タタタタタッ タンッ タンッ

ゲゼルシャフト第2基地にて、サイボーグ3人が走っている。隙あらば銃撃も加えている。
理由は単純明快、進入者を捕らえるためである。状況によっては射殺許可も出ている。
銃撃を避ける為、進入者が曲がり角を曲がって行く。
見失う訳にはいかない。そのまま追撃する。攻撃される危険を無視し
曲がり角から飛び出す。通常であれば僅かに顔を出し、何処にいるか確認するべきである。
が、こちらはサイボーグ。先ほどから進入者が発砲しているベレッタM92ごときでは傷一つつかない体だ。

「追いかけっこもここでお終いだ」

しかし、曲がり角を飛び出た3人が最後に見た光景は、白い光だけであった。
自身が死んだと認識する暇もなく、3人はこの世から消え去った。


ACT.05 「理想と現実 ~それぞれの決着~」



「ふむ・・・どこの世界でも鍛錬以外で力を持てば、慢心するものだな」

サイボーグ兵が居た場所を見て、一人呟く。その場に残っているものは、足が6本…
その後方の壁面には大人5人は優に通れる穴まで空いている。
わずか一発でこの威力、このまま火力重視で押し切りたいところだ。

今しがた使用した兵器は、我輩が自分用に開発した銃である。
開発No.61番、名称「XERD_003SS」無理矢理大別するなら携行式簡易人機融合型となる。
本来の用途は環境修復装置(Environmenral Repair Device)として、他生物にエネルギーを
分け与えることを目的としているが現在のところ砂粒状のナノマシンから構築される、
携行式の光学兵器としての機能が主である。故に、頭文字にXがついている。
使用するエネルギーはグリップからナノマシンを通じ、自分のATPを使う。
簡単に言えば、20番台(肉体変異型)と50番台(多人数機械融合型)の合作である。
二つのいいとこ取りをできれば強力な兵器なのだが、世の中そんなに甘くはなく
とんでもない欠陥がある。

グゥ~

戦場に不似合いな腹の虫が鳴り響く。おまけに、100mを全力疾走した疲労感まで出てきた。
自分のATPを使うため、この銃を使う度に疲労感が出てくるのだ。
一発撃っただけでここまで消耗するとは、出力を大きくしすぎたとも思ったが
サイボーグを3人まとめて葬ったから、良しとしよう。

今いる場所はゲゼルシャフト第2基地、地下第8ブロック・・・奇しくも以前仲間と別れた場所だ。
ここまでは爬虫類として能力を使い進入できた。 (ダクトから無理矢理進入して来ました)
途中、何度かサイボーグ兵を背後から襲い眠らせてきた。
奴らは確かに視力・聴覚・防御力など人間とは比較にならない程、優れているが
それに頼りすぎる。訓練を繰り返せば別だが、まだ警戒認識が極めて低い状態だ。
そこを最大限利用してきたが、ここで見つかったのは大きな痛手だ。

銃を仕舞いながら、この先どのように進入するかを考える。
またダクトを通るべきか、いや進入しているのはばれている、サーモセンサー装備もいるだろう
それなら・・・

カツッ カツッ カツッ

とりとめもなく考えていると、足音と共に忘れられない声が聞こえてきた。

「あら?進入者が来たと報告を受けたけれど、貴方だったの…約一日ぶりね。」

ああ、忘れられない声だ…忘れてなるものか。

「レディに顔を覚えて戴けるとは…光栄ですな。して何用ですかな?『お嬢さん』」

"お嬢さん"に、特別アクセントを込めて煽ってみる。が特に気にした様子もなく答えてくる。

「ええ、昨日あなたたちを迎撃した手際の良さを評価されて、お客さんにサイボーグ達を納品したところなの
 そのおかげで、今この基地の警備は手薄になってるから、私まで駆り出されたのだけど…
 その様子だと、知らないみたいね」

