047

笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB



走る少女が一人。その背を追う美女が一人。
その光景だけならば、ある種の趣向を持つ者にはたまらないものかもしれない。


「どうしたほむら!少しは反撃してきてもいいんだぞ!?」
「......」


生憎、いま行われているのは圧倒的な強者による蹂躙。
逃げ回る兎を狼がいたぶりながら遊んでいるようなものだ。
勿論、魔法少女である暁美ほむらはただ逃げ回るだけの兎ではない。
迫りくる氷柱を避けながら、どうにか牽制程度の攻撃は仕掛けようと隙を窺っているが...
(反撃していい?冗談じゃない。だったらもっと隙を作りなさいよ)
エスデスの実力は本物だ。己の実力に絶対の自信はあるが、慢心は見つからない。
図体のデカさにカマをかけて、一切の攻撃から身を守ろうとしないワルプルギスの夜とは違う。
時間を止めようにも、決定打も持たないいま、下手に魔力を消費したくはない。
悔しいが、いまは背を向けて逃走するしかない。
ほむらは悔しさと苛立ちに顔を歪めた。


対するエスデスは、笑みを浮かべていた。その笑顔は美しくもあるが、同時にドス黒い邪悪さも兼ね備えていた。
「そらそら、このまま何もせずに死ぬつもりか!?」
エスデスは本気を出していない。
アヴドゥルへの攻撃が3割ならば、いまは2割といったところか。
そして、攻撃もあえてぎりぎり避けれるか掠めるかといった具合に調整している。
もちろん、殺さず楽しむためでもあるが、それ以上に
(さあ、もう一度見せてみろ!お前の本当の力を!)
先程体験したほむらの能力『時間停止』に非常に興味を持ったからだ。
(どうやってその力を手に入れた?どうやって私と同じ『世界』に踏み込んだ!?)
エスデスは知りたかった。愉しみながら知りたかった。
(私は鍛錬で手にしたぞ。お前はどうだ?お前もそうなのか!?それともそういう道具を持っているのか!?)
ほむらが観念して時間停止を使い、反撃してきたところを逆に返り討ちにして"私も時間を止めれるぞ"と言い放ってから聞き出したかった。
エスデスの笑みに更にドス黒さが増し、それを確認したほむらの背に怖気が走り、逃げの速度を速めた。



(ふむ、掠り傷程度では音を上げんか。なら...)
2割程度だった力を、4割程度に引き上げようかと考え、この一定距離を保った鬼ごっこを終わらせようとした時だった。
ほむらが逃げる先に見えたのは森林。流石に入り組んだ樹海に入られては探索は面倒になる。不可能ではないし、絶対に見つけれるが。
一瞬だけ、ほむらが森林へと逃げ込む前にこの鬼ごっこに片をつけようかと思ったがすぐに改める。
(いや、森林を使っても逃げられないということを思い知らしめた方が、やつの奥の手を引き出し易いか)
ほむらが森林へと逃げ込んだのを確認し、次いで自身も足を踏み入れようとしたその瞬間
「ん?」
ほむらよりも奥の闇から発光する球体が飛来し、エスデスの視界は塞がれた。


なにやら頭上を妙な物体が通ったので振り返ると、エスデスの姿は見えなかった。
撒いたか、という安心感と共に、光を放った敵がいるのではないかという警戒がほむらの足を止めた。
「そこのきみ」
突如かけられる声。物体が発射されたと思われる方向だ。
「安心してくれ。きみに危害を加えるつもりはないよ」
姿を現したのは、学生服に身を包み、前髪が奇妙に垂れ下がった青年だ。
青年の柔らかい物腰と言動に対してもほむらは警戒を緩めない。
この殺し合いの場において、こうも容易く声をかけられるのは危険人物か相当な自信家か、エスデスのようなそれらを両立した者くらいだ。
故に、先程の光体を放ったのはこの男だと確信する。
「......」
「警戒するのも仕方ないか。なら、このデイパックは...おや?」
青年の疑問の声にも警戒は解かず、耳だけ澄ましてみる。

パキ...パキ...

