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やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 - (2015/05/19 (火) 20:32:46) の編集履歴(バックアップ)


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やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks


島村卯月が目を覚ましたとき、まず目に入ったのは薄汚れたシーツだった。
咄嗟に体を反転させると枕……ではなくバッグ、そして見知らぬ天井が視界に入る。
決して寝心地がいいとは言えないが、どうやらベッドでうつ伏せに寝ていたらしい。
何故自分がこんなところで寝ているのか、すぐに思い出せなかった。
体を半分起こして周りの様子を窺う。
周囲は薄暗く、部屋の隅から唯一の光点と、聞いた事のない音が聞こえた。
ゴリ、ゴリ、ゴリ……重く鈍く響くその音源に目を向ければ、iPadのような機械から出た光に浮かぶシルエットが一つ。
その影は、卯月が起きたのに気付いたのかゆっくりと振り返った。

「ウヅキちゃん!起きたんですね」

「あ……」

晴れやかな笑顔を見て、思い出す。彼女はセリュー・ユビキタス。
その名を思い出すと同時に、気を失う前の光景が卯月の脳裏に鮮明に蘇った。
殺し合いに巻き込まれたこと。笑顔の輝く二人の女性に出会ったこと。

そして、この場には自分を含めた笑顔の似合う三人が揃っていた。


「丁度作業が終わったところです。"設置"が完了したらさっそくイェーガーズ本部に向かいましょう!」

森の中でたまたま見つけた小屋で、いつまでもじっとしているわけにはいきませんからね。
卯月の目はそう語るセリューの顔よりも、その手元に注視されていた。
右手には包丁。血に塗れて、逆手に持たれているそれは、μ'sのスクールアイドル、南ことりを思い出させる。
左手は何かを抑えている。セリューが身をよじらせてその全容が見えたとき、それは―――。

南ことりの死を、島村卯月に再認識させた。


それは、南ことりの頭部だった。力任せに胴体から斬り離され、造形を崩したその表情は歪んだ笑顔にも見える。
セリューの表情は爽やか。自分の望むことを、正しいと信じて行った者だけが出来る一点の曇りもない笑顔だった。
それら正反対の笑顔はしかし、卯月の心を占める"笑顔"の概念とは全く異なるという点で共通していた。
表情を凍りつかせた卯月を案じ、セリューがはっと手に口をやり、何かを察したように笑顔を曇らせた。

「あっ……私としたことが、民の方に見苦しい工程を見せてしまいましたね。ただ、非常時なので辛抱していただけると」

「いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「ど、どうしたんです!?騒ぐと危険……」

恐怖の悲鳴を上げる卯月を制止しようとして、セリューの手からことりの首が落ちる。
ベッドの傍まで転がって卯月を見上げるそれは、彼女の意識を再び奪うのに十分なショックを与えた。
失神した卯月を見て、セリューもまたショックを受けていた。
この反応は心外だ。この状況を打開するには自分たちの行動を縛る首輪の入手と解析、そして解除は必須。
自分のように正義に燃え、この殺し合いを打倒する為に行動するものならば誰もがそう考えるはず。
悪の首を落とし、そこから必要な物を得る手並みは喝采されてもいいくらいだろう。
彼女は民の中でもかなり弱い部類に入る人のようだ。それを、最初に失神した時点で気付いて配慮すべきだった。
しゅんと肩を落としてそこを考慮できなかった自分の不明を恥じるセリューだったが、それも一時の物。

「ウヅキちゃんは必ず私が守る!悪を徹底的に絶滅させ、民に繁栄と安寧をもたらす事こそが正義!」

決意を新たに、セリューはことりの首を小屋にあった麻袋に詰めて持ち上げ、卯月を背負う。
用済みになった悪の首を晒し、他の悪に対する抑止と民の精神安定の為に利用するのだ。
正義は必ず成される、悪は必ず滅ぶという事を万人に示さなければならない。
やはり人通りの多い道に晒すべきだろうと、セリューは地図を見ながら歩き出した。




どれだけ走っただろう。
強姦魔と化け物の襲撃から必死で逃れた由比ヶ浜結衣は、とうとう膝をついた。
街灯もない、月明かりしかない道路をこれほど走るなど昨日までならばありえない行動といえた。
結衣は激しく息を切らせながら、今になってようやく自分が失禁していることに気付く。
尿意を感じた覚えもなく、粗相をしたという認識すらなく小便を垂れ流したという事実。
普通のJKである彼女にとっては、笑い事ではなく自身の正気すら疑うに足るものだった。
だがこれは夢や幻覚ではない。浦上という男を殺した感触は、疑いなく少女の手に残されていた。

