ぶっ生き返す/ふわふわタイム(前編) ◆zZobvbdlGE
◇ ◇ ◇ ◇
いささか物騒な邂逅を果たしたルルーシュとモモであったが、
今は凪の海のように穏やかな雰囲気で食事を取っている。
無論海中にはどんな海流が渦巻いているか定かではないが、
表面上は朝日を浴びながら朝食を取るワンシーンがそこに有った。
2人はキャンプ用の折り畳み椅子に腰をかけ、丸いテーブル上の皿に盛りつけられた食事に手を伸ばす。
クロワッサン、バターロールにトーストはもちろん、温かいスープにハムやサラダ、目玉焼きにオレンジジュース、
ティーポットに沸かされた芳しい香りと湯気を立ち上らせるダージリンティーまで用意されている。
1日の始まりからエネルギーを多めに補給しようという意図が見て取れる。
「次はいつ食事に有りつけるか分からないからな。栄養は取れる時に摂取しておくのがいいだろう。
食事は喉を通るようでなにより――――なぁ桃子。」
「……意地悪な言い方っすね。私にはしょんぼり落ち込んでる暇なんてないんすよ。
絶対先輩を生き返らせて見せるんす……!」
「100%とは言い難いが、奴らがそういう力を持っている可能性は十分あるな…フム、上々。」
紅茶の香りを楽しんでいたルルーシュがカチャっと音を立ててカップを皿に置く。
モモは大皿に盛られたサラダを小皿に取って、
香り豊かなゴマだれ風味のドレッシングをかけている。
「それにはまず情報が必要だ。危険人物の特徴や力が分かれば生存率は上がるからな。」
「……分かってるっすよ。クチビルさんとは結構いい情報交換が出来たじゃないっすか。」
「ゼロや危険人物の情報が得られたのは僥倖だったな。ゼロの件はまぁ…今となってはどうでもいいことだ…」
ルルーシュは夜明け前に偽物のゼロによる演説を聞き、必ず殺すと怒り心頭だった。
“自分とは異なった世界から数人単位で連れて来られている”
という情報を知らなかった為だ。
ルルーシュはスタート時に電車の中に転移させられて、
平沢憂と出会うまで他の参加者に出会う事が無かった。
黎明に偽物のゼロによる放送を見た時は、自分が生きてきた世界以外の存在など予想もしなかった。
“悪逆皇帝”の悪名高さ故に、他の参加者と出会う事は接敵と同義であると考えていたのだが、
平沢憂は、ルルーシュの顔を見ても何ら反応する事はなかった。
顔を見るなり威嚇の為に機関銃を撃ち掛けた為、腰が引けていたが、
それでも“悪逆皇帝”の顔を見て驚くような事はなかった。
“悪逆皇帝”を少女だから知らないという事はない。
それだけの眼を瞑りたくなるような、耳を塞ぎたくなるような悪行を繰り返したのだ。
逆らう者は一族郎党皆殺しにして、徹底的に殲滅した。
世界中に、天空要塞ダモクレスと強大な兵力を持って、恐怖を徹底的に叩きこんだ。
――――そう、救世主ゼロが悪に鉄槌を下し世界を救うまで。
それだけでは確証は持てなかったのだが、
船井譲次という男と情報交換をしたことで、更に信憑性が増した。
…彼らは同じ世界の人間の可能性がある。
女子高生は帝愛などと言う闇金の存在を知らないかもしれないからだ。
日本が存在する世界、ナイトメアフレームが跋扈する、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの世界、
遺書を残して自殺した男、
カギ爪の男が住む惑星エンドレス・イリュージョン。
少なくとも3つの世界から参加者は呼び出されていると類推するできる。
そして…
(船井と情報交換していた間、琴吹紬がうわ言で喚いていた、“浅上さん”、“凶げないで”というキーワード……
“浅上さん”は
浅上藤乃の事、“凶げないで”は…恐らく人を凶げないでか…)
人を念力の様なもので捻じ切ったら、ああいう感じで傍の人間に返り血が飛ぶだろう。
(仮に歪曲としよう…ギアス能力者にはそういう力は宿らない。
ギアスは全て例外なく脳や精神に影響を及ぼす力だ。)
もし浅上藤乃…エリア11の人間がそういう力を持っていたら、100%ブリタニアの敵になっていただろう。
それだけブリタニアによるの植民エリアへの統治は苛烈だった。
(浅上藤乃も3つとは別の世界の人間か…日本の戦国武将や
セイバー、
アーチャーなどといった一定の法則を持った参加者。
これを人括りにすると…戦国武将、ユフィの召喚…
参加者は、知人の死によって影響を受ける7人から5人程度の人間を一群として、複数の世界、時空から召喚されている。)
ルルーシュは情報の断片から、参加者が複数の世界、時間から数名単位で召喚されていると推論を立てた。
そんな思考の変化もあって、やりたければ自分の世界に帰って勝手にやればいいというスタンスになっていた。
ルルーシュの世界では意味を持つ仮面も、他の世界では腕のいい職人が作った高性能な仮面でしかない。
そのことよりもスザクや
C.C.、ユーフェミアと合流する事を最優先に考えていた。
「とはいえ、必ず障害になるだろう。優勝を目指すお前の敵であることには変わりはない。」
「有無を言わせず銃で撃って来たっすからね。私もそう思うんすけど、
クチビルさんも模倣犯と殺しの罪をゼロに押し付けるような人を警戒してたっすよ。」
モモが船井のベンツに同行していた間、理解しているかも定かではない唯を相手に、
船井が自分に言い聞かせ再確認するように考察を語っていた事を思い出した。
「当然だ。俺たちが見かけるゼロは船井が遭遇した奴とは別の人間かもしれないぞ…?
