013

ストロベリー・パニック ◆w9XRhrM3HU



「ったく、訳分からないことになったわね」

クロエ・フォン・アインツベルンは溜息を吐いた。
殺し合う事自体は初めてではない。多いとは言わないまでもある程度は経験した。
けれども、このような形で殺し合いというものに巻き込まれるというのは、初めてだ。
十年ちょっと、通算すれば一年にも満たない人生を経てきたが。この先、同じような目に合う事はないだろうとクロエは半ば確信できる。
それぐらい、今の状況が異常だ。

「とにかく、イリヤと美遊を探した方が良いわね」

支給されたデバイスを確認してみると、参加者名簿が登録されており、そこにはクロエの身内の名が二つ記載されていた。
最悪、優勝を目指すのもありかと冗談気味に考えたクロエだが、これでもう冗談でも優勝など目指すことが出来ないと悟った。

「といっても、この首輪の外し方も分からないし……外せる人を探す、のもそう簡単にはいかないか。
 まあ、何はともあれ……」

クロエの目に赤い髪をツインテールにした女性が写った。
相手はクロエに気づいている様子はない。
武器を持っていないところを見ると、必要ないのか支給品の確認をしていないのかのどちらかだろう。

(殺し合いに乗ってるか分からないけど……。まっ人との接触は私には避けられないし、会って話してみるしかないわね)

そうクロエにはちょっとした事情があり、一人だけで生き延びることは不可能だった。
だから、少しあの女性には協力をしてもらわなければならない。

「ねえ、お姉さん」
「あ? 何?」

出来る限り、穏便に話しかけたつもりだったが女性の声は荒い。
殺し合いに乗った参加者かと考慮したが、声のトーン的には殺意は含まれてはいない気がする。
苛々してる時にたまたま間が悪く話しかけてしまった。そんな感じだろうとクロエは結論付けた。

「落ち着いてよ。私は殺し合う気なんかないから」

だが、警戒は解かない。
万が一にも不意を突かれ襲われるという可能性もある。
もっとも、これから襲うのは自分なのだが、とクロエは心の中で自嘲する。
軽く足に力を入れて飛ぶ。
数センチほど飛び、その女性とクロエの顔が丁度正面に並んだ。


「ただ、ちょっと……」

腕を伸ばし女性の顔を自分の顔へと引き寄せていく。
訳も分からず、女性は抵抗も出来ないまま。

「っん?」

クロエと口付けをした。
それも唇が触れ合うだけの軽いものではない。
女性の口内へ舌を這わせ、女性の舌と絡み合いながらその唾液を吸っている。
いわゆるベロチューというものだ。
クロエは普通の人間とは違い、魔力を常に消費しながら活動している。
その魔力が尽きたとき、それは普通の人間で言う死。消滅が待っていた。
今のクロエの魔力量は、多くもなければ少なくもないといった程度。
普段なら然程気にしないが、殺し合いとなる以上魔力を使った戦いを、それも連戦でこなさなければならない可能性が高い。
ならば、今の内に貰えるものは貰って蓄えておこうと考えた。
そして肝心の魔力の補充は色々あるが、一番手っ取り早く被害も少ないのがキスだ。
本当ならば、イリヤとキスしたほうが多くの魔力を貰えたのだが、この際それには目を瞑る。

「っはぁ、お前……」
「悪く思わないでね。私にも事情g―――ってちょっと!」

決して多くはないがそこそこ魔力が貰えたクロエは女性から唇を離し、誤解を解くかのらりくらりと逃げようかとした時だった。
女性は動揺するどころか、むしろ先ほどのクロエ以上の力でクロエを抱き寄せ、無理やり唇を奪った。


「んっ、ちょっ、んん……!」

クロエに何も言わせず何もさせず押さえつけるような激しいキス。
普段、魔力供給でしているキスとは比べ物にならない。
初めての経験、快感だった。
魔力の供給に加え、このキスはそう……何かが違った。
やっていることはこの女性からしてきたという以外はさっきと同じただのキスだ。
ただ、舌が触れ合う瞬間、甘い感触がクロエの体を駆け巡る。優しく触れる唇も心地いい。
あまりのことに悶えようとする体を抱き寄せられた腕で押さえつけられる。決して逃げるような事は許さない。そんな意思を感じる。
だが、それも悪くない。何処か、体が嬉しさまで感じていたかもしれない。
女性の手がクロエの背を撫でながら、下へと沿っていく。
手がクロエの褐色の肌を堪能するかのようになぞりながらある場所で止まった。

「殺し合いなんかに巻き込まれて、イライラしてる時に誘ったのはそっちなんだ。
 少しは楽しませてもらうよ」

やっと唇が離れたかと思えば、今度は下半身から甘い快楽が全身を駆け巡る。
堪らず悲鳴に似た声を上げそうになるがギリギリで耐えた。

「ちょっ、待……」
「ん? なんていった?」
「へ、部屋で……ベッドで……」





その後、色々あった。
ただ言えるのは、彼女たちはたまたま近くにあった民宿にお邪魔し、ベッドの一つをお借りしたという事だけだ。
何処か満足気で、けれども疲れたような顔をして生まれたままの姿で、赤い髪の女性ヒルダはベッドに寝転がっていた。
同じくクロエもまた全裸で同じベッドで横たわる。

