136

正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk


 満身創痍の空条承太郎、しかしその瞳は死んでいない。
 見るからに瀕死体ではあるが、倒れる気配が全く感じられず、南へ向かおうとしている。

「すごい血が……」

 その後姿を見る本田未央の口からありのままの状態が零れ落ちる。
 彼が歩いた道は全て黒い赤に染まっており、見ているだけでも痛みを連想してしまう。
 進むスタンド使いを止めたい気持ちもあるが、自分が声を掛けたところで何が変わると言うのか。

「待ちなさい、その傷で何処へ向かうつもりですか」
「急に目覚めたと思えばいきなり行動して……身体が保たんぞ」

 セリュー・ユビキタスに続いてロイ・マスタングが承太郎に静止を掛ける。
 一般人とは言い難いが彼らから見れば承太郎はまだ子供に当る年齢であり、できれば死地へ向かわせたくない。
 常人ならば天に昇っても不思議ではない傷を負っているならば尚更である。

「気にするな……それに、お前は誰だ?」

 声を掛けられようが承太郎は気にも掛けずに、己の意思を曲げようとしない。
 少々言葉が荒くなるが、自分に静止を掛ける男に名を問うた。

「ロイ・マスタング……名簿ではそう記載されている」

「ロイ・マスタング……そうか、あんたが」

「何か聞いているのかね、私のことを」

「………………いいや、何でもねえ」

 帽子を深く被り直しただけで、その先に紡がれる言葉は無かった。
 承太郎が聞いていたマスタングの情報は主にセリューから流れていた。
 その肝心な彼女に信用が置けなかったため、半信半疑ではあったが、気絶していた自分の近くに居たのだ。
 きっとそれが彼の本質なのだろう。同行者である女性三人からも嫌にされている素振りは見えない。
 人間火炎放射器、事実であろうが彼が聞いた件はいやな事件――そうだったのかもしれない。

「あの、承太郎さんは何処に向かうんですか?」

「俺は足立を追い掛ける……それだけだ」

 未央は信じられない。その傷で何故動けるのか。
 ステージに立つ彼女に血の鉄混じりの匂いや硝煙は関わりのない存在である。
 けれどその存在達が人体にとって良い影響を与えないことなど解り切っているのだ。
 承太郎が抱えている痛みを想像すると自分の身が崩れそうになる。何が彼をそこまで動かせるのか。

「その傷で追いかけても……どうして、死にそうなのに……っ。
 病院に行かないと死んじゃうよ!? どうして、どうして皆そこまで――っ」

 出会った人間も別れた人間も、誰も彼もが強かった。
 単純な力の覇者から決して折れない心を持った芯の人間と様々に。
 どうして彼らはそこまで強いのか。

 殺し合いに巻き込まれて恐怖に怯えている自分が異端のように感じる。
 承太郎とは面識が無い。けれど、未央の瞳は涙混じりになっている。
 重症を背負いながら動く彼は、自ら死にに行くようにしか映らないから、見ていると心が錆び付いてしまう。

「関係ない、俺はもう行く」

 言葉が響こうと承太郎は何一つ揺れ動くこともなく、足立の後を追う。
 未央の言葉が届かなかった訳ではない。
 イギー、花京院、アヴドゥルが死んでしまったこと。会場に招かれてからの足立との接触。
 全てが絡み合ってしまい、退くに退けない状況である。元よりこの状況で黙る男ではないが。



 去る承太郎を見ているだけの四人。
 何故彼らは必死に止めないのか疑問に思う未央だが、答えは直ぐに返って来た。

「私達も追い掛けましょう。
 足立は悪です、生かせる理由なんて無いし――ほむらちゃんの仇」

「承太郎……彼に何を言っても止まらないだろう。
 あの傷で動くほどの意思を持っている男だ、私達は彼をフォローしなくては、な」

 セリューは仲間であり、同志であった戦友暁美ほむらを殺害した足立を殺すために。
 その意思を秘め、承太郎本人の意向を尊重した。彼の背中を見ても、言葉一つで止まる気配など存在しない。
 マスタングもまた、彼の足を止める選択を選ばなかった。
 あの類の男に何を言っても無駄なことは心得ているつもりだ。本人のやる気を削ぐことにしかならない。
 かと言って黙って送る訳でもなく、自らも着いて行く。此処で追わなければ確実に後悔するだろう。
 自分の目の前でこれ以上死人を出させてなるものか――焔の錬金術師にだって意地がある。

「しかしセリュー君。
 私が承太郎君を追い掛けるから君は卯月君と未央君を……聞いてくれそうにないか」

「勿論です! 悪を滅ばすのが私の使命でありますからね。それにほむらちゃんの件だってある、引き下がるつもりはありません」

 女性陣を連れて戦場に赴くのは少々どころか大きな危険を含んでしまう。
 前にも小泉花陽や高坂穂乃果、白井黒子に……佐天涙子や天城雪子には辛い経験をさせてしまった。
 今回は女性といえ、セリューに任せれる。ウェイブ達と一緒に行動していた時のような『何処に行っても敵が居る』状況では無いかもしれない故に。

 だが、セリューの返答はマスタングの思い通りにはならなかった。
 寧ろ、なってしまえば本当に彼女はセリューかと疑いを持ってしまう。
 正義に囚われた彼女が悪を見逃すつもりが無く、その手で葬るのは簡単に予想出来る。
 軽く息を吐いたマスタングは残りの女性陣に、行いたくはないが確認を取ることにする。

「今更だが私達はこれから――」

「私はセリューさんに付いて行きます! 其処がどんなにぐちゃぐちゃでも私は」

「しまむー……マスタングさん、私も一緒に行きます。何が出来る訳でもないけど……ううん、何でもないです」

 そして一般人である彼女達も止まらなかった。
 卯月はセリューに依存しており、彼女と別れる選択肢など最初から存在していないような即答。
 未央もまた逃げることを選ばなかった。
 言葉を詰まらせた時、視線の先には友である卯月の姿。
 殺し合いによって変わってしまった彼女を放置するなど、友達の思いの未央が選ぶ訳もない。それに、

(何処に行ったて安全な場所何てもう……)

