乗り損・エスポワール・スタンダード ◆zg9MHZIP2Q



「とっ! やっ! はっ! 」

振りかざす両腕は空を切り……吐き出される息は喝を生む。
許されざる悪党どもを、血塗られしこの手で刈らんと燃ゆ。

「ちぇすとーっ! 」

与えられる任務は絶対服従……しかしそれらのほとんどは命を捨てる覚悟で望まねばならぬものばかり。
闇に生き、月光に染まり、死線に酔うくの一。されど傍目には軽薄で能天気な女にしか見えない……!

「はい!ほい!はい!ほい!はーい! 」

女忍者ヒラサワ・ユイ。
悪の暗殺集団『化夷怨舞』の抜け忍である彼女は、毎日が追手と戦う日々。

「はいはいはいはいはいだらー! 」

表の職業は寺の住職タクアン和尚。正体は上流階級の名士たちを金で操る珍問屋、ハッピー・ツムギ。
猫の妖怪『猫又』の血を引く半人半妖のカギ爪使い、ナカノアズニャー。
光り輝く額とカチューサ。吉原を牛耳るイタリア帰りのマフィア、リッチアーノン・タイナッカー。
柳のように垂れた黒髪で結ばれた弦楽器。それは死への誘い。三途の川からの甦り“閻魔少女”ミオ。
正体不明。相手の戦闘スタイルを真似て殺すことを身上としている。“ドッペル”ウィー。

「滅っ! 」

それでも彼女は情に流されることなく、昔の仲間に決別を誓う。


組織は彼女に軽蔑の念をこめて――『利意奴擬他』と呼んだ。


 ◇ ◇ ◇

(――ナレーションをつけるなら、こんな感じッスかねぇ)

ことわっておくが、上の説明文は当然ウソ……!
『化夷怨忍者ヒラサワ・ユイ』はフィクションであり……関係者、団体名、その他一切関係ありません……!
東横桃子が平沢唯の動きに合わせて喋った……!
唯がガンダニュウム合金で作られたカードを振り回す姿が、忍者のように見えたから。
とどのつまりアテレコっ……!

「どっからでも、かかってきなさい! 」

天然……まっこと天然の女……!
バトルロワイアルの状況下においてこの体たらく……!
カードと戯れるあまり本分を見失う……まさに現実逃避……しかも無意識……!

(早く部屋から、出してほしいッスよ)

そのおかげで東横桃子は出られなくなってしまった。
彼女たちがいる衣装部屋の扉は1つだけ。その扉の前で唯が踊っているのだ。
ステルス能力に長けていれど、ドアの前で遊ぶ人間に気づかれないようにドアを開けるのは難しい。
万が一、唯の手がたまたま桃子に当たってしまったら、ご破算である。

(窓から部屋を出るのも……今はダメッスね)

窓ガラスに頬をぴったりと当てる桃子。
ひんやりとした感触と、かすかに伝わる振動。きっと外が騒がしいせいであろう。
町中に流れる、大規模な放送。締め切った部屋にいる桃子たちには、内容を正確に聞き取ることはできない。

「あうっ!? 」

何と何かがぶつかり合う音。
桃子はそれがドアとドアの前にいた人のせいとわかっていた。

「……何をしとんのや唯さん」

ノブを握りながら、船井が拍子抜けしたように唯を見下ろしている。
後頭部を抑えながら、尻餅をついている少女は、笑ってごまかすしかなかった。


 ◇ ◇ ◇

「ええー! さっきの音って放送だったんですかぁ!? 」
「俺も最初からしっかり聞いとったわけやない……が、ちょっと気になってな」

素っ頓狂な反応にすっかり慣れてしまったのか、船井は淡々と会話を続ける。
彼が話題にあげたのは、謎の人物からの大規模な連絡。彼は知る由もないが――張五飛の通信についてだった。
自分たちが聞いたのがバトルロワイアルにおける放送連絡だったなら、なぜ定時に流れなかったのか。

