まよいザワザワ ◆tILxARueaU
蝸牛――迷い牛に行き遭うということ。
迷い牛に遭うための条件は、家に帰りたくないと望んでいること。
家に帰ってもなにもない、ここでなにかを掴んでいかなければ意味がないということ。
地獄の迷路から這い上がってみせろ、人生の勝利者となって底辺から脱出してみせろと――そういうこと。
◇ ◇ ◇
――バトルロワイアル……!
カイジの人生を狂わせたあの金貸し、遠藤によって宣言された大ギャンブル大会……!
ベットするのは自分の命……負ければデッド、即座の死……!
運否天賦に身を寄せるわけにはいかない、泥沼のゲーム……ついに開幕っ……!
(バカなっ、バカなっ……! なんで……? なんで……なんでこんなことがっ……!)
たたみ一畳分の密室から抜け出し、カイジが降り立ったのは……まるで樹海っ……!
樹海としか言い表しようがないほどの、深く暗い森の中だった……!
(どうして……なんでこんなっ……! あってはならないことがっ……!)
ゲームが始まって早々、カイジの身に起こったことといえば……慨嘆っ……!
なぜ自分がこの場にいるのか、なぜ自分が殺し合いの参加者などに抜擢されているのか、まるでわからない……!
(こんな理不尽なことが、オレの身ばかりにっ……!)
故の慨嘆っ……!
不条理ばかりが押し寄せる己が境遇に、カイジは嘆き憤ることしかできないっ……!
(いや……嘆いてばかりではいられないっ……! 状況を……状況を見るんだ。
まず、ここはどこだ……地図と……たしかデバイスとかいう道具で位置がわかるんだったか……?
確認……そう、まずは荷物の確認だ……! 慌てない、嘆かない……! まずは確認っ……!)
大木を背にしながら、カイジは白い部屋から持ってきた自分の荷物……黒いデイパックに手をかける。
時刻は夜、それでいて森の奥深くという劣悪な環境……が、しかし! 懐中電灯は使えない……!
不用意に光を求めれば、人が寄ってくる可能性が……誰かがカイジを殺しにやって来る可能性すら……ありうるっ……!
(場所は……【A-1】。地図でいうところの最北……そして最西端……! 悪くないっ……!
だがなんだ、この地図は……心霊スポット……? この辺りが……? 馬鹿げてるっ……!)
カイジを取り囲むように配置された木、木、木……木の群集……!
改めて考えてみれば……出そう……いかにも……出そうではあるっ……!
(馬鹿っ……幽霊だと……そんなものにビビっていられるかっ……!
今はそれどころじゃない……! 確認……手持ちの荷物をまず確認っ……!)
怯えを振り払い、黙々と荷物の確認を済ませていくカイジ。
食料……水……時計に……救急箱……そのあたりは基本……皆共通の品……!
そして……ついに出てきた武器……カイジだけに与えられた……人を殺すための道具っ……!
(きたっ……! 拳銃……! まずまず……まずまずの引き……これならっ……!)
カイジが掴み取った、無骨な形をした黒いそれ……!
シグザウアーP226という名の……紛れもない拳銃……! 撃ったら人が死ぬ……殺せる武器っ……!
(銃なんて撃ったことはない……撃てるかどうかもわからない……が、持っているだけでも牽制にはなるっ……!
言わばこれは保険……武器じゃない……お守りだ……! 引き金を絞るだなんて……ない……ないと信じたい……)
このとき、カイジにはまだ覚悟が足りていなかった……!
殺し合いをしろ……他者を蹴落とせ……そう遠藤に言われようとも、決心はつかないっ……!
(人が死ぬ……人を殺せ……? もうそんなのはたくさん……こりごりだっ……!
佐原や石田さん……鉄骨から落ちて死んでいった奴ら……オレは誰を押したりもしない……押されもしない……!)
そう……!
カイジはあの命がけのギャンブル……高層ビルの間にかけられた橋……魔の鉄骨渡りを制覇した男……!
その際死んでいった者たち……佐原や石田の無念を受け継ぎ、利根川とのEカードに臨もうとした……矢先っ……!
トイレで顔を洗い、賭けの代償として耳を選択したところで……暗転っ……カイジはあの白い密室にいた……!
(どういうわけだか知らないが、この名簿ってやつには……あの利根川の名前も入ってる……!
そのへんは謎……遠藤が持ってきた別のギャンブルに……オレと利根川は一緒くたになって巻き込まれた……!
いや……あるいは利根川は知っているのか……? このゲームの全貌……企ての裏……攻略法にっ……!)
