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StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk
本田未央が
島村卯月に勝てる可能性は零である。
アイドルのパフォーマンスや収益の話では無く、現状に置いて勝利する確率の話だ。
血と硝煙の匂いとは無縁な世界で暮らしていたシンデレラに訪れたのはかぼちゃの馬車では無い。
首に枷として嵌められた首輪はどんな時でも彼女達に生命を握られている不快感を与え続けた。
島村卯月に訪れた王子様は正義を狂気的にまで愛する
セリュー・ユビキタスである。
己に下した使命と信じるべき教え――正義に囚われ続けた彼女が島村卯月に与えた影響は大きい。
例えば。
島村卯月が最初に出会った参加者である
南ことり。
殺し合いの極限状態に置いて、己の手を汚し仲間の平和を願った少女だ。
最期の一人に願いを叶える権利が与えられるならば、自分が生き残る夢を見た彼女。
主催者の掌の上で踊らされてしまった彼女を現実に戻したのがセリュー・ユビキタスだった。
血生臭い人生とは無縁だった少女が戦闘経験を積んだ軍人に勝てる訳など無かった。
簡単に無力化し、断罪対象と見なされた南ことりはこの世から消えた。
この光景を目の前でやられた島村卯月は意識を失ってしまう。当然の話であろう。
其処にはドラマや映画では無く、現実として人間が死んでいるのだ。ショッキングにも程がある。
幸いにもセリュー・ユビキタスは倒れる人間を見捨てないため、放置されることは無かった。
仮に気絶状態で放置されていれば、殺し合いなのだから誰かしらに殺されていただろう。
意識を失う前に、島村卯月に刻まれたのは首だ。
首を斬り落とされれば誰でも死んでしまう。彼女でも知っている常識だ。
実際に目の前で生首を見れば、嫌でも脳裏に焼き付いてしまうのも仕方が無いことだろう。
意識を取り戻した彼女は必要以上に自分の首を触り、感触で、確かめていた。
ああ、私には首があるんだ、と。
当たり前のことを当たり前と感じて、彼女の瞳には潤いが帯びる。
生きている。生命がある。私は今、生きているんだ。
力を持たない彼女にとって、守ってくれる存在はとても重要である。
聞こえは悪いかもしれないが、強者に守ってもらえば、弱者に殺されることは無くなる。
そう、セリュー・ユビキタスの存在が彼女にとってとても大切になっていた。
南ことりを殺した前例はあるものの、真当な思考処理を出来ない状況にある島村卯月にとっては些細なことだった。
殺し合いの状況が彼女の精神を摩耗させ、もう生きることだけに執着していた。
自分を安全な場所まで運んでくれたセリュー・ユビキタス。島村卯月にとって彼女は女神のような存在だった。
その女神が席を外している間に。
広川によって告げられた放送は島村卯月に多大な影響を与えることになる。
大切な友達であり、仲間であり、親友であり、ニュージェネレーションの一員である渋谷凛。
島村卯月にとって大切な存在であり、自分の生命と同じくらい大切な渋谷凛が死んだ。
放送で呼ばれた名前に対し、名簿へ打ち消し線を引いていたが、固まってしまう。
思考が止まり、まるで世界が止まっているようだった。
考えることを脳が放棄し、彼女は立ち上がり一人、トイレに向かう。
トイレに着いてからは胸から溢れ出る不快感が嘔吐物となり、我慢出来ずに全てを流し出す。
