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進撃のパラサイト ◆rZaHwmWD7k
―――欲しい物。空腹を満たす餌。
―――渇望する物。純粋なる勝利。
▽
あの始まりの惨劇から数時間後。
二度の闘いを経た後藤に訪れたのは静の時間。
大地に胡坐をかき、つかの間の休息を取る。
その手にあるのは彼の支給品である大ぶりの鍋。
仄かに湯気が漂うその中を埋め尽くすようにカレイの煮つけがぎゅうぎゅうに詰められていた。
「中々だな」
相変わらずの無表情で一口食べ、短い感想を漏らす。
主食を取りたい所だったが“つなぎ”としてはこれも悪くないだろう。
本来ならば鍋ごと一口で終わる食事だが、あえてゆっくりと食べこれまでの闘いに想いを馳せる
電撃使いの男。光線銃を撃ってきた女。
奇怪な人形を使う男。
空条承太郎。
弓矢を突然取り出して見せたピンク髪の女。
両者共、
泉新一の様に寄生生物を宿している訳でもない生身の人間だが
その身に宿した異能を持ってして自分を退けて見せた。
否、空条承太郎に至っては自分を奈落へと突き落とし殺しかけたと言っても過言では無い。
あの電撃を扱う男に関してもそうだ。
闘い自体は終始自分が優勢だったが仮に初撃でワイヤーを巻きつけられ、電流を受ければどうなっていただろうか。
いくら四肢に宿る寄生生物が体表をショットガンの弾丸でもビクともしない程プロテクトしていると言っても、人間の物を流用している内臓や消化器官に直接電撃を流されれば結果は火を見るより明らか、敗北していただろう。
実質的にはかなり綱渡りの闘いだった―――
と、そこまで思考が往きつくと電撃のなどの他にも自分を殺し得る能力があるのではないかと気付く。
例えば、電流と同じく内臓や消化器官に直接致命傷を与える毒を伴った攻撃。
例えば、寄生生物の体の操縦及び統制を乱す炎を伴った攻撃。
電撃使いの男に空条承太郎、突如無手から弓矢で攻撃してきたピンク髪の女。
これらの存在を鑑みれば毒や炎を使う異能者がいてもなんら不思議ではない。
「手強いな。一筋縄ではいかなそうだ」
もはや、認めざるを得ない。
此処にいる人間たちはただ自分に“ちらかされる”餌などではなく、
この身を滅ぼし得る明確な“敵”なのだと。
ならば自分も工夫をもって殺し合いに臨もう。
場合によっては奇襲や擬態、肉の盾の使用も検討に入れるべきか。
寄生生物の強みはトリッキーな戦闘方法の多彩さにある
「……何事も工夫次第、だな」
後藤はそう結論付けた。
この瞬間をもって、『この種を食い殺せ』と言う命令に基づいた戦闘欲求ではなく、
後藤は本当の意味で自分の意志で殺し合いに乗ったと言えるのかもしれない。
▽
最後の一口を咀嚼し、短い最初の晩餐は終わった。
空になった鍋を放り捨て、ディパックからデバイスを取り出し、此方に連れてこられて初めて現状を把握する作業に入る。
デバイスの操作の淀みなさは、後藤が単なる猛獣や狂戦士ではなく
田村玲子やミギー程ではいないにせよ、高い知能を有している事の証さに他ならない。
「泉新一…田村玲子」
名簿機能で見つけた見知った名前は二つ。
一つは自分が殺すべき相手。もう一人は自分を生みの親であり、戦いたいと思っていたが終ぞ叶わず知らぬうちに冥府へと旅立った相手。
何故死んだはずの田村玲子がこうして名簿に載っているのかは分からない。
しかし後藤はそれを歓喜でもって受け入れた。
「そう言えば、これはやりかけの仕事でもある
そして、この二人を取り込めば……」
この二人に勝利すれば心がもっとスッキリするだろう。
それだけでは無い。泉新一の右手と田村玲子を取り込み、合計七体のパラサイトを統率する身になれば、もう空条承太郎にすら手こずる事は無い。
その自負が後藤にはあった。
泉新一と田村玲子、この2人への勝利。
それを最優先目標として定め、ディパックからさらにある支給品を取り出す。
取り出したUSBメモリの形に似たその機器をデバイスに差し込む。
同時に切り替えられる画面。
映し出されたのは拡大された地図とそこに不気味に輝く光点。
「レーダーと言うのは本当らしいな。これなら“敵”が見つけやすい」
自衛隊が市役所へと踏み込んできたあの日まで一緒にやって来たよしみか、
広川が入れたであろう支給品は戦いを求め続ける後藤にとってこれ以上ない“当たり”だった。
感知できる範囲が狭いのと、この状態だとバッテリーが存在するのがネックだが、それでも後藤の優れた五感と組み合わせればかなりの確率で先手を打てるだろう。
付属された説明書を見ると生存している参加者の首輪に反応して光点を移すらしい。
後藤の腕が首輪に触れる。
「しっかりと食事をとれれば、これも外す必要がある」
田村玲子の様な単体で寄生し、全身を操縦しなければならないパラサイトと違い、複数のパラサイトと同居する後藤にはそれが可能だ。
予め硬質化させておいた刃で首をハネ、後は『三木』に慎重に引きぬけさせた後、また首に戻ればいいのだから。
もっとも首をハネる以上大出血は免れないため、ただでさえ空腹の現状では現実的ではない。
「何はともあれまずは…食事だな」
改めて今後の方針を固めて立ち上がる後藤。休憩は終わった。
左手にレーダーを持ち、両足を硬質化させる。
「目指すは南か」
現在位置は会場でも北の端。
これ以上進んでも泉新一や田村玲子と遭遇する可能性は低い。
レーダーを使って空条承太郎とピンク髪の女を追うと言う選択肢もあるが空腹時にあの二人を相手にするのはきっと自衛隊を相手にするより骨だろう。
何より、もう会場の端で戦闘を行い、奈落へと落とされるのは懲りている。
故に後藤は地図上でも大きいフィールドがある南を目指す。
ピシュン、ピシュン、ピシュン。
そんな音を立てながら走り出した後藤のスピードはみるみる内に上がっていく。
自動車のスピードを超え、数刻もしないうちに南のエリアにたどり着くだろう。
その勢いはさながら死を呼ぶ黒き風の如く。
「そうだ、殺すべきなのだ…そして俺は先へと進む……!」
今や、相対する相手の外見がただの人間でも侮りは無い。
仮面をつけたような無表情の瞳にこれから迎えるであろう闘争への期待と、標的への氷点下の殺意を篭め。
例え首輪が外れようとも。
自分以外の全てを屍に変えるか、逆に全ての終わりが付きつけられるその時まで。
―――後藤は、戦闘マシンとして君臨する。
【B-4/1日目/黎明】
【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、不明支給品1~0
[思考]
基本:優勝する。
1:南下後、人間を探し捕食する。
2:泉新一、田村玲子に勝利。
3:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※A-2に空の鍋が放置されています。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
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最終更新:2015年08月16日 14:37