 覚悟を彼女なりに決めている。
 図書館の一時でさえ簡単に崩れ去ってしまった。
 一緒に行動していたセリム・ブラッドレイは人に害なすホムンクルスだった。
 頼れる大人だったキング・ブラッドレイも――安全な場所などもう存在しないようで、あったとしても信じられない。

「まったく……セリュー君、私達はこれから承太郎君を追い掛け彼を助ける――誰も死なずに」

「当然です、悪である足立透に正義の鉄槌を下し死んだ物達への手向けとします。卯月ちゃん達を守って」

「ありがとうございます! 島村卯月、頑張ります!」

「………………うん、私達も頑張ろうね! しまむー……」

 響く和音はどこか不協を奏で、目に見えない部分で崩壊の予兆を感じさせる。
 普段は星のように輝く未央の笑顔が満ちていない、欠けている、足りていない。
 振る舞う輝きは無理やりに作成された擬似の星、真なる輝きとは程遠い煌めき。
 知らず知らずのうちに侵食されていく心、それを止める防波堤は存在する筈もなく、腐敗の香りに毒される。

 けれど止まることも出来ずに、これ以上犠牲を出さないために彼女達は承太郎を追った。






「少しだけ先に行っていてください、三分もしない内に追いつきますから!」






 セリューを除いて。








 外は外だ。
 緑があり、青があり、黒がある。
 比率としては青が薄いが奈落があるため仕方がない。

 所々に燃え上がる赤は地図上でいう図書館か。
 更に北の北方司令部では謎の氷が天へ連なっている。

 東では電車が爆発し、西でも何かが起きるかもしれない。

 そしてこの南でも動乱だって引き起こるだろう。

 向かってくるのは瀕死の男。

 続くように四人の集団が迫っている。

 これでは偽りの情報を流しても意味が無い。本人が来てしまえば。


 少しだけ嗤いが漏れた後、骸の少女が刀を握り動き出した。







「遅れてすいません……特に何も?」

「大丈夫ですよセリューさん、何もないです」

 慌てて追い付いたセリューに卯月が声を掛ける。
 そのやり取りを見つめるマスタングの視線はセリューに集まる。
 特段、止めもしなかったが彼女は一体何をしていたのか。時間はそれほどかかっていない。

 衣服にも作業を行った痕跡は無く、何をしたか見当も付かない。
 危険人物の香りを漂わせる彼女はなるべく眼を離したくないが、これからも注意が必要であろう。

「マスタングさん、セリューさんは何をしてたのかな」

「分からん。私達に見られたく無いことは確かだが……まぁいいだろう」

 未央も気になっている。
 彼女にとってセリューの存在は異質である。
 正義に盲信しているのもそうだが、島村卯月の存在が大きい。
 セリューと出会ってから彼女の何かが壊れている、壊されているかもしれない。
 何があったかは言葉でしか解らないが、心情までが解り切れる訳ではない。

 前を歩くセリューと卯月、ついでにコロ。
 殺し合いの最中ではあるが、何故か笑顔である。
 煌めきに黒を交えた禍々しさを秘め、天使達の視界は何色に映っているのだろうか。

「未央ちゃん!」

 突然振り向く卯月に対して、咄嗟の反応が出来ない。

「こんな状況でも私達、頑張りましょうね!」

 言葉も出て来ない。

 ましてや暁美ほむらが死んだ直後で、傷だらけの承太郎が前にいる時に。

「う、うん……そうだねしまむー」

 どうしてそんな――綺麗な笑顔でいられるのか。






 血を吐き出す。
 線路の上に赤黒い鮮血がこべりつく。

 東の方角へ走る電車が見える。
 足立が乗っている可能性もあるが、足を止める理由にはならない。

 アイツは――俺がぶっ飛ばす








 線路を歩き終えた承太郎の目の前に立ち塞がる白いコートを羽織った存在。
 場所はひらけており、右手には民宿が見える。

「テメェ、邪魔するなら――」

 握られている刀から敵対の意思を隠すつもりは無いらしい。
 幽波紋を具現化させ、両者の力が一斉に大地を蹴る。

 距離を詰め振られる刀を逸らすようにスタープラチナの右拳が当る。
 白いコートはその場を大きく後退すると、弧を描くように足を動かし直接承太郎へ走る。

 追い掛けるスタープラチナを間に割り込ませ、声と共に顔面を狙い拳を放つ。

「オラァ!」

 吸い込まれていく拳を白いコートは身を低くすることで回避し、尚も承太郎に迫る。
 対応しようと足を踏み込む承太郎だが、連戦による疲労と損傷からか身体が上手く動かない。
 足取りが重く、踏み込むだけでも身体の内部から悲鳴が轟音を響かせてしまう。

「――ッ」

 吐血。
 溢れでた鮮血を気に留めることも無く、白いコートが距離を詰め刀を振ろうと――しかし。

 承太郎との間に燃え上がる焔がそれを止める。
 彼らの背後にはマスタングが錬成しており、白いコートは再度距離を取る。

「また会うとはな……ウェイブには悪いが私の手で葬ってやる」

 忘れる筈もない。
 忌々しい記憶が今でも残り続けている。あれはウェイブ達と合流した後の悲劇。
 エンヴィーとキンブリーに踊らされたあの時に対峙している相手である。

 マスタングの隣にいるセリューの表情が曇る。
 話には聞いていた。でも信じたくなかった。
 白いコートの存在を彼女は知っている。それもたくさん、一緒に過ごした時を忘れるなど有り得ない。

 だから。思い出は消えない、消せない、消させない。
 死んで暴れるなら――私が此処で生命を潰して終わらせてやるのが嘗ての仲間の役目。


「クロメ……今、私が開放してあげますからね」


 帝具を冠する狗が彼女の腕を喰らい尽くす。
 獰猛な牙を覗かせぐちゃぐちゃと肉を喰らう音を響かせ。
 骨を噛み砕く音を響かせながら現れるは刀、宋帝刀。


 左側から距離を詰め定石を無視して力が思うがままに刀を振るう。
 風を斬り裂く音だけが響き、白いコートは左斜めに身体を移行させ回避していた。

「――っ」

 その時、動きから白いコートが羽ばたいて落下する。
 其処にはやはり、セリューが知っているクロメの姿が骸となって生の世界を彷徨っていた。
 歯を食いしばる。
 骸の力は帝具八房の能力であり、それはクロメの愛刀である。
 それを盗んで彼女を殺害した男をセリューは許さない。キンブリーを許さない。

