流れ星-fool's mate- ◆7jHdbxmvfI
「あらあら。阿良々木君に神原までいるの。これは大変ね」
とある建物の事務用の部屋からはそんなあまり緊張感のない淡々とした声が響く。
彼女、
戦場ヶ原ひたぎは真っ先に名簿を確認し、漏らした第一声がそれなのだ。
「困ったわね。まあ最悪の場合、神原は見捨てて私が阿良々木君を生き返らせれば済むのだけど……阿良々木君って無駄に
正義感が強いのよね。それに博愛主義な所もあるだろうしきっと今頃無駄に熱血してそうよね。もしかしたら
『こんなふざけたゲーム、俺がぶっ壊す』みたいな後で聞いたら恥ずかしいセリフはいてそうだわ」
と、微妙に違うが微妙にあってるという、ある意味正否が不明な戦場ヶ原の暦の行動予測である。
「でもどういうことかしら。私の道具。全て盗むなんてあの男。私の身体を触って隠してる物を盗ったのかしら。エロい男。
後で軽く抹殺しなくてはいけないわね」
と適当に嘯きながら、事務室を散策。
事務室だけに、ハサミ、ホッチキス、カッターナイフといった物を中心に文房具類は当然容易に入手が可能。
彼女はそれをいつものように懐に隠し持ち、事務室を後にする。
が、その時だった。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!
激しく響く爆音。
それが彼女の耳に届いた。
「全く。開始早々に誰か爆弾でも使ったのかしら。節操がないわね本当に。とんだ早漏もいたものだわ」
彼女は爆音も意に返さずに、事務室を後にした。
*******
「どういうことかしら。殺し合い……それにさっきは爆音まで、どうしてこんな………それに………上埜さんに華菜まで」
床に座り込んで考えているのは風越女子高校三年生、麻雀部キャプテンで不動のエースである
福路美穂子である。
エースながらに後輩の指導、部の雑用を全てこなし、80人を超える部員の全てに別け隔てなく接する優しさを持ち、
試合では団体戦の決勝、個人戦の決勝で最多得点をたたき出す実力を持つ彼女。
彼女は今、麻雀とは違うリアルの命のやり取りで何とか冷静さを取り戻すように努めつつ、最良の方法を模索していた。
(……生き残れるのは一人、もし私が生き残れて上埜さんと華菜を生き返らせる事が出来るとしても元の生活に三人は
帰れない。でも私が残れば二人共………駄目だわ。私が犠牲になればなんて言ったら華菜は絶対に残るって言い出す。
それに上埜さんもきっと……ならどうすれば。三人が一緒に帰るには………敵のアジト……ここに行けば何か……
駄目よ。それに私が人を殺せるの?人を殺した後で上埜さんや華菜にどんな顔を見せればいいの?私は……どうしたら……)
何度考えても同じ。堂々巡り。
戦場において、殺す覚悟が無い限り、最良の選択など出るはずもなく、仮に出ても実行出来るはずがない。
「……とにかくまずは華菜を探さないと。それに……上埜さん。上埜さんならきっと何見つけてくれるはず。みんなで帰れる
方法をきっと。だから私は………華菜を守らないと」
立ち上がる。
震える足を奮い立たせ、勇気を持って動き出す。
そしてそこに、一人の女性が立ちはだかった。
「あらあら。こんなところで出会うなんて。ところで貴方。どうするつもりかしら?この殺し合い。乗るのかしら?」
「えっ、わ、私……」
突然出会った女性。
それは背が高く、目つきが鋭く何か威圧感がある女性だった。
実際は歳は両者同じなのだが、眼の前の彼女にはそんな事は関係ない、不思議な威圧感を持っている。
「私………殺すなんて……出来ないと思います。だって私は」
「そう」
「っ!?」
福路が一瞬うつむこうとした瞬間、福路の口にカッターナイフが入れられた。
刃はまだ立てないが、少しでも動けば口が裂ける。
しかし、何とかそのナイフから逃れようと、福路は腕を動かそうとする。
でも、それをひたぎは見逃しなどするはずがない。
「あら。まだ動けるの。それなら……」
「きゃっ!」
片側の頬を挟むようにホッチキスが入れられた。
挟めば針で冗談じゃないぐらいの痛みが襲う。
そんな未知の恐怖に福路の動きは大幅に鈍る。
「……何を?」
「別に傷つける気は無いわ。ただ一応……忠告ね。万が一貴方が
阿良々木暦という高校生を見つけたら、絶対に彼の邪魔になる
行動をしては駄目よ。もし彼が死んだ場合、私は彼を生き返られるために全ての人を殺す。だから貴方は仮に今後何があっても
彼の生存確率が下がる行動をとってはだめ。分かった?」
「……分かったわ」
「………そう。ならいいわ」
戦場ヶ原は頷くと、カッターナイフを引っ込める。
(…………阿良々木暦というのは彼女の大切な人なのかしら?なら確かに死んでほしくないわよね。でも助かったわ。
もしここで怪我をしたら華菜を守れなくなる。彼女が平和的な人で……えっ!?)
