決意の火 ◆40jGqg6Boc
『――諸君らの奮戦に期待するっ……!』
遠藤の声が一回目の放送の終わりを告げる。
どこからともなく流れた音声を一つの影が確かに聞き取る。
その主は三河の徳川家康を主君とする、
本多忠勝。
重厚な鎧に覆われたその勇ましい体躯はまさに戦国最強の名に相応しい。
帝愛グループなる軍団に関する情報は少ない。
だが、このバトルロワイアルなるものを開催しただけで充分すぎた。
許すまじ帝愛グループ。家康公から頂戴した仁の心には到底容認できない。
武田軍のあの赤き若武者の言葉を借りれば今の忠勝は燃えている。
非道極まりない帝愛グループへの怒りが、己の身を燃やすかの如くに。
咆哮も、ただ一言の言葉すらもいらない。
忠勝は右腕を強く握りしめ、己の感情をとき伏せる。
今は機ではない。鍛えぬいた己の武を揮うにはもう少しの時間がいる。
先刻の戦で負った傷も完全には癒えていない。
そして何より忠勝は提案を受けていた。
この場で知り合い、自身の意思をくみ取ってくれる人間から。
彼の仮初の同盟主――先程からペンを走らせている青年には考えがあるらしいのだから。
「14人……か」
名簿上の名前を囲む作業に勤しんでいたペンが止まる。
同時に漏れた声に少なくとも喜びは見られない。
その声の主の名は
刹那・F・セイエイ。
彼は忠勝に運ばれ、とある建物の陰に身を潜めていた。
放送が始まる前に気を取り戻せたことは不幸中の幸いだろう。
やがて刹那は名簿を、そして同時に地図をデイバックに戻す。
御世辞にも浮かばせる表情は冴えたものではなく、刹那の感情を色濃く現している。
「乗っているやつは確かに存在している。残念だが……やはり認めないわけにはいかない」
何も全ての人間が自分達と同じように、この殺し合いの駆逐を望んでいると思ったわけではない。
先程の戦いで遭遇した
織田信長、漆黒の巨人、
レイ・ラングレンの三人。
持ち合わせる理由は違えども彼らは殺し合いに乗っている。
そして6時間で14人――多いのか少ないのか果たしてわからないが――あの三人だけの数字とは思えない。
きっと居るのだろう。彼らと同じように乗り、そして実際に他者を殺した人物が他に何人も。
やりきれない想いが身を焦がす感覚を刹那は覚える。
彼らが何故バトルロワイアルに身を投じたかはわからない。
だが、どんな理由であれ目の前に立ちふさがるのであれば力を奪うしかないだろう。
紛争の撲滅。ソレスタルビーイングが目指す世界に、こんな殺し合いは必要ないのだから。
やがて刹那は別の事に思考を回し始める。
思わず語気が強まる。
アリー・アル・サーシェス。
俗に言う戦争屋だが、刹那にとってそれだけでは終わらない。
幼き頃、ただ故郷を守るために、その日を生き抜くために身を置いたテロ組織。
灰色に埋もれた記憶には絶えず戦場の感覚が、そして同胞の断末魔と肉が焼ける臭いがこびりついている。
サーシェスはその場に居た。そのテロ組織を率いるリーダーだった。
未だ個の主義、主張を確立出来ていない刹那にとって、サーシェスは信頼に値した。するしかなかった。
たとえサーシェスがただ金と殺しのために、そのテロ組織を率いていたとしても――
だが、今更に過去を振り返っても、それは足跡を眺める行為でしかなく、特に得るものはない。
「……?」
「ああ、すまないなホンダム。やつは古くからの知り合いだ……いつかは断ち切らねばならない縁で結ばれた、な」
サーシェスは少なくとも一人は手に掛けただろう。
奴ならやれる。そう断言出来る事がなんとも恨めしいが事実だ。
類まれな戦闘センスは勿論のこと、撤退の機を誤らないあの判断力は明らかな脅威だろう。
忠勝にサーシェスがいかに危険であるかを簡潔に伝えながら、刹那は倒すべき存在を改めて把握する。
サーシェスと先程の三人――彼らは歪んでいる。
