徒物語~ももこファントム~(下)◆1aw4LHSuEI



「ぐっ……はああっ!?」
「随分、逃げ回るのが好きなんですね。阿良々木さん。格好いい台詞を吐いた割には」

 いくらおもし蟹が全力で走れないといっても……僕の身体能力はそれほど高いわけじゃない。
 体力の問題だってある。残念だけど、いつまでもは逃げ切れない。
 ここ5Fを目前とした踊り場で、ついに追いつかれて殴られてしまった。
 軽く腕を振られたに過ぎないっていうのに、僕の体は面白いほどに吹き飛ばされる。
 そして、壁に激突。本日二回目だ。
 隙を作ってくれればなんとかなる方法はある……と思うんだけど。
 なかなかどうしてどうにもならない。

 あー。
 畜生。なんで僕がこんな目にあってるんだ。
 胸を触ったから?
 それぐらいで殺すっておかしいだろ。全く。
 八九寺だったら喜んで体を差し出すだろうし、羽川だって……あ、いや、ごめんなさい。

「あーあ。なにかやってくるのかと思ったら逃げ回るだけだし。もう、殺しちゃいますね。阿良々木さん」
「……嫌だ」
「は?」

 おもし蟹。
 それを睨んで僕は言う。
 死ねない。
 僕は、
 誰かの重みになんて、なるわけには、いかない……!

「嫌だ、っていったんだ。……僕は、お前に殺されるわけにはいかない。
 僕が死んだら忍が死ぬ。僕が殺されたら戦場ヶ原が復讐しようとするだろう。
 僕が死んだら妹達が泣く。僕が死んだら八九寺を誰がかわいがってやれるんだ。
 僕が死んだら、神原に誰が突っ込んでやれる? 僕が死んだら―――千石に、合わせる顔がない」

 死にたくない理由だって増えた。
 人間強度は地に堕ちた。
 だけど、
 これが、強くなるってことなんだ。
 だから、僕は、春休みなんかより、
 きっとずっと、強くなった……!

「―――僕は、死ねない。僕は死なない。お前なんかに、殺されて、やれないんだ」
「……知ったことじゃないですよ。私は私の理由で阿良々木さんを殺します」

 そう言って。彼女は手綱を振り上げる。
 その一瞬に考える。

 あの蟹に正面から攻撃されたら痛いだろうな。
 違う。
 あれは不可抗力なんだって!
 そうだけど、違う。
 戦場ヶ原、愛してる。
 今、考えるべきはそれじゃない。
 彼女が、僕に執着する本当の理由は―――。
 そうだ、
 そういえば、

 それだ。鍵は。


「待てよ」


 僕は平沢を制止する。

「何ですか……?」

 これで待ってくれるって、ほんと結構素直な子だな、なんて思いながら。
 僕はふらつきつつも立ち上がって、デイパックからそれを取り出した。

「これ、欲しいんだろ」
「…………!」

 反応から見ると、やっぱりそれなりに興味は引けるらしい。
 彼女の姉のギター(名前は忘れた)。
 はっきり言って重い。
 邪魔だな、うん。

「ほら、やるよ……!」

 だから、思い切り平沢に向かって投擲する。
 ①振りかぶって――②下半身の力を上半身に乗せて――③腕を振りぬく!
 阿良々木流投球術はあまり上手くいかないことが多いんだけど、今回の結果は悪くない。
 ぐるぐると回転しながら、ちゃんと平沢に向かって一直線に飛んでいった。

「え、わ、あれ? きゃっ」

 なんとか、それをキャッチする彼女。
 それでいい。
 そのために手綱から両手を離した。
 そう。これだけやられれば分かる。あの手綱を使って蟹を操っている。
 だから、手を離したこの瞬間―――おもし蟹は動きはしない!
 腕を振りぬいたポーズからすぐに僕は走る!
 この一瞬だ。
 この一瞬だけ、僕には勝機がある!
 おもし蟹の目の前まで走り、そして目を丸くしている平沢を押し飛ばす。

「わっ」

 なんかまた柔らかいところに手が触れたような感触がしたけど、きっと気のせいだ。
 平沢が離れた蟹はじっとしている。
 だけど、ここで完全に動けなくする!
 そして、僕はその場でデイパックをひっくり返した。


