085

ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE.


「あのさ、私達っていつまで一緒にいられるのかな?」
「どうしたの?急に」



「大丈夫だよ!ずーっと一緒。だって私、この先ずっとずっとことりちゃんと海未ちゃんと一緒にいたいって思ってるよ!
 大好きだもん!」
「穂乃果ちゃん…、うん!私も大好き!」




―――――ずっと一緒にいようね!




イェーガーズ本部に到着したセリュー・ユビキタス。
しかし彼女がそこに居座る時間はそう長いわけではなかった。

イェーガーズ本部の南側辺りにおいて響いてきた戦闘音。
特に巨大なライフル―――自分の装備で言うなれば十王の裁きの正義・泰山砲のそれにも匹敵するだろうほどの発砲音が聞こえてきたのが大きかった。
それが無ければ音そのものに対して注意を払うこともなかっただろう。

おそらくは南で悪と戦っている何者かが存在する。
そう考えたセリューは、イェーガーズ本部に結衣と卯月を残し一人その場所へと向けて走って行っていた。

無論二人を残していくことに対して不安がなかったわけではない。
しかし卯月は目を覚まさず、結衣も自分のような戦う術を持った人間ではない。連れて行って危険に晒すよりは、安全な場所であるイェーガーズ本部で待機してもらっていた方が安心だ。

そうしておそらくは戦いがあったであろう場所まで辿り着いたセリュー。
しかし、そこは既に戦いが終わった後だったようであり、悪も、それに狙われているか弱き人達もいなかった。

あったのはまるで猛獣か何かにでも食い散らかされたかのような大きな血だまりと人間の体だっただろうものが二人分だけ。
セリューは間に合わなかったことを心の内で謝りながらもこれを成した悪に対する怒りを燃やした。

悪がいないと分かった以上、この場に留まっている理由はない。卯月達のいるイェーガーズ本部に戻るべきか?
しかしまだ近くに悪がいる可能性はないわけではない。もう少し周囲を探索していくべきだろうか?

思案するセリューの視界の隅にふと花火のような明かりが点滅した。
太陽が登りかけた薄暗がりの景色を、不自然に発生する爆炎が照らしていた。

間違いない。あの場では誰かが戦っている。
それはこれを成した悪か、それとも別の何者か。

どちらにしても、悪ならば裁かねばならない。
セリューは急ぎそちらへと向けて走り始めた。


放送がなり始めたのは、そのしばらく後だった。



セリューが爆発から生まれた光を見た時間から数分といった辺りを経過した頃だろうか。
ウェイブはマスタングを抱え、黒子がその後ろで穂乃果と花陽の二人を守るように周囲を見回しながら歩いている。

ウェイブがマスタングを休ませる場所として選んだ場所、イェーガーズ本部。

あそこにならば、少なくともマスタングの怪我に対して応急処置くらいならばできるだろう。
欠損した腕そのものをどうにかしようとしたならばそれこそDr.スタイリッシュほどの人にでも頼まねばどうにかなるものではないが。

「イェーガーズとは、確かウェイブさんの所属している組織、と言われていましたが、一体どのようなものなのですか?」
「…そういや詳しい話はしてなかったな。まあ、帝都の治安維持をする組織ってところかな」
「いわゆる警察のようなもの、ということですのね」
「ああ。ただ俺のいた国には賊も結構たくさんいてな、荒事になっちまうことも少なくない。当然怪我をすることだって少なくはないしな。
 だから本部に向かえばそれなりには医療設備もある。マスタングの応急処置ができるくらいには」

最も、そこに辿り着くまでに後藤のような危険な存在に合わなければ、という前提があってだが。
いくらウェイブと黒子が戦いに心得があるとは言っても、戦えない穂乃果と花陽、そして重症のマスタングを連れた現状でまたあのような無茶ができるとは思えない。

