夢を過ぎても(後編)  ◆tu4bghlMIw



 ▽


 憂はルルーシュの言いつけ通り、薬局から揚陸艇へと帰る道の途中だった。
 つい先程まではルルーシュと共に行動していたのだが、
 薬局の入り口付近で妙な『何か』と衝突した後、一人でその場から離れるようにルルーシュから命令されてしまったのだ。

「……お姉ちゃん」

 憂の目的は自身の幸せを守るために、この殺し合いで優勝することだった。
 夢、である。普段通り、お姉ちゃんと笑い合って楽しく過ごしたい――という儚い夢。
 だが、ルルーシュとの問答の末、憂の中でそれがよく分からなくなってしまっていた。 


 ありとあらゆる行動が矛盾していた。
 意識も、想いも、理由も、何もかもだ。

 自分自身のために人を殺す――という、明らかに普段の平沢憂とはかけ離れた思考。

 姉に迷惑を掛けたくない――と思いつつ、既に二人の人間を殺している。
 そして、自分が姉のために人殺しをしていることを複数の人間に看破されてしまった事実。

 日記を書く――という行為。それ全て。
 『逃げ道を与えないために日記を書く』という思考自体がもう完全破綻している。
 この一連の行いが現実と向き合うことからの逃走である、と意識すら出来ていない。

 何もかもが…………よく分からない。


「……私は、どうすればいいんだろう」


 有り得ないのだ。分からないのだ。


 例えば――とある一つの仮定をしてみる。
 一番シンプルで、理解しやすい私が殺し合いを受諾した理由付けを、だ。

『私はお姉ちゃんが幸せであればいいと思った。だから殺す。お姉ちゃんのために、殺す。 
 お姉ちゃんがお姉ちゃんらしくいられる未来を守るために殺す。私が泥を被る』

 という、思考。
 醜くて、自分勝手で、自己犠牲的で……だけど、それでいて分かりやすい。
 そこには歪みあるが矛盾はない。倫理的な問題はあるが一応の筋は通っている。

 だが――自分はこのような思考を行うことはなかった。
 殺す理由に『お姉ちゃん』を据えることを不自然なまでに恐れた。

 どうして、だろう。
 お姉ちゃんが私がやったことを知れば傷ついてしまうことは分かる。
 お姉ちゃんは抜けているようで、芯の通った人だ。
 可愛らしくて、争いとは根っから無縁な存在だ。
 妹が、人殺しであると知ったら…………誰よりも悲しみ、涙を流すであろう人だ。 

 だからこそ、思う。
 本当に本当の意味で私がお姉ちゃんのことを考えるならば――人を殺そうなんて、考えてはいけなかったのではないか、と。

 これは決して否定の出来ない事実だった。
 私は、お姉ちゃんが妹が人殺しだと知った時、絶対に悲しむと分かっていたのだ。理解していたのだ。
 想像力が足りなかったのではない。しっかりと考えていた。私は冷静だった。

 なのに、私は殺した。
 池田華菜さんのお腹をナイフで刺して殺した。騙して殺した。 
 安藤守さんの背中をナイフで刺して殺した。騙して殺した。


「お姉ちゃん……」


 もう、私は戻れない。お姉ちゃんが大嫌いな人殺しになってしまった。
 いや……それ以前に、私にはお姉ちゃんと合わせる顔が既に、ないのかもしれない。

 私は、初めは人を殺すことを躊躇っていた。 
 だけど、池田華菜さんに銃を向けられた時、その意識は完全に反転した。
 発露されずに震えていた感情はあの瞬間、確かな形を成した。
 私の命を守るために、生き残るために――殺意へと姿を変えた。

 その行為の意味に、私はずっと気づけずにいた。だって、それは――


「……あれ」


 フラフラと歩いていた私は、自分がどうやら揚陸艇を繋いだ波頭とは微妙に離れた場所にやって来ていることに気付いた。
 緩慢な動作でデバイスを取り出す。器具は現在位置を『E-5』であると示していた。

 そこは、不思議な場所だった。
 何が不思議なのかは分からない。ただ、何となく妙な気分になる。
 何もない、のに。
 だけど、何もないことがむしろ不自然に思えてしまう。そんな場所だった。

「……なに、これ」  

 そんな時、だった。
 不自然に何もかもが消え失せた路上にて。
 数刻前、『とある少女』が世界の全てに絶望して命を落としたその場所で。  
 少女は――――行き遭うことになる。