「どジャアア~~~ン!」


 テレビパソコン冷蔵庫ピアノエアコンテーブル食器棚本棚電子レンジベット勉強机椅子電気スタンドスコップ竹箒
 柱時計回転椅子ソファホットプレート柔らかいクッション箪笥ストーブ広辞苑六法全書ラジカセ靴箱蝙蝠傘肖像画
 DVDデッキパソコンラックゲコ太のストラップオーブン包丁優勝トロフィー脚立自転車草刈り機全自動卵割り機
 エトセトラ!
 最後に、ポンと転がるようにエトペンが飛び出してくる。

 それら、僕が何かに使えるかもしれないと民家から拝借した家電・家具の類が、全ておもし蟹の上に積み重なっていく。
 セイバーに変な目で見られながらもかき集めた甲斐があったってものだ。
 ……こんな使い方を想定してたわけじゃないけど。


 しかし、思った以上に多すぎる。一気に出すとこんなことになるのか。
 ……おもし蟹は、もう身動きできないだろうけど、僕と平沢も壁際まで押し出されることとなる。
 やばい、ちょっとやりすぎた。
 内心の動揺を隠して僕は冷静に平沢に語りかける。

「……さて、お前の頼りにしてた蟹は潰しちゃったけど。どうする、まだやるのか?」
「――――。……あ、当たり前です! 死ね死ね死ねっ!」
「っ!」

 少し呆然としていたようだけれど、彼女はすぐに怒りの色を見せた。
 そして、彼女は殺意を持って右手を振る。

 ―――ギミックヨーヨー。

 僕は、名前なんて知らないけれど。
 確かな回転数と、仕込まれた刃を持って命を奪う凶器。
 それが、僕の脳天に目掛けて飛んでくる。
 勿論、命中すれば命はないし、使用者の意志で軌道を変更できるので回避も困難だ―――

 ―――避けられない!
 ずしゃずしゃずしゃり!
 刃は僕の肉を切り裂いていく。
 痛みが走り、血が、肉が、飛び散る。

「いってえ……」
「―――え?」

 ―――だから、僕はそれを左腕で掴んだ。
 そもそもヨーヨーは距離が使用者から離れるほどに回転数・速度が上がる。
 それを元にしたこの武器の威力も、使用者から離れるほどに上がるのだろう。
 だから、こんな至近距離で放てば威力も速度も大したことはない。
 唯の高校生に過ぎない僕が受けられるぐらいには。
 ……何てことは後付の理由で、必死になって左手を出したら偶然収まっただけなのだけど。

 ギミックヨーヨーは僕の左手に刃を突き立てる。
 手のひらを刃が貫通して血が流れる。
 だけど、僕はやせ我慢が得意なんだ。
 もう、離さないように、ヨーヨーを強く、握り締める。
 歯を食いしばって耐えて、平静を装い、言った。

「平沢、それがお前の答えか」
「あ、あ、あ……」

 彼女の右腕はギミックヨーヨーが装着されている手袋。そして、左腕には姉のギター。
 どちらも、即座に放り出すことは出来ない。
 チェックメイト。
 この距離この状況。
 片手の開いている僕の勝ちだ。


「―――残念だ」


 ズガンッ!


 乾いた音。
 勝利の合図は、そんな安っぽいものだった。


 卍  卍  卍


「愚かな。サーヴァントに任せておけば、私を打破する手段はまだあった。
 それを左腕一本と引き換えに棄てるとは。よほど彼我の戦力差が理解できぬか」
「ただ勝利しても意味がない。……俺が主導権を握れるように勝たねばならないからな」

 ルルーシュは笑い、荒耶は笑わなかった。
 ルルーシュは、セイバーに「荒耶宗蓮の左腕を切り飛ばせ」と命令をした。
 出来るだけ確実な方法で、と付け加えることも忘れず。
 そうしてセイバーはそれを実行する。
 本人にすら思いつかないかもしれない、最高にそれを叶える方法を持って。
 確かに左腕は荒耶の戦闘における中核をなしている。
 攻撃、防御とも起点はまず仏舎利を埋め込んだ左腕である。
 確かに、それが無いと言うのなら、荒耶の能力は大きく減衰したと考えても良い。
 しかし、それでも武装した兵如きなら圧倒できる。
 ここから、どうしようというのか。ルルーシュ・ランペルージ