???――――警備が少ないと良い情報を教えられたが、おかしなことを聞いてくる。
身を守るため、遮蔽物になりそうな柱へ近づきつつ、聞いてみる。

「どういうことだ?…いや、待て。なぜ昨日の今日だと言うのに、納品できるのだ…」

考え、思い至る…兵士にとって最悪のシナリオが浮かんできた。
 ――基地破壊が目的なのに、航空兵器による支援が一切ない…
 ――勇気と無謀を履き違えた、本部からの妄信的な突撃指示…
 ――そして、目の前の女が言っていた、捕虜への必要以上の拷問…
つまり、我輩達の部隊は、

「そうよ。あの戦いは私達が開発した"商品"のデモンストレーションなの。
 色々な軍、PMC(民間軍事会社)のお偉方が集まっていたわ。
 当然、貴方達AMSの人もね…まあ、わかりやすく言うと、売られたのよ、貴方達は…
 見返りは商品の優先販売だけど…部隊全員の命を天秤にかけてでも、欲しいようね」

それを聞いた瞬間、脳が沸騰する。許せない…その感情のみが支配する。
後のことを考えずXERD_003SSを取り出し、引鉄を引く。
辺りに無音のまま閃光が満ちる。破壊の閃光が通る後に、残るものは何もなかった。
撃ち終わった後、一瞬意識を失いかけるが…

「撃った後が無防備ね…新兵からやり直したらどうかしら?」

背後から腕を取られ、倒される。倒れた衝撃で意識は覚醒したが、
またしてもこの女に拘束されるハメになるとは。

「キ…サマ、どう…やって、あの攻撃を…避けた…?」

息も絶え絶えで、聞く。
XERD_003SSは光学兵器のため、撃った弾丸は文字通り、光の矢である。
見てから避けるなど、不可能であるが女は至極当然といった面持ちである。

「私の魂《ゴースト》が囁くのよ…あなたには理解できないでしょうね、頭の中で
 友人の声が忠告してくるなんて…」

コイツ、もしやホモ戦車と同じか?いや、そもそもサイボーグだったな。
…ならば、倒す手段はある。あるにはあるが…
この拘束を抜けなければ話にならない。
しかし体に力を込めようとも、入る場所が見当たらない。ATPを使用しすぎたか…

「あら、今日はおとなしいわね…フフフ、いい子ね、このまま一思いに殺してあげるわ…
 あなた以外にもペットはいるから、あなたはいらないわ…」

銀色に光るナイフを取り出し、首元に当ててきた。
畜生、まずい…体が言うことさえ聞けば…
後はナイフを引くだけで終わってしまう。

いやここまでか、後先考えず激情に走った結果がこれとは…妹に叱られるな。
覚悟を決めるしかないな…さすがに自分の血が噴き出す所は見たくないから、眼を瞑ろう。

―――――――
―――――――
―――――――………
―――――――??? どういうことだ?

いつまで待っても、ナイフが動く様子はなく、あまつさえ、拘束まで緩んできた。
眼を開け首を捻り女を見てみると、不可思議な光景が写った。
片手で自身の目を覆い隠し、なにやら独り言を呟いている。

理由は分からないし、検証する時間もない。生き残るためにもまずは行動だ。
まだ女を投げれるほど回復していないため、抜け出す方法を取る。
腰に馬乗りされているが、こちとら爬虫類、4足移動は得意技である。
こちらが、脱出しようとするとさすがに気づいてきたが…その言動はまともではなかった。

「ああッ!どこに行コウとするノッ!バトーもトグサも、ドコニ…」

誰のことだ?と考えるが、それどころではない。あともう少しで脱出できる…が
女と眼が合う。正気を保っている眼ではないが、敵とは認識されているようだ。
合金とチタンでできた拳を振り上げ、我輩の頭に目掛け全力で振り下ろされた。
その先にあるものは頭…ではなくコンクリートの床であった。
なんとか身をよじり、脱出が間に合った。我輩の頭があった場所は、爆音と共に陥没している。

