アンチファンタジー/井の中の蛙 ◆fQ6k/Rwmu.



「ちょっと待て八九寺」


 『頼まれていない語り部』とかのよくわからない話で流されそうになったある話にカイジは気が付いた。
 あるおかしい一点に。そこを真宵に問い詰める。


「なんですかハイジさん」


 がっ……そこで問題発生……!


「待て……!俺の名前をまちがえてるぞ、お前……!」
「せめて『俺はアルプスの少女じゃないぞ』くらいのツッコミが欲しいです! ありゃりゃ木さんに比べると、『ふん、ツッコミ力たったの5か……ゴミめ』
 になってしまいます!もっと頑張ってください」
「知るか……!俺は芸人じゃないんだ!」
「あーーーー!今パイジさんは全国の『かくし芸大会で漫才をやる芸人じゃない人たち』を敵に回しました!
 今のは『芸人ではない奴はツッコミをする資格がない』と同義だからです!
 謝ってください!全国985億6497万人の人たちに!」

 何もかもがおかしい……!圧倒的物量……ボケ……ボケの嵐……っ!
 呼び名の更なる間違い……長ったらしい敵……日本国民の数を越えた人数……!
 だが! カイジ……全てに突っ込みを入れるスキル……なし……!
 阿良々木暦との決定的な差……!覆す事ができない……!
 むしろ覆したくない……!


「むう。パイジさんが頭を抱えて目を『∋∈』にしてしまったので、大人な私は素直に話を進めるよう頑張ります。褒めてください。
 で、なんでしょうか?」


 カイジ……屈辱……!
 子供に……明らかに舐められている……!言い間違えたのはあっちなのに……!脱線させたのも……!
 それでもカイジ……我慢の一手……!大人としてのプライド……揉めている所を誰かに見つかりたくないという打算……!
 拳を握り締め……!こらえる……こらえる……!


「さっきの『織田信長』……それから名簿にある『明智光秀』『真田幸村』『伊達政宗』……俺でも知っている。
 俺でも知っている名前……だが、ありえない……!この名簿に載るなんてことは……!」


 戦国武将……!
 かつて幕府が倒れ、多くの大名が群雄割拠し……互いが天下を取ろうとし、戦い……陥れ……のし上がっていった時代!
 そんな大名、武将の中でも……カイジすら知っている者たち……!だが、ありえない!


「こいつらは……既に死者……! 生きているはずがない……!」

 そう……!戦国時代など何世紀も昔……!
 生きているはずがない……死んだからこそ、彼らは語り継がれているのだから……!


「……パイジさん。私が幽霊でしかもこうしてなぜか肉体があるんですから、その三国武将たちもきっと同じですよ」
「し、しかし」
「私は幽霊です! そこはおゆっくりいたしません!」

 文脈から推察……『お譲りいたしません』……カイジ、ついに少女の言い間違いのパターン、掴む!
 だが……突っ込まない! わざわざ突っ込む気がない……!
 納得した振りをして、真宵に感づかれないように考える!

(幽霊説……これは否定だ。俺はこの自称幽霊を目にしているが……どう見たって人間!足もある!触れる!
 つまり……『こいつが人間である』という証拠はいくらでもあるが、『こいつが幽霊である』という証拠はゼロ……!
 よって、まずこいつの『帝愛が幽霊を生き返らせることが出来る』という説は否定できる。
 幽霊云々はこいつの思い込み……過酷な状況に追い込まれた子供の……哀れな嘘の防護壁……!

 そうだ。そんなもんできたら……奴らは)



 ピシャァァァァン!


 その時……カイジに電撃走る……!


(ちょっと待て……ちょっと待て!
 そうだ。それなら……説明が付く!
 『開会式』……『名簿の戦国武将』……『自分を幽霊だと信じ込む少女』……!)


