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NO EXIT ORION ◆BLovELiVE.


『六時間後にまたこうして君達に話せることを祈っておこう。』

放送が鳴り終わる。
田村玲子、西木野真姫、初春飾利の3人のいる場所は346プロの建物内。
転移結晶でワープを行って間もなく、放送が鳴り始め、それが今終わった。

「……大丈夫?」
「…………大丈夫…です…」

初春の顔色を見て心配した真姫が声をかける。

放送で呼ばれた名前の中に穂乃果や花陽、そして泉新一を始めとしたあの場所で出会った者達の名前はなかった。
しかしそれに安堵することは、初春の前では許されることではなかった、と真姫は自分を戒める。

「…婚后さん……」

初春にしてみれば美琴や黒子、佐天と比べればそう親しい間柄ではない。
学校も能力のレベルも違う、黒子と共に風紀委員の仕事をしていなければ雲の上のような存在だっただろう。
だがそれでも、友達の一人であったことには代わりない。
癖はあるものの強力な能力は幾度となく美琴の危機を助け、自分達の力にもなってくれた。

だが、そんな彼女ももういない。

「……大丈夫です。こんなところで私一人落ち込んでいる場合ではありません」

きっと彼女ともっと親しかった黒子達の方がもっと辛いだろう。
だけどそれでも、あの人達は立ち止まりはしないと初春は信じている。
だからこそ、自分も今できることをしなければならない。

そう初春は顔を叩いて意識を切り替えて、キーボードの前で手を動かす。

「…首輪、か……。このタイミングで何を考えている?」

田村玲子は思考する。
放送により語られた首輪交換システム。
正直なところ、こうなるとあの場所に美遊・エーデルフェルト、巴マミの二人の首輪をおいてきてしまったことに後悔を覚えなくもない。
首輪を交換する目的がなくとも、首輪交換によって余計に力を得られては困る者というのは存在する。
海未やマミを殺したサリア、そして戦闘力ならばかなりのもののブラッドレイや後藤といった人物が最たる例だ。

しかしそれよりもどうしてこのタイミングなのかが気がかりだ。
殺し合いの促進。首輪を積極的に得させることで参加者の強化を促し殺し合いそのものの活性化を図ること。
今呼ばれた死人の数は12人。これで残りは44人だ。その人数は決して少ないものではない。
だが、もしかするとそれでも不足だというのだろうか。
首輪回収そのものを目的としている。
死人が増えればそれだけ集められる首輪の数も増える。そうなれば初春のような解析技術を持った者の手に渡ることもあるだろう。
だが、それが困ることであれば解析困難な技術を用いておけばいい話だ。
これだけのことをやっておきながらあっさり解析可能な首輪を作っているというのもあまりにお粗末。
あり得るとするならば、何か広川達にとっても困る何かがこの放送までの間にあったか。

首輪回収が目的なのか、手段なのか。
だがどちらにしても首輪を渡す理由はない。

(まずは今この建物での解析が優先か)

「何か分かったかしら?」
「…はい。西木野さん、少しいいですか?」

PCの置かれたデスクの前に座った初春は、その横に置かれていたタッチパネル式のタブレット端末を差し出す。
これは元々このデスクの棚の中に入っていたもの。
中に何かデータが入っているわけでもない、ただの空っぽの端末。せいぜいこの建物内に敷かれたネットワークに繋ぐくらいがせいぜいだ。
しかしそれも初春の手にかかればハッキングに使う道具と成り得るものだ。

「データ自体は先程のものと同じ形式です。西木野さん、お願いできますか?」
「分かったわ」

8進数で示された記号。これを音符へと変換して曲とする。
そしてその楽曲を歌うことでロックを解除するのだ。

「これで、この場所の解析も終わりですね」
「そうだな」
「どうしますか?このまま学校に戻るか、それともコンサートホールに向かうか」
(コンサートホール、か…)

数字を音符へと書き直す真姫を見ながら、田村は考察を思い返す。
そもそもこの346プロとコンサートホールを目的地としたのはどちらも音楽に関わるものであったからだ。
そして実際にこうしてこの場所ではその結果を見つけ、成果へと繋げられそうになっている。

(音楽…、しかし本当にそれだけか?)

しかし、あまりにもうまく行きすぎている。それが田村の中に疑念と警戒心を生み出していた。
確かに試されているのだろう。
もしハッキング技術を持つ初春と音楽に詳しく作曲経験もある真姫が揃っていなければこうも解析が進むことはなかっただろう。
あるいは他に彼女達の能力のような技能を持ったものがいたとするならばまだ難易度は下がるだろう。

だが。

「初春さん、もしここの解析が終わればどのくらいのエリアが掌握できるのかしら?」
「それはやってみないと分かりませんが、もし音ノ木坂学院と同じ法則であるとするならばA5からD8の16エリアになると思われます」
「…………」

つまりはもし同じ法則通りにいくとするならば、コンサートホールを解除することでまた周囲の16エリアが解除されるということになる。
だとすると。

(残り16エリアはどうなる?)

どのような形に解除されても、中途半端な形で東西で分断されることになる。
もしこれまでの規定通りにA1からD4までの1/4が解禁されるとしても特にA4までは少し距離がありすぎるようにも思う。
あるいはここだけで16のエリアを管制しているというのならばいいが、何かが引っかかる。

(もしその16エリアに可能な限り等間隔な回線を繋ぐなら、B2からC3までの場所を中心とするのが効率がいいと考えるがここにある施設は市役所だけ………。
 …市役所?)

ふと、田村の中で何かが引っ掛かった気がした。

「あーもう、何これ!」

と、思考を進める田村の耳に届いたのは真姫が頭を抱えながら上げるぼやき声。

「どうした?」
「曲自体は分かったんですけど、これμ'sの楽曲のどれにも一致しないの!」


音ノ木坂学院で解析した際の曲はμ'sの楽曲、『START:DASH!!』であった。
自分の思い出の中でも深い意味を持つ曲だったこともあってそれ自体はすぐに気付くことができた。
だが、この曲のリズムは作曲した覚えのあるものではない。
一応A-RISEや他のスクールアイドルの曲からも思い出せる限り考えてみたが一致するものはなかった。

「確か、アンジュが言っていたわね。お前の友人の…確か星空凛だったか。彼女と同じ名前を持ったアイドルがいた、と。
 この建物はそのアイドル達のための建物だったのかもしれないわね」
「つまり、この346プロってところの関係者に聞かないと分からないってこと?」
「少なくとも数撃って当てられるようなものではないでしょうし。
 そのアイドルが見つかるまでは一旦保留ということになるわ」
「ちょっと待って!もう少しだけ、もう少しだけ探させて!何か手がかりになるものがあるかもしれないから!」

そのまま真姫はタブレットを持って部屋を飛び出そうとしていく。
おそらくこの建物内に資料がないかを探して回るつもりなのだろう。

「それじゃあ、西木野さん。そのタブレットにつけている通知機能には気をつけてください。
 それはこの建物周囲に人を発見した際に知らせるようになっていますから」
「分かったわ」

そう言って真姫は一人で飛び出していく。

自分でできることを見つけたのだ。一人でやってみたいという思いがあるのだろう。
ここは任せてみるとしよう。

「田村さん、私も少しいいでしょうか?
 ハッキングの最中にこの建物内には監視カメラがあることに気付いたので念の為に復旧と確認をしてみたいんですけど。
 それに、外を走らせているドローンからの映像もそっちから見られるようになっています」
「ふむ、じゃあ私も同行させてもらうわ。警備室ということになるのかしら?」
「はい。一応場所は把握していますので」