「アハハハハハッ!ドウシタノ?どうされた?…お前ハッ?!何をシタァァァァ!!」

奇声を上げながら、女がこちらに突進してくる。しかしそれは力も技も速さも全て
ちぐはくな動きである。ただ一直線、不器用に我輩に向かってくる。
複数の意識が一つの体を動かしているように見えるが、あちらの事情は分からない。
できることは、楽にしてやることだけだ。

懐から緑の薬を取り出し、アンプル銃にセットする。女が突進してくるが、横にいなし
足を引っ掛け転倒させる。女はすぐに起き上がれず手足をジタバタさせるだけ…
反撃される危険性は低いと判断し、首元に注射する。

程なくして、奇異な表情のまま女の機能は停止する。
注入した薬品はただのオイル分解剤である。
全身を流れる、血液の代替品を分解されたのだ。サイボーグに死の概念を適用するかどうか
難しいところだが、死んだと表現するべきだろう。

機能停止を確認し、腰を下ろす。まず必要なのは最低限の体力回復だ。
バックパックの中から、飲料水を取り出し、口に含む。
ふぅ、ようやく一息つける。ここまで休息なしの強行軍だったからな。

ふと、今まで命のやり取りをしていた女を見る。
何故、精神が壊れたのか…いや違うな、壊れるのは不思議ではない。
推測だが、一つの脳に、複数の人格を詰め込んだ結果と思われる。いつ壊れてもおかしくない代物だ。
問題は、タイミングが良すぎる…という点だ。無論、日頃の行いが良かったから
などと言うつもりはない。だとすれば…だめだ、判断材料が少なすぎる。
釈然としないが、今後の方針の方が大事だ。今までの彼女の言動から、彼女はこの基地でも
相応の立場にいると考えられる。おそらくは、警備関係のまとめ役だろう。
だとすれば、戦闘前に言っていたことも信憑性は高い。このチャンスを逃す訳にはいかない。

手を握っては開き、体調を確認する。疲労感は消えないが、体に力は入るようになってきた。
そろそろ、大丈夫だろう。移動する準備を始めよう。
そう考え、バックパックの中に荷物を詰めていると、中から一発の弾丸が出てきた。

「これは…」

結城大尉からもらった弾丸だ…ふむお守り代わりにポケットに入れておくか。
そう言えばAMSでクーデターが起こっていたが、大尉は無事だろうか…
心配だが、大尉ならどんな状況でも生き残るだろう。
我輩も先程のように、感情的にならないよう心を落ち着かせよう

 ―――手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に―――

疲れきった体にムチを打ち、立ち上がる。目指すは最奥部、
メインエンジンのある部屋だ。

タッタッタッタッタッタ

ようやくここまで来れた。メインエンジンのある区画の前である。
ここまでの道中、幸いにも敵と会う事はなかった。彼女の言ったことは本当だったようだ。
区画の扉を開ける。縦横20mほど、高さは5mくらいの部屋の中を伺うと…
部屋中央のメインエンジンの前に、見慣れた馬鹿野郎の姿が確認できた。
こちらからは背中しか見えず、何か作業をしているようだ。
あ奴がいるなら、この部屋は安全なのだろう。部屋に入るとするか。

「なにをしているんだ?25は」

弟に近づき、声をかける。我輩がいることに気づいていたのだろう。
驚いた様子もなく、2メートルの巨体が振り返る。

「おお、兄者か…と、やけに傷だらけではあ~りませんか?なんだなんだ?俺様を差し置いて
 楽しいドンパチでもやってたの?」

言われて気づく。25の服は新品と同じように綺麗なままだ。

「まあいいや…そんなことより、コレが正常かチェックをしていたのだが、
 俺様では詳しい事はさっぱりわからん、訳ワカメだ、ということで兄者がやってくれんか?」

思わずハァ…と溜息をついてしまった。戦闘専門の25がここまで無事に進入できて
頭脳労働担当の我輩がドンパチをしていたとは…人生とはかくもままならんものだ。

「やれやれ、よもや壊してないだろうな…退いてくれ」

そう言うと、25はおとなしく後ろに下がった。
コンソールを叩き、自己診断プログラムを起動させる。程なくして、結果がディスプレイに
表示されるが…妙だな? 全てにおいて問題なしの表示が出ている。
宇宙船の墜落で、何かしら故障していると予想していたが…
後ろに居る25に聞いてみようと思い、振り向こうとしたが何故か胸に灼熱感が出てくる。
首を下に曲げてみると…自分の胸からナニカ生えている…いや、これは…刃物…だ

