015
Walk Like the Fool ◆V1o0pXphv2
草原の中に孤立している1本の木。
それに身を預けている少女がいた。
その表情は、とてつもなく暗い。
それも無理はないだろう。
いきなり未知の空間に飛ばされ、磔にされた挙句告げられたのは殺し合いの開幕宣言。
そして白いシャツを着た少年――年齢は恐らく穂乃果と同じか1つ下くらいだろうか――の惨殺。
広川という男の口から出た超能力、魔法、スタンド、錬金術、願いが叶うというような漫画でしか見ないような単語の数々。
戦いという非日常とはまったくの無縁であったスクールアイドルの
高坂穂乃果からすれば、
この数分間はいろんなことがありすぎて頭の処理が追いつかなかった。
「……怖いよ」
意識が暗転し、再び覚醒してからはずっとこんな調子だ。
デイバックを傍らに置き、三角座りで俯く。
深夜で辺りは暗いせいか、穂乃果のオレンジ色の練習着の上着も黒ずんで見える。
普段は前向きで元気な穂乃果もこの状況には悲観的になってしまう。
まだ気持ちの整理はついておらず、誰にも会っていない。
"乗っている"者に出会えばそれこそ悪夢だが。
「あ…そういえば」
ふと、穂乃果は顔を上げた。
磔にされていた時に親友の海未の姿が見えていたことを思い出した。
嫌な汗が流れる。
ついに穂乃果はその身を動かし、デイパックをひっくり返す。
支給品数々と一緒に地面に散らばった名簿を拾い、目を通した。
「海未ちゃんにことりちゃん…真姫ちゃんに凛ちゃんに花陽ちゃんまで!」
スクールアイドル『μ's』の9人のメンバーの内の6人の名前がそこに記されていた。
その事実に穂乃果はただ震える。涙も出てしまいそうになったがなんとか堪えた。
「ここでじっとしちゃいられない!皆を探さないと!」
ここでようやく彼女の前向きな性分が穂乃果を動かすことになる。
広川の言う殺し合いが本当なのだとしたら、今もどこかで誰かが殺されているのであろうか。
とにかく、この5人と合流して、無事を確かめなければならない。
μ'sの9人は誰一人も欠けてはいけないのだから。
他のメンバーの無事を祈りながら、穂乃果は立ち上がり、先ほどぶちまけた支給品を確認する。
名簿、地図、食糧といった基本支給品に、数枚の説明書と共に複数のアイテムが散らばっていた。
まず、地面に地図を開いてみると、まず穂乃果の目に飛び込んで来たのは、音ノ木坂学院だ。
思えば、スクールアイドルを始めた切欠は学院の廃校を防ぐためだった。
どうしてこんなところに…とも思ったが、考えていても仕方がない。
(行こう…音ノ木坂学院へ)
もしかしたら皆も穂乃果と同じように「音ノ木坂学院へ行けばメンバーが集まるかも」と考えて同じ場所を目指すかもしれない。
とりあえずは、当面の行き先は決まった。
次に、広川の言っていた「個別の物」を手に取る。
1つ目は、鏡。鏡面が穂乃果と暗い空を映し出している。首を覆っていた首輪がなんとも不気味だ。
とはいっても手鏡のようなサイズの小さいものではなく、両手で持てるような部屋に飾る鏡だ。
「これは…何に使うんだろ?」
特に戦闘には役には立たなさそうだ。精々光を反射するくらいか。
2つ目は穂乃果も見覚えがある。音楽プレーヤーだ。
イヤホンもすぐ隣に散らばっていた。
とりあえず起動してみたが…
「レ、レベルアッパー?」
どうやら中に入っている音声ファイルは1つしかないらしく、画面には『LeveL UppeR』と書かれている。
どんな曲なのか少し気になったが、今は音楽を聞いている暇はない。
他に何か目につくような道具はないかと穂乃果が辺りを見回していると、茶色い箱が目についた。
その箱を拾ってラベルを見ると、コーヒー味のチューインガムだとわかった。
何となく箱を開けてみる。
当然、中からは大量のチューインガムとコーヒーの匂いが出てくる。
「…コーヒー味って、おいしいのかな」
穂乃果がチューインガムを1枚取り出して見つめていると、静まった草原に微かな音が走る。
トトトと地面を叩くような小さな音。
遠方からこちらに向かって猛スピードで走ってくるような――
「………!」
瞬間、穂乃果の顔に怯えが出る。
誰かがこちらに気づいたのだろうか。
もし『それ』が"乗っていた"としたら確実に殺される…!
支給されたアイテムも武器に使えるようなものはない。穂乃果は丸腰だ。
『それ』は次第に近づいてくる。足音が大きくなる。
暗闇で姿がよく見えないため、余計に恐怖心を煽られる。
「あ……あ……!」
恐怖で体が固まってしまって動けない。
震えが止まらない。コーヒー味ののチューインガムを手放すことすらできない。
(動いて……動いてよ……私の身体…!)