「痛かったのかな……」

首を切り裂かれ、驚愕の表情で死んでいった浦上の顔を思い出す。
他人の痛みや辛さに人一倍敏感な彼女である、自分があの惨状を生み出したと考えただけで嗚咽を抑えられない。
自分をレイプして殺そうとした相手ではあっても、その末期のもがき苦しむ姿はあまりに痛々しかった。
その死への実感があったからこそ冷静に対応でき、キリトという怪物からなんとか逃げる事が出来たのだ。
しかし、一時的な心の変転は長時間は持続しない。
泥の中にいるような肉体の疲労と、パニックと現実逃避が混在する精神は、彼女を眠りに誘おうとしていた。
あのキリトという殺人鬼が追跡して来ているかもしれないという恐怖、他の殺人鬼に見つかるかもしれないという恐怖。
少女の心を苛む恐怖こそが、その眠気に対する最大の特効薬として作用していたのは皮肉といえよう。

「ヒッキー……ゆきのん……」

奉仕部の仲間たちを思い浮かべ、目尻に涙を浮かべる結衣。
このような状態であの二人と再会して、自分はいつものように振舞えるのだろうか。


「……?」

涙に歪む視界に、人影が映る。友人を想うがあまりの幻覚かと思えるほど、今の結衣には余裕がなかった。
おぼつかない手振りでショットガンを取り出す。人影もこちらに気付いたようで、荷物を置いてこちらに手を振る。
薄暗くてよくは見えないが、人間を背負って移動していたらしい。ディバックを枕にして寝かせている。
普段の結衣ならばケガをした者を庇っていたのだろうか、と心を許しかけていただろうが、油断なく銃を構える。
両手を上げながら近付いてくるのも、戦意がないサインではなく、攻撃への準備とすら結衣には思えた。
声をかけられる距離まで近付き、人影の全体像が見えた。
まったく緊張のない、屈託ない笑みを浮かべた女の顔には見覚えがある。

「ややっ!?大丈夫ですか?顔色が悪いで……」

「ひっ……人殺しぃぃぃぃぃぃ!!!!」

ショットガンの引鉄を引く。
キリトという悪魔の腕を吹き飛ばした時と同じく、しっかりと狙いをつけて撃った……と彼女は思っていたが、
時間を置き、さらに肉体の疲労もあった為か、震える指先は引鉄から滑り落ちる。
しかし射撃の失敗よりも、女……殺人者リストに乗っていたセリュー・ユビキタスの豹変に結衣は戦慄した。
セリューの笑顔は一瞬で掻き消え、悪魔のような形相で駆け出す。
結衣が引鉄に再び指をかけるより早く、ショットガンは蹴り上げられた。

「脅威を排除」

「あっ!」

一転して冷たい声で呟きながら、結衣の髪を掴んで地面に引き倒し、結衣を拘束するセリュー。
落下してきたショットガンを片手で掴み、保持する様子が結衣にも背中越しに感じられた。
ただ殺しにきた浦上とはまるで違う、洗練された動きだとはっきり分かる。
恐怖が頂点に達し、呼吸すら満足に出来ない結衣にセリューが冷徹な尋問を開始する。
答えなければ、取り上げられたショットガンの弾丸は結衣の頭を容赦なく貫くだろう。
それを本能的に察知した結衣ができることは、正直に返答することだけだった。


「何故こちらに武器を向けた?3秒以内に返答しろ」

「こっ怖かったからです!本当です、本当……」

「『人殺し』とはどういうつもりでの発言だ?私の顔を知っていたのか?」

「め……名簿で」

「名簿には顔写真は載っていない」

「別!別の……別の名簿があるんです!」

二つあるディバックの片方から、示された名簿を取り出して検分するセリュー。
ナイトレイド・アカメとその仲間と断定されたタツミ、イェーガーズの隊員たちの名は全て載っている。
島村卯月、そして卯月と同じ職業と名乗っていた南ことり及びその数名の仲間の名前は一様に載っていない。
ある程度の信憑性はある資料のようだとセリューには思えた。僅かに語気を緩めて、セリューの尋問は続く。


