血も涙も、街(ここ)で乾いてゆけ ◆XIzIN5bvns
バトルロワイアルの会場を、一台のベンツが駆け抜ける。
まるで何かに追い立てられるかのように、速く、速く。
おそらく、もしも物陰から突然参加者が飛び出してきたとしたらそのまま轢いてしまいかねないだろう。
(ったく……余計なことしてくれからにっ……あのアホンダラがっ……!)
ベンツの運転手、
船井譲次は必要最低限の注意を周囲に向けながら毒づく。
罵倒の相手は言うまでもない。自分たちを襲撃し、あまつさえ物騒極まりない放送を垂れ流した仮面の男、ゼロだ。
あれさえなければ、事はもっと上手くいっていた……! ギギ、と歯ぎしりすらしながら船井は回想する。
命からがらタワーへと到着し、そこでゼロによる宣戦布告を目の当たりにした船井達は、結局何をすることも無くその場を後にすることになった。
本来の予定ならば、タワーの放送設備を使って船井が参加者たちへ『自分たちとチームを作る』ように演説、容易に人を集める手はずを整えるはずであった。
だが、それもゼロという、積極的に殺し合いに乗る異常者の存在のために断念。
それだけでなく、ここで放送を行う事自体が完全に裏目になるような事態へと陥ってしまった。
例えば、ゼロの宣戦布告を受けて、船井達が予定通りに演説を行ったとしよう。
他参加者の目から見れば、それは僥倖だ。
殺し合いに乗った恐るべき敵に対して絶望を覚えた直後に、反抗の糸口となるような勧誘…たとえ相手が殺し屋だろうと、徒党を組めばなんとかなる…そんな幻想に縋りつきたくなるだろう。
ともかく駒を増やしたい船井としては、それは願っても無いチャンス。タイミングの関係からして、効果はバツグンと見て間違いない。
そう、タイミングが良すぎるのだ。まるで狙い澄ましたかのように、最高のタイミングが生まれてしまった。
例えば、もしも船井だったら……ゼロの演説が放送された後、それに対抗するかの様にチームを組み、グループを作ろうとする放送を聞いたとしたら、まず最初に覚えるのは『疑い』だ。
余りにもタイミングが良すぎる。ゆえに、これもまたゼロの策略ではないかと、そう予測を立てる。
アメとムチ……殺し合いを煽るようなムチの後に……救いの糸となる甘い甘い勧誘(アメ)…それにおびき寄せられたマヌケどもを、一網打尽……!
例えば、今の同行者である平沢 唯のような間の抜けた女子高生ならば、あっさりとそれに釣られホイホイと着いていってしまうだろう。
それが良く分かるからこそ、船井は放送設備を使えない。
相乗効果が高すぎるがゆえに、その策は通じない……過ぎた薬は毒となるのだ。
ゆえに、船井はタワーでの放送施設利用を諦め、別の目的地を目指すことにした。
その場所は、薬局。先の襲撃はどうにか車体に僅かな傷を残すだけで済んだが、この先もそうだとは限らない。
積極的に殺し合いにのった参加者がいると知れた以上、怪我に対する備えは必要だ。
基本支給品の中に応急処置セットは入ってはいるが、それはあくまで応急処置。
それ専用の薬類を用意しておくメリットは高いだろう。
仲間を増やすうえでも、治療薬の類を持っている事は勧誘材料として十分な武器になる。
またそれとは別に、一刻も早くこの宇宙開発局エリアから脱出したいという想いもあった。
先ほどはどうにか逃げ切れた物の、あの仮面の男・ゼロはおそらくまだこのエリア周辺に潜んでいると見て間違いない。
もう一度襲撃を受けた場合、また生還する事が出来るのか? 当たり前だが100%とは言い切れない。
だからこそ、船井は急ぐ……! 全速でベンツを運転し、一刻も早い脱出を図る……!