(これは何の音?何かが折れる...違う、凍っている。凍る...ッ!)
凍る。その言葉を連想した瞬間、またもほむらの背に嫌な汗が噴き出す。
慌てて振り向くほむらだが、やはりその予感は的中していて。
後ろの木々が順番に、凍らされていたのだ。



突如飛来した物体。それはエスデスに当たったのか?答えは否。
いくら不意打ちとはいえ、その相手は帝国最強の女将軍にして、強者揃いの特殊警察『イェーガーズ』を束ねる将軍・エスデス。
幾多の戦場を駆け、様々な超人・帝具持ちと戦ってきた彼女にとってこの程度のものを躱すことなど造作もないことだ。
だがエスデスはそれを受け止める。身体ではなく氷でだが。
ガガガと派手な音を立てて氷に衝突し、そのまま包み込まれて静止する物体。
(ふむ。この衝撃からして、人体を破壊するには十分すぎるな。悪くない威力だ)
なぜわざわざ受け止めたか。簡単だ。観察するためだ。
飛来してきた物体は全部で5つ。どれもが同じような色と形で、例えるならエメラルドのようなものだった。
(これはほむらのものではないな。これほどの物を持っていたなら最初の時間停止の時に使っているはずだ。私を殺すためにな)
勿論、観察しつつもほむらたちへの注意は怠っていない。
ほむらを狙った流れ弾か、こちらを狙った攻撃もしくは牽制か。
おそらく後者だが、エスデスにとってはどちらでもよかった。
ただ、一瞬だけ視界を塞がれたためにほむらの正確な位置がわからなくなったのは痛かった。



「よし。炙り出すか」
彼女の切り替えは早かった。
近くの木を人差し指でピンと弾く。
弾かれた木を中心に、南北へ向かって氷が広がり始める。
(地図は把握している。今からこの氷はB-2森の端に掛けて壁を作ることとなる。壁が出来た後はそのまま西へと浸食し、やがて森は全て凍りつくこととなる)
エスデス自身は平地を進み、たまらず出てくるほむらともう一人を確保する手筈だ。
(氷を壊そうとするかもしれんが、私の氷だ。生半可な攻撃では壊せんぞ?)
「さあいくぞ。お前達はどこまで逃げ切れるかな?」



「なんだあれは...氷が周囲の物を凍らせている...!?」
「なんて無茶苦茶な女...!」
木々を浸食している氷がほむら達の退路を塞ぐように壁を模りつつある。
更に見間違いでなければ、氷は徐々にだがほむらたちに近づいているように見える。
「逃げたほうがいいんじゃあないか?」
「いいえ。逃げるにしても、決して道路に出ては駄目。そして、走ればおそらくその気配で見つかってしまう...」
ほむらがゆっくりと歩くよう指示すると、青年も無言で頷き、それに合わせる。
「...しかし、いくらなんでもあの向かってくる氷、遅すぎやしないか?」
「そうやって楽しむ女なんですよ」
先程まで追われていたほむらだからわかる。ああやってジワジワとイタぶるのも好きなタイプであることも。
(...でも、たしかに遅すぎる。私たちの歩くスピードとほとんど変わらないとはどういうことなの?)


エスデスは違和感を感じていた。
(妙だな...たしかに私は奴らが逃げやすい程度の早さで凍らせるつもりだったが、いくらなんでも遅すぎる)
ほむらの予想は概ね当たっていた。わざと逃げ切れる早さで凍らせ、楽しむつもりではあった。
だが、決して歩いてでも逃げれるようにした覚えはない。
(それだけではない)
己の脈と動悸を測ってみる。拷問について研究する過程で、人体についてはかなりの知識を持つ彼女は、脈と動悸を測れば健康状態がわかる。
(...やはり、少々疲労があるようだ)
普段ならば、いくら小技を使おうとも疲労はない。だが、いまは確かに疲労を感じている。
凍る早さと疲労の問題。
これらを繋げると、ひとつの答えに辿りついた。
(広川め、なにか細工をしたな)


