GEASS;HEAD END 『再開』 ◆hqt46RawAo



「さて、次だな」

耳からイヤホンを外し、ルルーシュは意識を内側に傾ける。
たったいま秋山澪に言ったとおり、状況は動き続けているのだ。のんびりしている暇はない。
次の行動、次の次の行動、そしてさらに次まで見据えて行かなければ。

「でもこれで、ほんとうに大丈夫なんですか?」

小さな手が、そんな彼の頭にさわさわと触れる。
平沢憂の手だ。
ホバーベースの一室にて、ルルーシュは彼女から手当てを受けていた。

「大丈夫だ、問題ない」

ベッドに腰を掛け、その後ろから憂がベッドの上で救急箱を開いている。
頭の後ろで小さな手が包帯を結ぶ。それに身を任せていた。

「でも……」
「どちらにせよ、これ以上ここで出来ることはないさ。そうだろう?」
「確かに、でも――」
「そんなことより、これからのことだ」

遮るように言った言葉に、憂は口をつぐみ、緊張する。
仲間を同時に二人も失い。
敵が一人増えてしまった現状からどう動くのか、彼女も不満に思っていたのだろう。

「もうすぐ放送だ。それまでにもう一度廃ビルの調査に向かう。
 放送にあわせて自販機に追加される商品があれば、購入を検討する。サザーランドよりも上位機があれば確保しておきたい。
 デュオのディパックにあったペリカは桃子に奪われているが、俺の所持するペリカは無事だ。
 まあ確かにセイバーの首輪の損失は痛い。とは言え、それ以外の首輪の価値はこちらの所持分が大きいだろう。
 中でも、象の像で返金したキャスターの首輪分は大きい、何か有用なものが在れば購入出来る」
「……そう、ですか」

結果、会話は強引に途切れた。
しかし憂は取り繕うように、再び口を開く。

「ルルーシュさん、上位機体って、どんなのがあるんですか?」

「欲を言えば紅蓮、ランスロット、せめて月下あたりがあれば戦力は大幅に上昇するだろう。
 どれもお前の腕ならそれなりに乗りこなせるはずだ……」

「あ、紅蓮って知ってますよあの赤いやつですよね……カタログに書いてありました……」

「ああ、それで正解だ」

「……」

「……」


また、会話が途切れる。
慌てるように、何かを恐れるように、
憂は話し続けた。

「あ、あの……澪さんが帰ってきたら、私、朝ごはん作りましょうか……?」

「料理できるのか?」

「はい、食材は十分ありますし。これでも私、毎日お弁当作ったりしてましたから」

「そうか、そうだな、時間に余裕さえあれば……。ははっ……まともな食事なんて、もう何年も食べてない心地だよ……」

「じ、じゃあ私、がんばりますね!」

「相変わらず、気の早い奴だな……」

少しだけ明るくなった憂の口調に、ルルーシュは目を細めた。

「とりあえず包帯、巻けましたよ。どうですか?」

そのまま、身体が傾いていく。

「……きゃ!? ちょっとルルーシュさん!? どうしたんですか急にっ」

ベッドの上に仰向けに倒れた。
正確には平沢憂の膝の上に、
ポフリと音を立てて、頭が落下する。

「いや、すまない。ちょっと朦朧としているだけだ、少し休めば収まる」

「…………」

「大丈夫だといったろ。お前は……そうだな……早く食事の準備でもしてこい。俺は腹が減った」

「そうなんですか?」

「ああ腹ペコなんだ、なにか腹に入れないと立ち上がれそうにない、だから頼む。
 ……元はと言えばお前が食事の話なんかするからだろう」

「わ、分りました。ルルーシュさんがそんなに言うのなら……お料理の道具とか、材料とか、ちょっと見てきます」

そう言って、憂はルルーシュの頭から優しく膝を抜いて、立ち上がる。
けれど部屋から出て行く前に、不安そうに振り返った。

「だから……帰ってきたら死んでたり、しないでくださいよ」

「馬鹿を言うな。こんな所で死ねるか、まだまだやることが山積みなんだから……な」

「うん、それじゃあ、行ってきます。えっと、楽しみにしていてくださいね」

部屋から出て行く憂の姿を、ルルーシュは薄く開いた目で見送った。
原初の頃、彼が最も守りたかったものを、もう一度そこに重ねてみる。

――あの後、あの悲しみの後で。

彼女は少しでも、明るい笑顔を取り戻せただろうか?
少しでも、歩けるようにはなるのだろうか?
今は、どうしているのだろうか?
彼女は幸せに、なれるのだろうか?