ここに居るのは二人きり。犯人は一人しかいない。なんとか振り返ろうとするが
それよりも速く、抉られながら体から刃物を抜かれた。足に力が入らず、倒れてしまう。
不味い…血が…止まらない。

「25…お前…何を?している…」

まったく理由が分からない。なんとか首を動かし、25を見上げる。奴の腕が刃物へと変異している。
そしてその眼は、ドブネズミでも見る様な眼で、我輩を見ている。

「何とは…自分の腕で、貴様を刺しただけだが…なにが不思議なのかね?」

多少、狂っていた今までと違い、口調が安定している。どういうことだ?

「お前…何故…我輩を刺した?…」

直接的に尋ねる。その言葉を聴くと、25は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「貴様…いや、貴様たちに対する復讐だよ。私をこんな体で生み出したお礼…といったところだよ」

なるほど…と納得する。が

「その復讐は…正当だと思うが…お前…何故理性が…ある?」

そこが分からない。肉体変異型は自身の肉体を変形させるため、その度に激痛が走る。
そのため発狂しないよう、このタイプは理性と思考が低いよう設定されている。
それでも暴走するような危険性があるが。
25についてもそうだ。かつてここまで会話が噛み合ったことなどなかった。

「ふむ、理性か…話は変わるが、貴様はNo.16のことを覚えているかな?
 そう、貴様の妹だった女だ」

忘れるはずがない。今の我輩があるのは、妹のおかげだ。何を今更聞いてくるんだ?

「貴様は彼女の死に目には立ち会っていなかったな。たしかその頃には軍に従軍しており…
 No.16が死んだとは人から聞いた話…そうだな?」

ああ、その通りだ…
そこまで尋ねると、25の笑みが下卑たものになっていた。
頭のドコカで、これ以上奴の話は聞くなと、警鐘を鳴らす。
しかし奴の口を塞ぐことも、自身の聴覚を潰す手段もない。

「彼女はな…わたしが喰ったのだよ。あの研究所に残った奴らが実験と称してな。
 私の体にあるナノマシンで彼女の脳形成を取り込んだのだよ。
 その結果は…今貴様の目の前にある通りだ。」

 ――――――――………

「かくして、私は理性と知能を手に入れ、貴様に復讐を誓ったわけだよ」

 ――――――――………

「とは言っても、今までコンビを組んできた相棒である。さすがに理性があると…
 なかなか決心がつかないものでね。貴様に選択肢を与えよう…」

 ――――――――………

「刺殺、銃殺、絞殺、撲殺、斬殺、圧殺、完殺、全殺、惨殺、狂殺…
 どれでも選べ。どれかを選べ。」

 ――――――――………

 ――――――――……… まだ話を続けようとしているが無視し、
自身の体のことを考えず行動する。アンプル銃を取り出し、震える手で狙いを定める。
セットされているのは青い薬…引き金を引こうとした瞬間

「やめたまえ、人の話は黙って聞くものだろう?」

25の腕が伸びてきて、銃をはじき飛ばす。コンッと壁際のほうで音がする。

「あきらめの悪いことだ。貴様の腰にあるその銃も奪っておくとするか」

と、ホルスターにあるXERD_003SSも捨てられる。

「これで貴様の武器は何一つないな…さぁ、どんな死に方がお望みかな?」

もう…眼も霞んできた。すでに体力は限界を超え、血も流しすぎた。ここで…終りか…

「もはや答える気力もないか…ここであきらめるとは、所詮貴様はその程度だ、
 生命を弄び私達のような者を生み出してきた貴様に、生命の価値なぞ生涯わからんのだろうな」

