020

悲しみを斬る ◆BEQBTq4Ltk



【死んだ人間は生き返らない】


【最後の一人になれば願いが叶う】


【真実は――】







殺し合いの名目を撃たれようが人生に不条理は存在しない。
普段から生命を死線に浸らせている彼女にとって殺し合いの強要は苦にならないのだ。
片足程度ではなく、その身総てを闇に放り込み足掻いてきた少女、アカメ。

幼い頃から暗殺者としての極意を叩き込まれた彼女はこの会場でも違和感なく行動するだろう。
殺人が何だ、生きるためなら何だってする。
願いが何だ、死んだ人間は生き返らない。死者としての存命など所詮摩耶香しだ。

方針など改めて考える必要は存在せず。

悪を殺す。その一点のみで充分だった。

名簿を見るとタツミの名前がある。
同じナイトレイドの仲間であり戦線を共にする大切な存在。
彼との合流を目指すべきだ、まだ甘いところがある彼は運が悪ければ裏をかかれる可能性がある。
大切な仲間だ。もし名簿どおりの人選ならば自分が守るしかない。
無論、彼も強く心配は杞憂に終わる可能性もある。

エスデス、セリュー・ユビキタス、ウェイブ。
皇帝もとい大臣のお膝元――でもないのだが帝都が誇る特殊警察イェーガーズ。
正義の名を振り翳し悪の疑いがある者を確証を得ずに殺す闇の正義執行組織。
斬るべき対象であり衝突は何度も発生している因縁の相手である。
気になることと言えば死んだはずのセリュー・ユビキタスの名前があることぐらいか。

クロメ。
一言で表すならば妹。
共に暗殺組織に投げ込まれ――今はいい。
思い出にふける時間ではなく今は状況の整理と把握に務めるべきだ。

バッグはその見た目から考えられない程の物が混入している。
所謂ぶっ飛んだ技術力のような物だろうか。帝具にも技術力を跳躍させる代物があった。
世の中は未知で溢れている、そうでも想わなければ納得出来る話ではない。

出て来た武器は剣、明らかにバッグよりも長い。
持ち手を握り数回振るう。村雨よりは重いが問題はない。
刀よりもサーベルや剣等の表現が似合うそれをバッグに仕舞うと空気の違和感に気付く。
元々村雨が広川に没収され拉致され巻き込まれ強要され……違和感だらけのこの会場。
これ以上何を追加するのか、それとも混沌を極めていれば一つや二つの怪異など問題にもならないのか。

暗闇に瞳を流し。
普段通りに、獲物を殺すなら闇の中。
眠る真実も闇の中。悟られなければ真実は闇の中。
闇にこの瞳は慣れ過ぎている。この程度の暗さは光も影も生まない。
奥に映るは一人の少女、背丈は自分とそう変わらない、俯いていて表情が見えない。
取るべき選択肢は接触。情報を集めに徹するべきだ。

危険人物なら殺せば問題ない。唯それだけ。


「……何をしているの」

足音を無闇に立てずに近付き出来るだけ優しい口調で問いかける。
初手から威圧を放っては普通の少女ならば恐怖し口が回らなくなる。
出来るだけ、出来るだけ優しく――優しく。


「何してると思う? 教えてよ」


「質問しているのはこっち」


「じゃあ言うわ。何もしてない。強いて言うならそうね……何もしてない、かな」


制服の少女は吐き捨てるように言い放つと気取ったように道化ぶる。
何を見つめているか分からない焦点の定まらない瞳には若干の潤いがあった。
つまりこの少女は以前まで泣いていたと推測可能であり今は落ち着いたところだろうか。
現実を受け入れられなくて悪振っているならば可愛い話だがこの少女は違う。


(見えている……自分の状況と現状を混乱せずに見えている瞳をしてる)


焦点が定まっていないように見えたが違う。見えていないのは未来だ。
悲しみを背負った瞳は裏の世界で何度も見てきた、だから分かる。

あの瞳は未来が見えていない絶望の底に堕ちた人間が持つ諦めの瞳だ。

「黙ってないで反応しなさいよ」

「うるさい」

「――へぇ」

上から発言を繰り返す制服の少女に対しアカメは冷たくあしらった。
構っている暇などない。あるかもしれないが時間を溝に捨てるつもりはない。
救えるモノは総て救いたいが救われる気がないモノを救うつもりはないのだ。

「アンタさ、電気を操れる人間って信じる?」

「質問に答えない奴に返すと思う?」

「っそう!」

怒りに触れたのか制服の少女は声を短く荒げると足を振り上げ大地に落とす。
その瞬間に暗闇を照らすように一筋の雷光が空気を駆けた。
現象に驚くアカメだが水や氷を扱う人間を知っている、今更電気で退く理由などない。
バッグから剣を取り出し構えを取る。

「そうやって人を殺すつもり?」

「……馬鹿じゃないの」

「今何て――ッ!」

少女が呟いた一声は態度とは真逆の等身大其の物。しかし遮るは走る雷光。
迫る雷光を剣で受け流そうと斜めに構えるアカメ。
剣と雷光が接触する瞬間に手を放し再度握り込みその場を蹴り上げ石を飛ばす。
類まれなる動体視力で雷光を見てから反応する荒業を成功させたが実質連続で行うことは不可能である。
初見なら確実に失敗していた。次に成功する保証など無い。