「ど、ど、どうしよう……私、全然聞いてなかった」
「まあ大事な放送なら、どっかで記録ぐらいはされとるやろ。オレもしっかりした内容をもっかい聞いときたい」

船井は放送に重要性があると判断。
放送内容がもう一度確認できそうな施設へ向かうことを決意した。
あわよくば、その施設から放送が流されているかもしれないからだ。

「ついでに、人探しもやっとくで」

暗闇の町中に、一台の乗用車が進行中……運転手は船井譲次っ……!

「唯さん、ほんまに忘れ物はないな? 」
「はいっ! 大丈夫ですっ」

一通り民家を調べ終えた船井組、各々手に入れたした品を回収……!
一行は民家に隠されていた乗用車を発見し……使用することを決定……!
一見すれば、自らの存在を知らしかねない騒音の散布……しかし船井は発想を逆転……!
一人の人間を探すのではなく……向こうから探させることで手間を短縮っ……!

「こんだけ広い土地や。いぶり出すくらいせんと」

この土地に招待されたものの……いきなり殺しを強要されて、殺せるわけがない……!
むしろ迷い……困惑し……うずくまる……何も出来ずに……!

――そこへ現れる一筋の光っ……!

船井組の車を見たものは皆気づく……現実に引き戻される……!
仲間を探す者が出てくる……平沢唯のように……!
あるいはどこかへ逃げる者もいる……隠れていても意味のない状況と悟り……!
わずか一日分も満たない食料……同じ場所に隠れ続けることは至難の業っ……!
飢餓と渇きと不安に押しつぶされそうになれば……しがみつくっ……誰かにしがみつくっ……!
とにかく、人間を動かす……これこそが船井組の狙い……!

「待ち合わせなら、ようわからん道よりデートスポットやろ」

人を探す者は……地図を見る……!
人と会う約束をするものは……出会いやすい場所を選ぶ……!
知らず知らずに動いてしまう……記載された目立つ場所に……!
こちらは先回りして待つ……向こうからやってくるのを待つだけ……!

「お友達、いるとええな」
「みんななら、ぜったい私を見つけてくれます! 」

もし、このバトルロワイアルが船井譲次の想像するようなものだったら、この作戦は正しい。
『ただの一般人が1つの島に集められて殺し合いをさせられる。大企業が開催する闇の娯楽』。
これが現時点で船井が認識するバトルロワイアルの全貌だ。
最初から進んで殺しを行う者は、精神異常をきたしたか、その筋の者か……よくて全体の1~2割。
超能力、魔法、未来の技術、異世界の介入などない。あくまで自分の常識を基準として使える悪夢。

船井も唯も、このバトルロワイアルの本質をまるで理解していない。

殺すことに何の躊躇もない人間……いや、人間どころか人外がいることを。
殺すことを前提として行動できる人間だらけの宴。
過去人、異世界人、超能力者などはいて捨てるほどいる。
彼らはまだ玄関の扉さえノックしていないのだ。

(確かに。街中でベンツ乗り回す人なんて、そうはいないッス)

後部座席に一人陣取り、窓ガラスから周囲を覗く、東横桃子。
車に乗り込むチャンスはいくらでもあった。
乗車する前から唯が大袈裟にベンツの周りで騒いでいたからだ。
唯にしてみれば高級車に乗る事はそれだけ新鮮味に感じたのだろう。
その挙動不審っぷりが船井にもスキを作らせてしまったのだ。

(それにしても……何でクチビルさんの名前が、載ってないんスかね)

“ベンツは帝愛側が用意したサービス。これくらいの援助はありえる”
船井の話では、彼の支給品の1つが『遠藤勇次のベンツの鍵』だった。
付属の説明書によると、船井が最初にいた場所からそう遠くない地点に隠されているとのこと。
しかし、それを立ち聞きにしていた桃子には、その言葉を素直に受け入れることは出来なかった。

(クチビルさんとサングラスさんは、裏で繋がってる――コンビ打ちかもしれないッス)

『遠藤勇次』は主催者として最初に現れた人物である。
その男の車のカギを、名簿に載っていない『船井譲次』が持って現れた。
船井は自らをリピーターと名乗り、しきりに逃げ道のありかを匂わせている。
桃子にとっては船井は、嘘つきっ……そんな認識を頭に抱え始めていたっ……!

