我が身の全ては想い人の為に ◆K9VOez7plg
モニターの映像が途絶える。そしてそれと共に荷物を持って動き出した男。
海原光貴はドアから外に出ると、とりあえず腰を落ち着ける場所を見つけるべく歩き出した。
何故ならばそこは見晴らしの良い吊り橋の目の前だったのだから。こんな場所にいたら誰かに発見される危険性があるし、下手したらスナイパーに狙撃される可能性だってある。
とりあえず吊り橋からは少し離れ、物陰に入る。
「全く妙なことに巻き込まれてしまったものですね」
誰に言うでもなく独り言を呟く。
「帝愛グループ・・・聞いたこともない。それにあの少女は10万3000冊の・・・」
考えながらも荷物を漁り、名簿とやらを引きずり出す。そして複数の名前を確認すると同時に目を見開いた。
(彼女が・・・ここにいる!?それに同室の空間移動能力者や幻想殺しの彼までも)
自らの想い人の名を見つけ、彼女の周りの世界にいる人達まで巻き込まれていることを知る。
「しかもこの名簿には僕の名前は記載されていない・・・6時間後に発表される12人の中に含まれているということですか」
自分の名前が載っていなかったことは果たしてよかったのか悪かったのか。しかし・・・
(一体どっちの名前で呼ばれるのでしょうね・・・?)
海原光貴には実はもう1つの名前がある。いや、むしろこの海原という名前の方こそがもう1つの名前といった方がいいだろう。
自分の本名はここに存在する誰も知らないはずだ。
仮に本名で呼ばれた場合、この護符はの効果は解いた方がいいかもしれない。もしくはここの参加者から護符を作・・・
「いやはや自分でも何を考えてるんだか。まあ、それはなるようにしかなりませんか」
溜息1つと共にそう結論付ける。
それと同時に支給品の確認を始めることにした。
支給品はこの場では命綱のような物。誰が襲ってくるかも分からない状況では確認もせずに動き回ることなど出来はしない。
(あの黒曜石のナイフがあれば『トラウィスカルパンテクウトリの槍』の術式は使えるんですが・・・そんな都合よく入ってるわけはないですよね)
苦笑しながらデイパックを漁るとまず出てきたものは・・・。
「コイン・・・ですか。2、4・・・20束も。皮肉なものですね」
レベル5
自分の知る限りこれを一番有効に使えるのは(それが本来の用途からかけ離れているとしても)常盤台中学の超能力者、最強の電撃姫である彼女だ。
よりによって一番彼女に会い辛いであろう自分にこれが支給されるだなんて、運命も残酷な事をしてくれる。
これは誰か出会った人物に託すとしよう。彼女へ渡してくれることを頼むに値する人物に。
そして2つ目。
「これはまた大きい・・・」
出てきたものは大型のトランクケース。人でも入りそうな大きさである。
明らかにデイパックの内容量を超える大きさだ。デイパックには妙な仕掛けが施してあるのだろう。
今まではデイパックの大きさ的に精々銃器はショットガン程度が限界だと思っていたが、これなら多少大型の武器の可能性も考えた方がいいかもしれない。
「気が重くなります。これを振り回して相手を殴り殺せとでも言いたいんですかね。まあ、この大きさならやれそうではありますが」
トランクケースには鍵が付属していた。ダイヤル式の一般的な鍵だ。中身を奪われたくなければ掛けておけという意図が見え隠れする。
まあ何にせよ中身を確認しなくては話しにならない。早速トランクケースを開けると目に飛び込んできたものは大量の紙だった。
「これは、札束ですか」
コインやらお札やら通貨ばかり出てくるのはどうなんだろう。自分の運が悪いだけなのだろうが疑問に思わざるを得ない。
額面を見てみると1枚1万ペリカ。しかも肖像にはいやらしい笑みを浮かべた爺の顔が印刷してあるとは悪趣味にも程がある。
気は進まないが一応数えてみることにする。
「・・・1束100万。それが30で3千万。今これ何かに使えるんでしょうかね」
とりあえずは焚き火や狼煙などの種火に使う程度しか思いつかない。