「……こうするのさっ!」

 そう言ってデイパックよりルルーシュが取り出したのは、ミニミ軽機関銃。
 軽とは名ばかりの重厚さ。人に命中すれば唯では済まないだろうその威力。
 無論、左腕に存在する仏舎利の加護を失った魔術師とてその例外ではない。
 ―――命中すれば、だが。

「―――そんなもので、魔術師を殺せるとでも思ったのか、ルルーシュ・ランペルージ」
「…………ちっ!」

 早い。
 サーヴァントにこそ及びはしないが、この魔術師とて動乱の時代を生き延びている。
 放たれた拳銃の弾丸を撃たれた後から躱すことのできるこの男。
 使い慣れない銃など、取り出している間に間合いを詰めることなど造作もない――!
 ルルーシュは慌てた様子で下がろうとするが、そんなことを許されるはずもない。
「、王顕」
 結界に捕らえられて体が動かなくなる。

「くっ……!」
「さらばだ。ルルーシュ・ランペルージ。愚かな男よ」

 そう云って、右腕を胸に突き刺そうと振り上げるその瞬間、
 ルルーシュ・ランペルージは唇を吊り上げて微かに、だが確かに―――哂った。

 攻撃に移るその一瞬、荒耶はルルーシュと目を合わさざるをえない。
 それは、確実に急所を捉えるために、一撃必殺の為には仕方の無い犠牲であった。
 無論、魔術師荒耶宗蓮とてそれは理解している。
 その上で、ギアスがかかろうとも問題がないと判断したのだ。
 荒耶宗蓮はこの場にいる参加者の能力、その制限を把握している。
 そのため、ギアスは本人が死亡すれば無効となることを、知っている。
 この一瞬の間に例えルルーシュに何を言われることがあっても、この拳を途中で止めることは出来ない。
 慣性と体の覚えた経験により、技は放たれる。
 その拳に貫かれれば、所詮は一般人でしかないルルーシュは即死する。
 ならば、どのようなギアスだろうと、関係はない。
 撃ち貫くのみである。

 そして、ギアスが紡がれる。

「―――お前は魔術を使用するな!」
「―――承知した」

 その言葉に従い荒耶の纏っていた結界が消える。
 と、同時に荒耶より一瞬消えゆく意識。
 しかし、練り上げられたその体は意識の有無ごときでは止まらない。
 鍛えられた肉体は覚えた型のまま技を繰り出す。
 いや、だがしかし、確かにその速度は先程よりも僅かに―――鈍い。

 ルルーシュの体は自由になり、攻撃速度も落ちた。
 しかし、それだけで達人の一撃を回避し切ることなど、やはりルルーシュには不可能だ。
 精々が右腕を割り込ませて攻撃から胸をかばうぐらいが関の山。
 そんな程度では、結果としてはさほど変わらない。

「が、あああああああっ!」

 受けた腕は砕け、その力は体にも伝わり、回転しながらルルーシュは床に叩きつけられ。
 バウンドし、コンピュータを薙ぎ倒して、やっと動きが止まる。
 凄まじい衝撃。
 完全に意識を失い、無様に地に倒れ伏せた。
 ―――だが、死んでいない。

「……なるほど、おまえの余裕はそこにあったのか」

 意識の戻った魔術師は、伏せるルルーシュに目を向ける。
 倒れた彼のマントが肌蹴て、そこから下に来ている服が見えた。
 それを見て、荒耶はルルーシュの態度を合点する。

 『歩く教会』

 ルルーシュ一行が、ホール平和の広間にて手にした『服』。
 荒耶の得意とする三重の結界のように、教会という結界そのものを小型、軽量化して修道服として編んだ最高級の防御霊装。
 主催者の一人、禁書目録が着ているものと同デザインのその品は、本来ならば荒耶の拳程度では貫けはしない。
 だが、ここにも制限がある。
 防御性能は大幅に下げられて、拳銃や包丁の単純な攻撃程度なら防げるが、それ以上の威力、刀やショットガンのような武器相手ではダメージを軽減するだけに終わる。
 この黒い魔術師の拳の威力は拳銃や包丁の比ではないのだ。
 命こそ拾ったが、暫くは立ち上がることが出来ないだろう。

 荒耶は苦悩の顔を変えず、ルルーシュに近づく。
 何をされたのかは不明だが、まずは、己にかけられたギアスを解除しようと、そう考えた。
 歩く教会の防御範囲に露出している範囲は含まれない。
 顔を攻撃すれば絶命させることは容易だろう。

 ―――しかし、左腕を接合するためにまたしても工房に行かねばならないだろうな。
 今度はなんと口実をつけるか―――。


 ぬ?