そうだな…ゼロのマントが手に入った事だ…いっそ俺たちでゼロをやるのもいいな。
“狐”と“泥眼”と“夜叉”の面ならスーパーで支給品バッグに入れたはずだ。」
冗談めいた言い方をしながら、3つの面をモモに見せてきた。
この会場に来ているルルーシュの知人はアーニャ以外全員ゼロの正体を知っている、
この戦場に限って言えばゼロが悪の代名詞、参加者に恐怖を与え、戦いを煽る存在として流布されるのも悪くない。
あの放送を利用できないか考え始める。
「ふんふん…それもいいかもしれないっすね。第一の模倣犯になろうって訳っすか。」
モモは目の前に座る男こそが、真のゼロである事に気が付くこと無く軽く納得した。
「一つ質問なんすが、クチビルさんと情報交換して直ぐ船に戻った筈なのに、どうして私より後に帰って来たんすか?」
「さぁ、なぜだろうな…?」
モモの質問にルルーシュは首を傾げて、誤魔化すように口元だけで笑った。
「ちょっと、ルルさん恍けるのはやめるっすよ。」
「これを聞けば、お前は1人でここから出ていくかもしれないな。」
「行かないっすよ…私には他に行くところなんて無いっすから。」
ルルーシュは分かったと言うように目を伏せて、席を立ちあがり船室の中に入って行った。
少しして戻って来たルルーシュの手に何かが握られていた。
手で握るのにちょうど良いサイズで、チェスのキングを模したスイッチの様なものと、
心臓程の大きさで、機械の付いた透明な容器にピンク色の液体が入った得体のしれない物だった。
「この船はな…流体サクラダイトという物質を使って動力を得ている。」
「流体…何っすか…?」
よく分からない単語がルルーシュの口から出た事に、モモが疑問を差し挟んだ。
ルルーシュの世界では都市の発電やナイトメアフレームのエナジーフィラーなどに使用され、
その保有量がそのまま国家のパワーバランスに繋がる貴重な物質だが、モモは見た事も聞いた事も無い。
「サクラダイトだ。俺の世界ではエネルギーによく使われるレアメタルだ。」
「それで “流体サクラダイト”とやらがどうしたんすか……?ん……まさか…そのピンク色の液体が入った機械は…」
モモは今までの会話でルルーシュのやりそうな「ある事」が推測出来てしまった。
「フハハハハ…!お前分かって来たな。その通り…!サクラダイトを使った爆弾を幾つか作った。
船は後25キロしか移動できなくなったが、海を移動できるのは今だけだ。いずれ禁止エリアばかりになる。」
「……!!まさかとは思ったっすけど…やっぱり爆弾だったっすか……」
「爆弾の起爆もそうだが、船のミサイル発射管も取り外して、このスイッチで発射させるシステムも構築した。」
ルルーシュは自慢するように手のひらの黒いチェスの駒を模したスイッチをモモに見せる。
「チェスのキングっすか?支給品バッグってホント不思議っすね…私はルルさんに会うまで知らなかったっすよ。
まさか船があって、こんなに朝ご飯が食べられるなんて思わなかったっす。」
「支給品だけ武器という訳じゃないだろ…?消化器だろうが民家に有るナイフだろうが、ようは使い方次第だ。
この心臓大の爆弾一発で半径10m位は消し飛ぶ。灯油のポリタンクをそのまま使った特大の物も2つ用意した。
これならば宇宙開発局の展示場、タワーレベルの建物なら土台から崩せるだろう。」
ゼロであった頃も皇帝になった後も、爆発物を使い建物を崩壊させたりする機会が異常に多かっただけに、
爆薬の威力や、製造方法、何処にセットすれば建物を崩壊させられるかなど、十分すぎるほどに熟知していた。
敵の虚をつく爆破のタイミング、それによる戦局の崩し方などは神がかり的ですらあった。
黒の騎士団で自分が使っていた揚陸艇が手に入ったことでカードが揃いつつある。
「ウソ…っすよね?正直、手榴弾程度だと思ってたっすよ…」
「事実だ。この心臓大の物を1つ船井の車の下に取り付けてきた。
車の構造に詳しい奴でないと気付けない程度だが…排気管の類に見えるよう偽装してある。」
モモは意地の悪い気持ちで悪巧みを聞いていた表情を一変させ目を見開いて驚いた。
ルルーシュは何事も無かったかのように、再び紅茶のカップを手に取り一息付いている。
咄嗟にはそれが何を意味するのか理解できなかった。この人は一体何を言っているのだろう?