「コロッ!!」

 黙っていれば自分が殺される。
 刀の勝負でクロメに勝てる可能性など零だ。
 迫る攻撃から逃れるように転がり込み、自分とクロメの間には力を発揮したコロが割り込む。

 響きを上げた遠吠えと共に右拳を大地に叩き付ける。
 周辺に地震を発生させるも、クロメは跳ぶことによってこれを回避。



 着地した後、これを追撃しようと走りだすも急停止し、右から迫る拳を回避する。
 スタンドの拳は嵐のように迫り、全てを回避するのは不可能と判断し腕を交差させる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァ!!」

 何発も浴びる度に後方へ追いやられ大地が削られていく。
 一発一発が必殺級の拳を受け止める毎に骨が軋みを響かせ人体の崩壊を匂わせる。
 骸で無ければ苦痛の表情を浮かべていただろうが、死者に痛みなど皆無。

 最期の一撃は全力を振り切った拳。
 大きく飛ばされるクロメであるが、受け身を行い、直ぐに走りだす。

 対する承太郎だが、最期の一発と共に大きく血を吐いてしまい、大地に片膝を付けている。
 守るように焔が燃え上がるも、クロメは大地を縦横無尽に走り込み、己の軌道を撹乱している。

 殲滅力に関しては参加者の中でも上位に君臨する焔の錬金術師ではあるが、守るべき存在が近くにいる時、その真価を発揮することは出来ない。
 強力な力故に、仲間を巻き込む恐れがあるから。

 跳んだクロメの刀は無情にも承太郎の上半身を斜めに斬り裂く。
 溢れ出る血は刀身に付着し、禍々しい妖気を放ちながら返すように切り上げ――これを刀で防ぐセリュー。

「下がってください!」

 強引に弾き飛ばし、クロメの腹に蹴りを叩き込み彼女を大きく吹き飛ばす。
 左腕で静止するように承太郎の前に出ると、再び刀を握りしめクロメに向かう。
 勝てる気がしないが、逃げ出す必要も理由もない。

 鍔迫り合いが発生するが簡単に終わり、左肩が八房に貫かれる。
 苦痛の表情を浮かべるが、やっと好機を掴んだ――歪んだ笑顔が降臨する。

「捕まえた――逃がさないッ!」

 抜こうとする八房を強引に掴み、行動を抑制すると空いた片手で刀を握り締める。
 ゆっくりと上に、すると次は素早くお返しと謂わんばかりに心臓を一突き。

「まだまだァ! 死ねええええええええええええええええええええ」

 刺しても安堵することは無く、肉を抉るように刀を振り回す。
 人体の臓器を潰し、血管を斬り裂き、生命を削る。
 骸相手に生半可な戦い方では自分が負けてしまう。嘗ての仲間だろうと遠慮することなど――無い。


 その戦闘を眺める未央は口を抑え、奈落の下へ溢れ出る異物を落とし込んでいた。
 鮮血には慣れてしまった自分が居る。それだけでも不快感が身体を走り回るというのに。
 続いて実際に人間が斬り裂かれる瞬間を、人体が喰われる瞬間を、人体の臓器が潰される音を聞いてしまえば。
 壊れてしまう。人間としての大切な何かが壊れてしまう。

 目尻に涙を這わせ、それでも絶望に屈しないために、気を手放すことは絶対にしない。
 セリューが、承太郎が、マスタングが戦っている。
 自分が動けなくなり、足を引っ張ることなんて絶対にしない。
 タスクも、狡噛も、新一も、アカメも、ウェイブも――他の参加者達だって今も戦っている。

 自分だけ。
 自分だけが逃げる訳にはいかない。
 だけど。

(しまむーは平気なんだね)

 それでも、認めたくない現実だってある。









「退け! セリュー!!」









 掌を合わせたマスタングが叫ぶ。
 動きを止めたならば好都合だ。最大火力で焼き尽くすまで。
 一般人である未央と卯月には見させたくない光景だが、躊躇すれば死者が出るかもしれない。

 酷ではあるが、我慢してもらうしかあるまい。
 殺し合いに巻き込まれた時点で平穏な時を一生過ごそうなど理想の果てくれに漂う蜃気楼だ。
 安地など、約束の大地であるカナンなど存在しない。

「――ッ、任せましたよマスタング!」

 刀を引き抜く前に全体重を付加させ、クロメの左足まで強引に斬り裂く。
 行動を可能な上まで制限させた上で、刀を引き抜き大きく後退するセリューはそのままコロの背後に回る。
 圧倒的な焔の近くに居れば、己も焼けてしまう。


「お前の仇は私達が取る――此処で眠ってくれクロメッ!」


 弾かれた指と共に錬成される焔は骸を包み込む。
 火葬――冗談にもならない不謹慎な言葉ではあるが、死体を葬ることに変わりはない。

 ウェイブが見れば何と言うか。
 彼ならば全てを受け止めてくれるだろうが、心の傷は癒やされないだろう。



 この時、誰もが気付かなかった。




 クロメが刀を投げ捨てていたことを。





 民宿の二階からキンブリーが嗤っていたことを。







 そして焔と共に、クロメに仕込まれた悪魔の火薬が一帯を焦土へと叩き堕とす。










「ハハ――ハハハハハハハハハッ! 何とも美しい爆発ではありませんか!」



 荒れ果てた大地の上で一人の悪魔が嗤い、その声が嫌でも響いてしまう。地に刺さった死神の刀を引き抜きながら。
 転がる首輪が彼の足に当たり、止まる。機会的な金属音が小さい静寂を奏でる。