 ずるり、と。
 荒耶宗蓮の体がずれる。
 ―――上半身と、下半身が分断された。
 先ほどの斬撃ですら比ではない。
 圧倒的な熱量を持って、切り裂かれる。
 仏舎利の加護すら失った魔術師は。
 耐える術など持ち合わせていない。

 これ、は―――。

「そうか。おまえの能力は、意識されなくなること、であったな」

 影のように静かに。
 東横桃子はデスサイズを携えてそこにいた。


 卍  卍  卍



 荒耶宗蓮は分断され地に倒れ。
 東横桃子は、それを黙ってじっと見ていた。

 小型ビームサイズ。
 それこそが平和の広間に存在した『武器』。
 この武器はただガンダムデスサイズの持つビームサイズを小型化したものではない。
 重さは物干し竿と同程度にしかなく、普通の人間でも振り回すことが出来る。
 その分、柄の部分の強度は下がってしまったし、ビームの持続時間は5分間と短い。
 しかし、GN粒子によるチャージ機能がつけられており1時間程度で再利用が可能となるという優れもの。

 その威力は静止の起源を持ち、半ば不死ともいえる荒耶をあっさりとバターのように切り裂くほど。
 本来はMSを破壊するためのモノで、人間相手に使用すれば、そうなることはある種必然であったが。


 命が、失われていく。死が、与えられていく。
 魔術師は、自らの運命を悟り、東横桃子に呪いを与えようとする。
 自分の意識からすら外れたこの少女に。自分を死に導くだろうこの少女に。
 言葉を贈るのもまた、一興かと、考える。
 奇しくもそれは、青崎燈子が荒耶宗蓮に、死の直前に残そうとしたものとまた、同じものであった。


「最後に教えよう。―――おまえの起源は“孤独”だ。東横桃子」

 静かな部屋に男―――荒耶宗蓮の声が響く。
 語りかけられたのは女―――東横桃子。
 しかし彼女はじっと彼を見詰めるだけで、それに応えようとはしない。

「―――そう、おまえは元より誰とも交わることのない人間だ。それ故、おまえは他人に求められない。他人を求めようとはしない。
 父や母といった肉親でさえ―――おまえには無関心だ。そして、自身もまた肉親に対し無関心だった。
 友人が、教師が、肉親が、当然のように与えるはずの情を―――おまえは知らない
 “それ”を、疑問に思ったことはなかったのか。辛いと感じたことはなかったのか。
 ―――あろうはずもない。“それ”こそが、おまえの起源であり、何よりも自然な状態であったのだから」

 ぎり、と。
 歯をかみ締めるような音が聞こえる。
 それは、聞く必要の無い死にぞこないの言葉だったはずだ。
 だというのに、どうしてだろうか。
 この言葉は、妙に心に訴えかける。
 東横桃子には起源が何なのかなど分かりはしない。
 そのような知識などはない。 
 だが、言葉に思い当たる節でもあったのか。
 必死で表情を、心を殺していた。


「だから―――」
「む」
「―――だから、それが、私にとって、何だっていうんすか……。
 起源とか、そんな話は知らない。私は、私は絶対に先輩を生き返らせる―――!」

 きっと、答えてはいけなかった。
 その問いに魔術師は不快な様子を見せる。

「死者蘇生―――それがおまえの望みであったか。
 ――――愚かな。
 無意識ながらも起源を自覚し、利用しているおまえが。今更、何を求めようというのだ。
 おまえには最初から、絆などと呼べるものは存在しない―――」
「うるさい。五月蝿い煩いうるさいっ!」

 否定する。
 桃子は荒耶の言葉を否定する。
 それを認めてしまえば、きっと。
 東横桃子は、もう東横桃子でいられなくなってしまう。
 荒耶はそこに漬け込むように言葉を続ける。

「私は、先輩が……。先輩だって私を……っ!」
「認められぬか、東横桃子。おまえの起源を。だが、それでもおまえは辿り付かない。
 おまえが望んだものは、最初から、偽りだったのだから―――」


「違う!」


 ぐさり、と。
 果物ナイフが荒耶の胸に刺し込まれる。
 ビームサイズの効果時間は切れた。
 そんなときのため、受け取っていたものだ。
 そんな安っぽい武器とも言えぬようなものが。
 荒耶宗蓮に止めを刺す。