その言葉を聴いた瞬間に、魂に火が燈る。
確かにお前には我輩に復讐する権利がある。その罪も認め、罰も受けよう。
だがな、生命の価値がわからんだと…そこだけは認められない。

深呼吸し、覚悟を決める。が、熱くなりすぎないよう
もう一度戒めを確認する…

―――手は綺麗に…  自身の手を汚すことに躊躇いはないか―――
―――心は熱く…   我が根源、魂に火は着いた―――
―――頭は冷静に…  奴を殺すために、あらゆる手段を考えろ―――

懐から最後のアンプル、赤い薬を取り出す。それを迷うことなく自分に注射する…
さあ最後の…二人っきりの戦争を…始めよう…



もはや13に武器は残されていないと信じていたため、25はその動きに反応できなかった。
仮に何かしら武器があったとしても、対処できると高をくくっていたのも原因である。
まして、攻撃されるならまだしも、自分に注射を打つ…という行動だ。動けなくても無理はない。

―この状況で打つ薬だ…考えられる薬は、強心剤の類だろう。ならば、効き目が現れる前に確実に殺す―
25はそう考え、両腕を刃物に変異させ13に近づく。がその選択が間違いだと気づいたのは
13に殴り飛ばされ、壁に打ち付けられてからであった。

ドォォン

―バカな、瀕死のくせに何故こんな力を出せる?―
25のダメージは軽くない。殴られた腹は肋骨が8本折れ、受身も取れず壁にめり込んでいる。
しかし、それを表情に出さず、めり込んだ壁から出てくる。それもそのはず
体中のナノマシンが損傷箇所を即座に修復している。

13を見てみると、すでに面影はなくなっていた。服と着ぐるみは破れ
体長は3メートルほどになっており、体格も25より二周りほど大きくなっている。
―過去の遺物を使ったか―
13が打った薬は超人計画最初期の、薬品によって超人を生み出すものだろう。
ならば、話は簡単だ。逃げ回れば、肉体の強化についていけず、勝手に自滅する。

そう考えた25は激しい自己嫌悪に陥る。
―逃げ回る?復讐する相手から…ふざけるなッ!!―
13は自分の手で殺してこそ、意味があるのだッ!!今この瞬間、理性は…必要ないッ!!

25は変異型としての能力をフルに使う。
右腕はカタナに…左腕は銃に…骨を弾丸に…足に加速装置を…燃料は血であり…背中に翼を生やす
動きに耐えうるよう、全身をチタンへと変貌させる。
25の変貌を見てとった13は、させまいとして、一気に距離を詰める。
その勢いのまま、25の胴の倍ほどある豪腕を繰りだす。が空転し、背後の壁を壊すのみだ。
拳が壁にめり込み、動きが止まる。背中に二門、両足に合計4門のブースターを装備した
25は人間サイズとして、ありえない速度と幾何学的な動きで、背後に回り込み銃撃を加える。

グォォォォォ

13から雄叫びが上がる。痛みはあるようだが…弾丸は貫通しておらず、鱗によって止められている。
―大したバケモノだな、オイ―
だがな…

「お前は力を得た。
 俺より遥かに強いと思っている。

 返り討ちにする気で満ちて居る。

 そんなお前を、底無しの絶望に叩き落とす

 ――――これこそが、俺が同属を喰ったが故に選んだ復讐だッ!!」

自分の心情を声に出し、叫ぶ。辺りには赤い霧が出てきてる。
25のブースターの燃料は自らの血液…それを燃焼させ驚異的な機動力を得ている。
長期戦はできない。自身の最大火力を考え、左腕を電磁加速砲(レールガン)へと変異させようとする。
が、複雑な機構であればあるほど、変異に時間がかかる。
その間に13がまたしても、向かってくる。

