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ホログラム ◆BEQBTq4Ltk
時が凍てついたようだった。
背後から響いた声に従って振り向くと、
本田未央の視界には
エスデスが映っていた。
腕に傷を覆い血を流していた。
逆に言えば、それしか傷が見えておらず、彼女は笑っており、健在といった様子だった。
そしてこの場に居るべきあの男が居ない。冷や汗が流れてしまう。
ロイ・マスタングは――エスデスに――。
「どうした卯月。本田未央を殺すのではないのか」
「エスデス、さん……」
涙を拭い、鼻水を啜りながらも、
島村卯月は強い瞳でエスデスを見る。
セリュー・ユビキタスは偉大な存在だった。その彼女が心酔エスデスもまた、尊敬の対象である。
彼女達にマイナスなイメージを抱くことは無い。
それは今までも、そしてこれからでもあり、殺し合いが終わった後でも。
「私はセリューさんの信じた正義を信じます……でも、それは人を殺す正義じゃない」
「……ほう」
本田未央から離れ、力強い瞳でエスデスを睨みながら島村卯月は告げる。
その言葉に恨みはない。単純に人間として尊敬している面もある。
セリュー・ユビキタスとエスデスが居なければ、島村卯月はとっくに死んでいただろう。
だから、感謝も込めて決別の言葉を送る。
「誰かを守る正義……凛ちゃん、みくちゃん、
プロデューサーさんは死んでしまいました。
南ことりちゃんも
由比ヶ浜結衣ちゃんも
暁美ほむらちゃんもみんなみんな……でも私達は生きているんです。
もう誰も悲しんでいる所を見たくないから……私は、貴方達から受け継いだ正義でみんなを守るために、頑張ります」
言い切った。
これでエスデスとは決別することになるだろう。
一緒に過ごした時間は少ないが、その中で彼女は決して芯の折れない人物だと認識した。
欲しい物があれば力で手に入れるタイプであり、戦闘を求める人間は決まって――。
「そうか、その道を歩むのか……ならば、まずは私から本田未央を守ってみせろ」
新たな戦闘を巻き起こす。
氷を放とうとするエスデスは、一度行動を停止し本田未央を見つめながら。
「それはマスティマか……お前も帝具を使うのなら、手加減は要らないな」
島村卯月に守ってみせろと言った手前ではあるが、本田未央も戦闘能力を保有しているならば話は別だ。
エスデスはどのように島村卯月の凍った心を本田未央が解凍したかは知らないだろう。
だが、どんな形にせよ本田未央が島村卯月に勝った。言葉でも心でも力でも。
単純な勝敗で優劣を着けれる訳でも無いが、何にせよ本田未央が島村卯月を上回ったのは事実である。
「さぁ、このピンチをどうやって防ぐ! 仲間を見捨てるか? 協力するか? お前たちの力を見せてみろ」
広範囲に薙ぎ払われた氷の波に対し、本田未央は島村卯月を抱え飛翔し空へ逃げる。
重力に従い身体に負荷が掛かるも、我慢しなければエスデスに凍らされてしまうのだ。
「どうした、軌道が不安定だぞ」
「こっちは今さっきやったばっかりでコツも何も……うわっ!」
襲い掛かる氷塊を避けるために右へ左へ回避し続ける本田未央だが、今にも当たりそうである。
一か八かで試したマスティマだ。扱いに慣れていないため、空中での動きは見ていて不安すら残る。
見ていて不安すら残る。
「ほう……腕は凍っていたのに此処まで来たか、ロイ・マスタング」
エスデスを包み込むように大地が隆起し、彼女を閉じ込めた。
錬成の発動主目掛け、本田未央は移動し、瞳に涙を浮べながら駆け寄った。
「マスタングさん……よかった、生きていたんです……ね……っ」
「あぁ、遅れてしまってすまない……」
その姿は満身創痍だった。
背中や顔面からは血が流れ、腕や足は所々焦げており、立っているのが不思議なぐらいに。
エスデスの氷を焼き尽くすためにマスタングは己の腕を大地に擦り付け、可能な限り削った。
その際に発生した痛みは常人ならば意識を手放すほどだ。
そして、開放された腕から放たれる焔によって残りの氷を焼くのだが、己の身体にも負担が掛かる。
出来る限り抑えたつもりではあるが、疲労も重なり思うように制御出来ず――此処まで辿り着いたのだ。
「此処は私に任せて……島村卯月を救えたんだな」
「マスタングさん……私、その」
「ごめんなさい!」
「すまなかった」
マスタングと島村卯月の声が重なって響く。
「私が残っていればセリュー君は……本当にすまない」」