「ふぅーむふむ、なるほどなるほど……なるほどー……しかしあなた、こんな資料を根拠に人に銃を向けたと?」

「だって!それに載ってた人が私を殺そうとして……」

「銃に発砲した形跡がありますが、その相手を殺したんですか?」

「……」

「答えろ」

結衣はせきを切ったように、その思いを吐き出した。
殺すつもりはなかった、仕方なかった……弱音と弁解、不安定な精神をむき出しにしたその吐露は、
要点を掴みづらい稚拙なものであったが、セリューは自分が聞きたい部分だけを聴き取っていた。


「よく分かりました。しかしこの資料には貴女の名前は載っていませんね」

「!わっわたしは……人殺しなんか……じゃ……」

「え?殺せなかったのはそのキリトという人の事ではないんですか」

セリューは殺害歴名簿を自分に支給されたデバイスと見比べながら答える。
画面に触れただけでその表示が変化する不思議な道具があるのだから、紙媒体でも同じ事が起こるのではないか。
ならば、この状況で殺人を犯す悪を判別可能で、イェーガーズの行動を予測もできたのだが、と落胆するセリュー。
嘆息しながら、結衣の拘束を解いて正面に回る。
急に解放されて目を白黒させる結衣の脳天に、セリューの拳が振り下ろされた。ジャパニーズお仕置き作法。
拳骨であった。

「痛い!!」

「私の心はもっと痛かったんですよ……!貴女は私とその目つきが悪い殺人鬼を一緒くたにしたんですか!?」

「だ、だって」

「しかし、同時に私は嬉しくもあります」

「え?」

「自分が悪とみなした対象は一切の容赦をせず殺す。貴女は正義への第一歩を踏み出したのです!」

目を輝かせるセリュー。一方の結衣は賞賛されているにも関わらずその表情を硬直させた。
殺人を告白した自分に対して、告白する以前より親しげに接してくる相手。
今までの彼女の常識では図れない相手を前に、恐怖を困惑が上回る。
故に質問が口をついて出ることを止められなかった。


「じゃあ……えっとセリューさんは、人殺しじゃ……」

「人を殺した経験はあります。貴女と同じように」

「ひっ」

「私は悪を裁いた事に誇りを持っています!奴らは何の罪もない私の恩人や家族を殺した外道ォ!
 放置しておけば無辜の民衆にもその魔の手は及ぶ、だから先手必勝!きっと見敵必殺!」

ヒートアップしていくセリューの言葉は、放心気味の結衣に溶けるように染み込む。
そうだ、あのレイプ魔は自分が殺さなくては彩加や雪乃を陵辱の果てに殺し、八幡の命も奪っていたかもしれない。
自分のやったことは決して心を痛めることではなく、むしろ正しい……セリューの言う正義の行いだった。
そう定義する事は、結衣の精神を僅かに安定させる。
しかしその安定も、次のセリューの行動で大きく揺さぶられることになった。

「ですけど、すぐには他人を信じられない気持ちも分かります。これを」

「……?」

「私の言葉を聞き、私の目を見て私を信じられないならその銃で私を撃ってください。
 貴女の正義がそれを選んでも、私の正義は銃弾を私に届かせはしない!さあ!!」

真顔で言うセリューに、ショットガンを渡された結衣は相手の言葉が単なる綺麗事やお為ごかしでないと悟る。
少なくとも彼女は、心底から自分を信じている。内罰的で自己否定が強い八幡を誰よりも観察してきた結衣である。
全く真逆の精神性を持つセリューの本質を理解すると同時に、その危険性に身震いした。
敵対するものは排除する、という傾向を持つ人間を多く知っていたが、セリューのそれは常軌を逸している。
だが極限状況に置かれて心の拠り所を無意識に求めていた結衣には、危うくも頼もしく感じられたのは責められない。
ショットガンを渡されながらも、銃口を向けることさえしない結衣を見て、セリューは静かに微笑んだ。
そして銃に優しく触れて預かり、結衣の手を両手で包み込んで言った。

「貴女が私を信じてくれるなら……私と一緒に戦いましょう。悪を滅ぼす為に!」

「は……はい」

「ありがとうございます!では私はその浦上という悪の死体を検分してきます!」

数分前までは殺人鬼に見えたセリューは、今や結衣にとってナイトかエンジェル……にはならなかった。
心を許せる相手に出会えたことは嬉しいが、あまりに自分の常識と違いすぎて。
奉仕部の仲間達の死を漠然と思い浮かべるだけでは、まだ彼女の正義にはついていけそうもない。
ウヅキさんを見ていてくださいね、と言うだけ言って駆け出すセリューの背中に、手を伸ばすことしかできなかった。

