あの子のために、わたしのために ◆YLoNiOIZ66



○月×日 00:24

怖いユメを見た。
大好きな人が─んだユメ。
わるい人に吹き飛ばされた大好きな人の頭が、わたしの足もとにごろごろと転がってきた。
釘づけになってたら、目が合った。
あわてて目をそらそうとしたら、その人はわたしに言ったんだ。


「──」

意識が現実に引き戻されたわたしは状況が掴めず、横たわったままの体勢で数秒間夜空を眺めた。
藍色に満ちた空のあちこちでは星たちが煌々と自身の魅力を主張している。すごくきれい。
こんな景色、先輩と二人で見たかったな。でも多分もう無理──ん?あれ?なんで?どうして無理なんだ?

「…………………にぎゃぁぁぁぁあぁあ!」

奇声を発しながら飛び起きる。さきほどの出来事を思い出したからだ。
そして直後に脳裏に過ぎる先輩、わたしが敬愛する福路美穂子先輩の顔。
突発的にわたしの手はデイパックから顔を覗かせる名簿へと伸びた。
開いた名簿に並ぶ名前は50前後。その中からわたしは、先輩の名前を見つけてしまった。

「そんな…!」

あってほしくなかった、あってはならなかった名前。
いつも一緒に居てほしかった、この場所に居てはならない人.

「まも、らなきゃ」

守らなきゃ。
先輩はきっと、殺し合いには乗らない。
自分のことより他人を優先する先輩に、誰かを殺すなんてできっこない。
そういう人だとわたしは知っている。
でも、先輩には死んでほしくない。先輩は、先輩だけは死んじゃダメだ。
決めなくちゃ、今。いつも助けてくれた先輩を、わたしが守る決意を。
先輩のために、何かを犠牲にする決心を。
わたしが、やるんだ。

「正直怖いケド…でも先輩のために。先輩を守るために、わたしがやらなくちゃ!ぜっっっったい、やってやるし!」

そうと決まれば早速、支給品を拝見!
パックの中から武器として支給されたと思しきアイテムを取り出すのだが。

「マント、ヨーヨー、スクール水着? にゃにー!?」

これじゃあ先輩を守れないっつの!
究極のピィーンチッ!まじありえないし!

「どうしよう、先輩を守ることができるのはわたししか居ないのに」

そうわたしが嘆いたとき。

「──っ!!」

草木をかき分けながら、一人の女の子がわたしの前に姿を現した。


「それで、お姉ちゃんがごろごろしながらアイス~って言って」

すごく可愛いんです~(ハート)、などと言うこのシスコンは平沢憂というらしい。
森の中で鉢合わせたときは殺されると思ったケド、殺し合いには乗ってないとか。
だからとりあえず今はこの子に話を合わせて、近くの民家の中にあった椅子に腰をかけて休息を取っているワケだけど…。
良かった。本当に良かった!こいつが殺し合いに乗ってなくて良かったぁぁ!
先輩のために何もできずに殺されるだけとかまじ最悪だし。
きっと運が良かったんだな、ウン。

「あのーさっきから黙ってますけど、どうかしたんですか?もしかして具合が悪いとか?」
「! や、何でもないし!考えごとしてただけだし!」
「そうですか?」

はー、まともな武器さえあったらこんなシスコン話に付き合わされずに済んだのに。そして先輩な貢献できたのに。
って、そうだ!武器が無いなら奪えばいいんじゃん。
なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ、わたし?

「やっぱり怖いからさー、いろいろ考えちゃうじゃん?先輩のことも不安だし。
みんながみんなうちらみたいな考えとは思えないじゃん。
そういうやつらが襲ってきたとき、ちゃんと先輩やうちらは逃げられるかな?って。
……あ!武器って確認した?わたしはまだなんだけど、もしかしたら護身用の武器があるかも」
こういう風に自然な流れを作れば、こいつの武器を手に入れられるチャンスが…!

