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『ヤンライタンvs百歩心菜』
(ギャラリー①、>>142>>143)
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「いくよー、心菜ー!」
「うん! 私負けないよ!」
仮想戦闘空間の中で髪をシニヨンに纏めた異国情緒の少女、ヤンライタンが地面を大きく踏み込み、炸裂させる。一歩ずつ足下で爆発を起こすヤンはその衝撃により加速度を得る。
彼女と相対するのはにこやかな表情の少女、百歩心菜。徒手空拳で爆風の速度で迫るヤンを迎え撃つ。
両者が触れ合うかという距離に達した瞬間、爆発が起きる。ヤンが伸ばした手が爆ぜたのだ。それに対し心菜は予め大きく退避していた。地面を変化させ、足場を作りカタパルトのように脱出する。
心菜は接近したい。彼女の異能は触れた物質の変成、そしてそれは人体にも適用される。つまり言ってしまえば触れれば必殺だ。 そんなことはヤンも分かっている。ゆえに接近して放つ掌から爆発を起こす。これにより心菜は近付くことができない。どちらも接近戦を得意とするタイプだからこそ互いに近寄らせたくない。
接近と爆破、交差と退避を繰り返す最中に心菜は両腕を前に伸ばす。
何かが来る。そう判断したヤンは一旦爆風による移動を止め、低い姿勢で構えた。
「えいっ!」
心菜の掛け声と共にヤンの視界が赤く染まる。ヤンが爆炎に包まれ、熱を伴った爆風が心菜の頬を撫でた。
この爆発は心菜によるもの。仕組みは単純、触れた空気の成分を水素と酸素を過分に含んだ大気、爆発物そのものに変化させたのだ。調整が難しくまだまだ試作中の技だが模擬戦には打ってつけだった。 心菜は軽く息を吐いた。ほんの少しの休息、けれど確かな気の緩み。その瞬間、爆発による煙の中からヤンが飛び出す。
「スゴいねッ! イノーが新しくなった!?」
ヤンには傷一つ無かった。
自己の異能以外も含めた爆発への耐性、それがあったようだ。予想してなかったことではないが心菜は対応が遅れる。
ヤンは爆発による推進力で駆け抜け、爆風に乗り身体を回転させると右手を擲つ、と同時に炸裂。そこから放たれた物が弾丸のように心菜に襲い掛かる。
恐らく握り込んだ瓦礫か何かだろう。両手を突き出し、弾丸を砂状にして威力を殺す。しかし弾丸の一発が足を撃ち抜いた。
ヤンは地面に下り立つと左右の掌を合わせ、筒のようにして機動力を削いだ相手に向ける。
「ワタシもやるだよ!」
威勢の良い声を出すヤンの掌から火花が散る。その様子に嫌な予感がした心菜は瞬時に両手を地面につけた直後、その身体を轟音と衝撃が貫いた。そこらの大砲が目じゃない威力の指向性の爆風が放たれたのだ。
「くっ……!」
しかしその砲撃は心菜を避けていた。彼女が地面に手をつけ、変成させ盛り上がった地面がヤンの手首を下から叩き上げていた。心菜の異能は触れた物を変化させる、ということは地面に触れれば
「私の射程! 目の届く範囲!」
爆発に耐性のあるヤンでも流石にこの火力は許容値を超えていたようで、かち上げられた両手が軋むように震える。しかし休むことなく足下を爆発させ、飛び上がる。そこから鋭いトゲが生えてきた。
空中で体勢を整え機動力で優位を取ろうとした刹那、爆鳴が響き、上からの衝撃がヤンを襲う。
爆発に耐性はあるのだろうが、それにより発生した運動エネルギーが働くことは本人が普段から証明している。上空で漂っていた爆鳴気擬きがヤンにより点火され、彼女をトゲのある地面に向けて叩き落とす。
ヤンは瞬時にトゲを爆破し粉砕する。そのまま地面へ突っ込むことになるが、串刺しよりは被害が少ないはすだ。爆風により叩き付けられたヤンは大きく地面にめり込む。否、沈み込んだ。
「あっ……!」
地面の半液状化、彼女がよく使う手だ。即座にヤンは両手両足、全身をも包む爆破を引き起こす。炸裂した地面が捲れ上がった。更に脱出するために爆発させようとしたヤンの肩を何が触れた。見上げるとそこには足を引き摺り、ヤンの爆風に巻き込まれながらも突き進んだのかボロボロになった心菜が居た。
「私の勝ち!」
心菜の勝利宣言。反撃する間もなくヤンの身体がぐにゃりと崩れ、破裂した。勝敗は決し、仮想空間が解除されていくとそこには元に戻った地面に寝転ぶヤンと肩で息をする心菜が居た。
「アイヤー……負けたー! 悔しいだよー!」
「私強いよ! でもヤンも強いよ!」
二人とも笑顔で負けを惜しみ、敗者も讃える。これが戦闘科女子の日常である。
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『新條創と緋鉢大空の密会』
(ギャラリー①>>152>>155>>156>>158)
※緋鉢視点です
(ギャラリー①>>152>>155>>156>>158)
※緋鉢視点です
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新條創に負けたあの日から数日後。
俺は新條創と二人きりで過ごしていた。 あれがどういう風の吹き回しか解らないが俺を優勝者特典で貰った例の『誰にも介入できないサロン』とやらに連れてきた。
「ふふ、本当に誰もここを覗く事はできないし会話の盗み聞きもできないみたいだね。
───あの時、校長にお願いして良かった。」
奴がぐぐっと腕を伸ばし背を伸ばした。
天井はステンドグラスになっているらしい。 ──海のような深いサファイア。草木萌ゆ深いエメラルド。業火のように燃えるルビー。妖しく煌めくアメジスト。闇の様にそこにあるオニキス。周りを縁取る金の装飾。それらを支える樫でできた柱。 全てが調和して美しかった。 なるほど─これが中央機関が国税を注ぎ込み作った誰もが羨やむ理想郷。 噂に聞いていたがこれほどとは思わなかった。
「すまないが単刀直入に聞く。何故俺をここに呼び出した?これからの新條家と雨野家についてのことか?」
「いや?違うよ。ただ親愛なる友として君をこのサロンに呼んだんだ。一人より二人の方が良いだろう?」 「・・・?そうなのか。」 「まあ、そんな事より何か頼もう。 あともうそろそろで君、誕生日だろう?何かケーキを頼もう。」
─ふむ。
確かに俺はもうそろそろで誕生日を迎え1つ年を取るが新條創にその事実を伝えただろうか。 あと新條創には申し訳ないが俺はお前とは親しいとは思っていなかった。 「ああ、そうするか。なら俺はアップルシナモンパイを1ピースとダージリンを頼むことにするよ。 新條創はどうするんだ?」 「ふふふ、創でいいよ。俺も君のこと大空と呼ばせてもらいたいからね。俺は季節のケーキとコーヒーにしようかな。」
暫くしてケーキと紅茶が運ばれてきた。
こんがり焼かれたパイ生地からは芳しいシナモンの香りと林檎が見えていた。 彼の季節のケーキはモンブランだった。 頂点に一人居座っている栗は丹波産のものらしい。 「ふふふ、こうして友達と食事をするというのは楽しいものだね。」 「そうだな。俺もよく叢雲達と学食を食べたりするがいつもの倍美味しく感じるな。」 「そうなのかい?俺は学食を食べたことがないからわからないなぁ。いつも一人だからね。」
「じゃあ、今度俺たちと一緒に食べるか?」
言ってからハッとしてしまった。
ただでさえ俺が叢雲達─無能力者や非血統主義と食べることを疎ましく思っている連中はいるのだ。 今もなお強大で衰えを知らない新條家の次期当主候補が無能力者ひいては非血統主義達と同じテーブルを共にすることができるはずがない。
