前夜祭の黒騎士たち ◆0zvBiGoI0k
バリバリと、皮が裂ける音がする。
ボリボリと、咀嚼の音が響く。
ゴキュゴキュと、嚥下の音が止まらない。
それは腹を空かせた獣の食事の時間。
果肉と油の塊と成り果てたトーストを獣肉のようにかぶりつき、生地を食い千切る。
フライパンで熱しただけの肉厚のベーコンを切らないままぱくり。本物の肉の味を楽しむ。
右手には泡立つ黄色の液体。ジョッキ満タンに注がれたそれを一気に喉に流し込む。
喉の奥が燃え上がる、久方ぶりの生の実感。肉も殺しもつまみにしてこそ酒は旨いとばかりに。
飲みこむ手間も惜しいのか、片手で器用に卵の殻を割り、焼きも煮もせず生で頂く。
観客の嫌悪の視線など気にも留めず、腹の底を埋めるためひっきりなしにかっ喰らう。
獣に礼儀作法など一切不要。下に肉片を撒き、小さな口を淫らに開けては閉め、噛んではしゃぶり、口元の汚れを正そうともしない。
今までの欠乏を埋めるように、これからの生を存分に愉しむために、ひたすらに貪り続ける。
杯を直に掲げ最後の一滴まで残さず飲み干し、ようやく食事は終わった。
■■■■■
「――――――ふぅ、喰った喰った。ようやくまとまなメシにありつけたぜ」
黙々と喰い荒していた獣、
アリー・アル・サーシェスという少女はようやく人語を発する。
深紅のチャイナドレスに引かれた扇情的なスリットを惜しげなく広げ大股に座り、ソファにだらしなく体を預ける。
一足先に休憩がてら食事を取っていた俺と憂を見てか、サーシェスは思い出したように空腹を訴えた。
冷蔵庫から適当に食糧を持ち出して目の前で喰い始める事数分間、俺達は飢えた肉食獣のような食事光景を見せつけられることとなった。
親父臭く楊枝を咥える顔と散乱している残骸を見比べて、小さく溜息をつく。
ちなみに憂が作った料理には全く手を付けていない。
というより付ける余地をなくしていた。憂が。
元々少ない量だった上、残った分も憂が処理してしまったためサーシェスが口に入れる隙を与えていなかった。いとあはれ。
その憂は何をするでもなく、隣で同じくサーシェスの食事を眺めていた。
視線は鋭く、親の仇でも見るような目付きだった。
表から窺えるのは、敵だった女への拒絶と否定。
裏に潜むのは見えぬ何かへの、大きな怯えと恐れ。
終始、小さく体は震えていた。知らず掴まれていた手からは汗が溢れ血の気が失せていた。
サーシェスとの相性が良くないことは前からも知っている。それは正しいものだし、そうでなくては後々の布石でも支障をきたす。
これまでも嫌悪の態度を見せていたが、そこまでなら決して問題にするものでもなかった。
だが今までよりなお一層に露骨で過剰な状態。単なる敵意以外のものが含まれてるのは確実だ。
どうやら、自分の知らぬ間にこの2人の中で何か関わりが出来ていたらしい。当然、悪影響の方向で。
傭兵に女子高校生、自負できる程に最低の組み合わせであるが、この時ばかりはこの3人はチーム、命の共同体だ。
こんな劣悪な関係ではまとめて全滅する危険がある。連携の乱れは戦場では最大の命取りだ。
今更憂とサーシェスとの関係については修復不可能。ならば自分がその間に入ることでバランスを保つ他あるまい。
「―――さあてと、だ。腹も膨れたことだしここからは仕事の話といきましょうか」
そんな思考にあった俺の意識を、甲高くも野太い声が引き戻す。
目を上げた先にはあどけない顔をした少女。
だがその瞳に宿るのは飢えたる猛獣。
その心中に住まうのは、無数の危難を切り抜けてきた歴戦の傭兵。
求めるは戦火。対価もまた戦火。
焦げ付いた戦の匂いを忘れられないワイルドギース。
戦争屋アリー・アル・サーシェスとしての目で己を見据えていた。
