モンキー&ドラゴン ◆CH3yUfFZ32
だっ、だっ、だっ、だっ、だっ、だっ。
細かく小気味のいいリズムが刻まれていた。
だっ、だっ、だっ、だっ、だっ、だっ。
音。足音でリズムが刻まれる。
だっだっだっだっだっだっだっだっ。
リズムは次第に加速する。
だだだだだだだだだだだだだだだだ。
リズムを刻んでいる彼女は、別に100メートル走をしているわけではない。
何者かに命を狙われ、逃げているわけでもない。
走っていれば敬愛する先輩達の後姿が見つかるかもしれないと考えたわけでもない。
高校入学と同時にバスケ部のエースとなり、進学校の万年一回戦負けバスケ部を全国大会に導いたスター。
普段の彼女の走りなら『たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ』と気持ちのいい軽快なリズムを刻む。
もっと跳ねているような、跳んでいるような走りを見せる。
だが、彼女が日頃のように走れなくても無理はないのだ。
《開会式》の場所から彼女が飛ばされたのは、立っていることさえ難しい急斜面。
もっとも、人並み外れた身体能力を持った彼女にとって、その程度は大した問題ではない。
しかし。
神原駿河が飛ばされたのは、急斜面の地面ではなく、その2メートルほど上空だった。
気付くと空中にふっと放り出されていた。
着地の際、尻餅でもついていれば、まだ良かったのかもしれない。
彼女は、その高い身体能力が災いし、両足で着地できてしまい――――
落下の勢いそのままに斜面を駆け下る羽目になってしまったのだ。
だだだだだだだだだだだだだだだだ。
勢いを増した脚は、止めるに止められない。
暗くて先の見えない、この下り坂が終わるまで。
◇
「あ? 何のjokeだ。こりゃ」
奥州筆頭。右目に眼帯、左目に一際鋭い眼を持つ英傑、
伊達政宗。
独眼竜の異名を持つ彼は、その左目で目の前にある山を睨みつけていた。
山といっても、そこにあるのは『本の』山だった。
高々と積み上げられた山は、小さめの教室であれば一杯にしてしまいそうである。
その山は本屋でもフリーマーケットでもない場所に広げられ、不法投棄で文句を言われそうな有様であった。
「こんなもんよこしやがって。殺し合えってんじゃなかったのか?」
ド派手な高級武士の装束を纏いながら、欧米人のように手を広げて肩をすくめる。
「まったく気にいらねえ、気にいらねえなあ」
伊達政宗は、奥州筆頭として、戦乱の世に天下を目指す身である。
当然、敵兵を殺す。軍を指揮して人を殺す。自ら刀を振るい人を殺す。
だが、それは自らの意思、あるいは志の元に、だ。
他人の都合で殺し合えと命じられて殺しあうなど虫唾が走る。
切れ長の眼をすっと前に向けた。
デイパックを開くなり、バサバサバサバサッと溢れ出て場を占領した本の山。
一体どんな書物をよこしたのかと、あきれながらも無造作に山から一冊を手に取る。
【恋殿無双<第弐章>】
『信長との禁断の恋に心揺れる光秀に、藤吉郎は抑えきれない情熱をぶつける。三角関係の行方は……』
そんな煽り文とともに男同士が濃厚に絡みあう挿絵が描かれてた。
「……………………………………」
無言のまま手の中の本を山に放り捨て、山をがさがさと乱暴に漁る。
どれもこれも似たような内容の本ばかりだった。
「Shit! 何の役にも立たねえゴミじゃねえか! 喧嘩売ってやがんのか」
このまま捨て置こうと本の山に背を向ける。
こんなものしかないのかと、再びデイパックに手を伸ばしかけたときだった。
空から飛んできた少女が、『ゴミ山』へと不時着した。
◇
「神原駿河だ」
いぶかしむ独眼竜の視線に晒されながらも、空から飛んできた少女は堂々と名乗った。
もっとも、飛んできたわけではなく、斜面から落ちてきたという方が正確な表現である。
斜面の終わりが、伊達政宗の撒き散らした『ゴミ山』だったのだ。
神原が突っ込み吹き飛ばしたおかげで、辺り一体がBL本だらけである。
「神原駿河。得意技は二段ジャンプだ」
「……………………………………」
「おっと、失礼。
今の場面で二段ジャンプが得意といっても、お前は一度しか飛んでないではないかと言われてしまうな」
訂正しなくては、と一度落とした視線を戻し、真っ直ぐ前をみる。
眼帯の男を前に堂々と、威風堂々と言っていいほどの立ち姿で言葉を続ける。
ただ、立っている場所が未だにBL本の山の上だけに、まったく格好がつかない。
「神原駿河。得意技はBダッシュだ。
……ああ、別に阿良々木先輩のようなウィットにとんだ切れのいい突っ込みを期待しているわけではない。
達急動や縮地法になぞらえて小気味いい返しを聞いてみたい気もしなくはないが、
それはまた阿良々木先輩に会ったときに機会に取っておこう。
おっと、言うのが遅くなってしまったが、私はあなたに危害を加えるつもりはない。
なので出来ることなら、突然襲い掛かってきたりしないでくれるととても助かる。
まだ私は死にたくないし、こんな事態に巻き込まれて恐怖を覚えたりもしている。
さて、勝手に名乗り、長々としゃべって何をと思われるかもしれないが、