「マナじゃなくてマリョク、ねえ?」
「信じられないかもしれないけどね。
 まあ、ありがとう。キスよりは相当貰えるものは貰えたわ……色々。同時に失ったものもある気がするけど」
「私にマリョクなんてあるのか?」
「あるって言ってもほんの少し、誰でもある位よ。回路もないし、言っちゃ悪いけどそっちの本職には到底なれないと思うけど」

色々とあった後、クロエは自身の事情について話しヒルダに弁解した。
最初は信じないヒルダだったが、このままいきなり性的な意味で襲ってきた変態痴幼女と思われるのも癪なので、投影魔術を披露すると訝しげながらも一応は納得してくれた。

「で、次は私から質問。
 そのマナって何? 魔力の呼び名の一つではあるけど、何か違うみたいだし」
「本当にマナを知らないのか?」
「ええ、だから話してよ。私も魔力について話したんだから」

ヒルダが話すには、マナという特殊な力を持った者は人間として扱われ、それを持たない迫害される人間をノーマと呼ぶらしい。
そのマナは世界中で扱われ、日常生活には欠かせない重要な技術だとか。
もっとも、そのマナ自体はある男が作り出したもので、その男がマナ自体を消してしまったらしい上にヒルダ自身がノーマな為、クロエのように披露することはできないが。

「嘘でしょ? そんなの聞いた事ないけど」
「嘘じゃない。常識だろ? マナが消えたときなんか大騒ぎだったじゃないか。もしかして田舎者?」
「普通の地方都市で普通の一般の家庭で生活して普通の一般の学校に通ってるわ。
 だから世間一般の常識はあるつもりだけど」
「…………平行世界、か?」

アンジュが一時期行方不明になった時、平行世界に行っていたというのをヒルダは思い出す。
アンジュから伝え聞いただけだが、そこもまたマナやノーマの概念は存在せず、異なる歴史を辿っていた。
ということは、この少女もまたアンジュも行った事のない、別世界の住人ということになるのだろうか。

「あっ……なるほどね。それは全く思いつかなかった」

ヒルダからすれば、半信半疑で適当に思いついたのを口にしただけなのだが、クロエは思っていた以上に納得していた。
そしてデバイスを起動させ、何やら入力を始める。
それが終わるとヒルダへと画面を翳した。

「これを見て、分かるものがあったら教えて」

デバイスに記されていたのは年号だったり、国の名前、一般的な歴史、政治家の名前、世間を賑わせたニュースなど様々だ。
もっともヒルダからすれば、何のことかさっぱり分からず首を横に振った。

「やっぱりね、思ったとおりだわ。いい線行ってると思う」

うんうん頷きながら、一人で納得するクロエにヒルダは納得がいかない。
ベッドから起き上がり、クロエに迫りながら問い詰める。

「ちょっと、一人で納得しないで私にも教えな」
「あーめんどいわね。ようは魔術にはそういうのもあるってこと。
 相当難しいけど、平行世界が絡んでるって線は濃厚だと思うわ。
 さっきのデバイスに書いてあったの、一つも分からなかったでしょ? 異世界人でもなきゃ一つは知ってるはずよ。
 そうでなきゃ貴女こそ余程の田舎者、世捨て人ね」

ヒルダは怪訝そうにクロエを見る。
自分で言っておきながら、平行世界という存在に関してヒルダは半信半疑だ。
だが今はそれを納得させる材料も少ない。
それにクロエに聞くより、自分以上に平行世界の知識があるだろうアンジュに聞けば、色々分かるかもしれない。
一先ずはこの事は置いておくことにした。


「それでちょっと提案なんだけど、しばらく私と組まない?」
「どうして?」
「魔力補充に協力して欲しいのよ。
 知り合いに会えればそっちに頼むけど、それまでは事情を知っててそういうのに抵抗の少ない貴女と一緒の方が、ねぇ?」
「私にメリットがないだろ」
「戦闘になったら、私はそこそこ役立てるわよ? それに魔術の知識もこの先必要になると思わない?
 どう? お互い悪くない提案だと思うけど?」

見た目は子供だが、その身のこなしは只者ではないという事はヒルダから見ても明らかだ。
普通の子供が初対面でヒルダの唇を奪うなど、そう出来るこではない。
なら、戦闘で役立つというのも嘘とは言い切れない。
そして魔術とやらも、ヒルダからすればマナとの違いが良く分からない。あまりにも未知の領域だ。
ここは提案に従うのも、悪くはないと思えてくる。

「分かった。良いよ、組もう。
 ただ、私も知り合いが何人も連れて来られてるから、そいつらと合流したい」
「良いわ。組んでる間、どちらかの知り合いの有力な情報が得られた場合、そちらを優先するって事でいい?」
「ああ。じゃあ、そうと決まれば、互いの知り合いの事を教えあったほうが良いか」

二人はデバイスを起動させ参加者の名簿を広げると情報交換を始めた。



【D-7 民宿 ベッドの上/1日目/深夜】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全裸、健康、魔力量(中)、お肌ツヤツヤ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3、自分の服
[思考]
基本:脱出する。
1:イリヤ、美遊と合流。
2:ヒルダと組む。
3:脱出に繋がる情報を集める。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※キスより効率のいい方法で魔力補給しました。

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:全裸、ほぼ健康、クロエの魔力吸引による疲労(小)、お肌ツヤツヤ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3、自分の服
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:アンジュ達を探す。
2:クロエと組む。
3:アンジュに出会えたら平行世界について聞いてみる。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。

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GAME START ヒルダ 052:儚くも美しい絶望の世界で
クロエ・フォン・アインツベルン
最終更新:2015年06月07日 12:02