「どうしたんですかパイジさん。ボーっとして」
「あ、ああ……すまん八九寺……少し考え事をな……」
「そうですか。もう年老いたパイジさんなら仕方ないですね」
(我慢だ……我慢の時だ……!)
「で、パイジさん。これからどうしますか?」

 一応こちらの意志を伺うあたりはやはり子供かとカイジは安堵する。
 そして地図を確認し、真宵に告げる。


「ここに向かってみようと思うんだが……」


 *****


 カイジの提案……真宵は快諾……生意気な口をたたきながらも、2人は歩き始める……!
 そんな中、カイジは思考する……!



(まず帝愛……俺にエスポワールやシーサイドホテルを紹介した遠藤がいること……奴が前に漏らした『某巨大企業』……
 そして、ここに来る前に俺が見た『会長』の呼び名……そしてこのゲームから感じる空気……!

 これらから俺は……『帝愛』こそが俺の参加したゲーム全ての裏にいたとほぼ断言する……!
 つまり……遠藤の後ろにいるのは……あの『会長』……!)


 この推測に関してはほぼ確実……!唯一の不安材料は……利根川……!
 鉄骨渡りの時点で……確実に自分と奴の間には……距離があった!
 『参加者』と『主催者』の壁……だが、ここではその壁がない……名簿を見る限り、奴も参加者……!
 この疑問を『帝愛=会長の支配するもの、つまり利根川の属する場所』の前提から解決するには……!


(奴は……サクラ!
 殺し合いに乗るものが少なければ、主催し観覧している奴ら(この『観覧』については後にしよう)にとっては、興が削げる……!
 だから、サクラが必要……! 乗らない奴を殺し、怯える者を追い詰め、殺し合いを促進させる……サクラが!
 奴はまさにそのサクラ……! そうでもなければ、金融会社の社長如きが、『会長』と会話できる地位にある利根川より上にいるなど……ありえない!)


 利根川はサクラ……カイジはそう決め付けた!
 自分は利根川とEカードで対決する直前だった……それが今も尾を引いている……!
 利根川が……敵でないと、もう上にはいないのだと……考える事は……不可能……!


(帝愛が『会長』が手薬煉引いているようなところだとすれば……!
 そうだ……そんなことがあってたまるか!
 『死者を生き返らせる』だと……『何でも願いが叶えられる』だと……!


 ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな!!
 命は……蘇らない! たった1度きり……1度きりだ……!
 そうでなきゃ……石田さんや、佐原……あいつらの生は、あそこで頑張った俺達は……何だった!!

 愚弄……これは……愚弄!
 命への……愚弄……!だから俺は……『幽霊』とか言っているコイツにも本当は怒っているのかもしれない……!だが、一緒にしてはいけないんだ……!
 こいつは死を恐れるから『幽霊』を信じる……!奴らは違う!俺達を釣る為……俺達に殺し合いをさせ、それを愉しむ為に……!


 あってたまるか……『魔法』などあってたまるか……!
 ない! 『魔法』など……ない!
 『開会式』はブラフ……!インデックスとかいうガキは、奴らが洗脳してそれっぽい衣装を着せた……哀れな傀儡!
 俺は否定する……!奴らの『魔法』など否定する……!)


 それがカイジの導き出した答え!
 帝愛の『魔法』……それは全て……嘘!


(理由は簡単……!俺達の抵抗の意志を削ぐため……!屈服させ……殺し合いに走らせる為……!
 『魔法』など振りかざされたら……諦める者は多い……!それがやつらの狙い!
 その為の演出……!
 『死者の蘇生』など……どうせ鉄骨渡りの後の利根川のように……なんらかの理由で反故にするに決まっている!
 実際は存在しない……『魔法』など! 紙と夢と空想の中にしか……ない!



 これなら……『名簿の戦国武将』にも納得が行く!
 俺も一瞬思ったからだ……『戦国武将を呼び寄せるなんて、魔法くらいでないと』とな!
 それだ……!
 おそらくこの名前は……同姓同名!
 どこかの馬鹿な親が……苗字に調子付いて……武将にあやかった名前をつけた……それだけの現代人!
 1人だけならば効果は薄い。だが、4人も集めて名簿に載せれば……皆思い込む!