(……ん? あれってもしかして……)

しかしその刹那っ……!
まさにその刹那っ……!

「「(――バイク!? )」」

流れるっ……!
桃子の思考、流れるっ……!
いや、桃子だけではない……船井も唯も行き着く疑問はみな同じ……!
静寂を突き破らんと鳴り響く爆音……闇を切り裂かんと飛び出した黒い彗星……!
滞りなく進行していた平穏に、突如現われた一台のバイクっ……!

「しっかり捕まっとき! 」

いち早く危機を察知した船井がハンドルを回すっ……!
本来ならば……正面からやってくる車体に対して……急なハンドル操作は極めて危険……!
だがそこは船井……かつてはエスポワールを突破したリピーター……!
バイクが方向修正するどころか、むしろスピードを上げてきたのを察知……!
相手が正面衝突をも辞さない運転であることを看破……車線を大きくまたぎながら退避成功……すぐさま車を再度発進……!

「冗談やないでホンマ! 」
「船井さん!あの人、怪我をしているかも……」
「唯さん、今はそうも言ってられん。逃げるのが先や」
「へ? に、にげ――」

しかしバイク、いまだ危険な運転を止めずっ……!
再びをマフラーを吹かせて発進……獲物を逃がさんとばかりに船井たちを追尾開始……!
この事故は偶然ではない……バイクの狙いは最初から船井組……!

「まったく何を考えとるんや! 」

相手の狙いがわからぬ船井……歯噛みすっ……!
無理もない。バトルロワイアルで、最初から殺人を前提に動く(可能性をもつ)相手と接触したのはこれが始めて……!
初体験……船井初体験っ……!
進んで殺しを行う者……バトルロワイヤルという船に人が簡単に乗りかかるとは……頭では信じきれない……!
一歩間違えば自分が死ぬかもしれない愚考を、平気で行う人間など、常識の範疇を越える……!
スピードを上げて逃げるベンツ……しかしそのわずか数メートル後を追うバイク……!
気がつけば、これはもはやカーチェイス……ベンツをバイクのカーチェイス……不釣合いなコラボレーションっ……!

「仮面っ……仮面っ……あの人っ……仮面っ……!」

ざわざわと騒ぐ唯の指示を受け、船井しっかり後方確認っ……!
バイクの運転手は仮面着用……素性を割ることは不可能……!

「なん……やと……!? 」

ここで船井に、電流が走るっ……!
バイクの運転手はハンドルから両手を離していた。
代わりに握っていたものは――拳銃。狙いはもちろん、ベンツ一択。

「いかん! 頭を伏せんかっ! 」

懸命にアクセルを吹かし、船井はベンツを走らせる……!
次なる目的地はタワー……エリアG-5に聳え立つタワーっ……!


 ◇ ◇ ◇


「…………」
「…………」
(…………)

静寂っ……!
どんなに切羽詰まった状況であろうと、終わってしまえばそれは過去……!
永遠に続くと思われた地獄のカーチェイスは、わずか数分で終了……!
追跡を諦めたのか、それとも発砲時に距離が開けたせいなのか……バイクはいつの間にか消失……!

「……………………」

船井組、生還っ……!
命からがらバイクをまくことに成功っ……! 現在地はG-5のタワー内部……!
すでにベンツを駐車場に置き、予定通りタワーの探索を開始……!