「あの、ウェイブさん…」

と、そんな時穂乃果は唐突にウェイブへと話しかけた。
若干不安そうな声色で、恐る恐る問いかけるように。

「……ウェイブさんって、マスタングさんと同じように軍人だって言ってましたよね?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「それって…、やっぱり人を殺したりとかってするんですよね……?」
「ああ、否定はしない。危険種だけ狩っていられりゃそれはそれで気持ちは楽だったんだけどな、やっぱり世の中を乱す賊ってのはどうしても居なくならねえ。
 そういう奴から穂乃果達みたいな、何の力もないような人を守ろうとしたらどうしたって避けては通れねえんだ」
「そう、なんですか……」
「…やっぱり怖いか?」
「その…そういうわけじゃないんですけど、さっきの件でマスタングさんとどう向き合っていけばいいのかっていうのに、もしかしたら参考になるんじゃないかなぁ、なんて。アハハ…」
「穂乃果ちゃん……」

心配そうに声をかける花陽。
花陽はマスタングと共に行動した時間は穂乃果よりも長く、またマスタング自身が吐露した、自分が守れなかったものに対する想いからまだ彼に対する理解があった。
しかし穂乃果はそれほどの時間がなく、またエンヴィーの策の影響で無意識下での恐怖がほんの僅かとはいえ残留している。それがマスタングに対する距離を縮め辛くしていたのだ。

「……こんな時、海未ちゃんだったらきっと『もっとガツンとぶつかってみればいいじゃないですか。その方が穂乃果らしいですよ』みたいなこと言うんだろうなぁ…」
「ハハハ、よくお前のこと分かってるいい友達じゃねえか」
「はい!ことりちゃんも海未ちゃんも、私にとっては大切な、とっても大切な友達です!
 それだけじゃない、花陽ちゃんも凛ちゃんも真姫ちゃんも、みんな大事なμ'sの仲間なんです!」
「なら、こんなところからみんなでとっとと抜けだして帰らねえとな!
 だけど……そのためにはまずマスタングとちゃんと話さねえと、な」
「…そう、ですね!私、あんまり難しいこと考えるの苦手だからガツンとぶつかっていくべきですよね!
 よし、高坂穂乃果、ファイトだよ!」

ウェイブの言葉を受けて、自分を鼓舞するように声を上げる穂乃果。
そんな彼女を、安心したように見つめる花陽と黒子。


そんな時だった。


―――ザザッ


どこからともなく、声が周囲に響き渡ってきたのは。



「クロメさん……」

放送を聞き終え、一通りの情報を記したセリューは一人の人物の名前をポツリと呟いた。

呼ばれた名前は16人。

南ことり、浦上の二人の悪を除けば、自分の知らぬところで14人の人間が命を落としたことになる。
その全てが悪であってくれたならば嬉しいことであるが、そんなことは事実として無いのだろう。
死者の中には、同じイェーガーズの仲間であるクロメの名前も入っていたのだから。

またしても、大切な仲間が命を落としていった。

ナイトレイドに殺されたオーガ隊長、そして捜索任務中に行方をくらましそのまま帰ってくることはなかった恩人のDr.スタイリッシュ。
そして今度は、仲間であるクロメ。

「…クロメさん、あなたを死に追いやった悪は私が必ず裁きます…!」

悲しみの中で、名も知らぬクロメの仇への憎悪を増幅させながらも、セリューはあの戦闘があった場所へと向けて歩を進め続けていく。

そんな時だった。


何か騒ぐような声がセリューの耳に届いた。
その中には聞き覚えのある声も一つ混じっている。

もしかしたら、さっきの爆発の件で戦っていた人達が近くにいるのだろうか。
悪ならば裁く、そうでなければ保護する。それがイェーガーズである自分の使命。

セリューは駈け出した。
そこにいる者が誰であるかということを意識することもなく、ただその基準、そして意志のみを己の胸に秘めて。



覚悟はしていた。

佐天涙子。
クロメ。

共にここにいる黒子、マスタング、そしてウェイブにとっては関わりのあった人物。
友人であったり、出会ったばかりとはいえ一時行動を共にした者だったり、仲間であったり。

そして、天城雪子。
マスタングの罪の象徴。


それでも、彼らの名が呼ばれる事自体は既に覚悟をしていた。その死を何かしらの形で目にしていたのだから。
あの名前の中には、あの名も知らぬ犬も含まれていたのだろう。


だが。

「……え……?」
「凛…ちゃん……、ことりちゃん、海未ちゃん……?」

絞り出すような小さな声を上げたのはその3人の誰でもなく。
そして呼ばれた名前を反響させるように呟いたのもまた別の少女。


顔から血の気を引かせた穂乃果と花陽。


その呼ばれた名の中には。

南ことり。
星空凛。
園田海未。

他でもない、二人にとって大切な仲間が含まれていたのだから。


「嘘……」
「そんな………、、どうして………」

嘘だ、と言い張ることができればどれほどよかっただろうか。
しかし、穂乃果と花陽は目の前で命を落とした雪子の姿を見ていた。


「ま、待ってよ、さっきの後藤って人言ってたよね。凛ちゃんとこの先で会ったって!
 だったらまだ凛ちゃんは生きてるんだよ!だから海未ちゃんもことりちゃんも――――」
「…穂乃果!」