カイジにはまだ、そのあたりの事情が見えない……!
バトルロワイアルと銘打たれたこのゲーム……否っ……!
賞金がかけられ、命を張った、れっきとしたギャンブル……!
勝利条件が明白だとしても……安易に踏み出せる一歩ではない……!
(攻略法か……あるのか……? そんなものが、本当に……!
自分以外の全員を殺せば……まあ勝ちは勝ち……大金を得る……!
だが現実的に考えて、不可能……! 人なんて殺せるわけがない……!)
カイジに足りていないのは、実力と覚悟……!
だが双方を兼ね揃えたとしても、人殺しは容易ではないっ……!
(そのへんはやっぱり、遠藤が漏らしていたようにゲームっ……! なにかしら裏道があるはず……!
悲観はまだ早い……早すぎる……! 限定ジャンケンのときのように……必勝の道が……い、いや違う……!
勝ってどうする……勝つってことはつまり……他の奴らが死ぬってこと……あってたまるか、そんな理不尽……!
博愛主義者ってわけじゃないが……なるべく……なるべく人が死なない方向で……できるだけ多くが助かる道を……)
カイジ、混乱っ……!
自分が選択すべき道が、まるで見えてこない……!
人は殺したくない、死んで欲しくもない……人間としての心理……が、理想論っ……!
既にここは、蛇の胃袋の中っ……! 抜け出せない……圧倒的な絶望感が、カイジを悩ませるっ……!
(あっ……?)
しかしそこで……カイジ、気づくっ……!
いったいいつから……いつの間にそこにいたのか……!
カイジが背にする大木……その向かいに生える、同じ大きさほどの大木……!
隣り合うように、否……向かい合うように、カイジの眼前にそれはいたっ……!
(幽霊……いや、馬鹿なっ……なんで気づかなかった……!)
失態っ……! 考えられないほどの失態……!
カイジの眼前にはいつの間にか、境遇を同じくする別の参加者がいたっ……!
カイジと同様に、大木を背にして荷物を確認しているっ……!
カイジ、これには戦慄……顔は青ざめ……立ち上がざるを得ないっ……!
(ど、どうする……!? まずは牽制……銃を構えて……馬鹿っ……! よく見ろ……!)
咄嗟に、その手に握っていた拳銃を構えるのではなく……隠すっ……!
この出会い、カイジにとっては僥倖……! なぜならば……!
(あれはなんだ……銃を向けていい相手じゃない……ただの……ただの女の子じゃないかっ……!)
眼前にいた人物は、無害っ……!
そう直感してしまえる……安心してしまえるだけの……可愛らしさっ……!
バトルロワイアルの場でカイジが初めて遭遇した人物は……女の子っ…………!
◇ ◇ ◇
「お、おいっ……」
カイジ、第一声……!
バトルロワイアルが始まって、初めて放つその言葉……!
声をかけられた少女は、まるでカイジの存在を訝るように見つめ返す……!
「話しかけないでください。あなたのことが嫌いです」
―― あ な た の こ と が 嫌 い で す っ……!
痛烈……痛烈な一言っ……!
地獄の賭場とも言うべき樹海で出会った少女に……カイジ、嫌われるっ……!
「なっ……んなっ……な……!?」
考えてみれば……久々っ……久々のことではあるっ……!
女の子と……それも小学生ほどの童女と話し、接する機会など……おそらくは小学校以来っ……!
故にカイジ……続く言葉……フォローの一言が出てこない……!
「なるほど。どうもザワザワするなと思ったら、こんな身近に人がいましたか。迂闊でした」
「ザワザワ……? お、オレが……? まさか……こっちは声も出しちゃいなかったって……!」
「いいえ、してましたよ。ざわ……ざわ……って。ま、その顔を見れば納得できますけど」
「顔っ……? オレの顔が……なに……? なにかあるっての……?」
「ええ。尖った顎に尖った鼻。ザワザワしてても仕方がない人相をしています」
「顎と……鼻……!? 尖ってるって……んなわけあるかっ……! はじめてだ……そんなこと言われたの……!」
「えぇ!? それでは、わたしがあなたのはじめての相手ということに……?」
「は、はじめて……!? ばっ……なに言ってんだ……この、マセガキっ……!」
「マセガキ!? よりにもよってマセガキとか言われました! このヒト怖いですっ!」
「か、勘違いするな……! オレは……い、いや……お兄さんは怖くない……怖くない……ぞ……?」
「怖っ! 笑顔になりきれてない笑顔が逆に怖いですっ! 倍プッシュされてしまいます!」
「倍プッシュだぁ……!? なにを……なにを言ってるんだ……! わからない……意味がわからないぞ……!」
カイジ、再びの混乱っ……!
