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オフライン ◆QO671ROflA


彼は無性に苛立ちを覚えていた。
その感情はもはや殺意と言っても過言ではないかもしれない。
彼───足立透は間違いなくつい数時間前まで、無謀にも自分に歯向かう少年少女と対峙していた。
手加減抜きの真剣勝負。数では明らかに劣っていたが、彼には圧倒的なスペックを誇るペルソナ“マガツイザナギ”があった。それを情け容赦無く行使することで、中盤までは少年たちを圧倒していた。
しかしそんな戦況も時間が経つに連れて、徐々に悪化の一途を辿り始める。
やがて足立は逆に追い詰められ、何も変わらず停滞した世界に行き場のない絶望を抱き、直前まで少年たちに向けていた拳銃の銃口を自身のこめかみに当てそっとその引き金を引いた。




何故か意識を取り戻した足立は、仄か暗い空間の中で磔にされていることを理解した。
周りを見渡すと、顔までは見えないものの同じように磔にされている人間が列を成している。
最初は「これが冥土なのか」とも思ったが、どうも根本的に何かが違うらしい。

そう時間を経たずして、その一種独特な空間に広川と名乗るスーツ姿の男が現れた。
彼は奇妙にも、その空間に相応しくもない殺し合いの開幕を高らかに告げる。
刹那、彼の前にツンツン頭の少年が現れる。しかし彼は、そう時間は掛からずに肉塊と化した。
その後も何もなかったかのように淡々と続く広川の説明。
「超能力」、「魔法」、「スタンド」、「錬金術」と厨二チックなワードが次々挙げられていく。足立は「ペルソナ」という「それら」に限りなく近いモノを視認した経験があり、更にはそれを使役した経験まで持っている。
仮にそれらが存在しても然程おかしい事ではないのだろう。
そして話が終りを迎えようとしたとき、広川は有象無象にこう言い放った。

“最後の1人になるまで生き残った暁には、いかなる望みでも叶えてみせる”と。

その一言で足立の活動指針は定まった。
最後まで生き残り、《優勝》する。そして最期に邪魔をされ、成し遂げる事の出来なかった《自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする》という夢の実現。
その狂気の願望を抱きつつ、足立はこのバトル・ロワイアルの参加する事を決意した。




どうやら足立はまたも意識を失っていたらしく、目を覚ますと椅子に座っていた。
前後左右のどの方向を向いても、自分が座っているのと同じ椅子が設置されており、それが何列にも連なっている。何かのホールと表すのが分かり易い光景だ。

(もしや、もう広川とかいう男が語っていたゲームは始まってるのか?)

確信は無かったが、それを確かめるよりも身の安全が先決だ。まず彼は、自身の最強の武器になるであろうペルソナの召喚を行うことにした。
彼が拳銃で自殺を図る直前に、彼は自身のペルソナ・マガツイザナギの召喚に成功している。

「マガツイザナギ!!」

前回拳銃で自殺を図る前に召喚した時と同様に、彼はペルソナの名前を叫ぶ。
しかしペルソナは彼の召喚には呼応せず、あたりにはホール特有の静寂が漂ったままであった。

「どうしたんだよ!!マガツイザナギ!!」

幾度と声を荒らげても自身の、あの真紅のペルソナは現れない。

「まさかペルソナが召喚出来ないのか!?」

広川の口からあれだけ異能に関するワードが挙げられている以上、ペルソナと同等の異能所持者がこのバトル・ロワイアルに一定数以上参加しているのは間違いないだろう。
そんな状況で足立がペルソナを召喚出来ないというのは、彼に死ねと言っているに等しかった。

「嘘だろオイ!!」

焦り───。それが足立の不安を掻き立てる。
そんな時、広川が“参加者には支給品が配られる”と言っていた記憶が足立の脳裏をよぎった。

「……そうだ!まだ支給品を確認していないじゃないか!」




足立は咄嗟に辺りを見渡した。
そして足元に置いてあるデイパックに気付き、すぐさま手をかける。
主催の広川の説明が正しいならば、この中には優勝する為に必要不可欠な武器があるはずだ。
デイバックを開くと、まず中から見つかったのはスマートフォンに酷似した形状のデバイスだった。次に食料品、地図、コンパス、時計と基本支給品がごっそりと出てきた。

