皇女 と 考察 ◆1U4psLoLQg



「やっぱり、この島には私達しかいないのでしょうか?」
「まだわからない。この奥を調べるまでは、気を抜いちゃ駄目」

薄暗い洞窟内に、二人の女性の声が反響する。
スーツを着込んだ女性と、それより身長の低い正装の少女。
ユーフェミア・リ・ブリタニアとアーニャ・アールストレイムは、[エリアF-2]にある遺跡の洞窟内を歩いていた。

征天魔王からの逃走劇を成し遂げた二人は、ずぶ濡れになった服が乾いた後、孤島の調査を開始していた。
しかし、島のいたる所を回っても他の参加者に遭遇する様子は無い。やがて調べてないのは遺跡内部だけとなった。
遺跡に繋がる洞窟内を、AKを構えたアーニャが先行する。
戦いに不慣れなユーフェミアが、その少し後ろから行きつつ後方にも注意を払う陣形だ。
ユーフェミアは、既に銃器類を自分のディバックに仕舞っている。
一応、護身用にアゾット剣を握ってるが、武器をもてあましている現状に変わりはない様だ。

「でも、この島……何だか見覚えが……」

洞窟内を見回しながら、ユーフェミアがポツリとこぼす。
アーニャがその発言を追及しようとした時、二人は洞窟の終着地点に辿り着いた。

「気をつけて、広いところに出るみたい」

長いトンネルは、突然明るく開けた空間へとその景色を変える。
アーニャが警戒を強め、周囲を隅々まで見渡したが、やはりそこにも他の参加者の姿は無い。
その代わりに、二人の目の前には巨大な石扉が現れていた。

「やっぱり……私はここに来た事があります」
「どういうこと?」

扉を見上げながらそんな事を呟くユーフェミアに、アーニャは疑問の声を投げかける。

「このゲームに巻き込まれる前、私はこの孤島に来た事があるんです。……でも、近くにあんな大きな島は無かったはずなんですが……」
「つまり、孤島の傍に新たな島を作ったか。あの島の近くにユーフェミアさ…ごめん、ユフィが知ってる島そっくりの孤島を作ったか。ってことなのかな」
「なんで、わざわざそんな事を…?」
「さあ、それは主催者に聞いてみないと分からない、意味なんて無いのかも」

そう言いながらも、内心アーニャは考えていた。何か意味が有ると。
この殺し合いの場に一つ、ユーフェミアが知る施設が有った事には意味がある。
おそらくこの遺跡は何か重要な場所だったはず。
しかしそれ以上に、アーニャには気にかかる事があった。
そのため、遺跡についての考察は、今は後回しにする。
アーニャは周囲に敵が居ない事を再度確認した後、ユーフェミアに向き直った。

「一つ、聞いてもいい?」
「え……はい、なんでしょうか?」

アーニャはユーフェミアに、確認したい事が有った。
なぜ、死んだはずの彼女が生きているのか?
彼女本人がここにいる以上、やはり生きていたからなのだろうが、万が一の可能性がある。
本人には、少し聞きづらい事なのだが。この状況でそんな事も言ってられない。
ユーフェミアが少し過去を語った。言い出すタイミングは今が最適だろう。

「ユフィ……貴女、死んだことって、ある?」

アーニャは意を決してその問いをぶつけた。
死んだと思われていた第三皇女、実は生きていたのか?それとも……。

「へ?それはどういう意味……ですか?」

ユフィはただ、驚いただけの様子だった。
少し質問がストレートすぎたかもしない、だがその反応で大体察する事はできた。
やはり、ユーフェミアは死んでなどいない。
これで「主催者がユーフェミアを生き返らせた」という説は否定された。
だが生きている事に疑問がある点は変わらない。
アーニャは質問を変えた。

「ごめん、間違えた、このゲームに巻き込まれる前、何をしてたの?」

遠まわしに、「どうして生きているの?」と聞いている訳だ。
アーニャはてっきりユーフェミアから、
彼女が死んだと思われたあの日から、今日に至るまでの話を聞けると思っていた。
だがその質問に、ユーフェミアは不思議そうな顔する。
何故そんなわかりきった事を聞くんだろう?といった様子だ。
そして、彼女は明らかにズレた答えを返した。