「これからどうすんだい旦那。まさかとは思うがこのまま呑気に物見遊山とはいわねえよな?」
整った顔立ちを台無しにする下品な破顔。綺麗に揃えられた歯も心なしか犬歯に見える。
獰猛な顔の裏では冷静に、冷徹に雇用主を値踏みしている。
興を冷ませるような対応をすれば、即座にその牙はこの喉に喰らい付くだろう。
文字どおりに野獣のサーシェスに対し、慎重に思考を広げる。
「当然だ。ここからは次の段階に移る。いつまでものんびりしてる暇はない」
幸か不幸かはさておき―――多少なりとも情による関係で結びついてる憂とは違い、サーシェスとの関係は実にビジネスライクだ。
互いにメリットがあり、利益を得られるという一点のみで結託している契約関係にある。
雇い主と雇われの傭兵。そこに不確定な要素が入り込む余地はない。
俺はもちろん、サーシェスもまた余計な茶々を混ぜることはしない。
こちらにとって奴はひとつの戦力であり、奴にとって俺達は武器と戦場の提供者でしかないからだ。
利用価値がないとわかれば容易に切り捨てられるが、逆説に問えば価値がある間ならば一定に信頼が持てるのだ。
そして、契約の任期はこちらの采配一つで問われる。
そこは商売の世界と何ら変わりない。流通物が直接の生命か否かという点くらいだ。
「そりゃあ安心だ。それで、さしあたっては何をするんだ?」
「手に入るだけの戦力は集めた。これ以上ここの探索は徒労になるだろう。次はその運用法を考えていく。
……そうだな、まずは情報の確認といこう」
廃ビルの調査は終え、その過程で紅蓮等の武装の確保はできた。現時点での最高の装備だろう。
次は集めたそれらの使い道を考えていく番となる。
それと、今のうちに自軍の置かれた状況の整理をしておきたい。
揃えた手駒の編成と的確に王手をかけるための戦略の確立。俺という駒が持てる能力の本領発揮だ。
僅かに溜めを作り、空気を引き締める。
感傷を捨て、感覚を置き去り、雑音を取り除く。思考を高速、並列、分割して望む未来を計算する。
「5回目の放送を越えて生き残った参加者は俺達を含めて12人。この殺し合いもいよいよ佳境に入った。
次に起きる大規模な戦闘が最終戦になる可能性が高い」
俺の言葉に憂は息を呑み、サーシェスが唇を吊り上げる。
冗談でも脅しでもなく、正真に次の戦いが最後になると思っている。
ここ以外でも戦闘は当然起こっているだろう。生き残り全員が一か所に集まり、大混戦になるのも十分あり得る事態だ。
その時のために、今ここで出来るだけの戦略を練っておくのが肝要だ。
突発的事態に対応し辛い己の欠点は熟知済み。幾度なく常識外の存在を目の当たりにしてきた分、より細かい分析が求められる。
何名かの名前に対し―――もはや予想するまでもない―――小さく体を震わせた憂を無視したまま話を進める。
「―――まずこの中で味方に回ると断言できるのはスザクだけだ。なるべく早期に合流することが望ましい」
ナイトオブゼロに任命時から連れて来られたと裏付けが取れている以上、これは間違いない。
生身での身体能力もナイトメアの操縦技術も超級の域、戦略の幅を大いに広げられる。
次代の『ゼロ』。全ての咎を自分が背負った後の世界を託すためにも、何としても生きて還さなければならない存在だ。
「随分とソイツを買ってんだな。マブダチってやつかい?」
「当たらずとも、遠からずだな。強さについては直接体験したお前なら分かるだろう?」
俺とスザクとの間にある関係は、サーシェスはもちろん憂にも教えていない。
ある意味でこちらの弱みといえるものだ、不用意に情報を与える真似はできない。
「ああそりゃ納得だ。あん時ゃマジ死ぬかと思ったぜ。まあ実際殺されてんだけどなぁ!」
ぎゃははは、と。
宴会でかますジョークのように気軽に笑い飛ばすサーシェス。