船井の焦りは、エリアF-5の端まで到達し、橋を渡りきるまで続いた。
※
「まだ油断はできへんけど…まぁここまで来たら大丈夫やろ…」
船井が零したその一言を聞いて、平沢 唯はようやくベンツのスピードが随分と落ちた事に気がついた。
奇妙な仮面を被った男の襲撃、そして宣戦布告。これらを目の当たりにした唯の混乱は未だ解けきってはいない。
とりあえずわかっているのは、ひとまずの目的地が『薬局』に変わったという事。
それに対して船井が色々と説明してくれたような記憶があるが、正直右から左へ抜けていた。
唯の耳の暴走は、僅かながらだが今もなお続いている。
タイヤ音、ブレーキ音、マフラー音、銃声。これらが奏でる不協和音が耳の奥に残り、不快な演奏会を続けているかのようだった。
そんな感覚を覚えたのも、彼女が軽音部という音楽関係の部活に所属しており、また彼女自身も絶対音感という才能を持っているが故か。
ただ、唯はベンツの窓を僅かに開けて外の音を聞いていた。
またあのゼロの『音』が自分たちを追ってこないか不安だったから、じっと耳を澄ませて不協和音が聞こえないかと探り続けていた。
だからこそ、『それ』に気づく事が出来たのだろう。
「…………?」
「地図を見る限りやと、もうすぐ薬局に着けるはずや…時間からいっても、薬局で色々やっとるうちにもう放送になるやろな……って、どないしたんや?」
誰に言うでもなく説明を続けていた船井が、疑問の言葉を投げかける。
傍らにいた唯が突然ベンツの窓を一気にあけ、身を乗り出し始めたからだ。
そんな事したら危ないで、と僅かに怒ったような声も意に介さず、唯はじっと耳を澄ます。
「……おい、ほんまにどないしたんや? いい加減にせんとマジに怒るで」
ゼロの件もあってのことだろう、苛立ちを滲ませながら船井が言う。
ここに至って、唯はようやく一言だけ言葉を返した。
「…………聞こえる」
「あん? 何がや」
「…泣き声……向こうの方で、誰か泣いてる」
「なに?」
唯の言葉を聞き、船井はブレーキを踏みしめて急停止すると、彼女と同じように耳をすませ始めた。
ベンツの窓を開け、じっと息を潜める。神経をグッと集中させ、数分ほど経った所で……確かに船井にも聞こえた。
女の泣き声だ。それも、おそらくはそんなに年を行っていない…学生ぐらいの少女の。
全く気付かなかった。そもそも運転に集中していたとはいえ、この泣き声もまた風に掻き消えてしまうほどに微かな物だ。
唯がいなければ全く気付かないままに素通りしていただろう。
「なんや、よう気付いたな唯さん……いや、せやけどこれは……」
素直に感心した船井だったが、すぐにその眉間に皺が寄せられる。
近くに参加者がいる、これは確かに重要度の高い情報だ。
しかし、その参加者はこの殺し合いに乗っているのではないか? そんな疑念が船井の胸中に浮かび上がる。
声を聞くに相手が少女なのは確実、しかしだからと言って油断していては足をすくわれかねない…狡猾な男は、慎重に事を運ぼうとする。
しかし、同行者の少女はそれに真っ向から反発する姿勢を見せた。
「船井さん!! すぐ、声の聞こえるところまで行って!!」
「んん?」
普段の天然な彼女からは想像できないほどに強い語調に、一瞬船井がたじろぐ。
なんだって急に……? と疑問を浮かべながらも彼は少女を宥めようと試みた。
「いや、せやけどな唯さん…さっきのゼロの例もある。
泣いとる女の子言うても、油断はしきれへんし…そもそも俺らみたいのを陥れるための罠っちゅー可能性も」
「船井さんッ!!!」
しかし、そんな説得の言葉さえも唯の叫びによって遮られた。
この迫力、やはり尋常ではない。もしや先ほどのカーチェイスで頭でもぶつけたか?
