Noble phantasm ◆WWhm8QVzK6
「じゃあ、気を取り直してと……」
言っては見たものの、このモチベーションはどうにもならないようだ。
だって仕方ないじゃないか。武器と呼べる支給品が皆無なんだから。
人殺しなんてしたくないし、せめて身を守れる程度くらいのものでも充分だと思っていた。
しかし武器に使えそうなものは全くと言っていいほどなかった。てか、使えないし、使いたくない。
なにしろ、その全部が他人の持ち物なのだから。
しかもその内名簿に載っているのが2人。一体僕に何をさせるつもりなんだろう……。
「……仕方ないな」
なんだかんだで、無防備というのはかなり不安だ。
あまり気が進まないがそうも言ってられない。予定を変更して、この近くの『死者の眠る場所』に行こう。
きっと役に立つようなものがあるに違いない。
あると、……いいんだけどな。
◆◆◆
収穫はあった。
とは言ってもシャベルと竹箒だけだが、無いよりはマシだろう。
武器とされていない日用品でも使い方次第で簡単に武器になってしまうのだから。
近頃はコロコロ(絨毯やカーペットを掃除するアレ)が凶器になったって話もあるくらいだから侮れない。
まあ、殺さないという意志がある以上は、そう簡単に殺せないものだ。
それにしても、死者の眠る場所、か。
…まんま墓場だったな。こんなところには誰も寄り付きはしないだろう。
墓石や卒塔婆がずらりと並んで、奥の方には申し訳程度の小さな供養寺がある。
その寺も、一時的に隠れるにはいいかもしれないが寝泊りするなんてもっての他といったところだ。
全体的にあまり整備はされてないらしい。あの、山の神社よりは大分マシだが。
ここに居座る奴はよっぽどの変態に違いない。
ちらりと、時間を確認する。
「もうすぐ2時か」
現在1時50分。
この時点で誰にも出会ってはいない。
そりゃあ、これだけの広大な敷地で残りの63人に出会うってのも中々難しいんじゃないだろうか。
だとすれば何日懸かるんだろう。食料はこれだけで足りるのか?
49平方キロメートル。歩けば分かるが、1キロでも結構な距離だ。
こんな広い空間、移動してたら直ぐに体力を消耗するし、じっとしていても腹が減る。
それこそ、最後は食べ物をめぐっての殺し合いになりかねない。
それすら叶わず、餓死する人も出るかもしれない。
一般人なら、なおさら――。
いやな考えを払拭するように歩き続けた。
何としてでも皆を見つけて、守らないと。
自惚れかもしれないが、無力な自分が出来ることといえばそのくらいだろう。
それとも単に、悔いを残したくないからなのかもしれない。
自分の手の届かないところで、彼女達が死んでしまうのが耐えられないから。
僕は強くないから、そうすることしか出来ないのだ。
さて、目の前に線路が続いている。
さっき電車が通ったのが見えたから稼動しているのは間違いないが、無人なんだろうか?
右に行くか左に行くか。当然、町に繋がる右に向かおうと思う。
廃村が北にあるけれども、名称の所為で行く気になれない。
人がいるならばきっと町のほうだろうし。その分、周りへの注意もより一層しなければならないがそれは承知の上だ。
ともかく線路沿いに歩くのが一番いいだろう。
そうして、そのまま右に足を向けたとき。
視界の隅に、人影が映った気がした。
「ん?」
いや、映っている。
首だけを左に傾けると、その人影はちょうど視界の真ん中に入った。
僕に見られて一瞬立ち止まったようだが、またすぐに歩み寄ってきた。
女の子だ。感じからして、多分中学生か高校生だろう。
何故分かったかといえば、制服を着ていたからだ。僕の地元でないようだが。
というか、この距離だとばったり出会ったというわけではなく、相手は何処かに隠れていたということになる。
多分向こうが先に気づいて、様子を伺っていたんだろう。
安堵感から少し気が抜けてしまうが、仕方の無いことだろう。
だって、ようやく出会えた参加者の一人なんだから。
けど、こういう思考は甘い事を、僕は理解できていなかった。
正確には、したくなかったのかもしれない。だって――
「君は……」
「あ、こんばんは」
「その挨拶はなんだかな……」
間違ってはいないけれど、場違いな気がする。
もう少し警戒してはどうだろうか。……言えたことじゃないけどさ。
こうして人に出会えて安堵している僕も、いるのだから。
「ああ、僕は
阿良々木暦…じゃなくて!なんで普通に自己紹介の流れになってるんだよ!別にいいんだけどさ……ん?」
平沢?