「ふふふふふ、それも良いね。
申し訳ないけど学食じゃなくここに呼ぼうかな。 今度は雨野くんも誘って。」 「─ はぇっ!?あ、ああ、うん。そうだな。 しかし叢雲達には中央機関通行許可証がないがここまで来れるのか?」 「うーん。来れるんじゃないかな。このサロンの会員証に『招かれる者以外入る事を禁ず。どのような人物であろうと招かれていれば入ることを許可する』って記してあるしね。」 「そうなのか。なら安心だな。」
その後俺たちは何時間も語り明かした。
学業はもちろん日々の他愛の無い話をした。 自分でも驚いたことだが彼に家業の事について相談してしまった。家業について誰かに相談したのは初めてだった。 これが新條家次期当主の新條創の器でありカリスマ性なのだろうか。末を思うと─少し恐ろしかった。
俺の腕時計の長針が5を指した頃、俺たちはやっと帰り支度をし始めた。
「長い時間付き合ってくれてありがとう。 家までは俺が送って行くよ。」 「いや、家の者が驚くから俺は一人で帰るよ。 心遣い誠に感謝する。」 「ふぅん。・・・・・・じゃあ、また明日学校で会おう。 さようなら。」 「ああ。また明日。さようなら。」
おまけ
※緋鉢視点
新條創とサロンに行った次の日、俺は叢雲と購買で百味パンと商業科と家庭科が共同開発した新商品『運試し☆ドリンク』を買いに来ていた。
俺たちはよくこうして屋上で昼食をとる。
「なあ空ちゃんよぉ、昨日例のサロンに行ったらしいじゃんか!どんなだった?」
「どんなって・・・贅を尽くした素晴らしい場所だったな。あと天井がステンドグラスで出来てて目がチカチカした。」 「はははっ。あんなすごい場所に行って感想が目がチカチカしたってもう少しなんか無いのかよ。 あとアレ!創と二人きりって大丈夫だったのかよ。お前コミュ力ひっくいし。」 「むっ。それは聞き捨てなら無いな。 聞いて驚け!俺たちだけで2時間もあの場所にいたぞ。これでもコミュニケーション能力が低いと愚弄するか?」 「うぅっ!あの大空ちゃんがこんなに他人と話せるようになってお父ちゃん感激っ!!」 「う、うるさいぞ。何がお父ちゃんだ。あと頭をぐりぐり撫でるんじゃない!身長が今より縮む。 でも彼が俺の誕生日を知っているのは驚いたな。」
「え?どういう会話してたらあんまり面識が無い相手の誕生日の話になんの?」
「いや・・・彼が知ってて当然のように祝おうとしてきたから何も言わなかったが・・・ これっておかしいのか?」 「おかしい・・・か・・・?でも相手が創だしな〜。 まあ知っててもおかしくないんじゃね?」
「そ、そうか。あと百味パンと運試しドリンクの開け方がわからん。開けてくれ。」
「しょうがないにゃあ〜。ほれ開けたぞ。」 |
『るりくらげ団体戦前夜〜玉城、マリかぐ〜』
(ギャラリー①>>164 >>165)
(ギャラリー①>>164 >>165)
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「はい」
「...いらない」 「なんだよ美味ぇぞ」 差し出した爪楊枝をくるりと回し、たこ焼きをパクリと一口。 「......泉川、お前これ何入れた?」 「水産科で育てた美味しい蛸さんとオオイカリナマコさんだよ?」 「あぁあのでけぇヤツな。結構イケるわ」 眉間の皺をさらに一つ増やす十六夜。がっくりと項垂れ、額を左手で覆ってしまった。 「...じゃねーだろ......せ、つ、め、い、し、て」 数日前開催された、学園異能決定戦。錬は大会前日に手に重症を負ったにも関わらず出場し、足にも怪我を重ねながらも三位を勝ち取った。しかし怪我は悪化し、これからは安静に...と月姫が考えていた矢先、なんと『次は団体戦に出る。お前も一緒な』などと言われたのである。 「や、だからよ」 「あーいい...アンタはいい......海姫ー...なんで海姫まで...」 「えっと、ごめんね?私もリベンジしたいの」 「うん。そうだよね...頑張ってもやっぱり悔しいものは悔しいもんね...」 「そーそー」「うるさいっ」 あわわ、と慌てて何か言おうとした泉川の口に、冷ましておいた新たなたこ焼きを突っ込んだ。どーしたもんか、と顎に手をやると、十六夜の目がつい、とつられたのが見えた。右手だ。 「あぁ、コレな」 「痛くないの?」 「いや...そりゃまだ痛ぇよ。治療どーも」 「...怖くないの?」 「え、いや、何が?」 一瞬、空気が凍る。しかし錬は怯まず 「や、それはいーんだよ、つまるとこ何が言いたいかってーと」 「はぁぁぁぁぁーーーーーー...」 月姫はため息をついた。何もかもさえぎる、大きな大きなため息をついた。そして 「わかりました。参加しますし、参加を許可します」 「おぉ」「やった!」 「ただし!無理は厳禁!玉城には能力制御用の装置か何かをつけて出てもらいます!」 「えぇ...普通にやりゃ別に怪我しゃしねぇよ...」 「だめ」「はい」 「絶対また思いつきでヤバいことするでしょ。それから書類も全部書きなさい」 「あぁそれはいいぞ」 「え?それは私も手伝うよ?」 「いや、いーや。俺一人で、だろ?」 「はい。それから──」 ──結局、錬が気付くことはなかった。凍った空気の瞬く間に向けられた、悲しそうな目と、怯えを孕んだ目に。 団体戦が始まる── |
『八列強闇鍋会』
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※会話形式です
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サヴァランチ(これ以降鯖)
「第一回!キチキチ八列強だよ!ロマノフ以外は集合!!闇鍋会にご参加頂き誠にありがとうございます。」 有栖川(これ以降アリス) 「は?そんなこと聞いていないんですけど? というか何食べ物で遊ぼうとしてるんですか? あと今日は俺が鍋を皆さんに振る舞うって話でしたよね?」 ヴィードリッヒ(これ以降ヴィ) 「それじゃあ面白くないからな。お前に内緒でロマノフ爺さん以外のメンバーで闇鍋というものをする事にした。その後、お前に普通の鍋を振る舞ってもらう。」 アリス「いやいやいやいや、俺らの年を考えて? 平均年齢30歳ぐらいの集団が鍋二つ食べ切るのは難しいの?わかる?」 アレキサンダー(これ以降アレク) 「いや〜ヤミナベは少なめにするから大丈夫だぜ。 安心しろよー有栖川。」 サイクロプス(これ以降サイ) 「あなたの鍋も食べるから大丈夫。これでいいでしょ?」 アリス「ははーん?貴方相当寝ていませんね、サヴァランチ。いつ寝たんですか?」 バッカス(これ以降バ)「そんなことよりぃ、いつになったら夕食会にするんだぁ?おじさん早く闇鍋したいんだけどぉ?」 アクナレア(これ以降アク)「まあまあ、今から始めましょうか。各々持ってきたベースとスープいれましょう。」 鯖「じゃあ!電気消して!鍋に水入れて!はい!レッツ闇鍋ー!!!」
暗転
鯖「よし!まずは各々が持ち込んで火の通りにくい食材から入れていこう!」
アリス「なんか・・・獣臭いんですけど。」 ヴィ「次に固めの野菜だな。」 サイ「最後は火が通りやすい食材・・・。」 アク「ここから何分か煮るのよね?有栖川。」 アリス「ええ、まあ、はい・・・。」 〜数分後〜
鯖「できたよ!さあ皆食べよう!レッツ闇鍋!