彼が何か若干冷えた硬い棒状のものを手にしたのはそれから間もない事だった。
それを引き上げてみたが、その棒は明らかに何の変哲もないゴミのような悪臭を放つ鉄パイプだった。
こんなものでは優勝までには何の役にも立たない事は明白。爪楊枝も同然だ。
更に焦りを募らせながら、足立は支給品の確認を進めた。
次に出てきたのは小冊子。最初の見開きを開くと広川の語ったこの殺し合いのルールの大まかな概要が書かれていた。これは一種のルールブックと見るべきだろうか。
足立は更にページを読み進めていく。するとすぐに支給される武器に関する説明の項に辿り着いた。

“ランダムに支給されるアイテムは最低1個、最大で3個である”

その内の1つがあの鉄の棒。更に彼はペルソナまで召喚出来ない状況にあった。
まさに絶体絶命であり、自然と足立の焦りと不安は増していく。
ルールブックを、隣の椅子の背もたれの部分に挟み、彼は更にデイパックをあさる。
次に見つかったのは水鉄砲であった。それがまだ、本物の拳銃に似た色形をした物だったら初心者相手には脅しとして通用しただろう。だが、これはどう見てもそれは子供向けの良くある青と赤で彩られた、別にどこにでもあるような水鉄砲だった。

(もしやこの水鉄砲に入っている液体は硫酸なのではないか)

そんな淡い希望も一回引き金を引くだけで結果は一目瞭然。
液体の飛んでいった前方の椅子はただ濡れただけ。人体にしか作用しない液体じゃないかと指に一滴その液体を垂らすが、痛みは疎か痒みすら感じない。明らかにそれはただの水だった。
あっさりと希望は潰え、再び落胆を超えた絶望が足立に襲いかかる。
ルールブックには支給アイテムは1~3個と書かれていた。もしかしたら、あの悪臭を放つ鉄の棒と水鉄砲だけなのではないか。
次に手触りを感じたのはビニールに近い小物だった。仮にこれが最後の支給アイテムだったとしても武器にはならないだろう。そう感じながらも足立はそれをデイバックから取り出す。
それの正体は、ビニール状の小袋に入った包装された錠剤であった。
1袋の包装に、2列に分かれて4錠ずつ入っている。計8錠の錠剤のそこにはあった。
包装に包まれた錠剤の数量確認に時の足立には嫌でもその表記が目に入った。
“ビタミン剤×8”
まさかこれは武器ではないだろうと思ったが、冷静になって考えてみればルールブックには「1~3個のアイテム」としか書かれていない。必ずしも3個全てが武器だとは限らなかった。

【鉄の棒】・【水鉄砲】・【ビタミン剤】

この3つが俺の武器なら、このゲームの参加者で最弱なのは俺で決まりだろう。
そう踏んで更に落胆する足立。しかし、不意にビタミン剤の入った小袋に目をやると妙な黒い羅列が目に入った。

(さっきまで表しか見ずに裏にまるで注意を向けなかったけど、この羅列、明らかにQRコードだよな。
そう言えばあのデバイス……)

すかさず、足立はデバイスをそのQRコードにかざした。彼の予想通り効果はすぐに現れる。
デバイスの画面が暗転し、あるカタカナの漢字で構成されたワードが画面に浮かび上がる。

“シアン化カリウム”

足立は、一応ながら過去に警視庁に在籍したエリート警察官である。
シアン化カリウムが俗に“青酸カリ”と呼ばれる即効性と致死性を兼ね備えた猛毒である事は容易に理解出来る。
そして青酸カリの保存は極めて困難であり、空気中のCO2と化合した場合には青酸ガスを発生させて青酸カリ自体はただの無害な塩水に変わるという事も知っている。
非常に扱いにくい武器であり、更にこれが《ビタミン剤》なのか《シアン化カリウム》なのか確かめるのはほぼ不可能に等しかった。