女の子との会話、不成立……! コミュニケーションがままならないっ……!
(くっ……冷静に、冷静になれっ……! こんな状況なんだ……怯えるのは当然……!
別にオレの顔が怖いわけじゃない……! 柔らかく……柔和に……柔和に微笑みかけるんだ……!)
にこっ……!
にっこぉっ……!
にこ……にこっ……!
「ひ、ひぃ……!」
少女、戦慄っ……!
カイジ、精一杯の作り笑顔……が、ダメっ……!
逆効果……余計に怖がらせるだけっ……!
「お、怯えるなって……! なにも取って食おうってわけじゃない……無害……オレは無害だっ……!」
「し、信用できませんっ! 人畜無害だと主張するなら、相応の誠意を持って接してください!」
「か~っ……! 誠意だぁ……!? 誠意もなにも……示しようがない……信じてもらうしかないだろっ……!」
「……では、その手に持った拳銃はなんなのでしょう?」
カイジ、そこでハッとする……!
先ほどまで荷物を確認をしていた……だからこそ手に持ったままでいた……シグザウアーP226……!
女の子に見せまいと隠していたそれは……身振り手振りで主張をするうち……露見……!
銃口は、女の子のほうへと向いていたっ……!
「なっ……! ちがっ……これは……ち、違うっ……!」
動転するカイジ……! 思わず……思わず、これを取りこぼす……!
拳銃は足下……生い茂る草むらの中に落ちたっ……!
「どうやら本当に無害のようですね。それでいてヘタレのようです」
「ああ……!?」
カイジ、またもや痛烈なる一言を浴びる……!
女の子の容赦ない発言の数々に、さすがのカイジも辟易……!
思わず、舌打ちせざるを得ない……!
「ちっ……なんだってんだ、おまえは……! 大人をからかいやがって……! いい加減にしろ……!」
「うーん、さながら美女と野獣コンビといったところでしょうか。人気が出るかはイマイチ謎ですねぇ」
「話を聞けっ……! なんていうか……最近の子供ってやつは……みんなこうなのかっ……!」
「相方というなら、阿良々木さんレベルのツッコミスキルを求めたいところですけど……無理っぽいですね」
「過保護に育てられて……礼儀がなってない……! オレが言うのもなんだが……ゆとりっ……!」
「それは仕方がないことですよ。なにしろわたしは、教育を受ける過程で他界してしまいましたから」
「噂に聞くゆとり教育ってやつはっ……! …………は?」
少女の思わぬ一言に……カイジ、唖然……!
口を動かすのをやめ、少女の発言に聞き入る……!
「このあたり、地図だとなんて書いてあるか知ってますか?」
事前に確認しておいた、【A-1】という位置……!
広がる森……鬱蒼とした、いかにも出そうな雰囲気……!
カイジの脳裏で、不穏な警鐘が鳴り響くっ……!
「心霊スポット――わたし、幽霊なんですよ。地縛霊だったのですが、この間浮遊霊に昇格しました」
◇ ◇ ◇
「ちなみに、名前は
八九寺真宵(はちくじまよい)といいます。お父さんとお母さんからもらった、大切な名前です」
浮遊霊……! 生前の名前は、八九寺真宵……!
己の顔が、徐々に凍りついていくのがわかる……!
それだけの驚愕……幽霊が目の前で喋っているという、珍事っ……!
「……ば、馬鹿なことを言うな……! 幽霊だ……? そんなもん、ありえない……!
オレをからかうためのペテン……子供のイタズラっ……! 信じない……オレは信じないぞ……!
だいたいなんだ……幽霊たって、ちゃんと触れる……! たしかにここに存在してるじゃないかっ……!」
八九寺の言動に疑惑を感じずにはいられないカイジ……これを実証……!
手を伸ばし……八九寺の小さな身体に触れ……確かめるっ……!
すべすべとした肌の感触……ぷにぷにとしたやわらかさ……天然の少女……霊体などではありえないっ……!