レイに至ってはまだ対話の余地はあるが、それも突然の裏切りにより当てには出来ない。
そして未だ見ぬ、殺し合いに乗った者達と自分達は争っていかなければならない。
もう、これ以上の犠牲は出したくはないのだから。
たとえばあの少女のように――そう思えば、刹那は不意に口を開いていた。
当たり前だ。
そう言わんばかりに忠勝は刹那を見据える。
群雄割拠の戦乱の世に、全ての人間が互いに手を取り合う平和な日本を目指した徳川家康。
忠勝の主君である家康にリリーナ・ドーリアンの理想は通じるものがあった。
故に忠勝も悔やんでいる。リリーナを
バーサーカーに殺されてしまったことに。
刹那は忠勝の意思を見透かすかのように頷きながら更に進めていく。
「誰しもが武器を捨て、対話による協調を世界単位で行う……きっと戦争も根絶されるだろう。
大国から見れば小さな紛争でしかない、民族間の争いも戦闘行為の全てが」
それは理想の世界だ。
あのクルジス抗争の中、光が見えなかった世界で戦い抜いた刹那にとってはそれ以上望むものはない。
しかし、それは容易ではない。
「だが、簡単なことではない。リリーナが言っていたように、人類は戦いを繰り返し、そして今も戦っている。
トレーズ・クシュリナーダのような歪みすらも生み、戦いは俺達人類にとってあまりにも慣れてしまった。
俺は……ソレスタルビーイングは望んだ。変革を招く一石が、この世界には必要だと思った。
戦ったんだ、俺たちは。ガンダムで……手に入れた力で世界の変革と再生を目指して」
それは忠勝に向けた言葉ではなかったかもしれない。
戦争根絶を掲げ、全世界の戦闘行為に介入行動を行ったソレスタルビーング。
刹那はその一員として、ガンダムマイスターとしてガンダムを駆り、幾つもの戦場を巡った。
軍事活動の停止を、ガンダムという軍事力で行うという行動理念には一種の矛盾が孕んでいる。
だが、たとえその矛盾を背負おうとも、ソレスタルビーングはイオリア計画の元に活動を続けた。
全ての戦争の根絶に必要なものは武器ではなく、対話による協調だ。
その協調を形成するには先ず世界が一つの意思に統一される必要がある。
ソレスタルビーングを共通の敵と見立て、地球連邦という取り敢えずの団結を得た世界は戦争根絶に向け一歩を踏み出したことだろう。
しかし、イノベイターの支配が地球を覆いだし、刹那は再びソレスタルビーングとして戦った。
その目的は――戦争の分絶、そして地球の再生だ。
リリーナが掲げた完全平和と手段は違えども、目指した先はそう差異がない世界。
「だから俺は……悔しい。
リリーナを護れなかった自分自身を。
リリーナが掲げた完全平和主義の理想が、彼女と共に潰えてしまったことに……」
だから刹那はただ、悔しさを覚える。
知り合って間もないが人一人が死んだのだ。
決して軽いことじゃない。軽いことにしてはいけない。
それも自分の判断ミスによるものだ。
黙って刹那の言葉も聞く忠勝も想いは同じだろう。
家康公に通ずる理想を持っていたリリーナに、忠勝は悪い感情を抱いてはいない。
「だが、俺達には何も出来ないのか。
こうしてリリーナの死を嘆くしか――いや、そうじゃない。
そうじゃないハズだ……そうだろう、ホンダム?」
おもむろに刹那は立ちあがる。
デイバックを担ぎ、聳え立つ忠勝を刹那はまっすぐ見据える。
両目に宿る意思は決して弱々しいものではない。
忠勝は待つ。この小さな相棒が何を言わんとしているかを、とある推測をもってして。
そして忠勝は確信する。
やはり自分の感覚は正しかったことを。
「完全平和主義……その理想、俺達が手伝えばいい。
リリーナ・ドーリアンという、平和を望んだ少女が居たという証明を、完全平和の実現をもってして成す。
平凡な道ではないことはわかっているが……だが、それでも俺はやってみせたい。