それって、確かこのギターの…
「なあ、これって君の家族のか?」
「え?…うん。それ、お姉ちゃんのと同じ型だけど…」
おもむろにギターを取り出してみると、目の前の子は驚いた表情をした。
そりゃあそうだよな。姉の所有物を他人が持っていたら。
「別に盗ったわけじゃないよ。何故か分からないけど支給品として僕のバッグに入ってたんだ」
本当に何故か分からない。
「ほ、本当にお姉ちゃんのなんですか?だったら返してください!」
「落ち着いて。そもそも本人に返すつもりだったんだから、君に渡すよ」
そう言って、僕はギターを彼女に手渡した。
目の前の少女は、愛しむような目でギターを見つめる。
「本当にお姉ちゃんのだ……。ありがとうございます、阿良々木さん」
「いやいや、別に礼を言われることじゃないよ」
だって勝手に僕に支給されてただけなんだし。
実際、彼女に渡すのは誰でもよかったんだろう。だからお礼を言われることじゃない。
必要なのは、これからの対応だ。
「なあ、こんな場所でじっとしているのは拙いから場所を変えないか?色々訊きたい事もあるしさ」
「別に構いませんよ」
訊きたいことはたくさんある。
彼女の知り合いも呼ばれているのかということ。
戦場ヶ原達に会ったかということ。それから今後どうするのか、とか。
とりあえず近くの家に入ることにした。鍵が掛かっているなら庭で話すしかないけど。
ちょうど僕が先に行くような形で、門に手をかけた。
「ところでどうして」
ギターがよく君のお姉ちゃんの物だって分かったな、と言おうとしたのだが。
思えば、この行動が幸いした。
「っぐ……!!!??」
刺すような痛み。
一瞬思考が真っ白になる。
何だ?何が起こった?
そんなことは目の前の光景を見れば理解できる。
僕の腕には、黒い尖った物が刺さっている。
なんだか歴史の教科書の最初の方に載っている石器のようなナイフみたいだ。
というか、まんまそれだった。
なんで、と考える前に離脱を試みる。
本当は背中を貫通して心臓を突き刺すはずだった刃物は、僕が質問の際に体勢を変えた所為で左腕を抉っている。
運がいいのか悪いのか。生きていることを考えれば、良いと言えるのだろう。
刺さったナイフを無理やり振り切るように、身体を回転させてなんとか抜き取った。
だが、それで止まらなかった。
ナイフが抜かれたといっても僕の腕から抜かれただけに過ぎない。
その凶器は、未だに持ち主の手に収まっているのだ。
「なんで……!」
何かしたか?
何か怪しまれるようなことは…していない。
家の中に入ろう、と言ったのだって強制したわけではない。
彼女の気に障るようなことは何もしていないはず。
いや、そうじゃない。考えるべきはそこじゃない。
この娘は、僕を、
「何でなんだよ……!」
――信じたく、なかったのだ。
まさか、僕より年下の、こんな娘が。
最初から、僕を殺す気でいたなんて。
そんなことは、思いたくなかった。
「ごめんなさい」
けれど、これが現実なんだ。
ナイフを片手に持ち替え、空いたほうの手で黒光りする物体を取り出した。
それを見て、僕はぎょっとする。
実際には見たことはなかった。きっと誰だってそうだろう。
こんな物を目にするのは、せいぜいドラマや漫画の中くらいだ。
銃なんて、女子高生が持っているような代物じゃない。
「っ!」
乾いた銃声が響く。
しかし銃弾は当たらなかったようで、僕の身体に風穴は開かなかった。
距離は4m程度か。この距離で当たらないということは、彼女は銃を使い慣れているというわけではないらしい。
だが、使えないというわけではないのだ。
偶然当たらなかっただけだろうし、これ以上近づけば確率はさらに上がってしまうだろう。
それに竹箒で対抗しろというのは無理な話だ。僕の手持ちの道具では、飛び道具を防ぐ役には立たない。
今は逃げるしか、なかった。
「はっ……はっ……」
同年代と比べてもそう足が速いわけではないが、少なくとも年下の女子よりは速い。
まあ、神原みたいなのは例外だけど。
向こうもこっちを追いかけているが、その距離は少しずつ離れていく。
人家まばらな田舎道。畑を突っ切るのはどう考えても自殺行為だ。
逃げるなら遮蔽物の多い場所が良い。
ある程度距離を離したから、僕は咄嗟に近くの家に飛び込んだ。
同時に銃声が響く。
牽制のつもりなのだろうか。当たらないものは当たらないが、それでも恐い。
今の僕では、致命傷となる傷は回復不可能だろう。回復する前に死ぬということだ。
腕から血が滴る。まだ傷は痛んでいる。
忍に血を飲ませたのはちょうど一日前か。
ならば回復力もそれなりにあるはずだけど、もしこれが帝愛グループの奴らが言う『制限』に当て嵌まるのなら、それには期待できない。
どの道、すぐに回復するような傷じゃないことは確かだ。
家の中に入るのは……ダメだ。
攻撃の際のモーションはあっちの方が速いだろうし、奇襲をかけられたら話にならない。
腕を振りかぶるのと指を曲げるのとどちらが速いか考えれば分かる筈だ。
銃さえなければ何とかなったんだろうが…それにしても最初に喰らったのがナイフでよかった。
あの状態で撃たれてたら間違いなく致命傷だっただろう。逃げることも――
「ん?」
そこまで考えて、僕は違和感に気がついた。
だとしたら彼女はなんで・・・
足音が聞こえてくる。
どちらにせよ、覚悟を決めなきゃならないようだ。
この家の庭はやけに広い。
喩えるなら、テニスコート一枚分くらいか。
ちょうどその横幅の距離、つまり、門と玄関に彼女と僕は立っていた。
「血の跡が続いてましたよ」
「知ってるよ、そのくらい」
今は簡単に縛ってあるけどな。
「じゃあ諦めたんですか。…その方が楽でいいですけど。びっくりしましたよ?
