GEASS;HEAD END 『孤独』 ◆hqt46RawAo



「……………………っ」

重い目蓋を開いたとき、その音はまだ鳴っていた。
響き渡る、甲高い警告音。
機体制御の喪失、および転倒。
それに至る以前の記憶が頭の中に流れ込み、意識が急激に覚醒していく。

「……っ……私は……確か……」

狭苦しいコックピット内を見回して、思い出す。
私は蒼崎橙子と名乗った女から逃げた後、新しく購入したロボットに乗り込んで。
式を助けに戻るために、ホバーベースへと向かっていたのだ。
それで、その道中で蓄積された疲労と、殴られたお腹の痛みに堪えられなくなって。
徐々に意識が朦朧としてきて。

「それで、眠ってたんだっけ……」

操縦桿へともたれかかるように、私は意識を失っていたらしい。
多少なりとも睡眠をとった効果か、意識に掛かった靄は消えていた。
けれどやはり身体の節々が痛む。

手元のデバイスを確認して、現在の状況を明確に意識する。
眠っていた時間はそう長くないらしい。
ここからさらに北上していけば、ホバーベースに到着する。
ナイトメアフレームの速度でもってすれば、あまり時間も掛からない。
もう少しで辿り着くだろう。

そう、辿り着いて……。

「それで……私は何をするつもりだったのかな……」

現実の記憶を思い出すと同時に、夢の記憶を消し去る、ことは出来なかった。
あの光景は私の何より深い場所に刻まれている。
私の中の『逃避』の真実と、その答え。
いまならば、私がやろうとしていた事も明白だ。

「私は式を助けようなんて思ってなかった。ただ、あの場所から逃げたかっただけなのに」

自分の言葉で欺瞞を浮き彫りにする。

「私は……最悪だ」

その事実も、自分の言葉にする。

式を助けたいから?
なにをふざけた世迷言を言っていたのだろう。
そんなもので自分を騙し通せると思ったのか。
私が式を信用していたから、守ろうとしたなどと、そんなの大嘘だ。
自分の心を守りたいが為の嘘。
式は強いから、私を守ってくれるから、助ける……だって?
笑ってしまう。

正義の味方などいない。
誰も救ってなどくれない。

そう言ったのは他でもない、この私だったはずなのに。

結局私は徹頭徹尾、欺瞞だらけだった。

背負っていた重さに負けて、無意識の内に虚構(ハリボテ)と摩り替えていたなんて。

唯が死んだ理由に縋っていた。
正義の味方に縋った。
それを殺す私自身を正しいと騙した。

「ほんとに、最悪だ……な」

いつまでたっても成長しない。
これじゃ私が殺してきた人にも笑われる。

でも、

「だけど……そろそろ、終わりにしなくちゃ……」

もう、これ位にしておこう。
自分に嘘をつくのも、綺麗なフリをするのも止めにしよう。
私はむき合わなくてはならない。

あの夢の中で知った、私なりの答え。
逃げずに前へ進む道は間違いじゃない。
そして逃げることを選択する道も間違いじゃない。

けれど、どちらにせよ私は見なければならない。
あの夢のように、向かい合わなければならない。

今の私という、存在に。

私が戦う理由。
その思いはもう綺麗じゃない、かっこよくもない、この世の誰にも優しくない。
薄汚れている、歪んでいる、破綻している。
最低にして最悪。
私はもう何をしようと、大義も、正義もない、ただの人殺しなのだ。
そりゃ正義の味方がこの世に居たとしても、助けには来ないだろう。

そんな私を誤魔化してはならない。
認めなければならない。
だって、自分の為に人を殺すってことは、きっとそういうことなのだから。
誰かが怖いから殺したんじゃない。誰かが殺したから、殺すのではない。
目的のある人殺しを、誰かのせいになんか絶対にできない。