一瞬間の抜けた仮説を浮かべた船井だったが、直後の彼女の言葉によって全ての疑問が氷解した。
「この声、ムギちゃん…私の友達の声だよ!! だから、急いで助けに行かなきゃ!!」
※
あれからもう、どれだけの時間が経っているのだろうか。
気がつけば闇に覆われていた空は徐々に明るさを取り戻し、直に朝が来る事を告げていた。
街角の道路に茫然と座り込んだままで、紬は虚ろな瞳を空へと向ける。
いつの間に大地へと着地が出来たのか、それは紬自身覚えていない。傍らにはひしゃげたグライダーだった物が落ちている。
紬自身の体には大した傷は残っていなかったが、そんな事もどうでも良かった。
虚無のような精神状態にあっても、涙だけは流れ続けていた。
それは自分が救えなかった者に対する涙。離してしまった自分に対する涙。
自分が、『殺して』しまったあの少女への涙。
最期の瞬間のあの悲しげな顔が脳裏を離れない。最期に残したあの言葉が、あの名前が耳の奥にこびり付く。
『―――――――暦お兄ちゃん』
暦……おそらくは、
阿良々木暦。
あまりにも奇妙なその名前は、名簿確認の際に妙に印象に残っていた。
その彼を兄と呼んだあの少女との関係は、一体何だったのだろうか。
名字が違う所を見れば、従姉妹や親戚なのか。それともそれは家庭の事情に寄るものだけで、実の兄妹だったのだろうか。
もしくは…ただの親しい、年上の友人だったのだろうか。
それを彼女の口から聞く事は、もう出来ない。
紬がその手を離してしまったから。紬が彼女を、殺してしまったのだから。
「…………う、あ………あぁぁ……!」
きゅうきゅうと胸が締め付けられる。まるでピアノ線で器官が縛られているかのようだ。
胸を押さえ、心と体の痛みにもだえながら、紬は大地にうずくまる。
もう何度繰り返してきただろうか。数時間もの間をこれだけ苦しみ続けたとしても、紬の心は決して晴れる事は無い。
罪の意識はより一層彼女を攻め立て、自己嫌悪という名の追い込みを駆ける。
あの殺人鬼のような、おぞましい殺し合いにのった人物が通りがからなかったのは幸福だったと言えるのか、それとも不幸なのか。
紬にはそれすらもわからない。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……! あぁ……! ……ぁぁぁぁぁあああああっ!!」
助けたかった少女は、助けられなかった少女を想い、むせび泣く。
だが、幾度目かのその慟哭は別の騒音にかき消された。
モーターの鈍い駆動音。アスファルトがタイヤに擦れる音。こちらに何かが、近づいてくる。
うっ、うっ、と嗚咽を漏らしたままで、のろのろと顔を上げる。
程なくして、ライトを浮かべながら此方へと向かってくる一台のベンツが目に入った。
自分のもとに向ってくる参加者がいる。一体誰が? この殺し合いに乗った人間? それとも殺し合いを良しとせず、反逆を狙う参加者?
薄ぼんやりとした頭の中でそんな事を考えているうちに、ベンツは自分の前方、数メートルほどの位置で停車する。
すぐにドアが開き、中から一人の男が出てくるのが見えた。
無精ヒゲを生やし、お世辞にも美男子とは言えない中年の男。ただしその視線は鋭く、どこか狡猾な雰囲気を漂わせている。
そんな怪しげな男の姿を見ても、紬の心はさざ波ほどの反応を示さなかった。
この人は私をどうしたいんだろう? そんな事をぼうっと考えていた。
その男の背後から、ふと別の少女の姿が除くまでは。
おそらくは同年代。黒いブレザー…制服を着た、高校生ぐらいの――――
『今晩は』
ビクリと紬の体が震えた。
霞がかったような脳内が瞬時に冴えわたる。一つの忌まわしい記憶を掘り起こそうと、全力で活動を始める。
『あ、皆さん、すみません。いきなり入ってきてしまって』
「あ、あ、あ、あああ、あああああ」
ヒューヒューという息と共に漏れる音は、先ほどまでの嗚咽となんら変わりがない。
だが、その色合いは劇的な変化を見せていた。カチカチカチと白色のカスタネットが演奏を始める。
「―んや、――夫か? 突――え―、そん――えん――、――は―――」
『先輩を……
黒桐幹也という人を、知りませんか』
男が何か、口を動かしている。だが何を言っているかは聞こえない。聞く余裕がない。
いま紬が聞いているのは過去の幻聴、回想による幻覚だ。
その事に気づく事も出来ず、少女は恐怖の中で震える。
極限状態の中で紬がまだ冷静さを保てたのは、自分が守らなければ、助けなければいけない少女が傍にいたからだ。
その少女がいなくなってしまった今…それも、己の手で彼女の命を散らすという最悪の状況で心の支えを失ってしまった今、紬の心は徐々に均衡を失い、精神がブレ始める。
混乱。恐怖。絶望。災害をその身に受けた後の、錯乱のような物が着実に彼女の内を汚していく。
『そうですか。では、』
「…や……いや……お願い……ないで……さないでっ…!!」
ずりずりと、腰を浮かす事も出来ないままで後ずさる。
恐怖に耐えきれずに、途切れ途切れの命乞いの言葉を漏らしながら、必死でその場から逃れようとする。
それは、なんと醜い姿であっただろう。
先ほどまでは心の片隅で罰を求めていたにもかかわらず、いざ自分の命の危機を感じ取ったならば即座に命乞いをする。
なんて自分勝手で、自己を省みない行動なのだろうか。
気がついてみれば、男の後ろにいたはずの少女の姿が見えなくなっていた。
え、と疑問の言葉を口の中で発した次の瞬間、紬は死角から制服の少女に組み付かれた。
瞬間、最も残酷な記憶が扉を開く。
『凶れ』
―――ひゅ、な、ばッッ、ぎゃ、わ、た、のッぎ、あァァがびゃあぁぁぁぁッアああじ足びゅぎゃぁあがぎょぁぁッ!!!