殺し合いが始まる前、広川を脅かしてやろうとデモンズエキスを使おうとしたが、全く出すことが出来なかった。
広川が、自らが語った"異能"を封じる力を持つとすれば、相手の能力を制御できてもおかしくない。
もちろん、帝具のように普通じゃない道具も弱体化させることができるのだろう。
そんな制限をかけるのは、おそらく公平になるようにするためだろうが...
(勿体ないことを。死合は互角でないと見る側としては面白くないのは同意だが、そのために能力を制限するのは気に食わん。
制限するくらいなら、近い実力者ばかり集めればいいものを)
広川に対して落胆の感想を浮かべ、制限に関しては一旦保留する。


(さて。ほむらたちを炙り出すのは不可能ではない。というか出来ない自信がない)
だが、制限のせいで時間はかかるし、疲労もかなりのものとなるだろう。なにより、制限のことで気持ちが少し萎えてしまった。
それに、エスデスには約束がある。『6時間後にコンサートホールへと集まる』という約束が。
デバイスを取り出し、時間を確かめる。
(もう半分にまで迫っているな。あんまり時間をかけていると間に合わん)
エスデスは軍人だ。
もし部下が集合時間を破れば、仮に怪我人だとしても『ソフト拷問コースC』を容赦なくかける。
そんな自分が定めた約束という規律を破りたくはないのだ。
(ほむらとはもう少し遊びたかったが...仕方ない)
エスデスがパチンと指を鳴らすと、パリンという音とともに、木々を覆っていた氷が消えてなくなった。
「聞こえるか?追い回したことは謝罪する。すまなかったほむら。だが、おまえの力が知りたかったんだ。悪く思わないでくれ。光弾を撃ったもう一人もだ」
エスデスの言葉に対する反応は無い。エスデスもそれでいいと思っている。
「時間が迫りつつあるので、私はもうお前たちを追わん。私はこれから西のエリアをまわるが、その前に聞きたい。広川を殺したあと私の元へ来ないか?
ああ、断っても殺しはせん。アヴドゥルにもキッパリと断られたよ。30秒待つから、その気がなければなにも返事をしなくていい」
答えはわかっているがな、と思いつつほむらたちの反応を待つことにする。

あっというまに30秒が経過する。
「わかった。それがお前たちの答えだな。私はこれで失礼する。では、放送後にコンサートホールでまた会おう」
まるで、来るのは当たり前だと言わんばかりに言い放ち、エスデスは悠然と歩き出す。
(あいつは、必ず私のもとへ来る。コンサートホールには来なくとも、必ずいつかは現れる。
強力な戦力を求めてか、排除すべき人間と判断してかはわからんがな)
後者ならもっと楽しめそうだな、と期待を胸に膨らませる。

(だが、敵として私の前に現れたときは覚悟しろよ?必ずその能力を手に入れた経緯を引き出してやる。
奥の手であろうものだ。そう易々と話したくはないだろう。だが、私は私の欲求を満たすならばなんでもするぞ。
お前の歯を砕いてでも
片目を潰してでも
頬に風穴を開けてでも
両手両足の爪を剥がしてでも
その平たい胸をさらに平たくしてでも
腕を切り刻んででも
両脚を切り刻んででもだ。
それほどお前の能力には興味を持ったのだ!)
傍から見れば冗談にしか聞こえないだろう。だが、彼女は本気だ。いつだって本気だ。
彼女のドス黒い笑みは、まだ絶えていない。




【B-1/一日目/黎明】

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:高揚感 疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
1:その後DIOの館へ攻め込む。
2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
3:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。


「本当に去ったようだが...諦めたのか?」
「いいえ。言葉通り、時間が迫っているのでしょう」
どうにか一難去ったことに、ほむらは胸を撫で下ろす。
(まどかに危険をもたらす可能性は高いけれど...いまの私にはあいつを仕留める決定打と呼べるものがない)
ほむらのデイパックには帝具『万里飛翔マスティマ』があるが、飛翔以外の使い方がよくわからないものに運命を委ねる気にはならなかった。
「では、自己紹介といこう。わたしの名は花京院典明。きみの名は?」
「...暁美ほむらです」
物腰柔らかく対応する花京院に対してもほむらは警戒を解かない。目の前の男が危険かどうか判断するには情報が足りないのだ。
「おっと、怪我だらけじゃないか。どれも重傷ではないが、塞げるものは塞いでおいた方がいい。治療道具は?」
「持ってません」
「なら病院へ向かおう。情報交換は道すがらということで...」
「ま、待ってください」
先導して病院へと歩を進めようとする花京院を慌てて呼び止める。
病院に戻ること自体は賛成だ。だが、その前に知らなければならないことがある。


