大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) ◆XIzIN5bvns
カツコツと、ギャンブルルームから出入り口への順路…客室のドアが立ち並ぶ廊下を歩く。
気がつけば、同行者が握っている場所は自分の二の腕ではなく小さな手のひらになっていた。
いつの間にこうなっていたのだろう。あの部屋から出た時にはそうだっただろうか?
頭がぼぅっとして、よく思い出せない。何かを考えるのが非常におっくうだ。
さっきはあんなに楽しかったのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。
少女が受けたショックは、大きかった。
彼女は孤独な存在だった。父も母も失い、この世に生きる存在意義はただ一つ『麻雀』だけ。
その麻雀ですら、彼女をより一層孤独へと陥らせる要素でもあった。
たった一つの目的のためにその身を捧げ、それによって最も欲しい物を遠ざける。
けれど、そんなジレンマを抱えていたのも過去の事。
あの戦いをきっかけに、天江 衣は本当に麻雀を楽しめるようになった。
ようやく、麻雀を通して一番欲しかった物を手に入れられるようになった。
だからこそ、彼女にとって『麻雀』とは単なる卓上遊戯では無く、とても重要な物だった。
そして、先ほどの出来事はまるでそれを否定されたかのようだった。
衣は、麻雀がしたい。麻雀を通して、いっぱいいっぱい友達を作りたい。
けど、衣は死にたくない。父上や母上や……とーか、みたいに死にたくはない。
みんなの分まで、ずっとずっと長生きしたい。
でも、それじゃあ。
ぐるぐる、ぐるぐると同じ言葉が堂々めぐりを繰り返す。
何も考えられないような状態だったから、最初はまともに反応も出来なかった。
「先ほど、ペリカと交換で手に入るアイテムを調べていた時に面白い物を見つけた」
「……………そうか」
自分の手を引く男の言葉に、気のない返事を返す。
今は誰かと会話をしたい気分ではない。むしろ、一人になりたい。
まだ欲しい物が手に入れられなかった頃のように、ただ一人きりでどこかに。
「確かに、その殆どは仮面だの、着ぐるみだの、羽織袴のような…こんな状況でなければ興味深くはあるが、必要のない物ばかりではあった」
「…………………」
もう返事を返すのも億劫だ。聞き流してしまおう。
…こんな気持ちなのに、話し掛けてくる方が悪い。
「『麻雀牌セット』。役表や点計算用紙、初心者向けルールブックも込みで1万ペリカだそうだ」
「……………そんな物」
麻雀牌なんてどうでもいい。今衣に必要なのは、自由に楽しく麻雀が出来る――――
「え?」
「銃器類の相場を考えれば、決して高い買い物では無い。あっても無くてもいいような値段設定だ。
我々はペリカという物を持ち合わせてはいないが、何かと交換で手に入れる事は不可能では無いだろう」
ハッとした表情で自分を見上げる衣を意に介さず、グラハムは言葉を続ける。
ただ、立ち止まった衣に合わせて、手をつないだままで自分も立ち止まって。
「なに……私も麻雀については詳しくはないが、テーブルの上でも出来るものなのだろう?」
そう言うと、グラハムは顔を動かして少女と視線を合わせる。
そこに浮かんでいるのは優しげな微笑みと、僅かに見え隠れする気遣いの表情。
昔、どこかで見た事のあるような表情。そう、一人法師になってしまったあの時、自分に話し掛けてくれた、とても大切だった人のような。
衣の心に突き刺さっていた氷の杭が、ゆっくりと溶けだしていく。
「……っ……グラハ」
―――――――ギィィィィィィ………
少女の感極まった声を遮ったのは、無粋な軋みのノイズであった。
軍人・フラッグファイターの反応は素早い。即座に衣を庇うように前に立ち、手には拳銃を構える。
見据える先にあるのはノイズの発信源、未だキィキィと音を立て動いている客室の扉だ。
ほんの今さっき前を通ったばかりの扉が、不自然に半開きになっていた。
1秒、2秒。緊迫した沈黙が続く。
息が詰まるような空間に耐えきれなくなって、衣はグラハムに話しかけた。
「か……風で、勝手に開いたのでは……ないか……?」
「その可能性も否定できない。だが、ありとあらゆる状況を想定しておくべきだ」
衣の問いかけに即座に答え、彼はゆっくりと問題の部屋へと進んでいく。
その後ろ姿を見送りながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。心臓がズキズキ痛む。
この殺し合いが、衣の大事な家族がその命を散らしてから早数時間。衣は、未だに自分達に害を与えようとする人間には出会っていない。
その痕跡すらも、見つけてはいない。これが初めての経験だ。
未知である事はそれだけで恐怖を生む。自分を襲おうと息をひそめている悪漢がすぐ傍にいる気がして、衣は腕の中の相棒を強く抱きしめる。
やがて、グラハムが扉のノブに手をかける。
きっかり2秒ほど呼吸を置いた後で、彼は一気にそのドアを開け放った。
「動くな! ここは、大人しく」
怒号は不自然に中断された。続いて聞こえたのはヒュン、という軽い音。
何の音? 何かが風を切る音。刃物のような、鋭い何かが。
そう連想した時には、まるでばね仕掛けのおもちゃのように飛び出していた。
「グラハム!!」
自分に何ができるのかはわからない。ただ、不安だった。
自分に出来た友達、そして家族でもあったあの少女を失ったように、また誰かがいなくなるのを見るのは嫌だ!