そのまま何かをメモした紙を手にして立ち上がる初春。
そんな彼女に追随して田村もその部屋から立ち去っていった。


施設内の案内図を見ながら建物を駆け回ることしばらく。
建物同士を繋ぐ渡り廊下を抜けた先にあった別館。
そこにはレッスンルームや撮影スタジオなど様々な部屋がある。
名前を見るだけでも、それがアイドルの仕事に関わっているものだということは分かる。

その幾つかの部屋を駆け回り、その中を漁ってはまた次の部屋へと出て行くということを繰り返すこと数回。
ようやく目的のものを見つけることができた。

これは一か八かの賭けのようなものだったが、音ノ木坂学院の中にあったものが知る限りでは現物に近い様子に再現されていたことから思いついたことだ。

並べられたのは大量のCD。
ジャケットには一人しか映っていないものやコンビ、トリオを組んでいるもの、多数のアイドルが並んでいる写真など様々だ。
ここがアイドルのプロダクションであるのならば売り出しているCDくらいは置いてあるはず、そう考えて探し出したのだ。

あとはこの音階に合う曲を探すだけ。
なのだが。

「…すごい数……。見つけられるかしら……?」

ざっと見ただけで20~30枚はある。
もしかしたら探せばまだ出てくるかもしれない。
この中から、目的の音階を持ったものを探しだすとすると、どれくらいの時間がかかるだろうか。

そもそもこの音符が最初から示されているとも限らない。
もしかしたら曲の1パートを切り出したのかもしれない。
その場合は最初から最後まで曲を聞いて吟味する必要がある。

「…でも、やらなきゃ……。これが私にできることだから……」

真姫は、部屋に置いてあったプレイヤーにCDを挿入し、再生ボタンを押した。




大量のモニターが設置された室内。
そこには一つ一つが違う場所の様子を映し出している。
本来そこにいるべき人が誰一人映らないことを除けば、その風景には何も怪しいところはない。

「全部廊下らしいけど、室内の光景は見られないのかしら?」
「それがどうもここから確認できる限りだと監視カメラは廊下にしか設置されていないみたいで。
 おそらくこの建物の本来の設置場所を再現した結果こうなったというものだと思いますが」

室内。アイドル達にしてみれば着替えをする部屋やプライベートなものを見せることもあるような場所を覗かせるほど無神経ではないということだろう。
ここにおいてもそれを徹底しているのはあくまでも再現しているだけだということを示したいのか、それとも別の理由があるのか。

「ここの監視カメラから広川達が情報を得ているという可能性は?」
「うーん…、どうですかね?確かにこの監視カメラの情報はハッキングで見つけたものですが…。
 それにしては監視に穴が多いのが気になるんですよね。室内が見えないことになっていることといい、分かる人ならすぐに気付けそうな死角がかなり見受けられます」
「音ノ木坂学院にはあったのかしら?」
「少なくとも調べた限りでは見つけられませんでした。もしかしたら本当に再現をしただけ、という可能性も」
「ふむ」

その一方で、監視カメラとは別個に備え付けられたPCからは別の光景が映っている。
地面をローラーのような音を立てながら走る何かが室内ではないどこかの映像が見える。

それは今346プロ外部を走っているドローンから送られてきている映像だ。
初春の支給品の一つ。その機能は学園都市にある警備ロボのそれに近いものだ。
監視カメラや簡易的なスタンガンを備えており周囲の警戒にはうってつけである。
3時間の充電で通算2時間ほど動かすことができるとあった。
音ノ木坂学院にいた時はその充電に時間を費やしたことと監視カメラに関連つけられる機材にちょうどいいものがなかったこともあって使用を控えていた。
しかしこの場に着いて警備室の存在に気付いたところでハッキングの際ネットワークと関連付けを行い、ドローンの映像を建物内にいる間確認できるようにしたのだ。
そしてこの346プロ周囲のエリアを監視して回る。もし誰かが近づいてきたのが確認できてそれが要警戒対象だったら、あるいはドローンそのものが破壊されることがあれば。
その時は回廊結晶で逃げればいい。その場合はドローンは放置していくことになってしまうのだが、どちらにしても再度充電する時間的余裕があるとも限らない。



ともあれ、これでもしもこの建物内に何者かが近づく、あるいは入ってきた場合の確認ならば可能だ。
もし後藤のような者がやってきた場合は早急に逃走する準備をする必要がある。
もし知り合いや仲間に成り得る者が寄ってきたのならば合流に向かえばいい。

「ちなみに、これまでにここに来た者の映像は残っているのか?」
「それは………、どうも記録は残ってないみたいですね」
「そう」

まあそれ自体は知ることができれば便利、程度のものだ。
今はまず解析作業と平行して監視カメラによる警戒をしておくのが優先だろう。

互いの位置を大まかになら知ることができる関係上、後藤が来ることはないだろう。
しかしそれ以外の危険人物を見極めるには別館に入ってきた場合早急に真姫の元へと向かう必要がある。


「初春、あなたはこのままコンサートホールに向かうべきだと思う?」
「それはここで答えが見つかるまで検索するべきかという意味ですか?それとも別の場所に向かうべきか、という意味ですか?」
「後者ね。
 初春さん、少しうまく行き過ぎだとは思わない?
 音楽が解析の鍵になっていて、そのキーの場所としてコンサートホールと346プロが選ばれた。
 確かにあなた達二人の一方が欠けていてはできないことだけど、それでも」

音楽に詳しい者とハッキングができる者が揃ってようやく解除できるロック。
どちらかが欠けていてもこの解析は不可能だ。だが、音ノ木坂学院に二人が揃ったようにその要素が揃ってしまえば一気に状況は進む。
移動時間もあるだろうが、あの転移結晶のような道具まであることを考えると、あるいはという可能性もあり得る。

「つまり、田村さんはコンサートホール以外の場所にも向かうべきだと?」
「そうね。私が気にしているのはここ」

と、田村玲子は地図の左上に位置する一つの施設名を示す。
市役所。

「市役所…ですか」
「そうだ。もしかするとコンサートホールは考察者の目を反らすためのカモフラージュである可能性もある。
 音ノ木坂学院、346プロ。この二つは開放されたエリアの中心付近に位置している。そう考えた場合、残っている二箇所は市役所、そして能力研究所だ」
「能力研究所…、確かにそこは怪しいですが…、でも市役所というのはそんなに何かあるものなのですか?」
「まあ、私の知る市役所は特に何の変哲もない人間の働く場所だったが。
 だが、話しただろう?
 広川、この殺し合いの主催者をやっている男。私の知っている奴は市長だった、と」
「あっ」

初春は気付いたように思わず声を出す。

この情報を知っている者は田村玲子の知る限りでは自分と泉新一と後藤のみ。
もしそれ以外の者全てが、サファイアの言っていたような並行世界から集められたのだとしたらそれだけの者しかその素性を知る者はいない。
そして後藤がそのことを他者に話すような者ではないことはよく分かっている。であれば、この符号に気付くのは難しい。
無論ブラフである可能性もあるが、どうにも引っかかるものがあるのも事実だった。
もし自分がいなければコンサートホールしか選べなかっただろう。

「無論、まだこれは仮定の段階だ。
 コンサートホールに寄るついでで向かうことができればいいという程度のものと考えておいてもらっても構わない」
「そうですね、私もダミーの可能性については考えていませんでした。
 西木野さんの方が終わったらまた相談しましょう」