「触りましたね」
「は……?」
「故意に。明らかに。私のカラダ目当てに」
「な、なにを言って……」
「触られました! けがされましたぁ!」
「ばっ……おち、落ち着け……! これはあくまでも確認……! 必要なこと……!」
「痴漢さんはみんなそう言うんです! あ、ちなみにわたしは、この歳では発育のよいほうなんですよ?」
「訊いてねぇ! だいたい……子供のカラダなんて触っても嬉しくもなんとも……!」
「熟れた女のカラダをご所望と仰られますか! それならあと三年待ってください」
「三年程度でどうにかなるかっ……! おまえなら軽く見積もってもあと六年……六年は待てっ……!」
「妙にリアルな数字が飛び出してきましたぁー!? この人、本物です!」
「違う……! 今のは見たままを述べた憶測……客観論だっ……! 変に勘繰るなっ……!」
「あなたこそ勘違いしないでください。あなたはこれで二人目――つまり、セカンドタッチです」
「だからどうした……! ファーストタッチの相手なんぞ知ったことか……興味もない……!」
「略奪愛宣言!? 情熱的に告白されましたー!?」
「そういう意味じゃねぇ……!」
カイジ、またしても会話不成立……!
八九寺真宵が作り出す、この独特の間……会話のペース……それらが一向に掴めないっ……!
しかし徐々に……徐々にではあるが、感触は掴めてきた……!
(とどのつまり、オレは遊ばれてるだけ……! 真面目に返してちゃ、こっちの身が持たない……!
かといって、このまま放っておくのも忍びない……オレにだって、良識ってものはある……!
保護ってわけにはいかないが……せめて安全な場所まで誘導してやれば……!
いや……どこよ、その安全な場所って……! あるか、そんな場所……もうちょっと冷静になれ、オレ……!)
……が、まやかし……!
結局は、ペースを乱されっぱなしで……このままだとただの漫才……!
懸命に模索する……流れを変える、逆転の一手を……!
(……冷静に考えて、この子はまだ子供……そして自称幽霊だ……!
幽霊ってのは嘘だとしても……やはり危ない……こんな環境に身を置くには、危ういほど無垢……!
ここの危険性を……今が人生の窮地だってことを、その幼い身にわからせてやる必要がある……大人として……!)
ふと視線を落とすと、先ほどカイジが手から零した拳銃の姿が……!
拳銃……子供でわかる、はっきりとした死の象徴……!
撃たれれば死……向けられれば危ない……それを理解できないほどではない……そう信じて……!
(悪く、思うなよ……!)
カイジ、拳銃を拾い強攻策に出ようとする……が!
「これがあなたに配られた支給品ですか? はぁー、本物みたいですね」
「あっ……!?」
遅い……!
カイジが身を屈め、それに手を伸ばすよりも先に……八九寺が拳銃を拾う……!
「馬鹿っ、子供が持つもんじゃない……! 危ないから……それをそっちに渡せ……!」
「言葉遣いが乱暴です。子供だと思ってあまく見てませんか?」
「実際子供だろうが……! っていうか、本当に危ないから……! さっさとそれを――」
「あ、ところでお名前をまだ聞いていませんでしたね。伺ってもいいですか?」
「伊藤開司……! んなことより、早くそれを――」
「ふむふむ、伊藤さん。いえ、ここはあえてカイジさんとお呼びしてよろしいでしょうか?」
「なんでもいい……! つーか……オレの話を――」
「わたしと取引しませんか、カイジさん?」
カイジの拳銃を所持する少女……八九寺真宵からの不意な誘い……!
「この拳銃はお返しします。その代わりとして……わたしと一緒にいてください」
唖然とするカイジに、素直に差し出される拳銃……!
思ってもみなかったこの行動……カイジ、咄嗟に拳銃を受け取れない……!