こちらは実に三度も名乗ってしまったわけだし、良ければあなたの名を教えてもらえないだろうか」
ここまで一息で淀みなく明瞭に言って、言葉を区切った。
辺りに久しぶりの静寂が戻る。
伊達政宗は、突然現れた少女を前にして、腕を組み立っていた。
ふてぶてしさを感じさせる立ち姿。
馬に乗っても脚の力だけで体を支え、腕を組み行軍する政宗のいつもの姿とも言えた。
やがて政宗は実に面白いと口角を上げる。
「……Ha! Ha、ha! まったく行儀の悪いお客さんだ。
だがいいね、いいよ。いきなり俺の前に表れてそれだけ堂々と出来るとは。
馬鹿は嫌いじゃない。Good、ほめてとくぜ。
名乗りを上げてやる。俺は――――、奥州筆頭、独眼竜伊達政宗だ」
◆
この二人の出会いから少しの時間が経った後。
神原駿河は、こう振り返った。
結果オーライとはまさにこういうことを言うのだと。
結局、伊達政宗が主催者がの目論む殺し合いをするつもりがないとわかったので良かったが、
遭遇した相手によっては、出会いがしらに殺されていてもおかしくなかった。
それだけ、あのときの私は混乱していたのだろう。
顔をあわせた後、普段をなんとか取り繕えただけでも僥倖だった。
帝愛グループを名乗った主催者の言葉。
悪趣味な演説が記憶に新しく、血飛沫の赤とともに鮮明に覚えている。
その中で、こと鮮烈に、まったく別格にな存在感で私に迫ったのは、
「とにかく、不可能を可能にすることが、願いを実現させることが……我々帝愛にはできるっ……!」
という部分だった。
いやもっと限定してもいい。
『願いを実現させる』
誰もがかなえたい願いや望みくらい持っているだろう。
願いを叶える。
私にとって危うく堕落しそうになる甘い言葉であり、弱い自分を想起する苦い言葉でもあった。
猿の手。レイニーデヴィル。
神原駿河が先だって行き遭った怪異。
『願いを叶える』怪異。
バトルロワイアルと語られたこの状況で、自分は最愛の
戦場ヶ原ひたぎの生を願ってしまうのではないか。
自らに宿す悪魔に。あるいは、殺しあえと命じた者たちに。
私は思わず鳥肌が立つほど戦慄していた。
《開会式》で金髪の少女の首が飛んでから、暗い坂道を駆けている間も。
まず何よりも誘惑に負けかねない自分自身が怖かった。
今は、出来ることならば何に対しても願わずにすむように。
そう願いたくなった。
◇
時系列は元に戻る――――。
「俺の天下取りへのなかなかいい景気付けだったぞ、神原駿河
信長を倒し、主催者を名乗る気にいらねえやつらを潰してな」
ここに仁王立ちするのは、自ら信じる生き様を貫く一人の竜。
織田を倒し、主催者を名乗る気に入らないやつらを潰す。
まるで今から楽しいpartyの始まりだと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべている。
「なるほど。天下か。
矮小な私には、全く想像のつかない世界ではあるが、随分と魅力的な話だ。
微力ながら協力させてもらいたい所存だぞ」
「協力なんていらねえよ。邪魔しなけりゃいい。
あとは好きなように、したいようにするのがいいさ。You see?」
伊達政宗は神原駿河を面白いとは思っても信用はしていない。
だがそこは荒武者揃いの伊達軍を統率する奥州筆頭。抱え込む器は備えている。
「ふむ、では好きにして、というわけではないが、一つ頼みがある。
実は私が飛び込んだせいでここに散乱しているものについてなのだが、
どうやら私の家から持ち出されたもののようなのだ。
証明することは出来ないが、例えばこのアンソロジーの汚れなど寸分違わず私のものと一致する。
コレクション内容も間違いなく私のものだと断言できる。
例えばこれは戦○無双というゲームの同人誌で、
『ショタ政宗受け、幸村へたれ攻め』モノなのだが、なかなかの秀逸な出来だぞ」
さすがの独眼竜も、この発言は予想していなかった。
【B-4/森/一日目/深夜】
【伊達政宗@戦国BASARA】
[状態]:健康
[服装]:眼帯、鎧
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(未確認)
[思考]
基本:自らの信念の元に行動する。
1:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。
2:信長、光秀の打倒。
[備考]
※参戦時期は信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点からです。
【神原駿河@化物語】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3(未確認)、神原駿河のBL本セット
[思考]
基本:殺し合いをしたくはない。
1:出来れば戦場ヶ原ひたぎ、
阿良々木暦と合流したい。
2:政宗と行動を共にする?
[備考]
※アニメ最終回(12話)より後からの参戦です
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最終更新:2010年01月23日 10:00