制服の少女は迫る石に対し軽く右腕を振るった。
すると雷光ではなく大量の砂塵が宙を舞い右腕の後を辿るように壁が出来上がった。
砂塵壁は石を簡単に防ぐ。少女が能力を解除したのか砂塵壁は早く崩れ落ちていた。

「避けるって……ほんと何なの? 能力者って訳でもないし――身体弄ってる?」

「……」

「そっか……ごめん。私もこんなこと言うキャラじゃない。でも……アイツはもういない」

能力者なる単語に覚えはないが身体を弄ってる、と言われれば断る真実は存在しない。
最も答える前に少女は謝罪を行った。先程から情緒不安定な様子が伺える。
呟いた一言から知り合いが死んだのだろう。
しかし道中に死体は見えなかった。血の匂いもしていない。
ならば何処で死んだのか。遠くの可能性もあるが目が覚めてから時間はまだ経過していない。
ならば、ならばの話である。既に死んでいる人物に焦点を当てるとなると――。

「上条当麻――首輪の爆発で死んだ男」

一人しか存在しない。
広川曰く異能を殺す幻想殺しを右腕に宿した青年。
彼の叫ぶ声は正義のヒーローのように熱くタツミを連想させていた。
惹き込まれるような真っ直ぐさを持った青年だったのだろう。

タツミと同じように周囲に与える影響が大きかった存在かもしれない。
絶望の淵に立たされようが諦めることはなく小さな希望の光を必ず掴み取る精神を持った英雄。
仮にそうならば死んでしまった代償は大きい「あんた今何て言った」だろう。


「っ!」


心臓が止まる。心が冷える。空気が音を殺した。


アカメの発言を聞いた制服の少女――御坂美琴は一言言い放つ。
その瞳は大きく開かれ一点だけを虚しく見つめており視線が在った存在総てを呑み込んでしまう程に。
空気は彼女に合わせるように音を殺し、張り詰め、尖らせていた。

アカメは察する。地雷だ。少女の中に埋まっていた地雷を踏んでしまったと。
上条当麻という存在は彼女にとって言葉には表せない程の存在だったのだろう。

「上条当麻。聞こえないのならもう一度言う」

だからと言って気遣う必要も道理もない。
死者が受け入れられないのは弱者の発想である。
仲間や大切な人が死ぬのは悲しい。アカメも涙を流す。
だが受け入れられずに何時迄も引き摺っている人間はただの弱者だ。
前を見ろ、お前の瞳は背中に付いている訳じゃない。希望はお前に残っている。

この少女が争いとは無縁の世界にいたならば。
こんな言葉を浴びせず保護或いは同行していただろう。
だが電気を操る力――帝具を持った少女が争いと無縁なはずがない。
戦線に身を置く存在ならば死を受け入れろ。



「何言ってんのよ……」

「死んだ人間の名前を言っただけ。もう一度……上条――」





「何も知らないあんたが何言ってんのよ……何言ってんのよッ!!」





怒号と共に放たれる雷撃は放射するように数多の閃光となって拡散する雷光也。
順番を無視した黒ひげ危機一発のように――そんな軽口を叩ける状況ではない。
一足早く飛び退いていたアカメは雷光に当たること無く御坂から距離をとった。
数秒前に彼女が立っていた大地は雷光により黒く焦げていた。

「あんたがアイツの何を知っているのよッ!」

「知らない。私は上条当麻なんて――ッ!」

迫る雷光を避けては避けて。止まること無く大地を駆けるアカメ。
着地の度にジリジリと砂塵が宙を舞う中、この会場は浮遊しているらしく暗闇の底が見える。
落ちれば死ぬ、雷光が当たれば死ぬ。

「死んだ人間は生き返らない」

「――ッァ!!」

「それでもそうやって暴れて人間を殺すなら、斬る」

「願いが叶う……アイツが生き返る……私は、私は……っていない……?」

アカメが言った事実など御坂は当たり前のように理解している。
死んだ人間は生き返らない。超能力でも有り得ない、有ってはいけない禁忌の神秘。
クローンなら話は別だがそれは所詮紛い物の生命である。
複製を批難するつもりはないが上条当麻がクローンで生き返っても彼女は受け入れることが出来ないだろう。
気づけばアカメは御坂から逃げていた。雷撃と剣では分が悪く懸命な判断だろう。



死んだ人間は生き返らない。

「わかってる」

願いを一つだけ叶える。

「信じていいの」

最後の一人に対する褒美。

「誰かを殺す……一方通行と変わらない」

上条当麻は死んだ。

「……」

もうこの世にいない。

「……」

もう二度と出会えない。

「……っ」

誰も救ってくれない。

「……」

名前を呼んでもらえない。

「……あ」




他の参加者を全員殺せば願いが叶う――上条当麻が生き返る。




「どうすればいいって言うのよ……っ」




溢れ出る涙を拭う救世主は御坂美琴の隣にいない。



【G-2/一日目/深夜】


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(極小)
[装備]:美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:悪を斬る。
1:電気女から逃げる。
2:タツミとの合流を目指す。
3:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
4:村雨を取り戻したい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴を雷を扱う帝具使いと思っています。


【美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ】
 その名のとおり魔法少女状態のさやかが使う剣。
 極僅かではあるが魔力が込められている。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:揺れる天秤のように情緒不安定、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:どうすればいいか分からない。
1:……。
[備考]
※参戦時期は不明。
※名簿を確認しておりません。

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最終更新:2015年05月26日 23:12