私は私の欲しいモノのために人を殺した。私が殺すから人が死んだ、それだけなんだ。
受け入れろ。
友達が死んだから? 理不尽にも奪われたから? 何も悪いことなどしてこなかったから?
仕方ないと? 取り戻すその権利が欠片でもあると?
ふざけるな。
そんな勝手な願いに、正当性など最初からどこにもないんだ。
明智光秀が死んだのも、福路美穂子が死んだのも、私がこの手でやってきたことの全ては、誰かのせいなんかじゃない。
全部、私がやりたいからやっただけなのだ。私だけが背負う業だ。

『秋山。殺人と殺戮は違うよ』

あの時の式の言葉が、今なら理解できる。
その通り、私がやったのは殺戮じゃない。
ただの殺人。
理由っていう、いい訳めいたおまけつきの悪行。

『殺人鬼が誰かを殺すのに理由はないんだ。
 ただ殺したいから殺戮するだけで、痛みも意味も、何一つ背負わない』

きっとそうなのだろう。
殺人鬼には理由がないのだから。
それにはきっと罪も意味もない。
だから、私は殺人鬼にはなれない。

『けれどおまえには理由がある。罪の意識だってあるんだろ?』

そう、私にはある。
身勝手で、独りよがりで、罪深い理由があるよ。
更におこがましくも、罪の意識だって感じてる。
それでも、私は『進む』ことを選んだのだから。

『そうでないなら、そんなに『おもい』で潰されそうになるわけないもんな』

その罪からも、理由(おもい)からも、目を逸らさない。逸らしてはならない。
例え潰されそうになっても、私は背負い続ける。
でないと、立っていられないから。
地に足が付かないから。
前方にも、後方にも、どこにも進むことなんて出来ないから。

だからもう一度だけ誓う。
前に行く為じゃなく、後ろに逃げる為じゃなく。
ただ求めるモノへと『進む』ために。

「私は……私のために殺した。その理由も、罪も、すべてが私の物だ。誰にも、渡さない。」

そう決意したとき。
私の耳に、警告音とは別の音が流れ込んできた。
発信源は足元。
そこには転倒の際に耳から外れたのだろう通信機が落ちていた。

「……? 個人……回線……?」

突然出撃していた私にルルーシュたちが連絡をするのは当たり前のことではある。
けれど通常の連絡ならば、普通によこせばいいはずだ。
それをわざわざ、私個人に掛けてくるという事は……つまり。

私は少しの間、考えていたものの。
結局は通信機を拾い上げ、耳に掛けて、応答した。

「……モモ、か?」

予感がしていた。

たった今、私が誓ったこと。
それが早くも試されようとしている、と。



『………………』

「モモなんだろ……? 今度はなんだ?」

『………………』

「おい……? モモ……?」

『……あ、っ、……ごめんなさい、聞こえてるっすよ、なんすか?』

「なんすか、ってお前、そっちが掛けてきたんだろ?」

『あ……ははっ……つッ……そ、そっすよね、すいませ……ぐッ……今から説明しますから……』

「? ちょっとまて、どうかしたのか、すごい辛そうだけど……」

『あ、はははっ……へ、ヘマをやっちゃいました……腕をちょっと……』

「お前……怪我してるのか!? そっちで何があったんだ!?」

『……私達の作戦は失敗、これで伝わるはずっすよね?』

「失敗? 失敗も何も、私達はまだ何も……お前……まさか……」

『だいたい……察しの通りだと、おもうっすよ。勝手に動いて、それで墓穴掘ったっす……』

「…………」

『いや、澪さんの言いたいことは……分るっすけど、まあ恨みっこなしって、言ったじゃないっすか……』

「…………」

『あの……澪さん? やっぱり……怒ってますか?』

「……お前……これからどうするつもりだ?」

『わたしっすか? はは、もう憂ちゃんには近寄れないっすね……これでお別れって事になりそうっすよ、そりゃ』

「そうじゃなくて……!」

『……はぁ……まあ澪さんには……負い目があるんで、特別っすよ。
 まあ、これからショッピングモールにでもよって装備を整えて、その後は……やっぱり何も考えてないっす。
 なにぶん急な事態でしたから』

