狂風(後編) ◆40jGqg6Boc


あれから何分、何十分たったのだろうか。
澪はあっけなく首を切断された律の前で今も泣いている。
自分自身も危険に立たされていることはもはや失念しているのだろう。
光秀が一歩澪へ近づく。
それでも澪は動かず顔すらも上げない。
光秀はそんな澪には一瞥をくれ、そして大剣を振り上げ、振り下ろ――しはしなかった。
剣の峰を肩に担ぎ、うっすらと微笑を浮かべている。

「あ……」
「ああ、やはり私の見込んだ通りです。澪殿、あなたの泣き顔は実に愉快だ。
私が憎いでしょう? もっと私を憎んでください、憎しみもまた格別ですからねぇ」

屈みこみ、澪の顎に手を掛け、彼女の顔を覗き込み、光秀が狂気じみた笑みを見せる。
光秀にとって律の命も澪の命も取るに足らないものだ。
重要なのは如何に惨たらしく、他者に絶望を与える事が出来るかということ。
そのために光秀はすぐさま律を斬殺してみせた。
自分の行動のせいで友人が死んだ澪の反応を楽しみたかったためだ。
結果は上々。言葉こそは出せないものの、澪からは抑えようのない悲しみが見える。
ここでじっくりと殺してしまえば、この可愛らしい顔は更に愛おしく歪むだろうか。
殺すことも考えるが、光秀は他の考えが思いつき、澪から手を放した。
それは悪魔の誘い。実に無責任な話だ。

「ですが安心してください、澪殿。あの帝愛グループなる者達は言っていたではありませんか。
褒美には死者の復活もあると……ならば生き返らせてあげればいいでしょう。
律殿をあなたの手で、及ばずながらも私も手助けしましょう。
なにせあなたは何もせずとも勝手に人数が減っていくのですからねぇ……損はさせませんよ。
あなたは私の行動に一切口を挟まず、私が必要だと感じた時に動いてくれればいいのですから」

律を殺したのは光秀だ。
だけども光秀は澪に律を生き返らせるように話しかける。
矛盾している。だが、澪はそこを突くことは出来ない。
何故ならそんなことを言えば、光秀は直ぐにでも自分を殺すと予想出来るためだ。
故に澪はただ沈黙をするしかない。
両目で拒否の意思を示しても、恐怖を骨の髄まで染み込ませられてしまったため身体が動かない。
そして死者の復活――考えもしなかったことが何故だか澪の意識を支配していく。

「律は……律は私のせいで死んじゃった……だったらわたしが……」

後悔する。
何故自分はこうまで最悪な結果を招いてしまったのか。
今となっては思える。
あの時、律が光秀に斬りかかった際に自分も銃を向ければよかったのではないか、と。
二人がかりでとうにかなったとは絶対には言い切れない。
それでも自分は律と共に動くべきだった。
それにどうせ死ぬ事になるなら律と一緒の方が――今となってはもう後戻りは出来ない。

だからこそ思う。
律は自分のせいで死んだ。
恐怖に怯え、最後まで行動を取れなかった自分のせいで律は死んだ。
だったら彼女が再び生き返る可能性があるなら、自分は全力を注ぐべきではないか。
いまだ他人を殺せるかどうかはわからない。
だけども律を生き返らせるという目的が澪の意識に深く根付き始める。

しかし、問題はある。
いまだ踏み切れない理由は本当に約束は守られるかということだ。
死者の復活など、いまどき小学生でも信じないだろう。
一度死んだ人間は何があっても生き返らない。
覆しようのない常識だ。
でも、結局のところそれは澪にとって澪の世界での常識に過ぎない。
この異質な状況であれば、殺し合いを強要されるこの状況ならばその常識は果たして通用するのだろうか。
一抹の疑問。律が死んだショックから思わず考えてしまった推測。
それが渇望にも疑問であることに澪自身気づいてはいない。
だが、光秀はまるで澪の意図を読み取ったかのように口を開いた。

「それと言っておきましょう。私は一度死んだ身です。
帝愛グループが私を再びこの地に招いてくれたのでしょう……わかりますか、この意味が?
一度死した私がこうしてあなたと話し、そして人を殺している――そう、可能なのですよ。
死者が生き返るという紛うことなき奇跡はこの地で確かに……!」

光秀は嘘を言っている。
彼は実際のところ未だ死んではいない。
存命中のところを連れてこられ、光秀自身もはっきりと認識している。
それは澪の揺さぶりのため。
澪を生かすことで、更なる彼女の悲しみを引きだすための仕込み。
そう、全ては自身の愉しみを増やすための行動でしかない。

そして光秀の言葉は確かにに澪に届いた。
魅惑的な内容。光秀は信じられる男ではないが澪には彼が嘘をつく理由はないと考えている。
何故ならそこまでして自分を陥れて、光秀にメリットがあるとは思えなかったから。
普通の人間であるために異常者である光秀の趣向は澪には理解できない。
だから澪は、やはり嘘だとは思えなかった。
いや、もしくは逃げたかっただけなのかもしれない――。


