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闇に芽吹く黒い花 ◆BEQBTq4Ltk



 流れる星は静かに動く。


 永遠の刹那を感じていても、時は流れ続ける。




 足が重い。
 何かに掴まれているように、進む足を後方へ引き止めるように。
 それはまるで、死者のしがらみが生者に纏わり付いているようだ。勿論、そんな事実は無い。

 科学的な根拠では説明出来ないような、カテゴリに分類としたらオカルトの話になる。
 そこに加わるのが心象的な――生物特有の感情だ。言葉や記号では割り切れないものが彼の足を重くさせていた。
 けれど歩幅は大きく、目的地に辿り着くまでの所要時間は普段と差異は無い。


 一歩、一歩と確実にカジノへ進み――。


『禁止エリアに接触しています。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』


 機械的な音声が首輪から響き、定まっていなかった意識が現実へと形を形成し始める。
 カジノを目指していたものの、とうに禁止エリアとなっていたことを失念――していたのだろうか。
 本当は気付いていたかもしれないし、そもそもとして最初から知らなかったのかもしれない。

 このまま進めば死ぬ。

 確かなことは一つであり、彼は足を止めた。

 退かなければ首輪が爆発し、死ぬ。契約者と云えどその身体は生身である。最も彼は――さて。
 幾分か歩いた中で、彼の心は溝川に落ちたような、暗く何事も考えていない穢れたものだ。
 思考を張り巡らせた所で、収束は一点に纏わらずに全てが空中で飛散している。まともな判断は下せない。

 このまま黙っていれば死ねる。




 空洞の心境の中で、それだけははっきりと認識していた。
 人間は状況を追い込まれ時、楽な方に逃げる習性が少なからず意識の中に確立されている。
 ここで死ねば、この絶望と無力から開放される可能性だってあるのだ。

 カジノに酒を求めたものの、辿り着く前に首輪が爆発し、生命は消える。
 迂回すれば問題は無いのだが、今の彼にとってそこまで行動する気力が無い。
 その瞳は黒ずんでおり、生気を感じさせなかった。


 光を見続けた故に瞳が焼き切れ、闇のみが映る訳ではない。


 暗闇の中で光を追い続け、それでも光が消えてしまったが故に、闇の中に溺れてしまった。


 残り十秒といった所で彼の背中で眠っている女性の身体が、横に崩れそうになる。
 彼はすかさず体勢を立て直し――彼女の顔を見る形となった。


「イ――――――――ッ」


 決して交わることのない視線だが、この瞬間だけは瞳が吸い込まれていた。
 背負っている彼女は人形のように動かず、喋らず、息もしていない。
 それでも、視線を合わせれば生きていたあの頃を思い出す。そして彼は我に帰ることとなった。

 禁止エリアから脱するべく小走りとなり、領域から離脱に成功。首輪が爆発する気配はない。
 気付けば身体には汗の感覚が纏わり付いている。彼は気付いていなかったが、相当の量を流していたようだ。
 無気力に襲われていようと死に対する意識や警戒が消える訳ではない。
 頭の回転が鈍くなろうと、染み付いた戦場の記憶は簡単に色褪せることはないのだ。

 感覚や意識が蘇る。腹部等から走る痛みと心にある空洞。
 けれど、放送は記憶に残っている。

 十人の死者が出れば五人まで蘇生が許される。

 殺し合いを通した中で広川の声を聞くのは六時間毎に発生する僅かな時でしかない。
 それだけの時間でしか彼の存在を認識することは不可能であり、黒の死神は彼を掴み切れていない。

 真意が全く見えてこないのだ。
 殺し合いを円滑に進めるためのパフォーマンスが五人蘇生と仮定しても、それは真だろうか。
 彼が蘇生技術を持っているかさえ怪しい。信じた所で必ず見返りがあるとは断定不可能である。



 五人を蘇生させる。何のために、誰の思惑が交錯し、どの存在が得をするのか。
 広川の発言も、最初と比べれば大きくかけ離れている。
 殺し合いの宣言を行った男が簡単に、それも蘇生などと言う曖昧な餌で参加者を釣るだろうか。

 合理的に考えたとして、やはり殺し合いを円滑に進ませるためだろうか。
 しかし現在も多くの死者が出ている中で、進行速度を気にする必要は感じられない。
 発言の不具合さはまるで、操られているかのような、自己の無い人形で、未だに目的が見えてこない。

 少なくとも始まりの場において上条当麻なる少年を殺した男の発言とは思えない。

「――学院」

 一応の待ち合わせ場所ではあるが、彼は何一つ目標を達成していない。或いは進展がない。
 禁止エリアに触れているため、迂回しながらカジノに辿り着くのが当面の目標であり――。







 カジノに侵入した彼が最初に行ったのは背負った彼女をソファーへ寝かせることだった。
 一切の抵抗無く、死人は為す術もなくそのまま天を見上げる形で置かれた。

 その瞳を見ていると吸い込まれそうだ。彼までが死者の国へ引っ張られるように。
 己が死ねば、きっと同じ場所へ行けるだろう。仮に天国と地獄が存在したとしても行き着く先は同じでありたい。
 根拠も無ければ立証も不可能である。けれど願いたい。

 生きる気力も目標も消えかけた彼だが、彼女の顔を見た瞬間に意識が変わる。
 首輪の爆発から逃れるために身体が、本能が自然と動いていた。何も書かれていないキャンパスに線が引かれたのだ。
 そこから点に、生きる方向に向かい始め、カジノに至る。

 彼女を埋葬しようと考えてはいたが、見てしまうと動きが止まってしまう。
 死んだ。それは覆しようのない事実である。けれど、本能が叛逆してしまうのだ。
 埋葬すれば、彼女は本当に死んだことになる。しかし、彼は現実を受け入れられない程、子供では無い。

 だが……。

 彼女を寝かせた後は少しだけ顔を覗くと、カウンターの方へ進み始めた。
 マスターはいないが内側に入ると棚を開け、適当にボトルを掴み強引にコルクを抜く。
 意識はしてないが相当の代物だが、一切気に掛けること無く喉元へ流し込んだ。

 過度な摂取は人体に悪影響を及ぼす。ワイン――アルコールならば尚更である。
 意識が飛ぶように一瞬テーブルへ頭をぶつけるものの、構わず体内へ酒を流す。

 忘れるように。
 忘れられるように。
 何度も、何度も酒へ飲み、逃げる。





【H-7・カジノ内/二日目/深夜】



【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、腹部に刺し傷(処置済み)、戸塚とイリヤと銀に対して罪悪感(超極大)、銀を喪ったショック(超極大)、飲酒欲求(超極大)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪×1(美遊・エーデルフェルト)、傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子
[道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation 、銀の遺体
[思考]
基本:……酒。
0:銀を埋葬する。
1:酒を飲む。
2:学院へ向かうかどうかは――。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。

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最終更新:2016年10月04日 10:06