最強証明―― ◆rfP3FMl5Rc



最強たれと彼らは願われた。
最強であることを彼らの小さき主達は喜んだ。
彼らは覚えている。
己が主がかけてくれた言葉を、残していった想いを。
故にこそ、彼らが為すべき事は決まっていた。



Stage:F-1エリア中央部さる駐車場



「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」

襲い来るはサーヴァントバーサーカー。
使い魔の一種に身をやつしてはいるが、その正体はギリシャの大英雄ヘラクレス。
理性を奪われ狂戦士へと堕とされた彼にはかって知恵と勇気を振り絞り神が課した数多の試練を突破した英雄の面影は残っていない。
代わりに2メートル半の鉛色の巨体に詰められしは全てを壊し尽くせと蠢く狂気。
根底にあるのはマスターたるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの元へと戻り護らんとする強い意思。

「……………………………………ッ!!!!」

迎え撃つは戦国最強本多忠勝
群雄割拠の戦国時代において最強と謳われた実力者。
3メートルにも届く鋼鉄の鎧武者が背負いしは葵の紋と主君の願い。
争いのない平和な世の為、盟友と共に民を護り、打倒織田信長、誅せよ非道なりし帝愛グループ!
それこそが謀略に倒れ、真に東照大権現として天へと帰った亡き主への最大の手向け。

決して道を交えることの無い二つの最強が武器を交え、吼え叫ぶ。
歩くだけで地を揺るがし、走るものなら地盤を砕く巨人同士の戦いは壮絶なものだった。

一合――大地が割れ
 二合――住居が薙ぎ払われ
  三合――大気がひしゃげ果て
   四号――夜天が悲鳴を上げる

バーサーカーが握りしは只人なら数人がかりでも持ち上げることすら叶わない大戦斧。
軍配を模したそれはかの甲斐の虎が得物なり。
武田信玄の超人的な力量を受け止めえる大戦斧は大英雄をして不足は無い武具だった。

大きさならば一方の本多忠勝が手にせし物も負けてはいない。
いや、そもそもそれは人の為に鍛えられた鋼ではなかった。
対ナイトメア戦闘用大型ランス。
機動兵器としては小柄とはいえ全項4メートルを超える機体用の槍を、あろうことか本多忠勝は片脇に抱え込んでいた。


「……………………………………ッ!!!!」

横薙ぎ、一閃。
本多忠勝がバーサーカーを跳ね除け、大きく距離を取る。
この戦いにおいては牽制程度にしかならない威力だったが、常人からすれば衝撃波と巻き起こる砕けたアスファルトの散弾だけでミンチになりかねない。
周囲に誰もいなかったのはバーサーカーにとっては不運であり、本多忠勝には幸運であった。
けれど、その幸運にいつまでも甘えてはいられない。
戦い始めたのが開けた場所だから良かったものを、このまま近くに見えている構造物へと突っ込めばどれだけの犠牲が出るか。
家内で隠れ震えている力無き民もいることだろう。
彼らを巻き込むことだけはあってならない。
本多忠勝は早期に決着をつけるべく、葵の門の刻まれた背部機関よりフレアを吹かしランスを突き出し疾走するっ!

「……………………………………ッ!!!!」

10丈もの距離を刹那に詰める速度での突撃。
3メートルにも至る巨体を砲丸としての一撃は刺突などという言葉では生温い。
――貫き穿つ
そうとしか形容できない必殺の刃は

「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」

標的へ届くことなく中空で前進を遮られる!
バーサーカーが大斧で受け止めた――からではない。
烈風もかくやという勢いで突進してくる強敵に対して、バーサーカーもまた暴風と化し同時に踏み込み斧を振り下ろしていたのだ。

結果、寸分違わぬ速さで繰り出された槍と斧は両者の狭間で激突し火花を散らすこととなる。

ぎゃりぎゃりと、ぎしぎしと。
共に頑強に作られているはずの武器が軋みを上げる。
相手を押し切ろうと込められる主と獲物の怪力を一身に受けることとなってしまえば当然。
いかな業物といえど1分とかからずに灰燼と帰すだろう。
問題ない。
一分とかからずに相手を粉砕すればいいまでのこと!!

「■■■■■■■■――!」

大英雄の豪腕が唸る。
鍔迫り合いに競り勝ったからではない。
突如として軍配斧を押し止めていた抵抗が消失したからだ。
ホバーじみた移動を活かして戦国最強はくるくると旋回しつつ瞬時にバーサーカーの背後へと周り込んだのだ。
その迅きこと、まさに雷が如し!
速さを味方につけたまま続けて繰り出された槍撃の鋭きこと雷鳴の如し!
大英雄が体勢を立て直し左回りで振り向かんとするも光の速さを前にしては遅い、遅すぎる!
ならばこそ理性を極限まで削がれたことで研ぎ澄まされた本能はバーサーカーに軍配斧を斬るのではないもう一つの用途で使用させた。
即ち、仰ぐ。
速度が足りない分を大扇を振るうことで起きる烈風のリーチで埋めようとしたのである。
冗談みたいな作戦である。
しかし、忘れる事なかれ。
英雄には荒唐無稽な伝説がつき物だということを!