「あの爆発にも耐えるとは……中々どうして面白い」


 首輪の耐久力に興味を示すも、更に興味を惹く存在が在る。


「貴方も」


 口内に溜まった血を吐き出した学生は側に幽波紋を立たせ、悪魔を睨む。


「貴方も」


 爆発に対して咄嗟に大地の壁を錬成し、己を含み後方に居る一般人をも守った男が、因縁の錬金術師を睨む。


「貴方も」



 一番爆発に近かった彼女は帝具に守りを取らせ、その帝具も傷こそ負えど人造生命体のように傷を回復させ、仲間の仇を睨む。



「素晴らしい! よくも此処まで立ち上がれる……その意地、敵ながら尊敬させてもらいますよ」



 腕を広げながら立ち上がる参加者に賛辞を送る紅蓮の錬金術師。
 しかしその言葉を誰も受け取らずに、最初に動いたのはセリューだった。

 コロに腕を喰わせ鉄球を強引に振り回し首からを上を吹き飛ばそうとするが骸の愚者に止められてしまう。





「――――――――――――――――テメェッ!!」





 全てを悟った承太郎は死に体に鞭を振るい、気力がある限り身体を動かす。
 飛ぶスタンドの拳は銀の弾丸よりも早く、強く、信念が篭っている。
 この男は殺す。
 イギーを殺したこの男を――殺す。

「やはりこの能力は貴方と一緒でしたか」

 イギーの持つビジョンに興味を示していたキンブリーは気になっていた。
 民宿から戦闘を眺めていた時、承太郎の能力と似ていることに。
 天城雪子のペルソナとも似ていたが、どうやら本質は此方らしい。

「亡き友のために拳を振るいますか」

「そんな飾った言葉で気取るつもりはねぇ……テメェが俺に売った喧嘩を買うだけだ」

 悪魔の囁きを掻き消すように振るわれた拳は愚者を崩壊させる。
 砂塵が吹き荒れ蜃気楼のように消える――最初から狙いはスタンドの本体であるイギーのみ。


「――――――――――――――じゃあな、イギー」


 叩き落とされた拳はなるべく身体を破壊しないように、心の臓だけを止めるように放たれた。
 骸となって世界を彷徨う仲間に出来ることは、終わらせること。
 長い旅を共にした仲間との別れが――世界との別れが訪れる。



 光り輝くイギーの身体。
 発せられる悪魔の煌めきは世界を赤く包み込み爆の波動。
 クロメと同じように身体に細工を施された骸の罠が発せられる。

 セリューは爆発から逃げるように、承太郎を救えない現実を噛み締めながら後退する。

 その瞬間、承太郎の表情は憎しみによって歪められていた。
 それと同時に、自分の死を悟ったのか――何処か後悔を浮かべているようで。






「残念――ただの発光でした」




「テメェ……」





 気付けば承太郎の心臓は悪魔が握る八房に貫かれていた。
 もう吐く血も残っていない。

 コロが卯月と未央を乘せ西へ移動している。

「そんな、私だけ逃げるなんて……セリューさん!」

「大丈夫ですよ卯月ちゃん、だって私は正義の  なんですからね!」

「承太郎さん……承太郎さんっ!!」



 未央の叫び声が聞こえるが、承太郎は思うように声を発せない。
 少々適当にあしらってしまった彼女だが、心配してくれたことに変わりはない。



(生きろ)



 それだけ。
 口を動かし伝わるかも解らない合図を送る。

 それを感じ取ったかは不明だが、彼女は泣いていた。



 続いてマスタングは焔を錬成し、キンブリーを焼こうとするも愚者に防がれている。
 殺したかと思えば心臓もフェイクであり、悪魔に完全に嵌められてしまった。

 セリューは鉄球を振るうも悪魔が錬成した大地の壁に阻まれてしまう。
 故に承太郎を救える人間は存在しない。最も助かる傷ではない。


「貴方の強さは本物だ……是非とも私の役に立ってくれるでしょう」


 八房の能力は殺した人間を骸と化し己の駒とすること。
 刀を引き抜けば承太郎は絶命し、キンブリーの下僕と成り果てる。

 だが、


「抜けない……ッ!?」


 黙って死ぬ程、空条承太郎という人間は大人しくない。
 今でもキンブリーを殺さんと絶望的な状況ではあるが、その瞳は死んでいない。
 スタープラチナが刀身を握り締め、動かさないように固定している。血を流しながら。


(生きてるのはジジィだけか)


 イギーも、花京院も、アヴドゥルも死んでしまった。
 会場に生きている旅の仲間はジョセフ・ジョースターのみ。
 ポルナレフも生きているだろうが、会場に居る仲間はジジィだけである。


(DIOの野郎……)


 志半ばに倒れてしまう自分が情けない。
 だが、黙って死ねる訳もない。


 今、出来ることを――。





「テメェを殴らねぇと死んでも死にきれねぇ」




 放たれた最期の一撃は星の煌めきのように儚い。
 星屑を纏う拳はキンブリーの右頬を捉え、彼を大きく吹き飛ばした。


 それと同時に。


 空条承太郎の身体から八房が抜かれ――今此処に一人の男が死んだ。



 承太郎の死を目撃したマスタングはなりふり構わず焔を錬成し、一つの終わりを告げる鐘を鳴らすべく修羅となる。

「君には助けられたこともある」

 迫る愚者の猛撃を無様に身体を大地に這いつくばるように回避し、焼き払う。

「君が居なければ私もウェイブも、白井君達も死んでいた」

 更に掌を合わせ、顔を歪めるイギー目掛け最大火力を錬成し、指を鳴らす。


「礼を言う。君のおかげで私達は今も生きている――さらばだ、本当にすまない」


 焔の発現を背後に、マスタングは振り返らずキンブリーの元へ走る。
 躊躇いも、戸惑いも、情けも無い。
 嘗ての仲間だろうと、命の恩人であろうと心を修羅にしたマスタングはイギーを完全に消し去った。
 呆気無い。何とも呆気無いがこの火力こそが焔の錬金術師の代名詞であり、彼の罪であり、業であり、力であり、生き様である。

 掌を合わせ、飛ばされた悪魔を焼こうとするも視界が暗くなる。
 太陽は昇っている。視界を遮るはスタンドの拳。気づいた時には彼もまた吹き飛ばされていた。

「遅かったか――承太郎ッ!」

 迫るスタープラチナに対応しようと焔を錬成するも、簡単に回避されてしまい距離を詰められる。
 スタンドの背後に燃え上がる焔が悪夢を演出させ、拳がマスタングに迫る。
 これを腕で受け止めるも、近接戦闘が得意ではないマスタングにとってこの状況は圧倒的に不利だ。