『それ』はもう穂乃果のすぐ近くに来ていた。
バウバウと野性的な声を出している。きっと野蛮な人間に違いない…!
――そして、『それ』は穂乃果に飛びかかった。
「私のそばに近寄るなああ――――――――――――ッ!!」
その刹那、穂乃果を襲ったのは『チューインガムを取られた』という感覚だけだった。
◇
穂乃果はあまりの出来事に尻もちをついた。
胸の動悸が止まらない。
彼女の背後では、『それ』が
―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
木の根元でチューインガムをおいしそうに貪っていた。
「…ワン、ちゃん?」
振り返って『それ』を見ると、その正体は犬であった。
血統書付きのボストンテリア。彼の名は
イギー。『愚者』のスタンド使いである。
「って、箱の方を取られているッ!?」
今更気づいてももう遅かった。
穂乃果は手元に残った1枚のチューインガムを切なそうに見つめた後、
散らかしてしまったことを若干後悔しつつ、全てをデイパックに片付けた。
―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
今もイギーはチューインガムをデイパックを持つ穂乃果の目の前で頬張っている。
穂乃果は腰の高さまで屈み、しばらくその様子を見つめる。
「…………」
―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
「…………くぅ~ん」
犬の鳴きマネをしてイギーの口元に手のひらを置いて、顎の下を撫でようと試みる。
チューインガムを箱ごと奪われた時は何とも言えない気分だったが、
ようやく自分以外の誰かと会えたおかげか、殺し合いのせいで陰鬱だった精神は少し癒される。
穂乃果は家で柴犬を飼っていて、犬好きな面があるところもそれを手伝った。
―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
が、手が直に触れる前にボトボトと口から垂れた涎が穂乃果の手にかかる。
「あ…あはは…」
またしても何とも言えない気分になる。
だが、クチャクチャと音を立てている姿は下品だが、じっと見ていると案外かわいいものだ。
今度は背中を撫でてみようとイギーの背に手を回した瞬間、穂乃果はあるものを見つけた。
「く、首輪!?」
それもただの首輪ではない。
鏡を見た際に見えた穂乃果の首輪と同じデザインだ。
これがある限り、参加者の生殺与奪は全て広川にある。
その首輪があるということは。
「ワンちゃんも参加者なの!?名前は?」
イギーは答えない。
人語を話せない犬だから当然だ。
周囲を見回してみると、イギーが持ってきたらしいデイパックが遠くに放り出されていた。
穂乃果のチューインガムを奪うときに投げ捨てたのであろう。
穂乃果はイギーのデイパックを拾い、犬までもが殺し合いに参加させられていることに心を痛める。
「そんな…ワンちゃんまで殺し合わないといけないなんて…」
穂乃果は思った…
どうしてワンちゃん(イギー)のような非力(だと穂乃果が思い込んでいる)な存在までも殺し合わなければならないのだろう、と。
穂乃果はイギーをただの犬だと思っており、『愚者』も見ていないのでスタンドを行使する超スゴイ犬だとは夢にも思っていないのだ。
「私も皆を探しに行かないといけないんだけど、ワンちゃんが心配だよ。
置いていったら、誰かに殺されるかもしれないし…だから、一緒にいかない?」
精神に余裕ができていたので失念していたが、穂乃果もモタモタしていられない。
そろそろ音ノ木坂学院に向けて出発したいのだが、非力な犬(と穂乃果が思い込んでいる)を置いていくわけにもいかない。
だから、穂乃果は一緒に行こうとイギーに手を差し伸べた。
だが、同意の代わりに返ってきたのは女の子にしてはいけないものだった。
「バウッ」
「ひゃあっ!?」
イギーが穂乃果の顔に張り付き、
プ…
そんな間の抜けた効果音と共に穂乃果の顔へ「へ」をかました。
「臭ッ……!」
あまりの臭さに倒れそうになるのを必死に我慢する。
「ヒヒ」
イギーは穂乃果の顔から離れ、挑発するように声を出して逃げていく。
「………このッ――!待てェェェェェ――――ッ!!!」
流石の穂乃果もこれには怒り、イギーを全速力で追いかけるのであった。
【A-6/草原/深夜】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:ワンちゃん(イギー)への怒り
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、イギーのデイパック(不明支給品1~3)
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:このド畜生ッ!