だが、その裏にはドス黒い念が見え隠れしているのが見て取れる。
サーシェスからは、ギアスによりこれまでの会場での動きの大体を聞いている。
主な焦点は主催に関してと死亡から蘇生のあらましだったが、その中で元の肉体を死に至らしめたのがスザクだと判明している。
仮とはいえ自分を殺した相手をそうそう許せるとは思えない。
ましてやコイツは期限付きの日雇いだ。報復に来ることは十分考えられる。
「分かってるとは思うが妙な気を起こすなよ。契約はまだ施行中だろう」
「わーってるよ。報酬も先払いしてもらったんだ、その分キッチリ働くし裏切りもしねえさ」
釘を刺す忠告も、糠に打ち付けた感触で軽く流される。
暗に、『契約が切れ次第殺す』と宣告したような返答で。
正面からならばスザクが遅れを取るとは思えないが、乱戦の不意を突かれるようなことがあれば、万が一ということもある。
自分にはそれを制する膂力はない。だが手懐ける調教の鞭と手綱は一級品だ。
合流以降は、しっかりと握る必要があるだろう。
「……あれ。ルルーシュさん、式さんはどうしたんですか?あの人も味方ですよね?」
味方というキーワードで思い出したのか、少し前まで行動を共にしていた両儀式のことに触れる憂。
サーシェスの襲撃の折り、単独行動に出た澪を探すといったきり式とは音沙汰なしだ。
放送で名を呼ばれてない以上生きてはいるがその状況はようとして知れない。
持たせた通信機が壊れた、負傷して動けなくなっている、可能性は幾つも思い当たる。
だが自論で言えば……その線は薄い。
「―――式は、おそらく戻ってこないかもな」
「え?ど、どうしてですか……?」
震える声で憂が問う。
澪の裏切りを知らせた時よりは小さいが、それでも動揺は隠せないようだ。
「元々、俺達とはそりが合わなかったみたいだからな。
会話も殆どがデュオを通してのものだったし、他人と関わりを持ちたがらない性格なんだろう。
そのデュオも死んだと分かった今、ここに戻ってくる保証はない。通信機にも何度かかけたが今も連絡がない。
最悪、澪達の側へ付いてる可能性もある」
「そんな…………」
俺に関しては始めから信用されてなかったようだしな。と心中で吐きながら。
サーヴァントと渡り合える戦闘力は魅力だったが、腹の内どころか顔すら碌に見合わせない間柄ではいずれこうなると予想はしていた。
思えばあの時の発言から違和感があった。
明らかに他者との馴れ合いを好まなさそうな式が自ら澪の探索に出る。考えて見ればこれは大きな疑問。
澪と桃子と秘密裏に繋がっていたように、式も澪と少なからず関係を持っていたのかもしれない。
それが澪達と共謀していたことと同義とは言えないが、自主的にここに戻ってくる見積もりは低いと言わざるを得ない。
確実に敵とはいえないが、味方と呼ぶには信頼が足りない。そんな微妙な境界の立ち位置。
それならば障害の側と認識していた方が影響は少ないだろう。
「これこそお前とは無関係なことだ。何も気にすることはない」
「……………はい」
納得はしたが不安はある、といった表情で押し黙る憂。
式とは全くといっていいほど会話など交わしていないはずだが、顔に落ちた喰らい影は落とされたままだ。
今の憂にとって何かを失くす、自分の前からいなくなるということは禁忌に等しい事柄なのだろう。
姉への思いを失い軽くなった身は支柱のない家のように恐ろしく脆い。
何かに依存しなければ自己すら保てない、破綻と矛盾に絡まれた螺旋の心理。破滅の免れない空虚な器。
そうしたのはまぎれもなく、俺だ。
他ならぬ俺が彼女をそういう少女に仕立ててしまった。
その罪を受け止めてはいても、償うという選択肢は、きっと俺には許されないのだろう。
「一定以上に注意しておくべき人物には、阿良々木、澪、桃子、一方通行の4人が該当する。