「……」

『ねえ澪さん……まさか……私の心配とか……しちゃってるんすか?』

「馬鹿いうな。私をほったらかして勝手なことするから、そんなことになるんだよ。自業……自得だ」

『ですよね。返す言葉も……ないっすよ。……でもそれを聞いて、ちょっと……安心したっす……』

「なんだよそれ、どういう意味……」

『それじゃあ、さよなら……澪さん』

「な……!? ちょっと、ま――」

『――ブチッ―――』



一方的に通信を切る。


「っ……ぁ……はぁっ……はぁっ……!」

青みがかった薄暗い空の下、東横桃子はひた走っていた。
ルルーシュ、憂、サーシェス、あの場で桃子を認識した者達から逃れるために。

「……あ……ぐっ……ぁっ……………」

痛みの声を堪えることも出来きない。
その足はもつれ、息はとても荒く、
ふらふらと危なっかしい挙動だった。

「痛ぅ……くっ……」

桃子は走りながら右手で左腕を庇っていた。
その左腕は、見るに堪えない程の大火傷に覆われている。
制服の左袖は真っ黒に焦げ落ち、左手首から肩に至るまでの肉が焼きただれて酷い有様だ。
人生で一度も経験したことのない大激痛と、己の肉の焦げる臭いが身体に染み込んでいく。
それでも彼女は止まることなどできない。だから走り続けた。

がんっと、もう何度目かも分らない衝撃が右肩を打つ。
なんでもないコンクリートの塀に身をぶつけたのだ。
ただ真っ直ぐ走ればいいことなのに、今はそれが出来ない。
走り疲れた足と、火傷の痛みに身体がよろめく。
がんっ、がんっと、何度も何度も障害物に身をぶつけながらも、桃子は走ることを止めていない。
けれど何事にも限界はある。

「あっ……!」

ふとした拍子に、体力が限界を向かえたのか、桃子は思いっきり転倒した。
とっさに地面へと突き出した右手が、アスファルトにぶつかって擦り切れる。
そして焼きただれた左腕も、少し砂のたまった地面に触れた。

「……ッ!」

くぐもった悲鳴が漏れる。
あまりの痛みに視界が涙で滲むがなんとか耐え切って、桃子は身体を起こした。

「うう……イタタ……でも、こ……ここまで来れば……流石にもう十分っすよね」

距離は取ったはずだ。
それでも追っ手は来ない。
憂も、電撃を使う少女もいない。
逃げ切ることができたと漸く安心する。

「はは……大失敗……っすね」

桃子は路上にぺたんと座り込んだまま、渇いた笑いをこぼした。

「ステルスは完璧だったのに……」

そう桃子のステルスは完璧だった。
ナイフの攻撃を読まれていたことは初手の誤り。
けれどそこからすみやかに銃撃に作戦をシフトし、ルルーシュを殺した。
だが、そこからさらなる想定外、憂とサーシェスとの三つ巴の戦いに発展した事態。
それでも桃子はやり遂げたのだ。
あの場におけるステルスの実現、鉄火場の渦中で為した完全なる存在隠蔽。
後は戦いの終結を見送ってから一番美味しい所をさらっていくだけでよかったのに。

「なのに、あのビリビリさんめ……ッ……やっぱり……簡単にはいかないっすね……」

腕の痛みは引かない。
これ以上ないほどの敗北を桃子に突きつけている。

あの場における、桃子にとって最大の誤算とは、ルルーシュにナイフが通じなかった事ではない。
憂に認知されたことでもない。
最終的に彼女の邪魔をしたのは、自身が利用しようともくろんだサーシェスだった。
サーシェスはあの場で、憂という正面の敵を無力化した直後にも拘らず、桃子の存在を察知した。
そして見つけられないとなれば、周囲一帯、隠れられそうな場所を吹き飛ばす戦略に出たのだ。
これは憂とルルーシュを殺すついでに過ぎない事だったとは言え、結果的には最良の行動となる。
あの時、サーシェスの背後から隙あれば殺そうと狙っていた桃子は彼の挙動、つまりは背後への手榴弾投擲に完全なる不意を突かれていた。
察知がもう少し遅れていればこっぱ微塵にされていたに違いない。
それを咄嗟に安全地帯、つまりはサーシェスの足元あたりに飛び込み、九死に一生を得たものの。