―――もう止まらない、熱くきらめく想い手を伸ばせ もっと高く君と君と君とさあ進もう~♪

「これも違う…」

横に積まれたCDはまだまだ残っている。しかし真姫の探す楽譜に合致する曲は見つからない。

とりあえず一番部分だけでも聞けば判断はできるとはいえ、それをずっと、曲に意識を集中させて流し続けるのは中々に疲れるものだ。
優先して聞いていたのは、このアイドル達のCDの中でもこの場に呼ばれた者達の曲だ。

島村卯月、渋谷凛、本田未央、前川みく。
CDの歌手名から確認できた限りではこの4人がそれに該当していた。
だが、一致するものが見つからない。

「凛…、それににゃあって猫の鳴き声みたいな口調でしゃべるアイドル、か……」

ふと音楽を止めて思いを馳せる真姫。
脳裏に浮かぶのはいつも元気で、ベタベタと人懐っこくくっついてきた一人の少女の笑顔。

「……、いけない。こんなこと考えてる場合じゃ」

その喪失感に放心してしまいそうになった自分に喝を入れて、再度作業に取り掛かる真姫。
だがまだ山積みのCDは多い。もしも先に漁った4人のアイドルの関わった曲でなければ、もっと探すのには時間がかかるだろう。

「CD…か…。そういえばここはプロのアイドルの育成所ってことなのよね?」

あくまでも学校の部活の一貫としてやってきたスクールアイドルにはこんなCDを売り出すような機会はなかった。
ラブライブに優勝して全国的にも有名になったといっても、それもあくまでスクールアイドルとしてのものにすぎない。
世の中には、こんなにたくさんのアイドルがいて、そのどれもがこんなに素敵な歌を歌っているのだ。

「にこちゃんや花陽の気持ち、少しは分かった気がするな…」

こんな大きな建物の中で、こんなにたくさんの歌を多くの人の前で歌うのだ。
それはもしかするとあの時のラブライブ決勝戦以上のものなのかもしれない。
そう思うと、あのアイドルに憧れていた二人の思いに少し近づいたようにも感じられた。

首を回しながら、少し休憩を、とふと背伸びをしながら窓の外を見つめる真姫。
そこに映っている光景は、大きな湖とそこを分けるようにして舗装されている地面、そこから少し横に見回せば大きな館も見える。
その館は地図から判断するとDIOの屋敷らしい。DIOといえばあの時に出会ったあの不気味な男。ただの屋敷だとは思えないが、あの男の雰囲気を思い出すと行く気にはならなかった。

(あの時も、私は守られてばっかりだったのよね…)

DIOと会った時も、そして海未が死んだあの時も。
ずっと田村さんに守って貰いっぱなしで。
ようやく自分にもできることが見つかったかと思ったらこの体たらくだ。

(何やってるのよ、私は…)

やるせない思いから窓に頭をぶつける真姫。
ふと視線を上げたその時だった。



ピピッ

タブレットが何かを知らせる音を響かせた。
それは何者かがこのエリアにいるということを示すドローンからの知らせだ。

机の上に置かれたそれに近付きタブレットが映しだした映像を見つめる。
もしそれが田村さんの言っていた後藤やDIOのような相手だったら。

緊張しながら映像をじっと見つめる。
そこに映ったのは、何もない空間をまるでぶら下がりながら移動する少女の姿があった。

「……、あれ?」


よく目を凝らして見てみる。
するとやがてドローンがその映像を拡大、静止して映るようにカメラを切り替えたようではっきりとその姿を見ることができるようになった。
茶色い、制服にも見える服を来た少女。

(…この子って……)

どこかで見たことがあるような気がする。


「あっ!」

少し考えたところで真姫は地面に置かれたCDのジャケット、そこに描かれていた写真と映像を見比べる。
その写真の主は島村卯月。名簿にも書かれていた、この殺し合いに呼ばれた人物の一人のようだった。
ということは、あの子はこの346プロのアイドル、ということになるのだろうか。


と、その時映像がプッツリと途絶え、映像を写していたプレイヤーのウィンドウがブラックアウトした。
誰かに壊された、という様子もない。おそらくは今その充電が切れたということなのだろう。

(あの子なら、何か分かるかも……。ああでも、田村さん達のところに相談に行ってたら見失っちゃう……)

走れば追いつけるだろうか?
あの子がいればこの解析に力になってくれるかもしれないし、もしかすると一緒に行動する仲間になれるかもしれない。
だが、今あの子を追いかけることは安全なのだろうか?
あの子が移動していく映像の中に彼女を追う者はいなかった。つまり何かから逃げている、ということでもないのだろう。
それにドローンはそれ以外の人を認識することもなかった。あの周囲に危険人物がいる可能性は低い、と見積もることはできる。

(ああ、もう…!田村さんごめんなさい!)

心の中で謝罪しながら、真姫は荷物を纏めることもなく走り始めた。
あの一人の少女、この346プロに所属するアイドル、知っている限りの情報ならばそれだけの人間であるはずの少女の元に向けて。
この時真姫の中に、彼女に対する警戒心などはなかった。アイドルである彼女が危険、などということは全く頭になかった。
いわば、それは彼女がこの場においてずっと守られ、危機から遠い場所で過ごしてきたが故の想像力、警戒心の不足によるものだった。


「この子は…知っている子かしら?」
「いえ…、私に見覚えは…。あ、でも少し待ってください」

備え付けられたPCに映った、宙を滑空するように移動する少女。
しかし初春と田村玲子の知っている者ではない。

あの移動は飛んでいるというよりは宙に張った何かを使って渡っている、というような動きだ。
しかしその映像が映っている時間もそう長くはなかった。
プツン、と音を立てたのを最後に、見ていた映像は消える。

「ああっ、こんなところで電源が……!」
「映像のバックアップ自体はあるのかしら?」
「それなら大丈夫です。ちゃんと画像で残しておきました」

と、初春は少女の拡大された写真を画面に映し出す。

「…ありました。この建物のデータベースに入っていた情報です。
 島村卯月さん、346プロというプロダクションに所属するアイドルです」
「アイドル…、それだけ?」
「はい。それ以外の情報は何も」

ふむ、と田村玲子は手を顎にやって思案する。
確かアンジュという娘は渋谷凛という彼女と同じ場所に属するアイドルと少しの間共にいたらしいが、その少女は特に何か特別な能力を持った様子はなかったと言っていた。
つまり、あの娘は何の能力も持っていない、真姫と同じ一般人でありながら単独で行動をしているということになる。

あの移動方法自体は何か支給品を使っているとして説明はできるが。

「初春さん、他にあの近くに人の存在はあった?」
「いえ、映像の中では彼女だけの様子でした」


少し不審なようにも感じられる。
無論、一人で行動すること自体に何か理由があるのかもしれないが、これだけの死者が出ている場所でただの女の子が一人で行動するだろうか。

(協力してもらえれば力になってもらえるかもしれないけど、ここは放っておくべきかしらね)

幸いにしてこちらに近づいてくる様子はなく、北に向けて移動をしているみたいだ。
藪蛇に触れるよりも、

「放っておくわ」
「……でも、あの人は大丈夫ですかね…?」
「下手に接触するにも不安が残るわ。誰かに追われている、という様子でもないなら大丈夫でしょう。
 監視カメラは動いているのよね?」
「……はい、それは大丈夫です」

