051

濁【こたえ】 ◆fuYuujilTw


「来たか」

「ああ」

10mほどの距離で対峙する白髪の青年と黒髪の青年。
白髪の青年は怯える女性の首に腕を回し、ナイフをあてている。
音ノ木坂学院職員室に彼らはいた。
槙島が口を開く。

「君は人間なのかい?」

「人間の定義が何かは知らない。……でも確かに俺は普通の人間ではないと思う」

「僕は普通じゃないと称する人間をたくさん見てきた。
そして、その誰もが平凡だった。
普通であることは幸福なことだ。だが人はそれを忘れてしまう。
自分が何か特別なものであることを望む。マルティアリスはこう言った
『下手な詩人ほど自信家はいないのである』と。
人は自分が普通でないと称することで、逆説的にその平凡さを見せつける」

「…………」

「君は確かに『普通の』人間ではないようだ。しかし、本質的な部分は変わらない」

「……そうか」

「……ここに来たのは何故かな?」

サリアを助けるためだ」

「本当にそうなのかな?」

「何を言っているんだ?」

「君はある意味で僕と似ている。僕はごく普通で本質的にありきたりな人間だ。そして君も。君は自らの意志でここにやってきたと言った。素晴らしい。シビュラシステムが稼働してから、そんな人間はどれほど少なくなっただろう」

「だから俺は自分の意志でサリアを助けに来た―――」

「君は答えを探していた。『破戒』を読んだことはあるだろう。成熟していない社会は『異質なもの』を作り上げる。そう、君のような」

「……確かに俺はお前の言うように異質かもしれない。だからといって俺はお前とは違う。お前のように社会を敵視するような人間とは」

「それは誰かの受け売りかな? 社会が絶対に正しいなんてことは誰が決めたんだい? その無謬を信じてただ社会の言う通りに生きていく。そう。それがシビュラシステムが作り上げた偽りの平和だ」

「だからといって、その平和を壊したりする権利なんて誰にもない」

「君はもう少し賢いかと思っていたんだけどね。ねえ、君、知里幸惠を読んだことは? 読むと良い。平和を壊された者の苦悩が少しは分かるんじゃないだろうか」

「…………」

「僕はね、人の魂は自由であるべきだと思うんだ。人の魂の輝きの前では偽りの平和なんてものは簡単に崩れ去る。僕はそう信じている」

「……やはり俺とお前とは違う」

「いや、変わらない。少なくとも君は自らの手で自らの疑問に対する答えを探しに来た。そうだ。自らの意志を持つ時点で、僕も君も普通の人間なんだ」

「…………」


「少しは安心したかい? 僕が聞きたいのは君の相棒の方だ」

『ほう、やはりきみも浦上と同類か』

「ミギー……!」

「君のような生物は見たことがない。聞かせてほしいんだ。君がどのような意志を持っているのか」

『我々が最初持っていたのは意志ではない。『この種を食い殺せ』という本能だ』

「本能、か」

『確かに我々は人間とは異なる生命体だ。
きみは意志こそが人間を特徴付けるものであると言った。
しかしその意志とやらはどれほどのものなのか』

「自由意志の問題は古来から哲学、神学上の論争のテーマだった。
プラトン、アリストテレスからエラスムスやルターを経てリベットなどに到る。
本能と意志との関係については絶えず争われてきた。
セネカはこう言っている『最も力ある人とは、自己の主人となる人である』と」

『人間の行動も基本的には本能に基づくものではないだろうか?』

「いや、違う。人間の意志はそう簡単に割り切れるものではない。
確かに母性も、母性本能という味気ない言葉で片付けることだってできるだろう。
しかし、面白いものでね。人間の場合、母性本能と呼ばれるものは後天的なものなのだそうだ。
確かに捨て子や虐待といった行動は、本能に基づくものとはなかなか言い難いだろう。
人間が遺伝子にプログラムされた行動しかとらないのなら、人間はアイザック・アシモフが想像したロボットと変わらない。
僕はむしろカレル・チャペックの方が近いと思うんだがね」

『つまり、我々は基礎的な部分で人間と異なるというわけか』

「人間とチンパンジーとは明らかに異なる。しかしそのDNAは約99%が一致しているらしい。
君たちのDNAがどれほど人間に近いのかは分からない。おそらくは99%を下回るだろう。
でも、君はチンパンジーなんかとは比べ物にならないくらい、人間に近いように思えるよ」

『それはわたしがこうやって会話しているからそう思えるのでは?』

「人間とチンパンジーは真の意味で共存しない。人間による一方的な支配があるだけだ。
でも君たちは違う。見事に共存しているじゃないか。少なくともそれは本能によって行動する動物には出来ない芸当だ。
だからこそ、その意志を見せてほしい。僕は思うんだ。個体としての人間と共存できる君たちならば、種としての人間とも共存できるのではないかと。
オレック・カスプロとグライ・バーレのように」

「…………」

「泉くん、僕が予想するに、君の苦しみは人間的なものが失われていったことに起因するのではないだろうか?」

「…………」

「人間的なものとは、本能とやらから見た相対的なものにすぎない。なんのことはない。
君は自由意志を持っている。だからこそ君は人間から離れることは決して出来ない。
おそらく君は相棒の言葉に従わずここに来たんだろう。安心しなよ。君はすごく人間的だ。
少なくとも、シビュラシステムにあらゆることを委ねた彼らよりはずっと」

槙島の目が変わったのが分かった。

「さあ、最後に君たちの意志を見せてほしい」

ナイフに力が込められた。




新一とサリアが後に残った。
槙島は向かい来る新一に対して素早くサリアを押し飛ばし、その隙に窓から逃げたのだった。

「大丈夫か」

「え、ええ……」

呼吸は荒く、首からは血が一筋流れている。
しかし、致命傷ではない。止血をすれば大丈夫だろう。

新一は槙島の言葉を思い出していた。そして、あのパラサイトのことも。

「ミギー」

『なんだ、シンイチ』

「あいつのことをどう思う?」

『パラサイトを判別する能力を別にしても槙島は興味深い人間だった。
まるでこちらのことを見透かしているような』

「…………」

『だからといって、あの男の言うことが正しいという訳ではない』

「……サリアを守ったのは俺の意志なのか?」

『そうだろう。……もしくはわたしの意志でもあるかもしれない。
勘違いしないでほしい。わたしは君を利用したに過ぎない。きみに死なれると困るからな』

ミギーの言葉に少し混じり気を感じたのは気のせいだったのだろうか。



【G-6/音ノ木坂学院職員室/一日目/黎明】


泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(小) ミギーにダメージ(小 回復中) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品0~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:サリアの回復を待つ。
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂)を警戒。
(ただし田村に対しては他の人物よりも警戒の度合いは軽い)
3:1を終えた後で図書館でアカメたちと合流。
※参戦時期はアニメ第21話の直後。



【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:右肩負傷、左足負傷(応急処置済み) 首から少量の出血(応急処置済み)
[装備]:シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、ランダム品0~2
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
1:エンブリヲ様を守る。
2:1の為のチームを作る(ダイヤモンドローズ騎士団)。
3:エンブリヲ様と至急合流。
4:アンジュ達と会った場合は……。
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。


【G-6/音ノ木坂学院一日目/黎明】

槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:軽度の疲労
[装備]: サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式 不明支給品0~2
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
2:面白そうな観察対象を探す。
[備考]
※参戦時期は狡噛を知った後。
※新一が混ざっていることに気付いています。


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049:輝【くのう】 泉新一 066:敵意の大地に種を蒔く
サリア
槙島聖護
最終更新:2016年03月17日 07:51