「……ご存じないのですか?行政特区日本の設立を……」
「え……、知ってる……けど……」

――『行政特区日本』
ユーフェミアが、死ぬ少し前に設立を成し遂げたもの。
だが今の質問にその返しはおかしい。
明らかに、彼女との会話にズレがある事を感じたアーニャは、
口を挟まず、ユーフェミアが自分から話しを進めるのを待った。

「その式典の直前でした……。」

そして彼女は、嬉しい様な悲しいような微妙な表情を見せる。

「やっと実現したんです……ブリタニア人と日本人が争わないですむ世界が。
 誰も傷つかない、戦争の無い世界が来ると信じていたのに……。それが突然、こんなところに連れて来られて……」

ユーフェミアは自分の理想、そして行政特区日本の意義を語った。
その内容は、アーニャが聞いていた虐殺皇女の話とは随分違う。
最低でもアーニャには彼女が日本人を騙して、殺す腹だったようには見えない。
あの式典で一体何があったのだろうか。
しかし、今重要なことはそれではない。
行政特区日本の式典直前に、この場に召還されたと彼女は言う。
どう考えてもおかしい、時間軸が狂っているとしか思えない。
これが指し示す事実は一つ。

――ユフィは過去の時系列から来た、ということ?

アーニャは最初、ユフィが生きて此処にいる理由に関して二つの可能性を考えていた。
一つ目、彼女の死は偽りであり、実は生きていて、ここに連れて来られた。
二つ目、もしくは……本当に信じられない事だが、死んだ彼女を主催者が生き返らせて、ここに連れて来た
そのどちらかだと考えていた。

しかし、実際はどちらでもなかった。
確かに彼女は死んでいない。
しかし、この時代に生きてもいない。
つまり過去から「タイムスリップさせられて」来たと言ったところだろうか。

――もしかして……『死者の復活』ってそういうことなの?

生前と何一つ変わらない姿の第三皇女を、まじまじと見つめながらアーニャは考える。
主催者の言う『死者の復活』とは『死人を生き返らせる』ことではなく、『死んだ人間をタイムトラベルさせること』ではないか、と。
死人が生きていた時代へタイムスリップし、その人を連れて現代に戻る。
これも結果だけ見れば、立派な『死者の復活』だ。
自分がこの地で出会った明らかに文化の違う人達も、もしかすると遠い未来や過去の人達なのかも知れない。

――結論を出すのはまだ早い……かな

だが、まだ他にも説はある。
これも荒唐無稽な話だが、彼女はやはり生きていて、記憶だけが過去の物。といった可能性も残されている。
しかし主催者が死者蘇生か、それに準ずる力を持っている事はこれでほぼ確定だろう。
ユフィの存在がその証明となる。


私は考えた結果、『行政特区日本』の顛末やユフィの死については黙っておく事にした。
そもそも、「あなた実は死んでます」などといきなり言われて、信じられもしないと思う。
それ以上に、この現状で余計な心労を彼女に与えるわけにもいかない。
そのあたりの事は、後でスザクと合流できたときにでも話し合うとして、今は目の前の遺跡の調査を済ませる事にした。

「それにしても何?この扉……」
「分かりません、お兄様なら何か知っているのかも知れませんが……」

私とユフィは話しながら巨大な扉の前へと近づいていく。
当然周囲への警戒も怠らないが、ほとんど敵はいないと確信していた。

「シュナイゼル殿下……でも彼は今、ここに居ない」

そう言いながら私が扉に触れた時だった。

「…ッ…ぐっぅ!!」

突然、強烈な頭痛が私を襲った。
その不意打ちに、立っている事が出来ない。
扉に触れた手をそのままに、地べたへと崩れ落ちる。

「アーニャ?大丈夫?!」

いきなり座り込んだ私に、ユフィが心配そうに駆け寄って来るのが見えた。

「大丈夫……」

それを手で制し、頭を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
痛んだのは一瞬だけで、もうすでに頭痛は引いていた。
だが、代わりに疑問が私の脳内に広がっていく。
自分がこの島で幾度も感じる頭痛、そして覚えの無い記憶。
それらに対する疑問が次々と湧き上がってくる。
あの逃走劇で忘れかけていたが、これも考えなくてはならない重要な事だ。
『リリーナが死ぬ瞬間』
あの記憶は本物だったのだろうか?
私はそれが起こった時のことをはっきりとは認識していない。
だが彼女が死ぬ光景が、私の記憶の中にはある。
現に、リリーナは放送で呼ばれていたらしい。
リリーナ・ドーリアン
思うところはある。