理解が出来ない。もう、渋谷凛とは出会えない。
何故、死んだから。
どうして、死んだから。
理解する気も無かった。けれど受け入れることをしないと駄目なんだろうとも、察していた。
放送で南ことりの名前が呼ばれた時点で放送に偽りは無いだろうと、気付いてしまった。
虚偽の情報を流して参加者を錯乱させる可能性もあったけれど、本当の情報だろうと、感じてしまった。
何故死をすんなり受け入れたのかは今でも疑問である。
変に環境へ適応していたのか、それとも自分が生きている現実にしがみついていた故に余裕が無かったのか。
大切な仲間を失った島村卯月が頼れるのはセリュー・ユビキタスしか居なかった。
セリュー・ユビキタス。
お世辞にも聖人とは呼べない彼女との行動は波乱の連続だった。
南ことりの仲間である
小泉花陽との合流を含め、全てが火薬庫の中で煙草を吸うように危険な時間の連続だ。
キング・ブラッドレイの襲撃があると思えば
由比ヶ浜結衣が錯乱しショットガンを島村卯月へ発砲する始末だ。
仮に
狡噛慎也が駆け付けていなければマスタングも、
ウェイブも、小泉花陽も生命があったか定かではない。
放たれた一つの弾丸によって戦乱は終息し、キング・ブラッドレイは
ロイ・マスタングと、その他は図書館へ向かうことになった。
島村卯月は奈落へ落下するセリュー・ユビキタスを救出すると互いに涙を流しながら抱擁し、生命ある現実を噛み締める。
これによってシンデレラの依存は更に高いものとなったのは確かであろう。
そして、この時はまだ、島村卯月はあの頃の島村卯月だった。
彼女に訪れた悲劇はセリュー・ユビキタスの死である。
紅蓮の錬金術師、
ゾルフ・J・キンブリーとの戦闘に置いて彼女は死んでしまった。
それよりも前に。本田未央と二人きりになった時、島村卯月は崩れてしまったのだ。
『私があなたを選んだんですか? あてがわれたユニットに、たまたまあなたがいただけですよね?』
本田未央が訴えるセリュー・ユビキタスの死を、受け入れることが出来なかった。
渋谷凛の死を受け入れても、何故か
正義の味方の死だけは認めなかった。
本田未央に対し、ニュージェネレーションをあてがわれただけのユニットなど、口が裂けても言えないだろう。
島村卯月は本来ならば決してこのような事を口走らなければ、思いもしない普通の少女である。
殺し合いが加速する中、波に揉まれたシンデレラの心に闇が蔓延る。
月の光すら差し込まない深い、深い闇。誰も手を伸ばして――まだ、手を伸ばしてくれる人間が、仲間がいる。
本田未央。
彼女にとって、ニュージェネレーションにとって、島村卯月にとって。
一世一代の大勝負が今、始まる。
■
ガソリンの匂いが一帯に充満している夜風吹く月華の元で対面する二人のシンデレラ。
心が壊れてしまった島村卯月と心を修復しようとする本田未央。
差し伸ばした手を永遠に払われようと、本田未央は決して諦めない。
島村卯月を救う。こんな頭のおかしい状況から、あの頃のような彼女を取り戻すために。
(……どうしよう。あの糸に触れたら私は絶対に死んじゃう。
でも、しまむーはお構い無しに振るってくるんだよね……私も敵なんだよね)
本田未央の出方を伺っている島村卯月は帝具であるクローステールを何時でも放てる体勢を取っている。
まるで獲物を見つめる獣のような鋭い視線だ。今にも殺されてしまうと萎縮してしまう。