といっても、4人の間では危険度にある程度の開きがある。
まず明確に敵対している桃子、それと行動を共にしているだろう澪とは対決は避けられそうにない。
一方通行は未知数な点が多いが、おくりびとで数回出て来たことから警戒はしておいて損はない」
「――――――――――――」
それに何の思いも抱くことなく、次の考察を進める。
今度は静かに、だがそれ故に顕著に大きな反応を見せる憂。やはりそれに構わず口を動かす。
「対策はあんのか?黒髪の嬢ちゃんはともかく消える女……ステルスだっけか?の方は厄介だぜ。
戦力比からも性質的にも、真正面から向かってくるなんてことはまずあり得ねえ。間違いなくドサクサに紛れて不意打ちしてくるぜ」
「確かにな。だが来ると分かってる奇襲が脅威になるか?やりようはいくらでもあるさ。
理想は逆にこちらから奇襲をかけることだな。桃子自身のスキルは低い、上手くやれば簡単に無力化できる。
澪に対しては簡単だ。『油断しないこと』これに尽きる。
窮鼠は猫をも噛むからな。それさえ忘れなければ問題ないだろう」
サーシェスと会話する傍ら、ちらりと横目で見やる。憂の面持ちは沈痛だ。やはり精神の消耗はかなり大きいとみえる。
今後の戦いのためにも休めたいが、まだ聞いておかねばならないことがある。
「憂、念のために聞いておく。今でも阿良々木暦を殺したいと思っているか?」
正直、既に俺にとっては阿良々木暦は排除対象とは言い難い男だ。
情報の行き違いと誤解から処理の標的として定めていたが、それから半日も経過してその意味は薄れつつある。
見た目と人物像からいって、阿良々木暦が単独で強者を屠るだけの力と知恵を持ってるとは考えづらい。
そしてこの局面で集団に属しているのなら、そこにスザクも加わっている目算は非常に高い。
であるのならば、自分との間の誤解も解けているのではないか。
スザクもここで対立して余計な軋轢を生む真似はしない筈。桃子も離反した今、和解とまではいかなくとも協調にまでは踏み入れる余地はある。
ならば、重要なのは個人的な執着を持つ憂だ。
彼女は果たして今も阿良々木暦に明確な殺意を抱いているのか―――
「?ありますよ?阿良々木さんはブチ殺すに決まってるじゃないですか!」
「―――――――――」
即答。あまりに早い回答だった。
さっきまで澪や式に大きく揺さぶられていたとは思えない。むしろ快活なくらい色のある声だ。
思わず呆気にとられる。
阿良々木暦と憂との因縁は、実のところあまり把握していない。
暴行を受けたというわけではなく、むしろ憂が阿良々木を襲い返り討ちにあったということくらいだ。
いったいどれだけの事をしでかせばこれだけの怒りと殺意を抱くのだろうか。
……逆に言えば、思いを失ってなおそれだけ執着しているということなのだが。
執着といっても、解釈を返せばそれは一つの依存の形だ。
守るものを奪われた時、人は残された思いを憎悪へと転化させ生きる糧を得る。
殺すために生涯を費やす復讐者などが良い例ではないだろうか。自分もその一例だ。
憎悪にせよ執着にせよ、良し悪しは別にすれば、強い感情は生きる気力になる。
あるいはそれを転化させれば、遠くない破滅を約束された少女に救いの道を開くことが―――
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警告、警鐘。
頭痛、暴動。
危険。危険。危険。
思考、遮断。閉鎖。脱線。断線。断層。隔離。
「ルルーシュさん?」
「―――そうか、わかった。お前の好きにするといい」
思考を打ち切れ。忘れろ。録音を消去しろ。
そんなことは、考える意味がないことだ。必要のないことだ。
今更……俺が彼女に何をしてやれるっていうんだ。