だからだ。今、俺達がするべきことはこの戦いの駆逐……やはりそれしかない」
この場にはソレスタルビーングの仲間は居ない。
名簿に記載されていない12人も知っている名前はなかった。
だが、一人の仲間も居ないわけではない。
忠勝、そして共に戦ったアーニャも居る。
もしかすればリリーナの知り合いもこの場に居るかもしれない。
一人一人では織田信長やバーサーカーのような存在に駆逐されるだろう。
しかし、集団を形成すれば、同じ理想を抱く仲間と手を組めば話は違ってくる。
その筈だから――刹那は希望の火を消そうとはしない。
「往くぞ、ホンダム。
リリーナの夢を夢で終わらせないためにも、先ずはこの歪みを断ち切る――俺達の力で!」
ホンダム眼球部分が一際赤く発光する。
その光の眩しさはとある仕事を務めた。
――応!!
力強い返事の代わりを確かに。
【E-4とD-4の境目/市街地/1日目/朝】
【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00】
[状態]:疲労(大)、精神的ダメージ、イノベイターとして半覚醒
[服装]:私服
[装備]:ワルサーP5(装弾数4、予備弾丸27発)@機動戦士ガンダム00、ボールペン型の銃(0/1)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~1(確認済)、9㎜ピストル弾×5
[思考]
基本:世界の歪みを断ち切る。ダブルオーガンダムを奪還し島から脱出。
1:宇宙開発局→都市部 の順に移動し、ガンダムを捜索。
2:専守防衛。知り合い、無力な民間人がいれば保護する。
3:サーシェス、グラハム、トレーズ、信長、光秀、バーサーカーを警戒。政宗は保留。
4:バーサーカーの情報を広め、また不死の秘密を解くため情報を収集する。
5:リリーナの知り合いを探し、その最期を伝える。
6:アーニャが気掛かり。
7:リリーナの理想を出来る限り引き継ぐ。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン第23話「命の華」から。
※帝愛グループをイノベイターと関わりのある組織、あるいはイオリア計画の遂行者ではないかと疑っています。
※脳量子波により本多忠勝の意思を理解できます。ただし刹那から送信はできません。
脳量子波の受信範囲は広くても声の届く範囲ほどです。
脳量子波は忠勝が「考えたこと」だけが受信されます。本人が望まないことは伝わりません(忠勝の意識レベルが低下している時を除く)。
【本多忠勝@戦国BASARA】
[状態]:疲労(大)、胸部装甲破損(鋼板などにより応急修理済み) 兜、肩の装甲が一部破損 全身に細かな傷
[服装]:全身武者鎧
[装備]:武田信玄の軍配斧(石動配)@戦国BASARA
[道具]:デイパック
[思考]
基本:徳川家康(参加者にはいない)の遺志を継ぎ戦国最強の名に恥じぬ戦いをする。
1:戦いに乗った者、主催者グループを打倒する。
2:刹那に伴い行動する。
真田幸村と合流したい。
3:バーサーカーとはいずれ決着をつけたいが、まずは不死の秘密を解く。
4:信長は必ず倒す。
[備考]
※参戦時期は第12話で安土城へと向かっている途中。
尚、後述の飛行機能以外は主催者の力で修復された模様。
※バックパック内の装備は没収されているため、原作ゲームにおける攻撃形態、防御形態、援護形態使用不可。
他、ゲーム版での固有技、バサラ技が使えるかはお任せ。
※主催者側から飛行機能に制限が課せられています。短時間低空飛行には問題ありません。
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最終更新:2009年12月07日 22:56