「……死んだ人は、生きかえ……る…………?」


澪はようやく顔を上げた。上げてしまった。
視線の先にはこれから待ち受けるであろう喜びに笑いを隠せない、光秀の顔があった。




◇     ◇     ◇


「さて、ではこれで準備が整いました。お乗りください、澪殿」

全身に浴びた血しぶきを器用に舐めとった光秀が口を開く。
デイバックは回収済みだ。四人分のデイバックを一つに纏めてある。
九字兼定はデイバックから出し、光秀自身が持っている。

「わ、わかりました……」

一方、澪の方はというと明らかに生気を失っているほかに服装が変わっている。
律が持っていたコスプレセットの中から一つを拝借したためだ。
元々着ていた制服は律の血で汚れており、光秀が着替えを勧め、今に至っている。
一応念のためにニードルガンとモンキーレンチは光秀に没収されており、今の澪は無防備にも等しい。

(ごめんみんな……そして律、本当にごめん……)

律の蘇生。ただ、それだけを目的とし澪は光秀についていくことを決めた。
だが、実際はもはや選択肢のない決断だった。
自分では光秀に叶うわけがない。
いつ彼の気まぐれで殺されるのかわからない。
そんな恐怖に怯えてずっと生きていく事になるなら、律のために生きよう。
たとえ人を殺す覚悟がなかったとしても、少しでも可能性があるならば――
律が生き返ってくれる可能性があるならば、もうそれに賭けるしかない。
だからこそ澪はただ、力なく光秀の言葉に従うしかなかった。

(ふふ、愉しませてくださいよ澪殿……私のために。
律殿が生き返るかは知りませんが……また殺すのもいいかしれませんねぇ。
もう一度、生き返った後で澪殿の前で……ふふ、楽しそうですねぇ)

もはや自分の言いなりにも等しい澪を見て、光秀は思う。
この先この少女をどうしてやろうか。
ただ殺すだけでは味気ない。
せっかく拾ってあげた命、潰れるまで有意義に使ってやるのが礼儀だろう。
なにをさせてやろうかと考えるだけで自然と小躍りしたくなる気分だ。
抵抗するようであれば直ぐにでも殺してやればいい。
その時はまた別の得物を、別の愉しみを捜せばいいだけだ。
そう、織田信長を殺すという極上の御馳走の前に前菜をたらふく食ってしまおう。
それも全て、一片も残さずに――綺麗に。


(さて、次にはどこへ向かいますか。もう彼らとの約束を守る理由はありません。
そうだ、船に残った者達を殺しにいく手もありますが……迷いますねぇ。
あの両義式やセイバーと名乗った少女たちも気になりますし。
ああ、選り取り見取りで……実に悩ましいではないですかッ!!)



かくして惨劇の場を後にし、少女を引き連れ光秀は更なる血を求めて進む。



(くふ、くふふふ、はっはははひぃっふふふハハハハッハハハッハハ! ああ、可笑しいッ!!
実に良い気分です! 生きている事をここまで嬉しく思えるとは……素晴らしいッ!!)





彼がどこへ行きつくかは、彼自身を含め、今のところ誰にも知る由はなかった。








【キャスター@Fate/stay night:死亡確認】
【黒桐幹也@空の境界:死亡確認】
【田井中律@けいおん!:死亡確認】
【残り46名】





【C-5/神様に祈る場所/一日目/午前】

明智光秀@戦国BASARA】
[状態]:ダメージ(中)、傷は応急処置済み
[服装]:上下黒のスーツに白ワイシャツ
[装備]:信長の大剣@戦国BASARA、武田軍の馬@戦国BASARA 、九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式×4 ランダム支給品0~2個(未確認) 、バトルロワイアル観光ガイド 、下着とシャツと濡れた制服、
ブラッドチップ・2ヶ@空の境界、桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、モンキーレンチ@現実、ニードルガン@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:前菜を片っ端から頂く。
1:殺しを行いながら澪を更に絶望へ追い込む。
2:信長公の下に参じ、頂点を極めた怒りと屈辱、苦悶を味わい尽くす
3:信長公の怒りが頂点でない場合、様子を見て最も激怒させられるタイミングを見計らう
[備考]
※エスポワール会議に参加しました



秋山澪@けいおん!】
[状態]: 精神的ショック(大)
[服装]: さわ子のコスプレセットの内の一着
[装備]:
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 さわ子のコスプレセット@けいおん! 桜が丘高校の制服@けいおん!
[思考]
基本:もう一度律に会いたい。
1:今は光秀についていくしかない。
2:一方通行ライダーバーサーカーキャスターを警戒
3:死者は蘇る……?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※光秀が一度は死んだ身であることを信じています。



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130:狂風 明智光秀 153:切り札(前編)
130:狂風 秋山澪 153:切り札(前編)
123:狂風 田井中律 GAME OVER
123:狂風 キャスター GAME OVER
123:狂風 黒桐幹也 GAME OVER





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最終更新:2009年12月19日 21:59