気が付けば彼は、世界を背負っていた。
気が付けば世界を変えたいと願った。
そして、気が付けばそれを現実にしていた。
けれど最初はただ、彼女を守りたいと。
唯一の家族に、幸せに生きて欲しいと願った事こそが始まりだった。

「……は」

自嘲の笑みを浮かべる。
なにが感傷だ。なにが優しさだ。
どうせ、偽物。
その言葉も、信頼も、笑顔も、全てが贋物。
うそつきのくせに。
最後まで欺き通して果てた男のくせに。
今更優しいフリなど許されない。

世界に嘘をついたのだから、最後まで、その嘘を突き通せと。

最後の言葉まで嘘であれよ、と。

彼は自分を嘲笑う。

「…………悪いな……憂……」

そうして、彼は瞳を閉じた。

闇に落ちる。
心地よい闇に落ちる。
それはおそらく、浸れば二度と戻れないであろう場所だ。

けれど、どこか救われるような思いで、ルルーシュ・ランペルージはその終わり(死)に身を委ねた。

















「――駄目ですよ」

だがそれは、少女の声によって止められた。

「…………ぁ…………?」

「駄目ですよ……そんなの……絶対に許さない……!」

閉じきろうとしていた目を、僅かに開く。

「…………憂……」

ぼやけた視界。
そこに彼女がいた。
先程、部屋を出て行ったはずの憂が、目の前にいる。
泣きながら、ルルーシュの顔を覗き込んでいた。

「お前、戻って…………?」

「言ったじゃないですか……大丈夫って……言ったじゃないですか……!」

「なに言ってるんだ……俺は……大丈夫だ……少し寝れば――」

「うそつきッ!」

「…………」

黙る。
涙を零しながらぶつけられる、少女の声には何故だか抵抗できない凄みがあった。
反論できない何かが在った。

「ルルーシュさんはうそつきだ……! そのくらい私にだって分りますよ。 でも今は……ぜんぜん騙せてませんよ!
 もう生きる気なんか無いくせに……。ここで寝たら……もう起きるつもりなんか無いくせに……!」

何もいえない、できない、誤魔化せない、強さがあった。

「私を助けるつもりなんか、無いくせにッ!」

糾弾と共に、憂は嘘の涙を流し続ける。
ルルーシュと同じように、ルルーシュのためではない。
誰かの代わりの涙を零す。
本来、違う誰かのために零されるモノを――違う誰かのための感情を零していた。

「……俺は……」

その表情に、何故だか頭が冷えていく。
脳内を漂っていた霞が、急激に晴れていくようだった。

「ねえ、起きてくださいよ……。命令してくださいよ。もう一度……何度でも……嘘……ついてくださいよ……。
 私を騙すなら……最後まで騙し続けて……。
 生きて……こんな世界から早く出て……それでまた、元の世界に帰るまで……」

頬に落ちる涙の一滴一滴が、淀んだ意志を浄化する。

「……私を……騙し続けてくださいよ……」

もう一度、原初の思いを振り返る。
己はそもそも、誰かにそんな顔をしてほしくなかったから、戦おうと決めたのではなかったか。
そんな涙を強いる、世界をぶち壊してやりたかったから、立ち上がったのではなかったか。

「もう一度だけ……聞かせてください……。
 ……ルルーシュさん……本当に……これで終わりなんですか……?
 本当に……全部……嘘……だったんですか……?」

「俺は――」

まだ、何もしていない。何も成し遂げていない。
十分な準備はしたと思う。
だがその結末を、己はまだ見ていないのだ。
なのに己は何をしているのか。
こんな所で、のうのうと寝ている場合か。