「……ゃん!! ムギちゃん!! ねぇ大丈夫!? どこか怪我したの!? ムギちゃん答えてよぉ!!」
「………っ……え………あ……?」
グラグラと自分の体が揺すられ、耳元で悲痛な叫びが聞こえる。
でもそれは、おぞましい断末魔の叫びではない。楽しい生活の中で聞きなれた、大事な大事な友達の声。
過去を見ていた瞳の焦点が、ゆっくりと現代へとピントを合わせていく。
自分に組み付いているのは、あの恐ろしい殺人鬼じゃない。
目に大粒の涙を貯めて、本気で自分の身を案じてくれている、友達だ。
それを、はっきりと認識した所で。
「唯……ちゃん……」
琴吹 紬の意識の糸は、ぷっつりと切れた。
※
「ム、ムギちゃん!? やだ、死なないでよぉ!! ムギちゃん死んだらやだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ええい、いったん落ち着けや! 怪我人の体そんなに揺らしたら傷に障るやろうが!!」
涙と鼻水まで垂らしながら紬の体を揺らし続ける唯をどうにか引きがして、船井は血まみれの少女の体を検分する。
その外見と憔悴しきった様子から、もう手遅れなのかと危惧したが、調べてみれば調べてみるほどその疑念はあっさりと晴れていった。
「うっ、うっ……ムギちゃぁん……ぐすっ…毎年ちゃんとお墓参り、行くからねぇ……」
「……残念やけど、その必要はあらへんな。この子、見たところ怪我しとらんようや」
「ぐしゅ……ふぇ?」
すでに彼女が死んだものと思い込んでいた唯は、予想外の言葉を受けてぽかんとした表情を向ける。
船井は無言で彼女の腕に紬の体を預けると、瞳を閉じた彼女の口元に手をかざす。
そこからは、定期的に息が吐き出されていた。
「どうやらぐっすり眠っとるだけみたいや。血ぃが付いとるのは制服だけで、この子には傷一つついてへん」
「じゃ、じゃあ……ムギちゃん、大丈夫なの?」
「さっきの様子がおかしかった所から見て、まぁなんかに巻き込まれたんは確かやろうが……少なくとも命に別状はないと見てええやろ」
「……よ……よかったぁぁぁ~~~~~! ムギちゃん、ホントに良かったよぉ~!!」
ぶわっと再び涙を流しながら、笑顔で紬の顔に頬ずりする唯を見ながら、船井はやれやれと肩をすくめた。
平沢 唯の顔見知りである琴吹 紬に出会えたことは素直に嬉しい。
怪我人、つまり足手まといだったならば問題もあったが、少なくとも身体面に異常がなさそうなのも重畳だ。
これで、もう一人駒を増やすことが出来るか……唯に紬を車内に運ぶように指示しつつ、船井は内心でほくそ笑んだ。
もちろん、これを手放しに喜べるほど能天気な船井ではない。
唯からの情報によれば、琴吹 紬という少女はとてもおっとりとした性格で、他人を傷つけたりするような事は無いらしい。
それを参考にするならば、彼女の制服に付着した血は、おそらく彼女と共に行動していた何者かによるもの。
誰かと行動していた琴吹 紬は、殺し合いにのった第三者に襲われ、命からがら逃げ出してきた……すぐそばに落ちていた壊れたグライダーを見ながら、まず船井はそう仮説を立てる。
もちろん、完全にそうと決まった訳ではない。何らかの理由で、何かのはずみで、彼女自身が誰かを殺してしまったのかもしれない。
こんな異常な状況下だ、そういう事が起きる可能性も十分にあるだろう。
(この子が目ぇ覚ましたら、しっかりと情報を得なきゃアカンな…っつっても、最初はこの唯に任せといた方が安全やろうが)
先ほど船井が紬に接触しようとした時の、少女の錯乱ぶりは尋常ではなかった。
もしもこの場に唯がいなければどうなっていた事か。
ともかく、これからの予定を考えながら船井はベンツのエンジンを吹かす。
目的地は変わらず、薬局だ。見たところ紬に怪我は無いようではあったが、本人にしか気付かない場所に異常があるかもしれない。
大事な『駒』として扱う以上、それは困る。どうせ怪我をして使えなくなるのならば、骨の髄までしゃぶりつくした後で無くては。