「あなた……誰……?」 

 押し潰されそうな重い思いに縛られた少女の末路。それは常に儚い終焉を迎えることしか出来ない。
 憂は知らなかった。分かっていなかった。
 つまり、自分はとっくに『選んでいた』ということだ。

 命を、取るか。
 それとも。
 夢を、取るか。 

 憂は命を、取った。
 つまり、姉への想いを――――『切った』のである。

 一番大切だと思い込んでいたモノは、気付けば、とっくの昔に切り捨てていたらしい。
 だけど、残滓となった感情だけは未だにその中を漂っている。
 混濁した、混沌の想いが憂を縛り付けている。それに悩まされている。それにしがみついている。
 そして、それは辛い。とても、苦しい。
 解放されたくても、決して消えることのない後悔となってこびり付いている。

 重い/思い――『しがらみ』になっている。


「私を……助けてくれる……の……?」 


 だから、少女が現れた《怪異》に対して、頭を下げることは半ば必然だった。
 仕組みや理屈なんて、分からなくても問題はなかったのだ。
 ただ、憂は思い悩むことを止めたかった。
 解き放たれたかった。 
 心の拠り所が――欲しかった。

 人を殺した罪悪感から逃げたとある少女が命を落としたその場所で、《怪異》は影を潜めていた。 
 奇しくも似たような縁で繋がれた少女が――蟹と行き遭ったのはどのような偶然だろう。


「お願いします……私を、楽にして下さい」 


 そして――代償として、少女は失うことになる。

 彼女が誰よりも求めた夢を。
 大切な人への思いを。

 平沢唯に対する、平沢憂の重みが――消え失せる。


【E-5/路上/一日目/朝】
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:疲労(小)、解けた髪、拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ@現実
[装備]:果物ナイフ@現実(現地調達)、拳の包帯、おもし蟹@化物語
[道具]:基本支給品一式、日記(羽ペン付き)@現実、桜が丘高校女子制服、
    ギミックヨーヨー@ガンソード、COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・10発)@現実、
    騎英の手綱@Fate/stay night、阿良々木暦のMTB@化物語、カメオ@ガン×ソード、包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor  
[思考]
基本:???
1:蟹……?
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。

【COLT M16A1/M203@現実】
ベトナムのジャングル戦において使用されてきたM16A1 アサルトライフルにM203 グレネードランチャーを装着した画期的装備。
連射性の低さを補い、火力アップを図るために装着されたM203は40mmの各種グレネード弾を発射できる。
現在もアメリカ軍によって現役で使用されている高い能力を持った武装である。

【騎英の手綱@Fate/stay night】 
神代の幻想種を従える為の手綱と鞭。
これを装着させる事でその相手のリミッターを強制排除し全ての能力を1ランク上昇させ、その超高速突撃で相手を粉砕する物理攻撃を放つ。
これだけでも脅威だが更に幻想種から発せられる膨大な魔力が守りをも固める。
攻防共にエクスカリバーに次ぐ威力を誇る宝具。


 ▽

「…………夢、っすか」

 男の人の銃口を見据え、私は小さく呟きました。

「どうして、私にそんなことを聞くっすか」
「理由などない」
「……よく分からないっす」
「そうだろうな。俺にも……よく分からないのだから」

 なんっすか、それは。
 自嘲めいた歪んだ笑顔を浮かべ、金髪の男の人が虚ろな表情を浮かべました。
 悲しい笑顔だと思いました。こんな顔で人は笑えるんだ、そう思わざるを得ない笑顔でした。

 この時、私はとあることを感覚的に悟ったわけで。
 つまり、この兄さんも――『さっきの放送で、誰か死んだことを知った』んじゃないか、って。

「……どうにも、ならないと思うっす」

 銃を、突き付けられている。
 それはつまり、命そのものを握られていることと等しいわけで。

 自分がこれからどういう行動を取るのか――それが半ば決定しかけた瞬間の出会いでした。
 結果として、私の中ではこの場をどう乗り切ればいいのかがイマイチ見えていなかったというのが本音で。
 支給された武器で応戦するでもなく、もう一度ステルスを試みるでもなく。

 ――この兄さんと話してみよう、そんなことを思ってしまったわけっす。

「奪われた夢は……もう戻ってくることはないと思うっす」

 何が自分に求められていたのかは分からなかったっす。
 だから、思うがままの言葉で語るしかないわけで。
 まるで、自分自身に喋り掛けているような、そんな感覚でした。悲しい、気持ちでした。