「そんな訳が……」

死んでいられれるか。
投げ出そうというのか。

『絶対に……無駄にすんじゃねえぞ……俺達を……!』

無駄にしないという誓いすらも、やり遂げるまでは生きるという約束すらも、嘘にしてしまうのか。

「そんな訳が――ないだろうッ!」

腕を伸ばす。
眠気などもう無い。
ここで立ち止まれば、きっと永遠に動けない。
今は次に進むのだ。進まなければならないのだ。

「手を、貸せ……!」

「……………………ぁ」

最後まで、見届けよう。

「手を貸せ、憂。しばらくは、まともに歩けないだろうが、お前が支えろ。
 残念だが朝飯は後回しだ。
 すぐにでもサーシェスを連れて廃ビルに向かうぞ!」

「……ほんとに……」

「くどいぞ。俺は二度も言わない、そんな手間は惜しい。さっさと準備を開始しろ」

「……ぁぁ……!」

この命尽きるまで、戦い続けよう。
それまでは、立ち止まることなど無い。
安らかに眠ることなど、ありえない。

「……は……はぃ…………はい! ルルーシュさんッ!」

まだ泣き笑いの憂が、手を握る。

その手を、ルルーシュはしっかりと握り返して。

「行くぞ……憂……新生黒の騎士団、行動開始だ……!」

宣言と共に、その身を死地から引き起こした。




そして、




時を同じくして、発信機からの反応がまた一つ消える。









【D-1 廃ビル前(ホバーベース内)/二日目/早朝】


【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(中)、右腕の骨折、頭部に裂傷(処置済み)
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス 、頭部の包帯
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、4億8500万ペリカ、盗聴機×7、発信機×5@現地制作、通信機×5@コードギアス、首輪×2(ヴァン張五飛
    単三電池×大量@現実、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
    荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、和泉守兼定@現実、バトルロワイアル観光ガイド
    鏡×大量、消化器、ロープ、不明支給品(0~1) デュオの装備(フェイファー・ツェリザカ(弾数2/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
    BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2)
[思考]
 基本:枢木スザクは何としても生還させる。
 1:廃ビルの施設を調査する。
 2:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
 3:殺しも厭わない。憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。
 5:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい。
 6:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する。
 7:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
 8:象の像は慎重に調べる。
 9:織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
 10:両儀式を警戒。主催者側の魔術師である荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
 11:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
 12:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
 13:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
 14:サーシェスを上手く利用する。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
 デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い、及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
 (どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手氏にお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める、イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※盗聴器を一つ、E-2の橋に仕掛けました。
※パソコンで、メールソフト、バトルロワイアルサポート窓口の利用が可能になりました。
※揚陸艇は船着場に繋留したままです。(燃料…残り7キロ分)
※【象の像】で警備ロボットを一台購入しました。
※サーシェスからリボンズの情報を得ました。

【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
    S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(4/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
    皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@現実
    鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×44、さわ子のコスプレセット@けいおん!
[思考]
 基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
 1:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
 2:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
 3:阿良々木さんはブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
 4:東横桃子は敵と見なす。
 5:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
 6:思いを捨てた事への無自覚な後悔。お姉ちゃんは私の――。
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。






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■ 『終章:SILENT SKY』 ■






ガクガク震える足を動かして。
白みがかってもう役に立たない視界の中を、手探りで進みました。

誰もいない道を、私は歩き続けています。
ここはいったい何処なのでしょうか?
もうまともに物が見えない視界には判断がつきません。
多分、まだ都市部を南下してる最中だと思うんすけど……。
まともに働かない目と頭では、自分の立ち位置すらあやふやでした。

「………ぅ……ぁ」

もう随分と長い距離を歩いているような、そんな気がします。
そろそろ目的が見えても良いだろう、とも。
だけどなかなか、辿り着けないっすね。
思えば時間の感覚も曖昧で、なんだか頭もズキズキ痛くて。
耳もまともに働いているかどうか。

あと疲れがピークにきているのか、それとも負った怪我の影響なのか。
さっきから頭痛が収まりません。
それに凄く、熱い。
身体が燃えているように火照っていて、汗がだらだらと流れて。
今すぐ座り込みたい衝動でいっぱいっす。

だけど、私は進まないとだめっすよ。
ここで立ち止まったら、もう二度と歩けなくなるような気がするから。

「……ぁ……」

瞳には誰も映らない。誰も助けてはくれません。
でもそれは当たり前の事、これが私の道っすから。
誰もいない、誰にも求められない、誰も求めない。
それが東横桃子の起源であり、人生。
でも、一つだけ、求めるものが在るとすれば……。

『……モモ……』

そう私を呼んでくれる、貴女だけ。

貴女のために、そして自分の為に、私は孤独の道を行く。
矛盾しているみたいっすけど。
私にはこのやり方が一番むいているから。
全部捨てて、一人になって、でも一つだけは絶対に手放さない。

「……せんぱい……先輩」

私は抱え込む。

「先輩に、会いたいよ……」

何があっても、この思いだけは――

『……モモ』

なんでしょうか、さっきから貴女の声が聞こえるような気がします。
役に立たない私の耳、ノイズだらけの聴覚の中で、私を呼ぶ声。
これは、幻聴っすかね?

