006
始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◆dKv6nbYMB.
―――カチリ
時は進む。
―――カチリ
そのことを我々に知らせるために、時計の針はその秒針を刻んでいく。
―――カチリ
時に時計はズレが生じていることがある。だが、それに気付くのは容易なことではない。
そして、気付いた時にはもう手遅れになっていることも珍しくない。
『お...おれの時計が進んでいたっ!?すると、おれは正午前に弾丸を撃っていたことになる!今からが正午だ!なにが起こるってんだ!?』
『皇帝』のカードを示唆された男がそうだったように。
『まずい、ビルが...時間が止まらない!そんな...』
時を遡る魔法少女がそうだったように。
それでも、時計の針は進んでいく。
―――カチリ
例え、それが間違ったものだと解っていても。
―――カチリ
「どうして、こんなことになっちゃったんだろう」
時計塔の最上階で目を覚ました
鹿目まどかは、そんなことをぽつりとつぶやいた。
当然と言えば当然だろう。なんせ、いきなり変な場所へ集められ、その上殺しあえと言われたのだから、こんな言葉の一つや二つが出ても仕方ない。
怖い。あの広川という男が。そして、人を殺さなければ生き残れないというこの状況が。
デイバックを探る両手が、自然に震えていた。
ただの一般人だった彼女が恐怖を抱かないはずがなく、今にも泣き出しそうになっていた。
だが、名簿を見た瞬間、その震えは治まった。
幸か不幸か、この場には彼女の親友や先輩たちが四人も集められている。
心強くもあるが、反面、大好きな人たちまでもがこんな目に遭っていることには悲しさも感じる。
まどかは思う。彼女たちを誰も死なせたくはないと。
元からこんなバカげたことに乗る気はない。だが、その名前を見たことにより、その決意は更に固まった。
(とにかく、みんなと合流しないと)
そう決めたまどかの行動は早かった。さっさと荷物を纏めてデイバックを担いだ。
こうしている間にも、みんなが酷い目に遭っているかもしれない。
まどかは焦りを憶えつつ、階段をかけおりる。
その焦りのせいだろうか。
―――スルスルスル
まどかは、時計塔の外壁を這う気配に気づかなかった。
―――ススススス
時計塔は入口に扉がなく、階段を下れば出入りが可能な仕様となっている。
まどかが時計塔から下りようと階段をおり、あと数段で出られる、そこまでたどり着いた時だった。
ズルリ
「きゃっ!」
なにかを踏みつけ、階段から足を踏み外す。と、同時に
グッパオン
まどかの左膝が裂け、血が噴き出す。
空中へと放り出され、180度回転するまどかの足を、側の木の枝が掠めていく。
ほとんど下りかけていたことが幸いし、まどかはそのまま入口に転がり落ちたが、膝以外は大した怪我はなく済んだ。
「な、なに...なんなの?」
左膝から流れる血を押さえる。
(なんで膝が...枝で切ったのかな。それに、なにかで滑ったような...)