それでもほんの一縷の希望、いや、まるで藁にでもすがるかのようにそう言う穂乃果。
そんな彼女に対し、ウェイブは苦々しい表情を浮かべながら呼びつける。

「お前も目の前で見てただろ…!呼ばれたクロメや雪子はもう死んだ…。
 だったら、お前の友達は、さっきの男に――――」
「違う!そんなことない!!だって、あの人凛ちゃんが死んだなんて一言も言ってなかった!」
「言わなかっただけだ、生きてるって保証もねえ…!」
「分からないよ!まだ生きてるかもしれない、あの放送が間違ってるだけかもしれないじゃん!!」

現実を突きつけるように告げるウェイブに対し、穂乃果はそれでも、と言い続ける。
しかしそれは傍からでは自分にそう言い聞かせるための自己暗示にしか見えなかった。

あの放送が間違いだ、と自分に言い聞かせることで現実から逃げようとしているだけなのではないかと。
だが、ここで逃げていても穂乃果のためにはならないだろう。

「花陽ちゃん、行こう!早く凛ちゃんを探そう!そしたらきっと海未ちゃんとことりちゃんが死んだってのも―――」

と、穂乃果が地面に座り込んだ花陽の手を引いて凛がいると言われた場所へと向かおうとしたその時だった。


―――キュウゥ!

周囲を見回していたコロが急に一吠えして、ウェイブ達の元を離れて駈け出したのは。

いきなりの行動に、思わず穂乃果も足を止めて視線をそちらに向けてしまう。
その隙に、駆け出そうとした穂乃果の手を黒子が引き、離れることを止めた。

「おい、コロ!どうし―――」
「アンッ」
「コロ!」

離れるコロの元に、ウェイブにとって聞き覚えのある声が近付く。
そうしてウェイブ達の目に入ってきたのは、軍服のような衣装を纏ったポニーテールの女。
ウェイブは知っている。それが帝都警備隊のものであると。だとするならば、そのコロが駆け寄って言った主は。

「セリューか!」
「ウェイブさん!」

同じイェーガーズの仲間、セリュー・ユビキタス。

「よかった。クロメさんのこともあって心配で……って怪我してるじゃないですか!」
「別にこれくらい大したことじゃねえよ。それよりも仲間の方がやべえ」

と、ウェイブはマスタングへと視線を向ける。
腕を失ったその傷は自分の肩の切り傷とは比べ物にならない。

「……ウェイブ、その女は」
「エンヴィーじゃねえか、ってんだろ?心配ねえよ、コロが懐いてる。本物のセリューだ」

その時、まだ警戒するような目を向けていたマスタングに、証明するように告げるウェイブ。
エンヴィーの変身能力がどれほどのものなのかを把握しているとは言いがたいが、少なくともその精神性までを似せることはできないはずだろうと推測する。帝具でもそこまでできるものは聞いたことがない。
もし変身したエンヴィーであったならば使い手との精神的な相性が重視される帝具がセリューにいつもどおりの反応など示すはずもない。


そうしてセリューの方を見たウェイブは、セリューの方にまるで警戒するような視線を感じ取った。

目線の先にいるのは、マスタング。

「あなたは、ロイ・マスタングさんですね?」
「ああ、どうして私の名前を?」
「いえ、私が出会った人があなたの知人と会った、とのことで。確か、エドワード・エルリック、って言ってたような」
「鋼のと会ったやつがいるのか。どこに向かったかなどは聞いていないか?」
「その前に一つ聞かせて頂いてよろしいでしょうか。ロイ・マスタングさん、あなたは人を殺したことがありますか?」