本心を幾重にも押し隠して、狡猾な男はバックミラーで『駒』たちの様子を確認しながら、アクセルをゆっくりと踏みしめた。
※
(………そんなオカルトあり得ないっす)
ありとあらゆる物を棚上げして、東横 桃子が胸の内で呟いたのはその一言であった。
彼女が語るオカルト、それを成した存在は現在彼女の横手で友人に介抱されている。
琴吹 紬。平沢 唯という名の天然さんの知り合いらしいその少女が取ったたった一つの行動が、小骨のように突き刺さっていた。
道路にぼんやりと蹲っている少女を発見した直後、船井と唯の二人は即座にベンツから降りて紬の元へと向かっていった。
すなわち、船井は運転席側から、唯は助手席側から。そして、後部席に座っていた桃子は外には出ず、窓を開いて頭だけを覗かせたのだ。
少しだけ様子を伺ったら、気付かれないうちにすぐ頭を引っ込めて窓を閉じるつもりだった。
だが、船井の後ろからひょいと紬の姿を確認した瞬間―――彼女と、目が合った。
そして、それまで茫然としていた紬は、突如として平静を失い恐慌状態へと陥り……その後の出来事は見ての通りだ。
『紬は、桃子の姿を見た瞬間に、何らかの理由でパニックを起こした』。
本来ならば、この結論に疑問の余地を挟むものは誰一人としていないだろう。
だが、その対象がステルスモモだというのがその答えを180度別の物へと変える。
これでは、まるで―――
(まるで、この眉毛さんが私の存在に気付いたみたいじゃないっすか……ありえないっす)
どこか憮然とした表情で、ステルスモモこと東横 桃子は腕を組む。
自分のステルス性能は完璧だ。
それはこの殺し合いが始まってからずっと共に行動しながら、一向に自分たちに気づかない2人の人間が証明している。
だというのになぜ、なぜこの紬という少女は『自分と目が合い』、『自分に怯えた』のか。
それがさっぱりわからなくて、桃子の胸の内にどうしようもない不快感を生み出す。
不快感はそれだけではない。ふと視線だけを横に向け、気を失っている紬の制服を確認する。
そこにべったりと付着している血液はすでに乾き切っており、臭いも殆ど漂ってはこない。
だというのに、なぜだろう。何故こんなにも、その血痕に不快感と――焦燥感を覚えるのだろうか。
(先輩……)
知らず知らずのうちに思い浮かべるのは、彼女の誰よりも大切な人の姿。
この世界でただ一人、自分を必要をしてくれた、大好きな大好きな先輩の事。
(先輩は……大丈夫っすよね。いつでも沈着冷静で、頭も良い先輩だったら……ちょっとやそっとの事じゃ、どうにかなったりしないっすよね)
それは、自分の中の大切な人に語りかけるというよりは、自分自身に言い聞かせるような言葉だった。
胸騒ぎは収まらない。どうしようもない不快感に襲われながら、ただ桃子は愛する人の事だけを考えた。
東横 桃子は知らない。
会場内の制限により、自分のステルス能力が弱まっている事を。
『制服を着た女子生徒』という存在に、強くトラウマを刻みつけられた少女は、常人よりも敏感にそれを感じ取ってしまった。
そしてまた、東横 桃子は知らない。
自分の、誰よりも大切で愛していた先輩が…この紬という少女の目の前で、無惨にその命を散らしてしまった事を。
彼女の制服に付着している大量の血は、他ならぬ彼女の物だという事を。
そして後数十分もすれば、桃子は己の知らぬ真実の半分を知る事になる。
彼女にとって、最も不幸な現実を、まざまざと突き付けられてしまう。
それが明らかになった時、幕を開くのは――――――。
【E-4/北部・薬局周辺/1日目/早朝】
【
平沢唯@けいおん!】
[状態]:健康、紬が心配
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)
[装備]:ジャンケンカード(チョキ)@逆境無頼カイジ
[道具]:デイパック、基本支給品(+水1本)、ジャンケンカード×十数枚(グーチョキパー混合)、不明支給品x0-2
[思考]
基本:みんなでこの殺し合いから生還!
