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とある少女の暗夜行路 ◆BEQBTq4Ltk
襲い掛かる風が一段と強く感じ、前髪が瞳の先でチラついている。指先で払おうにも同じ動作の繰り返しのため、
御坂美琴は諦めを選択した。
このまま渡り切ってしまえばそれだけだ。暗闇と云えど橋の上で立ち止まっているのは格好の的であり、この瞬間に狙われれば恥だろう。
前を見つつも、人影は無し。終わってしまえば橋を渡り切るのに特段、襲撃など発生する筈もなく御坂美琴は歩み続ける。
地図上では教会と記されている地点であるが、辺り一帯は瓦礫で埋め尽くされており、戦闘の影響だとは思うが民家らしき建物は全て崩壊している。
地面には何やら車輪のような引き摺り跡が見受けられる。車でも走行したのだろうかと考えるも、彼女の脳裏に浮かぶのは一つの戦闘だった。
あれは――そう、この会場において初めて
白井黒子と遭遇した時のことだ。周囲を囲む巨大な氷壁を粉砕したあの時だ。
数時間前の出来事だが、まるで遠い記憶のように感じてしまう。
遭遇を望みながらも拒んでいた。嬉しい再会は悲劇の引き金となって。振り返れば御坂美琴にとって最後の壁が崩壊したのも、この瞬間だった。
対峙する友は全てを知っていた。巡るめく変わる状況と感情の中で、彼女は何一つ変わらずに、憧れの人間の前に立っていた。
振るわれる能力と能力。空間を超越しながらも全てを無へと昇華させる雷撃。結果は明白であり、氷の女王がいなければ更に血が流れていたことだろう。
鋼の錬金術師と愛すべき後輩が去った後に待っていたのが先述の氷の女王、
エスデスだ。
両腕を失っており今にも倒れそうな女であったが、ハンデを感じさせない威圧と狂気を放ち、御坂美琴に牙を剥いた。
結果は儚く一瞬に終結し愛する男と共に満足に散っていった。思い返せば羨ましい程の散り際だ。大切な人と共に――逝けるのだから。
結果的に多くの戦死者が生まれた戦場にて一人、
鳴上悠や
足立透と同じ力を行使する自分と同世代と思われる少女がいた。
青い髪の少女は勇猛果敢に氷の女王へ挑むが、簡単に一蹴されてしまい、茶髪の青年が代わりに立ち向かい、この世から消える。
使役する人形らしき存在は剣を無限に精製し標的を追い詰めていたが、時折に木製と思われる車輪も射出していたようにも見えた。
推測になるが、御坂美琴が駆け付ける前に青髪の少女もまた、戦っていたのだろう。自分の中に眠る譲れない信念があったのだろう。
しかし、それが何だ。信念の一つや二つは持っていても可怪しくは無いだろう。寧ろ常人ならば当たり前のことだ。
決意が折れずに最後まで輝いていたところで、死んでしまえば物語は終わる。少なくとも自分と呼ばれる主人公は二度と光を浴びることは無い。
御坂美琴が生き残り、青髪の少女が死んだ。それだけだ、嗚呼、それだけに過ぎないのだ。
地面に残る車輪の痕跡から思いを馳せようが、所詮は時間の無駄にしかならず、御坂美琴の足を止めるにまでは至らない些細なことであった。
さて。
学院を取り巻く戦闘が終了し、移動を開始してから地図上で表記するところの数エリアを通過した段階で遭遇者は無しである。
大方、
キング・ブラッドレイとならば遭遇するだろうと思っていたものの、この一帯には人影一つ見当たらない。
次の放送までに死者が十に到達した場合に追加される一つの奇跡――五名の蘇生へ手を伸ばすには、妥協など必要無い。
御坂美琴が確認出来る段階での死者はまず
「……一人」
白井黒子なのだが、幾ら決別し覚悟を持っているとは云え中学生の精神には乗り越えられない限界が存在するのだ。超えた壁の数や大きさは関係ない。