初春は後ろ髪を引かれるような思いを感じながら。
しかしここで反対したところで自分ではどうすることもできないと、自分の作業に戻っていった。


この時、島村卯月の映像に意識を取られていた間。
二人は気付かなかった。視界から外した、監視カメラの向こう側で外に飛び出していく一人の少女の姿が映っていることに。



「はぁ……ちょっと疲れましたね…」

クローステールを使っての移動をしてDIOの屋敷という建物の近くまでやってきましたが。
ただ、ずっと手を動かしてきた影響なのでしょうか、それとも慣れてきたとはいえ今まで使ったことのない糸の使い方をしてきたからでしょうか。
何だか、同じ距離を走った時以上に疲れてしまったような気がします。

息を整えながら、目の前にそびえ立つDIOの屋敷を眺めます。
大きな塀と門の向こうには、とても大きな家が見えました。
できることなら少し逸れて、建物をぐるっと回って北に向かいたいですけど、しかしそうしてしまえば禁止エリアへと入ってしまいます。

少し気味が悪い気もしますけど、ここを突っ切らないとセリューさんに会うことはできません。

そこで進もう、と意を決した時、急にお腹がなりました。

体力不足を痛感しながらも、バッグに入っていた食料と水を取り出し、一旦足を止めて口に頬張りました。
急いでいても無理は禁物、ですもんね。
食事もかねて、少し休憩をトリます。

もし糸を使ったことが疲れた原因なら、移動で無闇に使うのは避けた方がいいのかもしれない。セリューさんとの合流は優先事項ですけど、それまでにバテて倒れてしまっては元も子もないです。
体調管理は大事ですもんね。

飲みかけのペットボトルをバッグに入れて、館を通り抜けて行こう、と。
そう思って門へと向かっていった、その時でした。

後ろから誰かが走ってくるような足音が聞こえてきました。
マスタングさんではありません。もっと軽いような感じの足音。
手のクローステールを飛ばして聞き耳を立ててみます。
もしかしたら何か喋って、そこから何者なのかという情報が得られるかもしれないと思ったから。

だけどそんな気配は全然なくて。
気がついたらすぐ後ろまで追いついてきていました。

「はぁ…はぁ……、良かった、間に合った…」

息を切らせながらやってきたのは濃紺のブレザーを来た、赤い髪の女の子でした。
その服には見覚えがあります。
南ことりと、小泉花陽さんが着ていた制服と同じもの。そしてその特徴的な赤い髪は聞いていた情報と合致しました。

(μ'sの、西木野真姫さん?)
「えっと確か、あなたは島村卯月…であってたかしら?」
「ええ。そうですけど」
「よかった。ちょっと来て!」

と、手を握って懇願してきました。

「…行くっていうと、どこにですか?」
「346プロよ、島村さんには馴染みがある場所だと思うんだけど」
「………」

馴染みが深い、と言われて少し考えましたが、これまでずっとあそこでアイドル活動をしてきたという意味ではそうなのかしれません。

真姫さんが言うには、346プロのアイドル達の楽曲について詳しい誰かの存在が必要らしく、そこで私が通りかかってきたから急いで捕まえにきたということのようです。
だけど、私としては先にセリューさんのところに向かわないといけないのです。
今更346プロになんて寄り道している暇はありません。

なのに真姫さんは諦めずに食い下がってお願いしてきます。
どうしましょう。もし真姫さんが”悪”だったならささっと話を終わらせることもできたんですけど、まだ真姫さんがどうなのかは分かっていません。
話に聞いたようなマスタングさんのような失敗を、セリューさんのような正義の味方がするわけにもいかないのです。

この時の私には、真姫さんを含むμ'sそのものが悪、だという認識はありませんでした。
高坂穂乃果は確かに悪かもしれないですけど、それはμ'sに紛れ込んでしまった悪が彼女だったのであり、グループそのものが悪いわけではないと。セリューさんもそう言っていました。
だから、彼女もあくまで騙されているだけ、悪だと見るには早計なんじゃないかと、そう思いました。

いっそ、このまま無視して行っちゃうのもいいでしょうか?

(…あれ?そういえばこの人は高坂穂乃果の仲間、なんですよね?)

そんな中でふと一つの考えが思い浮かびました。

(もし聞くことができれば、その諸悪の根源について何か分かるかも)


倒すべき相手の情報を持ってセリューさんのところに向かうことができれば、きっとセリューさんのお役に立てるかもしれない。
セリューさんのところに向かいたい気持ちはありますが、セリューさんの役に立ちたいという気持ちも嘘じゃないです。
そう考えたなら、少しは自分の気持ちを妥協することもできるかもしれない。

だから、しぶしぶですけど真姫さんのお願いを聞くことにしました。
すると真姫さんは嬉しそうに笑ってお礼を言った後で走り出しました。

セリューさん、少し遅れてしまうかもしれないですが、待っていてください。
巨悪の情報を持って、セリューさんの力になるために頑張ります!


…笑顔、ちゃんと作れてたかな?




カチリ、カチリと定期的に切り替わる監視カメラの映像を眺めながら、ふと作業を続ける初春が呟いた。

「それにしても、不思議な感覚です」
「ん?」
「田村さんと話してたら、何だか以前会った人のこと、どうしてか思い出してしまうみたいで」

どうやら切りだされた話はこれまでの流れとは無関係なものの様子。
こちらの本題を進めるべきなのだろうがふと初春がこれまで出会った人間というものにも興味が湧いたのも事実。

「差支えなければ聞かせてもらえるかしら。そのあなたの会った人間について。別にそのままで構わないわ」

だが作業が滞ってしまってもことだ。影響のない程度に聞くに留めておこう。
そんな気遣いは無駄だとでも言わんばかりに初春の手と口がそれぞれ独立しているかのように話し始めた。

「…その人はとある実験の研究者でした。
 ある目的のために多くの学生を巻き込んでの人体実験とも言える所業に手を出し、学園都市に決して小さいとはいえない事件を巻き起こしたんです」
「その目的というのは?」
「……子どもたちのためです。自分の加担した実験のせいで目を覚まさなくなってしまった小さな子どもたちを治すために、と。
 そのためにどんな手段を使ってでも、どれだけの犠牲を払ってもと」
「その子どもたちというのは、その人の子供だったのかしら?」
「いえ、その子達は生徒、教え子です。その人が教師をした時に面倒を見ていたんです」
「つまりその人間は、無関係な人間のために多くの人間を敵に回していた、ということか」

興味深い話だ、と田村玲子は思った。
もうしばらく前の自分であったならば理解できなかっただろう。
何故人間がそうまでして他者に献身的な行動が取れるのか。時として自分の体、あるいは命すら投げうって。

だが、巴マミは無関係な人間を守って命を落とし。
園田海未もまた、本来力を持たぬはずの学生のはずなのに友人、真姫を守って死んでいった。

何故そのような行動が取れるのか。
きっと頭で考えるだけならば分からない問題だっただろう。
あの時、自分の産んだ赤ん坊を泉新一に託した行動も、また。

(他者への献身、か。もしかすると西木野さんにここまで思い入れるようになったのも、そのためだったのかもしれないわね)

対象は案外誰でもよかったのかもしれない。
ただ、偶然この場で最初に出会った相手が彼女だったというだけで。
子供を泉新一に託し、そして全てを終わらせた自分が何かを支えとするために、西木野真姫を利用しただけだったのかもしれない。

そこまで思い至って自嘲する。
まるでこれでは人間のようではないか。

(だけど、今考えていても仕方ないことね)