「……また振り出しかよ」
自分に扱える武器はほぼ無いに等しく絶望しきった足立だったが、依然として優勝は諦めていなかった。
警察機構に所属していた自分視点からしても、明らかにこれは非合法なゲームだと感じる。現に主催者と思われる広川はああも簡単に殺人を犯してみせた。
広川に殺されたあのツンツン頭の少年、確か名前は上条当麻とか言っただろうか。
あの少年のようにこのゲームに反感を抱いて、言ってみれば対主催としてゲームに乗っていない参加者も相当いてもおかしくはない。
となれば、自分は対主催を騙る事で、他の対主催参加者と接触してそいつを駒として使える限り使って、用済みになるタイミングを見計らい奇襲を仕掛けて所持品を奪い取ればいいんじゃないだろうか。
もはやそうでもないと優勝は無理だろう。
足立は自身の本来の性格である独善的、そして排他的な性格を徹底的に隠し、あの忌々しいガキどもと接触した時のように飄々としたお調子者の性格を演じる事を決める。

「あー、また大変だねぇ」

だが足立は過去にそれを見事なまでにやってのけて、一時は生田目という男に自分の全ての悪行の罪を擦り付ける事に成功している。
足立は早速、対主催参加者を探す事を決めてそのホールを後にしようとした。

(それにしても散らかしてしまったものだ)

ホールから出ようと思ったまでは良かったものの、さっき焦り過ぎてそこら中に放り投げたと思われる所持品が散らばってしまっていた。
ため息をつきながら足立はそれらをデイパックに詰め込む。そんな時にデイパックの中にまだ目を通していない一枚の紙を見つけた。


そう書かれたその紙には何列にも分かれてこのバトル・ロワイアルの参加者であろう人物の名前が書き示されていた。
その中に見覚えのある忌々しい名前が4つ―――。足立は悪魔的に不気味な微笑みを浮かべる。

ギィ
そんな足立の居る席の後部座席側の大扉から開閉音が、一見静けさしかないホールに鳴り響いた。






「……さて、どうしたものかな」

旧世代の白熱灯で照らされた薄暗い通路で、ヒースクリフこと茅場晶彦は頭を悩ませていた。
脳に刻まれた記憶が正しいのなら、彼は自身の開発したVRMMORPG《Sword Art Online》─通称SAO─にて、ユニークスキル《神聖剣》を誇るトッププレイヤーとして、大規模ギルド【血盟騎士団】の団長に君臨していた。
彼はアインクラッド75層で共闘した、同じくユニークスキル《二刀流》を保持するプレイヤー・キリトに正体と目論見を看破され、彼と死闘を繰り広げた末に相討たれたはずなのだ。
茅場はあらかじめ、SAOのラスボスたる自分が倒されゲームがクリアされたであろうその際に、現実世界の自分─茅場晶彦の脳に高出力マイクロ波スキャニングを行い、電脳化を果たす予定だった。

しかし結果はこの有様だ。
いつの間にか拘束されて、広川なる男の説明を聞かされ、挙句には殺し合いに参加を強制されている。
だが彼は、主催者らしい広川に逆らおうとは考えなかった。
『あのカミジョウトウマと呼ばれた少年があそこまであっさりと惨殺された辺り、自身の命も彼と同じく主催者に握られているのだろう』と仮定したからだ。
寧ろ主催者に対する感情は、憎悪よりも興味の方が勝っていた。
この段階で既に、彼の基本方針は「主催者への接触」へと結論付けられていたのである。




あの広川による説明を聞き終わった直後、ヒースクリフは再び意識が途切れ、目を覚ますと今いるこの通路に佇んでいた。

(主催は参加者の意識さえも自在に支配出来るのか。)

ヒースクリフの主催への興味はより一層増していく。
主催・広川への接触―――。改めて彼は自分の方針を見返す。

主催に反旗を翻し、他の殺し合い参加者と協力して追い詰めるか。
だがこの首輪がある以上、それは不可能に近いだろう。
やはりこの殺し合いに最後まで生き残り優勝する事が最も確実な手段だろう。
主催が直接手を下さずに願いを叶えてくれるというのなら話は別になるが。