3:イギーと一緒に行動する。
4:「ただの犬」のイギーが心配。
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※イギーを「ただの犬」だと思っています。
※イギーの名前を知らず、「ワンちゃん」と呼んでいます。
※『愚者』をまだ見ていません。
※幻想御手はまだ使っていません。
【幻想御手について】
幻想御手を使うことで、たとえ学園都市の人間でなくてもレベル2程度の異能を手に入れることができますが、使用してから24時間後に脳死します。
手に入る異能は他の書き手の方にお任せします。
まったく、人間って奴はどいつもこいつも何考えてんだ?
殺し合いだァ?そんなもんはよそでやってくれ。
広川ってヤローといいジョースターといい、おれを巻き込むんじゃあねーっ。
おれはただ、気ままにちょっとゼイタクして、いい女と恋をして、なんのトラブルもねえ一生をおくりたいだけだ。
ジョースターの奴等にエジプトへ呼ばれて居心地の悪いヘリコプターに乗っていたら、いつの間にか拘束された上に殺しあえだとォ?
気分悪ィぜ。
それで…気づいたら何もねぇ草原に出た。
とりあえずちょっぴり見えるあの木へ向かってみるか。
それにしてもこのデイバックってやつは持ちにくいな。口で咥えねーと歩きにくくて仕方がねーぜ。
オマケにこの首輪…広川ってヤロー、これじゃあまるで飼い犬みてーじゃあねぇか。
あとでひでー目に遭わせてやる…ん?
あの木に近づくとおれの鼻になにかが引っかかった。
…この香ばしいコーヒーの香りは、まさかッ!
おれの好物のコーヒー味のチューインガムの匂いじゃあねーか!
暗がりで木の下あたりがよく見えねーがチューインガムは絶対木にあるッ!
それがわかるとおれはすぐに走り出した。
あの木に近づけば近づくほど香りが強くなってくる。
あ、あれは…女ァ!?
よく見れば木の下に人間の女がいる。
チューインガムの箱を持っているッ!
なら、いつも人間にやってるみてーにぶんどるしかねェー!
ああ、クソッ!このデイバック邪魔だ!うまく走れねぇ!
デイバックを放り投げたら速く走れるようになった。
そのまま一直線にコーヒーガムを勝ち取った。
そういやあ奪った時に女が
「私のそばに近寄るなああ――――――――――――ッ!!」
って言ってたが、こいつはそんなにチューインガムが好きだったのか?
◇
クチャクチャとチューインガムを噛んでいたらこの女はおれのことを興味深そうに見ていた。
服に書かれた「ほ」の文字がやけにデカい。
しばらくすると「くぅ~ん」といっておれの口の下に手を出してきた。
顎の下を撫でようとしているのか?
鬱陶しいから涎多めに垂らしておこう。
すると、今度はおれの背中を撫でようとしてきた。
こいつ、意外と犬好きなのか?
だが撫でる前に、何かに気づいたみてーだ。
「く、首輪!?」
ああ、首輪だよ。
おれをペット扱いしたら右側にある前髪の生え際毟り取ってやる。
丁度今ガムを飲み込んだところだしな。口は空いている。
「ワンちゃんも参加者なの!?名前は?」
犬のオレに聞くな!話ができるわけねーだろ、マヌケかてめーはよォーっ。
女はおれが投げ捨てたデイパックを取りに行って戻ってくると、何やらかわいそうな奴を見る目でおれを見ている。
この「ほ」のホ女、何を考えている…?
「そんな…ワンちゃんまで殺し合わないといけないなんて…」
…まさかこいつ、おれを――
「私も皆を探しに行かないといけないんだけど、ワンちゃんが心配だよ。
置いていったら、誰かに殺されるかもしれないし…だから、一緒に行かない?」
――おれをただの犬だと思ってやがる…!
戦えねーオマエなんかに心配されたかねーよ!
まぁこんなとこでわざわざ『愚者』を出すのも馬鹿馬鹿しいから使わねーけどよォ~~~~~。
どんな形だろうと甘くみられるのはおれのプライドが許さねぇ。
……まぁ、コーヒーガムも食えたし、『ただの犬』を気遣える程度には犬好きみてーだから、屁1発で済ましておいてやるか。
それに、ここから動かねーってワケにもいかねーしな。このホ女の言う「皆を探す」のにも付き合ってやろう。
ついでに、もしおれをエジプトに呼んだジョースターたちに会ったら思いっきり髪を毟って屁をこいて鬱憤を晴らそう。
【A-6/草原/深夜】
【イギー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:巻き込まれたくないが、とりあえず動く
1:ホ女に付き合ってやる。
2:広川をひでー目に遭わせてやる。
3:ジョースターたち(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル、花京院)に会ったら髪を毟り、屁をかます。
[備考]
※参戦時期はエジプトの砂漠で承太郎たちと合流する前からです。
※『愚者』の制限については、後続の書き手の方にお任せします。
※穂乃果を犬好きだと見なしています。
※穂乃果の名前を知りません。
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最終更新:2015年05月31日 21:57