「これは……あくまで、私の夢に関する話っすけど」

 小さく断って、言葉を続けます。

「今思えば、私の夢は……ほんの些細なものだったと思うっす。
 ただ、先輩と一緒にいたい……平和に……穏やかに楽しい時間を過ごしたい……それだけっす。
 麻雀をやるのは好きっすけど、やっぱり一番はそこに先輩がいたことが大きくて。
 先輩が、私を見つけてくれたことが嬉しくて。そして、先輩がいたからこそ、私は頑張ることが出来たっす」

 だから、先輩がいなくなった今は――

「その『先輩』とやらは、死んだのか」 
「…………そうっす」 
「名前は」

 そう尋ねる兄さんの声には不思議な趣がありました。
 冷たい、色。自分は既に誰かを殺している――その事実を肯定するような響き。

「生憎と、兄さんが考えているのとは違う人間だと思うっす。私の先輩は……女性なので」
「……そうか」
「そうっす」 

 少しだけ驚いたような表情を兄さんが浮かべました。
 ……そんなに変っすかね? 

加治木ゆみ……っていう人なんですが。でも誰がやったか、人伝で名前だけは知ってるっす。
 浅上……ええと、何とかさんっす」
「……浅上藤乃、か」
「たぶん、それっす」

 思えば、私がクチビルさん達から離れてしまった発端はあの言葉にありました。
 不意に音としてもたらされた先輩の名前。そして、殺した人間の名前。
 全く想像出来なかった情報が天から降って来たに等しかったんすから。

「……復讐を、」 
「え?」
「……復讐をしようとは思わないのか」

 底冷えするような瞳で兄さんが私を真っ直ぐ見つめました。
 その『復讐』という言葉がやけに乾いて聞こえたのは気のせいだったのでしょうか。

「あー……復讐っすか」
「大切な者を殺された時、残された者はその相手を心底憎悪する。
 この手でその身体を引き裂いても飽きたらず……死んだ人間の無念を果たすことだけを考える亡霊に……復讐者に、なる」
「……そういう考えもあるってことっすか」

 思えば、この時が初めてだったっす。
 先輩を殺した相手に復讐をする――という考えが私の頭の中に浮かんだのは。

 どうして、そういう発想が今の今まで出て来なかったのでしょうか。
 何となく思うに、それは、私が先輩を殺した相手を全く知らないからじゃないかと。

 私は…………今だって、先輩が死んだことすら、信じたくないっす。
 なのに、すぐさま復讐を考えるなんて……まるで積極的に先輩の死を肯定しているみたいじゃないっすか。
 分かっては、いるっす。この《バトルロワイアル》において、放送は絶対。
 放送で死んだと言われたのだから、生きているはずがない――そんな風にさえ思うっす。


「…………俺は、夢を見ていた」


 兄さんがゆっくりと口を開きました。

「それは、悲しい……夢だ。決して埋まらない苦しみと……怒りと……悲しさに溢れた夢だ」
「……その夢は、どうなったっすか?」

 どこか遠くを見つめ、私ではない誰かに語りかけるように兄さんが言葉を紡ぎます。
 兄さんが私に話しかけて来たのは、きっとかなり不思議なことなのでしょう。
 それだけ、関わりの深い相手が亡くなった…………と考えてもいいのかもしれないっす。
 泣きじゃくっていた小娘に胸の奥の感情をぶつけてしまう程度には。

「夢は、終わった…………いや、」 

 兄さんの握り締めた拳が揺れていました。
 噛み締めるように。
 終幕を迎えたような表情で。
 なにかが、抜け落ちたような瞳で。兄さんはゆっくりとその台詞を吐き出しました。


「結局、終わることさえ――――出来なかった。カギ爪の男が死んだ、今となっては。
 シノを殺した男を……俺はこの手で殺すことが出来なかったのだから」


 終わることすら出来ない、夢。
 誰かが死んだのならば、夢は終わるのではないだろうか、私はそんなことを思いました。
 ですが、兄さんは『夢は終わることさえ出来なかった』と語ったっす。
 それはいったいどういう意味なのでしょうか。

 兄さんにとっての、夢のおわり、とはいったい?

