚は隣に座り、我輩の身を案じている表情をしている。
いかんな、同僚は何か勘違いしたようだ。隣で初陣の話なんぞ始めおった。
こんな時、相棒であればユーモアの利いた返事ができるのだろうが
生憎、我輩にはユーモアのセンスが皆無だ。
それにしても、あの阿呆は何処を彷徨っているのか。
再会した暁には、この星の文化である紐なしバンジージャンプなるものをしてもらおう。
いや待て、東洋では焼き土下座………
AMS基地に戻るまで、ゲゼルシャフトのことを忘れる爬虫類であった。
To be continued
最終更新:2012年03月29日 19:57