「高くついた……っすよ」

代償は腕一本。
もう左腕はしばらく使い物になるまい。
まともに動かせるか以前に、激痛だけでショック死できそうだ。
得たものは逃げる際に拾ってきたディパック一つだけ。
割に合うわけがない。
桃子はどうしてこうなったのかと考えた。

「あまかったっすね……私は……」

結局は油断していたのだろう、あの少女に。
ステルスへの過信と、ただの少女の見た目とに騙されて、侮っていた。
その結果がこれだ。

「まあでも、生きているだけ、良かったって、思わなくっ……ちゃ……」

桃子は二つ持っていたデイパックの片方をあさり、水の入ったペットボトルを取り出した。
本当はアルコールの方がいいのかもしれないが、何もしないよりはマシだろう。
そう考えてキャップを外し飲み口を、突き出した左腕の上に持っていく。

「…………」

ガクガクと手が震える。恐怖に身が氷りつくようだった。
これ以上の痛みなんて在り得ないと考えていたけれど、おそらくこれからそれに直面するのだから。
桃子は覚悟と共に唾を飲み込んで。

「…………っ!!」

思い切るように、握るペットボトルを逆さにひっくり返した。
重力にに引かれて飲み口から透明な水が流れ落ちる。
その焼け爛れた皮膚の上へと――――

「――ッ!!@?$@!%?!@¥?&!%<$?!#@!?%!$#&#ァッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

引き裂かれるような叫びが夜明け前の路上に木霊した。

(痛い――痛い――痛い――!!)

その感情一色に桃子の頭は支配される。
今すぐペットボトルを放り出し、路上をのた打ち回りたい衝動を全力で殺した。
激痛に歪む視界の中で、なんとかして叫び続ける口を閉じる。

「んッぐッッッッッ!!!」

奥歯と一緒に、右の袖を潰すくらい噛み込んで悲鳴を堪えた。

(馬鹿、先輩が感じた痛みはこんなものじゃなかったはず……。私は……堪えないと……ッ)

「……ッ……ッ……ッ!」

けれど意志に関係なく、その目からはポロポロと大粒の涙が零れてしまっていた。

「………ッ……ッ……………」

結局、桃子が噛み締めた右袖を口から離すことが出来たのは、それから十数分もの時間が経ってからの事だった。

「ぷはぁっ……あっ……はぁっ……!」

離した唇から、かみ締めていた袖に掛かる糸。
それが痛みに耐え忍んだ時間の長さを物語る。

「ん、痛ぅ……」

とっくに空になっていたペットボトルを今更のように投げ捨て、
桃子は、もう涙と涎でぐちゃぐちゃになってしまっていた顔を右袖でぐしぐしと拭った。
そして救急セットを取り出し、焦げた左袖のあまりを完全に切り取った。

しばらくして、

「……行こう」

桃子は火傷に思いつく限りの処置を施した後、その呟き一つを契機に立ち上がった。
都市部の路上、一人で立つ。
夜明けが近いのだろう、空の青みが増している。
風の音が鳴っていた。けれど、他の音はしなかった。
人の声も動物の声もない。
ここには誰も居ない。東横桃子、一人だけだ。

「今はもう、私は一人だ」

呟いて、思い知る。思い出す。
本当の孤独とはこういう事なのだと。
今みたいに、
どんなに叫んでも、どんなに泣いても、誰も助けてはくれない。
誰にも気づいてはもらえない。
一人で傷つき、一人で泣いて、一人で進む。

振り返れば短いようで、長い時間だったように思う。
東横桃子は一人ではなかった。ずっと、孤独ではなかった。
ルルーシュ・ランペルージ、平沢憂、秋山澪、その他にもいろんな人たちと共にあった。
歪な関係だったり、一方通行な係わり合いだったとしても、誰かがいつも傍に居た。

