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天上の青は遥か彼方へ ◆BEQBTq4Ltk
全く、どいつもこいつも馬鹿ばっか。
そこら辺でくたばって死んでろよ、どうせ碌な結末を迎えないんだから。
俺もお前も……俺は、生き残ってやるからな。
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周囲に人影が見えず、挑発的な所謂殺気に分類される不快感も感じないまま辿り着いた先は図書館である。
学院の騒ぎに乗じ大地を駆け移動したが、遭遇者は一に満たない。無論、生存者の数が減っているならばそれに越したことはない。
足立透にとって死者や生者の数は欠片の興味すら惹かれない些細な要素である。自分さえ生き残れば、他の人間に抱く感情は存在しないのだ。
毒でこの世を去ろうが。
刃に心臓を潰されようが。
氷漬けにより生体機能を停止させられようが。
両腕を削ぎ落とされ雷光に包まれ塵一つ残らず居なくなろうが。
一瞬の隙を狙われ安堵した状況にて首を圧迫され世界から脱落してしまおうが。
足立透にとって彼らは死んでしまった敗者に過ぎない。思いを馳せる情も、涙を流す感情も、墓を立てる義理も道理も持ち合わせていない。
人間が死ぬのだから、何一つ感情を抱かないと云えば嘘になるのは当然だ。目の前で生命の灯火が消えれば思うことはある。
けれど、思うだけ。行動に繋がる訳でも無ければ、涙の結晶となって体外に飛び出ることも無いだろう。その程度の話で終わってしまう。
鹿目まどかを殺害した時に、彼女の身を案じたか。己の手で殺したのだ、身を案ずる必要など無い。
空条承太郎の名前が放送で読み上げられ、悲しみを覚えたか。馬鹿な話だ、その事実に嗤いが生まれた。
エンヴィーが、
エスデスが。自分を苦しめた存在も同様だ。まとめてこの世から消え去り、足立透の心は自然と前向きになる。
鳴上悠の時でさえ……足が止まる。
「あらら……天井が吹き飛んでる」
図書館には夜明けの陽光が差し込んでいるのだが、屋根や壁が一部消失しており、荒々しく焦げた木材の組み込みが視界に映る。
爆弾の類か。それともペルソナを始めとするオカルト能力かは不明だが戦闘が行われたことは確実だ。
「そういや承太郎から逃げる時には既にぶっ壊れた気もするけど、どうでもいいや」
時系列の整理を行った所で何一つのメリットが生まれる訳も無く、足立透は周囲を警戒しつつ図書館の扉を開き、第一歩を踏み出した。
訪れた理由としては単純である。一つに頭数を減らすこと。二つに身体へ休息を与えること。両者を同時に達成する可能性が高いのは施設に寄ることだった。
建物の中に避難する人間も多いだろう。事実、コンサートホールの件を振り返れば拠点にされていても不思議では無いだろう。
早朝の自然による光を頼りに図書館内部を探索するものの、人間が立ち寄った痕跡はあるが、やはり人影は見えない。
冷めたティーカップや無造作に放置されている書物から誰かしらが立ち寄ったのは間違い無い。けれど、この時間帯はハズレのようである。
「ゆっくりするなら問題ないけど……眠る訳にはいかないから何でもいいんだけどね」
身体への負担は当たり前のように大きく、一つ行動をすると簡単に口出せるが、蓄積された疲労は無視出来るものではない。
数日程度睡眠無しでも人間は活動可能だ、警察としての勤務に於いても睡眠時間を削る機会は多々あったため、慣れていると云えば慣れている。
しかし、殺し合いの幕が上がってからの一日と数時間如きで展開された出来事は普段の日常を遥かに凌駕する血の宴である。
欲を言えば汗を流し栄養豊富な料理を胃袋へ放り込み楽な姿勢から布団に全てを委ね、現実から数時間逃避したいのが本音だ。
無論、眠ってしまえば他人が足立透に接近した時点で彼の人生は終了してしまうだろう。サバンナの真ん中で堂々と隙を曝け出す獲物が悪い。
適当に身体を休めれば問題は改善されたと言い聞かせるしかあるまい。幸い夜は超えたのだ、少し横になれれば御の字であろう。
宿直室の存在を内部図面で確認すると、目的地目掛け足を進める。
床には硝子破片や書物が転がり、木目には不釣り合いな血痕が所狭しと散らばっている。狭い空間で戦う物好きもいるものだ、と笑みが溢れる。
しかし、思い返してみれば足立透自身もコンサートホールや学院を始め室内にて戦闘を行っているため、他人のことを上から偉そうに言える事実は無い。
「……ん、こいつは――さっきの」
足元に置かれていた一つの書物に目が奪われる。開かれていたページには同じ姿と表情を持つ中学生程度の少女が無数に立たされている奇妙な写真が掲載されていた。
まるでゲームの世界だと普段の足立透なら馬鹿にしてしまい、手に取ることすら起きないのだが、被写体である少女は何処か記憶に訴えるような存在だ。