「私だってたくさん迷惑を掛けて、その、あの……」
「頑張ったんだな」
「…………私もちょっとは力になりたかったから」
マスタングが駆け付けた時、本田未央と島村卯月が一緒に居るのが不思議だった。
島村卯月は既に手遅れであり、非道の道を歩んでいたかと思えば、本田未央が救ったようだ。
どんな言葉や手段で正気にさせたか見当も付かないが、笑顔の彼女達を見れたことでどうでもよくなってしまった。
ならば、後はこの笑顔を守るだけである。
「エスデスは私が引き受ける。君達が敵う相手ではないからな、逃げてくれ」
「でもマスタングさん……そんなボロボロで」
「セリューさんはマスタングさんを救うために戦った……だったら私も」
困ったものだ。
肩を落とし溜息をつくマスタング。彼女達は逃げるつもりが無いらしい。
しかし、エスデスに挑んだ所で、彼女達が勝てる見込みは零である。
無限に生み出される氷塊に対し、糸と翼では太刀打ち出来ないだろう。
第一に普通の少女である彼女達を戦闘に巻き込むなど、絶対にさせない。
「いや、ここは退くんだ。私も後から追い付く」
「でも」
「でもじゃない――信じてくれ」
「……行こう、未央ちゃん」
最初に折れたのは島村卯月だった。
少なからずセリューやエスデスと過ごした時間から彼女は戦闘に置いて様々なことを学んだ。
その中に。覚悟をした人間に何を言っても無駄。これを学んだ。
そしてマスタングは絶対に退かないだろう。
身体は満身創痍でも、瞳は強く前を向いている。戦っていたセリューのように。
「解りました。必ず後で合流しましょうね、私、待ってますか――ぁ」
本田未央も悟っていた。
セリューが残ったように、承太郎が戦ったように。マスタングも己を曲げるつもりは無いと。
彼の言うとおり不慣れな帝具しか武器の無い自分達が近くに居れば、邪魔であることも理解している。
悔しい。折角島村卯月を取り戻したのに、また誰かと離れる。それも自分の力不足で、だ。
覚悟を決め、マスタングに別れの言葉を告げるが、言い切る前に詰まらせた。
合流場所を決めていないだとか、時間を決めていないなど、言いたいことはまだまだある。
けれど、マスタングの表情を見て、固まってしまった。
どうしてなのか。
これから戦いに臨むと云うのに、どうしてそんな安らかな笑顔でいるのか。
理解が出来なかった。けれど、何故だか涙が溢れてしまう。
まるでこれから死ぬのが解っているように――。
「行こう、未央ちゃん」
「あ、と、しまむー……私、絶対に待っているから、だからマスタングさんも――絶対に」
「君達は生きてくれ――それが私の願いだ」
「どうしてそんな――っ」
笑顔なのか。
またも言葉を言い切る前に島村卯月が本田未央の腕を掴みながら大地を駆ける。
転びそうになるも、何とか体勢を立て直しマスタングの方へ振り返ると彼が投げたバッグが迫っていたため掴む。
見る限り彼の所有していたバッグらしく、なにやらメモ紙が挟まっていた。
走りながらのため、ブレが始まり読み辛いが文章も短かったため、簡単に解読出来た。
その文章を胸に留め、彼女達は走り続ける。
立ち止まることも無ければ、振り返ることも無い。
たくさんの人達に紡がれたこの生命、絶対、無駄にするものか。
【D-6/一日目/夜中】
【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い、右耳欠損(止血済)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、
鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:生き残る。
1:エドワードとの合流。
2:島村卯月を守る。
[備考]
※
タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※
アカメ、新一、プロデューサー、
ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。
【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:誰かを守る正義を胸に秘め、みんなで元の世界へ帰る。
0:セリューとエスデスのことは忘れない。
1:エドワードとの合流。
2:本田未央を守る
3:μ’sのメンバーには謝罪したい。
4:結局セリューは生きて……?