彼女にはもっと聞きたい事があった、それに会わせたい人もいた……。
しかし、死んでしまったのならば、それらはもう叶わない。
そして彼女の事より優先して考えなければならない問題が、自分にはある。

リリーナへの思いはいったん打ち切り、今は自分の事を考える。
彼女が死んだ時、私はどうなっていたのだろうか?
今まで記憶が飛ぶ事は何度も有った。
だが今回は飛んでいるはずの記憶がおぼろげながらも残っている。
こんな事は、今までに無かった。
リリーナが死ぬ光景、その場に居た四人の人物。
征天魔王
咆哮する巨人
巨大な鎧武者
実直そうな青年
それとリリーナが死ぬ場面には居なかったが、もう一人金髪の男も居たような気がする。
これらの人物との会話の内容は思い出せない。
しかし、そのときの私は確かに意志を持ち、彼らと関わっていた。これだけは確かだ。
彼らに会って確かめなければならない。そのときの私がどうなっていたのかを。
そうすれば、私の記憶が不安定な理由も、明かされるかもしれない。
話を聞くとしたらやはり、あの青年だろうか?

「そろそろ、ここから出る」
「そうですね、やっぱり何も無いみたいですし……」

行動するのなら、迅速に動くべきだ。
こんな袋小路で逃げ場の無い洞窟に、いつまでもぐずぐずしている訳には行かない。


アーニャは焦っていたわけでは無いが、心にゆとりが有った訳でもなかった。
だからだろう、扉付近の隠し通路に気づくことなく、二人は遺跡を後にした。

遺跡の調査を終え、砂浜へと戻ってきた二人は、
再び島に戻り政庁を目指す為、ボートを使う事に決めた。
しかしここで、一つ問題が発生した。

「うーん、どうしたらいいんでしょう?」
「しかたない、置いていく」
「やっぱり、そうするしかないのでしょうか?」
「このボートは人間三人分が限界、これの体重は無理」
「……仕方がありませんね」

砂浜から出航しようというボート。
それに二人は既に乗り込んでいる。
しかし、その二人を寂しげな視線で見つめるものがあった。

馬である。
彼女等と共にこの孤島へと流れ着いていた伊達軍の馬は、
この孤島に置いて行かれることになった。
仕方が無い事だ、彼女等が乗るボートは人間三人を乗せるのが限界。
戦場を駆けるように育てられた、筋骨隆々な伊達軍の馬は完全に体重オーバーだ。
無理に乗せれば船が沈んでしまう。
よって、ここまで運んでくれた手前忍びないが、この孤島に置いて行かざるを得なくなったわけだ。

「ごめんなさい。全て解決したら、必ず迎えに来ますからね」
「出発する」

アーニャが宣言し、ボートを走らせ始める。
まず二人は南下を開始した。
ユーフェミアは政庁を目指すと言っている。
ならば、問題は何処から上陸するかだ。
最短距離ならエリアF-5だが、すぐ隣は禁止エリア、危険な様子ならば避けたほうがいい。
回り道するのも一つの手だ。
今のアーニャがすべき事はユフィの保護と、スザクとの合流。そして自分の身に何が起きているのかを確かめる事。
これからの事に考えを巡らせながら、アーニャはボートを走らせ続けた。


やはり、事はそう簡単にはいかないものだ。
私は現状を整理しながら、次の手を考える。
思考エレベータは停止していた。
アーニャが扉に触れたとき、一瞬だけ彼女の体を支配下に置き、接続を試みたが失敗に終わった。
考えてもみれば当たり前の話、主催者側が外部と連絡可能な施設を自ら配置するはずが無い。
これで振り出しに戻ってしまった。
だけど、諦めるわけにはいかない。どうにかして思考エレベータを復旧させる方法はないものか。
思考エレベータ以外にも、夫と連絡をとる方法は無いのものか。
それらの手段を、これから探さなければならない。
そのためにはユーフェミア、早くこの子からは離れなければ。
このゲームの参加者は大半が日本人だ。
それらと出会う度に彼女の『ギアス効果』が発動していてはこちらの身が危ないし、なにより私が消えてしまいかねない。
上陸後は、なるべく早くこの体を支配下に置き、ユーフェミアから距離をとる。
迅速な行動が必要だ。
アーニャが私の存在に気づく兆しを見せ始めている。完全に知覚されては非常に厄介な事になるだろう。
もう、手段を選んではいられないわね……。