「……………………」

ちなみに、探索中の会話はゼロっ……まったくのゼロっ……!
この沈黙はベンツをタワーの駐車場に停車させてから、ずっと続いている……!
喜びを分かち合うことも無く……不平不満を出すことも無く……泣きべそをかくわけでもなく……!
せっかく生き延びたのに、誰も言葉を口に出そうとしない……!

(……………………)

船井は……ベンツを止めた後、まず車の傷の具合を確認。
傷は、激しい運転をしたときについた掠り傷に加えて、銃痕を1つ発見した。
銃弾の当たり所は車の使用に支障をきたすものではなかったが、相手は走行中のバイクにまたがり発砲したのである。
その事実は、あのバイク乗りがいかに銃器の扱いに慣れているかを物語っていた。
船井の記憶には、バイクが突っ込んできたときの映像が焼きついている。
夜なのにライトも点けず真正面からきたバイク。何の躊躇もない……迫りくる狂気。

桃子は……ベンツが止まった後、すぐにペンを取り出して絵を作成。
名簿の隙間に即興でバイクの運転者の姿を書く。特に仮面を強調して的確に。
名前もわからぬ誰かとして、頭の隅に留めておくわけにはいかなかった。
桃子の記憶には、拳銃を発砲した男の覚悟がセンセーショナルすぎた。
余りにも非現実的な現実……これが真実であると受け入れるかのように、桃子のペンは狂気を描く。

唯は……ベンツを止めた後も、しばらく助手席で震えていた。
恐怖で体が金縛りになったあげく、彼女の耳が暴走を始めていたのだ。
道路をこするタイヤの音、無理な操作で生じたブレーキ音、マフラーの排気音、そして銃声。
すべての音が自分たちを追ってこないか――唯はそればかり考えていた。
その音が再びやってきたら、ついてきてしまったら、またあの人がやってくる。
どうしたらいい? どうすればいい? いや、どうにもできない。
自分はあの時、何をどうしていいかまったくわからなかった。だから、次も同じ。
絶望というほど落胆しているのではない。彼女の底抜けの明るさは、そうは狂気に落ちない。
しかし、それは現状察知能力に乏しいことへの裏返し。
ぬるま湯に放り込まれた蛙と同じなのだ……湯が沸騰しても……気づくことなく……茹だって死んでいく。
体は船井について行くのがやっと。彼女の耳は今も狂気に混乱している。

「ここや……! ええかんじに揃っとるな」

誰に聞かせるわけでもなく、船井が顔を見上げて、ぽつりとつぶやいた。
その場所はタワーにある1部屋。1階からエレベーターで登った先にある管制室。
最初に侵入したときに見た施設の掲示板をもとに、船井が探し当てた新たなる目的。
放送機器が充実ぶり、タワーに入る前に見た、屋上のアンテナ。条件は良好。

「これなら、どっか他の施設に連絡もできるかもしれん。唯さん、オレらはついとるで! 」

逸る気持ちを抑えて、船井は管制室のシステムを起動させていく。
きびきびと手際良く動く船井……まるで何かを忘れたがっているかのように。
パチ、とスイッチを押す右手は……汗でぐっしょりと濡れている……!


――その時だった。


”突然の無礼を、まずは詫びよう。 私の名はゼロ。諸君と同じ、このバトルロワイアルの参加者だ”


衝撃っ……!
やっと……やっと逃げ切れたと思っていたのに……!
モニターからぼわっと……バイクの運転手登場っ……!

船井の操作が、一度送られたはずの通信データを管制室でリピートすっ……!
もちろん彼らは知るよしもない……!
この映像はタワーに来た人間が閲覧できるよう、張五飛が意図的に残していたものっ……!

“人々よ、我を恐れよ! 私はここに、諸君ら全員の抹殺を宣言する! ”

あっさりっ……こうもあっさりと宣言っ……!
まさかまさかの皆殺し上等っ……! 
その者の名前はゼロっ……正体不明の仮面の者ゼロっ……!