理解できる言語で話しているはずなのに、モモのこれまで培ってきた常識が、それを理解する事を許さなかった。
「“これ”と後2つ…この船に有ったパーツ類で作った盗聴器、発信機を船井の車に取りつけてきた。」
「無茶苦茶するっすね…?」
モモは驚きを通り越して、「おかしい」とか「異常」だなどと、突っ込む気も起こらなかった。
そんなモモをルルーシュは気にすることなく、またまた支給品バッグから古臭いCDプレイヤーを取りだした。
突然出てきたCDプレイヤーにモモは疑問を隠せない。
「外見上は、ただの大きく古いタイプのCDプレイヤーだが中身は全く違う。これは発信機と盗聴器の受信端末だ。」
「どうやって使うんすか…?」
「CDを聞くプレイヤーとしても使えるよう偽装してある。このイヤホンは当然だが盗聴した音声を聞くものだ。
発信機に関してはこのリモコンの液晶に、移動速度と矢印で上下左右斜め8方向の内、
どちらに移動しているかが現れるようになっている。」
モモがそれを見て中をのぞいてみるとCDが入っているのが見える。
蓋を開けるとCDには「ジン 解読不能」と書かれていた。
電源を入れて液晶をモモが見ると、今は移動速度50、↑と文字が表示されている。
「へぇー…あのベンツが襲われたりしたら、どの辺で襲撃を受けているか分かるっすね。」
「そうだ。この戦場で一番大事なのは殺しの数でも、徒党の人数でもない、情報だ。
襲撃者のおおよその位置、能力、武装、特徴などが分かれば遭遇を回避し、対処する事も出来るだろう…?」
「クチビルさんたちは露払いっすか…」
「そんな所だ。位置情報と車内の音声で火器による襲撃か、魔法の類による襲撃か分かるだけで大分違う。
フフフフ…アレはもう快適な移動手段なとではない、走る棺となった…」
―――――そして…棺の上に乗るような罰当りにも消えて貰う…
「……」
ルルーシュは遠回しに、車に襲撃者が取りついたら爆弾を作動させると言い切った。
モモは
加治木ゆみの復活を目指して全てを討つ覚悟を決めたつもりだったが、
例え同じ物を支給されたとしても思いつく事も無かっただろう。
「フハハハハ…!しかし船井も大失態だな。」
「何がおかしいんすか…?」
衝撃的な事実をあっさり語り、悪びれることもなく声を上げて笑い出したルルーシュに、モモは怪訝な表情をした。
「あの疑り深い男が、俺が憂を連れているように姉を連れて居るんだからな。
御同類が居るとは、笑いをこらえるのが大変だったよ。大した情報を出さなかった俺を見て油断したな。」
「人の悪そうなクチビルさんが、保父さんみたいになってたっす。」
「足手纏いの御守りで大事なことを見落とすとはな。」
「天然さんに、発作の様に取り乱す人を背負い込んでるっすからね。」
船井達に見つからないように、姿を消して彼らの一部始終を見ていたモモは、その光景をありありと思い出していた。
「だが…そろそろ足手纏いは切り時と考えているだろう。この辺が奴の限界…」
「あっ…!そう言えば…その話に出たゴスロリさんっすけど、どうするんすか…?」
モモは「俺が憂を連れている」という言葉を聞いて、思い出したように話を切り出した。
ルルーシュが薬局で船井や唯たちと出会って情報交換をする所や、
ある思惑から平沢姉妹を会わせまいとして、憂を船に戻そうとしていた所をモモは一部始終見ていたのだ。
予め船の中に潜んでいたモモがルルーシュを銃で脅して揚陸艇を出させたせいで。
揚陸艇を繋いだ所に戻っていなかった憂を、薬局から揚陸艇が止めていたあたりに放置してきてしまった。
「正直男1人と存在感の薄い女1人では怪しい。なぜこれだけ時間が経っているにも関わらず1人なのか…
よく見るともう1人女がいるじゃないか…しかもこんな船までどうやって……これが俺たちに出会った者の思考だ。」
「なるほど…ゴスロリさんは餌っすか…?ルルさんって本当に人間っすか…?」
先程からから不穏当な発言ばかりするルルーシュにモモは毒を吐いた。
「何とでも言え…分かっているようだな。
人を殺して不安定になっていた所を拾ってやったんだが、駒として使えそうにない。」
