それは、黒く燿く意志  ◆NaOxi39aYw



ショッピングセンターを目指して南下していた海原光貴は、進路方向の上空に人影を見つけた。
それも二人分。変則的な軌道で飛び回っている。
暗くて良くは見えないが、どうやら飛べる方が飛べない方を振り落としたようだ。
続く急降下と、

――ォォォォン

ほんの少し遅れて地響きが伝わる。

「さっそく始めているのですか。殺し合いがこんなに簡単に行われているなんて、御坂さんは大丈夫でしょうか」

海原は思わずため息を漏らした。

(いや、自分なんかよりも彼女はよっぽど強いですし、いくら心配したところで彼女にとっては迷惑なだけでしょう。)

――それでも、彼は彼女の身を案じずにはいられない。

海原はもう走り出している。
殺し合いに乗っている危険人物は排除しなくてはならない。ショッピングセンターは目と鼻の先だが、悠長に買い物している場合ではなかった。


E-1エリアは最初に海原が飛ばされた岬を最高になだらかな傾斜があり、F-1エリアよりも少しだけ高い丘である。
地図にある橋が、ただの橋ではなくてつり橋だったのもそのせいだ。
この島では基本的jに火山のある方角から海に向かって高低差があると思って良いだろう。
幸運なことに、海原はさほど近づくまでもなく戦闘現場を見渡すことができた。
もちろん、周囲が薙ぎ倒されて開けた場所になったのと、何よりも人物の縮尺のおかげだったが。

そして。
海原の出番がくるまでもなく、じきに戦闘は終了した。
破壊の嵐が吹き荒れた戦場に立つのは1人だけ。
一方は、南東の海上へと撤退していく。
他方は、飛び去る敵に向かって吼え続けている。

海原はブレザーの下に納めた拳銃を強く握り締めていた。
手のひらがじっとりと汗で濡れている。
残る巨人はこちらに気がついていない。
無防備な背を向けて、未だ海上の敵と睨み合っている。

――行くなら、今しかない。


結局のところ。

海原は踵を返して、見つかる前に離脱する他なかった。

今は、ただひたすらに走りつづけている。


「ショッピングセンターでの戦力補強はもうダメですね。
地形を考えても、巨人は自然と近いそこへ向かってくるだろうし、あの広い空間で目的の物を探すのは時間がかかります」

探しているうちに遭遇する訳にはいかない。
少なくとも、彼に対抗し得る武器が手に入るまでは。

「それに、刃物とロープならば別にショッピングセンターでなくとも手に入りますしね」

走りながら探していたものを、手ごろなアパートの一階で見つけると、海原はすかさずベランダに飛び込む。
街中同様に、部屋の中にも人はいない。
ベランダに架かっていた長さ5m程の洗濯ロープを二本、ついでに干してあったタオルを数枚回収する。
そのまま窓から侵入。乱雑で狭い部屋を抜けて、キッチンへと辿り着く。
こちらもすぐ見つかった。
特別よく切れるわけではない、ありきたりな包丁。だが、それでも十分。
鞘は無かったので、柄ごとタオルを巻いてズボンのポケットへ仕舞い込む。
これで、とりあえずの準備は出来たと言えよう。

一息ついたところで先の光景を思い出す。

「それにしても……あれが聖人というものなのでしょうか。 ヒトという枠を大きく逸脱しています。
 もう一方は学園都市製の駆動鎧……? それもサイズが桁外れな上、見たこともないタイプですが」

まさに巨人。それより更に頭一つ分大きな方は、フォルムも相まってもはやちょっとしたSFロボットの領域だ。

実際のところ、海原が目撃できたのは戦闘終了間際のほんの僅かにすぎない。
しかし、彼らと周囲の禍々しい痕を見ただけで、十分だった。
武器は手持ちの拳銃だけ、それであの距離ではどうにもならない。
彼らを仕留めるには遠距離からロケットや機関砲を叩き込むしかないだろう。

「殺し合いに乗った危険人物の排除、ですか」

自分の甘さを痛感する。
拳銃なんて物がまるで役に立たない参加者が、現に二人も、こうして暴れまわっている……!
自分の理解を超えた参加者は、きっとまだ大勢いるのだろう。

「やはり、最優先であの魔術を使えるように動くべきでしたね」

今は使えないが、海原には彼らを倒し得る術がある。
例えば、ある魔術師が「水性インクでルーンを刻んだカード」を用いて『魔女狩りの王』を使役するように。
海原光貴は「黒曜石のナイフ」を使って『トラウィスカルパンテクウトリの槍』を放つことができる。
それはどんなものでもバラバラに分解するという必殺の術だ。