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。
島村卯月と本田未央が離れた後に、轟音が響く。
エスデスが己を包み込む大地の球状ドームを破壊した音だ。マスタングの前に氷の女王が再び立ち塞がる。
「まさか彼女達が離れる間まで待ってくれるとはな……一応だが礼を言っておこう」
「島村卯月は形だけだとは云え志を共にした同士だからな。新たな門出を祝おうじゃないか」
笑みこそ浮かべてはいるが、両腕に冷気を纏わせ何時でも開戦可能な状態にまで彼女は仕上げている。
対してマスタングは満身創痍だ。奇跡でも起きない限り、彼の負けは確実だ。
だが、簡単に負ければ本田未央達にエスデスの魔の手が――と、考えていたが、彼女は待ってくれた。
エスデスは話が通じない相手だと認識していたが、常識は持ち合わせているらしい。
ルックスやプロポーションは抜群であり戦場とは無縁の場所で会いたかった――余裕がある時ならば口走っていただろう。
「なにか、匂わないか?」
「……気になってはいたが、嗅いだことの無い匂いだから無視していた。マスタング、知っているのか」
「そうか……貴様の世界には無かったのだな」
マスタングは思う。誰がコレをばら撒いたかは解らない。
結果として犯人は本田未央であるが、彼がその真実を知ることは無い。
正攻法でエスデスに挑むのは残念ながら手負いの状態で勝利を掴むのは厳しい。
相手は国家錬金術師にて氷を操るアイザックをも上回る氷雪系最強の女だ、賢者の石も無い状態で勝つ可能性は低い。
最も賢者の石があれば使うのか、という話になるが今は関係ない。
「最期に彼女達の笑顔を見れて救われた気分だよ」
「彼女……あぁ、卯月達か。
どんな手品を使ったかは知らんがあの心を動かした本田未央は大したものだよ」
「だろうな……私もそう思うよ」
「それで、貴様はどうするんだマスタング。
このまま未練を垂れ流して終了……何てことにはならないだろう?」
エスデスが残ったのはマスタングと会話をするためではなく、更なる闘争を楽しむためだ。
それなのに対する彼は問いかけを行ったり、逃げた本田未央達のことを話したりと覇気に欠けている。
しかしその振る舞いに隙は無く、覚悟と意思を持った表情で氷の女王を睨んでいるのだ。
「この匂いはガソリン……聞いたことはあるか?」
「いや、無いな。それは一体何だ」
マスタングは確信する。どうやら天の風向きは此方に傾いているようだ。
彼女がガソリンを知らないならば、一思いにこの戦いを終わらせることが出来る。
さて、どう説明しようかと悩むもとりあえず口を動かした。
「油は知っているか」
「勿論、料理にも使うし拷問にも――――――そうか、そうか……そうなのだなマスタング!!」
油の話題を振ったことでエスデスも気付いたのか、彼女の表情は狂喜に満ち始める。
腕を大いにに広げて天を仰ぎ、これから起こるであろう出来事に感謝を込めて叫ぶ。
「面白い! 貴様の本気とやら、どうやら私も覚悟を決めなければいけないらしいなッ!」
「私が全てを焼き尽くす――もう誰も失わせないために、まずは貴様からだエスデスッ!!」
掌を合わせ見慣れた、手慣れた錬成の蒼き閃光が夜を照らす。
これがきっとロイ・マスタングにとって最期の錬成となる。彼も覚悟をしていた。
走馬灯とでも云えばいいのか。
殺し合いが始まってから出会った人間の姿が彼の脳裏に浮かび上がっていた。
他にも救えなかった暁美ほむら、
空条承太郎、セリュー・ユビキタス。
先程、逃がした島村卯月と本田未央。他にも多くの参加者と遭遇したものだ。
時間も経過し、参加者は半数近くになっている。
この殺し合いを企てた広川に断罪の焔で焼き尽くしたい所だが、その役目は鋼の錬金術師に譲ることにしよう。
彼ならやってくれる。そして元の世界へ戻った後にも上手いこと中尉に説明してくれるだろう。
さて、未練はあるが、駄々をこねても仕方が無い。
彼が指を弾いたその時。
赤き紅蓮の焔が一帯を焼き尽くした。
「私の前では全てが凍る」
爆炎は会場に広く轟いただろう。
その中心に立つ女――エスデスは左半身を焼かれても、生きていた。
ロイ・マスタングが放った最期の焔。ガソリンも相まって弩級の殲滅力を誇っていたのは事実だ。
全てを浴びていればどんな参加者でも死んでいたのは確実だ。例外は無いだろう。
奥の手。
エスデスの帝具であるデモンズ・エキスの奥の手は――世界を止めること。
つまり、時間を凍らせ一時的ではあるが、自分が世界の頂点に立つことを意味する。
問答無用の最強能力ではあるが、エスデスは一日に一度しか使えない。
そしてこの会場に存在する時間停止保有者は暁美ほむら、エスデス、そして
DIO。
暁美ほむらは既に死んでおり、エスデスは知らないがDIOも生命を落としている。
彼女が時間停止を発動した今、誰も世界を握ることは出来ないだろう。
主催者の介入や支給品をフル活用すれば可能かもしれないが、そんなことを考えても仕方が無い。
時間を止めたエスデスは氷で全身を覆うことにより、迫る焔から身を守ることにした。
マスタングを殺せば全てが解決するのだが、既に焔が放たれているため、そう、遅かった。
最期の最期にマスタングにしてやられた。
氷も殆ど溶かされてしまい、左半身を焼かれてしまう始末だ。
氷による応急処置を施したが……戦闘は行えるレベルにまで整えた。
「ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハ!!
面白い、どうしてこうも楽しませてくれる……!!」
マスタングの首輪を拾い上げ、次なる闘争を目指す。
嗚呼、身体の限界も感じている。
けれど、止まりはしない。
身体の半身を焼かれて尚、氷の女王は新たな戦場を求めその足を動かした。
【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】
【D-7/一日目/夜中】
【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、全身に打撃、高揚感、狂気、左半身焼却(処置済)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3、マスタングの首輪
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:
御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。
2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
3:
タツミに逢いたい。
4:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
5:拷問玩具として足立は飼いたい。
6:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
7:後藤とも機会があれば戦いたい。
8:もう一つ奥の手を開発してみたい。
9:島村卯月には此方から干渉するつもりはない。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アヴドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※奥の手を発動しました。(夜中)
最終更新:2016年04月30日 23:13