「花京院さんは、ここに来るまでに誰かに会いましたか?」
もしも花京院が誰かと出会い、分かれて行動しているなら。その人物が頼りになる人物なら。
会っておきたいと思うのが心情だ。
だが、ほむらの期待はあっさりと崩される。
「いや。わたしはA-4の武器庫の方から来たんだが、まだ誰にも会っていない」
「...そうですか」
誰とも会っていないということはそれだけ手に入れられる情報が少ないということだが、反面嬉しいことではあるのかもしれない。
(少なくとも、エスデスの行先にはまどかはいなさそうね)
「では、病院へ向かうということでいいかな?」
(回収し忘れていた医療器具のこともあるし、エスデスとは別の方向。それに、おそらく多くの参加者が向かうはず...)
「ええ。お願いします」


花京院が先導して歩き、距離を開けてほむらがついていく。
その道すがらで簡単な情報交換を行う。
「美樹さやかに巴マミ、佐倉杏子。それがきみの友達の名前か」
「はい」

ほむらはまどかの名前をあえて出さなかった。まだ花京院を警戒しているからだ。

「花京院さんは知り合いはいるんですか?」
「わたしが知っているのは一人...DIO様だけだ」
「ディ、DIO?」
「知っているのかい?」
「い、いえ。地図に屋敷が載ってましたから」

思わぬところで思わぬ名前を聞かされたため、うっかり動揺してしまったほむら。
当然と言えば当然だろう。なんせ、エスデスとアヴドゥルという人間が言うには危険人物である者の名なのだから。

(...でも、DIOが危険人物というのはアヴドゥルという人だけの情報。DIOを知る人から聞いた方が確実といえば確実ね)
「そのDIOという人はどんな人なんですか?」
ほむらの問いに、花京院は考える素振りを見せる。
やがて、思いついたように振り向くと、右手の甲をほむらに向けて差し出した。
「いいかい、この手を見ていてくれ。驚かないでくれよ」
ほむらは、言われた通りに差し出された手を見つめる。


―――ブンッ


「ッ!?」
ほむらは己の目を疑った。確かにいま、花京院の腕から緑色の別の腕が浮き出ているのだ。
「...やはり見えるか。これは、生まれつきの体質でね。普通の人には見えないんだが...なぜかいまは見えるようになっているらしい」
「体質...?」
そんな体質は聞いたことが無い、とほむらは思う。だが、魔力は感じられないため、エスデスと同じく魔法少女に関係するものではないようだとも判断する。
驚いた反面、なぜいま見せたのかという疑問がほむらに湧いてくる。
「...わたしは、他の誰にも見えないこの力を自覚した時、誰とも打ち解けようとはしなかった」
花京院が静かに語りはじめる。
「町に住んでいるとたくさんの人と出会う。その誰しもがなにかしらの繋がりを持っていた。
小学校のクラスの○○くんのアドレス帳は友人の名前と電話番号でいっぱいだ。父には母がいる。母には父がいる。
わたしは違う。この『力』が見える人は誰一人としていなかった。
両親は好きだ。だが、気持ちを通い合わせることはできない。この『力』が見えない人と真に気持ちが通い合うはずは...ない。
自分には理解者など現れない...そう思っていた」

そこには怒りや悲しみ、『力』への恨みといった感情は一切なく、ただ事実を述べているようにほむらの目には映った。

「だが、DIO様は違った。彼はわたしの力を知りながら、優しく手を差し伸べてくれた。
『花京院くん。恐れることはないんだよ。友達になろう』。そう言ってくれた。
彼も同じ力を持っていたのだ。
嬉しかった。わたしは独りじゃなかったんだ。そう気づいたとき...心の底から安心したんだ」


