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コバルトブルー ◆dKv6nbYMB.



ズルリ、ズルリと重い身体を引きずり、ウェイブは市庁舎へと向かう。

未だに脳髄を打ち鳴らす頭痛。
止まない吐き気。
足を踏み出す度に芯から滲み出る激痛。

いずれも耐えながら、ゆっくりと、だが確実にその足を進めていた。

今の彼の身体に病んでいない部位などない。
この殺し合いでの連戦はさることながら、先刻の後藤の攻撃、インクルシオ自体も負荷に加えてアドラメレクも使用した反動、そして自分を庇った田村玲子の死。

それらの"痛み"は髪の毛から爪先まで余すことなく彼の身体を苛め抜いていた。


がくり、と膝が折れる。
まだ足を止めるには早い。だが、休憩も無しに動き続けることができないのもまた事実だ。
傍にあった木々へとどうにか身体を寄せ、一息をつく。

(...チクショウ)


先の戦いを振り返る。


後藤へと拳を叩き込んだ後。ウェイブは勝利を確信し、背中を向けてしまった。
後藤は強敵だった。だからこそ、己の有していた最強の一撃を叩き込んだことでどこか達成感を覚えてしまっていたのも無理はない。
だが、もし田村がいなければその時点でウェイブの死は確定していた。
後藤に殺され、あまつさえ奴は生き延びて。あの有り様から見て最後の一人にはなれずとも犠牲者は更に出ていたことだろう。
それほどまでに、あの獣の殺意という執念は凄まじかった。


その執念が、ウェイブの足を止め、田村を殺す要因を作った。
結果、ウェイブは生きていたが―――後藤との勝敗を問えば、それは紛うことなく敗北である。

そんな、田村を喪った自責の念が、彼の身体を余計に重くしていた。



「......」

なんとなく空を見上げてみる。
まだ陽は昇らず、星の光は煌めいている。

時折その星が消えるのを見る度に、死んでいった仲間たちのことを嫌でも思い出してしまう。

クロメ。セリュー。エスデス隊長。タツミ
元の世界からの仲間(+知り合い)たち。

犬っころ。マスタング。雪子。花陽。結衣。狡噛。光子。田村。
ここに来てからの仲間たち。

逝ってしまった者達の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。

もしも、こんな殺し合いの場でなければ、とうに弱音を吐いて涙を流すことすらしただろう。
だが、いまは急を要する事態だ。
先刻別れたばかりの杏子はもとより、まだ生きているエドワードやアカメたちに穂乃果たち、行方の知れない未央と卯月らとも合流しなければならない。
それに、後藤以外にも、キング・ブラッドレイ御坂美琴足立透や新一たちから聞かされたエルフ耳の男と危険人物は多い。

なればこそ、悲しみに負けて振り返っている暇はない。
一刻も早く散らばった戦力を集めなければならない。

早々に休息を切り上げようとするウェイブだが、しかし突如駆け巡る右目の激痛に倒れ込む。

「ぐ、あ、あぁっ...!」

右目を手で押さえながら、苦悶の声を漏らす。

(なんだよ、おい...もういいだろ。邪魔すんな!)

痛みを通して止まれと訴えてくる己の身体に呪詛を吐く。
限界を迎えているのはわかっている。
あれほどの力を引きだしてノーリスクで済ませられるなど、都合がいいのは百も承知だ。
だが、それでも。それでもだ。
自分勝手な我が侭だが、今すぐにでも護るべき者たちのもとへといかなければならない。
もう、これ以上失いたくないのだ。

(頼む...もう少し、頑張らせてくれよ...!)

現実は非常だ。
ウェイブの身体は、もう己一人の力では動けない。
このままなんの介入も無しに、短時間で動けるようになることはない。
いま戦えば、非力な少女にすらあっさりと殺されてしまうだろう。

「おい、大丈夫か?なにがあったんだ?」

だが、天が味方したのか。
彼を発見したのは、命を脅かす敵ではなく味方である契約者であった。



エドワードと別れてから程なくして、猫は西方で起きた微かな雷鳴、少し遅れて爆発音を聞きつけ、足を運んだ。
その音から御坂美琴を連想するが、しかし彼女は今しがた黒子とエドワードと戦ったばかりだ。
仮に黒子を斃したのだとしても、自分達より西方にいるはずがない。
また、田村が知る限りではサリアという女が電撃を操る道具を持っていたと聞くが、彼女は既に放送で呼ばれている。
となれば、他にも電撃使いがいたということだろうか。
もしかしたら、田村たち三人があそこで何者かと戦闘を繰り広げているのかもしれない。
その考えに至れば、彼が向かわない理由はなかった。

やがて、現場付近と思しき場所に辿りつけば、そこには傷つき倒れ伏している青年、ウェイブ。
杏子と田村の姿は見えない。
最悪のパターンを想定しつつ、ウェイブに声をかけ事情を窺う。

「...そうか。田村がな...」
「...すまねえ」
「そうあまり自分を責めるな。田村が自分よりもお前が生き延びた方がいいと合理的に考えた結果だ」

田村玲子。
契約者のように感情表現が希薄で合理的に物事を考えることが出来る寄生生物。
あの強力な後藤を斃したのは大きな収穫ではあるが、やはり彼女の死は戦力的にも精神的にも痛い。