よし、各々具材は取れたかな!ではたべるぞ!」 アリス「なんかぶにゅぶにゅした食感なんだけど・・・(豚足)あとスープがなんだこれ・・・ワインとトマトがすっごい強いのに時々なんか魚と豚骨か?そんな感じの味がして何ともいえない味がするんだけど・・・」 アレキ「俺のは美味しいぞ。(びちゃびちゃになったおかき)」 サイ「なんだろう豆を食べてるはずなんだよね。私は。でも豆の味じゃなくて・・・これなに?(納豆)」 アク「ゲホッゲホッ!ッッッッ?危険物と食べられないものは入れないって決めたはずよね?!!(激辛唐辛子入りミートボール)」 鯖(口の中のスルメが噛みきれないので喋れない) バ「おじさんのはたぶん当たりだな。なんか美味しいし。(芽キャベツ)」 ヴィ「ふむ。食べたことがある味だね。どこでだったかな・・・思い出せないが(ピータン)」
鯖「はい!皆食べ終えたかな!第二陣かかれ!」
アレキ「お?なんかゴリゴリ言ってる。これ骨じゃね?(鶏の脚※本当に食べられるそうです)」
ヴィ「ヴォッホ、ゲホッゲホ、ゴホッ! 食べたことある気がするけどマッズ?!食べられないものは入れないと決めたはずだろ?!(サルミアッキ)」 アク「今回は・・・?なんだか噛めば噛むほど味が出てくるわね。牛肉かしら(ビーフジャーキー)」 サイ「やった!今回は普通だ牡蠣だ!美味しい! 私牡蠣たべてる!(牡蠣)」 鯖「うーんこれは葉っぱですね!間違いない(白菜)」 アリス「これはニンジンか?すごいなんか・・・スープのせいなのか知らんが・・・うん、すごいなんか・・・(人参)」
鯖「よし!これで最後だ!食べよう!」
アレキ「うん。野菜の味がする。(カブ)」
ヴィ「これは知ってる。兎だな(うさぎ)」 アリス「これは・・・なんだこれ?なんか中華街で食べた味がする。あと1回目と2回目のやつよりでかいな?(フカヒレ)」 アク「なんかドロドロというか今まで火にかけていたからか知らないけど、なんだか小さいわね・・・(ジャガイモ)」 サイ「これは玉ねぎかな・・・今まで火にかけていたからトロトロになってるけど(玉ねぎ)」 鯖「うん!これは俺が入れたやつ。(マロニー)」
鯖「よし!これでおしまい!それじゃあこっちの鍋片付けて換気して普通の鍋の用意しよう!
あと俺は寝ます!おやすみなさい・・・」
おまけ
おそらく各々が入れたものまとめ
バッカス→おかき、ビーフジャーキー、スルメ
ベースにワイン おそらくこの人はあんな事言ってたが当日まで忘れていて急遽自分のつまみと酒を入れた あと鍋は良くわかってなかったが食材は当たり枠 ワインのおかげで肉類の臭みを消した
アクナレア→豚足、フカヒレ(調理済み)、玉ねぎ、ニンジン ベースにコンソメ(少量)
鍋を煮物だと思っていた あんまり味が濃いものを入れるとダメだろうと思っていたのでフカヒレ以外はそんなに冒険してない 良心枠 コンソメの味はトマトとワインに消えた
サヴァランチ→激辛ミートボール、マロニー、サルミアッキ、ピータン、ベースは水
鍋の事を調べた上でやった今回の元凶であり戦犯その① 激辛ミートボールは本人曰くちょっと辛いぐらいだから入れたなどと述べているが、普通の人間の味覚ではタバスコ丸々一本を練り込んだ肉団子は死ぬほど辛いのである
ヴィードリッヒ→鶏の脚、ジャガイモ、 納豆
ベースにトマト 鍋の事知っててやった戦犯その② 納豆は有栖川が好きだったから入れようと思ったらしい 鍋の中でバラバラにならないように最後に入れたり包むなどをして工夫し、鍋の味がこれ以上ヤバくならないように努めたのは素晴らしかった
アレキサンダー→牡蠣、カブ、白菜
ベースに和風出汁(3人前) おそらく妻に言ったのでまともな物が用意された 本人は鍋の事はよくわかっていなかった 今回食べるまではこの前有栖川に奢ってもらったコンビニおでんとごっちゃになっていた
サイクロプス→ウサギ、赤カブ、芽キャベツ
ベースに牛骨で作った出汁(少量) 煮物と鍋がごっちゃになっていた勢 この中で一番少食なので有栖川の鍋を食べれるかどうか一番心配していた
おまけのおまけ
今回は何も知らない有栖川さん 鍋の材料(8人前)を持ってきた人 やっぱりサヴァランチは早めに身を固めて誰でも良いから強制的に眠らすことができる嫁を貰った方が良いと思った あまりハズレを引かなくてよかったね |
『団体戦後るりくらげ』
(ギャラリー②>>34>>35)
(ギャラリー②>>34>>35)
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「___そしたらね!私、勝てた!って思ったの、でもね!そしたら辰也くんの炎がぶわぁーって来てね!」
「海姫、その話はもう3回目よ」
「あれ?そうだっけ?」
るりくらげの面々は団体戦後、医療班の応急処置を受けたあといつもの保健室にいた。
「でもさ、やっぱり私、勝ちたかったな」 1人の少女の瞳から流れる涙とともに、保健室には静寂が訪れていた 「決定戦の後、やっぱり悔しくて私いっぱい訓練したんだ」 「うん」「…」
「玉城くんに団体戦一緒に出よって言われた時に今回は負けないって思ったの」
「…うん」「……」
「でもね、やっぱり私じゃダメなのかな…どんなに頑張っても追いつけない」
「そんなことない、海姫は頑張った、現に海姫は玉城と一緒に夢原さん達を倒せたじゃない」
「それに、私たちはこれで終わりじゃないでしょ。ね、リーダーさん?」
「そうだ!俺たちは…気持ちなら誰にも負けてなかった!絶対に…来年こそは、俺たちで勝つんだ!」
熱く燃え上がる少年の瞳からは涙が溢れていた。 「玉城、泣いてるの?」 「お前も泣いてるだろ」 「そういうとこデリカシーないのよ!」 「今はそういうの関係ないだろ!」
「ふふっ、あはははは」
玉城、月姫は海姫の方をぎょっと見つめた
「私がくよくしてちゃダメだよね!次こそは絶対リベンジしてやる!」
「お!泉川!いい心がけだ!こうなったら、来年あの決勝の舞台で勝つのは俺たちだな!」
「うん!」「ええ。」
「そうと決まったら今から…」
「安静にしてなさい」 「…分かったよ」 |
『団体戦Bグループ南西エリア綾小路幸vs的場薄緑』
(ギャラリー②>>42)
(ギャラリー②>>42)
+ | ... |
1回戦Bグループのフィールドは先ほどのAグループとは違い頭上には蒼穹があった。
───最悪だ。
銀翼の騎士団 的場薄緑はそう独言た。
彼の異能と自身の武器では明らかに不利だ。いつもは物陰に身を潜め不意打ちをする策か奇襲を行い相手を追い詰め仲間と連携する策で勝っていた。 どのような体勢でも、どのような場合においても─水中・空中・たとえ異能で阻止されようとも射抜くことができるのが我が異能。 一度でも射てる状況さえ整えば勝利を掴める。 北か、東か。───緋鉢か長船の援護に行こう。 その時、目に影が映った。 ボウガンを構えいつものように射とうとした。 ────射とうとした。 目だ。目がこちらを見ている。目がこちらを覗きこむ。目がこちらを覗きこんでくる。 眼球が、瞳が、眼が、目が───。 俺の眼球から脳へ痛みが走る。 膝から崩れ落ち、地へ倒れる。
─俺は何をされた?