こう今考えても意味はないだろう。
ヒースクリフは広川の語った説明を思い出す。
彼の言っていた言葉が正しいなら、「魔法」だけに限らず「超能力」や「スタンド」と言ったある種のオカルティックな異能を持つゲーム参加者が居て、各参加者に支給される「個別の支給品」がこのゲームを生き残る鍵となる。
そして最後まで生き残れば、この空間から開放され、その上で「如何なる願いでも1つ叶う」というオプションが付く。
まず支給されたデイパックの中身を確認するのが先決だ。




案の定、彼のものであろうデイパックはすぐに見つかった。
しかし問題はその中身だった。
広川の語った『共通支給品』よりも先に見つかったのは、おそらく個別支給品であろう身に覚えのない小さな固形物のようなモノだった。
形状は様々であったが色は全て黒一色であり、6個ほどデイパックから見つかる。
後に見つかった個別支給品の説明書によれば、これは『グリーフシード』と呼ばれる『魔法少女に対する回復アイテム』らしい。
説明書して曰く、どうやらグリーフシードには有効期限があるらしく、“第4回放送まで”と表記されている。有効期限付きの回復アイテムとはゲームクリエイターとして早々耳にしないが、どうやらこれはそれに該当するらしい。
少なくとも自分が魔法少女ではない事は確かであり、今後これがどのように役に立っていくかなど到底想像は出来る筈がない。
その後も食料や地図などの共通支給品が見つかり、個別支給品もそれ以外に2つほど見つかるもグリーフシードよりは有効活用に適しているようには思えたが、これいって他の参加者に対してアドバンテージとして働くような支給品でない事は確かであった。

生前のアバターとしてのヒースクリフの装備がそのまま使える事は茅場にとって非常に好都合な事であった。
自身のユニークスキル《神聖剣》の長剣こそ失われていたが、十字盾がそのまま手元に残っている。
それどころか真紅の甲冑やゲーム上の生前のスキルもそのまま使えるらしい。
尤もSAOの管理者スキルをもってして得ていた《不死スキル》は失われているようだったが。
HPバーに関してもSAO同様、視界左上に青々と固定表示されている。
そして今となってはSAOプレイヤーにとっては当然の事ではあるが、相変わらずログアウトボタンは表示されなかった。




次にヒースクリフが着目したのは地図である。
何にせよ、現在彼は防御に関しては優れているが、攻撃手段に関しては殆ど無いに等しく、更に彼の攻撃パターンは剣技に代表される全て近接戦闘に特化したようなものである。
遠距離戦には滅法不利であり、近距離戦でも盾のみでは必ず隙が生まれる。
誰よりも早く地形を理解し、いつでもその場の状況に応じた策を練る事の出来るという事がヒースクリフには求められていた。

地図を見てみたのはいいものの、ヒースクリフは更に驚愕する事になる。

“アインクラッド”

本来この場にあるはずのない“それ”の表記はそこにあった。
あの100層にも及ぶ浮遊城は正真正銘、茅場晶彦――すなわち自分が設計したものである。
そんなものが何故かこの地図に載っている。
ヒースクリフは戸惑うが、こんな状況下で混乱して冷静な思考を失う事こそ死に直結する。
まずはあの城――アインクラッドを目指す。

そう決めたのはいいが彼には当然の事ながら現在位置が分かっていない。
建物の屋内で目覚めた事はそんな彼にとっては不幸中の幸いだっただろう。
現在位置の特定はそう難しい事ではないらしい。
とりあえず廊下を有するこの施設が地図における何に相当するのか確かめよう。
早速ヒースクリフはその施設内を渉猟する。

案外それはすぐに見つかった。

“メインホール”

そう書かれたプレートの貼られる大きな扉を彼は見つける。
扉は半開きになっており、まるで既に室内に誰かが居るかのような雰囲気を醸し出している。
彼はそっと扉に手をかける。