「……邪魔をしたな」 

 そう呟くと、兄さんは私に向けていた銃口を下ろしました。

「私を、撃たないんすか」
「それも理由がない」 
「……理由、っすか」
「あくまで俺が人を殺すのは手段に過ぎない。目的が消え去った今となっては意味などない」

 肩を竦めて兄さんが言いました。流れる海風が金色の髪をざわつかせていました。
 太陽の光を反射した海面がきらきら光って、眩しいくらい。
 こんなにも清々しい朝なのに、私も、兄さんの心の中も、悲惨なくらい暗澹とした色に染まっているのでした。 


「……優勝する、という方法もあるんじゃないっすかね」
「優勝? ……ああ《魔法》か」
「そうっす。蘇生させる、という考えもないわけじゃないと思うっす」
「ふざけているのか。死んだ者が生き返ることなど絶対に有り得ない。出来るか出来ないか、という話ではなくてな」

 ぽつりと呟いた私の『蘇生』という言葉に兄さんは眉を顰めました。
 それは今まで私に見せていた虚ろな表情とは全く異なったいたように思います。
 目尻は釣り上がり、口元は大きく歪んで。
 噴き出した鬼気迫るような憤怒の感情に、私は背筋に冷たい物を感じ取りました。

「絶対に……有り得ない……っすか」
「ああ」

 そして、兄さんはそれだけ言い残すと私を一瞥すると、背中を向けました。

「……私は、東横桃子っす」
「…………レイ・ラングレンだ。もう会うこともないだろうが」  
「兄さんは、これからどうするつもりっすか」
「……さぁな。それはむしろ俺が聞きたいことさ」

 それっきり、でした。
 別れの挨拶など、あるはずがなくて。
 コツンコツンと叩く靴裏の音が鼓膜を揺らします。
 コンクリートの大地は決して揺らぐことはなくて、その堅固さが恨めしくもあって。

 ほんの数分の邂逅が終わり――そこには地面にへたり込んだままの私だけが残されたのです。


「私が、これからやることは――」 


 ▽


(俺は、何がしたかったんだろうな)

 レイは自分自身へと問い掛ける。
 もちろん、それは今し方のやり取りに対して、だ。
 東横桃子と名乗った少女との不思議な会話について、レイは頭の隅で思考を重ねる。

(カギ爪は、死んだ。しかも、放送が正しいとするならば、この殺し合いにおける一番最初の死者だ)


 それは、どのような意味を表しているのだろうか。
 今まで、己がその身体を八つ裂きにすることだけに心血を注いでいた相手は呆気なくその命を散らした。
 戦う力を持たないか弱い少女よりも、先に。誰よりも、早く。

(本当に奴は死んだのか。その死は正しいのか。それを確かめたい気持ちもある――だが、特にソレを目的とする気にはなれない)

 拳を強く握り締める。もはや行き場を失ってしまった銃口を見つめる。
 レイにとっての『夢のおわり』はもう、絶対に訪れることはないのだ。
 カギ爪の男に、復讐を果たすという願いは――果たされることはなかった。

(あんな今にも消えてしまいそうな女にすら縋りたくなってしまうとはな。
 ジョッシュ、お前に会ったなら無様だと笑われそうだな)

 偶然の出会いだった。
 だが、桃子とレイの状況は酷似しているようで全く別の形をしている。

 レイにとってのカギ爪の男は――復讐対象。
 桃子にとっての加治木ゆみは――恋い焦がれる相手。

 夢を奪われた者達の末路が、たとえ同じような寂寞の果てへと通じていたとしても。
 二人の境遇を重ね合わせることは出来ない。

(俺は…………)

 だから、共通していることなど、漠然と転がっている事実しか存在しなくて。
 終わりを迎えることさえ出来なかった夢。
 悲しい夢。悪夢の日々。そして、幕を閉じることなく消滅した夢。だから――

(探すのか……? 目的を……? 俺が、ここで……?)

 過ぎ去った夢にこの先も囚われ続ける――それしかないのだ。


【D-4/路上/一日目/朝】

【レイ・ラングレン@ガン×ソード】
[状態]:疲労(大) 肋骨を数本骨折 左肩に銃創(処置済み) 脇腹に浅い銃創
[服装]:武士のような民族衣装(所々破損)
[装備]:ベレッタM1934(8/8)、平バール@現実
[道具]:基本支給品一式×1、デイパック、ドラグノフ@現実(3/10)、ドラグノフの弾丸(20発)、9mmショート弾(64発)
     ブラッドチップ・3ヶ@空の境界 、GN首輪探知機@オリジナル、麻雀牌@咲×31個
[思考]
基本:???
1:???