ドアの前に立ったグラハムの脇から、部屋の中を覗きこむ。
果して、衣の目に映ったのは。
「…………その物騒な物を下せ。折角の酒が不味くなる」
椅子に座ったままで、包丁を棒に括りつけた槍もどきを中空へと伸ばしながら、ワインをラッパ飲みしている初老の男性だった。
※
利根川幸雄が、
グラハム・エーカーと天江 衣の接近に気付くのにそう時間は掛からなかった。
船の最上階にて飛ばしていたラジコンヘリの画像に、奇妙な馬に乗りながらこちらの方向へと向かってくる二人の姿が映っていたからだ。
その存在を発見したのは、一度アジト方面の偵察を終えてバッテリー交換と共にしばらく休息を終えた後の事。
音声を得る事の出来ないヘリカメラでは、この親子のような二人連れがどのようなスタンスかははっきりとはわからなかったが、
殺し合いにおいて足手まといにしかなり得ない子供を引き連れている事が判断材料となった。
恐らくは、進んで殺しあいに乗っているものではあるまい。ならば、どうするか?
利根川の目標はただ一つ、生き残ってこの会場から脱出する事……!
その為の手段は問わないが、年老いた自分が数十名の参加者を殺し回れるとは思わない…!
ならば、する事は一つ……! 手駒…! 自分の盾になるもの…! 自分の手足となるもの…!
それを、集める……! その為に必要なのは、集団を作り上げること……!
人数さえ集まれば、何らかの突破口が見つかるかも知れない…! それに掛ける…! 利根川、逆転の一手に全てを掛ける……!
多少の足手まといは許容する、それんな参加者でも肉の盾ぐらいにはなりえるだろう。
もちろん、見知った物がほとんどいないこの場所で、集団を作るのはそう簡単には行かない。
ただでさえ『殺し合い』という極限状態の中だ、疑心暗鬼が横行し先ほどまでの味方が即座に敵と変わる事もありうる。
だが、利根川には武器がある……! 一つの武器、おそらく参加者の大多数には通用するそれが……!
だから、利根川は彼らとの接触を選んだ…!
いざという時の武器を作るために、船のキッチンにて包丁と、掃除用具のモップの柄を手にいれ、
船内で見つけたガムテープを使い即席の護身武器を作っている間に、彼等は船内へと侵入してしまったが……!
結果オーライ……! 先回りにより、適当な客室に潜み…おびき寄せ…! 利根川は出会えた……! 自分の駒となりうる者…盾となりうる者……!
後は、己の話術次第……! 引きこめるかどうかは、利根川の実力によって決まる……!
既に4本目のワインボトルを煽りながら、利根川は次の一手を模索する…!
先に動いたのは、侵入者、グラハム・エーカーの方からだった。
「…銃を下ろす前に、尋ねたい。貴方はこの殺し合いに乗っているのか?」
「フンッ……!」
ありきたりな質問を受けた利根川の答えは、冷笑。苦虫をかみつぶしたかの表情でワインを飲みほし、酒臭い吐息を吐きながらグラハムを睨みつける。
「あ、あぅ……」
眼が座っている利根川に恐怖を感じたのか、ぬいぐるみを抱えた連れの子供が二、三歩後ずさったが知った事では無い。
「殺しあい……殺す……!? 出来ると思うのかっ…!? この老いぼれに…!
武器と言えばこの包丁ぐらいしかない…そんな人間に…! お前のような銃を持った男を殺せると…!?」
グラハムへと向けていた槍モドキをブンブンと空中で振り回した後で、忌まわしげに投げ捨てる。
それを眼で追っていた男は、やがて己の拳銃も懐へと仕舞いこんだ。
「機嫌を損ねてしまったのならば謝罪しよう。私の名はグラハム・エーカー。こちらの少女は天江 衣だ。私達も、殺しあいに乗るつもりはない」
「……………」
手短な自己紹介を聞き届けた利根川は、空になったワインボトルをディパックの中へと放り投げる。
たかがワイン瓶といえど、一応の武器にはなるだろう。
手ぶらになった利根川は椅子から立ち上がり、グラハムへと向き直る。
ここからが、本番……! 利根川は用意する…! 一つの必殺の武器を…! おそらく、この会場で唯一自分だけが持っている武器…!
事実、一人の老人が死んだ今となっては確かにその通りである武器を……!
「利根川幸雄……この殺し合いの主催グループ、帝愛の……幹部だった男だ……!」
「……!!」
その時……グラハム・衣に電流走る………!!