花京院の独白を聞き終えたほむらは思った。
似ている。
魔法少女になったために、他者から疎遠に為らざるをえなかった巴マミに。
自分の身体が人間とは違うものとなったために、想い人に気持ちを伝えることすらできなかった美樹さやかに。
そして...一人の人間に救われた、他ならぬ自分自身に。


花京院が嘘を吐いているようには見えなかった。
全てを鵜呑みにするわけではないが、彼が語ったDIOという男については嫌な印象は持たない。
アヴドゥルという人が危険だと言っているのは、単に勘違いかもしれないし、もしくはDIO自身に恨みがあるのかもしれない。
利益による対立。信頼関係の拗れ。疑念による闘争。
ほむら自身、そういったことは何度も経験してきた。
もっとも、DIOが本当によからぬことを企んでいて、花京院が騙されている可能性もないわけではないが。

「すまない。話し過ぎたな。きみの手当を急がなければならないというのに」
「...いえ。DIOって人のこと、好きなんですね」
「ああ。尊敬しているし、憧れてもいる。とても大切な人なんだ」
傍からみれば、ちょっと行きすぎじゃないかと思うところがあるかもしれない。
だが、ほむらはそう思えなかった。ほむら自身、花京院が語るDIOへの感情と似たようなものをまどかに感じているからだ。
(いずれにせよ、DIOにもアヴドゥルにも会ってみなければわからない、か)
そうしてほむらは花京院に警戒はしつつも、来た道を引き返すこととなる。
探し人であるまどかから離れていく道だということも知らずに。

(上手くいったようだな...)
花京院典明は心の中でほくそ笑む。
彼がほむらを助けた理由。
肉の目による洗脳が解けた?肉の目が植え付けられつつも正義の心に目覚め、弱者を放っておけなかった?
どれも違う。
正解は、『利用するため』だ。
花京院の方針はなんら変わっていない。
DIOを生存させる。それだけはゆるぎないのだ。




時は遡る。

入手した戦利品を整理しながら花京院典明は考える。
先程は出会いがしらに少女を殺してしまったが、それは失策だったかもしれない。
この会場に集められた数は、DIOと自分を除けば総数70。
もしかしたら何人かはDIOの部下もいるかもしれないが、DIOに忠誠を誓った日がまだ浅い自分が考えるだけ無駄だとも思う。それは本人から聞くしかあるまい。
1対1ならまだしも、武装した一般人が10人も集まれば、それだけでも十分に脅威になる。
四方八方を囲まれてショットガンでも放たれれば、いくらスタンド使いでも切り抜けるのは難しい。
そんなこともありえる殺し合いだ。情報は何より大切になる。

念のためにハンカチで注意を逸らして殺したが、その前に少女から情報を聞き出しておけばよかったと切に思う。
いや、殺さずとも『ハイエロファントグリーン』を体内に忍び込ませて人質にするのもよし。
お人好しを装い、人数が増えたところで一網打尽にするのもよし。使い道はいくらでもあったのだ。
(...まあ、過ぎたことだ。仕方ないか)
次からは気をつけようと決め、デイパックの中の物を掴んだ時だった。

―――うおわあああああ!

突如響いた悲鳴。
花京院は慌ててデイパックから手を放し、周囲を確認する。しかし、人の気配は全くしない。
念のためにスタンドで周囲を探るが、やはり誰もいない。
気をとりなおしてデイパックを探ると

―――あっ、おいあんた!そのまま俺をひっp

また声がした。
花京院は慌ててデイパックから手を放し、周囲を確認する。しかし、人の気配は全くしない。
念のためにスタンドで周囲を探るが、やはり誰もいない。
気をとりなおして再びデイパックを探ると

―――話は最後まで聞けぇ!いいか、とりあえず俺をここからひっぱり

またまた声がした
花京院は(以下略)