[備考]
※参戦時期は第8話~第12話のどこかです。


 ▽

「平沢唯……なんだったんだ、あの女は……!」

 F-5の沿岸線に駐留してあった揚陸艇。
 唯達との情報交換を終え、マザースペースとも言うべき船内に帰ってきたルルーシュは大きく溜息を付いた。

「憂、どこにいる!」 

 ルルーシュは沸騰しそうな頭と煮えくり返った腹の中とで折り合いを付けるのに必死になっていた。
 髪の毛を掻き毟り、不満げにブリッジの中央に置かれた作業机に視線を移す。
 そこにはルルーシュと憂の荷物の中で、すぐには必要とされないであろう道具が集められていた。

(平沢唯……とんでもない馬鹿……それも、あの玉城が可愛く見えてくるような筋金入りの……!
 本当にあの女はまともな教育を受けてきたのか? どうしてあんなにノホホンとしていられるんだ?
 どこか異常があるわけでもない。断じて、演技をしているわけでもないだろう。
 だというのに、何故あんな……!)

 ルルーシュの第一目標は平沢唯の見極めであった。
 情報交換自体は船井であろうと、唯であろうとおそらく可能な局面。
 両者と言葉を交わしつつ、効率的に唯という人間を分析する――というプランだったのだが。

 結局、判明したことは――ルルーシュの想像以上に、平沢唯の脳内はお花畑であった、という悲しい事実だった。 

(アレのために憂が人を殺して行っていた、ということか。いや、『アレだから』と言った方が適切か……納得、出来るな)

 姉妹両方を何とか手駒に出来ないか、と考えていたルルーシュの目論見はこれで完全に外れたことになる。
 さすがに、姉の方は『使えない』というレベルではない。
 あんな天然娘を手元に置いていては、むしろ足を引っ張られる可能性の方が高いくらいだ。

(とはいえ――偽ゼロとの接触情報を入手することが出来たのは大きな前進だな。
 移動手段としてバイクを使っていたということは、行動範囲は相当広いと考えていい。
 揚陸艇を中心とした移動では若干、不便があるな。
 一度、東の海岸に船を着けて陸路で探索を続けるべきか……)

 そこまで考えて、ルルーシュはとある事実に気付いた。 
 呼びかけたはずの憂から反応がないのである。ルルーシュは憂に一度、薬局から離れていろ、と命令した。
 もちろん、それは先に揚陸艇へ帰っているように……という意味だったのだが。

「……帰っていない、だと。どうなっている……?」

 すぐさま、まさか他の参加者に襲われたのだろうか、という考えが浮上する。
 しかし、揚陸艇と薬局を結んだ線上において、最近、戦闘が行われた痕跡はなかった。
 呆けていたせいで道を間違えた……?
 そんな、馬鹿な――


「――――動かないで欲しいっす」


 その時だった。考え事をしていたルルーシュの背中に冷たく堅い『何か』が押し当てられたのは。


 ルルーシュは瞬時に、それが拳銃であることを察知した。
 隠れていた――だが、それにしては腑に落ちないことがある。
 つまり、揚陸艇の船内は人間が潜むには狭すぎる、という点だ。

 ブリッジ内に関して言うなら、中に人間がいて気が付かないわけがない。
 そして――誰かが、ブリッジに入ってきた気配は感じなかった。実際に扉も全く動いていない。
 それでは、背後の人物はどうやってこの中に……!?

「どういう……ことだろうな、これは」 
「驚いたっすか?」
「ああ。正直言って、今でも信じられないよ」
「一度、船を出して欲しいっす。陸と繋がったままだと危ないので」
「チッ……」

 ルルーシュは女の言うとおり、コンソールを操作し、揚陸艇を発進させる。陸が遠ざかる。
 これで明確に憂と離ればなれになってしまったわけだ。

(…………ギアスユーザーと似た力、か? 
 気配を消す能力……それならば、大きなアドバンテージだ。何の力もない一般人よりも断然、強力な駒になる……!)