しかし、油断すれば殺されるのは本田未央である。油断しなくても危険な状況故に、一瞬の隙でも見せれば簡単に死ぬだろう。
左袖をちぎり、バッグから水を取り出すとそれを浸し、右耳に押し当てる。
アドレナリンのせいか、痛みが想像以上に感じない。けれど、右耳が削ぎ落ちている中、放置は危険だ。
せめてもの思い……と、止血を試みるが、島村卯月が襲い掛かる。
動きは直線上に走る動作。
振るわれた腕は――横に薙ぎ払いだ。
(――本当に、殺す気なんだねしまむーは)
迫る糸の軌道を予測し、屈む――回避に成功だ。
普通の少女である本田未央に戦闘の、ましてや殺し合いの作法など知っている訳もない。
島村卯月のように極限状態故の覚醒もしていない。ならば、何故、攻撃を避けれるのか。
それは
田村玲子の助言も大きいが、種はクローステールに付着した血液にある。
右耳が削ぎ落とされた際に付着した血液は月明かりに反射して赤黒く輝いているのだ。
肉を切らせて骨を断つ。狙った訳では無いが、戦闘素人の本田未央にも、クローステールの軌道が見える。
「未央ちゃん……楽に死ねるのになんで抗うんですか?」
「しまむーはさ、これから殺されるって時に黙って死ねるの?」
「うーん……どうでしょう、私にはちょっとわかりません」
少ない会話であるが、本田未央の心に闇が一段と踏み込んでしまう。
何だこの会話は。一体、私達は何を会話しているのか。楽に死ねる? 何の冗談だ、と。
年頃の少女達が話す内容にしてはファンタジーの欠片も無い、生命のやり取りの会話だ。
誰もが死にたくないのは当たり前だ。そして、人が人を殺さない日常で彼女達は生きてきた。
無論、彼女達の世界で殺人事件が無い、と言えば嘘になる。
けれど、少なくともシンデレラプロジェクトの周辺でそのようなことは一切起きておらず、彼女達にとっては無縁の話だった。そう、だった。
「私は強くなって正義の味方にならなくちゃいけなんです――だからっ!!」
足を踏ん張り豪快に薙ぎ払われた腕先。そこから伸びるクローステールが本田未央の首を狩らんと襲い掛かる。
またも屈んで回避する彼女だが、島村卯月が蹴りあげた小石が目の前に迫っており、これも回避しようとするが尻もちをついてしまった。
「強くなるためって私は経験値扱いなんだね……っあ!」
立ち上がろうとした所で笑顔の島村卯月が上から跳んで来たため、身体を転がして回避する。
削ぎ落とされた右耳の箇所に砂利が入り、激痛が走るも我慢する。
死んだ人間に痛みは訪れない。
前川みくにも、
プロデューサーにも、渋谷凛にも。誰にも訪れない。
比べて自分は生きている。
そう――本田未央は生きているのだ。
「うわああああああああああああああああああああああああ」
着地した隙を狙い、本田未央は島村卯月に飛び付いた。
真っ先に両手首を掴みクローステールを抑制すると、全体重を乗せて倒れこむ。
もみくちゃになりながらも決して腕を離さず、何回転かして所で止まり、本田未央がマウントポジションを取った。
「しまむーはさ、いつまでこんなことを続けるの」
「……何を言っているの、未央ちゃん?」
本田未央は大きく息を吸い込むと、力強く言葉を吐き出した。
「こんなことをしたって誰も救われないんだよ!!」
唾をどれだけ飛ばそうが関係ない。アイドル以前に此処に居るのは生死を賭けた一人の人間の大勝負。
笑いたければ笑うがいい。失敗したならば指を指して笑え。
けれど、決して邪魔はするな。
「もしかしてさ『優勝すれば願いが叶う』なんて信じてるの?