脳を伝い脊髄へ身体中の神経へ痛みが走る。末端までが皮膚までもが痛い。 立つことなんてできない。膝をつくことさえ不可能。こうして倒れているだけでも小石が肌を刺激するたびに、服が肌に接触するたびに痛みが走る。 ─これがあの見殺しの異能か
綾小路幸は地面に崩れ落ちた男を見ていた。
脱落を確認し─北へ向かった。 |
『新條唯のはじめて』
(ギャラリー②>>68~71)
(ギャラリー②>>68~71)
+ | ... |
(しまったな)
店の前にある看板のメニューを見終わったところで私、新條唯は後悔していた。 (一人で来るんじゃなかった) スイーツバイキングというものを私はこの年齢になるまで行くことがなかったのだ。 きっかけは二つ、一つは今度の学園祭で私のクラスは喫茶店をやることになったこと。 料理は得意だが、あまりスイーツ系は知らないので調べる必要がある。 そして二つ目は昨日のお昼休みにクラスメイトから 「これめっちゃ美味そうじゃない?今度の日曜行かない唯っち?」 と誘われたことだ。もちろん、二つ返事で私は了解したのだが。 実家にいてもそういった店は近くになく、食べる機会もほとんどなかった。しかし学園生活の中でも訓練に明け暮れて興味がなかった。 周りの同級生もそんな私を誘うはずがなくて、今になってようやく舞い込んできたチャンスなのに。 これ以上私が世間知らずのストイック・新條ガールだと思われたくないので今日は放課後すぐに一人で来た次第だ。 ここでスイーツバイキングとは何たるかを覚えておかねばならない。 (いざ──) 入店。カランコロンと鳴るドアを開け、喫茶店のように落ちついた雰囲気の店内には多くの学生であふれかえっている。 (今日は平日だぞ、全く何をしているんだ) それは私も同じなのだが。とりあえず席に着き、スイーツ食べ放題1時間をオーダー。 店員が食べ放題の説明をして、お皿とドリンク用のグラスを置いて去った。 スイーツは向こうのテーブルに載っているものから好きなものを好きなだけ選べる。 テーブルの大皿にはケーキやタルトなど多くの種類のスイーツが並べられている。 (これが最近のスイーツ……) 小さいな、と感じた。やや食い意地が張りすぎているのだろうか。 (クラスで出すものは食べ応えがあるようにした方がいいな) 一口でパクリと四角く切られたケーキ達を食べながらあれこれ考える。 (これもいいな……いやこれもいいぞ……) クラスの女子が夢中になるのもうなずける。美味い。ほっぺたが落ちるという言葉はこのためにあるのかもしれない。 顔には出さないよう手をふるえてこらえながら再び席を立つ。 すると 「あっ」 奥からやってきた小柄な生徒とぶつかった。制服を見る限り男子生徒だ。 「す、すいません!……へっ?」 「全く、気を付けてくれよ。私はまだ皿に何も載せていなかったから……ん?」 よく見ると弟だった。新條家三男の晴だ。 ぶつかった拍子に飛んで行ったと思われた晴の皿とスイーツは器用に浮かんでいる。成程、異能をかなり使いこなしている。 「晴、お前なんでここに!?」 「ぼ、俺はクラスの女子に誘われて……姉さんもなんでこんなところに?」 晴は少し恥ずかしそうにして言った。晴は一人称が学園では「僕」だが実家では「俺」だったな、と思い出す。 「市場調査だ」 「そ、そうなんだ……じゃあ戻るね、ぶつかってごめん」 「いや、いいんだ。次から気を付けてくれれば」 晴と別れ、スイーツをまた手に取る。今度はプリンとタルトだ。 (うん、これもそれも美味いな) 食べていくうちに原材料や作り方を考える。学校の調理室はいつも争奪戦になるのでなるべく前日に作り置きできるものにして、材料も安く抑えて一部は手に入りやすいもので代用して……とあれこれ考えながら食べ進める。 「じゃあ、姉さん。俺、帰るから」 晴が帰る際に挨拶をしてきた。 「創や実には言うなよ?」 「うん……兄さんたちにはほとんど会わないし、今日は久しぶりに姉さんに会えてよかったよ」 「そうか」 晴は実家では父さんや実に相当いじめられていた。実家にいる時は守ってあげていたが私が学園に行ってからはそうもいかなくなった。 この間の決定戦では兄の創を相手に善戦していた。「ベクトル」は新條家で代々受け継がれてきたものではないが強力な異能だ。 父さんはもう少し認めてやるべきだ。実家で苦労した分、学園では楽しく過ごしてほしいと会計をする姿を見ながら願う。 その後もしばらくスイーツを堪能していると、周りの客や店員が「どれだけ食べるんだこの人は……」という風に見てくる。なるほど、一人で一心不乱に食べているのはおかしいのか。覚えておこう。 10分前になったので会計をして店を出る。かなり食べたようで体が重たい。 (まずいな) 最初は予行練習だ調査だストイックがなんだと理由をつけていたが、心の奥では楽しみだったのかもしれない。 (我ながら素直じゃないな、私は) 苦しそうな顔から少し笑みがこぼれる。 この後、練習メニューをいつもより何倍も増やしたのは言うまでもない。 数日後、同級生とのスイーツバイキングは上手くいった。やはり事前調査は大事ということだ。 なおクラスの出し物について、喫茶店といっても実はメイド喫茶だったことが判明するのはさらに後の話。 |
『同好会の動向(ラーメン)』
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16時。キンコンカンと終業のチャイムが鳴り、高等部の生徒たちはそれぞれ所属する部活動や委員会へ向かう。
コタツ同好会に所属する能堂瑠璃もそのうちの1人であり、生徒会室の隣にある部室へ向かった。 しかし、そこにあったのはラーメン屋だった。 「……なんですか、コレ」 入り口には小さな黒板ボードが置いてあり、『学生さんおすすめ!』と吹き出しで囲まれている下には他の店舗と比べても安い値段のセットメニューが書かれていた。内容は『ラーメン(種類、大盛自由)とチャーハン/餃子3個/ジャンボ唐揚げ(3つのうち1つ選択)』であり、かなりボリューミーな印象を受ける。 「へー…………っていやいやいや!」 まじまじとボードを見ていた能堂であったが少ししてから開店中の紙が下げられている扉を開く。 来客を知らせるベルが付いていたのだろうか、入ると同時に店内にカランコロンと金属の心地よい音が流れる。 「らーっしゃーっせぇーっ!」 「……しゃーっセー……」 店員……コタツ同好会の九十九透と クレア=アヴァン=ホーンが厨房で作業をしている。まだ誰も入っていないようで流しているテレビと調理中の音がよく聞こえる。 「なんだぁ、能堂くんだったか」 九十九が厨房から出てくる。頭にはタオルを巻いて黒いTシャツの上にゴムエプロンを着用し、長靴を履いている。 「……またトンチキなことを……」 能堂は頭を抱えた。 「待ってよ、能堂くんだって似たようなことしたじゃないかぁ」 コタツ同好会では能堂たっての希望で2月にメイド喫茶を開いていた。自分も到底言える口ではないだろう、と九十九は指摘する。 「それで、今回はラーメン屋ですか」 能堂は店舗内を見渡す。ベースは部室なのだが元の炬燵があった座敷はそのまま座敷席に使用し、奥に厨房とカウンター席が追加されている。壁にはメニューの書かれた札が貼られてあり、何故かビールのポスターや古い映画のポスターまで貼ってある。 「そうそう、今でも僕らコタツ同好会に対する偏見が強くってさぁ。それでラーメン屋開けてイメージ向上を狙うことにしたんだ」 「……ズレてません?」 「1番自信があったのがコレなの!値段も利益プラマイゼロのギリギリにしてあるから安いしね、コレで大繁盛間違いなしだねぇ」 「逆に安すぎると危険だと思われるのでは……それでメニューはこれですか?」 カウンターに座った能堂は置いてあったタブレットを手に取った。充電台から外れるとメニューが表示された。 「へぇ、ラーメンとサイドメニューとドリンク・スイーツ……内容も充実してますね」 メニューは3つに分けられ、その中にいくつもページが並んでいる。 「凄いでしょ、この間のラーメンから他にも色々出してみたいと思ってたところなんだよねぇ。