「ヒッキー……助け……」

助けて欲しいのか。助けてあげたいのか。
いまだ、彼女は混迷の中に居た。




「よかった……ガハマちゃんが正義で」

帰り道、危うく忘れるところだったショットガンの点検を行う。
銃口の奥に詰めていた小石を排除し、丁寧に掃除する。
このまま使用していれば、確実に暴発し持ち手に致死性の損傷を与えていただろう。

浦上の死体の検分結果。
衣類を剥いで体を調べたところ、連続婦女暴行犯に特有の多種多様の爪による傷痕が見受けられた。
さらに懐から肉厚のナイフを発見。結衣が悪意から浦上を殺して荷物を奪ったのならば武器は見逃さまい。
悪・南ことりから奪った包丁で浦上の首を落とした際、切れ味の鈍りを感じた為ナイフを取得し包丁は破棄。
首輪は予備として保管し、ベンチを加工して即席の晒首台を作成し強姦魔の首を近場の道路脇に設置。
『イェーガーズにより正義執行!』と走り書きした紙を貼り付け、これを見て安心する善良な人間の笑顔を想う。
それだけで、セリューの全身に力が漲った。悪を殺すことで他者に感謝される。これほど嬉しい事はない。

南ことりの首を浦上の首の横に並べるか思案したが、やめておいた。
あの殺人者名簿から察するに、セリューが抱いていた疑念は濡れ衣だったのかもしれない。
μ'sとやらが卯月の同業者ではなくナイトレイドと同じ犯罪者集団ではないか?という疑念。
躊躇なく自分を殺そうとした南ことりという巨悪。
卯月への印象と全く異なるあの悪党が同じアイドルという職業に就いているとは信じがたい、とセリューは思った。
ならば、その仲間も同じ悪だという推測は決して無理筋ではなかった。
次にμ'sと遭遇したらエスデスに倣って拷問の一つでも交えて確かめようと思っていたのだが、その必要もなさそうだ。

明確な証拠がない限り、南ことりだけが悪に染まる素質を持ち合わせており、あのような凶行に走ったと考える。
セリューは基本的には、そういう人間であった。決め付けることはせず、証拠を足で集めるマメさがある。
南ことりの首を晒す事は、疑念が間違っていればμ'sの人間に不要な動揺を与えてしまう恐れがある。保留だ。
それよりなにより、セリューは結衣の証言に嘘がなかったことを確信し、笑みを抑え切れなかった。

「人を見る目には自信があるので、全然心配はしてませんでしたが本当に喜ばしいです!これぞ性善説の証明です!」

このような最悪の状況下でも、正義の芽は変わらず生まれていく。
悪は滅び、正義は栄える。いや、悪を滅ぼし、正義が勝鬨を上げるのだ。
セリューの心の充実は彼女の脚力を底上げし、行き道よりも早く道程を終える結果を生む。
緊張しながら周囲を警戒する結衣に手を振りながら歩み寄り、セリューは全幅の信頼を込めて、ショットガンを返却した。

「さあ!いざ、イェーガーズ本部!夜明けまでには到着です!」


【D-4/道路/一日目/黎明】

【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、不明支給品0~4(確認済み)、首輪×2、南ことりの頭部
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
1:悪を全て殺す。
2:由比ヶ浜結衣と共に島村卯月を安全な場所に移動させるためイェーガーズ本部を目指す。
3:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:μ'sメンバーに警戒。

[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
  使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。

【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:気絶中、悲しみ、死に対する恐怖、セリューに対する恐怖
[装備]:
[道具]:ディバック、基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
1:気絶中。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。

【由比ヶ浜結衣@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(中)、上半身が嘔吐、下半身が失禁で酷く汚れている。
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、フォトンソード@ソードアート・オンライン
     ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿
[思考]
基本:死にたくない。
1:比企谷八幡と雪ノ下雪乃に会いたい。
2:セリューと行動を共にする。
3:悪い人なら殺してもいい……?


[備考]
※D-5道沿いに浦上@寄生獣 セイの格率 の首が晒されています(イェーガーズにより正義執行!の貼り紙付き)


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001:正義の名は此処に セリュー・ユビキタス
001:正義の名は此処に 島村卯月
018:ガールズ ドント クライ―殺しのリスト― 由比ヶ浜結衣