「私自身とか、両親とか、クラスメイトとか。そんなのはどうでもいいんすよ」

 静かに、瞳から涙を流しながら桃子は応える。

「でも、私は本当に先輩が好きだ。だから、私を見つけてくれて嬉しかったっす。一緒にいてくれてすごく楽しかったんすよ……!
 起源とか、そんなことはどうでもいい。例え、この世の全てが嘘だって、この気持ちだけは偽れない。
 だから、

 私は―――お前を殺す。

 みんなを殺す。―――そして、先輩を必ず……」

 それは決意表明だった。
 それは勝利宣言だった。
 それは最終通告だった。


 荒耶宗蓮は、その言葉に何を返すこともなく。
 目を見開いたままで絶命した。


 卍  卍  卍


 夢を、見ていた。
 それはありえない平穏の日々。
 当たり前のように気を許せる隣人と笑い会える。
 毎日のように豊富で美味な食事が出る。
 人々が、幸せそうに平穏に暮らしている。

 でも、きっと。
 それはただの夢だった。
 私のようなものが。
 自分の統べた国すら救えなかった私が。
 見ていいような夢じゃ、なかったのだ。

 厳しくも優しい赤い少女がいた。
 陽気で快活な虎を想起させる女性がいた。
 残酷で純粋な白い女の子がいた。
 愚直で誰よりも近しく感じた少年がいた。

 ―――シロウ。
 私は、貴方をどう思っていたんだろう。
 貴方に否定されて、悲しかった。
 貴方だけは分かってくれると思っていたから。

 でも。それも夢だった。
 私の夢は、決して叶うことはないのだろうか。
 そんなことはない。
 そう、信じたい。
 いつか、この果てなき世界のどこかで。
 私の答えが、見つかると信じていたい。

 白く。世界が染まる。
 真っ白に閉じていく。
 だけどまだ、あと少し。
 一言、言い切るぐらいの時間は残っている。
 そんな時に、最後に思うのは。
 きっと……。


 そうだ。最後に、一つだけ伝えないと



 シロウ―――――貴方を…………。




 卍  卍  卍



 きらきらと輝いて。
 光の欠片が大気に踊る。
 刃の付きたてられたセイバーは。
 その鎧も、髪も、頭からつま先まで余すところなく。
 光へと返った。
 それはとても幻想的な光景で。
 僕にはそれが現実なのか。
 一瞬、自信がもてなくなる。
 セイバーの全てが分解されきった後。
 乾いた音を立てて。
 戒めの象徴である首輪がその場に落ちた。
 僕はそれを、ただ静かに見ていることしかできなかった。


 あの後、平沢を倒してからすぐに、上のほうから轟音が聞こえてきた。
 何かあったのかと、急いで階段を上ろうとしたが、ぶちまけた家具が邪魔で仕方がない。
 出来るだけ手早く詰めなおして、7Fまで走ってきた僕の目に映った光景が。
 それだった。

「―――セイ、バー……?」
「あれ、キタローさん?」

 気高かった少女はその言葉に答えることはない。
 代わりに彼女にナイフを突き立てていたあいつが、こっちを向いた。
 ルルーシュとともに出会ったばかりのこのゲームの参加者。
 久しぶりに突っ込みをさせてくれた愉快なやつ。
 だけど、その雰囲気はさっきまでとはまるで違う。
 平然としているのに、泣いているようで。
 どこか、他人を拒絶するような、希薄な雰囲気が漂っていた。

「……今の何だよ、東横。セイバーに何をしたんだ!?」
「さあ……普通にナイフ刺しただけなんすけどね」

 私もちょっとびっくりしてるんすよ?
 と、東横は軽く答える。

「ナイフで刺した、って……」
「ああ。私、優勝狙いっすから。……そっちこそゴスロリさんはどうしたんすか」
「ゴスロリ……平沢と、仲間だったのか?」
「ええ、まあ」
「……あいつなら、僕が倒した」
「……そうっすか」


 事も無げに言う彼女はぐるりと周囲を見渡す。
 それにつられて僕も辺りを見回した。
 よく見れば、パソコンやコンピューターでその殆どを占められたこの部屋は傷跡でいっぱいだった。
 コンピューターは破壊されていて、無事に使えそうなものなどありそうも無い。
 壁や床、天井にまで何かがこすれたような後。
 そして気付く。
 倒れていたのはセイバーだけでない。
 コンピューターをなぎ倒して、ルルーシュが倒れていた。
 その、二、三歩程前に体が真っ二つになった見知らぬ男。
 二人とも、ぴくりとも動きはしない。

「ちょっと……待ってくれよ。何だよ、これ……」

 分からない。
 想像の範囲外すぎて、理解が追いつかない。
 東横が、こんなことをしたのか。
 一人で?
 いや、平沢と仲間で?
 みんなを……殺した?
 セイバーを?
 ルルーシュを?
 見知らぬ男を?
 どうやって?
 ていうか、この男は誰だ……?