「……!?」

鋼の如し筋肉に覆われた人一人ほどの大きさを誇る豪腕と、同じく扇部分だけでも人一人覆い隠せるだけの面積を持つ軍配。
馬鹿げた二つの要素が合わさって小型の嵐が発生する。
規格外の勢いの向かい風を受け、本多忠勝の勢いは完全に削がれてしまう。
その隙を大英雄は見逃さない。
軍配を振り抜いて尚、バーサーカーの回転は止まらなかった。
生じた遠心力を右拳を打ち出す動作に直結させ、渾身の鉄拳を本多忠勝へと叩き込む!

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!!!」

苦悶の叫びを代弁するかのように、忠勝の全身より蒸気が上がる。
分厚き鎧も半神の鉄槌の前では用を成さない。
みるみるひしゃげ、捻じ切れ、砕け散っていく。
爛々と輝いていた赤き瞳も体内の危険を知らせるかのように激しく点滅を繰り返す。
この殺人遊戯の場へと連れてこられるより前、長篠の地にて度重なる連戦の果てに一度は地に伏したあの時のように。




あの時のように……




――忠勝、戦国最強の名に恥じぬ戦いをわしにもう一度見せてくれ。忠勝!

本多忠勝は深い傷を負い、一番大切な時に傍にいることが叶わず、主君を助けることができなかった。
再び動けるようになった時、小さい身体に本多忠勝など到底及びもしない大きな志を抱いていた主は手の届かぬところへと行っていた。
涙は、出なかった。
流す必要も無かった。
徳川家康は彼が夢見たように日本全土の平和の守り神となったのだ。
ならば天上から日ノ本を照らす主に恥じないよう、最後のその時まで地上より民を守り続けよう。
一度と言わず、二度でも、三度でも、四度でも。
“東照権現”徳川家康に相応しき“戦国最強”本多忠勝として。

「……………………………………ッ!!!!」

ギアを一気にトップへ移行。
三段階の加速を経て本多忠勝の巨体が一瞬にして月夜の空へと舞い上がる。
突き刺したままの右腕に引きずられる形で空へと放り出されたバーサーカーは唐突な足場の消失により力の伝達に失敗。
続く忠勝の変則軌道に耐えられず振り落とされる。
ヘラクレスは怪鳥を撃ち落したことはあっても、空を飛び戦ったことは無かった。
空中戦では圧倒的に本多忠勝に分がある。
地上での激闘が嘘のように何の抵抗に会うことも無く、本多忠勝は落下するバーサーカーの真上を取る。
高高度からの落下の衝撃に加え重力加速を味方につけた超重量級の忠勝による突撃。
空中で自由に動けぬ身では、回避することも防御しきることは不可能。
必殺必中を期した本多忠勝が一筋の稲妻となりてバーサーカーへと突き刺さる。

――ドッゴオオオオォォォォォオオオオオオオオン!

響く激突音、掻き消される狂戦士の断末魔。
舞い上がった砂塵が晴れ轟音が収まった大地にて生きているのは腕を組み二の足で立つ本多忠勝のみであった。







あくまでもこの時点では






心せよ、戦国最強よ。
今、汝の眼前に聳えし者は、守るべきものの為ならば一度と言わず、十二度も立ち上がらんとする者也!!

―――バーサーカーは、強いね

その言葉を、覚えている。

狂気に侵されたバーサーカーには壊す、殺す以外に大切な小さき少女を護るすべは無い。
構わないと、意思無き英雄はそれでも魂で思った。
かって愛する家族を自らの手で殺してしまったこの狂気で、今度はあの一人ぼっちの娘を護れるというのなら。
彼女が望んだ最強のサーヴァントとして喜んで狂おう。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」

物言わぬ骸となった強敵より武器を引き抜き立ち去ろうとしていた忠勝の前でバーサーカーは再び力を取り戻していた。
あれだけ派手に腹部に空いていた大穴は既に無い。
本多忠勝の目の前で時が蒔き戻るかのように塞がったのだ。
だが真に驚愕すべき事態はその後に訪れた。

「……!?!?」

ありえざるべき事態に動じることなく、再殺せんと放った突きが、なんと武器を持たぬ右手一本で受け止められていたからだ。
兜に隠れた無機質な眼が見開いていた。
これまで一撃入るごとに僅かなりとあった確かな手応え。
それが全く感じられなかった。
現にバーサーカーの開かれた掌は傷一つ負っていない。
どころか狂戦士はランスの穂先をきつく掴み忠勝のバランスを崩した上で空いた左の斧で切り伏せんとしてきたのである。
槍の展開ギミックを再度使用し狂戦士の手を払い全速で空中に回避したが、避け切ることはできなかった。
本多忠勝の鎧の胸部装甲に右斜め一文字の傷が刻まていた。