 焔を錬成しようにも拳の応酬によって錬成する時間も、呼吸をする時間さえも惜しい。
 腕を交差させラッシュに耐えるも――限界が訪れる。

 腕を上にかちあげられてしまい、無防備となった身体に無数の拳が吹き荒れる。

 人体から骨が悲鳴を上げ、内部では臓器が危機の信号を体中に響かせる。


 空条承太郎、骸と化した今でもその能力は衰えない。





 コロから降りた未央と卯月は線路の上から爆発が絶えない戦場を見つめ、戦っているであろう彼らの無事を祈る。
 承太郎の死を以って訪れた別れの時。
 あの場所に戦えない自分達が居れば、足手まといになるのは目に見えている。
 今も、セリューにとって大事な相棒であるコロを奪っているのだ。居場所なんて無い。
 コロは主であるセリューの元へ向かうため、此処を離れる。

「承太郎さん……最期に『生きろ』って……自分があんな状況で私に『生きろ』って」

 死者に明日を夢見る資格は無い。だが生きている人間は明日を体感する権利を持っている。
 生者には死者に出来ない夢を追う資格がある。承太郎の真意は不明だが、生きろと言われたらからには生きるしか無い。

 タスク達も生きている。 
 彼らが頑張っているならば自分も頑張らなければ、腐っている訳にはいかない。

「しまむー、私達は絶対に生き残ろうね。生きてみんなのところに――」

「へ? あっ、そうですね……生きて帰ってもう一度みんなで……ニュージェネレーションで……にゅー……?」

 それはもう取り戻せない日常。
 卯月が紡ぐ言葉に未央の瞳には涙が浮かぶ。

 心が壊れていようが、目の前に居るのは未央が知っている島村卯月だ。

「未央ちゃん何で泣いて……あれ、私も泣いてる……これって何なんでしょうね凛ちゃん……凛ちゃん?」

 ニュージェネレーション。
 あの輝きを卯月の口から聞けたことに未央は心の底から嬉しがった。
 もう聞けないと、もう私の知っている島村卯月は存在しないかもしれない。
 そんな不安が、再開してからずっと心の青空を雲が覆っていたのだ。

「どうしてなんでしょうね……助けてください、セリューさん……」

 それでも、やはりあの頃の島村卯月は――。


【C-8/一日目/午後】


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューへの依存、自我の崩壊(中)、精神疲労(極大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:セリューに着いて行く。自分の価値を失くしたくない。
1:セリューを待つ。
2:セリューに助けてもらう。
3:凛ちゃんを殺した人をセリューに……?
4:死にたくない。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康 深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:マスタング達を待つ。
1:しまむー…
2:セリューに警戒。
3:生きる。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。



「随分と血だらけですが大丈夫ですか?」

「此方の台詞だ、君こそ私に任せてそろそろ倒れたらどうだ?」



 背中合わせの英雄の身体は満身創痍、限界を迎える直前である。
 キンブリーの錬金術によって被害を被ったセリュー・ユビキタス。
 承太郎のスタンドによる攻撃によって人体に深刻な損傷を負ったロイ・マスタング。

 対する悪魔達は英雄よりかはずっとマシな状態である。
 キンブリーの傷と云えば承太郎の拳による攻撃ぐらいであり、今も嘲笑っている。

 承太郎は何度かマスタングの焔を喰らったものの、直撃は受けておらず、骸ながらに生命を維持している。
 このどうしようもない状況で、英雄は眼前の敵だけは此処で殺さんと覚悟を決めている。

「さぁどうしますかね。
 私は残念ながら貴方達を逃がす程のお人好しではない」

「そんなことが出来る悪など存在しない、貴様は私が此処で葬る」

「口だけは達者な女性だ……似合わない鉄球では私を捉えることも出来ない」

「ならば私の焔はどうだ? 悪魔の皮を剥がしてやる」

 不意打ちのように迫る焔に対し、キンブリーは舌打ち共に大地を隆起させる。
 盛り上がった土で焔を受け止め、お返しと謂わんばかりに彼らの足元へ爆発の錬成の閃光を走らせる。

「飛べ!」

「無茶を言わないでください!」

 散開し爆発を回避した彼らは相手を取り替えて敵に向かう。
 承太郎に対して鉄球を振るうセリューだがスタープラチナに鎖を掴まれてしまう。
 行動を塞がれてしまうが、この未来は読めていた。


「斬り裂かれろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 腕を強引に振り回し、スタープラチナを中心に鎖を回転させる。
 すると鎖はスタンドを巻きつけ、その場に封じ込めてしまう。それでも尚動きを止めない。
 更に回転させ鎖で引き千切ろうとするも、星屑のスタンドパワーは想像を絶する。


「まさか――鎖を自力で破壊した!?」


 己の身体を開放させ鎖を解いたスタンドはセリューに向かう。
 お返しと謂わんばかりに無慈悲にも最強の拳が彼女の顔面を捉え、大地に転がせる。



「セリュー!」

「余所見をする余裕があるとは流石ですねぇ!!」

「しまっ――」




 吹き飛ばされるセリューに気を取られたマスタングの隙を狙い、紅蓮の錬金術が彼に迫る。
 大地ごと爆発物に錬成され、防御も間に合うはずもなく、無慈悲に爆発が轟いてしまう。
 一応、錬成は間に合ったものの、直撃を避けるの意味合いでありマスタングの左腕は大きな火傷を覆ってしまった。

 奇しくもセリューと同じ場所に飛ばされたマスタングは彼女が生きていることを確認して、立ち上がる。
 其れにつられて――か、どうかは不明だがセリューも立ち上がり、眼前に一人の悪魔と骸になってしまった仲間を睨む。

「またこんな状況だが――私に任せて逃げる選択肢を選ぶつもりはないか」

 マスタングの提案は自分一人を犠牲にしセリューを逃がす、自滅の誘い。
 しかし彼女はこれを受けずに、口元を緩ませてあろうことが耳を疑う返しを行った。


「その言葉そっくりそのままお返しします」


 呆気に取られるマスタング。
 どうも天城雪子や白井黒子、アカメといい強気な女性ばかりが戦っているようだ。
 だが、嫌いではない。思えばアメストリスで周りにいた女性も強い女性ばかりである。