しかし今はそのようなことばかりを考えている余裕のある時ではない。
初春の話も終わった以上、もっと建設的なことを考えなければならない。

思考を一旦打ち切った田村玲子は、時計を見ながら初春に呼びかけた。

「そろそろ潮時かしらね。西木野さんを迎えに行くべきかしら」
「そう、ですね。情報は得られましたし、音楽に関しては分かる人が見つかるまでは保留にするべきかもしれないですし」

と、映る映像を定期的に切り替えながら初春は田村玲子の言葉に相槌を打つ。

「…でも、大丈夫でしょうか。闘技場でタツミさんと美樹さんとの待ち合わせをする約束もしているのに」
「そうね。その辺りは西木野さんとも相談しておくといいかもしれないわ。場合によっては彼女だけでも学校に戻すという選択もあるかもしれないし」

確定事項というわけではない。だが先にも初春と相談したようにコンサートホールが鍵となっているという確率も半々だ。
ここからコンサートホールへと移動する場合距離的に他参加者との遭遇は避けられないだろう。
それが二人の友人のような仲間と成り得る者であればいいが、もし殺しを厭わない危険人物と遭遇した場合が問題だ。
田村玲子は自分一人であれば生き残る自信もあるが、二人を守りながら、となると全員が無事でいられる可能性はかなり下がってしまう。

解析のために初春だけでも連れていくことも視野に入れておくといいかもしれない。
無論その場合は合流に時間を要してしまうため、真姫と相談してから確定とするつもりではあるが。

「あ」

と、初春が映像の切り替えを止める。
そこにあったのは別館の入り口。
ガラス張りの自動ドアの向こうから何者かの影がかけてくるのが映った。

別館といえば真姫のいる建物。もし危険人物だったならば。
警戒心を露わに映像を見つめる。
影は二つ。急いでいるかのような速さでかけてくる。

やがて扉が開き、その姿が視認できるようになる。

「…西木野さん?」

しかしその先導を走っていたのは赤い髪の少女。
見間違えるはずもない、西木野真姫だ。

彼女は建物内にいたはずだ。どうして外から入ってきたのか。

「この映像、間違いなくリアルタイムのものなのよね?」
「そのはずです………、すみません!見落としてしまってました」

焦りながら謝る初春。

見落としていたというのは好ましい事態ではなかったが、真姫が怪我を負っている様子はない。
今は責めることよりも優先すべきことがある。

「他に見落とした侵入者はいないわね?」
「えっと、……西木野さん達以外は、少なくとも廊下を移動している人はいないです」
「あの子は、島村卯月ね」

おそらく真姫は彼女がこの346プロのアイドルであるということに気付いて、楽譜の解析のために連れてきたということだろう。

(少し、迂闊すぎるかしらね)

その走る様子には警戒心などない。
きっと島村卯月をただのアイドルと見て安心しているのだろう。
こちらに一旦連れてきた上でやればいいものを、と考えながらカメラを眺め。

(…ん?)

その様子を見ていると、ふと違和感を感じた。
真姫の後ろを付いて走る少女の様子が何かおかしい。

位置的にもっとも二人の様子がよく見える監視カメラの映像に近寄って目を凝らす。

(笑っている?)

前を走る真姫に追随していくその少女の浮かべている表情。
そこにあったのはまるでこれから楽しいことでも起こるのかとでも思わんばかりの、満面とは言いがたいがにこやかな微笑みだった。

もし彼女も真姫と同じ、ただのアイドルでしかない人間なのだとしたら。
どうしてこの場であんな微笑みを浮かべていられるのだろうか?

真姫が他の者を連れてきている様子はない。さっきの映像といい、彼女は一人でいたはずだ。
この殺し合いという場で、たった一人取り残されている状況で果たして笑っていられるものだろうか?

(嫌な予感がする…)
「初春さん、二人が入っていった部屋の場所、分かるかしら?」

少し急いだ方がいいかもしれない。




――――DOKIDOKIはいつでもストレート

――――迷路みたいに感じる恋ロード

――――ハートはデコらず伝えるの

――――本当の私を見てね

走ったせいでしょうか。若干息が乱れたような気がしましたけどその曲を歌いきりました。

346プロの別館まで連れてこられた私は、楽譜を渡されました。
どういうことなんだろうと困惑していたら、私を連れてきた真姫さんが説明してくれました。
この音階の曲がこの会場のロックを外すためのキーとなっているけど、それが何の曲なのかが分からない、と。
楽譜だけ渡されてもイマイチピンとこなかったのですが、真姫さんが鼻歌でリズムを教えてくれたらピンときました。

そして今、その歌が終わります。

「…よし」

置かれたタブレットからロックが外れるような音が聞こえました。どうやら成功したみたいです。

「ありがとう!助かったわ!私だけじゃ分からなかったから…」
「いえ、困ってる人を見捨ててはいけないと教わりましたから」

人の役に立つことができた。その事実に嬉しくなって真姫さんに笑いかけていました。

「ごめんなさい、いきなり連れて来て。あっ、そういえば名前、言ってなかった…」
「西木野真姫さん、ですよね」

しまった、という表情を浮かべる真姫さんに、私は名前を呼びかけました。
たぶん間違いはないはずです。

「…あれ?私、名乗ったかしら…?」
「いえ、あなたのことは小泉さんから聞いてます。同じμ'sの」
「花陽に会ったの?!」

食いつくようにこちらの肩を掴んできます。
そんな真姫さんを落ち着かせるように、小泉さんと会ったこと、しかし色々あって別れてしまったことを話しました。


ことりさんのことは話しません。高坂穂乃果のことも、まだ言っていません。
もし真姫さんも悪だった場合、下手な警戒心を引き起こして彼女の本性を見誤ってしまうかもしれません。

「そう…、花陽は無事なのね…、よかった…」
「花陽さんからは色々教えてもらいました。μ'sっていうグループでスクールアイドルっていう活動をしていると。
 もしよければ、教えてもらえませんか?あなた達のことを少しでいいので」
「…っ、そ、そう。構わないわよ。私もこんなところまで無理やり連れてきたってのもあるし」

照れるように目を逸らして髪をクルクルと人差し指で回す真姫さん。
そんな彼女を見ながら、私はμ'sについてのあれこれを教えてもらいました。


若干早足で建物内を駆けていく田村玲子。
その後ろからは荷物や情報をまとめた初春が慌てるように追いかけてきている。
早歩きな先導者に置いていかれないように急いでいる様子だが、しかし前を行く田村玲子はその歩幅に合わせてくれそうにはない。
それだけ急いでいるということだ。真姫の元に向かうために。

階段を移り、廊下を抜けて、本館と別館を繋ぐ渡り廊下を通り建物へと入り込んだ。
と、その時だった。

「痛っ…」

地面に体を投げ出すような形で、初春は白い床にその身を投げ出して転がっていた。
急ぐ田村玲子も流石に振り返り起き上がろうとする初春に駆け寄る。

「ごめんなさい、少し急ぎすぎて無理をさせてしまったかしら?」
「いいえ、そんなことは。……ただ、今足に何か引っ掛かったような感じが…」
「引っ掛かった?」

初春が躓いた付近に目を凝らす田村玲子は、ふと顔の一部を変化させてその先端を鋭い刃へと変形。
そのまま、何もないはずの空を切るかのように振りぬいた。

ピン、と。
まるで糸を使った楽器の弦でも切れたかのような音が小さく響く。

「これは…、糸?」

何もない空間にどこからともなくピンと張られた、細い糸。
弦のよう、ではない。弦の素材、糸そのものが張られていた。
それが田村玲子が切ったもの、初春が足を引っ掛けたものの正体だった。

「…少し伏せて」

と、起き上がろうとした初春の体を逆に床に伏せさせた田村玲子は、宙に向けて思い切り触手の刃を一回転させた。
手応えは幾つか。どれもたった今切った糸のそれと同じ感覚だ。

廊下の隅だったりあるいは床ぎりぎりの足にかかるかどうかという場所だったりに少しずつ張り巡らされている。

(これは最初から仕掛けてあったものか?それとも後から誰かが仕掛けたものか?)


