復讐するは我にあり ◆70O/VwYdqM
彼は言った。
復讐のためなら、人間なんて不自由なだけだ、と……。
◆ ◆ ◆
微かな星明かりは一つの影を世界に生み出し、背景の闇をより一層際立たせる。
風の音も、波の音も、全ての音が遮断されるその闇は、さながら人外共が住まう異界のような空間を呈していた。
バトルロワイアル?殺し合い?
そんなものは関係ない。
その一つの影がそこに存在するという事実だけでその異界は確かに成立しているのだ。
何物にも左右されず、目的を邪魔する者を無感情に排除し、ただ復讐のみを考える男、
レイ・ラングレン。
白を基調とした武士のような民族衣装が闇夜に映え、背景はまるでレイの登場を待っていたかのように静まり返る。
それを感じ取ったのか、レイはゆっくりと口角を吊り上げ、星を見上げて笑みを零した。
その姿を闇は無言で包み込み、世界は無言の拍手を持ってレイを迎え入れた。
◆ ◆ ◆
たった一人の最愛の妻を殺された瞬間から彼は変わった。
無口だが心優しかった青年がただの復讐鬼へとその身を転じたのだ。
どれだけ愛しても妻はいない。二度とこの手に抱くこともできない。
彼を襲ったのは絶望にも近い虚無感。
何も無い。
そう、何も無いのだ。
彼にはもう、何も無い。
そのたった一つの絶望を胸に、彼はそれ以外全てを捨てる事でしか自分を保てなかった。
妻を殺した男、右手が
カギ爪の男を何があろうと殺すという目的ただ一つだけを残して、彼は、変わった……。
◆ ◆ ◆
レイは静かに、深く心の中で感謝する。
星空を見上げながら、その向こうから自分を見下ろしているかもしれない誰かにではない。
自分に訪れた強運に対して純粋なまでに感謝を示しているのだ。
レイの持つ最後の記憶は、最愛の妻、シノの残してくれたヨロイ、ヴォルケインの操縦席の中から見る無機質なレーダーの映像のみ。
そこからなぜか記憶が曖昧になり、気がつけば見知らぬ部屋にいた。
狭い部屋で目が覚めたレイは、即座に自分の状況を把握しようと動いた。
服装はいつものままだったが、腰に挿している銃は無く、靴の踵に仕込んでいる隠し銃の類までも奪われている事に気づく。
考えるまでも無い、己が捕らえられたこと瞬時に理解した。
一瞬カギ爪の男の仕業か?と思ったが、どうやらそうではないらしい。
唐突に始まった例の殺し合いの宣言と、頭を吹き飛ばされた少女の映像を冷静な表情で見送り、レイは数秒思考をめぐらした後、静かに状況を受け入れた。
そして、特に言葉も無く、指示通り行動を始めたのだ。
レイの思考をわざわざ並べ立てる必要も無いが、簡潔に説明すると……、ようは、レイは合理的な思考に基づいて行動しただけなのである。
現状、あの狭い部屋で出来る事は限られているし、首輪で行動を制限されているというのなら、とりあえず何も考えずに指示に従ったほうが早い。
会場と呼ばれる場所に出れば幾分かは行動に自由は利くだろう。
そして何より、レイには漠然とだがある予感があった。
それを確認するために、今はおとなしく指示に従ったほうが良いと判断したのである。
つまりは、無駄なことを考えないという事。
それが目的の為の最短距離というのなら迷わず進むだけ。
それがレイ・ラングレンと言う男だった。
そして現在、封筒に入っていた名簿を見た事で、レイは全てを理解した。
あらゆる疑問を吹き飛ばし、ただ一点、ただ一人の名前、『カギ爪の男』という表記を見た瞬間、レイは迷い無く自身の目的のままに前に進む決心がついたのである。
カギ爪の男を殺すという唯一つの目的に向かって……。
レイが決意した理由は至極単純なものだ。
これまでカギ爪の情報を得るために、用心棒や殺しの類の仕事を頻繁にしてきたレイ。
だがそれは、口で言うほど容易い作業ではないのだ。
広いエンドレス・イリュージョンで一人の男を探すと言うのは、まさに砂漠に落ちた塩粒一つを探し当てるほど根気の要る作業である。
しかも、そんな作業の過程で得られる情報も、その大半が標的に掠りもしないなんて事もざら。
そんなことを無感情に、事務的に繰り返してきたレイにとってみれば、ちょっとやそっとの時間の浪費など物の数ではないのだ。
無駄と分かれば何時も通り依頼主を見限り、再びカギ爪を追う旅に出る。その繰り返しだ。
言うなれば、レイにとって今回の殺し合いも今までの依頼とさして変わらない出来事なのだ。
主催者の要望に答えれば報酬が得られる。
金など興味は無いが、カギ爪の情報が得られるというなら乗ってやらないでもない。そう解釈したのである。
そして、会場に降り立ち、封筒を開け、名簿を見たその瞬間、レイが何を思ったかは容易に想像できるだろう。
優勝の報酬だと漠然と考えていたカギ爪の情報、いやその存在そのものが目の前にある。
これはもう僥倖といってもいい。
主催者の言葉を信じるとすれば、エンドレス・イリュージョンより遥かに狭いこの会場に憎い仇がいるのである。
それを理解した瞬間、レイは笑みを零し、自身の運命に感謝したのである。
殺し合い?『魔法』に金?
そんな物は関係無い。
奴の名前がそこにある限り、俺は奴を八つ裂きにするために行動する。
邪魔するものはすべて排除する。
名簿にはもう一人見知った名前があったが、それすらもどうでもいい。
……いや、違うな。
殺し合いと言うなら、カギ爪の男を殺そうとする者も当然いるだろう。奴もその一人だ。
なら、そいつらも俺の敵だ。
そうだ、広いエンドレス・イリュージョンで探すとはわけが違う。
この程度の島なら、奴らの言う様に動く者全てを殺して行ってもいい。
主催者が望むに望まないに関わらず、俺は俺のやりたいようにやる。
カギ爪の男がこの地に本当にいるというのなら、俺は奴をこの手で殺せるその瞬間まで、一切の迷いを捨て去り、けっして立ち止まりはしない。
それが、目的までの最短距離ならば……!!
瞳に狂喜の炎が揺らめかせ、男は姿を一瞬にして鬼へと豹変させた。
デイパックの中から出てきた見たことも無いメーカーのライフル、ドラグノフを片手に持ち、
無表情でどこまでも冷酷な眼差しを浮かべた鬼が、目標を見定め歩を進め始める。
それは、残酷なまでに冷酷な、復讐鬼という名の鬼が、この地で無常にも動き出した瞬間だった……。
【D-3/北/一日/深夜】
【レイ・ラングレン@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:武士のような民族衣装
[装備]:ドラグノフ@現実(10/10)
[道具]:基本支給品一式、ドラグノフの弾丸(20発)、ランダム支給品2個(確認済み、ライフルより有用な武器は無い)
[思考]
基本:カギ爪の男を八つ裂きにする
1:動くもの全て排除
2:だが、利用できるものは利用する
3:
ヴァンは出会えば殺す。だが利用できるなら利用も……。
[備考]
※参戦時期は第8話~第12話のどこかです。
【ドラグノフ@現実】
セミオートタイプの狙撃ライフル。
スコープに目を合わせたまま次弾を素早く撃てるため非常に使いやすい。
装填弾丸は7.62mm。30発支給。
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最終更新:2009年11月03日 03:24