「そういえばわたしもまだ見てませんでした」
「じゃあ今確認しておこう」

椅子から降りてデイパックを開く。相手も武器を確認しだした。
わたしはあくまでも自然に相手に身を寄せて、デイパックの中身を取り出していく。

「使えそうなのは、銃とナイフぐらいかな。華菜さんは?」
「わたしは…ハズレだったみたいだ」

さっき初対面を遂げたゴミ三点を見せると、相手は反応に困ったみたいだった。
そして何かを考えるような仕草をした後、銃をわたしに差し出してきた。

「え?」
「華菜さんはこれを持ってて、わたしは何かあったときはこっちを使うから」

ラッキー。どうやら相当のお人好しのようだ。…ちょっとだけ、先輩に似てるかも。
………うわぁぁ!ダメだ、そんなこと考えたら殺しにくくなるし!
だいたい先輩のほうが可愛いし、プロポーションだって…!

「ありがとう」

とにかくくれるっつってんだから、受け取らなきゃ損損。
ありがたく銃を受け取って、相手はナイフをポケットにしまった。
安心した。これで先輩を守れる。
まずは最初にこいつを殺して…っと、一応、こいつのナイフが届かない距離まで移動しとくか。

「今、外のほうで物音がしなかった?」
「何も聞こえませんでしたけど…ちょっと見てきますね」

しめしめ。あっさりと背中を向けてくれた。
わたしは相手の後頭部に銃口を照らし合わせる。なかなか難しいもんだな。
「誰か居るの?」

何歩か先のドアにたどり着いた相手が、扉の奥に向かって声をかける。
─……よし、狙いは定まったぞ。
当然返事はない。困惑した相手が恐る恐る扉を開いた。
─今だ!

「「!!」」

パァン、と鼓膜が破れそうなくらい大きな音が部屋に響いて、思わず目をつむる。
反動に耐えられなかった身体は、情けなくも床に落ちた。いたたた。

「ふぅ、先輩のためなんだ。恨むんじゃ──…!?」

上体を起こして瞼を持ち上げる。
すると、視界の最大限を、今しがた殺したはずの平沢憂の顔が埋め尽くしていた。
え?なんで?まさかミスった?だったら早く殺さなきゃ!ゼロ距離で撃てばミスらないはず。
わたしは弾かれるように一歩後ろに退くと、相手の額に銃口を押し当ててもう一度引き金を引いた。
でも、結果は──

「…で、なんで!? どうして死なないんだよ!?」

死なない。どうして?いったいなんでこいつは!!

そう思ったとき、わたしは気付いた。
いたい。
イタい。
痛い。
お腹が、痛い。

「お、まっ…! がふっ!」

お腹には、平沢憂が持っていたナイフが深々と刺さっていて。
わたしは初めて、血液が真っ赤ではなく、赤黒いんだと知った。


暗闇に溶け込む民家の中。必要最低限のものしか揃っていない質素な一室。
まるで、取り残されたように中央にポツリと存在するテーブルで、一人の少女が懸命にノートに文字を羅列している。


『どうして私を助けてくれなかったの、憂』

そこまで記すと、足もとに開いたままの名簿に記載されたお姉ちゃんの名前を一瞥し、ペンを置いて支給品のひとつである日記を閉じた。
わたしはここで、起こった出来事、起こした出来事をひとつひとつをこの日記に綴っていこうと思う。
きっと誰かに見られたら、なんでそんな無駄なことを、って笑われるだろう。
でも、これはわたしにとってとても重大なこと。
わたしがわたしの幸せを守り抜くために。
わたしに、逃げ道を与えないために。


「それで、お姉ちゃんが─」

あれからわたしは、外から聞こえてきた猫の鳴き声のような奇声に誘われて、この人池田華菜さんに出逢った。

「すごく可愛いんです~」

本当はすぐにでも殺そうと思った。殺せるとも思ってた。
だけどできなかった。やっぱり人殺しなんて、そんな簡単にできることじゃない。
結局わたしは決意から、逃げた。
逃げて、華菜さんを民家に連れてきてしまった。だめだ、わたし。
…お姉ちゃん。