「……!」
「まぁ肉の盾や正義感の強い男をその気にさせる誘蛾灯の役割ぐらいが関の山だろう。」
「サラっと言うっすね……」
「今更お前に隠しても仕方ないだろう…?優勝狙いの癖に温い事を。」
ルルーシュが挑発するような言葉を投げかけるとモモはスネたように睨んだ。
(この人「悪い人」じゃない。極悪人っすよ…!爆弾…?人を殺すことに全く躊躇が無いっす。
頭はキレるし、他人を簡単に切り捨てられる人……クチビルさんご愁傷様っす…
この選択良かったんすかね…?先輩……)
それを受け流してルルーシュはカップに口を付けて、ダージリンティーの香りを楽しんでいる。
「ふん…イヤな感じっすね。で…ゴスロリさんは迎えに行くんすか…?」
「捨て置くという選択肢もあったが、いた方が徒党を組みやすい。まぁ保険だな。」
「何度も同じ所を行ったり来たりしてるっすねー。」
モモが投げやりにそんな言葉を返すと、ルルーシュが少し不機嫌な顔をした。
「お前が言うな…今船は戻りつつある。停泊は岸から100m程の海上が限界だ。」
「いつまでもプカプカ沿岸に浮いてると危ないっすからね。」
「フッ…警戒心が強いのは結構なことだが、視野狭窄と言わざるを得ないな。
俺は上陸前に薬局周辺の人影を入念にチェックした上で、揚陸艇を泊める所を決めたんだよ。
俺たちが船から離れている間に、薬局から揚陸艇までの間で戦闘が行われた形跡はなかった。
それに俺が奇襲や伏兵による襲撃を受けていないことから考えて、あの時点では安全地帯だった…という事。
船にはとんだ子猫が忍び込んでいたようだが――――」
ルルーシュはパンにバターを塗りながらモモにチクッと刺を差す。
「…。女の子を子猫呼ばわりとはキザな人っすね。」
「こういう仕様だ。ほっておけ。」
◇ ◇ ◇ ◇
モモはフォークで突き刺したハムを口に運んで、ちょぼちょぼと咀嚼している。
テーブル上の皿に幾つも盛りつけられた料理をバランス良く食べて、オレンジジュースで喉を潤す。
少し前にルルーシュの背中に銃を突きつけた事を忘れたように、投げやりで力の無い口調で会話を続けている。
ルルーシュも一時命を握られた事を気にすることなく、スラスラとモモ相手に憂をどうするかを説明すると、
置いてあった重厚な機関銃から、その上部に据え付けられたスコープを取り外した。
「岸から250m程の海上に停泊して、これで1時間監視…来なければ憂は置いていく。」
「で、行き先は?また工業地帯の方に行くんすか?」
「フン…何度同じ所を行ったり来たりするつもりだ…?そんな時間のロスはもう許されない。
こうしている間にも自衛の為のグループや徒党が出来つつあるだろう…後になればなる程入り込むのは難しくなる。
丁度隣のエリアだ、先に政庁を調査したい。確認したい事もあるしな…」
「確かにその通りっす。皆1人では限界を感じて仲間が欲しいと感じるはずっすから。」
ルルーシュは先刻の放送で、名簿に表記されていない参加者として追加で名を呼ばれた、
ユーフェミアの動向を気にしていた。
(悪趣味なこのゲームの事だ、ユフィをここに召喚した時期は間違いなく“あの時”だろう。
そうでなければ虫も殺せない彼女を参加者にしても、死体が一つ増えるだけだ。
どういう基準で集められたのか、この会場には日本人と思われる名前が多い。
ユフィが強力な戦闘力を持つ者に “あの命令”を実行して返り討ちにさせる訳にはいかないし、
その者の命を奪ってしまっても状況は最悪だ。ユフィが行きそうな所を探すしかないな。)
モモが返事をするまでの一瞬で思案した。
「――――いい答えだ。頭は回るようだな。」
「私だって1人では限界だったからこそ、ルルさんに声をかけたんすよ。」
「声かけたというのか…?あれを…?」
ルルーシュの出来のいい生徒を褒める様な言いように、茶目っ気が出てきたモモはしれっと「声をかけた」と答えた。
そう言いようにルルーシュはじと眼でモモを見る。
「まぁいい…戦力は確認しておきたい。お前の能力は姿を消すことか…?」
「能力とかそういうのとはちょっと違うっす。学校とかにいるじゃないっすか…?