糸を切ったことで何か起こるのかとも警戒したが、何も起こらない。
つまりは切ることで何かが起こる罠のようなものではない。
偵察か、あるいは陽動か。

もしこれを仕掛けたのがあの島村卯月という少女だとするならば。

「初春さん。私の数歩後ろを、なるべく体を低くしたまま付いてきなさい」

と、田村玲子は顔半分を伸ばして刃へと変形させながら、空を切りつつ一歩ずつ慎重に、しかし手早く歩み始めた。



最初は興味が少し、残りはセリューさんが思っていた、μ'sというグループの実態についてを知らなければならない、とそう思って真姫さんの話を聞いていました。

自分の通う学校が廃校になりそうだったということから有名になるために始めたスクールアイドル活動。
ある時一人でピアノを音楽室で引いている時、偶然リーダーの高坂穂乃果に見つけられ、実際に作曲をしたことが開始だったらしいです。

ガラガラの会場での、しかし始まり初ライブ。
だけどその活動が功を奏して少しずつメンバーを増やしていき。
高坂穂乃果をリーダーとして、衣装担当のことりちゃんがいて、真姫さんは作曲を担当して。
みんなが各々の長所を活かしながら活動をしていったと言います。

そして一度目のラブライブ――スクールアイドルの大会においては出場できなかったものの。
二度目の大会では一度目の優勝者のチームを予選にて破って、全国大会でも見事に優勝を勝ち取っていったんだと言っていました。


真姫さんの語るμ'sのアイドル活動はとても楽しそうで。
それを語る真姫さんの姿はとても輝いていて。
話に聞くμ'sの姿を想像すると、その様子もとてもキラキラしているのが分かりました。

小泉さんから聞いていた説明から更に詳細になったその内容はとてもすごいと感じる内容で。
同じアイドルとして、そのキラキラとした輝きには羨望も感じるものでした。

「そうだったんですね!スクールアイドルっていうのはよく分からないですけど、全国で優勝なんて、すごいですよ!」
「そ、そんなことないわよ。いや、あるんだろうけど、でもプロから見たらそんな大したことでもないんじゃない?」

……なのに、不思議です。
何だか楽しくて面白いお話のはずなのに、何かすごく気持ちがもやもやします。
聞いていて、何かに納得できないというか、何と言ったらいいのか自分でも分かりません。

こんな気持ちになったことなんて、今まで全然なかったのに。

(…あ、そうか。高坂穂乃果が、悪がリーダーをやっているから……)

だけどその理由はすぐ気付きました。
きっと、これだけキラキラとしているリーダーが高坂穂乃果という悪であることが許せないのでしょう。私はそう判断しました。
きっと本性を隠してアイドル活動を続け、そしてその影で自分の思うように周りの人間を悪の道に染めていく。

ことりちゃんもその被害者なんだと。

だとしたら伝えなければならない。
高坂穂乃果は悪だと。そんな彼女についていってはいけないと。

意を決して、私は口を開きました。

「…西木野さん、真剣な話があるんです。少し言い難いこと、ですけど…」
「何よ、急に改まって」

気をよくしたのか、若干赤面して髪を指で回している真姫さん。
このまま何も知らないままではいけない。
彼女は、真実を知らないといけない。






「何よそれ」

だから私は知っている限りの”真実”を、真姫さんに説明しました。
高坂穂乃果はμ'sというグループを隠れ蓑にして悪事を

なのに、それを伝えた時の真姫さんの顔は何を言われているのか理解できていない様子の、きょとんとしたものでした。
もしかしたら、その表情の中には(この人は何を言っているの?)という思いも出ていたような気がします。

「ですから、説明した通りなんです。
 高坂穂乃果は
「あんたね、うちの穂乃果に限ってそんなことあるわけないでしょ」
「いえ、ですから!」


一生懸命説明しているんですけど、全然信じてはくれません。
特に高坂穂乃果が自分を偽って


「私、何だかんだでずっと一緒にいたから分かるけど、穂乃果はバカだけど自分に嘘をつくのが苦手でまっすぐな子よ。
 あんたが言ってるような、人を騙してどうこう、なんてそんなことあるわけないでしょ。
 ていうか、そんなこと言うってことは穂乃果に会ったってことよね?」
「え、いいえ。私は見たことないです。でもセリューさんは言ってました。
 高坂穂乃果は危険だ、と」

ドン、と壁に背を預けた私の後ろを叩くように、真姫さんはこちらを抑えて睨みつけてきました。
その表情には怒りが混じっているようにも見えます。

「ならそのセリューってやつを連れてきなさいよ!」
「今は一緒にいなくて、探しているところで」
「だいたい、何であんたもそのセリューってのが言ったこと鵜呑みにしてんのよ!
 一回も会ったことないくせにそんなわけの分からないこと言いふらして回るっておかしいと思わないわけ?!」

そういえばどうして、私は高坂穂乃果=悪ということを断言した上で行動しているんでしょう?
一回も会ったこともない人が悪い人だって、そんなこと言って回るのはおかしいこと―――

(いえ、セリューさんが言っていたんですから、間違いはないです)

だとは思いませんでした。
セリューさんが言っていた、それだけで判断するには充分です。
正義の味方であるセリューさんを殺そうとしたのならば、それは間違いなく悪に違いありませんから。

パチン

なのに、そう答えた時真姫さんの手が振り上げられて。
思い切り頬を叩かれていました。

さっきも似たようなことがあった気がしますけど、その時よりも力は強かったように感じます。

「…、私のことはいくらバカにしてもらっても構わないわ。
 だけどね、μ'sの、穂乃果やみんなのことをそんなわけの分からない理由で傷つけるって言うなら私、あんたのこと許さない」

偶然でしょうか。叩かれた場所はそのさっき叩かれた場所と同じところでした。
その熱を持った頬を抑えていると、なんだか胸の奥にとてもムカムカとした何かが湧き上がってくる感じがしました。

私が一生懸命説明しようとしているのに、高坂穂乃果は危険だと警告してあげているのに。
どうして分かってくれないんだろう。
どうして私のことを叩くのだろう。

ああ、そうか。

「そのセリューってやつにもちゃんと言っておきなさい。
 訳の分からない、バカみたいなこと風評流す前にうちのリーダーのこと、きちんと見ろって」

この人も、もう手遅れだったんだ。


ヒュン

何か細いものがしなるような音が真姫の耳に届いて。
次の瞬間、下半身が力を失って崩れ落ちた。

(…えっ)

何もない場所でいきなり倒れこんだ自分に困惑しながらも、起き上がろうとするが足に力が入らない。
と、ふとお腹に当たる部分が何かべっとりと濡れているような違和感を感じた真姫は、そこに手を触れてみる。

その手は、真っ赤な血で染まっていた。


「っつ…!!!!!」

何かで斬られたのだということを認識した瞬間、腹部からこれまで感じたことがないような激痛が走り始めた。

「やっぱり、μ'sの、高坂穂乃果の手先というだけでもう手遅れだったんですね。
 このまま放置しておくと、きっとあなたもことりちゃんのように間違いを犯す。だから、その前に殺してあげます」
「ぅ…あ……!」