 声は女。しかも大分、若い。
 気配を消すのが上手い――という言葉では括れない。
 少なくとも、その領域を遙かに超越している。
 結果、この背後の人物は異能力者ではないか――という仮説に辿り着く。

「私がこんな物騒な真似をしているのは理由があるっす」
「だろうな。わざわざこんな面倒な手段を取っているのだから。君が明確な殺人者だったなら俺は既に殺されている」

 接近戦。しかし相手が女であるならば、ルルーシュにも勝機が見えてくる。
 単純な腕力でこちらが劣っている可能性は、おそらく低い。身体もまだ拘束されていない。
 そして――――こちらには最終手段として、絶対遵守のギアスがある。荒々しい手段に出ることも可能だろうが……。

「で、そっちを『悪い人』だと見込んでお願いがあるっす」
「俺が悪い人? 何かの間違いじゃないかな」
「少なくとも、良い人は『姉妹の再会を邪魔しない』と思うのは私の気のせいっすかね」 
「……ほう」

 ルルーシュは胸中で感嘆を上げると同時に、己の失態を呪った。
 この女はおそらく、ルルーシュが平沢姉妹を出会わせなかったことを知っているのだ。
 あの場面をどこからか監視していた、ということだろう。
 そして、憂と行動を共にしていたルルーシュがこのような行動を取ったのは『裏があるから』に他ならない。

 つまり――ルルーシュが腹に一物抱えた人間であると知りながら、この女は交渉を持ちかけているのである。 

「力を、貸して欲しいっす」
「……何のために」
「もちろん、生き残るためっす」
「どうして俺を誘う? 一人で好きにやればいいだろう。
 例えば、お前の能力を使えば、他人に気付かれず多くの『星』を稼ぐことも出来ると思うが?
 それにわざわざ俺と交流を持つ必要もないだろう――見つからないように、消えていればいい」

 推定混じりではあるが、相手が異能力者であることを前提にルルーシュは問い掛ける。
 背後で小さく息を呑む音が聞こえた。微妙な沈黙。
 空白故の肯定。どうやらルルーシュの言葉はある程度、的を射ていたと考えていいようだ。

「私は絶対に生き残らないといけないっす。だから『今』はまだ積極的にそういうことをするつもりはないっす。
 あと、こうして接触しているのは、痛感したからっす。
 この島には…………私の理解を遙かに越える要素が多すぎる。
 ただ潜んでいることは長期的に見ると、ジリ貧……! どうにもならないっす……!」

 ある程度、理性的な考えは出来る、ということか」。
 だが、銃を使って脅迫するとは、白よりも灰色に近い人物なのかもしれない。
 そして同じく灰色であるルルーシュにコンタクトを取ってきた。
 なるほど――願ったり叶ったりの状況だ。

 喉から手が出るほど欲しかった駒が自分から飛び込んできた――

「なるほど。理解した。その提案に乗ろうじゃないか。俺はルルーシュ・ランペルージ。君の名前は?」 
「東横桃子っす。じゃあ……ゆっくり、振り返ってくださいっす」

 ルルーシュの背中に押し当てられていた拳銃の感触がなくなった。
 つまり、当面の危機は回避することが出来たわけだ。
 気配を断つ能力者、か。どのような手練なのかとルルーシュは若干後ろに下がりながら、振り向いた。
 そこには、

「……日本人、か?」 
「見れば分かるっすよ」 

 そこにいたのは、妙に存在感の希薄な少女だった。
 紺色のブレザーに黒のロングストレート。
 意外と上背はあるが、こうして一対一で会話をしているだけなのに――彼女を見失いそうになる。


(さて、これからどうしたものか……ユフィのこともある)

 そんなことよりも、今の焦点はこの東横桃子を駒として利用する方法を考えることだろう。
 ギアスを使えば彼女の目的を明らかにすることは容易い。
 だが、不用意なギアスはこちらの身を滅ぼす。『奥の手』として温存するべきかもしれない。
 互いの情報を交換するだけならば、特にギアスは必要ない。
 真偽をこちらで判断すればいいだけの話だ。

 また、憂を回収するのも悪くない。だが、彼女が非常に危険で不安定な人間であることは間違いない。
 このまま捨て置くことも選択肢の一つに加えるべきだろう。
 だが、ユフィの保護を最優先で考えた際、帰ってくるから分からない人間を待つことは大きなタイムロスに繋がる恐れがある。

「とりあえず、よろしくっす。イケメンさん」
「……その呼び方は止めろ」
「ダメっすか……じゃあ…………もやしさん?」
「どこから出て来たんだ、その呼び方は!?」
「いや、何となくっす。ヒョロッとしてて高いじゃないっすか」
「……普通に呼べ。名前ぐらい」
「じゃあ、普通にルルさんって呼ぶっす。私のことは桃子でもモモでもお好きなように」
「…………桃子か。了解した」
「あらら」

 とりあえず、食えない相手ではあるようだが。
 ――さて、どう動くべきか。


 ▽


 結局、私はあの兄さんのように『人が生き返ることなど有り得ない』と断言することが出来なかったわけで。
 もう一度、先輩と出会えるのなら、どんな手段を使ってでも――そう考えてしまう私がいるっす。