“諸君らが本当に『生きている』と、自らの行いが『正しい』と確信があるのなら――抗ってみせろ!”

ついさっきまで、自分たちを追いかけていた者は殺人者っ……!
伊達や酔狂ではない……物取りや冷やかしでもない……バトルロワイアルに生きるリアルな現実……!
余りにも唐突な突きつけ……!
何の反論もできずに……沈黙っ……船井たちは沈黙っ……!
なぜなら自分たちは……ついさっきまで……本物の死線を渡らせられていたのだ……!

ゼロの放送で移動を開始し……ゼロの追撃を受け……ゼロの存在を知らしめらた……!

てのひらっ……!
すべてはゼロの掌のうえっ……!


 ◇ ◇ ◇


道路脇にバイクを止めて、五飛はヘルメットを外す。

「あやうく怪我をしそうになったのは、お互い様だ」

彼が語るものは、船井たちが運転していたベンツとの交通事故についてである。
タワーを後にした彼が、もう少しで正面衝突しそうになったのは偶然である。
慣れぬバイクの操作に手間取りながらの運転だったので、ライトの灯火を失念していた。
船井たちは無灯火のバイクを認識するのに、時間がかかってしまったのだ。
かろうじて緊急回避をしたので、怪我はなかったのだが……。

「少し、派手にやりすぎたか」

なんと五飛はこの偶然を利用することを思いつく。
進行方向を変えて船井たちを追い回し、彼らに殺意をもってつっかかったのだ。
最後の支給品である『ラッキー・ザ・ルーレットの拳銃』で威嚇射撃も行った。
代償として、運転しながら発砲したために、フルスロットルで飛ばしたベンツに逃げる余裕を与えてしまった。
常識で考えればこれは当然のことだ。
運転しながら銃器を扱うことは、普段の何倍も多大な集中力を消費する。
隙が生じてしまうのは仕方のないこと。

しかし、これで彼らは結果的に仮面をつけた男を危険人物として勘違いするだろう。
そもそも五飛は彼らと最後までやりあうつもりなどなかったのだから。

「さて……」

再びヘルメットをかぶり直して、五飛はエンジンをかけた。
神龍の次の獲物はいずこに。




【F-6/道路/一日目/黎明】

【張五飛@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:マリーメイア軍の軍服   分厚いマント
[装備]:ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(銃弾1発消費)@ガン×ソード ゼロの仮面@コードギアス 刹那のバイク@機動戦士ガンダム00
[道具]:デイパック、基本支給品、干将・莫耶@Fate/stay night
[思考]
基本:オレが参加者の脅威となる!
1:殺し合いに乗ったものは倒す。
2:ゼロとして『戦う意思』のない者達を追い詰める。……それでも『戦う意思』を持たなければ――
3:人間の本質は……
[備考]
※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。
※バイクはデュオの私物だと思っています。
※船井たちの顔をはっきりと確認できたかどうかはわかりません。

支給品解説
【ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃@ガン×ソード】
ラッキー・ザ・ルーレットがロシアンルーレットで使っていたもの。
リボルバータイプのため、銃弾の装填数は6つ。
予備弾薬が一緒に支給されているのかは不明。


 ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇


「唯さん、名簿を見せてくれへんか……!」

船井さっそく見直し……自分が調べた名簿ではなく……唯の名簿を見直し……!
ない……ない……ゼロという名などどこにも載っていない……!

「ワシの持ってる名簿も、唯さんの名簿にも、ゼロなんて奴は載っとらん
 早いとこ、手を打ったほうが――あっ」

この時船井は、ゼロに対し2つの可能性を考えていた。

1つ……ゼロは帝愛が用意した駒……殺すことになんの躊躇も無いプロっ……!
船井のように名簿に登録されていない、内通者でもある……!
いたずらに恐怖心を煽り、適度に間引きをする……いわば死亡者帳尻合わせの請負人っ……!
船井のようなリピーターとは似て非なるものだが……帝愛が用意することは道理っ……!
彼らは結局、弱者が慌てふためき無様な姿を晒すのを見たいだけなのだから……!
帝愛にとって厄介な人間をゼロに始末させれば……バトルロワイアルはスムーズっ……便利なゼロっ……!