それだけでなく、杏子もエドワードに置いていかれたと思い込み、精神的にだいぶ参っているらしい。
彼が言うには、一旦三人が別れることになったのはそのためだとか。

(どうやら、想像以上に厳しい状況みたいだな)

最悪ではないが、かなりマズイ。
頼りにしようとしていた三人の内、一人は脱落し、一人は重傷、残る一人も精神的に衰弱しているときている。
これではロクに戦闘などできないだろう。

(だが、他にあてになりそうなのは、黒...それに、田村から聞かされていた泉とその仲間のアカメくらいだ)

黒子の目撃情報では、黒は学院で別れたとのことだ。運が良ければエドワードとも合流できるかもしれない。
だが、銀の死がどう影響しているか分からない以上、過度に期待するべきではないだろう。
新一たちは、足立透を追って別れたきり音沙汰が無いらしい。
そのため、彼らとの合流もあまり期待するべきではないだろう。



(だがどうする?エドワードがもし一人で戦うことになれば...)

後藤を抜いても、危険人物はキング・ブラッドレイや御坂美琴などをはじめ、楽に勝てる相手ではない。
相手を『殺せない』エドワードでは尚更だ。
やはり助力は要る。
だが、どうすれば―――

「...猫。お前は佐倉の方を頼む」

悩む猫の思考を断ち切るように、ウェイブは剣を握り立ち上がる。

「お前、そのなりで動くつもりか?」
「休んでたら少しはマシになった。どうにか動く程度ならなんとか、な」
「無茶するな。その様で勝てるわけが...」
「わかってる。一人で勝てるとは言わねえよ」


先の戦いでウェイブは痛感している。
自分はエスデスのような一人で勝利をもぎ取れる絶対的な強者ではない。

マスタングやセリュー、アカメ達のような共に隣で戦ってくれる者。
穂乃果や花陽のような護るべき者。
狡噛や田村のような精神的に支えてくれた者。
ここまで生き残ってこれたのは、いつも誰かに助けられてきたからだ。

「猫。お前は佐倉に図書館で待っててくれ。俺が必ずエドワードや穂乃果達を連れてくるからよ」
「...仕方ない。現状じゃそれが最善か。それじゃもうひとっ走りしてくるか」
「それと、ついでに『いつでも戦えるように準備しておけ』とも伝えておいてくれ」


だからこそ、自分一人で戦う、力になれるなどと自惚れたことは言わない。
ただ感情的に動くのではなく、自分で考え、最善の選択をとる。

その結果、いち早くエドワードたちを探しだし、戦場に巻き込まれていれば彼らと共に離脱。
もしも後藤の時のマスタングのように意地を張るなら気絶させてでも連れて行き、自分を含めた皆の生存を優先させるつもりだ。
そして、その後に杏子と合流し、3対1で敵を迎え討つのが最善だと彼は考えた。




猫の同意を得ると、ウェイブは痛む体に鞭を打ち、インクルシオを発動する。
一分一秒でも早く、杏子とエドワード達との合流を果たすためだ。
それに、この鎧を身に纏っている間の方が疲れを感じにくくまだマシだ。解いた後の保証はないが。

「...?」

ウェイブの身を包むインクルシオを見た猫は首を傾げる。
猫は、ノーベンバー11やDIOといった、インクルシオを装着した者たちをそれなりに見てきた。
だが、いまのウェイブのインクルシオはなにかが違う。
若干ながら形状が違うのもそうだが、なにより違和感を覚えるのは目だ。
今までの装着者たちの目は、兜に隠されてみることが出来なかった。
だが、今の彼の目には、クッキリと十字型の紋様が刻まれている。


その違和感を猫が口にする前に、ウェイブは走りだす。

これ以上失わないため、男は前を向き進み続ける。

彼はまだ気付いていない。

後藤との戦いで引き起こした奇跡。
帝具の二重使用に加え、グランシャリオよりも爆発力があるぶん負担が大きいインクルシオの成長。
その二つの奇跡の代償がただの疲労程度で収まるはずもなかったことに。

悪鬼纏身インクルシオ。
その進化の代償は、鎧による使用者の浸食。

その果てにあるのは、一人の男の破滅のみ。


【C-5/二日目/早朝よりの黎明】

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷、腹に打撲 、インクルシオ装着、インクルシオによる浸食(小)
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0~3(セリューが確認済み)、南ことりの首輪、浦上の首輪
タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:生命を無駄にしない。だからこそ、前を向く。
1:音ノ木坂学院へと向かい、エドワードや穂乃果達対主催派を連れて図書館で杏子と猫と合流する。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:みんな……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。
※身体が徐々にインクルシオに飲まれつつあります。インクルシオを使用するたびに飲まれていきます。
※インクルシオとの同化の影響で、インクルシオ無しでも身体を動かせる程度には疲労が回復しました。ただし、戦闘のような激しい動きはインクルシオ無しでは不可能です。



【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(絶大)
[思考]
基本:帰る。
0:杏子を探すためにひとまず市庁舎付近へ向かう。次の放送までに図書館でエドワードたちを連れてきたウェイブと合流する。
1:黒の奴、飲んでないといいが。
2:銀……。

※ウェイブのインクルシオに違和感を覚えています。



193:アカメが斬る(前編) ウェイブ 203:僕らは今のなかで
最終更新:2016年10月04日 10:19