痛みで悲鳴すらも上げることもできぬままもがく真姫を、まるで貼り付けられたような笑顔を浮かべたままの卯月がその手の糸を張りつめらせながら見下ろす。

(こと、り……)

その卯月の口から出てきた名前、それは既に命を落としたはずの仲間の名前だった。
激痛でかすれる声を絞り出して真姫は卯月に問いかける。

「ことり、が……、どうしたっての、よ……」
「ことりちゃんはセリューさんを殺そうとして殺されました。
 μ'sのみんなのために、って言って」
「嘘…よ……」
「本当ですよ、私が見てましたから。
 きっとことりちゃんがそんなになったのも高坂穂乃果の率いているμ'sなんてグループにいるから、なんですよね。
 セリューさん、私、今確信しました。μ'sは、悪です」

そう言って、卯月は真姫の体をゆっくりと釣り上げるようにして、手にした細い糸をその首に巻きつけた。
これから人を殺そうとしているとは思えないような笑顔を浮かべたまま、少しずつその糸を首に食い込ませていく。

(…嘘よ……、穂乃果が、ことりが……)

嘘だと信じたかったし、確かめたかった。
だけど今の真姫には目の前の少女の言葉でしか真実を見ることができない。

こんな、何も分からないままに死んでいくのだろうか。

――――生きて、真姫。私たちのμ'sを、どうか

(嫌…、こんなところで…死にたくなんか……、誰か、助けて……)

薄れ始めた意識の中で、目の前で死んでいった仲間の残した言葉が浮かび上がり。
心の中で、思わず助けの声を求め。



「――――西木野さん……――!」

その時、扉が開かれ一人の女性が駆け込む。

女、田村玲子は腹を真っ赤に染めた真姫の首を糸で締める卯月の姿を見て、状況を瞬時に把握。
卯月が振り向くと同時に、触手を振るって糸を切断、一気に距離を詰めてその体に肘打ちを叩き込む。

反応することもできぬままに吹き飛ばされ壁に叩き付けられる卯月の体。
しかしそちらを省みることもなく倒れた真姫の体を抱え上げる。

「西木野さん、あなたは勝手に…」
「ゴホッ、ごめんな、さい……、私も、何かしたくて……。だけどこのエリアのロックは解除したから…」
「分かった、もういいから喋らな――――っ」

と、口を止めて周囲から襲いかかってきた糸を触手の刃で切り刻む。
ふと今吹き飛ばしたはずの卯月を見ると、体をよろつかせながらもゆっくりと起き上がっている。

(手応えが変だとは思ったが、この娘は服の下に何を隠している?)

殴った時の手応えが人間の肉を攻撃した時のそれではなかったためそれで意識を奪えたかどうかは賭けに近かったが、どうやら外してしまったようだ。

(殺すのは難しくはないが、今は西木野さんがいる。退いた方がよさそうね)

「田村さん!」
「初春さん、走って。ここから離れるわ」

追いついた初春に声をかけながら、真姫を抱えた田村玲子は刃を振るいながら部屋を飛び出した。


「あの人は確か……田村玲子…」



「はぁ……はぁ……」
「しっかりしてください、西木野さん!」

階段の踊り場の影に身を隠した三人。
未だに傷口から血を流し続ける真姫に呼びかける初春。
だが、田村玲子には分かっていた。その傷は既に致命傷だということに。

「初春さん、回廊結晶を。これ以上の探索は無理よ」
「…分かりました」

回廊結晶を取り出す初春の傍で、痛みに喘ぎながら声を漏らす。


「ごめん、なさい…、私が……、勝手なことしたから……」
「…………」
「私の…せいで、二人に迷惑を……」
「そんなことないですよ!ロックを解除してくれたってだけでも大きな成果です…!」

謝り続ける真姫に、初春が顔を強張らせながら励ますように言葉を投げかける。
その様子を見ながら、田村玲子は小さく目を細め。


「どこですか~?田村玲子さん?西木野真姫さん~?」

こちらに呼びかけながらゆっくりと廊下の床を靴が叩く音が聞こえた。
ご丁寧に真姫と田村玲子を名指しで。存在を知らないが故か初春のことは呼ばれてはいない。

「初春さん、先に戻っていて。私は少し別行動を取らせてもらうわ」
「えっ…」
「どちらにしてもコンサートホールか市役所には寄る必要があるわけだし。
 それに、あの子にも少し聞きたいことがあるから」

立ち上がる田村玲子。
その背中を見て、思わず真姫が声を出す。

「待って、田村さ―――ゴホッ」

思わず大声を出してしまったことで口から血を吐く真姫。

「ごめんなさい、西木野さん。今は、あなたの傍にはいてあげられないわ。
 初春さん、お願い」

それだけを告げて、田村玲子は廊下の踊り場の影からゆっくりと出て行く。
きっと引き止めることはできない。そう感じた初春は後ろ髪を引かれる思いを残しながら、回廊結晶を起動させた。

「…回廊結晶、起動」

一瞬光を二人の体が包んだと同時に、その体は346プロ内から消失。
その身を記録した場所、音ノ木坂学院へと転移させた。




「見つけましたよ、田村玲子さん」

10メートルほどの距離をあけた廊下の奥で、島村卯月は田村玲子の前に対峙していた。

「ああ、呼ばれたから来てあげたわ。幾つか聞きたいこともあったし。
 何故、私の名前を知ってたの?」
「殺人者名簿っていうのがありましてね。それにはこれまで人を殺してきた人の顔と名前が載ってるんですよ。
 田村玲子さん、あなたは今まで人を殺してきたんですよね?」
「なるほど、面白い道具もあったものね。
 質問に答えるなら答えはYesよ。ついでに数も言うなら、ざっと38人といったところかしら」
「それは、随分と多いですね。法律なら死刑になってますよ。情状酌量の余地はありませんね」

手袋の嵌った指を動かすと、周囲に糸が舞い上がる。
まるで蜘蛛の網を連想させるような、しかし田村玲子にしてみれば随分と拙い結界。
表情一つ変えることなく、その全てを捌き斬り捨てる。

「そうね。あなた達人間のルールならば、殺されても致し方無い化物、ということになるのでしょうね」

ある意味最もな言いようにフフ、と自嘲するように笑い。
そして笑い終えると目を細めて卯月を真っ直ぐに見据える。

「なら、どうして西木野真姫を斬ったのかしら?
 あの子は人を殺すどころか傷つけたこともたぶんないようなただの女の子よ。
 そんな子に手を出すことがあなたが言ったような悪じゃないのかしら?」

若干、それを問う口調が尖っているような気は田村玲子自身感じていた。
確かに自分は多数の人間にしてみれば殺されても致し方無い者なのだろう。
だが、それとあの子を同列に扱っているのは理解し難い。

そしてもう一つ。
この娘に張り付いた微笑むような表情。
さっき真姫を殺そうとした人間とは思えないようなものを、どうしてそんなに浮かべていられるのか。
ただのアイドルであるはずの少女が。


「あの人はもう手遅れだったんです。μ'sのメンバーはみんな高坂穂乃果に染められていたんです。
 だから何かを起こしてしまう前にその悪の芽は摘み取っておかないと」
「………」

島村卯月が何を言っているのか田村玲子には分からなかった。
何を思ってそう判断したのか、一体彼女に何があったのか。
分からないし分かろうとも思うものではなかった。
ただ一つ分かったのは、目の前で微笑むその少女が正気ではないということ。