そんなの出来る訳ないじゃん!! 死んだ人は生き返らないんだよ!!」
「――――――――――――――私はただ、セリューさんの正義を」
「正義ってなんなのさ……人を殺すことがしまむーの、セリューさんの正義だっていうの?」
「セリューさんを……馬鹿にしないでください!!」
怒りに触れたのか、抑えられている島村卯月は暴れ始め自由を手に入れようとする。
対する本田未央は絶対に負けるもんか、と力を押し込み、上から抑え続ける。
「誰も馬鹿になんてしてないよ。ただ、今のしまむーを見ていられないの」
「……え?」
「あの頃に戻ってよ……みんなを自然と笑顔にしてくれるあの頃のしまむーにさ……また、笑ってよ」
島村卯月の頬に伝う涙は彼女のものではなく、本田未央の涙だ。
紡がれる心の叫びと雫は必ず、島村卯月に届いているだろう。腕が震える。
心に何かが響いたのか、島村卯月は見せたことのない寂しい表情を浮べながら――。
「笑う、笑顔……プロデューサーはいつも私に言ってくれました。いい笑顔だって」
「……そうだね、しまむーの笑顔は本当にそうだった」
「でも」
飛び跳ねの要領で本田未央を飛ばし、立ち上がると、膝に付着した土を払い落とす。
本田未央の言葉は響いた。けれど、今更――。
「笑顔、笑顔、笑顔……笑顔は誰にだって出来るもん。
なのになのになのにいっつもいっつもいっつも笑顔笑顔笑顔って――――――――誰にでも出来ることが取り柄だって何度も、何度も!!」
「しま、むー……そんなこと言わないでよぉ……」
島村卯月が見せた初めての本心。
常に頑張りますと言い続けて壁に挑んできた彼女が見せた弱音。
その姿に本田未央の瞳から自然と涙が溢れ出る。そして、それが理解出来ない島村卯月。
「なんで未央ちゃんが泣くんですか……辛いのは私なのに」
「ならしまむーも泣こうよ……今は私以外に誰もいないから」
「っ――うわあああああああああああああああああああああ!」
弱い心を叫びで上書きする。
セリュー・ユビキタスの掲げる正義にそんな弱い涙は必要無いのだ。
敵の言葉に心を動かされるようでは駄目だ。己を奮い立たせ、涙は流さない。
手頃な木にクローステールを突き刺すと、巻き付け切断を行い即席の打撃武器を作り上げる。
それを本田未央に振るうも大振り過ぎたのか簡単に避けられてしまう。しかし。
「あ……足場、が……っぁ」
回避し後ろに跳んだ所で、会場の弊害が彼女に牙を向いた。
殺し合いの会場はどんなからくりかは不明だが、空中に滞在している。
つまり、会場からはみ出せばそこは、永遠に続く奈落だ。
「しまむー……本心を言ってくれてありがとう」
声は聞こえなかった。
唇の動きから言葉を察し――島村卯月は気付けば走っていた。
「未央ちゃん!!」
行動は奈落へ落ちる本田未央に対しクローステールを伸ばすこと。
嘗て狡噛慎也の銃弾に倒れたセリュー・ユビキタスを救った時と同じように、引き上げるために。
強くなりたいと思っていた。
そのためには経験と自信が必要であり、人を殺すことに戸惑いは無かった。
だから、本田未央も殺す対象だった。
けれど、殺される筈の彼女は殺人鬼に手を差し伸ばしていた。
心が壊されてしまった島村卯月に対し、ただひたすらに救いの手を。
本田未央は諦めていなかった。
彼女はこんな状況でもあの頃の島村卯月が戻ると信じていた。
その言葉に島村卯月は改心しなかった。
けれど、本心を曝け出すぐらいには、本田未央のことを信頼していた。
あてがわれただけのユニット。
あの時、彼女に言った言葉が脳内に何度も響く。
ニュージェネレーションがあてがわれただけのユニット――そんな訳ない。
どんなことがあろうと、あの頃の思い出は絶対に、消えない。
そう思った島村卯月は自然と本田未央を救うために走っていた。けれど。
「クローステールに反応が――無い? み、未央ちゃ……未央ちゃん!」
掬い上げようとしても、糸に繋がれなければ無理な話である。
つまり、本田未央が奈落の底へ落ちたことと同義であり、彼女はもう――。
「ありがとうしまむー。私を助けようとしてくれたんだね」
振り向けば背後には翼を携えた本田未央が立っていた。