―――...お願いします。そのまま手を離さず、どうか私をここから取り出してください。

いまにも泣きだしそうなその声を聞いて、ようやくデイパックに原因があることに気が付いた。



(刀か。...美しい刃渡りだ)
デイパックから取り出したのは一振りの刀。
刃物に関しては大した知識を持っていない花京院だが、その刃渡りには素直に関心した。

―――あ~、ゴホン。とりあえず出してくれたことには礼を言おう。あんたが用心深い性格なのはわかったが、いまは俺を持ったままにしててくれ。

今度は刀を握ったまま周囲を見回してみる。やはり誰もいない。

―――わかったか?今までの声は全部おれってことだよ

(信じられんな...)
意思を持たないはずの刀が喋る。にわかには信じ難いが、こうして喋られている以上認めるしかない。
とりあえずそう己に言い聞かせることで、一応の納得をした。


―――では気をとりなおして...ジョースターを殺せ!ポルナレフをブッた切れ!承太郎をまっぷたつにしろ!
「......」
―――お前は達人だ...剣の達人だ。誰よりも強い、なんでも切れる!
「さっきからなにを言っている?」
―――あ、あれ?おかしいな、なんで操れねえんだ!?
「...なんだかよくわからんが、お前を持っていてもロクなことにはならなそうだ」
花京院がとりあえず剣を地面に置くと、やかましい声は一切聞こえなくなった。
しばらくデイパックを探っていると、今度は一枚の紙が出てきた。


『――アヌビス神の暗示のスタンド――
500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の三つになる。
○物質を透過して、斬りたいと思った対象だけを斬ることができる
○一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
○精神を乗っ取る
ただし!このスタンドは、一般人でも一騎当千のスタンド使いでも精神を乗っ取れるが以下の制約をかけられている。
○アヌビスが乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
○アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
○精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。

以上』


「......」
どうやら、この刀剣は殺し合いという場においては当たりの部類に入るらしい。
だが、花京院典明にとっては当たりといえる代物ではなかった。
戦えば戦うほど強くなる刀剣。確かに強力だ。
だが、花京院に剣道の心得はない。そんなド素人が強力な刀を振ったところでなんになる。それならば己のスタンドで攻撃した方が早い。
とはいえ、こんな刀に己の運命を任せられるかといえば答えはノゥ。不安しかない。
ならば、このまま放置すればいいかといえばそうもいかない。
もし、この刀を先程の少女のような一般人が拾えば、それはそれで厄介だ。
むしろ力が無いぶん、意識を委ねて襲ってくるかもしれない。
以上のことから下した答えは
(破壊するか)
己の背後に『ハイエロファントグリーン』を出現させる。
掌に破壊のエネルギーを溜め、狙いを定める。が
(待てよ...)
己のスタンド能力とアヌビスへの制限を顧みて、考え方を改める。
思考が固まると、アヌビス神を拾い、語りかけた。

―――ひ、ひええええ~!破壊するのだけはご勘弁を~!
「喜べ。わたしなら、お前の力を存分に発揮させてやれるぞ」
―――へっ?



そして舞台は現在へと戻る。


花京院は、利用できそうな者を欲した。できれば弱者がよかった。
まどかから奪ったデイパックを荷物を移し替えた後、奈落へと捨て、身を隠しやすい森林を進んでいた。
しばらく歩いていると、前方から戦闘音のようなものが聞こえた。
『ハイエロファントグリーン』を先行させ、様子を窺うと、氷を放っている女とそれから逃げる少女が目に映った。
どちらが弱者か。言うまでもない。
『ハイエロファントグリーン』を自分のところまで戻し、少女が森林へ入ってくるのを待つ。
少女が入ってきた機を見て、エメラルドスプラッシュを発射。
あの厄介そうな女を仕留めれればよかったが、生憎一発も当たらなかった。
結局、あの女は去っていったのは幸いだった。
おまけに、少女が氷に振り向いた瞬間、花京院は『仕込み』を滞りなく行えていた。