 男である自分がこんなところで情けない言葉を吐けば中尉に撃ち殺されてしまう。


「仕方がない。ならば打開するしかあるまい――この状況を」


 キンブリーと承太郎の厄介な所は組み合わせではない。
 錬金術によって広範囲攻撃を行うキンブリーとスタンドによる圧倒的な近接戦闘力を保有する承太郎。
 言葉や表現は違えどマスタングとセリューも似たような組み合わせである。
 前者と後者の大きな違いと云えば『傷』である。
 連戦によって大きく浪費しているマスタング達と、然程浪費していなく骸も持っているキンブリーでは体力に大きな差が発生する。

 状況を打開するには焼き殺すのが手っ取り早いが、そう上手く行く筈もない。


「貴方達は大分追い詰められていますが――ああそうだ。
 先程逃げた彼女達も今頃私達の仲間によって……クク、死んでいるかもしれませんねぇ?」


『貴様ァッ!!』


 セリューとマスタング、二人の声が重なり一斉に走りだす。
 マスタングは焔を錬成しキンブリーを焼き殺そうとするも正面からの錬成では簡単に防がれてしまう。

「甘いッ!」

 ならばそれを上回る火力で圧倒的に焼き尽くせばいい。
 大地の錬成の守りを崩しキンブリーの上半身を焼くも、致命傷にはならない。
 寧ろ、此処まで酷使しているマスタングの身体が悲鳴を上げ、その場に膝を落としてしまう。



 追撃を行おうと飛び出したセリューが鎖を振るいキンブリーに打撃を与えようとする。
 しかし骸である承太郎のスタンドが割り込み、拳で弾かれてしまう、ならば。

「何も帝具だけが私の武器ではないッ! 斬り裂かれろよおォ!!」

 懐から日本刀を取り出しスタープラチナを斬り裂くセリューだが、右腕しか捉えられない。
 しかしそれで充分であり、その場で固まるスタンドを通り抜けキンブリー目掛け走る。

「学習しない人達です――ッ!?」

 いい加減飽きたと謂わんばかりにセリューを殺そうとするも、キンブリーはその場から緊急回避。
 上空から此方へ降下してくるコロの奇襲を回避すると、転がり込み承太郎の近くへ移動した。


「この狗が来たということは誰も彼女達を守ることは出来ない」



           彼女達は    セリューが
     「心配するな                 守る」
           卯月ちゃん達はマスタングが


 虚しく響くだけの音を誰も拾わない。キンブリーでさえも嗤わずに彼らを見つめている。
 沈黙を破ったのはセリュー、強引にマスタングのバッグに何かを捩じ込むと彼の背中を叩いた。


「私にはコロが来てくれた、でも卯月ちゃん達を守ってくれる人は誰もいません。
 だから、此処は私に任せてマスタングさんは先に行っていてください。私も直ぐに追いつきますから!」


「その言葉を私に飲み込めと――君に此処を託して一人で逃げろと言うのかッ!」


「キンブリーが言っていることだって嘘の可能性もあります。
 コロが敵に気付かずに此方に来る何てあり得ません。だから念の為にです。
 それに――マスタング、卯月ちゃんを救えるのは貴方しか今は頼れない――コロォォォォオオオオ!!」


 マスタングの返答を無視して好きなだけ言葉を紡いだセリューはコロにその身体を喰らわせる。
 全く曇りのない瞳は絶望的な状況であろうと、悪を滅するために、その身を危険に陥れようと勇猛果敢に振る舞う。



 その覚悟を見てマスタングはまた届かない言葉を並べるのか。違う。
 一度決めた覚悟は簡単に崩れない。故に覚悟。
 鋼の錬金術師も、アームストロング姉弟も、中尉も、あのブラッドレイだって、キンブリーでさえも覚悟を持ち合わせている。
 ウェイブも、白井黒子も、高坂穂乃果や小泉花陽だって、それに空条承太郎――セリュー・ユビキタスもだ。

 己の人生を、覚悟を決めた人間に水を差す行為は茶番だ。その人間に対する愚かな行為である。
 一度決めたその決意を、咎める権利など他人は持っていない。

 けれど。

「私も直ぐに追い付く――生きろ、セリュー・ユビキタス」


「勿論だ、何せ私は正義の  ! 悪を滅ぼすまで死ぬことなんてあり得ない!」


 コロに全身を喰わせたその身体は十王の裁きを組み合わせた殲滅力を限界にまで高めた悪を滅ばす覚悟の現れ。
 ミサイル、ライフル、キャノン砲、ショルダーランチャー……様々な銃火器を人体に宿わせる。
 硝煙の香り、それに似合わない少女は敵を殺すべく己の身体を機会的に改造し、明日に手を伸ばす。


「空条承太郎、セリュー・ユビキタス……君達が居なければ私達は全員死んでいたかも知れん」


 走り去るマスタングは振り返ることもせずに、未央達の元へ急ぐ。
 キンブリーの言葉が正しければ彼女達の生命が危ない、もうこれ以上誰も死なせるわけには行かない。

 例え全てが悪魔達の掌の上で踊らされていようと――生者は歩みを止めるわけにはいかない。


【C-7・西/一日目/午後】


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省、全身にダメージ(大)、火傷、骨折数本
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、錬成した剣 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5。暁美ほむらの首輪、鹿目まどかの首輪、万里飛翔マスティマ
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:未央達の安全を確認した後、セリューの加勢に入る。
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。



 風が吹く。

 覚悟を決めた女に積まれるは男の浪漫を詰め込んだ圧倒的殲滅壊滅力保有銃火器。

 目の前には悪魔と骸と化した存在。

 葬るには絶好の獲物であり、己が正義であらんことを証明するための礎となってもらう。

 狙いは定める必要も無い。この広範囲武装の前に人体など気にする必要もない。


「さぁ! 遂にお前を殺す時が来たぞキンブリー!
 我がイェーガーズの仲間であるクロメを! それにこの場で殺した空条承太郎を殺した罪――死んで償うがいい!!」


 己を奮い立たせる短歌は亡き友へ向けた開戦の祝砲。
 死んだ人間はもう戻らない。嘗ての師であるオーガやDr.スタイリッシュ、悪に殺された両親と同じように。
 クロメも戻らぬ存在となってしまった。