 だけど、あの出会いのおかげで、私は今、私でいられるのかもしれません。
 あのまま兄さんに会うことがなければ、半ば狂乱状態になって他の参加者に襲い掛かっていた。そんな風に思うっす。
 大っぴらに人を殺す――そんな、ステルスとは正反対の行動を取ったら、逆に、すぐさま私は殺されてしまったかもしれません。

 だからっすかね。
 あの『手紙』をこの揚陸艇の中で見つけた時、私は不思議な気分になったっす。

 ブリッジの作業机の上に無造作に置かれていた封の切られていない三つの手紙と既に読まれた痕跡のある手紙。
 全て『カギ爪の男』という署名がされている。
 未開封の三つにはそれぞれ『ヴァン君へ』『レイ君へ』『ファサリナ君へ』と宛名書きがしてあった。

 カギ爪の男。

 兄さんは、その男の人が死んだという事実を処理し切れずに亡霊のような表情を浮かべていました。
 それは、きっと、形は違ったとしても――私と似た感情の隆起だったはずで。

 兄さんの目的は、復讐。カギ爪の男という人に復讐をすること。
 じゃあ、どうして……その復讐相手が兄さんに手紙なんて物を書いて寄越さなければならないのか。
 結果、残された遺書を読んだ私はとある真実に触れたわけで。

 つまり、カギ爪の男は――――自殺したということ。

 復讐相手は、殺されたのではなくて自殺、していた。
 あの凄まじい憎悪は怒りは慟哭は、並大抵のモノではなかったっす。
 兄さんは、おそらく大切な人をこのカギ爪の男に殺されたんだと思うっす。

 そんな相手に対して――――どうして、手紙なんて書けるんだろう。私はそんなことを思ったっす。

 私は物凄く不快な気分になったっす。
 理解、強調、平和、話し合い、幸せ……。
 語感の綺麗な言葉が男の遺書には沢山並んでいたっす。この文面だけを見れば、男は平和の使徒にしか見えないはずっす。
 だけど――私は兄さんを知っていたっす。
 だから、一人の男の人をあれだけの復讐鬼に仕立て上げた男の人の言葉に心の底から…………ムカムカしたっす。

 そんなわけで、思わず『レイ君へ』と書かれていた手紙をビリビリに破ってしまったわけで。 
 …………多分、あの手紙を見たら、兄さんも同じことをしたと思うっす。なんとなくっすけど。

 多分、私とあの人はもう会うことはないでしょう。
 特別思い出すこともないでしょうし。ただ、丁度よく居合わせて、少し話をしただけ。
 それが全部っす。

 ……先輩。
 私、がんばるっす。がんばるっすよ。
 だから、私を見守っていてください。
 絶対に、私は負けません。
 そう――これからは、ステルスモモの独壇場になるはずっす! 

 私は生き残って、そして――もう一度、先輩に会いに行きますから!


【G-5/海上/一日目/朝】

【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス反逆のルルーシュR2
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ゼロの剣@コードギアス反逆のルルーシュR2、ミニミ軽機関銃(190/200)@現実
[思考]
基本思考:枢木スザクは何としても生還させる
1:東横桃子を利用し、現状の把握や状況の打破策を講じる。現時点では他の参加者を殺害する意志はないが……?
2:スザク、C.C.、ユフィと合流したい
3:偽者のゼロは生かして帰さない、今後ゼロを騙る者は破滅させる
4:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
[備考]
※R2の25話、スザクに刺されて台から落ちてきてナナリーと言葉を交わした直後からの参戦です。
 死の直前に主催者に助けられ、治療を受けたうえでゲームに参加しています。
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
※モデルガン@現実、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュR2、
 皇帝ルルーシュの衣装@コードギアス反逆のルルーシュR2、シティサイクル(自転車)、ジャージ(上下黒)、
 鏡×大量、キャンプ用の折り畳み椅子、消化器、灯油のポリタンク、ロープ、カセットコンロ、
 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、その他医薬品・食料品・雑貨など多数@ALL現実