けれど今度こそ、本当の『孤独』の道へと進む。

平沢憂とも、これで完全に敵同士。
ルルーシュとの関係が一方的に崩壊した今、澪が桃子と組むメリットなどもう何処にも無い。
繋がりは今、完全に途切れた。
けれどそれで良いと思っていた。

これこそが桃子にとって本来の道だから。
誰にも認知されず、繋がらず、求められない。
――孤独。
東横桃子の本来の在り方。

偶々、運命が少しだけ狂って、人と繋がっていたという、それだけのこと。

ただ元に戻るだけ。孤独な自分に戻るだけ。
今はそれでも、つまらない意地を一つだけ通せれば、それでいい。
願いを一つだけ叶えられるなら、誰にも気づかれないまま消えたっていい。

歩き出す。
自分に定められた『孤独』の道を進むために、仲間だった者には背を向ける。
まだふらつく足取りで進みながら、桃子は懐から黒い発信機を取り出して、
そこに込められた繋がりや、想いと共に、

「さよなら」

握り潰して、路上に捨てた。




狭いコックピットの中。
私は通話が切れて暫くたった後も、通信機を見つめていた。

「モモ……」

考え込むまでも無く、状況は容易く想像が付いた。
モモはどうやら私すらも出し抜いて、ルルーシュさんや憂ちゃんを殺す算段があったのだろう。
けれどそれは失敗して、やむおえずこの段階で戦い、そして怪我を負った。
そんな口ぶりだった。

「お前はホントに馬鹿だよ……」

これで彼女は切り離された。
ルルーシュさんや憂ちゃん、私、式、デュオ・マックスウェルとの繋がりから。
これからは一人で戦っていくつもりなのだろう。
彼女はそこまでの無茶をやったのだ。
どうして一人でそんなに先走ったのか、せめて私にくらい相談すれば良かったのに。
あの様子では、多分相当の深手を負っているのだろう。やっぱり自業自得だが。

「いや……でもルルーシュさん達が無事とは限らない……か」

モモは怪我を負って、逃げている様子だった。
ならば他の皆は全員死んだって事はないのだろうけど。
それでもルルーシュ一人くらいは殺したような口ぶりでも合ったのだ。

「はぁー」

自分を置いて進行していた事態に、手で顔を覆ってため息をつく。
ならば私は、どうすればいいのか。
まずはルルーシュさんに連絡を入れるのか。
と、思考をめぐらした瞬間だった。