「――モモ!」

ああでも、聞こえる。なら、行かないと。
萎えかけていた足に力が戻るような、錯覚っす。
今の私を求める声があるならば、それは貴女に違いないから。
この道の先には貴女がいる。
そいういうことっすよね? 先輩。

「……ぃ」

だったら、私は行かないと。

「せんぱい」

苦しくても、辛くても、行かなくちゃ。

「……せんぱい……先輩……っ」

必死に足を動かして、声のした方向に走りました。
何も見えないし聞こえないけれど、僅かに聞こえる声を頼りに私は。
歪んだ視界の中に、一つの影を捉えて。

「……せん……ぱい……」

きっと触れたら消えてしまうのだろう貴女の影に、
私は触れてしまって。
そしたら、もう耐え切れなくなってしまいました。
ありえない筈の感情が、私の中の一番弱い感情が、激流のように溢れ出してきて。

「先輩っ!」

求め続けた貴女にしがみつくように、私は、幸せな夢を抱きしめました。
堰を切ったように流れ出す涙と、言葉を吐き出しながら。

「せんぱい……私は……もう……」



ショッピングセンター前に機体を止めた後。
制服に着替えながら待てども待てども、待ち人が来なかったので、
私――秋山澪は待ち人――東横桃子を探して、都市部を見回っていたのだが。

「いや……っすよ……」

やっと見つけるなり、唐突に抱きついてきた彼女に私は、一言で言えば驚いていた。

「モモ、お、お前……」

「もう嫌……っすよ。……痛いのも、苦しいのも、誰かを殺すのも……」

「お前どうし……」

モモの身体はボロボロだった。
いったいどんな怪我をしたのか、左腕は肩に至るまで包帯でグルグル巻きになっている。
右の肩も同様に血の染み込んだ包帯に覆われ、
ここにたどり着くまでにも何度か体をぶつけたのだろう、擦り傷が各所に見つけられた。
けれどそんな、悲惨な様相よりも。

「ホントはもう……嫌っすよ……殺すのも、殺されるのも。
 怖くて、怖くて……痛くて……。
 誰もいないのに、先輩はもういないのに……私がしっかりしなくちゃいけないのに……」

彼女の告白に驚いていた。
泣きながら紡がれる彼女の弱音に。
どうやら、私を誰かと間違えているようだけど。

「でも……もう……こんなのは……もう……いやっすよぉ……。
 帰りたい……こんな所……もう一秒だっていたくない……。
 逃げて……しまいたいっす……何もかも放り出して……それで……それで全部終わりに出来たら…………」

これはもう、ただの泣き言だった。
あの時、学校で見た彼女からは考えられない。
弱い、東横桃子の言葉。

「ごめんなさい。こんな事、言っちゃ駄目って分ってるんすよ。
 私には言う資格もない。分かってるっす。
 だけど、先輩を見たら……どうしても抑えられなくなって……。ごめん……なさい……」

私の胸元に押し付けられる彼女の顔色は、伺えないけれど。
背中に回された、腕の力がよりいっそう強くなる。
離したくないと、離れたくないと。
求めるように、縋るように。

「……っ」

その感触に、私は凄く居心地の悪い気分になった。
罪悪感に近い何かが、胸の奥で渦巻いている。
私はいま、多分、聞いてはならない言葉を聞いているのだ。
見てはならない姿を見てしまっているのだ。
東横桃子が決して人に見せようとしなかったもの、
彼女が胸の内に抱える、侵してはならない領域を覗いてしまっている。
だけど私は……その悲痛な声を、どうしても振り払えなくて。
暫く、そのまま固まってしまっていた。

「……ごめん、なさい……私……がんばるっす。
 もう一度先輩に会うために、がんばるっすよ。だから……」

だからもう少しだけでいい、この夢の中に居させてほしいと、最後にモモは言って。


「…………………………」


そして私に全体重を預け、彼女は眠りに落ちていった。



「あーあ、やれやれ」

そして私はため息混じりに、

「出だしから、まいったな」

さっそく、失敗したな、と思い始めている。

だけど、そんなふうに自分に呆れつつも、私はこの選択を後悔してはいなかった。
作戦なんかじゃない、情なんかじゃない。
ただの打算ですらない、感情で私はこの選択をした。
けれどその感情に今度こそ欺瞞はないと言い切れる
私は私に嘘はなく、こうしないと進めないから選んだ道なのだから。