なにがなんだかわからないといった感じで、まどかは辺りを見まわす。
視界の端に捉えたのは、ゆっくりと近づいてくるひとつの人影。
人影の正体は、長身の青年で、ルックスもイケメンだ。ただ、右目を隠すほどに垂れ下がった前髪と、両耳に付けたピアスはどこかしら奇妙な印象を受けた。
「そこのきみ」
いきなりの青年の登場に、つい身構えてしまう。
「そんなに警戒しないでくれ。わたしはこんな殺し合いで優勝するつもりなんてないよ。
不安なら、このデイバックは地面におこう。...さっき、すごい転び方をしていたが、大丈夫だったかい?」
青年の柔らかい物腰と、殺し合いをする気はなく、階段から転んだところを心配してきたとの言葉に、まどかはひとまずホッと胸をなでおろした。
同時に、あんな不様な転び方をした自分が恥ずかしくなり、思わず顔が赤くなってしまう。
「ん?その膝...出血しているじゃあないか。このハンカチで応急手当をするといい。傷口を押さえる前に、血を拭いた方がいいかもしれない」
「あ、ありがとうございます」
青年から差し出された四つ折りのハンカチを受け取り、厚意に甘えて血塗れの膝をふく。
(そうだよね。いきなり殺しあえなんて言われて、簡単にそうする人はいないよね)
いきなり優しい青年に会えた安心感からか、まどかの顔からは焦りや恐怖といった感情は薄れていた。
ふと、ハンカチの内側から文字が覗いているのが目にとまった。
純粋な好奇心から、まどかはハンカチを開いてしまった。
人間とは、とかく好奇心に弱い生き物だ。
禁止されていることほど興味が湧き、物事に続きがあると知れば、どうしても結末まで見届けたいと思ってしまう。
『このラクガキを見て うしろをふり向いた時』
もしもまどかがこのラクガキに気付かなければ、せめて続きを読む前に振り向いていれば彼女の運命は変わっていたかもしれない。
だが、彼女は己の好奇心に負けた。彼女は、その続きを開いてしまった。
『おまえは 死ぬ』
「えっ?」
文字を読んだまどかが思わず振り向くと、そこにいたのは緑色の異形。
「エメラルドスプラッシュ」
青年の発した言葉と同時に、緑色の結晶が放たれ、まどかの視界は黒く塗りつぶされた。
「......」
頭部を破壊され、ヒクヒクと痙攣を起こして横たわる少女を見下ろしながら、
花京院典明は思う。
これは自分がやったのだ。自分のスタンド『法王の緑』で、幼気な少女を殺害したのだ。
スタンド使いである以外、一般の男子高校生である自分にとって、これは初めての殺人だ。だが...
「...想像してたより、なんてことはないんだな」
彼は、悔やむどころか、悼むことも、ましてや昂ることもなく。殺人という行為に一切の感情を感じることができなかった。
そうだ。いったい、世界でどれだけの人間が人を殺していると思う?数えるのも馬鹿らしくなってくる。
自分の初めての殺人はこの少女になった。今の彼にとっては、ただそれだけのことなのだ。
ただ、あの御方なら彼女をどう扱ったかが気になったが、足元に敷いた『法王の緑』に気付かず足を滑らせる程度なら、あの御方には必要ないだろうと判断した。
「よし。殺人がこの程度のことなら問題はない。一刻も早く、ジョースター一族と
モハメド・アヴドゥルを殺さなければ」
やがて少女の痙攣が治まると、花京院は彼女のぶんのデイバックも担ぎ、少女に一瞥もせずその場を後にした。
花京院典明の言葉は本当だ。彼は、己が優勝する気など微塵もない。
ならば、なぜ鹿目まどかを撃ったのか?答えは簡単。他に優勝させたい者がいるからだ。
彼はここに連れてこられる前、ある男に忠誠を誓った。その名は、悪のカリスマDIO!