身体の中から溢れ出る感情を抑えつつ、ゆっくりと、死者を数え直す。足立透の証言を信じれば鳴上悠が死んだ。その手前に自らの手で
島村卯月を殺害している。
特攻を仕掛けた
魏志軍と銃弾に倒れた
本田未央を含めれば計五名が死んだことになり、この目で確認したのだから、確実な情報である。
誤差があるとすれば鳴上悠の存在だが、足立透の発言を信じるも信じないも、問題は無い。単純だ、多く殺害すれば解決となる話だ。
死者の反対になる生存者。
遭遇していない人間の中で確定しているのはキング・ブラッドレイぐらいだろう。これもヒースクリフの証言という不確定要素を信じればの話であるが。
彼以外の人物は数時間前に遭遇した鋼の錬金術師含めて確実に生存しているとは言い切れない。
故に十の死者が発生しているかどうかを確かめる術は御坂美琴に存在しないのだが――可能性は残っている。
「……首輪が増えた。それにあいつの力を考えるとそれなりの対価は望めるかもしれないわね」
新たに増えた首輪の持ち主を考えると、相当の手練であることは間違いのない事実であろう。
数回前の放送で広川が告げた首輪を代償に道具や情報を得るシステムが会場内には設置されている。実体は不明だが活用する術はある。
手元にある首輪の数は四、目当ての情報を得るには申し分無いだろう。死者の数を聞くだけだ。余れば薬品等に回し万全の状態へ己を導けばいい。
当初の予定は北上だ。これを基点に考えると次の目的地は――アインクラッドになる。
肌を撫でる風がこの時間帯は何故か冷たく感じてしまう。
指で辿ると、僅かに震えていた。今更、何に怯えるというのか、と自分が情けなくも感じてしまう。
アインクラッドによれば嫌でも白井黒子のことを思い出す。避けようの無い現象であり、彼女との思い出を忘却の彼方へ追いやるなど不可能である。
追い詰めることになる。自分を更に追い詰めることになるが、確実にことを進めなければいけない。
アインクラッド到達の時間と次の放送への時間は賭けに近い。死者の数を聞いたところで満たっていない場合に対処は限られてしまう。
学院からの逃亡者が北付近に固まっていれば有無を言わさず雷撃で駆逐すれば問題は無いが、さて、どうなることやらと我ながらに思っていた。
ヒースクリフと遭遇した場合には、距離を詰められる前に殺害すれば問題は無い。
彼の素性には興味があり、枷となる首輪を外す手掛かりが掴める可能性もあるが、排除の対象から逃れられる訳ではない。
エンブリヲが立ち塞がるならば、彼も速攻で潰す必要がある。
瞬間移動の能力を持ち、恐らくだがまだ手の内を明かしていない彼の後手に回れば、死ぬのは己となる。
足立透もまた、人形を使役される前に殺害するのが最も効率な手段である。
放たれる雷撃は御坂美琴のソレと性質こそ違えど脅威には変わりない。人体が人間ならば、殺せる。
黒と呼ばれた男には情報が他の敵と比べ欠けているものの、何かしらの能力を持っていることは確実だ。
雷撃、物質変換などと聞こえた単語はある。実際に対処の方法も存在する。先手さえ打てれば勝機は充分に存在する。
キング・ブラッドレイとも遭遇する可能性がある。学院に向かっているのならば。
同盟は最早、破棄だろうか。御坂美琴としては数減らしのために続行も視野に入れている。何よりも彼の強さを知っている手前、無駄な戦闘は避けたいのが本音である。
接近戦を主体に動く無能力者。しかし類まれなる運動神経と視野の広さ、補足能力は厄介極まり無い。下手をすれば雷撃すら――言い過ぎか。
エドワード・エルリックとの交戦も視野に入れるべきだ。アインクラッドを目指すのならば可能性は充分にある。
彼への対処法が抹殺以外に存在しない。手の内が割れており、彼の能力は言ってしまえば一定の範囲内で行われる森羅万象だ。
長引けば不利になるのは御坂美琴本人だ。彼の青臭い言葉も含めて、戦局を長引かせるつもりは無い。