ギィ
その耳障りな金属音と共にホールの大扉は開かれた。






あの大扉の開閉音が鳴り響いた直後、再びホールには今まで以上の静寂が訪れた。
理由など簡単である。
それは元からホールに居た足立透にとっても、後から入室したヒースクリフにとっても非常にネックな状況にあったからだ。
両者ともにゲームへの賛同、そして優勝まで視野に入れており、そして互いに確実に目の前の相手を圧倒する事が可能な攻撃手段を持ち合わせていなかった。

ただヒースクリフには個別支給品とはまた別個に支給された自身の真紅の甲冑一式と神聖剣の十字盾を装備していただけあって、防御手段さえ持ち合わせていない足立よりは遥かに優位だったのかもしれない。
しかし彼には前方の座席からこちらを凝視するその男の支給品は何なのかなど当然分かる筈はない。

しかし逆に足立からすれば自分の不利は一目瞭然の事実だった。
入口の大扉からこちらを見つめるあの体格のいい盾を構える銀灰髪の男に、水鉄砲、いや鉄パイプを持ってしても勝てそうではなかった。

ここで膠着状態になってもらっては逃げ出すにも逃げ出せない。
見事なまでに2人の考えは一致しているのだが、両者にはそんな事は分からない。




「も、もしかしてアナタって……、この殺し合いに賛同してる人ですか……?」

先に口を開いたのは足立だった。
ここは是が非でも相手と会話を続け、あの男の真意に迫る必要がある。
イチかバチか、足立は彼がゲーム非賛同者――対主催参加者である事に賭けて、あの飄々とした性格を演じる事にした。実際は自身の目論見とは異なり、彼は自分と同じくゲームへの参加を決意した者だったとは足立は知る由もない。

「いいえ」ヒースクリフは即答する。
仮にこのまま男の問いに「イエス」と答えて殺し合いにでも発展するようなら、相手の支給品次第では自分は負ける事になる。すなわちその先にあるのは死だ。
自身の反応速度をもってすれば、この近距離、相手の支給品が銃だとすれば楽に交わせるだろう。ただあれだけ広川の口からオカルティックなワードが出てきている以上、下手に動くのはリスクが高すぎた。
更にこの男の口ぶり、わざとらしさも感じなくはないが、ゲーム非賛同者のように思える。

「よかったぁ~!!てっきり僕以外の参加者は全員殺し合いに乗り気でいるんじゃないかと思いましたよ~!!」
(何を言ってるんだ。自分だって既に乗る気満々じゃないか)

そんな足立の心中に気付くことなくヒースクリフは語る。

「私も同じような考えが頭をめぐって、かなり焦ってましたよ。
でもアナタのような仲間と一番最初に出会えたのは幸運でした。
もし差支えがないようでしたら、今後一緒に行動していきませんか?」

この返答次第ではアインクラッドまでの道のりの駒ができる。
上手い具合に利用できるだけ利用して、時と場合――というよりはほぼ確実に仕留めてみ
せる。
そんな腹黒い考えを巡らすヒースクリフであったが、足立の返答は意外なものであった。

「勿論そうしましょ!!僕も同じ事を言おうと思ってたんですよ~。
ただ……」
「ただ?」
「アナタの支給品、確認させてもらえません?」

てっきり二つ返事が返ってくると思っていたヒースクリフにとっては、それはまさに想定外の返答だった。
真摯にこの状況を見たなら、いくら相手への信用欲しさでもこんな返しは普通しない。
相手が現に自分のようにゲーム非賛同を騙っている可能性だってあるのだ。
明らかにこれは愚問。ただここでそれを拒んでもまた膠着状態に逆戻りするだけだ。

そう迷っている間にも足立は自分のデイバックを手に取り、彼の元へ足を運ぶ。
足立には一切躊躇いなどない。何せ自分の支給品は水鉄砲と鉄パイプ、そして何か良く分からない錠剤だけなのだ。別にそれを隠してこの男を殺せるわけではない。寧ろ男の武器が特定できるいいチャンスだった。