【F-1/ボート上/一日目/午前】




【アーニャ・アールストレイム@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康
[服装]:ラウンズの正装
[装備]: AK-47(30/30)
[道具]:基本支給品一式、ベレッタの予備マガジン(4/4)、AK-47の予備マガジン×2(7.62mm弾)、麻雀牌×3、
ベレッタM92(7/15)、おもちゃの兵隊(0/30)@とある禁書の魔術目録、アーニャの携帯@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:主催者に反抗する。
1:さて、どこから上陸するか。
2:ユフィを護衛し、スザクと合流する。
3:とりあえず政庁に向かう
4:青年(刹那)に会って、記憶を失っている時の自分について話が聞きたい
[備考]
※リリーナの死をぼんやり認識しています(アーニャ)。
※不??完全ながら交代直前のマリアンヌの記憶と同期しました。
※主催者は過去もしくは未来に行く力を有するのではないかと考察中です。

?マリアンヌの思考
基本:C.C.と合流したい
1:ギアスの回復を待つ
2:ユーフェミアから離れたい。
3:思考エレベータの復旧方法を探す
[備考]
※少なくとも21話より以前からの参戦です。
※マリアンヌはCの世界を通じての交信はできません。
 また、マリアンヌの意識が表層に出ている間中、軽い頭痛が発生しているようです。
※意識の上位はマリアンヌであり、マリアンヌはいつでもアーニャと交代することができます(その度に頭痛の頻度・強さは増す)。
※『ギアス能力者の制限』と『ギアス自身の制限』が存在し、ギアスによる存在であるマリアンヌは『ギアス能力者の制限』として頭痛、
『ギアス自身の制限』として発動しているギアスに接近すると激痛を感じ、時間が経てば経つほど弱体化し、最悪消滅します。


ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、決意
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!、
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、H&K MP5K(SMG/40/40発/予備40x3発)@現実、H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数2/12発/予備12x2発)@現実、豪華なドレス
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する
1:偽ゼロの存在を全参加者に知らせる
2:政庁で放送施設や通信施設を探し、全参加者に呼びかける
3:殺し合いには絶対に乗らない
4:アーニャの頭痛が少し気がかり
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
 現在は弱体化しているため、ある程度の意識レベルで抵抗すれば解除可能。
 今後も発動中に他の発動しているギアスと接近すれば弱体化、あるいは相殺されます。時間経過により回復。
 会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間に影響が出ているかは不明。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。

二人の女性を乗せた小船は徐々に遠ざかって行く。
自分はそれを見送った後、一つ溜息をついた。
邂逅はほんの短いひと時だったが、あの極楽浄土を自分は生涯忘れないだろう。
ただの馬では本来味わう事のできなかった幸福を、図らずとも与えてくれた事に感謝する。
だが口惜しい事だ、自分は今後この恩義に報いる事が出来ないのだから。
ならばせめて、祈らせて頂くとしよう。
彼女等にご武運を、と。

…………。
……………。
…………………。


……寂しいな。

【F-2/孤島/一日目/午前】

【伊達軍の馬@戦国BASARA】
[状態]:ボロボロ、孤独状態
[思考]
基本:誰にでも従う。乗った人をできるだけ落とさないようにする。
0:……暇だ。
1:次にこの島にやって来た人が、自分を必要とするならば従う。
2:正直辛い
3:乗せるのならやっぱ女の人がいい。
[備考]
※バイクのハンドルとマフラーっぽい装飾類を失くしました。見た目では普通の馬と大差ありません。しかし、色々な意味で「馬イク」です

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113:過去 から の 刺客 アーニャ・アールストレイム 154:きらめく涙は虚無に
113:過去 から の 刺客 ユーフェミア・リ・ブリタニア 154:きらめく涙は虚無に
113:過去 から の 刺客 伊達軍の馬 143:とある馬イクの河口横断記


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最終更新:2009年12月19日 21:57