頭痛のせいで思考が散発しているのだろう。気を入れ直さなければならない。
無理やりに纏め上げ、脳を再稼働させて早々に話題をごまかし次に移る。
■■■■■
「天江衣は情報の限りでは麻雀以外では非力な少女でしかないそうだ。桃子とも切れた今、特別関わる必要性は薄いと見ておく。
グラハム・エーカーに関しては全くの情報なしだが……サーシェス、お前は知っているか」
「俺の世界じゃ名の知れたMSパイロットだそうだぜ。もっとも会ったことはねえし、俺が知る限りじゃ死んだか行方不明だかって話だけどな」
「ここまで来た以上、同姓同名ということはなさそうだな。モビルスーツがあれば引き寄せる餌にはなるか―――」
異なるルートで動いていたサーシェスを併せて情報の整理は滞りなく済んでいく。
大方の考察は出揃った。ここからが本番。この会議を始めた理由の大半。
今まで上げた人物は、危険度の差こそあれどれもある程度の対策というものが見えている。
未知数の部分も状況によって柔軟に対応するだけの余地もある。
だが、次の相手には特に入念に練る必要がある。
それだけの、最大限の警戒を以てして考える必要があると判断したまぎれない敵。
「織田信長。こいつが俺達が最も警戒すべき敵だ」
おくりびとで見た顔を想像し、仮想の敵を思い返す。
壮年に入った年頃、映像越しでも伝わる鬼の如き気迫。第六天魔王と後世に恐れられた通りの形相だった。
「こいつの情報自体は決して多くはないが、それでも間違いなく最大の障害として立ち塞がることになるだろう」
「へえ、根拠は?」
「簡単だ。少ない情報だけでも危険な要素が満載だからさ」
織田信長に関して集まっているマトリクスは確かに多くはない。だがその少ない情報でその戦力、性質が容易に窺い知れる。
サーヴァントと同等の力量の戦国武将。
凶行を繰り返し続けた
明智光秀の上官。
直接対峙した式とデュオからの証言(一瞬だけとはいえサーシェスも含む)。
現在でも生き残っていることもよりその剛健さを裏付けている。しかもこれで最低限の推察なのだ。
過去のサーヴァント戦での経験から、常に想定以上の強さを誇っていると見なしても問題ない。
それを見積もれば、その強さは規格外としかいいようがない。
「戦国武将でも屈指の威名、
バーサーカーと同等以上の扱いをしても過大にはならないはずだ」
そしてニホンの歴史を学べば必ず目にする知名度の高さ。
……俺の知識が正しければ、歴史上の信長は常識にとらわれない戦法を軸にして成り上がった大名なのだが、今となってはどうでもいい。
「…………!」
「―――で、そいつに勝つ見込みはあんのかい旦那」
身震いする憂に、ここまでで一番の真剣な顔を見せるサーシェス。
憂にとっては、思いだしたくない恐怖の象徴であろう狂戦士を越える敵となれば、警戒と畏怖を抱いても無理もない。
サーシェスとしても信長は排除には相当手間取ると考えてるのだろう。傭兵の勘は遠目とはいえ直に見た威圧感というものを感じ取っている。
俺自身、バーサーカー以上の強さというものに予想がつかない。
だが。
「勝つさ。勝たなくてはならない。どんな相手だろうとな」
強大さ、正体、そんな要素はたいした問題ではない。
敵の手の内が見えないなど至極当然。ようはそれを叩き潰すだけの実力があるかどうかだ。
そしてルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとっての実力とは即ち権謀術数。
策を弄し術を携え、足を掬う戦略構築に他ならない。
実際勝算はある。一騎当千の勢いを持つバーサーカーを斃せたように、しかるべき手さえ取れば決して太刀打ちできない存在ではない。