「あのーさっきから黙ってますけど、どうかしたんですか?もしかして具合が悪いとか?」
「! や、何でもないし!考えごとしてただけだし!」
「そうですか?」

多分、さっき話してた福路美穂子さんという人のことが心配なんだろうな。
わかるよ、その気持ち。痛いくらいわかる。

「やっぱり怖いからさー、いろいろ考えちゃうじゃん?先輩のことも不安だし。
みんながみんなうちらみたいな考えとは思えないじゃん。
そういうやつらが襲ってきたとき、ちゃんと先輩やうちらは逃げられるかな?って。
……あ!武器って確認した?わたしはまだなんだけど、もしかしたら護身用の武器があるかも」
「そういえばわたしもまだ見てませんでした」
「じゃあ今確認しておこう」

ここで、わたしは華菜さんを試すことにした。わたしのデイパックに入っていたモデルガンを使って。
もしもこの人がゲームに乗っていないと確信できれば、今は華菜さんを殺さないでおこう。
いつか、福路さんとの再会を果たせたときに。そのときに、きっと。

「使えそうなのは、銃とナイフぐらいかな。華菜さんは?」

荷物を探りながら華菜さんの反応をうかがう。

「わたしは…ハズレだったみたいだ」

罰の悪そうな華菜さんの表情に、苦笑いがこぼれる。
わたしは思案顔を浮かべて見せてから、モデルガンを相手に差し出した。

──華菜さんは受け取って、それから。



わたしを、コロそうとした。


「お、まっ…! がふっ!」

表情に苦痛を刻み込んだ華菜さんは、口から粘り気のある血反吐を吐き散らした。

「華菜さん」

地を這いつくばるような、低い声。
少しだけ、震えてる。

「華菜さんは本当に先輩のためにわたしを殺そうとしたんですか? 違いますよね。大事な人の名前を、殺しの理由に使っちゃだめだよ」

冷め切った目で、見下すように、見おろす。

「華菜さんは自分のために、自分の願いを叶えるためにわたしを殺そうとして─」


──殺されたんだ。


【池田華菜@咲-Saki-死亡】
【残り63人】


○月×日 01:06
死んだ。
殺した。
わたしが殺した。
わたしがこの手で殺した。
カナさんはミホコさんのためにわたしを殺そうとしたらしい。
でもそれはチガうよね。大事な人を理由にするなんて間違ってる。
そんなことをしてもお姉ちゃんは喜ばないし、お姉ちゃん、キズつくよ。
カナさんはカナさんのために、わたしはわたしのために、私利私欲で、ヒトを殺すことにしたんだよ。




そこまで記すと、ペンを置いて支給品のひとつである日記を閉じた。
わたしはここで、起こった出来事、起こした出来事をひとつひとつをこの日記に綴っていこうと思う。
きっと誰かに見られたら、なんでそんな無駄なことを、って笑われるだろう。
でも、これはわたしにとってとても重大なこと。
わたしがわたしの幸せを守り抜くために。
わたしに、逃げ道を与えないために。
なぜならもう、引き返せないのだから。


【C-5/森の中の民家/一日目/深夜】
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:トラウィスカルパンテクウトリの槍@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式 日記(羽ペン付き)@現実
[思考]
基本:自分の幸せ(唯)を維持するためにみんなを殺す。
1:日記を書いて逃げ道を消す。

※憂が華菜のデイパック、支給品(モデルガン@現実、スクール水着@化物語、ギミックヨーヨー@ガン×ソード、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュR2)を回収したかどうかは後続書き手に任せます。


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平沢憂 063:Noble phantasm
池田華菜 GAME OVER



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最終更新:2009年11月08日 17:09