「そんな楽にことが済むんだったら、誰も死んでないし……あたしも、困っていない」
頭の中で対処法を練った所で、残念ながら楽観までとは行かなくとも現実に崩される可能性は大いにある。
簡単に殺害出来るならば、先の学院で全員がこの世から消えていた。各々を取り巻く環境や状況、因果に感情を含めれば絶対は存在しない。
言ってしまえば出たとこ勝負……美しさを感じない響きであるが、生死が隣り合わせとなる地獄に不可能もまた、存在しないのだ。
溜息を憑くと少し右足を浮かせ周囲に雷光を走らせる。
空間に弦を張りつめたような鋭い音が流れると御坂美琴は大地へ右足を若干の力を込め、降ろす。
大地へ付着した雷光は表面の草地を焼き払うと、その下に土が見え始め彼女は腕を軽く振るう。跡を辿るように電光が筋となって踊る。
砂鉄を自在に操り対岸まで繋がる即席の架け橋を完成させ、僅かな距離を駆け足で走り抜けた。
渡り終えると膝を払い、付着していた土を落とすと誰の耳にも届かない音を奏でる指の弾きが響いた。
ソレを合図に砂鉄の架け橋は一瞬で崩れ落ち、川へ流れると跡形もなく消え去った。
誰にも見られていないだろうが、雷光を走らた故に闇夜には嫌でも目立っただろう。遠目から目撃されている可能性は大いにある。
無論、だからどうしたと御坂美琴は言い張るだろう。襲ってくるならば、相手をするまでだ。止められるならば、止めてみろ。
この両手に積もる死者の灰が今更増加した所で御坂美琴は止まれない。
罪を犯した彼女に新たな罪を加算しようと、逃れられる筈も無く、彼女もまた、逃げる考えは持ち合わせていない。
実際の死者は九。規定である十までは後、一人。彼女が事実を知るのは数時間後であるが、ソレが最後の時に限りなく近いのは間違い無いだろう。
幕を降ろすのは誰だ。
超能力者か、錬金術師か、ペルソナ使いか、神か、ホムンクルスか、人間か。
終焉の時近し、されど幕引きに立ち会う役者未だ決まらず。意思を持った人間が簡単に屈する筈も無く、ただ足掻き続けるのみ。
闇夜を駆ける雷光の先へ。夜が開け始める早朝の時。
眩い煌めきが観客の視界を奪い去り、再び刮目の光が訪れる時に。
満来の拍手を浴びる役者は――誰だ。
【G-4/二日目/早朝】
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)全身に刺し傷、右耳欠損、深い悲しみ 、人殺しと進み続ける決意 力への渇望、足立への同属嫌悪(大)
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×1、回復結晶@ソードアート・オンライン、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、黒子の首輪、
ヒルダの首輪、大量の鉄塊、魏の首輪
[思考]
基本:黒子も上条も、皆を取り戻す為に優勝する。
0:アインクラッドへ向かい死者の確認。その後は改めて北上する。
1:次の放送までに十人殺しを達成し、死者を五人生き返らせる権利を取り付ける。
2:可能な限り、徹底的に殺す。
3:ブラッドレイとは会ってから休戦の皆を確認次第、殺すかどうか判断。出来ればタイマンで会いたくはない。
4:首輪も少し調べてみる。
5:万が一優勝しても願いが叶えられない場合に備え、異世界の技術も調べたい。
6:全てを取り戻す為に、より強い力を手に入れる。
7:拘るわけではないが足立がいたらこの手で殺したい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。
※四回放送以降の死者について把握している数は5人(鳴上悠含む)
最終更新:2016年09月25日 10:15