唐突にそうマスタングに問いかけるセリュー。

「おい、どうしたんだよこんな時に―――」
「大切なことです。答えてください」
「…質問の意図は分からないが、人を殺したことは、あるな。
 何しろ私は軍人だ。時として人の命を奪わねばならぬこともある」
「なるほど、軍人ということは同業の方でしたか。これは失礼しました」

そのマスタングの答えだけでセリューの中から警戒心が薄れていっていた。
質問の意図、そして理由が分からぬウェイブは首を傾げ、マスタングは質問をする過程で出てきた名前についてをセリューに問う。

「それで、鋼のはどこに向かった、と?」
「ああ、その件はすみません。嘘をつかせて頂きました」

悪びれることもなくそう告げるセリュー。



彼女が言うにはこういうことらしい。
セリューの保護した人間が殺人者名簿なるものを支給されており、この場に連れてこられる前に人を殺した経験がある者の顔写真と名前が載せられていた。
そしてその中にマスタングという名前があった、という。

無論、それだけで悪人と決めつけるのは早計であり、ウェイブと行動を共にしていた仲間であるということから一度試した、という。
エドワード・エルリックの名前を出したのは名簿でマスタングのすぐ近くに名前があったこと、そして殺人者名簿に名前がなかったことから悪人ではないと判断した上でのことらしい。


(ずいぶんと、したたかな方ですのね)

その嘘を混ぜてマスタングを試すやり方を見て、黒子はセリューという存在に対して自分の中で微かに警戒心のようなものが生まれるのを感じた。
ウェイブの仲間、と言っていた点から悪人ではないのだろうが、その試すようなやり方自体はあまり好意的に見られるものではなかった。



「…あの、セリューさん。セリューさんは北の方から来たんですよね?
 凛ちゃん……、星空凛っていう子と会いませんでしたか?」

そんな彼女に、穂乃果は恐る恐る問いかける。
心配そうな顔で聞く穂乃果の後ろで、花陽も微かな願いに縋るような瞳でセリューを見ている。

「いえ、ここに来るまでの道中は誰にも会いませんでしたが。
 星空凛…?もしかしてμ'sの星空凛ですか?」
「え、セリューさん、μ'sを知ってるんですか?」
「その前に、あなた達のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「…高坂穂乃果です」
「小泉、……花陽です…」
「風紀委員『ジャッジメント』、白井黒子ですわ」
「高坂穂乃果、小泉花陽……。それに白井黒子さんですね」
「こいつらは仲間だ。皆信頼できるやつらだよ、セリュー」

ふと妙に嫌な気配を感じたウェイブは、セリューの警戒を解こうとそう告げる。
警戒の理由は分からないが、その様子にはかつて強盗を行った者をコロに食わせて処刑していた時のような嫌な予感を感じ取った。

「本当ですね?何か怪しい気配があったとか、そんなことは」
「ああ、俺が保証するさ」
「…ふむ」

と、穂乃果の傍に歩み寄ったセリューは。

シュッ

穂乃果の目の前にいきなり手を伸ばし、次の瞬間にはその背後に移動。
その腕を掴み取り地面へと押し倒して倒しこんだ。

「ぃっ……!?」

わけも分からず地面へと倒れさせられ、混乱しつつ小さく呻く穂乃果。
すぐ傍でその様子を見せられていた花陽も目を白黒させている。

(……フェイントにも気付かず、私の行動に対するアクションを見せる気配も反撃の気配もない。横の小泉花陽も同様。
 ウェイブさんの言っていた通り、ただの杞憂?)
「どういうつもりですの?」

と、黒子が警戒心を露わに構えを取る。
ウェイブもまた不穏な気配に思わずセリューに問いかける。

「おい!どういうつもりだセリュー!?」
「失礼しました。少し心配事があったので確かめさせてもらったのですが、どうやら杞憂だったようです」
「それが無力な一般人にそうやって押し倒す理由になりますの?」
「それを確かめる必要がありましたから」

と、警戒を止めたセリューはそれまでの気配をどこへやらにっこりと笑顔を向けて起き上がろうとする穂乃果へと手を伸ばした。

「アイドルでμ'sなる集団に属しているお二方ですね。南ことりから話を聞いています」
「ことりちゃん…?ことりちゃんと会ったの?!」
「どこでですか?!」

予期せぬ仲間の名前に思わず詰め寄る穂乃果と花陽。
ことりの名前を聞いて、それまで意気消沈していた二人の目に僅かに期待するかのように光が戻る。
もしかしたら、という希望を込めて。