バーサーカー戦時とは数の上では劣るが戦力比でいえばむしろ上昇している。勝利への方程式は組みつつある。
「俺の見た手では、戦国武将及びサーヴァントの戦闘力は高性能のナイトメア一機分と想定している。
俺達の戦力は紅蓮とリーオー。馬力はリーオーの方が上だが対象が人間大では狙いが付けにくいだろう。
よって前衛に憂に置き、後衛でサーシェスが援護射撃、俺が指揮を執る陣形を基本としていきたい。
紅蓮の性能なら決して見劣りしない筈だ」
憂の身に秘められた才能は芽を開き、操縦技術においても訓練を積んだ一般兵を上回る。紅蓮の性能も引き出せるだろう。
構築した戦略を解説して、横に座る憂に顔を向ける。
「当然、お前には大きな危険が付き纏うことになるが―――憂、できるか」
不安げに俺の顔色を窺う、子犬のような仕草。
戦う意志はあるか。命を懸ける覚悟はあるか。俺を信じてくれるか。
既に幾度なく行われた問い。それを再認識させることで、彼女の戦意を促す。
なんて、卑怯。選択肢なんて、とうの昔に奪ってしまったというのに。
「―――出来ます。大丈夫です。
ちゃんとやりますから。私が、ルルーシュさんを守りますから……」
予想通りの、都合のいい返事。分かり切っていた回答が耳に届く。
潤んだ瞳は俺から目を離さない。それが最大の信頼の証というように。
あなたを信じます。あなたを頼ります。あなたのために働きます。
必死に暗示を自己にかけ続けている。
「ああ、頼んだぞ」
「はい…………」
それを指摘することなく振る舞う。このまま騙し続けることが俺の役目だと戒めて。
せめてこの瞳だけからは目を逸らさず、真正面から受け止める。
欺こう。
演じさせてあげよう。
俺の紡ぐ優しい嘘に。
だって、彼女には。
もう、俺しかいないんだから。
……いないのだろうか、本当に。
「2人の世界のところ悪いけどねえ、そろそろ作戦のまとめといかねえか?」
完全に蚊帳の外状態のサーシェスの声を受け咄嗟に離れるく憂。
何故だか、顔が赤い。涙をこらえているせいだろうか。
確かにこれ以上のフォローは無用か。話の路線を元に戻す。
「そうだな、今からすることはこの船の武装化だ。幾つか余った装備があるし、それを遠隔操作できるようにしておきたい」
戦いとなればこのベースは大きな的にしかならない。大型船舶ということに安心し切れないのは承知済みだ。
2人の戦いをサポートするためにももう一手欲しい。戦艦とはいかなくとも護衛レベルのものを備えおく。
「憂、装備の配置に手伝ってくれ。紅蓮の慣らしも兼ねて動かしておけ」
「はい。あ、でもルルーシュさん……」
従順に頷く憂だが、俺の横を見て少し戸惑う。
視線を追えば、赤い中華服に身を包んだ茶髪の少女。
どうやら、俺とサーシェスを残すことに不安があるらしい。
「気にするな、俺も後で来る。それにこいつには何もできないさ」
今はまだな、と心中で付け加える。サーシェスはそれに何も言わない。
気付いてないか、あるいは勘付いた上で黙しているのか。
憂はやや間を置いて、不承不承ながらも了解したように扉へ歩く。
だが出ていく前に振り返って一言。
「ルルーシュさんにヘンなことしたら、絶対に許しませんからね」
そんな、奇妙な台詞を捨て残して部屋を後にしていく。
姿が消え足音も聞こえなくなってから、堪え切れないという風にサーシェスが吹き出した。
「うらやましい限りだねえ、ぞっこんじゃねえかあの嬢ちゃん」
「あまり不用意にからかうな。連携が乱れては困るのはお前の方だぞ」
俺としてはより円滑に動けるようにコミュニケーションを取っているつもりなんだがねぇ……、と呟きながら足を組みかえ頬杖を突く。
色気よりも健康さが発露されている、瑞々しい小鹿のような腿を曝け出し、嘲るように声を投げかけられる。