きっとこれ以上話しても望む答えは得られないだろう。

「ここにあの二人がいなかったのは、幸いというべきかしらね」

口の端を釣り上げる田村玲子。
この”顔”を出すのも久しぶりといったところだろう。
真姫と初春の二人の前ではきっと出せなかっただろう、田村玲子の一面。

それは、田村玲子であるより前にパラサイト――人類を食い殺すという本能を持った捕食者であるという一面。

「なら私も、あなたのお望み通り化物らしく振る舞ってあげるとしましょうか」

田村玲子はそう言ってジロリ、と真っ直ぐに、ただその一点だけを見るように卯月を見据えた。
その瞬間、卯月は周囲の空気が変わったのを感じた。


「…え、…あれ?」

田村玲子はこちらを見ているだけだ。特に武器を構えているとか、そんな様子もない。
こちらは体に巻きつけたクローステールで身を守っているし、その気になればいくつも田村玲子に向けて糸を飛ばすこともできる。
そんな状態のはずなのに、足の震えと冷や汗が止まらない。


島村卯月はセリューの意志に従い正義の味方になる、という決意をした。
だが、彼女は戦士でも狩人でも殺人鬼でもない。彼女の本職はあくまでもアイドル、この場においては他者に守られて然るべき存在。
加えて、卯月はこの殺し合いの中で明確な殺意を自身に直接ぶつけられたことはない。
南ことりはあくまでもセリュー・ユビキタスを狙っての凶行に及んで、卯月に刃を向けることはなかった。
ロイ・マスタングに誤解の目を向けられた時は由比ヶ浜結衣も共であり、さらにセリューの助けもあった。
その結衣に銃弾を放たれたこともあくまで事故であるし、キング・ブラッドレイや足立透、ゾルフ・J・キンブリー達も島村卯月という個人に対して殺意を向けたことはなかった。

それまでぶつけられたことのないものを当たられた卯月は、しかし本能的にその危険性を感じ取っていた。
まるでライオンと遭遇した草食動物のように。

田村玲子が一歩足を踏み出す。
床を踏む音がカツリと音を立てる。

それに反応するように、卯月の足も一歩後ろに下がった。

(…えっ、何で…?)

これではまるであの女に怯えている、逃げようとしているかのようじゃないかとセリューの顔を思い浮かべて自分を奮い立たせる。
だけど、体が言うことを聞かない。田村玲子が踏み出す度に、足は後退し下がっていく。

(違う、私は、セリューさんの正義を……、私は…)

理性と本能の食い違いに錯乱する卯月。
だが、その葛藤を田村玲子は鑑みてはくれない。
やがてゆっくり歩いていたはずの足が急に早く踏み出され、10メートルほどの距離を一気に詰めて迫ってきた。

「ひっ……」

その瞬間、恐怖が理性の許容量から溢れ出し。
卯月は振るわれた刃を大きく横に飛んで回避。
そのまま、体を丸めて窓へと体当たりした。

ガラスの割れる音と共に、346プロの建物内から卯月の体が飛び出していく。
しかしここは一階ではない。地上へと到達するまではそれなりの高さがある。
逆にいうと、その一般的な認識が田村玲子の反応を少しだけ遅らせていた。

窓へと駆け寄り割れたガラスの向こうを覗き込む田村玲子。
しかし地面にはガラスの破片こそ散らばっているものの、島村卯月の姿はどこにもなかった。

「……なるほど、あの糸で逃げたか」

窓から脱出する際にどこか別の場所に糸を繋いでおくことで命綱とし、墜落を避けて何処かへと逃げたのだろう。
もし自分が窓から飛び出すならば同じことをする。その場合使うのは糸ではなく触手だが。

一体どこに逃げたのか。
北東か北西か、それとも南か。

北西は理屈としては考えられない。進行方向に禁止エリアを含んだ場所へと逃げては袋小路だ。最も錯乱しているあの少女がそこまで判断できるかも微妙ではあるが。
南か北東か。

「北東、だな」

南に留まった場合、もし見つけることができても今後の行動に遅れが生じる。
対して北上したならばたとえあの娘が見つからなくてもこちらの用事、コンサートホールや市役所へと向かうことはできる。

そこまで考えたところで、島村卯月の動き、彼女を殺すということを妙に意識している自分がいることに、田村玲子は気がつく。
取り逃がした相手だ。理屈として考えれば、そこまで深追いするような理由がないにも関わらず、こうも追撃しようとしている。

だが、田村玲子の脳裏からは傷付いた真姫の表情と、そしてあの島村卯月の張り付いたような笑みが離れない。

「…怒っている、というやつか?」

その言いようのない気持ちを人間に当てはめて考えた時、その理由に田村玲子は思い至った。
以前出会った、自身の妻子を殺された倉森という探偵があの時行った行動。自分を排除しようと動いた草野達の行動理由。
これが自分が人間に対して懸念事項として見ていた習性、感情の一つだろう。

「果たしてこの感情に任せてあの子を優先して追うべきなのかというのは、少し考えるところね」

自分の中に浮かび上がってきたそんな感情をまるで他人事のようにも思えることを呟きながら興味を抱く田村玲子。
こういう時は果たしてこのまま感情に任せてみるのが正しいのか、それともあくまでも冷静にするのが正しいのか。
自分に正直にやるか、それとも自分を誤魔化して合理的に動くべきなのか。

「まあそれはあの子に追いつくことができなかったら考えるとしましょうか」



「はぁ……はぁ……」

足で逃げるよりも速いと考え、卯月は糸を周囲の木々や壁に巻き付かせながら、さながらターザンがロープで移動するかのように移動を続けていた。
やがて346プロからそれなりに離れ、周囲に糸を絡ませられるものがなくなってから乱れる息を整えるために一旦立ち止まる。

「今の私じゃ…、セリューさんみたいには…」

理解した。
今の自分だと、あの化物、田村玲子を裁くことはできない。
セリューさんのように、正義を成すことができない。
まだ、私には力が足りない。

「ダメだよね、こんなんじゃ…。セリューさんの足手まといになっちゃうだけだよ…」

もっと強くならなくちゃいけない。
セリューさんの横に並ぶことができるような、そんな島村卯月にならなくちゃいけない。
高坂勢力を、μ'sを打ち倒せるだけの力が。

「だけどセリューさん、高坂勢力の、μ'sの情報は得ました。そのうちの一人は、たぶん仕留めました…。
 だから待っていてください。私、すぐに追いつきますから…!」

にっこりと、誰に向けるわけでもなく笑顔を作り、卯月は進む先に建つDIOの屋敷に向けて走り始めた。


【B-6/一日目/午後】

【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(大)
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:セリューを探す。
1:高坂穂乃果の首を手に入れる。
2:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
3:田村玲子に対する恐怖を克服できるように強くなりたい
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。


【B-6/346プロ/一日目/午後】

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。追いつけなかった、見失った場合どうするかは未定。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。


※B-6のエリア内に警備ドローン@PSYCHO PASS-サイコパス-がバッテリー切れ状態で放置されています。

【警備ドローン@PSYCHO PASS-サイコパス-】
人間の労働補助を目的として作られたロボットの一種であり、主に街の治安維持・警備等の目的で使用されている。
簡易的なスタンガンや監視カメラを備えており、自動、手動それぞれでの操作が可能。
本ロワでは3時間の充電で最大2時間の使用が可能となっている。


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最終更新:2016年03月17日 10:12