2つ……ゼロは参加者の成りすまし……正体を隠して円滑の殺しを行なおうとする……これもプロっ……!
確実に殺しにかかるリスクと負担を減らすための雲隠れ……!
露骨なまでに相手を煽っていたのは……感情の矛先をゼロに向けるためっ……!
頭のおかしい快楽殺人者を仕立て上げ、何食わぬ顔で仲間を作ることも可能……!
善人のフリをしていれば……罪は全部ゼロが背負ってくれるのだから……!

「あっ……! ああっ! あっ……!」

そう思いかけていた船井に……再び驚愕が走るっ……!
目の前の通信システムを活用すれば、ゼロの存在を他の参加者に知らせるのは可能っ……!
だが忘れてはならない、ゼロの宣言を自分たちが知ったのは偶然っ……!
ゆえにゼロが何者であろうと、この情報はすべての参加者に知らされていないのは必然っ……!
ひょっとすれば、平沢唯のように聞き逃している者もいるかもしれない……!
わざわざこちらが『ゼロ』という情報を広めるには、リスクが伴う……!

「このサバイバルは持久戦やない……下手すると……超短期決戦……! 」

放っておけば、ゼロも、ゼロを利用する者もどんどん数を増やしていく……!
これはもはや狂言ではないっ……!
システムっ……! バトルロワイアルを活性化させてしまうシステムっ……!

(会場が偽ゼロだらけになってまう! )

ゼロの話を聞いて“しめしめ”と喜ぶ参加者を作ってしまったら……それはゼロの増殖を促す……!
最悪のケースは全参加者ゼロ状態……まさしく64 の キセキっ……!
それに現状ではゼロを話をしても誰も信じてくれない……逆に疑われるのが関の山っ……!


――そして……


(……知られてマズいのは悪い人だけじゃないッス)

東横桃子も迷うっ……!
彼女もまた船井と同じくゼロについて思案すっ……!

(ゼロさんのおかげで得をするのは、善人も同じ)

ちらりと左を見る桃子……視線の先は平沢唯……混乱のあまり頭がパーンと弾けて、呆けてしまった平沢唯……!

(もし彼女がクチビルさんを、不慮の事故で殺してしまったとするッス。
 死んだのは“ゼロのせい”と言ったら……お友達は彼女を疑うッスかね? )

“私、実はゼロさんがいなくなるまで、何も出来なくて~。な、なんて謝ったらいいか~”

仮定っ……!
もし、無邪気な平沢唯が船井を殺してしまったケースに対し……起こりうる可能性っ……!

“気にするな唯。唯はわるくないよ! ”
”おねえちゃんは悪くないよ。おねえちゃんがそんなことするはずないもん”

真実が明るみにならない……!
心から信頼していた人間が殺人を犯していたとしても……違うと否定出来てしまうから……!

“そうです。悪いのは先輩じゃないです! 悪いのはゼロ!”
“唯さん、手をかしましょう。さあ、立ってください”

ゼロが罪を被ってくれるからっ……!
全部ゼロのせいっ……ゼロが悪いっ……ゼロの馬鹿っ……!
自分が信じている相手が犯罪をするはずがないと……!

“みんなでゼロをぶっとばしにいこーぜー! ”

疑いこそすれ……問い詰めようとは……簡単にはできない……きっとゼロのせいだから……!
楽だから……ゼロのせいであった方が都合がいい……傷つく必要もない……お互いに……!
あれは間違いだった……きっと何かの間違い……!


““““““おー!””””””