年端もいかない少女の肉体に中年男性のような振る舞いはひどい倒錯感を覚えさせる。
ある意味でそれは誘惑だ。獲物を誘い仕留める肉食獣じみた姿勢だ。
「旦那こそ人のこと言えるか?あんだけベタ甘にされりゃあ、色々考えもするんじゃねえのか?」
「そう見えるか?」
……………………
しばし、沈黙。
サーシェスの顔はふっ、と。さっきとは毛色の違う冷笑を浮かべる。
「――――いいや。旦那はそんなタマじゃねえよ。アンタの腹(ソコ)は分かってるさ。
目的の為なら何だって、俺も嬢ちゃんも、てめえさえも躊躇無く差し出すだろうさ」
そういう所が気にいったんだぜ。両手を挙げてポーズを取りながらそう答える。
こいつは、自分が切り捨てられるということを勘定に入れた上で俺に従っている。普通に考えなければ狂ってるとしか言いようがない。
当然気狂いの妄言ではない。自分の札に手がかけられる直前に逆に出し抜く算段を立てている。
元々派遣扱いの雇用者、ここで離脱しても元の鞘に収まるだけ。何の問題もありはしない。
だがむしろ、このほうがいい。
今まで組んでいた相手とは馴れ合い過ぎた。その結果がこの無様でもある。
この傭兵との関係こそが、俺が慣れ親しんできた、俺に相応しい他人との間柄だ。
人を従え、隷属し、支配し続けて来たあの頃の自分。
このいつ背くとも知れない獣を傍に置くことで嘗ての自分を取り戻す。
これからの戦いに必要なのは、悪逆皇帝としての冷酷さ。
「さあ、休憩時間は終わりだ。ここからは休みなしと思え。一層働いてもらうぞ」
「はははっ望むところだねえ。んじゃ精一杯お仕事といきますか!」
景気づけとばかりに、手をかざす。
スリットを捲り露になる太腿にまき付かれた紫の布を振り回す。
すると棒はみるみる内に硬質化して、身の丈を越える棒となりサーシェスの肩に乗せられる。
流体金属製というその布は電流を帯びることで形を変える材質でできている。懐かしきホールからの戦果のひとつだ。
澪と俺の部屋に別個にして置いていた支給品の詰まったデイパックから、サーシェスが使える武器として渡したものだ。
これ以外にもまだ使える品が残されている。これと自販機を活用すればそれなりの防備を作れるだろう。
■■■■■
3つのデイパックを抱え前を進むサーシェスを見て、誰にも気取られぬ視界で思考を別のものに切り替える。
裏に潜む存在、
リボンズ・アルマークという黒幕に関しての情報は殆ど得られていない。
直接の情報源はサーシェス一人だし、その本人から有用な手掛かりには辿り着けなかった。
ギアスの支配下での質問で沈黙を通したという事は、本当にサーシェスは何も知らないということだ。
今の俺同様、リボンズの私兵として動いてきたサーシェスでは容姿程度しか知るものはない。
一見手詰まりの現状であるが、それに反してこの殺し合いそのものに関しての手掛かりは各地に置かれていた。
会場内の地図。
ダモクレスの設計図。
そして廃ビルで手にした首輪の設計図。
つまり殺し合い抗するための手段は多数あるが、元締めであるリボンズ本人に関しては一切の情報がないのだ。
これの意味する所。単に俺達の殺し合いを観戦するがためでないのは明らかだ。
ネット麻雀やチェスと同じ要領だ。顔が見えなくとも出した手を見れば次の動きも読めてくる。その先の読み合いこそがボードゲームの真髄。
これまでに集めた断片を、一本の線に形作る。
(敵は相当の自信家。俺達が集められる程度の情報では自分の元へ辿り着かないと確信している。
その上で首輪の情報を流し俺達が自主的に脱出するように―――殺し合いが成り立たなくなるように仕向けている。
つまり優勝者の決定の是非は問わない。脱出して喜ぶ俺達を嵌めて嘲笑うためにしては手が込み過ぎている。
奴は一体何をしたい?俺達に何をさせたい?)