完全に殺せるタイミングだと思ったのに突然振り向いてくるんですから」
「ああ、お陰で命拾いしたよ」
彼女の表情はよくわからない。
今はそれなりに夜目が利いてるんだけどな。
「なあ、理由、訊いていいか?」
「理由……そんなの、決まってるじゃないですか」
お姉ちゃん、か。
遭ったばかりで、まだ殆ど言葉も交わしていない。
でも、この娘が姉を想う、家族を想う気持ちは垣間見えた。
その気持ちが嘘じゃないということも、わかった。
「でも、そんなのは…」
「阿良々木さんは勘違いしてます。私はお姉ちゃんの為にしてるんじゃありません。自分の、為なんです。
お姉ちゃんの為なんて言ったら、悲しむじゃないですか」
零れるように、彼女は呟いた。
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
「それは、違うだろ」
矛盾だった。
いくら彼女が姉の為じゃないと言い張っても、彼女が人殺しである事実に変わりはない。
その事実だけで、既に姉を傷つけている。
ワ タ シ
「違いません。そんなの、ばれなきゃいいんです。知らなければ、お姉ちゃんは幸せでいられる」
破綻だ。
彼女は、そんな簡単なことにすら気づけない。
「だから、死んでください。阿良々木さん――」
一歩、近寄られた。
あと五歩も歩かれたら、彼女のナイフの間合いに届いてしまう。
ナイフを防ごうにも、その先には銃がある。
背中を向けて逃げるにはあまりにも近い。銃弾の恐怖に晒される。
上手い二重の牽制だった。一般人にはかなり有効な手立てだろう。参考にする気はないが。
二歩。あと四歩。
だけど、僕の予想が正しければ、この作戦は簡単に打ち崩せる。
正しくなければ諸に餌食になってしまうが、その可能性は低いだろう。
そうでなければ彼女がああした意味がわからない。
だから、これは分のある賭けだ。彼女はまだ、僕が気づいていることに気づいていない。
三歩。
もう、いいだろう。
僕は、脇目も振らずに。
「え…!?」
真っ直ぐに前に、ダッシュした。
向こうも僕の意図したことに気づいたようで、ナイフを振りかぶる。
でも、一度驚いた時の隙は取り戻せない。
僕は三歩分の距離を一気に詰めて、ナイフを持った腕ごと思い切り押し倒した。
僕の全体重を掛けた体当たり。後の姿勢も省みない激突は、彼女の身体を否応無しに地に叩き付けた。
「………!!!」
下が土だとはいえ、人間一人にプレスされた衝撃は彼女の肺の空気を空っぽにした。
その間に、ナイフを手から剥がし、彼女の手の届かないところに捨てた。
銃は、どうでもいい。
だってこれには、弾なんか入っていないんだから。
「これは、映画の撮影とかに使う火薬入りの銃だろ。これじゃあどうあったって殺せはしない。
最初の一撃がナイフだったのも、このせいだよな」
彼女は応えない。
というか、反応してない。
「…え?」
……まさか、死んでないよな?