後回し……
ゼロを憎むだけで……現実から目を背ける……!
憎むだけで後回しっ……ゼロが現われたら本気出すっ……!

「相変わらずえげつないことしてくれるわ……! 」

単純に殺し周る者よりは、騙し討ちを得意とする者のほうがゼロの恩恵を受けるだろう……!
だが、その人を騙してナンボの者よりも、ゼロに助けられるのは……善意の皮を被った者なのだ……!

船井は大きくため息を吐く。
帝愛という組織に対する侮蔑を、再確認させられたから。
それがまったくの勘違いとも知らずに。

『ゼロ』の情報が広まるほど……バトルロワイアルの人間模様が複雑になるのは確実……!
特にバトルロワイアルにノリノリな者ほど……自ら殺しに興じる者ほど……その影響を受ける。


罪を被せられる……だから乗っても損っ……!


「通信システムか――他の使い道……活路……見出せんか……? 」


船井、唯、桃子。
3人はバトルロワイアルに関してはまだまだ素人……!
神の視点など持つはずのない彼らの行動は、暗闇を迷うかのごとく……!

希望の船『エスポワール』のような攻略方法で挑めるほど、この殺し合いは甘くない……!
お膳立てされた通信システムに対し、彼らが取る次の行動は




吉となるか凶となるか……っ!



【G-5/タワー管制室/1日目/黎明】

【平沢唯@けいおん!】
[状態]:健康
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)
[装備]:ジャンケンカード(チョキ)@逆境無頼カイジ
[道具]:デイパック、基本支給品(+水1本)、ジャンケンカード×十数枚(グーチョキパー混合)、不明支給品x0-2
[思考]
 基本:みんなでこの殺し合いから生還!
 1:船井さんを頼りにする。
 2:友人と妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない……
 3:ゼ、ゼロ……? 殺し……?
[備考]
 ※東横桃子には気付いていません。
 ※張五飛の襲撃とゼロの演説で混乱しています。


【船井譲次@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:ナイフ、コンパス。他にも何かあるかは後続にお任せ
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品x0-2 遠藤のベンツの鍵@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor
[思考]
 基本:優勝か別の手段か、ともかく生還を目指す。
 1:まずは唯の友人らを探す方法を考える。利用できそうなら利用する。 通信システムを使うかどうか迷っている。
 2:仲間を勧誘し、それらを利用して生還の道を模索する。
 3:絶対に油断はしない。また、どんな相手も信用はしない。
 4:嘘かどうかさておきゼロの情報は……大切せんとな。悪人も善人にも旨みがある。
[備考]
 ※東横桃子には気付いていません。
 ※登場時期は未定。
 ※ゼロの正体に気づいてません。



【東横桃子名@咲-Saki-】
[状態]:健康、ステルス
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品(-水1本)、不明支給品x1-3
[思考]
 基本:自分と先輩(加治木ゆみ)の生還を目指す。
 1:船井の策にこっそり相乗り。機を見て横取りする。ただし必要と感じるならステルス状態解除も視野に入れる。
 2:先輩を探す。または先輩のために武器、道具、情報を収拾する。
 3:信じにくいッスけど、ゼロの情報は……ヤバイッス。悪人も善人にも美味しいッス。
[備考]
 ※登場時期は未定。
 ※ゼロの正体に気づいてません。


支給品解説
【遠藤のベンツの鍵】
主催者である遠藤が乗っていたベンツ。
カイジがタイヤに傷をつけていたときのもの。


時系列順で読む


投下順で読む



041:Card 平沢唯 096:この重さは命の重さ、この意味は生きる意味
041:Card 船井譲次 096:この重さは命の重さ、この意味は生きる意味
041:Card 東横桃子 096:この重さは命の重さ、この意味は生きる意味
060:その 名は ゼロ 張五飛 105:夜明けのゼロ


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最終更新:2009年11月23日 11:34