しかし答えは出ない。数式を解くためのピースはあまりにも足りず、解答時間もリミットが近づいてきている。
焦りは禁物とはいえ時間オーバーでは話にならない。疑念は躊躇を生み、行動を遮らせる。
故に一端打ち切る。正しい答えに辿り着くには時を置くことも重要だ。熱くなり過ぎた考えを冷まし、柔軟な思考を取り戻させる。
皮算用ばかりで目前の戦いを疎かにしては話にならない。今はこの準備を進めておく方を優先する。
だが、必ず。何としてもその影を暴いて見せる。その玉座から引き摺り下ろして見せる。
リボンズ・アルマーク。
お前は誰かを撃つと同時に自分も撃たれる覚悟があるか。
人を撃つということの重みと、それに伴う痛みが理解できてるか。
ないのだとしたら、俺がそれを理解させてやる。
だから、待ってるがいい。
【D-1 廃ビル前(ホバーベース内)/二日目/朝】
【
ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(中)、右腕骨折、頭部に裂傷(処置済み)
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス 、頭部の包帯
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、2億200万ペリカ、盗聴機×7、発信機×5@現地制作、通信機×5@コードギアス、不明支給品(0~1) 、
単三電池×大量@現実、和泉守兼定@現実、フェイファー・ツェリザカ(弾数2/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実、
USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、首USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2) 、輪の詳細設計図@現地調達、オートマトンx3@機動戦士ガンダム00
[思考]
基本:枢木スザクは何としても生還させる。
0:戦闘の準備をする。
1:首輪を取り外すためにもう少し情報が必要。
2:殺しも厭わない。憂、スザク以外は敵=駒。
3:スザクと合流したい。
4:サーシェスを上手く利用する。
5:主催の目的を探る。
[備考]
※首輪の解除方法を知りました(用意次第で解除可能)
【
平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:アシュフォード学園女子制服
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(4/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×44、さわ子のコスプレセット@けいおん!
紅蓮弐式の起動キー@コードギアス 反逆のルルーシュR2 、アシュフォード学園女子制服
[機動兵器]: 紅蓮弐式
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
1:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
2:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
3:阿良々木さんはブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
4:東横桃子は敵と見なす。
5:思いを捨てた事への無自覚な後悔。お姉ちゃんは私の――。
6:澪への未練
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:左頬に湿布、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身、 右腹部に傷(治療済み)、
[服装]:チャイナドレス(パンツはいてない)、首輪、
ファサリナの三節棍@ガン×ソード(太ももに巻き付けてる)
[装備]:コルトガバメント(6/7)@現実、予備マガジン×1、
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、接着式投擲爆弾×2@機動戦士ガンダム00
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(0/1/)発/予備40・9発)@現実
ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録 、
[機動兵器] :OZ-06MS リーオー
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
1:ひとまずこの集団に属して立ち回る。
2:好きなように動く。
3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
4:式、スザクには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
5:影の薄い女にはきっちりとお礼をする。
【ホバーベース】
現在はD-1廃ビルに停止中
※以下の荷物を3人で運んでいます。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。結構な量をサーシェスが食い散らかしました。
※下記の機動兵器が格納されています。
[―――]:RPI-13サザーランド
装備:スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[平沢憂用]:紅蓮弐式
装備:輻射波動機構、呂号乙型特斬刀(特殊鍛造合金製ナイフ)、飛燕爪牙(スラッシュハーケン)×1
[アリー・アル・サーシェス用]:OZ-06MS リーオー
装備:ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
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最終更新:2012年02月26日 01:39