是非食べてみるといい」 「お腹はあまり好いてませんけど……まぁ早い夕飯だと考えれば……そういえばこの費用ってどこから来てます?」 同好会には生徒会からの予算は降りず全て自費で賄う必要がある。コタツ同好会では3人で同額を出し、その合計を年間費用としてやりくりする。調理器具は部室に置いてあるものや他の部活から借りて来れば事足りるが原材料は別だ。何人客がくるか分からないのにこれだけのメニュー量、一体どれだけ仕入れたのだろうかと能堂は不安になった。 「設備は色々あるものとか借りてきたりして……材料だって他のメニューにも兼用できるようなものを使うようにしてるから思ったより無駄ないよと思うよ」 能堂がメニューを見ると確かに野菜炒めと味噌ラーメン、チャーシュー丼や麻婆豆腐などラーメンといくつか要素のかぶるものがある。デザートに関してはほとんどプリンとアイスである。おおかた残っても2人で消化するつもりだろう。 「まぁいいことにしますね……」 能堂は考えることをやめて注文を選ぶ。いくらなんでも予算が傾くような馬鹿なことはしないだろうと思っているが、この男は何をするか分かったものではない……しかし毎度なんとかなっているのも事実でもある。今回はこの相反する2つのどちらだろうか、能堂は毎回頭を悩ませている。 「あれ?割引とかあるんですね」 能堂はメニューの端に『割引特典‼︎今すぐチェック‼︎』と書かれた項目を見つけた。すぐにタッチすると画面が暗転する。 「あれ?……故障でしょうか……おっ」 画面上に細い帯がグルグルと輪を描き出した。これは動画を読み込んでいるのだろうか。 間も無くすると、動画が流れ出した。
「──ラーメンは底無しなんですよ。スープと麺の相性からチャーシューやメンマといった具材……その組み合わせだけでも考えることが無数にあります」
そう語るのはこの『ラーメン古達』の店主、九十九透さんだ。 「ラーメンを構成するそれぞれも作り方から原料までこだわると本当に無限なんですよ、新しいラーメンに事欠かないのは良いことですけど」 異能学園に新しく店舗を構えた頃、彼は新たなムーブメントを引き起こすような劇的なラーメンを求めていた。これはそんな無限への探求に身を投じる彼の戦いの記録である。
「……いやなんですかコレ⁉︎」
「何って……僕のラーメンへの情熱を表すインタビュー動画だけど」 「いつ作ったんですか!」 「この間映像部に頼んだんだよ」 某ドキュメンタリー番組のような画面構成、普段と違う九十九の話し方、全てに能堂はツッコむしかなかった。この映像が外部委託となると再び予算の方が心配になってきたが視聴を続ける。 その後の内容は店主である九十九の新商品開発を追い続ける形で展開されており、苦悩している様子や他の店舗(学園都市に実在する店舗)で研究している様子が描写され…… 気づくと既にかなり時間が経過していた。客の回転を重視する飲食業で、注文する前からここまでのタイムロスは大きいだろう。 「長くないですかこの動画、もう10分経ってますよ……?」 「先に注文するといいよぉ、割引は最後の精算に必要なだけだから」 「先に言ってください……」 動画をタッチすると画面の右端には縮小機能が付いており、押すと動画がワイプ表示されてメニューを見ることが出来た。 「とりあえず醤油ですかね」 「おすすめは特製ラーメンだよ、その動画の最後で完成するやつなんだけどね」 「ネタバレじゃないですか!」 「まぁまぁ、動画は観ることが大事だから。あんまり内容について細かく知らなくてもいいし」 能堂は特製ラーメンを注文し、待ち時間の間再び動画を視聴し始めた。 九十九が素材を選定する場面からようやく目指しているラ―メンの形になろうとしている所で注文したラーメンが来た。 「はい、どうぞ」 「今作ってるのが完成すると、これになるんですよね?」 やってきたのは至ってシンプルな醤油ラーメンであった。透き通ったスープに 「あとこれもセットだねぇ」 後から来た小鉢には背脂が混ざった黒い粘りのある液体が入っている。 「何ですかコレ?」 「味変えに使うんだよ、後で入れるといい」 ひとまず特製ラーメンを食べる。その間も動画は続いている。 「これ、全部でどのくらいあるんですか?」 「んーとね、20分」 「……微妙に長いですね」 まずは一口目、能堂はレンゲでスープを口に運んだ。 (味変えを前提にしているのであれば、物足りない程度に味を抑えているのでは?) そう思いながら口に含んだ瞬間、すっと鰹だしの匂いが鼻を抜けた。その後に醤油の風味がほんのりと香る。 「ラーメンのスープというよりはうどんのだしって感じですね」 「うん、でもこれでメンや具材の味が引き立つんだ」 次に麵を啜る。 「これは……」 麺の生地にわずかだが柚子が練りこまれていた。あっさりとしたスープと合わさって爽やかさを感じるとともに、するすると麺が口へ運ばれていく。 次にチャーシューをかじる。しみ込んでいるタレが溢れ、噛む度に身がほろほろと崩れていく。 「おいひい……」 タブレットの動画は佳境に入っていた。ついに特製ラーメンが完成し、九十九がその特徴について解説している。 ラーメンを半分食べ終わり、次は小鉢から味替え用の背脂醤油タレを入れる。ラーメンが濃い色に変化していく。 一口すすると能堂の中で明確にこのラーメンの印象が変わった。ダシだけでなく全体の味が濃くなり塩味が増した。柚子が練りこまれた麺は今度はその中で清涼剤のように油と塩味を打ち消している。 そのままの勢いであっという間に完食し、動画も終了した。 「それで……割引は?」 動画が終わると、ページが切り替わり選択肢が表示された。どうやらクイズに答える必要があるらしい。 「クイズですか?ここまでアピールするってことはラーメンのことだろうと思うんですけど……」 表示された問題文は『九十九の頭のタオルの色はどの順番で変わっていた?』であった。参考として最後に映った九十九の姿が表示されている。 「いや誰が分かるんですかこんなの!確かになんかカラフルだなって印象はありましたけど細かくは覚えてないですよ……」 「だから言ったでしょ?内容はあんまり関係ないって」 「ここまでとは思わなかったですけどね」 能堂は適当に色を順番に選択していった。最初と最後が白だったことは覚えているが、それ以外は全く記憶にない。当然不正解であった。 「あらぁ残念」 「正解したら何割引きだったんですか?」 「3割引きだよ」 特製ラーメンは350ポイント(およそ1円=1ポイントの計算)であり、九十九が言っていた通り非常に安い。 「………まぁ割引って聞くとやってみたくなりますけど、別にしなくても良かったですね」 「食べ終わったら手伝ってもらえるかなぁ?クレア君もいるけどこれから忙しくなるからさ」 「いいですよ?……クレアさんは何してるんですか?さっきから隅で作業してるみたいですけど」 「あぁ、あれね。SNSアカウントを作ったから投稿してもらっているんだよ、どうだい調子は……ってあれ?何してるの?」 クレアが開いていたのはSNSではなく、何かの編集ページであった。 「今サイト作ってんダ、あっちは文字数限られてるしもっと情報を入れるならこっちの方が向いてる」 「クレア君……!最初はやる気のなかった君がこんなに頑張ってくれて僕は嬉しいよ!」 「何でクレアさんは手伝っているんですか?」 「部室入ったらもうラーメン屋が出来上がってテ……入るなりリーダーが”さぁ開店準備だよクレア君!あとで報酬はきちんと払うから!”っテ」 「報酬って?」 「まかない」 「それだけですか?」 代金を支払った後、エプロンを着て厨房に入る。 「なんか妙に床滑りますね」 「油をよく使うラーメン屋はこんな感じだろう?」 異様なこだわりぶりである。 ある程度説明を受けているとお客が入ってきた。 「ここがラーメン古達ですか……どうも」 「らっしゃーっせー」 「……ぇー」 「い、いらっしゃいませー」 「コタツ席はしっかり用意してあるようですね。殊勝な心掛けです」 来客はコタツ部の緋鉢志乃であった。店内をある程度見渡してからコタツのある座敷席を占拠した。 「ごゆっくりー」 「すみません、注文いいですか」 能堂がおしぼりとお冷を置きに来るとすぐに注文してきた。 「早っ!」 「……私は外食選びで失敗したくないので事前に情報を仕入れる主義の人間です。