 が揚陸艇のブリッジの机の上に置かれています。

【アッシュフォード学園男子制服@コードギアス反逆のルルーシュR2】
 アッシュフォード学園の男子生徒用の制服。学生服を基調にしたデザイン。

【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:健康、ステルス解除
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備45発)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品(-水1本)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
    遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay nightx10個
[思考]
 基本:優勝を視野に入れつつ、自分の生還を目指す。加治木ゆみを蘇生させる。
 1:ルルーシュを利用し(に利用され)、この場での生き残りを考える
 2:生還優先であるが、もしもの時、人を殺すことが出来るかはイマイチ分からない
 3:船井達からルルーシュに乗り換えしたが、船井の策自体は気になっている
 4:藤乃への復讐は実感が湧かないが、本人に会った時、自分がどうなるかは分からない
[備考]
 ※登場時期は最終話終了後。
 ※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。

【FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!】
 秋山澪愛用のレフティベース。

【FN ブローニング・ハイパワー@現実】
 天才銃工ジョン・ブローニングが晩年に設計し、その死後FN社の技術陣によって1934年に完成した自動拳銃。
 当時としては画期的なリンクレスのショートリコイルや、シングルアクション、着脱式マガジンへのダブルカラムの採用など、
 近代オートマチックの基本要素が詰まった傑作で、後生の様々な銃に影響を与えている。

【遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night】
 17年間休み無く織り上げた遠坂凛の切り札。
 宝石の中で魔力を流転させ、本来保存できないはずの魔力をバックアップしており、
 宝石に宿った念に乗せてそのまま魔力を開放することにより魔弾として戦闘に転用することが可能。
 一つ一つの宝石の値段は数千万円もする非常に高価な代物。



【E-4/薬局/1日目/朝】

【平沢唯@けいおん!】
[状態]:健康、紬が心配、テンション↓
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)
[装備]:ジャンケンカード(チョキ)@逆境無頼カイジ
[道具]:デイパック、基本支給品(+水1本)、ジャンケンカード×十数枚(グーチョキパー混合)、不明支給品x0-2
[思考]
 基本:みんなでこの殺し合いから生還!
 0:あずにゃん……
 1:ムギちゃん……大丈夫だよね…?
 2:船井さんを頼りにする。
 3:友人と妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない……
[備考]
 ※東横桃子には気付いていません。
 ※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ

船井譲次@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:ナイフ、コンパス。他にも何かあるかは後続にお任せ
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品x0-2 遠藤のベンツの鍵@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor
[思考]
 基本:優勝か別の手段か、ともかく生還を目指す。
 0:ルルーシュとの情報交換は……
 1:紬が目を覚ますのを待って、情報を得る。聞き出すのはひとまず唯に任せる。
 2:唯の友人らを探す方法を考える。利用できそうなら利用する。
 3:仲間を勧誘し、それらを利用して生還の道を模索する。
 4:絶対に油断はしない。また、どんな相手も信用はしない。
[備考]
 ※東横桃子には気付いていません。
 ※登場時期は未定。
 ※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ

琴吹紬@けいおん!】
[状態]:精神的ダメージ大 、撫子への罪の意識、『制服を着た女子生徒』に対するトラウマ、気絶中
[服装]:ブラウス、スカート
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×2、ランダム支給品(1~2、未確認)、桜が丘高校女子制服(血濡れ)
[思考]
1:撫子ちゃん……ごめんなさい……。
2:『浅上藤乃』が恐ろしい。殺されたくない。
3:友人達が心配。非常識な状況下で不安。
4:阿良々木暦に会ったら、撫子の事を――――
[備考]
※浅上藤乃の殺人を目の当たりにしたトラウマで、『制服を着た女子生徒』を見ると彼女の姿がフラッシュバックします。
 精神的に回復すれば軽減されるかもしれません。
※ルルーシュとの会話の内容や思考、ムギが会話中に起きたかどうかは後の書き手さんにお任せ

※E-3北部~E-4北部間の何処かに千石 撫子の死体があり、すぐそばに彼女のディパック(基本セット、ランダム支給品1~3入り)が落ちています。




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夢を過ぎても(前編) レイ・ラングレン 126:サクラ(イ)大戦
夢を過ぎても(前編) 平沢憂 136:ぶっ生き返す/ふわふわタイム(前編)
夢を過ぎても(前編) ルルーシュ・ランペルージ 136:ぶっ生き返す/ふわふわタイム(前編)
夢を過ぎても(前編) 東横桃子 136:ぶっ生き返す/ふわふわタイム(前編)
夢を過ぎても(前編) 平沢唯 127:ざわざわ時間(前編)
夢を過ぎても(前編) 船井譲次 127:ざわざわ時間(前編)
夢を過ぎても(前編) 琴吹紬 127:ざわざわ時間(前編)


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最終更新:2009年12月14日 11:02