これが、利根川の武器……! それは、情報……!
追い落とされたとは言え、長い期間を組織の発展に尽くしてきた男、利根川……!
彼は間違いなく、この会場の生存者の中では最も、『帝愛』を知り尽くした男……!
これはおそらく、殺しあいにのった物でも…! 優勝を狙いながらも、黒幕である主催者の正体を掴みたがっている者にとっても、有効な武器……!
そう、あの因縁の相手……! 自分を蹴落とした…!
伊藤開司にとってもそれは同じ…!
だから、それを使う……! それは切り札……!
利根川に、逆転(ミラクル)を起こしうる、起死回生のSPカード……!
敗北により、地に這いつくばった男、利根川……! 大逆転物語……大団円、なるか………!?
【B-6/ギャンブル船・客室/一日目/早朝】
【
天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康
[服装]:いつもの私服、ぬいぐるみを抱いている
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1(グラハム・衣確認、ペリカは無い)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る
1:ひとまず一万ペリカを手に入れて、ギャンブル船で『麻雀牌セット』を手に入れる
2:そしてギャンブルではない麻雀をして友達をつくる
3:まずはグラハムに麻雀を教える
4:チーズくんを持ち主である『しーしー』(
C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる
4:利根川は…なにか怖い……
【備考】
※参戦時期は19話「友達」終了後です
※グラハムとは簡単に自己紹介をしたぐらいです(名前程度)
※参加者は全員自分と同じ世界の人間だと思っています
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(グラハム・衣確認、ペリカは無い)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退
0:ひとまず利根川から情報を得る。ただし、完全に信用はしない。
1:主催者の思惑を潰す
2:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける
3:地図が本当に正確なものかどうかを確かめるために名所を調べて回る
4:衣の友達づくりを手伝う。ひとまずは一万ペリカを手にいれ、『麻雀牌セット』を買ってやりたい
【備考】
※参戦時期は1stシーズン25話「刹那」内でエクシアとの最終決戦直後です
※衣とは簡単に自己紹介をしたぐらいです(名前程度)
※刹那・サーシェス以外の参加者が自分とは違う世界の人間であることに気づいていません
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
【利根川幸雄@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康 悪酔い
[服装]:スーツ
[装備]:Draganflyer X6(残りバッテリー・20分ほど)、即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)
[道具]:基本支給品一式、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)@現実×26本
:特上寿司@現実×63人前、予備バッテリー残り×4本、空のワインボトル×4本
[思考] 基本:ゲームからの脱出。
1:集団を作り、脱出への突破口を模索する。他人は利用。カイジと遭遇しても集団に引きこむ。
2:ひとまず、『帝愛』についての情報をちらつかせてグラハム達を引きこむ。
※ギャンブル船の駐車場スペースに『武田軍の馬@戦国BASARA』が止まっています。
ただ止まっているだけなので誰でも乗ることが出来ますが、衣に懐いているため他人に奪えるかどうかは不明です。
【チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
C.C.お気に入りの巨大ぬいぐるみ。黄色い色した可愛いアイツ。
C.C.は常にこれを抱いているため、おそらく抱き心地はいい物と思われる。ピ・ザ・ハッ・ト♪
【武田軍の馬@戦国BASARA】
武田信玄率いる武田軍の馬。赤い装飾が付いているが、馬イクほどはっちゃけてはいないので影が薄い。
基本的には普通の馬と変わらないが、帝愛によって誰にでも乗りこなせるように調教されている様子。
【ギャンブル船について】
船内に特設されたギャンブルルームにて、ペリカ、もしくは血液等を賭けた各種ギャンブルを楽しむことができる。
ギャンブルや支給品によって手に入れたペリカに応じて、銃器をはじめとした様々なアイテムを購入する事も可能。ただし、値段はかなり割高。
スタッフは【黒服@逆境無頼カイジ】が一人と【ハロ@機動戦士ガンダム00】が無数。ハロは本編にてガンダム整備を行っていた小型MSに搭乗する。
ルーレットやポーカーなどから、花札や麻雀まで、様々なギャンブルが行えるようになっている。会場内の各施設とのネット麻雀にも対応している。
また、特別なギャンブルとして『勇者の道(ブレイブ・メン・ロード)@逆境無頼カイジ』に『Eカード@逆境無頼カイジ』、
『女性限定水上アスレチックレース@ガン×ソード』がある模様だが詳細は不明。
対戦相手は一緒にいる参加者、もしくは主催側で用意したハロ。
そして、ギャンブルルーム内ではディーラーや他参加者への戦闘行為を一切認めておらず、それに違反した物はその時点で首輪が爆発する。
ただし、ディーラーを含め脱落者が現れたとしても、それに対する救済措置は一切行われない。
なお、ディーラーはデータとして各参加者の顔・名前を知っているが、特別な面識のある人間は利根川・兵藤を除いて一人も存在しない。
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最終更新:2009年11月23日 20:35