しかし、セリューは悲しそうな目を穂乃果達に向けていた。

「悲しいことですが、南ことりは悪の道に落ちました」


「えっ………」

言った言葉が理解できなかった穂乃果は思わず聞き返す。
そんな穂乃果の様子を意識しているのか傍からでは判別できぬままに、セリューは語り続ける。

「その様子だとどうやら気が付かれていなかったようですが、彼女は潜在的な悪の素質を持っていたのです。
 私の目の前で殺人という悪の凶行に走りました」
「嘘……だよね……」
「おいセリュー!それ以上は――――――」

セリュー・ユビキタスという人間についての人となりをある程度とはいえ把握していたウェイブがそれ以上穂乃果の目の前で言わせるのはまずいと静止をかけようとする。
だが、遅かった。

悲しそうな表情を、とても輝いているように見える笑顔に切り替えたセリューは告げた。

「ですがご安心を!そんな彼女はこの私、セリュー・ユビキタスがしっかりと息の根を止めておきました!」


その後何があったのかは私、高坂穂乃果自身にも断片的にしか思い出せません。

ウェイブさんや黒子さんが私を止める声が聞こえたような。
笑顔を向けるセリューさんに掴みかかって問いただしたような。

そんな気がします。

「おい!落ち着け穂乃果!」


「やはり気付かれていなかったのですね。南ことりの悪の素質には。
 殺しておいて正解だったようです」


「高坂さん!」

だけどセリューさんの言うことはことりちゃんが悪人で、だからこそ死ななければならなかったという一点張りで。

理解できなかった。

セリュー・ユビキタスという人間が。
ことりちゃんを、大切な友達を殺したということを、こんなとても綺麗な笑顔でいう女の人が。

その事実を、まるで競技会で一位を取ったかのような笑顔で語るこの人は。

本当に、ウェイブさんの仲間なのだろうか?



本当に、自分と同じ人間なのだろうか?


そんな疑問が頭の中で首をもたげかけた時。

バサッ、ゴトッ

組み合った拍子に、セリューさんのバッグから何かが転げ落ちました。

私の視線も思わずそっちに向いてしまい。
それなりの重さを持ったそれが、見覚えのあるベージュ色の毛を持ったもので、そしてとても見覚えのある形の結び方をされていることに気付いた時。
そして、それの真ん中辺りを、まるで何かで割ったかのように大きな赤い模様が、傷がついていることに気付き。


「おっと、すみません。見苦しいものを見せてしまいましたか?」

悪びれる様子もなくヒョイとそれを拾い上げたセリューさんは。


「首輪回収のために斬らせてもらったんですが、この首自体を悪のものとして晒しておくべきかどうか迷っているうちに持ってきてしまいました。
 驚かせてしまったようですし、やっぱりずっと持ち歩くのも好ましいものではないですね。コロ!」
「キュウゥ!」

と、コロに向けてその生首を投げつけ。
口を巨大化させたコロがそれをパクリ、と噛み砕きました。

ゴリ、ゴリ、ゴリ


(―――――なん、で…?)

だってあれはことりちゃんの頭で。
どうしてコロちゃんがそれを食べているんだろう?
あんなに美味しそうな顔で。

それを見た瞬間、頭の中が真っ白になって。
私がもう何を見ているのかも分かりません。
もしかしたら、理解すること自体を止めたのかもしれません。

だから、気がついたら私はみんなのところから離れて走りだしていました。
理解することを恐れた私の中の何かが、その場から離れさせていた。
無我夢中で、その現実から、そして目の前にいた、人の形をした何かから逃げるように。





皆から離れていく穂乃果。
しかしとっさに彼女を呼び止められる者も、追いかけられる者もその場にはいなかった。
かろうじてセリューが穂乃果を呼び止めるかのように声を上げたくらいだろう。

負傷中のマスタングはもとより。
花陽は見せられたことりの生首、そしてその捕食というショッキングな光景に意識を失っている。
黒子ですらも、顔を青ざめさせて唖然とした表情を浮かべてセリューを見ていた。