―――しゅるしゅるしゅる

音はしていないが、そんな擬音が聞こえそうな動きで、注視しても気づきにくいほどの細い糸が少女のスカートへと入り込む。
『ハイエロファントグリーン』は、人体に潜り、操ることができる。
糸が少し入り込んだだけでは操れないが、スタンドが完全に入り込めば意識すらも奪うことができる。
そうなれば、もう花京院の人形と化す他ない。
そのまま人形として使うなり、アヌビス神に乗っ取らせるなり、様々な用途で利用されることとなる。
わざわざスタンドを出したのも、脚色を加えて長々と話をしたのも、糸が入り込んでいることに気付いていないか確認するためだった。
また、DIOの名をわざわざ出したのは、少女の反応を確認するためだった。
ジョースター一行の関係者なら敵意を剥きだしにしてくるはずであり、DIOに組するものなら交渉次第で手を組むこともできる。知らない場合はそのまま利用すればいい。
少女は『知らない者』だったようなので、花京院はトコトン利用し尽くすことにした


花京院典明はとにかくツイていた。
まどかを撃ったあと、もし南下していれば後藤に食い殺されていただろうし、平地を進んで東へ向かっていれば承太郎に遭遇していた可能性が高い。
まどかから情報を得ていれば、ほむらの前でボロを出していた可能性もある。
もしエスデスを操ろうとすれば、たちまち見破られて返り討ちに遭っていただろう。
更に彼自身知らないことだが、彼は偶然にもほむらの最大の弱点を突いていたのだ。
ほむらの時間停止は、他者に触れながら行うと、触れた相手もまた止まった時の中を動くことができる。
ただし、これにはほむらが直接触れたものだけではなく、間接的に触れられていた場合も含まれる。
現に、巴マミは予め己の魔法で作ったリボンを気づかれないうちにほむらの脚に結び付けておいたことで、時間停止による拘束から逃れていた。
花京院もまた、既に『ハイエロファントグリーン』の糸でほむらに触れているため、彼女の時間停止の効果を受け付けないのだ。


花京院は心中で嗤う。己の幸運に気付かぬままに、一人嗤っていた。



【B-1/森林/一日目/黎明】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:疲労(中)、ソウルジェムの濁り(小) 全身にかすり傷
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
0:花京院に警戒しつつ、病院に戻って医療品を取りに帰る。ただし長居するつもりはない
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段
5:DIOは危険人物ではない...?
6:コンサートホールに行く……?

[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。
※エスデスは危険人物だと認識しました。
※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。
※花京院のスタンド『ハイエロファントグリーン』の糸が徐々に身体を浸食しています。ほむらはそのことに気付いていません。


【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】
 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。
 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。
 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。
 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。


【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康 
[装備]:額に肉の芽
[道具]:デイパック、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(まどかの支給品) 花京院の不明支給品0~2 まどかの不明支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:DIO様を優勝させる。
0:病院へ向かい、医療器具を探す。留まるかどうかは後で決める。
1:ジョースター一行を殺す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル)
2:他の参加者の殺害。ただし、今度からは慎重に殺す。
3:DIO様に会いたい。また、DIOの部下が他にもいるかどうか確かめたい。
4:ほむらを利用するため、病院へと向かい信頼を得る。病院に参加者がいれば情報を得てからほむら諸共殺害したい。

※参戦時期は、DIOに肉の芽を埋められてから、承太郎と闘う前までの間です
※額に肉の芽が埋められています。これが無くならない限り、基本方針が覆ることはありません。
※肉の芽が埋められている限りは、一人称は『わたし』で統一をお願いします。
※この会場内のDIOが死んだ場合、この肉の芽がどうなるかは他の方に任せます。
※『ハイエロファントグリーン』が他人に憑りついたとき、意識を奪えるかどうかは他の方に任せます


【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(まどかの支給品)】
500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の三つになります。
  • 物質を透過して、斬りたいと思った対象だけを斬ることができる
  • 一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
  • 精神を乗っ取る
※アヌビス神の制約は以下の通りです
  • アヌビスが精神を乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
  • アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
  • 精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。その10分間は身体の所有者はアヌビス神の精神を押しのけることはできない。
  • 通り抜ける力は使用可。

※参戦時期はチャカが手にする前です。





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039:時計仕掛の女 エスデス 056:すれ違い
暁美ほむら 097:我が侭な物語
006:始まってしまった物語に、奪われたままの時に 花京院典明

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最終更新:2015年08月22日 20:01