 その仇が目の前に居る。
 マスタング、承太郎と三人掛かりで臨んだ戦いも今じゃ一人しか残っていない。
 居るのは相棒のコロだけ。けれど。


(私には待ってくれている人が――居る)


 この会場に来て最初に出会った参加者の島村卯月。殺しには無縁の無垢な少女だった。
 最初は守るべき存在だったが、知らない間にセリューもまた、卯月に心を許していた。
 この生命は最早一人の物ではない。帰りを待ってくれる者のためにも死ぬ訳にはいかないのだ。





「だって私は正義の味方だから」





 憧れであり、目標であり、己を指す言葉を引き金に。


 悪を滅ぼさんとするセリュー・ユビキタス全力全開の攻撃が始まった。そして――――――――――。



 民宿だけが奇跡的に残された大地で立ち上がる人間は一人しかいない。
 圧倒的焦土と成り果てた大地で生命を噛み締める男は一人しかいない。

 焦土の彼方此方には嘗て人間を構成していたと思われる肉片が落ちており、辺りには腐臭が漂う。

 奇妙な程までに頑丈な首輪が転がっており、刻まれている名前はイギーと空条承太郎。
 骸と化したスタンド使いは文字通りこの会場から消え、正真正銘に死んだこととなった。

 吹き荒れる爆炎、轟く銃声、全てを赤に包む爆風、崩壊する世界。

 この世の終わりとも思える音を世界に響かせた一瞬の輝きも終われば、立ち上がるのは悪魔だけ。

 迫る銃火器を己の錬成で防ぎ、その間にセリュー・ユビキタスにも爆発の錬成を迫らせる。
 己の錬成だけで防ぐのは不可能であり、ならば新たな盾が必要となる。

 そこで新たに調達した骸である承太郎を肉壁にすることにより、キンブリーはその生命を散ずに済んだ訳である。
 嘗て承太郎と呼ばれた存在を表す記号は最早、首輪しか残っていない。

 しかし全てを防げた訳ではない。
 キンブリーも全身に重症一歩手前の傷を追うこととなり、夥しい数の火傷が上半身に浮かんでいる。

 それがセリュー・ユビキタス最期の証であり、悪魔キンブリーに一矢報いたことを表す。だけど之で終わる彼女では無い。

「まだ生きていますか……しぶとい人だ」



「此方の台詞だ……クソ、悪は絶対にころ……す……」



 下半身を爆発によって吹き飛ばされてしまったセリューは当然のように上半身しか存在しない。
 身体の断面から想像出来ない程の血液が漏れだしており、彼女周辺の一帯だけは赤い池が形成されている。



 その瞳はまだ死んでいない。
 しかし残念ながらそれ以外が死んでおり、事実上キンブリーを殺す術を持ち合わせていない。
 彼女に近づいたキンブリーが見下すように、


「正義の味方――響きは良いですが死ねばそれで終わりですよ」


 彼女が攻撃をする前に呟いた記号を彼は聞き逃していなかった。
 何故、あの瞬間にこの言葉を響かせたかは不明だが、きっとセリュー・ユビキタスの存在を表す記号なのだろう。

 色や形は違えど、鋼の錬金術師と同じような、芯を持った人間であり、その身を酷使していたに違いない。
 敵であろうと、相容れない存在であろうとその姿にはある種の敬意すら抱ける。


「私が死んでも、正義が悪に屈したことにはならない……悪は必ず滅び……っ」


 言葉に耐え切れなくなり身体から血液が溢れ出る。声を発する動作すらまともに行えない程、彼女は死に体である。
 悪を滅ぼす、殺す、断罪する。
 その目標だけを捧げてきた一人の英雄の詩が紡がれなくなる瞬間が近付いている。


「悪ですか……社会不適合者は確かに悪ですが貴方にとって悪とは……いえ、なんでもありません」


 悪の美学、或いは定義を聞こうとするキンブリーだが、最期まで言葉を紡がない。
 これから死んでゆく彼女に語らせても、得るものも、失うものも何もない。



 世界を去る正義の味方の最期ぐらい彼女の言葉を紡がせてあげようではないか。


「正義は必ず勝つ……じゃなければ市民が、皆が安心して暮らせない……だから、私は――ッ!!」


 カチリ。


 遂にその時がやってくる。


 終わりを告げる針が世界を動かす。


 例えこの身が朽ち果てようと。


 私は――――――悪を断罪する。




「悪は必ず滅びる! 私が断罪する!
 キンブリーィィィイイ!! 貴様に訪れる明日など存在しない!!」



 息を吹き返したように叫ぶセリュー。口から血が吐き出ようが関係ない。
 此処で悪を一人でも殺せるなら本望――かもしれない。断言は出来ないだろう。
 けれど彼女の使命は一つ果たされる事になる。それにクロメの仇も取れるだろう。


「この音……まさか貴方は自分ごと――ッ!」


「五道転輪炉……私の脳内に施された爆弾はDr.スタイリッシュがくれた最期の――正義」


 セリューの言葉を聞いたキンブリーの表情が一転して曇り、その場から離れようとする。
 針の音が聞こえた時、全てを理解した。
 絶大な生命力もそうだが、彼女は自分を引き止めるために言葉を紡いでいたのだろう。
 それに圧倒的な火力は此方の体力を可能な限りまで削り、大地を破壊し確実に追い込むためだったのかもしれない。


(一杯食わされたという訳ですか……チィ!)