「僕なんてこんなんですよ~」足立は相変わらず足を進めながら、デイバックの中に手を突っ込む。
そして間もなくして水鉄砲を取り出し、「これに」。
次に鉄パイプを取り出して「これに」。最後に錠剤入りの半透明の小袋を取り出し、「ビタミン剤ですよ~」と声のトーンを若干高くしながら言って見せた。
「ほう」ヒースクリフは、ただただ意味ありげな相槌を打つ。




「私の支給品はもう見れば分かると思いますが、今着ているこの鎧とこの盾です」

まさにスキルとゲーム上での生前の装備がそのまま使用出来たのは不幸中の幸いといえよう。ヒースクリフはそれらを支給品と騙った。

(2つか。やはり3つ支給品を持っていた自分は特殊だったのか?まあ全部クソみたいな武器だったけど)

足立は些細な違和感を覚えたが、あえて言及する事はしなかった。
あの錠剤、さっきは「ビタミン剤」と語ったが、デバイスには「シアン化カリウム」と表示された。逆に相手の支給品を言及して自分の支給品、更には真意にまで飛び火するのは、たまったものではなかった。

「守りに強い支給品ですね~。分かりました、一緒に行動してこのゲームからの脱出方法を探しましょう!!」

相手が錠剤に関して言及して来ない事を祈りながら、足立は高らかに声を上げる。
一方でヒースクリフは迷っていた。
この男の支給品、いや武装が本当にあれだけだったのなら、共に行動してもまるでメリットがない。もしやこの男は自分のように個別支給品とは別に何らかの武装を得ているので
はないのか。
考えれば考えるほど、ヒースクリフには彼が怪しく思えてならない。
最悪、弾除けに利用すればいいか。
ヒースクリフの思惑は一段落付き、「はい」と返事を返す。




その矢先の事だった。
「ドン」という轟音と共に振動が彼らのいるホールに響く。
互いに別段何かをした様子は見られない。寧ろ慌てているように見える。
ただこの轟音の出処はホールの外、そう遠くない場所からのように思えた。

「既に殺し合い、始まってるんですかね」足立は言う。

「多分そうなんでしょう。どのみち、外に出るのは危険でしょう。当面はこのコンサートホールで籠城するのが一番いいと思うんですが、よろしいですか?」

ここが地図におけるコンサートホール――座標D2だとしたなら、アインクラッドまでそう遠くはない。当面はこの男と行動を共にして、拠点を入れ替えながらあの城を目指すのがヒースクリフにとっても最も上策のように感じた。

「僕は全然大丈夫ですよ!!
こんな時に言うのもなんですけど、僕、足立透って言います。一応刑事です。よろしくお願いします」

足立は彼にそっと手を伸ばす。
傍から見ればただの自己紹介だが、彼らからすれば、相手の名前を知り、その見返りとして自分の名前を相手に伝えるというハイリスクハイリターンな行為だった。
ましてや両者ともに対主催の立場を騙り、参加者名簿を所持している以上、それはもってのほかのことである。

「ヒースクリフと言います。以後よろしく」
ヒースクリフはそう言いながら盾を持っていない方の手で彼の手を握った。

かくして奇妙な組み合わせによる共同戦線が成立したのであった。




【D-2/コンサートホール/一日目/深夜】


ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×6@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す
2:外からの爆音(浪漫砲台パンプキンによる後藤への射撃音)に警戒しつつ、当面はコンサートホールで様子見を兼ねた籠城を行う
3:足立を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする
4:キリト(桐ヶ谷和人)に会う
5:神聖剣の長剣の確保
[備考]
*参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
*ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
*キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
*電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
*ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。


【足立透@PERSONA4】
[状態]:健康、鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×8@現実
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝天城雪子・クマの殺害
2:自分に扱える武器をほぼ所持していない為、当面はヒースクリフと行動を共にする
3:隙あらば、ヒースクリフを殺害して所持品を奪う
[備考]
*参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
*ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
*支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です




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GAME START ヒースクリフ 067:三人寄れば
足立透
最終更新:2015年06月11日 17:44