「守ってください、じゃありませんよ? 一緒にいてくれるだけでいいです。
たまに話し相手になってくれるだけでもいいので。あ、ただしセクハラはダメですからね?」
◇ ◇ ◇
前髪の短い、眉を出したツインテール。
なにが詰まっているのか想像の膨らむ、大きなリュックサック。
それらを象徴とするのが、八九寺真宵という女の子だった。
「――……子供ってのは、もっとこう……素直であるべきなんじゃないのか……?」
「それは偏見というものですよ、カイジさん。それに、わたしはこんなにも素直じゃないですか」
「いや……それは自己分析を大きく誤ってる……。どちらかというと……そう、ひねくれ者……!」
「そんな! それじゃあまるで、わたしがひねくれ者みたいじゃないですか!」
「いや……だからそう言ってるんだけど……」
蝸牛に迷った少女。迷い牛の怪異。地縛霊から二階級特進して浮遊霊。そのあたりは重要じゃない。
ぶっちゃけ、八九寺真宵という少女は幽霊だった。わざわざ殺し合うまでもなく、既に死んでいるのだ。
しかしおかしなことに、この場においては生き返ったようだった。きちんとした生身の体が、そう証明している。
「幽霊だなんて嘘までついて……要はただの寂しがり屋……認めちまえ、そのくらい……!」
「あなたは本当に失礼な人ですね。阿良々木さんのセリフを取ってしまうようであれですが、ここで言ってしまいましょう」
「お……なんだ、今度はなにを言い返してくるって?」
「――――万死に値します!」
帝愛グループとかいう奴らが言っていた話は、あながち嘘ではないのかもしれない。
死んだ人間を蘇らせる。そんな、誰もが夢には見るものの実現なんてできっこない幻想。
それが既に、八九寺真宵という形で証明されてしまっている。真相を知るのは本人だけだったが。
「ところでカイジさん。カイジさんは麻雀と賭野球、どっちのほうが得意なんですか?」
「麻雀はまあ……打てることは打てる。けど、賭野球ってのはなんだ……?」
そんな八九寺真宵が考えることといえば、自分と同じ境遇に置かれた少年少女たちの安否。
阿良々木暦。
戦場ヶ原ひたぎ。彼氏彼女の関係。付き合い始めて間もないだろうに、なんて不幸な人たちだろう。
彼と彼女には、特に阿良々木暦のほうには、それなりの恩がある。願うことなら無事に生き残って欲しい。
「阿良々木暦に、戦場ヶ原ひたぎ……この二人が、おまえの知り合いだって……?」
「ええ。阿良々木さんとツンデレの彼女さんです。彼女さんとはあまり親しくありませんが」
「ツンデレ……? よくわかんねぇけど……最近の流行語とか、そういうのか……?」
「まだまだ乳繰り合いたい年頃でしょうし、ここで二人揃って心中というのはあまりにもかわいそうだと思います」
願うだけで、彼と彼女のために自分が特別、なにかをできるわけではないのだが。
八九寺真宵は少女である。もっと記号っぽく言うとロリキャラである。ただそれだけだ。
魔術も使えないし、楽器も弾けないし、麻雀も打てないし、モビルスーツの操縦もできない。
「カイジさんは、誰か知り合いの人はいないんですか? 友達とか、家族とか」
「利根川って奴は……まあ知り合いと言えば知り合い……だがこいつは……」
「ふーん。ひょっとして、友達少ないんですか?」
「なっ……! 馬鹿にするな……! 知ってる名前くらいなら……オレにだってある……!」
「ほほう? それはいったい誰でしょう?」
「……
織田信長」
「奇遇ですね。その人ならわたしも知ってます」
だから、特になにかこう……『対主催』だとか『奉仕マーダー』だとか、そういう役割を担えたりはしない。
役を与えるとするならば、家に帰れない迷子。鬱蒼とした物語の清涼剤。賑やかし役。ロリ成分。
ある種達観しているとは思うし、生意気だとも思う。この八九寺真宵という少女は、つまりそういうキャラなのだ。
(実際私はもう死んでいるわけですから、生きることへの執着なんてそんなにありませんけど……。
ただ……浮遊霊はまだやめたくないですよね。阿良々木さんとおしゃべりできなくなるのは、つまらないです)
だからまあ、とりあえず。
お約束として、知り合いくらいは捜しておこうかなー、などと思っているに違いない。
ああ、本当におまえは可愛い奴だな八九寺ぃー!
「ときにカイジさん。頼まれてもいない語り部とか、ウザったいと思いません?」
「は? なんの話だ……?」
ウザイって言われたー!
さて、僕も本編に戻ろう。
【A-1/心霊スポット周辺/1日目/深夜】
【伊藤開司@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服(Eカード挑戦時のもの)
[装備]:シグザウアーP226(16/15+1/予備弾倉×3)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考]
基本:人は殺さない……なるべく……なるべく人が死なない方向でっ……!
1:八九寺真宵と一緒に行動する。
2:……で、どうする……?
[備考]
※Eカード開始直前、賭けの対象として耳を選択した段階からの参加。
【八九寺真宵@化物語】
[状態]:健康
[服装]:私服、大きなリュックサック
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品×1~3
[思考]
基本:まずはお約束通り、知り合いを探してみることにしましょう。
1:
伊藤開司と一緒に行動する。話し相手は欲しいので。
2:阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎを捜す。
[備考]
※「まよいマイマイ」終了後以降からの参加。
【シグザウアーP226@現実】
1983年にシグザウアー社が開発した自動拳銃。P220の改良型である。
長時間水や泥の中に浸けた後でも確実に作動するほど堅牢であり、耐久性は非常に高い。
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最終更新:2010年01月23日 10:01