「黒曜石のナイフがあれば……、『トラウィスカルパンテクウトリの槍』の術式ならば……!」

手元に無い物をいつまでも悔やんでいるわけにはいかない。
そんな暇があるなら、黒曜石を入手し得る可能性を考えるべきだ。

ところで、黒曜石とは火山岩の一種である。
割れやすいが、それ故に鋭い切っ先となる加工しやすい石。
原始人が扱う石器素材として有名で、世界各地でナイフや矢じり、槍の穂先などの石器として長く使用された。
一説にはアステカが強大な軍事国家を作れたのは、この黒曜石の鉱脈を豊富に掌握していたからだともいう。

そう、「黒曜石のナイフ」には考古学的史料価値があるのだ。
ならば――博物館といった施設があれば展示されているのではないか?
そこまで考えて、地図上にそんな施設が記されていないことに落胆する。

(……いや、学校はどうでしょうか?
なにも専門の研究施設でなくとも良いのです。ある程度以上の学校ならば資料として置いて在るでしょう。
或いは、歴史ではなく地学の分野でも、岩石標本という手があります。
ナイフでなくとも、矢尻や穂先、いっそ岩石でも「黒曜石」であれば構いません。
流石にそのままでという訳にはいきませんが、原始の人間にできて現代の自分に出来ぬ道理はありませんね。)

「小学校ならアウト。しかし中学校以上なら目があるはずです。
この島には学校が少なくとも二つはあります。どちらかで当たりを引ければ良いのですが」

他には……と考えて、線路に目が留まる。

(この路線、東西の市街を結ぶのが便利だろうに、それよりも何もない山間部を優先してありますね。
それも村や墓地といった施設を無視し、トンネルを掘ってまで。それは何故でしょうか。)

「おそらくは、資源を輸送する為でしょう。工業や宇宙開発のエリアには必須です。
地下資源か、もっと別の何かかもしれませんが、周囲にはなんらかの採掘場があるはずです」

もしかしたら。
実際に火山の周辺で石器が出土している以上、この島でも黒曜岩が見つかることがあるかもしれない。
帝愛グループとやらが、わざわざ火山のある島を選んだ理由も気にはなる。

「決まり、ですね」

まずはE-2及び、E-7の学校を回って、それでもダメならば火山へと足を延ばす。
ちょうど線路に沿った形での移動になる。当然ながら多くの参加者と接触するだろう。
情報収集にも励まなければならない。もちろん、殺し合いに乗っていなければ、だが。
自然と銃へ手が伸びる。

「あぁ、他の参加者に支給されている可能性もありますね。
その場合はなんとしても譲ってもらいましょう――この銃弾と交換してでも。」


魔術とは、才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術。
魔術を欲するのに今ほど相応しいときがあるだろうか。
なんとしても魔術を取り戻さなければならない。
彼らを放置していては、その凶刃がいずれ彼女に迫るかもしれないからだ。

それだけは。
それだけは、何があっても許されない!

魔術師殺しの彼では、かの純然たる暴力の塊には適わないだろう。

自分がやるしかないのだ!


彼は、ひたすらに走りつづける。
脅威から逃げるのではなく、取り除くために。

そして現在はE-2の中心部。

「もう少し、ですね。学校や駅を目指して人が集まっている可能性があります。気を引き締めて行きしょう。」

一度呼吸を整えると、海原はまた力強く足を踏み出す。
自分が頑張れば頑張った分だけ、それは彼女の安全にも繋がる。そう信じて。



【E-2/中心 住宅地/一日目/深夜】

【海原光貴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:ブレザーの制服
[装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭 包丁@現地調達
[道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、大型トランクケースIN3千万ペリカ、衝槍弾頭予備弾薬35発   
    洗濯ロープ二本とタオル数枚@現地調達
[思考]
基本:御坂美琴と彼女の周りの世界を守る
  1:なんとしても黒曜石を調達する
  2:人と出会い情報を集める
  3: 殺し合いに乗った危険人物、特にバーサーカー本多忠勝の排除
[備考]
※この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師。
現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。海原光貴の姿も本人の皮膚から作った護符で化けている。
※F-1で目撃できたのは、バーサーカーの再生よりも後からです。



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010:我が身の全ては想い人の為に 海原光貴 082:こんなにロリコンとシスコンで意識の差があるとは思わなかった……!



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最終更新:2009年11月13日 20:16