Vince McMahon ◆55555IZOcs




 かつて『帝愛』グループのNO.2と言っても過言では無かった優秀な男。
 だがその地位も『伊藤開司』と呼ばれるクズの象徴なような男にまさかの惜敗。
 結果彼はその責任として地獄のような熱さを持つ鉄板の上での土下座刑を執行、完遂し、
 自分自身もクズになれ果て、地の底に這いずることになってしまった。

 そんな地の底に落ちた彼を待っていたものは、『殺し合い』と呼称されるイベントであった。
 帝愛に長らく勤め仕えてきたが、それは始めて聞いた言葉だった。

 たしかに人の生きる道とは、知恵を巡らし、同僚の列からいち早く抜け駆け、上位にいる人間を突き飛ばし頂点に上っていく
 ある意味殺し合いとも言えなくもない。
 だが、あの帝愛の社員と思われる遠藤の言った『殺し合い』は、まさに読んで字の如く、そのままの意味ッ……!
 即ち生命の奪い合い……例えるなら白亜紀やジュラ紀の恐竜の世界……!
 弱肉強食っ……! 小動物がどんなに知恵を巡らしても、罠を仕掛けていても、
 どうしようもないくらい巨大な猛獣に襲われれば……無意味……!
 言わばこの殺し合いは謀略ではなく最終的にものを言うのは暴力ッ……!
 圧倒的な理不尽な力……!

 その理不尽な力は、既に利根川自身も経験している。
 簡単のことだ、焼土下座をしてまだ数時間も経っていない頃だと言うのに、
 頭部や手足の火傷は全て消えている。
 そもそも自分がいきなりあのわけのわからぬ小部屋にいたこと自体が不思議すぎることだった。

 そう言えば『《金》で《魔法》を買った』と言っていたことを思い出す。
 つまりそれはこう言うことなのであろう。

 しかしそこで利根川は気づいてしまう。
 帝愛が、自分が身を粉にしてまで働いたその帝愛が、
 利根川幸雄と言う人間が将来的に伊藤開司と呼ばれる人間に敗れてしまう未来を
 魔法で予知していた可能性が十分に考えられるということをである。
 だから自分には『殺し合い』に関する情報も
 『魔法』のことも、そしてペリカのレートが変化していることを伝えなったのだ。
 どうせクズになる人間にそんなことを教えても無意味だからと。

 そう考察した利根川は……全てが……嫌になった……



 ■



 時計の秒針が幾度12を指した頃であろうか
 利根川はB-6に存在するギャンブル船の内部にある
 とんでもなく豪華なスウィートルームにいた。
 そこで彼は……

「ハグハグッ…… ゴクゴクッ…… ゴックン…… プハッー……!」

 一人高級なワイン瓶片手に、寿司を喰らっていた。
 殺し合いと呼ばれる出来事で初っ端からこれは暴挙の見本のようなものである。
 だが、彼は自分のやっていることを重々承知しつつ、暴飲暴食に励んでいるのである。

 利根川は思う。
 一度ドブに落ちた犬は、引き上げられずに沈められる。
 絶望を越えた先にあるものはもっと過酷な絶望。
 それが勝負、いや人生だというものだ。
 例え這い上がったとしても、その絶望を越えたとしても、待っているのは
 犬など片手で軽く捻り潰してしまう怪獣。 極上の絶望。

 利根川は理解したのだ、帝愛にとって自分はもう粗大ごみと変わらないということを。
 たぶんこの殺し合いに参加させたのは
『折角だからクズになった利根川君に最後のチャンスをあげよう』
 などと言う帝愛お得意の悪趣味からであろう。
 確かに利根川も一時は、自分の名誉挽回のために優勝を目指すかと考えた、
 だが『《金》で《魔法》を買った』と言う言葉。
 この言葉が彼を動かすことを遮断させた。
 焼土下座で全身焼け焦がれた体が、五体満足で実存している。
 これは先述した通り『魔法』がこの世に存在すると証明する十分な理由であった。
 現代の医学がかなり進歩しているとは言え、人の手を借りなければ立つことも出来なかった自分の体を、
 数時間足らずで回復する術などこの世にはまだ存在していない。

 そしてこの戦場にはそれに順ずる異能力を持っている参加者が幾つも参戦していると考える。
 当然だ、首輪のような反逆をさせないための処置のがあるということは、
 首輪さえ無ければ、いとも簡単にこの場所を焼け野原出来てしまうということを証明させてくれる。

 それに比べて自分はどうだ? 自分は少しばかり頭が働くだけで後はただの初老の一般人と同じ。
 殺し合いに乗った所で自分は手早く食い物にされることはもう言わずもがなだ。

 逆にこの殺し合いに反逆すると言うのも考えたが、
 まず不可能であろう。
 相手は闇の企業の象徴と言ってもよい帝愛。
 さらに今回は理不尽な力、『魔法』まで所持している、まさに鬼に金棒ッ……!
 そんな相手に立ち向かえるはずが無い。
 進むことも退くことも出来ない状況、所謂生殺し。
 蛇に睨まれた蛙と同じだと結論を出した。

 だから利根川は、主催から配られたバッグの中に入っていた
 高級なワインと高級寿司で最後の晩餐をしていたのだ。
 どうせ死んじまうんだ。 帝愛は自分に死ねと命令を下しているんだ。
 だったら最後に欲求の一つを解消してもいいだろう。
 だから飲む……! 食う……! 高級ワインをッ……! 特上寿司をッ……!
 それが最後の晩餐だからうまさ倍増……格別ッ……! 僥倖ッ……! これは僥倖……!



 いくらか暴飲暴食を繰り返した頃であろうか。
 利根川はすっかり酒で酔っぱらっていた。
 そうして最後の晩餐を堪能し終えたのか、
 彼は一旦深呼吸をして呼吸を整え椅子から千鳥足で
 部屋にある豪華なベッドへと向かう。
 ここで一睡しても何も問題なかろう。
 どうせ遅かれ早かれ死ぬ、
 だったら眠っている最中に殺してくれと一思いに願いベッドへ飛び込む。
 利根川は最後に「もうどうにでもなれ……」と一言呟き、意識を失った。


【B-6/ギャンブル船内 スウィートルーム/一日目/深夜】
【利根川幸雄@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康 睡眠中 酩酊 自暴自棄
[服装]:スーツ
[装備]:シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)@現実
[道具]:基本支給品一式、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)@現実×31本
   :特上寿司@現実×63人前 不明支給品0~1
[思考]
1:もうどうにでもなれ……zzz……

※魔法や理不尽な力が当然にあると理解しました。
※参戦時期は焼土下座終了以降

支給品解説
【シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)@現実】
 エレガントな香りが特徴の赤ワイン。
 現在の価値で最低でも500万円以上。
 相場によっては1000万円も下らない時もある。

【特上寿司@現実】
 とっても美味い寿司。
 築地市場協力。


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000:オープニング――《開会式》 利根川幸雄 039:人生逆転ゲーム


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最終更新:2009年11月02日 03:37