ただ愚かに鵜呑みにするのではなく見える地雷を避ける程度ですが」 能堂がスマホから見せたのは先ほどクレアが編集していたサイトであった。メニューが全種類、360度見渡せるという謎機能と調理映像、店員のレビューも載っていて異常なほど充実している。 「味噌ラーメンのチャーハンセット、大盛で……あと食後にミルクプリンとコーヒーを」 「はい、かしこまりました」 注文が終わるとすぐに割引クイズの動画を起動し、近くにあった学園新聞を広げる。ここまでの流れが完全に常連のそれである。 「あの……動画見なくていいんですか?この後にクイズかなり難しいですよ、嫌らしい方向に」 「勿論その情報は折り込み済み……対策は完璧です」 能堂は疑問符を浮かべながら厨房に戻ると九十九に質問した。 「あのクイズってタオルの色だけなんですか?」 「いやぁ他にもエプロンのマークとか、最後のシーンの腕組みで前に出てるのはどっちの腕だ、とか色々あるよぉ。今日開けたばかりだからそんなすぐに分かるはずないんだけど……こっそり収録風景を見ていたとか」 「そんなまさか……あ」 能堂は緋鉢がスマホで見せてきた例のサイトを思い出した。あれはクレアが自分で開設したものであり中身の確認はさっきのやり取りを見るにろくに行われていないようだ。もしそこに答えのカンニングがあれば…… 能堂はそんなことを考えながら料理を運んだ。 「お待たせしました。味噌ラーメンの大盛と、チャーハンです」 「ありがとうございます」 ラーメンはボウルのように巨大な器に入っており、チャーハンも山の様に盛られている。緋鉢のような小柄な女性にはどう見ても入らないような量でおもわず能堂は声をかける。 「緋鉢さん、食べられますか?別に大食いチャレンジとかやってませんから無理しなくても……」 「お気遣い感謝しますが……侮らないでください、この異次元コタツの様に私の胃も無限です。それに今日はちょっと嫌なことがありまして、これはいわゆるやけ食いです。ではいただきます」 緋鉢はスマホで写真を撮った後、手を合わせて勢いよく食べ始めた。しかしスープは跳ねず、しっかりと30回噛んで飲み込んでおりその所作は礼儀正しく(ラーメンの食べ方に細かいマナーがあるかはさておき)あっという間に完食した。 「ふぅ……ごちそうさまです。味噌がそこまで濃厚でなく具材の野菜もラー油で風味をつけている程度のシンプルな味構成、癖がなく食べやすくもあり、だからこそ卓上の調味料やバターの味わいが染みて深みが出すことが出来る……ここがラーメン同好会でなく、コタツ同好会であることが惜しいです」 「それはどうも」 いつの間にか動画も終わっており、クイズ画面に移っている。 『動画内でラーメンといった回数は?』 動画の内容上、恐らく最難関の問題だろう。この問題だけ選択式ではなく入力式になっているのが余計に難易度を上げている。 「あれ九十九さんがやったんですか?」 「うん。簡単だって言うからとびっきり難しいのにしたのさ」 しかし緋鉢は悩む様子もなくすぐに入力し始めた。 「こんなの楽勝です」 「まさか!……聞くだけで分かる問題にしたからかなぁ」 「そういう問題ですかね」 入力し終わると正解音が鳴った。能堂と九十九は驚愕している。 「い、一体どうやったんですか?」 能堂が緋鉢に質問した。 「対策は完璧だと言ったじゃないですか……これです」 緋鉢は再びサイトを見せた。『裏技』と書かれたページには全てのクイズの答えが漏れなく記載されている。 「顧客の手を煩わせない割引をサイトに用意していること、SNSだけでは得られない情報による特別感の演出……素晴らしい心がけですね」 奥から九十九が飛んできた。 「ち、ちょっと僕にも見せてくれ……これは……!」 やはりサイトについて細かく把握していなかったようで、一つ一つの答えを確認している。開いた口が塞がらない所を見るに全て正解のようだった。 「では私はこれで。ごちそうさまでした」 「ありがとうございました~」 「ありがとうございました……クレア君!」 すぐに奥へ戻りクレアに問い詰める。 「何だヨ、どうせ商売っ気がないんだし割引なんかいくらしたっていいだロ」 「違うんだクレア君!僕はこの動画でお得に食べてほしいわけじゃない……元々安いしね、僕はこの動画でラーメンへの愛や情熱を感じてもらってより味を劇的に楽しんでもらいたかったんだ!背景にあるドラマを見てもらうからこそ、消費者と歴史を共有するからこそより味わい深く……これは一種の隠し味なんだよクレア君!」 「薄い歴史だなぁ……」 「でもその内容だってかなり盛ってるだロ」 動画内では原料にこだわり各地に赴いていたが実際に学園の外へ出る場合、外出許可証が必要であり事務局に申請を行ってから発行まで2週間かかる。申請書には期間と行先、内容と理由を書かねばならず『ラーメンの原材料を調達するため』というふざけた理由ではまず通らないはずだ。 「まぁそれは話を盛り上げるスパイスってことで……」 「やかましいワ」 「このラーメン食べれば十分伝わると思うんですが……」
─終わり─
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『夏コタツ・コタツ部非活動録』
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蝉の鳴き声が遠く響いていた。
クソ暑ちィ。低い、濁った声の少年が言った。乱雑な、蹴りつけるような足音が木霊する。 着いて来なければ良かったでしょう。澄んだ声の少女が返した。そのようなことは判りきっているのですから。 そこは四階だった。広い廊下で、窓は南向きではなく日こそ射していなかったが、それでも暑かった。薄雲を二筋だけ抱えた青空が見える。 「あぁ、寝過ぎで季節感など壊れていましたか。失敬」 片は中等部三年、コタツ部部員緋鉢志乃。短く揃えられた、柔らかく広がる、赤みがかった髪を殆ど揺らすことなく進む。大きな瞳で時折隣を流し見ては、連れ合いを見上げて軽く睨んだ。 「馬ァ鹿。起きてこんだけ暑けりゃァ夏に決まってんだろォが」 もう片はコタツ部部長。背中までざんばらに伸ばした黒髪を弄び、あちこちに視線を鷹揚に這わせながら、覚束ない足取りだ。志乃と目が合うと口元を歪ませた。 「いくら晴れてよォがこれァ夏以外ありえねェ。一発で解析してやったぜ」 「......普通は解析など必要ありませんが......」 「誤差だ誤差。許容ォ誤差」 「えぇ......まじですか......」 だんだんと目つきの色を倦厭から困惑に移し、踊り場に差し掛かって外した。少しだけ冷えた階段を降りる。 八月の校舎を、二人は歩いていた。
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「それで、何の御用事でしょうか。私は研究科の見学の関係ですが」
「へェ、奇遇だなァ。止路城ちゃんにちょっとなァ」 「そうですか」 全く面倒臭い。ただでさえあの地獄のような屋外を歩かなければなりませんのに、その上これまでついてくるとなると最早、体力の自信がなくなってくる。理由次第では追い返してやろうかとも考えたが、 「コタツの炉が死んじまってよォ」「成程」 存外に至極真っ当だった。ただちょっかいを掛けにいくわけではないとあれば、流石に邪魔は憚られる。 「お前ェが直してくれてもいィんだが」 「構いませんよ。自爆装置はどこに付けましょうか?」 「おォ外付けだと一番嬉しいなァ」 「嫌ですよ面倒臭い」 「甲斐性とかねェの?」 「ぶっ飛ばしますよ」 一階、昇降口近くは一段と熱気がひどく、未だ陰だと言いましょうに、青空に砂地までぎらついて、くらりと目が侵される。鼻から吸った空気は湿気ていて、鼻腔をつんと刺激し奥にじんわり張り付くような錯覚をもたらした。じゃわじゃわじーじー、蝉の鳴き声が近まり、あぁ、夏とはこんなにも煩わしかったでしょうか。靴を履き替えた。開け放しのままの鉄の敷居を跨いだ。 「......」 目当ての研究科棟は、校庭の向こうだった。石畳の陰から日向に出でて校庭に踏み入り、灰色であることを除けば砂漠と呼んで差し支えのない熱流渦巻く校庭を延々と縦断してまた、石畳に上がってわざわざ校舎を迂回し昇降口まで辿り着かねばならないのである。