複製――クローンと記された少女のオリジナルは
御坂美琴と記載されていた。
「き、きも……」
流し見程度だが御坂美琴の複製が造られている事実を知った足立透は生理的本能からか、反射的に書物を投げ捨てていた。
自分には理解出来ない人間や世界が存在することは嫌でも分かってしまった。エスデスや承太郎との出会い、鳴上悠との記憶違いがその事実を証言する。
それらを踏まえた上でも納得出来ない世界が存在するのも事実であり、人形を生産する記述に理解を示せる程、合理的な人間では無い。
専門的な用語が小さい一文にこれでもかと詰め込まれていたため、実態を把握した訳では無いが、御坂美琴の複製がとある実験のために虐殺されていたことは理解した。
最も理解だけであり、その先から知的好奇心を刺激された訳でも無ければ、そもそも実験とやらも不明なためこの話は足立透の中で興味の対象から外れる。
一つ言うなれば御坂美琴も大変だなあ。と云う他人行儀止まりであり、あれがどうした。なんて吐き捨てる程度の問題である。
「布団は……あるけど、寝る訳にはいかないってか。クソ、俺以外の首輪が全部爆発しちまえばいいのにな」
宿直室に辿り着き、適当な棚を開くと一人分の寝具が確保されているが、堂々と眠れる程安全が確保された空間は殺し合いの中に存在しないだろう。
一番安全だった状況はエスデス、空条承太郎、
モハメド・アヴドゥル、ヒースクリフ、鹿目まどかと共に行動をしていた時だろうか。
振り返ると物騒な面子とつるんでいた当時の自分は相当に辛い精神状況だったのだろうと、乾いた嗤いが溢れる。
良識人だったアヴドゥルが死んでしまい、最初に出会った参加者であるヒースクリフからは見放されてしまった。しかも前者の殺害犯は自分になっている。
クソだ。と何回目になるか数えたくない現実への吐き出しを終えると、置かれているコーヒーメーカーを作動させ、自分用に一杯を。
「……久しぶりだな」
日常だったあの頃は先輩刑事へコーヒーやお茶を淹れていた。新米の役目だがいい歳の大人としてはプライドに傷が付く。
文句を付ける刑事には愛想笑いを浮かべその場を流していたものだ。お前も数年前は俺と一緒だっただろうにと毒づいていたこともある。
帰れる日常は足立透に存在するのか。口に運んだコーヒーの苦味が一段と強く感じてしまう。
あの頃へ帰還すれば鳴上悠を含め、見知った面子が殺し合いの事実を知らないで待ち受けているであろう。
最も足立透が帰った先に待っているのは暗い牢獄だ。多くの人間を文字通り葬らなければ、日常は取り戻せない。
そう――日常は取り戻せない。
全員殺害し元の世界へ帰還した場合、足立透は追い詰められている。
マヨナカテレビを取り巻く一連の事件の犯人として、鳴上悠達に暴露されているため、足立透を取り巻く環境は厳しく彼に襲い掛かるだろう。
しかし、誰もが生きている世界でもある――殺し合いで死んだ人間は確実に生きているであろう。因果の因子が異なるのだ、生きているに違いない。
最もどんな結果が待ち受けていようと、足立透がすべきことは何一つ変動しない。
全員殺せ。最後に生き残った者だけが勝者ならば、なってしまえばいい。だたそれだけのこと。
名簿に記された人間は多く見込んでも二十を割っているだろう。残る人間は潰し合え、黒き血を流せ、醜態を晒せ。
休息の時を終えた時、足立透もまた道化の仮面で己を偽り戦場の名を持つ舞台へ躍り出るだろう。
終焉の時は自然と近し、役者が削られば既存の人間に光が当てられるのは当然だ。
最後に嗤うのは道化か、正義か、悪党か。
無論、次に道化師が舞台に上がる時が終焉とは限らない。寧ろ、終焉は近いようでまだ遠い。
満来の拍手を浴びようが、道化師の心が満たされることは無いだろう。
何せ、偽りの仮面に感情を注いだところで、所詮は取り繕った虚偽の器に過ぎないのだから。
【D-5・図書館/二日目/早朝】
【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、腹部に傷
爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血 、顔面に殴られ跡、苛立ち、後悔、怒り 、悠殺害からの現実逃避、卯月と未央に対する嫌悪感
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:皆殺し。
0:次の放送まで図書館で休憩。その後は皆殺し。
1:生還して鳴上悠(足立の時間軸の)を今度こそ殺す。俺はまだ鳴上悠を殺してない。殺してないんだよォ!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※
DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。
最終更新:2016年10月04日 10:21