毎日同じ教室に通っているのに顔や名前を覚えてもらえない、存在感が薄くて休み時間にいつも一人でいるような…
1人で居る事に慣れて、煩わしさからコミュニケーションを放棄していたら、周りの人に全く認識されなくなったんすよ。」
「存在感が希薄な特性が極端になったものが、その光学迷彩じみた“ステルス”というわけか。」
モモの語る言葉に納得したように、ルルーシュが顔の横に手を添えるお決まりのポーズを取る。
「ルルさんは麻雀をやるっすか?」
「麻雀をやるか?」というモモの唐突な質問に、ルルーシュがハッと何かに気付いたような顔をした。
「ん…?フハハハハ…!そういうことか。存在感の薄いお前を、例の加治木ゆみが誘ってくれて学校で麻雀をやっている。
卓を囲んだ相手はお前の振り込みに気付かない…か。なるほどな。」
「ご名答…流石ルルさんっすね。麻雀と言っただけなのに一瞬でそんな事まで分かる解るんすね。」
麻雀という言葉だけを聞いて直結で答えに行きつくルルーシュの頭脳にモモは舌を巻いた。
これから加治木先輩とモモの関係、モモが麻雀を打つと局が進むにつれ対戦相手に捨て牌が見なくなり
勝手に振り込む、という話をするつもりだっただけに、思考を先読みされたような気がして戦慄した。
感情を排したデジタル的な判断力があり、驚異的な頭の回転で未来予知じみた思考の先読みすらするような人が、
本気で麻雀を打てばどんな打ち手になるんだろうとモモは思った。
「麻雀か…?ネット麻雀をやっていたことがある。俺はギャンブルと名のつくものには1度も負けた事はない。
チェスだけは幼い頃年の離れた兄に何度も負かされたが最後には勝ったしな。」
「へぇ…ルルさんって何やってる人っすか…?」
最後の対局だけはチェスではなかったのだが、ルルーシュはそれを億尾にも出さずチェスと言い切った。
「その他ポーカー、ハイアンドロー、ブラックジャックにルーレット、競馬にパチンコ、パチスロ…チンチロリンまで…
違った人生があったならギャンブラーになっていたかもしれないな。」
そんな事をルルーシュが何か懐かしい物を思い出すような顔をした。
アッシュフォードの学生だった頃はリヴァルのサイドカーに乗り賭場に繰り出していた事、
非合法の賭けチェスやギャンブルの類で自分とナナリーの生活費を稼いでいたなと思いだしていた。
眼を閉じれば浮かんでくる。
傍には何気ない日常があり幸せだった過去の走馬灯に幸せそうな表情を初めて見せた。
鬼畜の類だと思っていたルルーシュの柔らかい表情を見たモモは眼を見張り、緩く握った手の甲を口元に当てて笑った。
「うふふ、違った人生じゃなくても、ギャンブラーになればいいじゃないっすか。」
「フフ…まぁ…それは言っても仕方のないことだ。麻雀は打てる。で…それがどうした?」
作為の無い笑顔すら見せるほどルルーシュの態度と物腰がまた少し柔らかくなる。
「私たちの世界では麻雀が世界的な競技になっていて、中学や高校の部活で麻雀部っていうのが多いんすよ。
毎年全国大会が行われて強豪校なんて呼ばれている所も幾つかあるっす。
それはテレビでも中継されたりもして、大会で活躍した人や強豪プロは世間で栄誉と称賛を一身に受けるんすよ。」
「ほぉ……麻雀が強ければ……か。なんとも平和な世界で羨ましい限りだ。」
その失礼な言いようにモモはむっとした顔をする。
「平和で悪いんすか…?そんなの分かんないっす。自分の世界の事しか知らないっすから。」
「まぁ…そうだろう…すまないな。」
ルルーシュは自分の世界との文化の違いに気の抜けたような、感心したような声を上げる。
同じように学校の制服を着て、年齢も左程変わらないはずなのに、
血で血を洗う生涯を送って来た自分と、この少女の違いは一体どれだけなのか?
想像する事も馬鹿らしくなって思考を遮断した。
「だが…そんな世界なら居るんじゃないのか……?存在感が薄いというだけのお前に“ステルス”が宿るんだ…
そういう不利を物ともしない魔物……麻雀の主の様な奴が――――」
再びルルーシュの瞳は鋭くなり表情から笑みが消える。
モモの知りうる情報は全て絞り出す為、真剣に語りかけた。
「……いる…全国なら当然。確かに居るっす…県大会でも決勝レベルからチラホラ…って感じっすよ。」
「ギャンブル船はペリカを求める参加者を集める餌の類だと憂には言ったが……なるほど、認識を改めなければな……」
ルルーシュは判断を誤った…失態を犯したかもしれないと思った。
憂の申し出を反故にした事は過ちだったか…?情報が不足していた事も理由の一つだが、
もう少し熟慮するべきだったのだろうか?
麻雀しか能のないような少女たちを殺人ゲームに放り込む理由は何だ……?