すぐに首に手を当ててみる。
いや、当てる必要もなかったみたいだ。ちゃんと鼓動している。息もしている。
大方頭でも打ったんだろう。気絶してるだけなら、良しとしよう。
ナイフを拾い、自分のバッグに入れる。
銃は、彼女の方に入れた。
このまま放置しておくのは拙いので、とりあえず背負うことにした。
「ふうん、意外と胸あるんだな」
シリアスなムードぶち壊しの台詞を軽く吐いてから、家の中に入る。
とにかく、これからどうするか。そんなのは最初から決まっているのだけれど…
やることが一つ、増えたみたいだ。
◆◆◆
目が、覚めた。
知らない感触。どうやら私は、寝かされていたらしい。
頭が少し痛んだ。倒されたときに気絶したのかな。
起き上がって周りを見ても、誰もいない。あの人も、いなかった。
ふと、傍に紙があるのに気づいた。
何かが書いてある。
『悪いけど武器は預からせてもらった。君はしばらくここで隠れておいてくれ。
君のお姉ちゃんを見つけたら、必ずここに連れてくるから』
誰が書いたかなんて、言うまでもなかった。
「武器は取ったのに…日記は見なかったのかな」
この分だと、日記の中は見られていないようだ。
見ていたらこんなこと書けるはずがない。
でも、私を助けるって…あの人は何がしたいんだろう。
「…そっか、考えるまでもないよね」
彼は会ったことも無い、名前しか知らない人を助けようとしている。
但し、自分とは違う形で。
「でも、それじゃあダメだよ。阿良々木さん」
お姉ちゃんを守ったところで、参加者は減りはしない。
守ってくれるのはありがたいけれど、それじゃあ幸せにはならない。
誰も殺さずに生きるなんて、それこそ矛盾でしかないじゃない。
彼は優しいけれど、私に対して違うと言ったけれど……
バッグの中身を確認すると、無くなっている者があった。
ナイフは説明書と一緒に取られたけど…あれ?
なんで他を取らずにアレだけ持っていくの?
■
「これって…神原のだよな」
スクール水着。
そりゃあもう、昨日の夕方に(自分の時間間隔で)預かったばかりなんだから覚えている。
あいつらは、一体何がしたいんだ…?
正直こんな場で返すのもなんだと思うけれど、これはあいつの持ち物なんだから会ったら返しておこう。
「早いところ出会えるといいな…」
全く、自分から進んで人間強度を下げるなんてどんな話だよ。
でもこれでいいのかもしれない。こうすべきなんだ。
肉親を助けたいって思いは分からなくもない。両親も妹たちも僕にとっては大事だ。
だけど、人殺しなんて罪を背負うことはない。
誰にも分からなくとも、罪はどこまでも付いてくるのだから。
だから、僕が彼女の願いを引き受けよう。
勿論殺し合いに乗る気はない。殺す以外にも方法はある筈だ。
それにしてもよくもまあ自分を殺そうとした人間にここまで親身になれるんだろう。
忍野にも言われたことあったっけな…。
でも、そうせずにはいられなかった。
だって、あの娘は――震えていたから。
殺し合いなんて、本当はしたくないんだ。
だから彼女が犠牲者を出す前に、彼女の目的を達成させればいい。
そうすれば、誰も傷つかなくて済む。かなり難しいだろうけど、だからと言って諦めるわけにはいかない。
そうして僕は、駅を目指すことにした。
電車も通っているようだし、使えば捜索の役に立つだろう。
時刻はまだ3時。
思ったより、時間が進むのは遅いようだ…。
【C-6/線路近くの民家/一日目/黎明】
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:頭にたんこぶ 疲労(中)
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:基本支給品一式 日記(羽ペン付き)@現実 ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュR2
ギミックヨーヨー@ガン×ソード モデルガン@現実
[思考]
基本:自分の幸せ(唯)を維持するためにみんなを殺す。
1:日記を書いて逃げ道を消す。
2:この家から出る。
※憂が華菜の支給品を回収しました。
【C-6/線路沿い】
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(小) 左腕に刺し傷(回復中)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、エトペン@咲-Saki-、ゲコ太のストラップ@とある魔術の禁書目録
スコップ@現実(会場調達) 竹箒@現実(会場調達) トラウィスカルパンテクウトリの槍@とある魔術の禁書目録
スクール水着@化物語
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出
基本:知り合いと合流、保護する。
1:線路沿いに歩いて市街地を目指す。
2:戦場ヶ原、八九寺、神原と合流したい。他にも知り合いがいるならそれも探す。
3: 憂の姉を見つけたら、憂の下に連れて行く。
4:……死んだあの子の言っていた「家族」も出来れば助けてあげたい。
5:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※憂から情報を訊くことを忘れています。
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最終更新:2010年01月23日 00:02