もっと早い朝か夕暮れであるとか、寮側の林道から歩くのであればまだ耐えられはしたでしょうが、こうなると億劫極まりない。 どうしたものかと志乃が憂いていると、同じように嫌そうにグラウンドを眺める部長が言った。 「オイ志乃、お前ェ昼飯は?」 「は? 冬美さんと二人で頂きますが」 「そォかまだか。っし、ちょっと手ェ寄越せ」 「汚れるのですが」 「洗え」 手を引っ込めて掌を躱した瞬間、部長の肘がぐいと伸びて襟首を掴まれる。もう一体、なんなのですかと聞こうとして、血の気が引いた。左手を空間に翳し、指を立てる部長。そう言えば、あれは嫌でした。ぞくりと、はらわたが冷える。離せと部長の腕を押すが、がっちりと握られたてはぴくりともしない。しない。しない。部長が、重い引き戸を開けるように、翳した手をぐいと引っ張る。にたりと笑む部長のいやらしい口元がありありと─── 直後、志乃の眼前に巨大な歪曲が発生した。上空25mから地中18mまでを端点に、指を引っ掛けられた宇宙空間がカーテンの様に開かれたのだ。現時点の空間の流動方向は地面に対しては水平約82°奥行き約40°で、歪曲は上空端点へ向かって斜めに伸びていた。歪曲の内側では領域内の景色が黒く波打って混じりあい、薄暗がりの中で光の乱反射が瞬いている。引く手を遂に振り解き損ねた志乃は、極端に空間の濃度が低下した領域内に飲み込まれ、体質量に沿って切り抜かれた独立空間で、重力の乱高下に振り回されながら、二秒間の加減速を挟んでグラウンドを越えるように瞬間的に移動した。
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浮遊感があらゆる方向にかかり、凪いだかと思えば全身に衝撃が加わった。黄色と水色と白。熱い。砂の匂い。頭と鼻と膝が痛み、回転が止まらない。砂地と、空と、日差しを浴びる校舎の一棟。ふわふわと腹の中身が浮く。顔をぶつけたのか。回転しているのは恐らく、ぶつかる感覚のなさからして平行感覚。熱い地面に転がっている。掌をつける。上下はどちら、耳鳴りがひどい、喉の奥が引き絞られ───
「......っ......ひゅっ......けほっ、げぇっ......ぇ゛っ」 「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」 「し......っ、このっ、死に晒し、て、くださ......ぅ゛、っ、ぇ゛え゛え゛っ」 「馬鹿! あはっ、ばァか! あァーっはっはっはっはっは!」 大口を開けて笑いながら、悠然と石段に腰を下ろす。天を仰いでひとしきり声を鳴らすと、彼は研究棟のガラス戸を女生徒が出てくるのを見やった。焦げ茶の髪を適当に縛って背中に流した、背の高い、隈を作った目を伏した少女。 「よォ止路城ちゃん」 「いやいやいやお久しぶりっす部長。結局二年なれたんすか?」 「あァ一応な。出席はまァ駄目だったが、テストすっぽかしてなァ。実技もギリでしくった」 「じゃあ駄目じゃん!」問答をしながらも、部長の前を素通りする。 「うるせェ裏技なんざ幾らでもあるわ」 「コワ~......で何で志乃っちはンなとこでのたうち回ってんの?」 「そ、そこの屑に聞いて下さい奈々さ......っ」 「やだよ。あのクズとまともに会話成立したことないもん」 べー、と笑いながら舌を出す部長を尻目に、奈々はしゃがんで志乃の背中をさすった。 指の長い手の平に撫でられる、優しく少しくすぐったい感覚。段々と摩擦で温まる背中に意識を向けていると、徐々に平行が揺り戻り、絶え間なく連続していた胃の痙攣と痛みが途切れ始める。 志乃はまた幾度か背中を震わせると、口の中身を捨てる。息を整えて内臓を安定させ、這い蹲ったまま、手や、袖口、スカートが砂以外で汚れていないことを確認すると起き上がり、頭を垂れて一礼した。 「ありがとうございます。治まりました。お見苦しいところを失礼」 「だいじょーぶ? この棟保健室あっけど」 「いえ、それには及びません」 「そう? 水道は中だよ」 部長を捨て置き奈々さんに連れられて入った研究棟には実のところ、すっかり見慣れていた。研究科の見学に毎日のように来ていた上に、先輩方に目をつけられて何故か天体望遠鏡の観測記録の計測問題を解かされたり加速器の実験仮説を立てさせられたりなんだりかんだりと、よく分からない事柄に巻き込まれていた。辟易しつつもまぁ、これはこれで楽しく、、有難くも良い模擬体験にもなっており、コタツの中ほどではなくとも中々居心地好く入り浸らせてもらっている。 棟内は程よい涼しさで、薬品の匂いが薄く漂っている。白く丸みを帯びた内装や、すれ違う白衣の教員や生徒も相まって病院のような印象だった。とは言え学校よろしく、流し場は他の校舎よりも小さいものではありますが備え付けられていた。夏場に似合わず鋭く凍てた冷水を手に掬い、口に含んで、漱ぐ。 「あー、志乃っちは空間酔いするタイプだっけか」 「はい。全く、車も船も問題ありましょうに......まぁこれに関しては、しないあなたが珍しいとも」 「っかなー? 車と船とついでに電車でも死ぬ私としちゃぁいいなーって感じ。ワープもドライブもあんまし機会ねーかんね。こっちじゃ薬系だし」 「おや、それは大変ですね」 「んまー酔い止め飲みゃマシはマシよ」 「それはよろしいことで......むぅ、アレのは事前に知りようがありませんからね。物理系に行こうとも思っていますし、ともすればその方が良かったかも知れません」 「へへへへやらねー」「薄情です」 暫く奈々さんときゃいきゃいと戯れ、さてアレはもう放ってさっさと用を済ませてしまおうかと思い至ったまさにそのとき、黒い長髪が再び現れる。 「はぁ、全く......思わぬ仕事を増やしてくれて感謝しますよ溝滓。校庭を横断するほうがまだ快適でしたでしょうに」 「あァ、石畳ごと抉っちまったけど大丈ォ夫だよな?」 「......え? 片付けてきて下さったので......?」 「いやァ公衆衛生は大事だろ。オノレを何だと思ってんだお前ェは」 意外や意外......まさかそれこそ、部長本人にそのような甲斐性がありましたとは...... 「ど、どこに捨てたんですか......いえこの聞き方もおかしいですが......」 すると部長はにやりと笑って腕をもたげ、幽鬼のように地面を指差した。 「1000℃のマントルで死なねェ細菌がいたら、文明ってどォなるんだろォな」 けらけらと嗤う部長には、素直に謝意を述べるべきか。いえしかし、元凶たるはこの野郎であり、とはいえあの暑苦しい外に余計な仕事をしに出なくて良いのはありがたく、いいやそもそも笑い声がうざったい...... 志乃は、困惑から疑惑、不審、稀有怪訝、逡巡と表情を代え、幾ばくかの躊躇の後、言った。 「人類の害虫が仰ると説得力がまるで違いますね。どうも」 「えー志乃っち? 流石にねぇ本人を前にねぇ......」と少し焦る奈々を置き去りに、かかかかかっ、と今度は磊落に笑う。 「緋鉢の捨て犬ちゃんが言うと共感力がまるで違............これはダメか」「ふぅむ、私にしてではじゃぶですね。御家に未練でもありそうな方にどうぞ」「出禁だっけ? 家出だっけ?」「まぁどちらも」「えー? あれー??」「クソ、んじゃ一番効きそうなのァお前ェん家の手続きした奴か」「父様ですか? ......そういえば何時だかに弔辞が着ていたような」「マジ? うゥん、知らねェ墓石とお喋りする趣味は流石にねェなァ」「おーうあたいはもうお主らが分かんねーよぅ......」 奈々さんが急落した会話の流れに戸惑い、受付の端にあった椅子にがたんと腰掛けてしまった。足を広げ両手を懐に突っ込んで、完全に背いてしまった頭を、仕方が無いのでぎゅうと胸に抱き入れてみる。 「ふふふふふ、ごめんなさいごめんなさい。拗ねないで下さい、ね?」 「うぇー......いや拗ねてるってかさマジなんなんおめーら。仲悪いんじゃなかったん?」 「仲悪くなどありませんよ。部長は私を弄びたくて、私は部長をくそ忌々しく思っているだけです」 「最悪じゃん! 犬猿の仲じゃん!」 「はい。ふふ、そうですね、雉を交えて鬼退治を嗜む仲です」 「知らねー!」 「それよりも。あなたまた痩せましたね? もういっそ片方でいいので睡眠か食事はちゃんと摂りなさい」「だってぇ~、楽しくてんな暇ないもーん。志乃っちも分かるだろ~」「それは勿論。とは言え先立つもの無しには何も為し得ませんよ」「んえー......いいじゃん。痩せてる方がモテんっしょ~」「あばらの浮いた胸では誘惑も何もありませんが......」「つか志乃っち人のこと言えんのかよ~」「私は成長の兆しが無いだけです。これでもそれなりに食べてよく寝ていますよ」