“金で魔法を買った”
というこのゲームの根底…コンセプトについてモモと会話をしながらも深く思案をし続ける。
「お前たちの世界からは、ここに何人来ている?」
「スタート前に頭を吹き飛ばされた龍門渕桃華、加治木先輩と…風越のネコミミさん…清澄の部長さんは…
もう……いないっす…後は……私、風越のキャプテンさん、そして――――龍門渕の
天江衣がいるっす……」
モモは泣き出しそうな暗い顔をして、愛する先輩と知った人間の戦線離脱を口にする。
そして最後にその名を絞り出した。龍門渕の天江衣と……
「ありがとう。だが、あだ名は止めろ。ネコミミと清澄の部長、風越のキャプテンの名は…?」
「ネコミミさんは
池田華菜さん、部長さんは竹井久さん、風越のキャプテンさんは
福路美穂子さんっす。」
池田華菜、竹井久、福路美穂子…確かにルルーシュの記憶と照合すると一致する名前だ。
「確かに放送で呼ばれた名だな。福路美穂子、天江衣か……どんな打ち手だ…?」
「福路さんは卓で起こっている全ての状況を見透かしたような打ち回しをして、他家を使って場を操ったり、
その驚異的な洞察力で危険牌を回避したりするっす。」
「お前の“ステルス”に対して神眼と言ったところか…?俺の打ち回しに近いかもしれないな…」
ルルーシュは福路美穂子の打ち回しを聞いて、自分が打つ時のスタイルと似ていると感じた。
モモは再び話を続ける。
「そして魔物じみているのは天江衣……上がる時は必ず海底が付くんすよ。鳴いてズラしても引いてくるっす。
天江に場が支配されると他家は副露も出来なくなって、テンパイ率も異常に下がってしまうっす。
ここにはいないっすけど清澄の嶺上さんはカンをすると王牌が殆どドンピシャで、数え役満を上がったりしてたっす。
後おっぱいさんと嶺上さんには“ステルス”が効かなかったっす。」
「おっぱいさんって誰だ…!?名前で言え!しかし確立や場の運機を我が物にするような奴がいるのか…
麻雀以外の勝負事でも発揮されそうだな。」
「そういう訳っす。ステルス”位ではどうにもならない魔物みたいな人達なんすよ。」
そう言いながらもモモは嬉しそうな表情をしていた。
残念ながら県大会で負けてしまったせいで、今年の全国には行けなくなってしまったが新しい目標が生まれた。
「そういう割には嬉しそうだな…?強い相手と戦うのは望む所と言う訳か…?」
「先輩は生き返っても卒業しちゃうっすけど、私はもっと強くなって来年は必ず全国に行きたいんすよ。」
◇ ◇ ◇ ◇
「大体お前達の事はよく分かった…そろそろさっき揚陸艇を止めた所が見えてきたな。
お前の責任だ。そのスコープで覗け、憂を見つけたら直ぐに岸に付けて回収する。」
「回収する」という言葉にモモは苦い物を飲んだような嫌な顔をした。
「回収っすか……あーあ。正直ルルさんと一緒に来たのは失敗だったかもしれないっす…」
「そうか…?俺はそうは思わないな。割といいコンビになるかもしれないと思っている。それには――――」
「ふん、それには……?」
柔らかい表情を浮かべていたルルーシュの顔から冗談の色が抜け落ち、鋭い眼光がモモを射抜いた。
出会ってから初めて見る本気の眼に緊張が走り、弛緩していた全身が硬直する。
比較的穏やかだった空気はピンと張り詰めモモの生唾を飲み込む音が聞こえる。
弱き人々を駆り立て幾度も奇跡を起こし希望を与えてきた男、世界中に暴虐と悪意を振り撒き絶望に叩き落とした男。
それはどちらでも変わらない…
―――――――――――――ゼロであった時の、皇帝ルルーシュであった時の矜持。
「撃つ覚悟と撃たれる覚悟……それをお前に求めたい。」
「撃つ覚悟と撃たれる覚悟……」
「――――そう…!このゲームを本当に勝ち抜きたければ力を示せ……!!」
「力っすか……そんなの……」
強い口調で煽るルルーシュにモモが自信のなさそうな表情を浮かべた。
女子高に通う普通の少女であるモモに出来る事と言えば麻雀ぐらいのもの。
先輩は雀力を買って勧誘してくれたようだが、恐らくそれすらも“ステルス”なしの平手で打てば、
大会で当ったような強豪にはほぼ負けるだろう。
存在感の薄さゆえに周りの人間に気付かれないという特性、“ステルスモモ”だからこそ先輩の力になれたのだ。
「勝ち残るためには他の参加者を蹴落とさないといけない…そう言いたいんすか?
私には“ステルス”以外力なんて無いっすよ…」
「力とは暴力や戦闘力の事ではない。戦う覚悟、決意、罪から逃げない勇気…つまり思いの力だ。」
「覚悟はしてるっす…絶対に生き残って先輩を生き返らせたいんすよ……!」
モモはスカートの上に組んだ小さな拳を握りしめて、改めて自分の願望を打ち明ける。
「桃子、お前は本当に引き金を引く事が出来るか…?