「今更逃げたって無駄だぁ! 貴様は此処で死ぬんだよキンブリーィィィィィイイイイイ!!」


 錬成で防ごうにもあの圧倒的火力を人体に背負った存在の爆発から守り切れる自信が無い。
 可能な限り離れようとするが――一か八かの賭けに出るしか無いだろう。























「誰もいなくなっちゃった……」



 残されたセリューの周りには誰もいない。
 常に側に居てくれた島村卯月は別の場所へ避難している。もしかしたら彼女は既に――いいや、それはない。
 マスタングが向かっているからきっと大丈夫だろう。
 今一つ信用が置けない彼ではあるが、ウェイブが信頼している男でもある。信用と信頼は違うが上に、きっと卯月達は大丈夫だろう。


「ごめんね卯月ちゃん、一人にしちゃって」


 心残りは彼女を残してこの世を去ることである。心配であり、ただ単純に彼女のことが心配である。
 南ことりの殺害現場を見せたこと、不可抗力とは云え一般市民には辛い現実を体感させてしまった。
 錯乱状態に陥った人間の果ては由比ヶ浜結衣の一件で卯月も感じ取れただろう。
 悪は例え善人の心であろうと、蝕んでしまい、負けた者は心ごと悪へ変化してしまう。


「負けないでね卯月ちゃん……自分を見失わないで」


 だから彼女には最期まで自分の意思を貫き通して欲しい。
 他人の言葉を借りる訳でもなく、依存することでもなく、自分の意見を通せる意思を。


「ふふ……ブラッドレイの時に死を覚悟してたから涙が出ないや」


 これから死を迎えるのに何故か涙が出て来ない。
 嘗てキング・ブラッドレイに敗戦を喫した時は死を実感しこれまでの出来事が脳内に響いた。
 待ち受ける死の恐怖に怯えていたあの時に己の覚悟は既に完了していたらしい。


「仇、取ってからそっちに行きますね」


 友であるクロメを殺したキンブリーを道連れに天へと昇る。
 マスタングに聞いた所、ブラッドレイとキンブリーは同じ世界の人間らしい。
 あの世界の人間に掻き回された事、一生癒やすことの出来ない敗北の思い出になってしまう。


「まだ会場には沢山の悪が居る……皆、頼みましたよ」


 高坂勢力を始めとする悪が会場にはまだ蔓延っている。
 ウェイブやエスデス、サリア達にはその身を削ってでも正義の意思を継いでもらいたい。


「そう言えばほむらちゃんには悪いことしちゃった」


 マスタング達に遅れて承太郎を追い掛けた時。
 セリューは残ってほむらの支給品を漁り、彼女と鹿目まどかの首を切り落として首輪を回収していた。
 物は全部マスタングのバッグに収納したが……正義のためとは云え、悪いことをしてしまった自覚はあるようだ。



「もうそろそろ、かな」


 己の世界が終わりを告げる時がまもなく訪れる。


「私がこの手で断罪したのは南ことりと由比ヶ浜結衣……ちゃんだけか」


 蓋を開ければ全く悪を断罪出来ていない自分が情けない。せめてもの救いがキンブリーだろうか。
 それに由比ヶ浜結衣は出会いが違えば、南ことりだって手を共に繋げる答えがあったかもしれない。


「でも、そんなことを一つでも認めれば……揺らいでしまう」


 正義の味方にとって悪は断罪する対象である。
 その定義が揺らいでしまえば、己の感覚が鈍り、甘くなり、己を滅ぼすこととなる。


 その断罪全てに関わっているのが島村卯月である。
 やはり、知らない間ではあるがセリュー・ユビキタスにとって島村卯月の存在は無くてはならない。


「本当にごめんね卯月ちゃん……私は此処でお別れ。でも、絶対に追い掛けちゃダメ、だからね」


 此処に来て涙が浮かんでしまう。
 正義の味方故に最期までかっこ良く散りたかったが自分も人間であるようだ。

 残された者の悲しみをセリューは知っている。
 両親のように、オーガのように、Dr.スタイリッシュのように。


 そして、終わりの時が訪れる。



「――――――――――コロ?」



 誰も傍に居ないかと思えば、瀕死の身体を引き摺ってコロが近くに寄り添った。
 キンブリーの爆発を、空条承太郎のラッシュから自分を守ってくれたためにその身体は回復が追いついていない。


「ごめんねコロ……ずっと一緒に居てくれてありがとう」


 出会ったから一緒に居てくれた存在がコロである。
 生物帝具ではあるが家族同然の存在であり、殺し合いでも早くに合流出来て安堵していた。
 皆が離れてもコロだけは離れることが無かった。正真正銘の家族であり相棒。


 最期にコロが来てくれたお陰で安堵したのか、更に涙が溢れてしまう。
 死にたくない、誰もがそう思う。けれど、誰もが、抗えない。


 コロを抱き寄せる。
 その表情は悪を断罪する時の険しい表情では無く、優しくて女性らしい笑顔で。


「――――――――――――ねぇ、コロ」


 そして本当に終わりを告げる針が響く。

 最期には似合わない、星の輝きを冠する笑顔で。








「私はちゃんと正義の味方だったかな」








【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】
【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る! 死亡】


 彷徨いの果てに辿り着いたベッドに己の身体を全て託すように眠る。
 セリュー・ユビキタス最期の爆発に対し紅蓮の錬金術師は賭けに出た。

 手持ちにあった流星の欠片を賢者の石と同じように扱い、己の錬成への糧として使用した。

 それでも爆発を防げるか怪しい段階ではあったが、生きている自分が答えである。

 しかし全身は更に火傷を覆い、立っているだけでも限界な身体は簡単に気を失ってしまった。

 全ての骸を失ったキンブリー。



 その生命を潰すことは出来ずとも、正義の味方の一撃は確かに届いていた。





【D-7・民宿/1日目/午後】


※D-7は民宿以外崩壞しました。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、全身に火傷(大)、右頬骨折、全身に痛み(絶大)、上半身裸
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 、死者行軍八房@アカメが斬る!、イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:傷を癒やす。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:首輪の予備サンプルも探す。
6:余裕があれば研究所と地獄門を目指す。
7:武器庫で首輪交換制度を試す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※千枝、ヒルダと情報交換しました



投下順に読む
Back:PSI-missing Next:自由の刑

128:Inevitabilis 空条承太郎 GAME OVER
セリュー・ユビキタス GAME OVER
島村卯月 139:これから正義の話をしよう
ロイ・マスタング
本田未央
131:奈落の一方通行 ゾルフ・J・キンブリー 145:かわいい破滅

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年12月12日 01:34