つまり、己の命の保身より、ここに連れてこられている彼を優勝させることが花京院の目的となっているのだ。
彼が何故DIOに対してこれほどまでに心酔しているのか。その答えは、彼の額に蠢く肉片にあった。
DIOが花京院の脳に埋め込んだ肉の芽は、彼から善悪の感覚を奪い、ただDIOの命令に従い、忠誠を尽くすよう仕向けていた。
この肉の芽がある限り、DIOへの忠誠は決して覆ることはないのだ。
―――カチリ
時計は時を刻んでいく。
―――カチリ
本来の時間軸ならば、彼は肉の芽の呪縛から解き放たれ、DIOという『黒』を打ち倒す『白』の道を歩むはずだった。
『占い師の私に予言で闘おうなどとは、10年は早いんじゃあないかな』
誰よりも熱き魂を持った、エジプトの頼れる占い師。
『ガウガウガウ!』
成り行きではあるが、共に巨悪へと立ち向かった、愚者を名乗る勇者。
『我が名はJ・P・ポルナレフ!我が妹の魂の名誉のために!我が友アヴドゥルの心のやすらぎのために...この俺が貴様を絶望の淵へブチ込んでやる!...こう言って決めるんだぜ』
どこかとぼけた三枚目の、誇り高きフランスの騎士。
ひょうきんな性格で、敵を華麗に欺く老練なる策士。
『なぜお前はわたしを助けた?』
『さあな...そこんとこだが、おれにもようわからん』
そして、無愛想だが、確かに熱い思いを胸に秘めた不良高校生。
『後悔はない...今までの旅に...これから起こる事柄に...僕は後悔はない...』
たった数十日間だが、共に戦い、泣き、笑い合う、気持ちが通い合う初めての『仲間』を得るはずだった。
―――カチリ
だが、奪われた時間をそのままに、物語は始まってしまった。
仮に、肉の芽の呪縛から解き放たれたとしても、もう遅い。
彼らはこの殺し合いに巻き込まれてしまった。彼はなんの罪もない少女を手にかけてしまった。
いくら他人に許されることがあろうとも、彼自身が、この場にいる仲間になるはずの者たちと手を取ることが許せなくなるだろう。
もう、本来あるべき形に戻ることはできない。奇跡や魔法でもなければ、時間を撒き戻すことなんてできやしない。
そのことを知る由もない花京院の頭上を、夜空に輝く6つの星屑が落ちて消えていった。
―――カチリ
狂った時計の針は、もう止まらない。
【A-2/一日目/深夜】
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:額に肉の芽
[道具]:デイバック×2、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、花京院の不明支給品1~2 まどかの不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:DIO様を優勝させる。
1:ジョースター一行を殺す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル)
2:他の参加者の殺害
3:DIO様に会えれば会いたい。
※参戦時期は、DIOに肉の芽を埋められてから、承太郎と闘う前までの間です
※額に肉の芽が埋められています。これが無くならない限り、基本方針が覆ることはありません。
※肉の芽が埋められている限りは、一人称は『わたし』で統一をお願いします。
※この会場内のDIOが死んだ場合、この肉の芽がどうなるかは他の方に任せます。
花京院典明は一つの失態を冒した。
彼の一撃は、確かに普通の人間ならば致命傷だった。頭を吹き飛ばされて無事な人間などいないだろう。
そう、人間ならば。
彼が撃ったのは、契約により魂を抜かれ、事実上人間を止めた存在、魔法少女。その中でも、とびきりの魔力を持った最強の魔法少女。
そして、その本体であるソウルジェムが砕けぬ限り、彼女が死ぬことはない。
吹き飛ばされた肉片が、徐々に肉体へと戻っていく様を見ることなく、花京院典明はこの場を立ち去ってしまった。
彼女が目を覚ましたとき、どう行動するかはわからない。
だが、わかることはひとつ。
これからの彼女は、花京院典明を『敵』とみなすだろう。
そして、その力を持って、彼女が『敵』をどうするか。
それは誰にもわからない。
【A-2/時計塔付近/一日目/深夜】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:頭部半壊 気絶中 ソウルジェム濁り中 魔力消費中
[装備]:見滝原中学の制服 中指に嵌められたソウルジェム(指輪形態)
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
1:気絶中
2:???
※参戦時期は、魔法少女の素質がかなり高い時期からの参戦です。既に契約済みです
※制限は加えられていますが、この会場にいる
暁美ほむら、
美樹さやか、巴マミ、
佐倉杏子の誰よりも魔力は高いです。
※時計塔の近くで倒れています。
※魔力を消費しながら、頭を修復しています。自動で行われていますが、早ければ1時間以内、遅くとも2~3時間以内には完全に修復します。
※この修復による魔女化の心配はありませんが、仮にまどかの身体が必要以上に損壊された場合、魔女へとなる危険性はあります。
※『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチはまどかの近くに放置されています。
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最終更新:2015年05月23日 17:41