 これは間違いなく戦国武将で、そんな者を呼んでこられる帝愛は、やはり魔法を持っているのだと……!
 自分で言わず……名簿にこうやって毒を仕込む……!参加者が勝手に見て、勝手に呑むのを待てばいい……!

 ただし……これはこの同姓同名が普通の人間だったらすぐに瓦解……!
 だから、奴らは仕込んでいるかもしれん……洗脳……武将のような鎧……あるいは名前のせいで元々なりきってしまった病人……!
 同姓同名本人にも……自分が武将だと思い込ませる……!)

 これで『戦国武将の存在』には理屈をつけたカイジ……!『魔法』を1つ否定……!
 残る関門……!

(首輪……これはまだ現代でも片が付く。
 ということは……残るはやはりこれか……!
 『部屋とこの会場への移動方法』……!)



 そう。それこそが最大の関門……!
 開会式後、カイジは5分を待たずに部屋から出た!広がっていたのは樹海……!
 少し怯んだが、カイジは足を踏み出し、外へ出た。
 ここまではいい……! 部屋が樹海に設置されている……それだけで済む問題!


 しかし……!

(俺はすぐに後ろを見たが……消えていた……!
 開け放しだったはずの扉も……いたはずの部屋も……鏡も……モニターも……!
 見えなくなったとか、隠されたわけじゃぁない……!俺はすぐ、後ろに向かって手を突き出した!振り回した!

 だが……無駄……!何も手ごたえなし……掴んだのは……空気だけ……!
 何も存在しなかった……!俺がいたはずの場所が……!


 『魔法』だったら簡単な説明だろう……。
 『扉を通して空間を繋げた』とでも言う所か……!これも奴らの毒……!出発でも毒を呑ませる……!
 5分後に『飛ばす』。これもだ。『飛ばす』というのを『首』以外に考えて部屋から会場に移動させると解釈するなら……これも『魔法』を信じ込ませようと――



 !!



 待てよ……何故だ。
 何故『5分』なんだ。
 何故5分の猶予を与える?遠藤は確かにこう言った)



『五分以内にそこから退室してくれ。退室しない場合はこちらのほうで強制的に『飛ばす』。なにを、とは言わんが』



(『飛ばせる』んなら問答無用に皆同時に飛ばせばいいじゃないか。なぜ扉を出る出ないをわざわざ選ばせる?なぜそんな機会を与えた?
 『飛ばす』と言う言葉で少しでも追い詰める為? いや、そんなはずがない。
 そもそもだ。扉を出ようが、部屋にいようが結局会場へ移動する。なら『飛ばす』ことには変わりない。
 なのに、なぜ『退室』なんていう自由権を与えた?

 それで、何かを隠しているんじゃないのか?
 それがはたして何なのか……!)




「パーイージーーーーーさん!!」


 グゲシィイ!



「――――――!!」


 その時……!カイジの脛に……激痛走る……!
 原因は……真宵……!その小さな足から繰り出された……ローキック……!

 かの猛者、弁慶ですら泣いたという説のある脛……!鍛えた人間でも辛い……急所……!たかが少女のキック力と言えど……激痛っ!
 カイジ……悶絶……っ!


「な、何……しやがっ……!」
「さっきからパイジさんがダンロの考える人のように『考え中……考え中……どうしよっか何しよっか……考え中……っ』って感じになって固まっちゃったからです!
 言っても何しても答えてくれないから私寂しかったです!」
「ダンロじゃない……あ、いや……悪かった」
「まったく……世話が炎上する大人は困ります」


 カイジ……今度は自分にも責があるため……反論できずっ!
 『世話を全焼させるな』というツッコミすら……不可能っ!


(まあ。他にも疑問はあるが……まずはコイツと『あそこ』まで辿り着かなくちゃな。
 考えるのは……その後でもいい)


 2人が向かう先……それはカイジが提案した場所。
 少し遠いが、ここからは東にほぼ一直線。北の島淵をなぞるように進んでいけばいいっ……!