そこでよぎる。
嫌な予感。
何故ホッチキスがまだ外されないのか。
ナイフと一緒にホッチキスも口から放してくれると思っていたが、まだ外さない。
いつでも攻撃に移るといわんばかりの態勢。
(まさか。でもきっとすぐに………駄目だわ。そんな弱い考えじゃ………華菜を守れない!)
福路は決して開かない右目を開く。
開かれた碧眼。
そして世界は凍りつく。
(彼女から攻撃する気配は消えていない。でもまだ右腕には力は込められていない。それに左手はカッターを刃を閉じている。
なら今なら引いても大丈夫。追撃は無い)
一瞬の状況判断。
重心を後ろに傾け一気に引く。
「?」
その後一瞬遅れてひたぎはホッチキスを閉じ、口内を針が襲う。
が、ほんの一瞬のタイミングのズレが生じ、針は空を切り地に落ちる。
フローリングの床に小さな音が響く。
「………………」
「…………………」
重い沈黙。
攻撃をした側とそれを避けた側。
なんともいえない嫌な空気が両者を横断する。
その二人の距離は数字に直せば3メートル弱。
しかし感覚では太陽から天皇星まであるようなほどの遠い距離感が感じられた。
「………手が滑ったの?大丈夫だった?」
先に口が開いたのは福路。
しかし、それは攻撃に対する叱責ではなく、相手を気遣う慈愛の言葉。
だがひたぎは決して折れない。
「あらあら。何を言ってるのかしら。私の攻撃を察して引いたのでしょう。それともあれかしら。
聖母マリアを気取ってるつもり。それなら貴方は決して長生き出来ないでしょうね。いつか後ろから刺されるわよ」
「いいえ。気取ってるつもりはありません。それに貴女……ナイフで切らなかったでしょ。攻撃だったのなら、その方が
とても痛いはずだわ。だからあれは『手が滑っただけ』。私は『足が滑っただけ』。そうじゃないかしら」
「そう。………あなたがそう思うならそうなのでしょう」
ひたぎはホッチキスとカッターナイフを懐に戻すとそのまま背を向ける。
「あなたとは友達になれそうにないわね」
「そうかしら」
「私がそう感じたのだからそうなのよ。それじゃ、さようなら」
「ごきげんよう」
ひたぎはその後、決して振り返らず、その場を後にした。
後に残るは福路美穂子のみ。
そして彼女はひたぎが去ったのをみてからようやく、壁にもたれかかりながら一言を漏らす。
「……怖かったわ」
それと同時、一筋の流れ星が流れた。
けれど屋内にいる彼女には分からない。
それが池田の死を暗示している事を。
彼女の心に刃がつきたてられる。
そのタイムリミットまでの砂時計は既にひっくり返された。
【F-6/展示場内/1日目/深夜】
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:健康、冷静 脈拍高め(落ち着きつつある)
[服装]:学校の制服
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)(未確認)
[思考]
基本:
池田華菜を探して保護。人は殺さない
1:爆発音と逆の工業地帯に向かう。電車か徒歩か検討中
2:上埜さん(
竹井久)を探す。みんなが無事に帰れる方法は無いか考える
3:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
【F-6/展示場周辺/1日目/深夜】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:健康、冷静
[服装]:制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)(確認済)
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。
1:爆発音とは遠ざかる方向へ向かう。
2:神原は見つけた場合一緒に行動。ただし優先度は阿良々木暦と比べ低い
[備考]
登場時期はアニメ12話の後
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最終更新:2009年11月05日 00:58