──────
無事手続きを終えた志乃が、何故かついて回ってくっちゃべる二人に、どう邪魔を退けて奈々さんを昼餉に誘いましょうかなどと画策していた時のことだった。
「おや? 志乃くんに奈々くんに......久しぶりだねぇ、六条河原くん。二年生にはなれたのかい?」 「なれたっつってんだろォが! 今日三回目だぞこの話」 「えぇ......すまないねぇ......」 「いやははは、こんちゃっす、九十九パイセン」 「どうもこんにちは。こちらにいらっしゃるのは珍しいですね、同好会頭目ともあろうお人が」 「いやぁ、用事が出来たんだよ。リーダー業務も楽ではないねぇ」 「おっと、それは失礼。お疲れ様です」 語気の強さと裏腹に六条河原は楽しげに口元を歪め、手ごろにあった消火栓に背を預けた。 「ったくよォ......そんなんだから蝶野ちゃんが猪股クン取られちまうんだよ」 「何の話だい......」 「本当ですよ全く。そんなのだから若が倒錯して戦場に興奮するようになってしまうのですよ」 「うん。生来の性癖だねぇ......」 「え~~と、そんなだからですね、えーそのあの......志乃っちの空間酔いが......」 「いいんだよぉ無理をしなくて......」 口元に手をやり、九十九は思案を巡らせる。クレアさん関係でしょうか? と訊ねる志乃にかぶりを振って、ちらりと面々を見やった。眼鏡を直す。引きこもりの六条河原に、口の軽くはない志乃に、所属から別口で事情を知ってもおかしくはない奈々。そう大きな秘密でもないことから、話してしまっても大丈夫かと判断が傾く。 「お盆に里帰りをするんだけどね。それにあたって、ちょっと頼まれごとというか......長期外出許可に、異能血清の所持を条件づける校則が検討されているって話は知っているかな?」 「ぜェーんぜん」「知らんすね~」「小耳には」 「うん。まぁ、まだ立ち上げの段階だよ。そういった薬品の所持の全面的な義務化は結構前から議論されてたみたいなんだけど、抗因子薬じゃ効き目が強すぎるし、鎮静薬じゃ割高だしで難航してたみたいでね」 「あ~ありゃダメっす、頭痛くなって仕方ねぇ。トリルストロニンも個体差激しいし延脳剤(延性脳架剤)は漏れるとヤバいすもんね。安いし確かに血清は良さげっす」 「そんな話も聞いたねぇ。詳しい部分は専門外だけど」「ふへへへへ~」「とにかくそういうわけなんだけど、実際制定しようと思うと所感のサンプルが足りないみたいでねぇ。ちょっと縁があってね、僕がその一人に選ばれるかも、というわけだよ」 「あァ、お前ェのコレな」 「少しイラっとくるねぇそれ......」 「ふむ、それは責任重大ではありませんか」 「そうだねぇ。僕に未来の生徒のお盆がかかってるよ」 柔らかく笑んで九十九が胸を張る。しかし、茶化して、水を挿すように 「んで? ジッサイ何割くらいボツりそうなんだよ」と核心を問うた。 「?」 「んー......六......五分五分と言っておこうかなぁ」 「はァい太っ腹ァ」 「見切り発車~......」 「あぁ......まぁ、成程......」笑んだまま張りを崩す九十九に得心する。「そうなれば、返却でしょうか?」 「そうなるねぇ。別に、ちょっとした手間が無駄になるだけだけども」 「無駄に注射イッパツ打たれんのぁちょっとしたとは言わねっす」と奈々が鬱な相槌を打つ。 「あれェ~? 止ィ路城ちゃんよォ」 「おや、おや? おやおやおやおや。ほう」 「え......? んですか......何かあんのか~......」 「いえ? 別に。ねぇ」「ねェ」「ただ単に可愛らしいなと、ねぇ?」「なァ」 「君らはまたそういう時だけ息が合って......」 「呉越同舟ですね」 「泳げねェもんなお前ェ」 「......薄汚い烏の行水に言われる筋合いはありませんが」 唐突に背後から撃たれ視線を冷たくする志乃を無視し、六条河原は「まァそういうこと」と、両の人指し指を奈々と九十九にそれぞれ向けた。 「うん。さっぱりだねぇ?」 「マジに聞くだけ無駄っす」 はん、と喉を鳴らし、片手を下ろす。 九十九に指を指したまま手首を回して、指先で弧を描く。目線を引っ込むと、手先を立てた。 「九十九。パイ、チーズの」 「あぁ、うん。はい」 「あとアレ。黄色の。あっちの」 「多分いつものじゃないけどいいかな?」 「あァ~、まァうん」 「了解したよ」 それから、と言って、一度話を止め、おや、と口を差しこもうとする志乃の背後に移動した。聞かれると困るわけではないが、うるさい合いの手は弾いておくに限る。六条河原の体が平面につぶれるように歪み、三歩分ほど先から表出した。 「そォいやお前ェ昼飯まだっつってたな」 「......止め───」 右肩を掴み、横に押す。志乃の全身の像がぶれ、残像だけを残して跡形もなく消えた。行く先の座標は大まかに購買部の辺りを狙っており、原理上衝突も起こり得ないが、飛ばされた本人にしてみればたまったものではない。 「ばいばァ~い。あひゃひゃひゃひゃひゃ!」 「六条河原くん......だから人にそれはだね......はぁ」 「オノレは酔わねェ」 「外道~~......」
──────
「それは大変でしたのね......」
「えぇ。全くですよ、あの鬼畜外道」 つんと唇を尖らせ、不快感を顕にする志乃さん。先程、待ち合わせの購買の前で、廊下の隅に転がっていた。「も、出るものがありましょうて......」と呻きながら口元を抑えどこぞ遠くを睨む彼女には当惑したし焦らされたが、何度か息を大きく吸って吐いて止めるのを繰り返すと、けろりと立ち上がって、なんだか狐につままれたような気分にさせられた。 「......ま、まぁ部長が大雑把なのは今に始まったことではなくってよ。志乃さんも......えぇと......今回は特に運が悪かったと考えてみては?」 「ほう。台風か地震でも相手にしているかのような言い草ですね?」 「......正直に申しますと否定できませんわ」 「ふふん。冬美さんも分かってきましたねぇ」 「もうっ。意地悪よ」 「ふふっ、冗談ですよ......大体、アレはもっと獰悪な何某かでありましょうて」 表情を緩め、どことなく諦念の混じったような目でため息。志乃さんと部長の不仲の危惧はやはり杞憂ではなかったのか。そうなら、摩擦を減らすにはどうするべきか。確かめる手段や接触の機会を緩和させる方法には幾らか心当たりがあるが、単にそれだけが善手とも違うと考えている。 最近何かと慕ってくれている(と思いたい。この子は少しズレていた)後輩のためにも、もっと観察が必要だ。人と人との関わりは油圧や歯車のように単一的な機構ではない。と改めて肝に銘じる。 「おや......おや......失礼をば。ふふ、ご心配有難く存じますが、元より荒いものですよ」 こちらの思案を見通すように覗き込んでくる彼女に、少し苛立った。感情を顔に覗かせてみるも、どこ吹く風とふふんとまた笑んで、ごめんなさいと躱される。飄々と言えば聞こえはいいけれど、さも息をするかのように人を転がそうとする彼女の態度には、未だ好感を持てないでいた。 ともすれば、彼女自身をも傷つけかねない───いいえ、彼女自身も事実手痛い目には遭っている。それでも懲りないあたりは、性か。耽ってしまったあてくしをよそに、志乃さんはメニューの品定めを始めていた。 「むぅ......休み中はうどんはやっていませんか......では日替わり弁当にしましょう。それとサンドイッチと、サラダチキンと、ふふ、惣菜はどれにしましょうか」 ほら、ほら、早く選びましょうて、と急く志乃さんに、「頑健ですわね......」とつい呟いた。 |