一連の復活劇を可能にした不可思議な現象こそバーサーカーらサーヴァントの半身とさえ言われる宝具の効力。
生前彼らが持っていた武器や固有の能力・魔術・特徴や、あるいは彼らを英霊たらしめる伝説や象徴が具現化したモノ。
バーサーカーのそれは彼が為した前人未到の功績に由来する。
“十二の試練(ゴッド・ハンド)”。
十二の試練を乗り越えたことによって与えられた神の祝福。その冒険の数だけ死を無効化、蘇生する!
加えて一度殺された攻撃や並大抵の英雄の奥義を無効化するバリアとしての効果も兼ね備えたまさに鉄壁の鎧である。

もっとも赤き弓兵に五度殺された後にこの地に呼ばれた上に、死因たる攻撃以外は無力化できない制限が課せられているのであるが。






そして当然そんな制限が必要な怪物と互角に戦えるトンデモにも課せられていないわけもなく。



「……………?」

ゴッド・ハンドを噂に聞く南蛮の妖術かと警戒し、遥か上空に止まったままだった本多忠勝がふと首を傾げる。
とっとと降りて来いとばかりに吼え続けるバーサーカーの声を煩わしく感じたからではない。
気のせいか高度が徐々に下がっているように思えたからだ。
否。
気のせいではない。
明らかに本多忠勝は落ちている!
しかもバーサーカーがいるのとは海を挟んで逆方向の地へと向かって。

実は安土城に向かう途中で連れてこられた本多忠勝は、修理に辺り盾や砲台などの追加装備の没収だけでなく飛行機能は不備を残されていた。
高高度からのヒットアンドアウェイによるワンサイドゲームになればつまらないと判断された為だ。
よって地上での多段加速や普段の低空疾走くらいは満足にこなせる絶妙な按配で仕上げられている。

「……………」
「■■■■――」

二人の距離が徐々に遠ざかっていく。
邪魔だと海を睨み付けるのを止めたバーサーカーは本多忠勝を見上げ、不時着に備えつつ本多忠勝はバーサーカーを見下ろしていた。
天と地に分かれた二人の交わす視線の意味は再戦の約束か、未だかって見えたことの無かった好敵手への賞賛か、はたまた邪魔するものへの敵意か。
口で語らず、行動で表す二人の真意は他の誰にも分からない。
主の生死も、殺し合いに乗ったか抗ったかも、生まれた国も世界も何もかも違うというのにどこか似ている二人の最強が再度あいまみえるのか。
それもまだ知る者は居ない。




バーサーカーVS本多忠勝
結果:ドロー。
最強証明――ならず



【F-1/エリア南部/1日目/深夜】

【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:健康、狂化
[服装]:上半身裸(デフォルト)
[装備]:武田信玄の軍配斧(石動配)@戦国BASARA
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。
1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、イリヤの元へと戻る。
2:本多忠勝とはいずれ決着をつけたい?
[備考]
※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3
 ・合計12回まで死亡してもその場で蘇生。状態を健康にまで回復。耐久力を大きく上回るダメージを受けた場合は複数の命のストックを消費。
  現在残り蘇生回数6回。
 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。
  現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works
 ・首輪の爆発での死亡時には蘇生できない。
※参戦時期は 14話 理想の果て直後です

【武田信玄の軍配斧(石動配)@戦国BASARA】
人一人分のサイズはあろうかというほど大きな軍配型の斧。
軍配の淵に刃が付いている。超人的な武田信玄の扱いにも耐えられることからかなり頑丈。



【F-1/エリア南部海上/1日目/深夜】

【本多忠勝@戦国BASARA】
[状態]:疲労(中)、胸部装甲破損(12話時イメージな穴が空いています)、墜落中
[服装]:全身武者鎧
[装備]:対ナイトメア戦闘用大型ランス(コーネリア専用グロースター用)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:徳川家康(参加者にはいない)の遺志を継ぎ戦国最強の名に恥じぬ戦いをする。
1:織田信長、明智光秀、主催者グループを打倒する。
2:まずは手ごろなところに着地する。
3:バーサーカーとはいずれ決着をつけたい?
[備考]
※参戦時期は第12話で安土城へと向かっている途中。
 尚、後述の飛行機能以外は主催者の力で修復された模様。
※バックパック内の装備は没収されているため、原作ゲームにおける攻撃形態、防御形態、援護形態使用不可。
 他、ゲーム版での固有技、バサラ技が使えるかはお任せ。
※主催者側から飛行機能に制限が課せられています。短時間低空飛行には問題ありません。

【対ナイトメア戦闘用大型ランス(コーネリア専用グロースター用)@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
所謂巨大ロボ用の突撃槍。周りの刃が展開するギミックがあるものの、特にビームを放ったりもしない普通の西洋槍。


※F-1エリア南方での戦いは相当派手に立ち回りました。ただ、構造物への被害は大きいですが、
 基本が斬りあいだったため最後の高度からの落下突撃以外は音的には派手ではなかったかもしれません。


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本多忠勝 038:機動戦士ホンダム00~ツインドライヴ~
バーサーカー 067:狂戦士の夜


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最終更新:2010年01月23日 10:02