憂は1度引いたがもう無理だろう。自分の心を守るのに精一杯だ。次は撃てない――――」
モモの決意を試すようにルルーシュが問いかけを続ける、修羅の道を逝く覚悟が有るのか無いのかを…
「加治木ゆみただ一人を蘇生させる為に他人の屍を踏み付けにして、泥水を啜ってでも生き残る…
優勝すれば死者の復活という不確定な事象に自らを投げ込み、殺人を犯し続けたとして、
お前はその罪に耐えられるのか?その重みを引き摺って先に進む事が出来るのか…?」
モモは掴んだスカートをぐしゃぐしゃにして言葉を絞り出した。
「そんなのやってみないと…分からないっす。人なんて殺した事なんてないっすから。」
「皆過ちで人を撃つことは容易く出来るが、覚悟して敵を撃ち続ける事はなかなか難しい。
その引き金…俺が引いてやろうか…?俺の名の下に敵を討てばいい―――――
これから憂を回収したら言ってやるつもりだ、お前は悪くない……俺が命じると…な。」
その双眸は全く感情が感じられないほど無機質だが、口元だけは笑っていた。
「………ッ!!それは…いけない事っす……!やっぱり私が引き金を引いたら私のせいなんっすよ……!
いくらルルさんの命令だったとしても、私の罪ってことには変わりはないっす……!!」
その重荷を俺が代わりに持ってやろうかという甘い誘惑を、モモにしては珍しく強い口調で拒否する。
幸薄く内気で引っ込み思案な目立たない人間だと言っていたのに、
まっすぐ眼を合わせてくるモモを見てルルーシュは感心するような顔をした。
「
東横桃子お前の覚悟に敬意を表そう。
緊急事態の時はお前に攻撃を命じるかもしれないが、引き金はお前が引け。いいな?」
モモは覚悟を決めて傍に置いてあったブローニング・ハイパワーを握りしめた。
「はい。私は自分の意思で引き金を引くっす……!」
「最後に…他人の屍を踏み付けにして進むものは、自らも撃たれる覚悟が無ければならない。
修羅の道を逝く覚悟はあるか…?」
「修羅道でも地獄の一丁目でも逝ってやるっすよ…!加治木先輩が死んだって聞いて私も一回死んだんすから。
死んで先輩に会うか、生き返らせてから会うかの違いしかないっす…!!」
「フハハハハ…!やはりいいコンビになれそうだ。これは何処の誰が仕組んだ組み合わせだ…?
展開次第では本当に俺かお前どちらかが生き残るかもしれないな。」
堅いルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの表情から一転、悪戯っぽい顔を見せて笑い声を上げた。
戦う決意、敵を撃つ覚悟を決めた“ステルスモモ”これ程の駒は中々手に入らないだろう。
チェスの駒で言うならさしずめビショップと言ったところか。
「私も生き残るのは剣や魔法を凄い力でブンブン振るう人じゃなくて、
ルルさんみたいな人なんじゃないかって思うっすよ。」
しかしルルーシュはここまでモモを煽ってはみたものの、何か引っかかりを感じる。
「とは言ったものの…メデタシメデタシとはいかないな。その決意が“ステルス”を消す恐れがある。」
「確かに激情に駆られて人に襲いかかったりしたら、丸見えになっちゃうっす。」
大きな泣き声のせいでレイ・ラングランと遭遇した時の事を思い出して口にした。
「やる気満々な所申し訳ないが無気力、無味、無臭の方が“ステルス”は強く発揮されそうだな。
サラっと行けばいい、ただのゲームだと思えばいい。」
「ゲーム脳も大概にしてください…!さっきからなんなんすか…?
爆破だの駒だの、覚悟しろって言ったり、やる気出すなって言ったり…」
「ゲーム脳だと…?まぁいい…やる気を出さずに“こう”すればいいだろ…?
若しくは…そうだな…麻雀で対局相手の危険牌を捨てる時の感覚だ。」
ルルーシュ笑みを浮かべながら指で銃の形を作って撃つようなジェスチャーをした後、
思案してモモに麻雀で危険牌を切る時の感じで行けと牌を切るような仕草をした。
「なるほど…ちょっと今やってみるっすよ。」
モモがそう言って集中したような顔をすると、希薄だった気配が更に薄くなり、遂には見えなくなった。
その光景に数々のギアス能力者を知っているルルーシュも驚いたような顔を見せた。
光の屈折や、目の錯覚みたいなそんなチャチなものでは断じてなかった。
傍に居るはずのモモが透明人間のように完全に消えたのだ。
「これが正真正銘の“ステルス”か…やるじゃないか。足音を立てるように歩いてみてくれないか…?」
「了解っす。」
声を出す為に頭から肩までを幽霊のように出し、また消えていった。
見えている部分も首から下は煙のように捉え所がなく、肩から下は完全に消えていた。
「歩いてるっすよ。どうっすかね…?」
「参加者には気配に敏感な奴もいるだろうが…これは…そういうレベルじゃないな。
気配だけじゃない…音や匂い、人が動いた時に発生する風なども全く感じない。」
匂いという言葉を聞いた瞬間、モモは顔を赤くして“ステルス”を解除した。
「ちょっと…匂いって!やめるっすよ…!恥ずかしいっす。」
「誤解するな…!そういう意味じゃない。本当に無気配、無味、無臭、無音だった事に驚いている。
俺も憂も探索に行く前に体を流した。気になるならお前も体を流してこい。
格納庫に熱湯とシャンプーとボディーソープがある。水で調節して適温にするといい。しかし…
それは憂を船に乗せてからだな。」
「後で頂くっすよ。さっきの“ステルス”はここに来てから一番調子が良かったんじゃないっすかね…?」
本気の“ステルス”を解除したばかりだからなのか、まだ腕のあたりが煙の様に揺らめいている。
モモは腰に両手を当てて胸を張り得意げな顔をした。
「そうだろうな。船井達を追跡していた時は、余計な事を考えていただろう…?