「――うわっ!」

見つめていた通信機が再び鳴り出した。
今度は個人回線じゃない。通常の通信。
つまりは、

「……ルルーシュさん?」

『ああ、俺だ』

通信機の向こうからルルーシュの声がする。
生きていたようだ。

『今何処にいる?』

「……です」

自然と声は小さくなった、忘れかけていたが私はいま彼に黙って独断で動いていたのだ。
これではタイミング的にも、モモと共謀して動いていると思われても仕方がない。

『そうか……事情は桃子から聞いている、話し合いは必要だが別に裏切りと見たわけじゃない。
 一度、帰ってこい。これからのことについても話がある』

「そう……ですか……ありがとうございます」

『別に礼なんかいらないさ。お前がどう思って、どう動こうがお前の自由だ。俺の障害にならない限りは、好きにすればいい』

「…………」

『話は以上だ、早く帰って来い、俺達はこれから改めて廃ビルを調査した後、次の目的地にむかう。
 それまでにはお前も含めて、準備を整えなおした方が良いだろう』

「……え?」

『じゃあ切るぞ……』

「ちょっ、ちょっと! ちょっとまって」

『なんだ?』

「それだけ……なんですか……?」

『なにか問題があるのか?』

「いや、そうじゃなくて、他に何か……話す事はないんですか……?」

ルルーシュさんは暫く黙った後、合点が言ったように呟いた。

『桃子から通信があったのか?』

「………………はい」

私は少し迷った後、答える。

『そうか、あいつはなんて言っていた』

「ルルーシュさん達を裏切ったんだって、『さよなら』って、言ってました」

私は重要な情報を一つ、伏せる。
そしてルルーシュさんは、

『…………そうか、分った。また帰ったら詳しい内容も教えてくれ、それじゃあ切る』

「だから、待ってよっ!!」

どうして激昂しているのか、自分でも分らなかった。
けれど平常ではいられなかった。
敬語もかなぐり捨てるほどに、彼の言葉によって頭に血が上っていた。

「それだけじゃないだろ! なにか言うことがあるだろ! 私に説明することがあるだろ! だって、だって……!」

『桃子が裏切ったこと……か? そんなもの、お前だって帰ってくれば知れることだったろう?
 それにお前はそもそも知っていたのだろう? それを、今わざわざ俺が話してなんになる? 
 時間の無駄だ。いいか、澪。状況は俺達を待ってはくれない。いったいあと何人が生き残っている?
 あと何人の敵が残っている?分らない以上は行動を続けるしかないんだ。
 ここで費やす一分一秒が俺達の生死を決めるかもしれない』

「…………」

私は黙らされた。一瞬で。

『お前にこんな事を言うのは酷だと分っている。だが理解しろ、中途半端に感情を動かすのは止めにしろ』

彼の言葉は正しい。
私なんかよりよっぽど場数を踏んでいる、経験者の声。

「俺にはこの瞬間にもやらなくちゃならない事がある。それはお前に事の次第を説明することじゃない。
 状況は常に急を要するんだ。瑣事に囚われている暇はない」

その通り、私は確かにまだまだ中途半端な気持ちで動いている。
けれど、ちょっと待ってほしい。

「瑣事……だって?」

「ああ、アイツの裏切りはもう既に終わったことだ。今考える事はこれからの……」

彼の言葉が耳から遠のいていく。
どうしてこんなにも気が立っているのか、やっぱり自分でも分らない。
けれども、どうしても、その言葉は流せない。
瑣事、終わったこと、そんな簡単に、割り切れるのかこの男は。

別に東横桃子に対して、深い思い入れが在った訳じゃない。
むしろ怖くて、敵に回したくない存在、良い印象なんかほとんど持っていなかった。
けれど、理解はできた。
彼女のことは知らない。理由も、理屈も、私はあえて聞かなかった。
だけど、彼女が何かのために戦っているってことは理解できた。
それは私も一緒だから、思いの量や質に違いがあろうと関係なくて。
少し怖かったけど、それでも彼女が何かのために一生懸命になっている。
それが伝わってきたから、私は彼女と同盟を結ぶことを決めたのだ。

だけど、この男はなんだ?
つい先程まで、仲間と呼んでいた者の裏切りを、『瑣末』の一言で本気で流してしまえる彼。
私はルルーシュという男が理解できない。彼もまた何かのために戦っている、のだろう。
けれど彼は私や東横桃子とは違う。あまりにも、理性が感情を超越しすぎている。
考えの規模が、大きすぎて理解出来ない。背負うもの、抱えるものが違いすぎるのか。
私やモモのような俗っぽい願いとは違う、途方もない物を彼に感じる。
ルルーシュが時折みせる鋭く狡猾な一面、その更に裏側に潜むものに、私はいま直面しているのかもしれない。

それはなんだか、今の平沢憂から感じるものに少し似ている、ような気がした。

「わかりました」

ろくに言葉も受け取らないまま、私はそう言って会話を終わらせる。

「でも最後に一つだけ教えてください。誰が死んで、誰が生き残ったのか。それだけで良いから」

『……デュオ・マックスウェルが死んだ。損害はそれだけだ』

「……わかりました、すぐにそっちに戻ります」

その言葉を最後に通信が切れた。

同時に、私はようやく操縦桿を握りなおす。
慎重に慎重に、機体を起き上がらせていく。
かかる重力を意識しながら、私は情報を纏めるべく思考を働かせた。

ひとまず、私は裏切り者に為らなくて済んだらしい。
そして今回の一件、死んだのはデュオ・マックスウェルただ一人だけ。
同盟相手だった東横桃子は一人で勝手に裏切り、逃走した。
ルルーシュも私も生きている。
そしてある意味で最も気にかかっていた部分。
憂ちゃんは無事だった。
黒の騎士団はまだ続いている。