―そんな速さでは、俺を捕らえる事はできんぞ―

事実、13の攻撃はあっさり避けられ、急激に体長が変わったためだろう、その勢いのまま転倒した。
―このまま、距離を取ったままレールガンの一撃で決める―
そう決め、レールガンの変異を急ぐが…13の転んだ位置を見て青ざめる…あの位置は…
計6門のブースターが咆哮し、13へと肉薄する。
―奴は俺への攻撃が目的ではなかった…武器を取りに行くのが目的だったッ!―
今、13がいる位置には、25がはじき飛ばしたXERD_003SSが落ちている。
13はそれを拾い、向かってくる25に狙いを定める。
右腕のカタナで斬りかかるが…わずかに13の方が早い。XERD_003SSから、光が発射される。
音もなく光の奔流が辺りを包む。当然、後に残るものは何もない…

「貴様がもっと戦闘訓練を積んでいれば、俺は今の攻撃で死んでいたな…」

上空から声がする。そのまま、13の頭を目掛けて斬り下ろす。
発射される直前に、上方へ移動し、天井を蹴っての一撃だ。
13は首を捻り避けようとするが反応が遅れ、片目に斬撃を喰らう。
―このまま心臓を一突きして、終わらせる―
着地し、全速で心臓へ一直線に距離をつめる。だがそこで13が声を発した。

「シェイプシフトッ!!」

その瞬間、25の想像を超えた光景が展開される。
13の手にしていた銃が変形し、剣になっている。マズイ、リーチは奴の方が大きい…このままでは
しかし、6門のブースターによる全速力は止めることもできず、腰を一刀両断され
上半身と下半身に別れた。その勢いで上半身は部屋中央部に、下半身は入り口付近に飛んでいった。

―まさか…銃が変形するとは―
25は驚嘆していたが、ひとまず自分がすべきことを思い出す。まず、腹の出血を止めて、
それから、背面のブースターを使い移動し、下半身を癒着させる。
この状態になってもまだ、俺の方が速い…治療は十分に間に合う…

だが、いつまで待っても腹の出血は止まらず、血を噴き出し続けたままである。
今しがた攻撃された兵器を彼は知らない。「XERD_003SS」は
 ―XERDは環境修復装置、その攻撃を受けた物は有機・無機を問わずあるべき姿に修復される―
 ―003SSは3番目に作られた姿形を自在に変えられる者、シェイプシフターを意味する―

―何故だッ?なぜ、血が止まらない―
理由がわからないため、恐怖が出てくる。このままでは、せめて奴を殺さねば…
だが、どうする?血が止まらないため、ブースターは使えない…レールガンを使うしかないが、
何故か弾丸が生成できない…つまりあれか、あの武器にはナノマシンの動きを阻害する効果があるということか…

そこに思い至り、自身の力を頼らず、13を攻撃する方法を考える。
辺りを見渡すと、都合の良い物が落ちていた。
なぜこんなところに落ちているのかは分からないが、「ソレ」を拾い、左腕にセットする。
攻撃前に左腕の変異は終わっている。電力として、自身のATPを燃やし電圧を上げる。
肉の焦げる匂いが辺りに充満し、13がこちらを見る。気づかれたが奴が取れる手段はもうない。

ドンッ

乾いた音が鳴り響き、13は仰向けに倒れる。彼の身を貫いた弾丸は、
この星の友との友情の証であった。

                  Lizard Story is dead END ?

そして、彼が今際の際に思った事は…


生きねば、生きねば、生きねば、生きねば生きねば生きねば
生きねば生きねば生きねば生きねば生きねば生きねば生きねば生きねば生きねば生き
ねば生きねば生きねば生きねば生生生生生生生生生生生生生生生生生生生生生生――

「何の、ためにだ?」

 ――ええ、おい。

「何の、ために生きろと言う?」

 それは、もちろん。

1.妹との約束のため → 「どこかの誰かの未来のために」ルート
2.自身の贖罪のため → 「どこかで誰かの戦争のために」ルート

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最終更新:2012年04月18日 21:43