 その場所とは……っ



(エスポワールの主催が帝愛である以上、『あそこ』がただの施設とは考えられない。
 何かあるはずだ……!しかも『ギャンブル』などと銘打っている以上、そこにはギャンブルの何かが設置されている可能性があるっ!
 となれば……そこには『相手』がいなければならない。
 そして、参加者の中でその『相手』ができるのは!!


 利根川幸雄……!


 奴とは元々Eカードで戦い、石田さんたちに謝らせるつもりだったんだ!
 奴は船でギャンブル相手を待ち、同時に優遇されて受け取った強力な武器で……周辺の参加者を脅しているに違いない……!
 上等だ……『会長』との約束がまだ有効なら……奴とのEカードもまだ有効のはず……!

 ここでどうなろうが……奴との決着だけは……つける!もちろん結果は……勝利!
 石田さんたちに謝らせるだけじゃ駄目だ……帝愛の情報を全て吐かせてやる……!)



 カイジは向かう……!迷子のカタツムリと共に……!
 だが……カイジは知らない……!


 利根川はサクラではないことを……!
 『会長』ですら参加者であることを……!
 本当のサクラは荒耶宗蓮と言う男だということを……!
 インデックスがただのガキなどではないことを……!
 ここにいる戦国武将はただの同姓同名などではないことを……!
 無限に入るデイパックという……更なる関門が手元に存在することを……!
 そして……いくら否定しようとも




 この会場にだけは、魔法は確実に存在することを……!



 ほとんどの考察は……大ハズレ……!カイジは前進したつもりでも……全く進めていない……!
 足踏みを……しているだけ……!本人としては歩いたつもりの疲労……だが、実際は全く進まない……足踏み……!
 今のカイジは……無知なる蛙でしか……ないっ……!


 蝸牛と蛙……2人は、迷い路を抜け出す事は……できるのか……!


【A-2/南西/1日目/深夜】


【伊藤開司@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服(Eカード挑戦時のもの)
[装備]:シグザウアーP226(16/15+1/予備弾倉×3)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考]
基本:人は殺さない……なるべく……なるべく人が死なない方向でっ……!
1:八九寺真宵と一緒に行動する。
2:ギャンブル船に向かい、待っているであろう利根川を倒し情報を引き出す。
3:『部屋から会場への移動方法』を魔法なしで説明可能にする。
4:『5分の退室可能時間』、『主催の観覧方法』が気になる。
5:八九寺のボケは基本スルー。
[備考]
※Eカード開始直前、賭けの対象として耳を選択した段階からの参加。
※以下の考察を立てています。
 ・帝愛はエスポワールや鉄骨渡りの主催と同じ。つまり『会長』(兵藤)も主催側。
 ・利根川はサクラ。強力な武器を優遇され、他の参加者を追い詰めている。かつギャンブル相手。
 ・『魔法』は参加者達を屈服させる為の嘘っぱち。インデックスはただの洗脳されたガキ。
 ・戦国武将はただの同姓同名の現代人。ただし本人は武将だと思い込んでいる。
 ・八九寺真宵は自分を幽霊だと思い込んでいる普通人。
※デイパックの構造に気づいていません。


【八九寺真宵@化物語】
[状態]:健康
[服装]:私服、大きなリュックサック
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品×1~3
[思考]
基本:まずはお約束通り、知り合いを探してみることにしましょう。
1:伊藤開司と一緒に行動する。話し相手は欲しいので。でも微妙に反応がつまりません!
2:阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎを捜す。
[備考]
※「まよいマイマイ」終了後以降からの参加。
※カイジの呼び名がツッコまれないので『パイジ』で固定されています。



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017:まよいザワザワ 伊藤開司 072:彼の言葉は真実/そして、虚言/それぞれの事情
017:まよいザワザワ 八九寺真宵 072:彼の言葉は真実/そして、虚言/それぞれの事情


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最終更新:2010年01月23日 10:36