「それじゃあ。行こう……か」

今はもう、欺瞞は挟まないと決めていた。
言い訳はしない。
私は私が目的を達成するために進む道を、手段を行使するだけだ。


だから、

「さよなら」

私はここで、別の道を歩むことになる彼女に別れを告げて。

機動兵器の操縦を再開した。




「さてさて、どーしますかね。これから」

風呂上りのアリー・アル・サーシェスは頭を拭きながら、新たに着る服を選んでいた。
血糊を落とし、身体の怪我に一応の処置を済ませる。

「まあここはそれなりに快適みてぇだし、武器も揃ってる。ルルーシュとか言うやつの人間性も嫌いじゃねえ……俺むきの空間だ……」

怪我のチャックが終われば、デバイスの画面も確認する。

「それに殺されてねえ以上は、大将からもある程度信用されてるって事なんだろうし……っと」

そこに新たな指令は……あった。

「ふむ」

形態は通話ではなく、メールだった。
考えるまでも無く『あちら側』からのモノだろう。

「『そのまま集団に溶け込む事を推奨する。首輪の解除、主催者への対抗に関しても特別妨害の必要なし、協力も許す。好きに利用せよ。
  当初の目的を忘れなければそれでいい。追って連絡する』
 ……ねぇ。大将も相変わらずだな」

解せない。
あくまでも『あちら側』であり、必ずしもこれがリボンズの指令とは言い切れないが、それにしても妙な話だった。

「まるで優勝を目指しつつも、奴等を助けろと暗に言ってるような感じだな」

いやそもそも、と。サーシェスは思い至る。

「なんで大将は俺にコイツを残したのかねぇ……」

首もとに触れながら呟いた。
そこに嵌められた首輪を触りながら一人ごちる。

「こんなもん無かろうと、俺が大将の意に従うなんざ分りきった事だと思うんだが。
 何でわざわざ鎖をつける真似なんかした? まさか俺に首輪を解除しろってんでもなかろ……う……に……?」

そこで言葉が途切れる。

「あー……あー……なる……ほど……それもあり……か……面白れぇ……! やっぱ面白れぇよな、この戦争はよぉ!」

ややあって何かを察したように。
相変わらずの歪んだ笑みを少女の頬に浮かべながら、サーシェスは着る服を決めた。







三ノ章:誓いと嘘―――了





【D-1 廃ビル前(ホバーベース内)/二日目/早朝】




【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:左頬に湿布、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身状態、
    右腹部に傷(治療済み)、
[服装]:全裸にタオル、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(6/7)@現実、予備マガジン×1、接着式投擲爆弾×2@機動戦士ガンダム00 COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(0/1/)発/予備40・9発)@現実
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録 、パーシヴァルの機動キー@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
0:さわ子のコスプレセット@けいおん! から服を物色中。
1:ひとまずこの集団に属して立ち回る。
2:好きなように動く。
3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
4:上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
5:影の薄い女にはきっちりとお礼をする。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
 情報収集のためにデュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
衛宮士郎は死んでいる可能性が高いと考えています。
※体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能
※ギアス『知っている事を全て話せ』(発動済み)



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288:GEASS;HEAD END 『死神』 東横桃子 288:GEASS;HEAD END 『再開』
288:GEASS;HEAD END 『死神』 アリー・アル・サーシェス :[[]]
288:GEASS;HEAD END 『死神』 ルルーシュ・ランペルージ 288:GEASS;HEAD END 『再開』
288:GEASS;HEAD END 『死神』 秋山澪 288:GEASS;HEAD END 『再開』


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最終更新:2011年08月04日 10:30