クローステールと同じ帝具である万里飛翔マスティマ。
一か八か落下する最中、彼女はバッグに眠っていた帝具を発動し、奈落から飛翔した。
相性の問題もあるだろうが、決して諦めない彼女に訪れた翼。きっとその力を存分に発揮出来るだろう。
大地に降り立った所で、本田未央は靴紐を結び直す。
殺せる好機であるが、島村卯月は驚いているのか、クローステールを使う様子を見せない。
結び終わると、本田未央は勢い良く走りだし、島村卯月の肩を掴む。
そして等身大ありったけの叫びを彼女に、友達に、仲間に、親友に届けるために。
「やっと本心を言ってくれたねしまむー……今まで辛かったよね」
「なんで未央ちゃんがまた、泣いているんですか」
「なんでって……ごめんよしまむー。私が気づいていれば此処まで溜め込むことも無かったし」
「そんな、なんで未央ちゃんが……それに、殺し合いには関係な――っ」
「そんなことないよ! 確かに私はセリューさんと長い間行動していないし、南ことりちゃんも知らない。
けどね……私が少しでも殺し合いに巻き込まれる前のしまむーをフォロー出来ていればさ、こんなことには」
「やめてくださ……やめて! どうして自分のことじゃないのにそこまで……ねえ!!」
どうして他人のためにそこまで涙を流せるのか。理解が出来ない。
昔は出来たかもしれないが、今の島村卯月にとってはそれは理解が追い付かない現象だった。
「今もそうだよ……しぶりん、みくにゃん、プロデューサーが死んじゃて辛いのは一緒なのに……私は自分の意見ばっかり言っていた」
「プロデューサー、みくちゃ……ん、しぶ、りん……ぁ」
「そうだよね辛いよね、それに意味がわからないよね。なんでみんなが死ななくちゃならないのさって」
「しぶやりん……りんちゃん……もうニュージェネレーションは……あれ?」
「へへっ、しまむーの口から久し振りにニュージェネのことを聞けて嬉しい……けどね」
「凛ちゃんはもう……そっか、私達はもうステージに立てないんだ……」
記憶が戻る。
セリュー・ユビキタスと別れた直後までは覚えていたあの頃を。
青春を捧げ、謳歌していたあの輝かしい日々が徐々に島村卯月の中で蘇る。
「そう……しぶりんは死んじゃった。でも、こんなことは言いたくないけど私達は生きている」
「首……そう、私は生きているから正義を……あれ、あれ……?」
「ねえしまむー。これからどうしたい?」
「――――――――――――――――――え?」
世界が凍る。
思考の処理が追い付かず、島村卯月は固まってしまった。
これから。セリュー・ユビキタスの正義を継いで、強くなって――それからどうするのか。
悪を断罪し全てを駆逐するのか。
エスデスの元で修行に励むのか。それでいいのか。
私が、島村卯月が本当にしたいこと。
脳裏に流れる風景は決してもう戻ることのないあの日々。
お菓子を差し入れするアイドルがいて。それをとるアイドルがいて。
だらけきったアイドルがいて。みんなを笑顔にするたくさんのアイドルがいて。
みくちゃんが未央ちゃんに勝負を申し込んで、それを凛ちゃんと一緒に笑って。
プロデューサーが入室してから、アイドルとしての活動が始まって――あの頃に、戻りたい。
「未央ちゃん……わた、私……う……ぅぁ……ごめんな、さい…………」
島村卯月の中からセリュー・ユビキタスが消えることは無いだろう。
代わりに。思い出したあの頃の思い出が殺し合いの悲劇を上書きした。
彼女は、島村卯月はアイドルだ。帝具を操る殺人鬼では無く、一人の少女である。
彼女に正義の味方は重すぎる。そして、背負う必要も無い。
「今まで本当にごめんねしまむー……そして、お帰りなさい」
抱き寄せる。
目の前で涙を流している少女は間違いなく、知っている島村卯月だ。
お帰りなさい。本心から漏れた言葉が夜に木霊する。
「どうした、殺さないのか卯月」
■
誰も存在しない薄暗い闇の中で。
独りの少女が呟いた。
「良かった」
くるくると髪をいじりながら、裸足の足を血に浸しながら。
「私の出番何て無かったね」
光の訪れない空を眺めながら。
「内なる影――私の出番なしで立ち直れて本当に良かった」
最終更新:2016年03月17日 21:47