こんな場所に自分たちを放り込んだ奴等の作った紙幣だ。この場にあるのに優勝の時に使えるかなんて分からないし、そもそも優勝するつもりもない。さぞかし気持ちよく燃やせるだろう。
最後に3つ目。
「拳銃ですか。しかもリボルバー。」
これならば礼装のない今の自分でも多少戦うことは出来る。ひとまずはホッとする。
弾は既に装填済みで装弾数は7発。リボルバーで7発というのは割と珍しいのではないだろうか。
リボルバー式なのでマガジンはなく、弾は小袋にまとめて入っていた。弾数はそこまで多くはなさそうなのでなるべく使わないことを心がける。
ここで、海原が幸か不幸か気づかなかった事実がある。銃が学園都市製のようなオーバーテクノロジーの塊ではない、ごく普通の銃なので気づかなかった。銃弾だけは学園都市で作られた、衝槍弾頭と呼ばれる特殊弾頭であることを。
不用意に撃てば普段なら命に関わりの無い箇所であろうとも1発で相手を致命傷に至らしめる事もある危険な弾丸であることを。例え、殺すつもりがなかったとしても・・・。
この事がどう転がるかはまだ誰にも分からない。未来が見える者などこの場にいないのだから。
そんなことも露知らず海原は荷物を仕舞い込む。そして拳銃はブレザーの内へと。
(これから何をするべきか考えなければ。彼女は絶対に死なせない。死なせたくない!偽者であっても、彼女の前に姿を現す資格がなくとも、やれることはあるはずだ!)
その為には情報が必要だ。帝愛グループ、禁書目録、殺し合いに乗っている人物の有無、この首輪を何とか外す方法、この殺し合いの場から脱出する方法。調べることは沢山ある。
そしていざという時の為にいつでも魔術を使えるようにしておくべきだ。その為に今からするべき事は・・・!
考えを数瞬でまとめ上げ、即座に行動を開始する。
「さて、まずは近場のショッピングセンターに行ってみましょうか。とりあえずカッターナイフでもいいからちょっとした刃物が欲しいところですね。後はロープでもあれば御の字でしょうか」
そうだ、例え自分が偽者であろうとも彼女への気持ちは変わらない。
海原光貴は決意と共に動き出す。
彼女の事はひとまずあの幻想殺しの少年に任せよう。あの約束を守ってくれることを信じて。
だから僕は裏から動く。情報をまとめ、殺し合いに乗っている危険人物は排除する。
そうだ、どんな形でもいい。
絶対にこの殺し合いを止めてみせる。
御坂美琴と彼女の周りの世界を守る為に。
【E-1/吊り橋近く/一日/深夜】
【海原光貴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:ブレザーの制服
[装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭
[道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、大型トランクケースIN3千万ペリカ、衝槍弾頭予備弾薬35発
[思考]
基本:御坂美琴と彼女の周りの世界を守る
1:ショッピングセンターで出来れば必要な物を調達
2:人と出会い情報を集める
3: 殺し合いに乗った危険人物の排除
[備考]
この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師である。
今現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。
海原光貴の姿も本人の皮膚から作った護符で化けている。
衝槍弾頭について・・・読み方はショックランサー。弾丸に特殊な溝を刻む事で、弾丸の空気抵抗を操作して『衝撃波の槍』を作る学園都市特注の特殊弾頭。『槍』は弾丸の通った後を追う形で標的を襲う。
殺傷能力は通常の弾丸の5倍から10倍。ただし空気抵抗を利用しているため弾速は通常よりも遅く、『槍』も弾丸より遅れて軌道をなぞるように襲ってくる為に弾丸と『槍』の間には0.4秒にも満たない程だが誤差がある。
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最終更新:2009年11月05日 01:01