“ステルス”を使う時はその意識を忘れるなよ。」
「南場で完全に消えてバタバタ危険牌を切る時のあの感覚っすね。」
「そう平常心を心がけろよ。冷徹、非情…自らの精神を完璧な状態に保たなければならない。
人を殺す前の緊張や、殺した後のショックで心を乱したら死ぬと思え。」
「そうっすね。叫びながら人に襲いかかるなんて“ステルス”とは程遠い行動っすからね。気を付けるっすよ。」
モモは何かに納得したように真剣な面持ちで頷いた。
加治木先輩を捩じ切って惨殺した浅上藤乃と出会った時、私は平静でいられるのだろうか…?
いや、そうしないといけないんだ、例え仇が相手でも取り乱したりしてはいけない。
私の目的は復讐じゃない、そう…邪魔者を消して優勝にたどりつくことだ。
モモはその先を見る事を決意した。
「後、切り札はいざという時以外は見せるな。この会場にいる参加者は特殊能力に制限が掛っている可能性がある。
持続時間や破壊規模、何度も力を使えないほどの疲労…あるいは能力のレベルなど。」
「ずっと消えてると“ステルス”の精度が落ちるってことっすか…?」
「恐らくお前の場合そうだろう。周りが全滅するまで姿を消せるような奴がいてはゲームにならないからな。
確実に制限が掛っているだろう…
逆に…普段から眼を“封印”しているような奴は、100%“それ”が強力な切り札だ。
歓迎できない遭遇戦もあるかもしれないが、戦闘はなるべく遮蔽物の多い所に誘導して行うように気を付けるべきだな。」
モモは驚いたような顔をすると、その考察に納得したようにフムフムと頷いた。
それと同時にそんな事まで深く考察しているという事は、
ルルーシュもなんらかの能力を持っているんじゃないかと疑問が湧いてきた。
「…?そんな事を考えつくって事はルルさんも何か能力を持ってるんすよね…?
クチビルさんは魔法の存在にすら懐疑的だったっすよ。」
「ああ、俺の能力には確実に掛かっているな。まだ実験中だが……」
「どれだけ凄い力なんすか…?」
「機会があれば見せてやる…楽しみにしておけ。…ん?」
お楽しみは後に取っておけと言わんばかりに笑って目をそらすと、ルルーシュは何かに気付いて席を立った。
「ちょっと待つっすよ…!私の事ばっかり一方的に聞いてばかりでズルいっすよ…!」
「桃子、1時間待つ所かもう憂が見つかった。あの目立つ服だろう…なんだ…?宙に浮いているように見えるが…
おい…スコープで確認してくれ。憂の傍に何か居る…」
「もう、話をそらしてホントズルいっすよ…!はいはい了解、了~解~っす…!」
モモは一方的に情報を搾取された事が不服なようで、頬を膨らませて不機嫌そうにスコープを覗き込んだ。
岸壁のあたりをスコープ越しに覗き込みながら、舐めるように左右に動かし調査を始めた。
「ふんふん…別にゴスロリさんが居る以外は何も…って…ん?なんなんすかね…アレ…?」
「どうした…?裸眼では詳しく分からなかったが、やはり憂以外に誰か居たのか…?」
何かを発見したような怪訝な表情と疑問の声に、気になったルルーシュが隣まで近づいてくる。
モモは椅子に座ったまま体の向きを変えて、片目を瞑り両手を添えて憂の方を見ている。
「ゴスロリさんの下に何かいるっすよ…ん…?…あれ…マズくないっすかね…?蟹?大きくて、透明で…」
「何…?透明な蟹だと……?俺にも確認させてくれ。」
「どうぞ。」
モモはスコープを覗き込むのを止めて、ルルーシュに手渡した。
「なんだ…あれ、確かに俺にも見える…蟹…か…?憂の能力…?桃子、船をあそこに付けるぞ。」
「あっ、ちょっと待って下さい…置いて行くなんて酷いっすよ…!」
ルルーシュはスコープでそれを確認し終えると支給品バッグに仕舞い込み、武器などを入れ下船の準備をし始めた。
さっさと船を降りようとするルルーシュにモモは抗議の声を上げて、自分も席を立ちいそいそと支度をし始めた。
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最終更新:2010年01月25日 22:02