「セリュー…、お前……!」
「はい、何でしょう?」

問い詰めようとするウェイブ。
しかしセリューの表情が人を殺したとは思えないほどに澄んでいるのを見て、言ってどうにかなるものではないということを悟る。
きっと、以前の強盗を殺したことを悪びれもしなかった時のように自分のしたことを誇らしげに語るだけだろう。

「…………セリュー。お前、イェーガーズ本部から来たって言ってたよな?」
「はい!私の保護したガハマちゃんとウヅキちゃん達もそこで待っています!」
「…じゃあ、マスタングや花陽達と一緒に先に行っていてくれ。特にマスタングは怪我の治療を急ぐ。
 俺は、穂乃果を探してからそっちに向かう」
「分かりました。では私が先行して道の安全を確かめて来ますね!!」
「……ああ、頼んだ」

そうしてウェイブ達一行の元を離れて先行していくセリュー。
残った黒子、マスタング、そして意識を失った花陽に対してウェイブは目を向ける。

「…お前たちは先にイェーガーズ本部に向かってくれ。穂乃果は俺が連れてくる」
「ウェイブさん、あの方と一緒に行け、というのですか?南さんのご友人の小泉さんにも?」
「…ああ!分かってるよ!こんなこと言う俺がおかしいんだってことぐらい!
 だけどあそこに行けば少なくともマスタングの怪我の処置もできるし、あいつがいるってことは危険なやつがいるってこともないはずなんだよ!」
「…、私ならこのくらいの傷。…それより花陽を気にしてやれ…」
「無理はすんな。腕を斬られてるんだろ。傷の具合ならお前の方が重症なんだ。
 大丈夫だ、あいつの、セリューの腕なら俺が保証する」

やせ我慢をしようとするマスタングを制するウェイブ。
そしてそのまま穂乃果を追って走り去ろうとして。

その眼前に黒子が姿を表した。

「そこまで分かっておいでなのでしたら、ウェイブさんがあの方についていくべきではなくて?」
「黒子…、お前は先に――――」
「高坂さんのことは私が保護しに参りますわ。
 小泉さんとマスタングさんのことはあなたが守ってくださいな」
「な、バカ!お前が行くことなんかねえよ!俺が穂乃果を――――」
「…私、ウェイブさんの人格面においては信頼して大丈夫なお方だと思っておりますし、それは今でも変わってはおりませんわ」

目を伏せながらそう語りかける黒子。
よく見るとその顔色はあまり優れているとは言いづらく、若干青ざめているようにも見える。

「だけどウェイブさん、あなたは言いましたわよね?人々を守るのが自分の任務、だと。守るべき者を守るためにこうして軍人になったのだ、と。
 そしてあの方はご同僚なのですよね?
 ……あの方は、あなたの言うように本当に人を守る方なのですか?」

黒子は例えいかなる悪人であっても手にかけたことはない。
学生たちの起こす騒ぎ、罪などたかが知れているとはいえ、自分の能力自体を人を傷つけることに使ったことはない。ましてやそれで人の命を奪うなどもっての他だった。


だが、あのセリュー・ユビキタスという女はどうだったか。
穂乃果、花陽の二人の友人である南ことりが本当に人を襲ったのかどうかは実際に見たわけではないから分からない。
しかし仮に本当だとしても、人を殺したという事実をあそこまで嬉々とした顔で語る姿は黒子には異常な光景にしか見えなかった。

ならその姿は、その殺された対象の友人でもある高坂穂乃果には一体どう映っただろうか。

そしてあの生首。それをああも人の死を冒涜するかのように扱う彼女の姿。
あの生々しいものを流れるように不意打ちで見せられたことは黒子にすらもショッキングなものだったのだ。
ましてやその友人、高坂穂乃果、小泉花陽にはどれほどの衝撃を与えただろうか。


「今の現状であなたが向かうのはあまりいい考えとは思えませんの。ですから、高坂さんのことは私にお任せになってください」
「だけど――――」
「どうしても!どうしても追われたい、と、そうおっしゃられるのなら!」