1:ムギちゃん……大丈夫だよね…?
2:船井さんを頼りにする。
3:友人と妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない……
[備考]
※
東横桃子には気付いていません。
【船井譲次@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:ナイフ、コンパス。他にも何かあるかは後続にお任せ
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品x0-2 遠藤のベンツの鍵@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor
[思考]
基本:優勝か別の手段か、ともかく生還を目指す。
1:ひとまず薬局へ向かい、薬類を確保しておく。
2:紬が目を覚ますのを待って、情報を得る。聞き出すのはひとまず唯に任せる。
3:唯の友人らを探す方法を考える。利用できそうなら利用する。
4:仲間を勧誘し、それらを利用して生還の道を模索する。
5:絶対に油断はしない。また、どんな相手も信用はしない。
6:嘘かどうかさておきゼロの情報は……大切せんとな。悪人も善人にも旨みがある。
[備考]
※東横桃子には気付いていません。
※登場時期は未定。
※ゼロの正体に気づいてません。
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:健康、ステルス、酷い胸騒ぎ
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品(-水1本)、不明支給品x1-3
[思考]
基本:自分と先輩(
加治木ゆみ)の生還を目指す。
0:私のステルスが効かない? そんなオカルトあり得ないっす。……でもなんだか不安っす。
1:船井の策にこっそり相乗り。機を見て横取りする。ただし必要と感じるならステルス状態解除も視野に入れる。
2:先輩を探す。または先輩のために武器、道具、情報を収拾する。
3:信じにくいッスけど、ゼロの情報は……ヤバイッス。悪人も善人にも美味しいッス。
4:先輩は…大丈夫っすよね?
[備考]
※登場時期は未定。
※ゼロの正体に気づいてません。
【
琴吹紬@けいおん!】
[状態]:精神的ダメージ大 、撫子への罪の意識、『制服を着た女子生徒』に対するトラウマ、気絶中
[服装]:制服 (血塗れ)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×2、ランダム支給品(1~2、未確認)
[思考]
1:撫子ちゃん……ごめんなさい……。
2:『
浅上藤乃』が恐ろしい。殺されたくない。
3:友人達が心配。非常識な状況下で不安。
4:阿良々木暦に会ったら、撫子の事を――――
[備考]
※浅上藤乃の殺人を目の当たりにしたトラウマで、『制服を着た女子生徒』を見ると彼女の姿がフラッシュバックします。
精神的に回復すれば軽減されるかもしれません。
※E-3北部~E-4北部間の何処かに千石 撫子の死体があり、すぐそばに彼女のディパック(基本セット、ランダム支給品1~3入り)が落ちています。
【忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA】
武田軍の忍び、猿飛佐助が上杉軍の忍び、かすがへと送ったアイテム。
見かけは小さな竹笛だが、一度吹けばグライダーへと姿を変え、自動で空中へと飛び立つ。
一回限りの使い捨てで、ロワでは3個セットで支給。
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最終更新:2009年12月01日 06:21