ルルーシュ・ランペルージは正体の分らないもの。
平沢憂は何かを捨てた者
私は彼女達と共には戦えない。

モモの今の告白は、まあ聞かなかったことにしようと思うけど。
でも、今のでより確信できた。

東横桃子は抱え込む者。
捨ててなんか、いない。
心の内の奥の奥に、ただ一つ大切な思いを抱えている。

だから私が共に戦うとすれば、きっと彼女の方がむいている。
そもそも私は騙し騙されとか似合っていないのだ。
策を巡らしたりとか、蝙蝠の様な身の振りとか、そんな事を上手くやるには圧倒的に器用さが欠けている。
私はもっとシンプルなほうがいい。
それが例え、脆くて愚かな行為だろうと、今はこうしたいんだ。

「よいしょ……っと」

モモを背負い、ショッピングセンターへと歩き出す。

ああ重い。だけどこれがなくては、きっと私は駄目なのだ。
確かに今、立っていると安心するために。そして目指すものへと進むために。
私は憂ちゃんのように、捨てたいとは思わない。モモのように、抱え込むことも似ているけど少し違う。
私は、背負っていきたい。
秋山澪は背負う者として生きたい。
全ての思いも、罪も、重さを感じながら共に進む。

例えいつか、この思いに潰されそうになっても、私は立ち続けてみせる。
進み続けてみせるから。


歩みだした拍子。
ポトリと、私のポケットから何かが落ちる。
それはここに来る前に握りつぶしたかつての発信機、そして今はもう、ただの屑鉄だった。

構わず進もうとして、ふと熱を感じて視線を上に向ける。

「夜明け……か」

見上げた空はただ静かに。
昇る太陽が二人の裏切りを照らしていた。





終章:裏切りの朝焼け―――了




【E-1 ショッピングセンター/二日目/早朝】

【秋山澪@けいおん!】
[状態]:両頬に刀傷、全身に擦り傷
[服装]:制服
[装備]:田井中律のドラムスティック
[道具]:基本支給品一式×3、千石撫子の支給品0~1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
    法の書@とある魔術の禁書目録、モンキーレンチ@現実、龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
    桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、軽音楽部のティーセット、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
    ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)、ナイフ、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、中務正宗@現実、ランタン@現実
    福路美穂子のディパック(折れた片倉小十郎の日本刀、支給品一式*2、包帯×4巻、999万ペリカ ジーンズとワイシャツその他下着等の着衣@現実
    伊達政宗の首輪は使用済み、お釣りペリカの量は不明)
[思考]
 基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
 1:ショッピングセンターに入る。
 2:自分の目的を果たす。
 3:軽音部全員を救う方法を探し、見つけ次第実行する。 手段を選ぶつもりはない。
 4:機動兵器を乗りこなせるようにする。
 5:一方通行を警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
 6:蒼崎橙子……一体何がしたいんだろう?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です。
※エスポワール会議に参加しました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。

※ショッピングセンター付近に、新規に購入したナイトメアフレーム(ヴィンセント)が止めてあります。



【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:気絶、疲労(大)、右肩口に裂傷(応急処置済み)、左腕に大火傷(応急処置済み)、右頬に切り傷
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数14/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)、パソコン
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
    小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機×2@コードギアス
    死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実
    デュオ・マックスウェルのディパック(基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、五億ペリカ
    首輪×4(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久)、手榴弾@現実×10 桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
    ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
    ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1) )
[思考]
 基本:加治木ゆみを蘇生させる。もう、人を殺すことを厭わない
 1:…………先輩。
 2:この道を進み、優勝する。
 3:浅上藤乃を許す事は出来ない。
 4:あらゆるファクターを利用して効率よく殺し合いを加速させる。
 5:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
 6:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
※なんらかのギアスを仕込まれました。(現在未発動)
























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288:GEASS;HEAD END 『孤独』 東横桃子 :[[]]
288:GEASS;HEAD END 『死神』 平沢憂 :[[]]
288:GEASS;HEAD END 『孤独』 ルルーシュ・ランペルージ :[[]]
288:GEASS;HEAD END 『孤独』 秋山澪 :[[]]


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最終更新:2011年08月04日 10:26