それでも尚も自分で向かおうとするウェイブに向けて、思わず声を張り上げて。

「あなたは高坂さんのご友人を殺した方の仲間なのだということを、しっかりと受け止めた上で決断してくださいまし!」

非難するわけではない、しかし厳しい瞳をウェイブに向けて、黒子はそう問いかけた。



覚悟していないわけではなかったはずだった。

こんな場所だ、確かにセリューのヤバさは実際目にしていたこともあってあいつはそういう道を選ぶんだろうなという察しくらいはついていた。
だけど、それを向けられた対象が今の自分達の仲間だったら、などということは想定していなかった。
穂乃果や花陽は守るべき者で、その友人もきっと皆そうなのだろうと思っていたから。

セリューが嘘を言っているとは思えない。どのような考えがあったのかはともかく、南ことりが人を殺そうとしたことは事実なのだろう。
もしかしたら誤解があったのかもしれない。あるいは何かの間違いだったのかもしれない。

だが、もし本当だったら、自分ならどうしただろうか?
もしその南ことりに出会ったのがセリューではなくて自分だったら。

それはこの場に来て最初に決意していたことだった。
殺し合いに乗った相手には容赦しない、と。
行為に対する思いはともかく、結果はきっとセリューと同じだっただろう。

その事実が、ウェイブの足を迷わせていた。

黒子の言っていた言葉。
今の俺に、穂乃果の悲しみを受け止めることができるのか、その資格があるのか。

穂乃果は黒子に任せてセリュー達とイェーガーズ本部に向かうべきか。
それともやはり自分で穂乃果を追うべきなのか。


(くそ……!俺は――――――)




(―――違う)


一体何から逃げているのか、それを穂乃果自身意識しているわけではなかった。

ただ、今足を止めたら考えたくない、認めたくない事実が心の中で確定してしまいそうな、そんな気がしていた。
だから、ひたすらに走り続けた。
どこに向かっているのかは分からない。いや、どこでもよかったのかもしれない。

(違う、違う違う違う違う違う―――――)

――どうして、ことりちゃんが死なないといけなかったの?

いつも優しくて、ずっと一緒にいてくれた友達で。
昨日も一緒に練習して別れたはずの、大切なみんなが。

あの9人が揃うことは、もう無いなんて。
もう、ことりちゃんと海未ちゃんと一緒にいられる時はこないなんて。
その事実が、ひたすらに穂乃果の心に闇を落とし続けていた。



(そんなの、違う……違う―――――)




それから逃げるようにひたすらに走り続ける穂乃果。
しかしその闇は、逃げれば逃げるほどに穂乃果の心自身を深く覆っていっていることに、彼女は気付かない。



【C-6/1日目/朝】


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
1:ウェイブの選択に合わせて高坂を追うかマスタング達と動向するか決める
2:エンヴィーは倒すべき存在。
3:御坂を始めとする仲間との合流。
4:マスタングに対して――。
5:セリュー・ユビキタスに対して強い警戒心と嫌悪感。
[備考]
※参戦時期は不明。

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、左肩に裂傷、怒り、悲しみ、迷い
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:穂乃果を追う?穂乃果は黒子に任せてイェーガーズ本部に向かう?
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:今後の方針を固める。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、左肩に穴(止血済み)、両足に銃槍(止血済み)、右前腕部切断(焼いて止血済み)
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、冷凍されたロイ・マスタングの右腕
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:穂乃果と、そして仲間たちと話してみる。
1:傷の治療のためにイェーガーズ本部に向かうべきだが―――?
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。 エンヴィーは殺す。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。


【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)、精神的ショックにより気絶中
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ
    スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す?
1:??????????????
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。



【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、不明支給品0~4(確認済み)、首輪×2
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
1:悪を全て殺す。
2:由比ヶ浜結衣、島村卯月と合流するためウェイブの仲間と共にイェーガーズ本部を目指す。
3:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:取り立ててμ'sメンバーを警戒する必要はない?
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※ことりの頭部はコロによって食べられました。







【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的ショック(大)、錯乱中
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、イギーのデイパック(不明支給品0~2)
     幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す?
0:嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
1:とにかく逃げたい
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※幻想御手はまだ使っていません。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています

※ウェイブ、黒子のどちらが穂乃果を追う選択をしたか、穂乃果がどの方向に向かったかは次の書き手にお任せします。


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036:やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 セリュー・ユビキタス 089:ダークナイト
076:Wave Live! ウェイブ
高坂穂乃果
小泉花陽
ロイ・マスタング
白井黒子

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最終更新:2015年08月28日 05:48