「ああ……待つならもう少し待って欲しいんすけど」
「え?」
「だって、もうすぐ放送っすから」

 冷静に告げる彼女を見て、ますます混乱する。
 誰かが慌ててると逆に冷静になる、っていうのの逆パターンか。
 だけど、東横の言葉で、一つ思い出す。
 そう、もう放送の直前だということに。

 僕はそれにどう答えるべきなのか、少し迷う。
 ああ、わかったと妥協するか。
 いや、殺人者を少しでも放っておけないと取り押さえるか。
 しかし、時間は待ってはくれず。
 第二回放送は始まった。


【荒耶宗蓮@空の境界       死亡】
【セイバー@Fate/stay night   死亡】



【D-5/政庁7F・情報管理室/1日目/昼(放送直前)】

阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(大)、全身に打ち身(治癒中)、左手に大きな裂傷(治癒中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!
    (適当に回収したため何が残っているかは不明、後の書き手にお任せします)
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
基本:知り合いと合流、保護する。
0:……わけがわからない。
1:東横から話を聞きたい。
2:放送を聞く。
3:戦場ヶ原、八九寺、神原と合流したい。他にも知り合いがいるならそれも探す。
4:憂をこのままにはしない。
5:……死んだあの子の言っていた「家族」も出来れば助けてあげたい。
6:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。
7:千石……八九寺……
8:太眉の少女については……?
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。


【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:ステルス解除、疲労(中)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備45発)@現実、果物ナイフ@現実(現地調達)
[道具]:デイパック、基本支給品(-水1本)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ
   蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)、小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達)
[思考]
 基本:加治木ゆみを蘇生させる。
 0:放送を聞く。その後、阿良々木をどうにかする。
 1:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
 2:もう、人を殺すことを厭わない。
 3:覚悟完了。ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
 4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
 5:そういえば、魔術師さん生け捕りにしろって言われてた。……どうするっすかねー。
[備考]
 ※登場時期は最終話終了後。
 ※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
 ※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
 ※自分の起源を知りました。

【蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)】
 咲-Saki-22話にて。鶴賀学園麻雀部部長蒲原智美の運転したらしいワゴン車。
 パスワードは「wahaha」

【GN小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達)】
 平和の広間にて回収された、ガンダムデスサイズのメイン武装を小型化したもの。
 軽量化に成功しており、女性でも振り回せる。その分、柄の強度は下がってしまったが。
 連続稼動時間は5分間だが、GN粒子を蓄えるように仕様の変更が行なわれているため、1時間ほどで再起動可能。
 しかし、擬似GN粒子が漏れているため、細胞障害を起こす可能性もある。注意。

【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(大)、右腕の骨折、気絶中
[服装]:歩く教会@とある魔術の禁書目録、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
[装備]:ゼロスイッチ(仮)@コードギアス反逆のルルーシュR2、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、ゼロの剣@コードギアス反逆のルルーシュR2、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実 、
ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュR2、“狐”“泥眼”“夜叉”の面@現実、
サクラダイト爆弾(小)×9、サクラダイト爆弾(灯油のポリタンク)×2@コードギアス反逆のルルーシュR2、
盗聴機、発信機×9@現地制作、単三電池×大量@現実、通信機×5@コードギアス 反逆のルルーシュ
アッシュフォード学園男子制服@コードギアス反逆のルルーシュR2、USBメモリ@現実(現地調達)、阿良々木暦のMTB@化物語、

[思考]
基本思考:枢木スザクは何としても生還させる
1:荒耶宗蓮から情報を聞き出したい。
2:駅に向かったというスザクと合流したい。
3:東横桃子、平沢憂と行動を共にする。
4:殺しも厭わない。東横桃子、平沢憂、スザク、C.C.、ユフィ以外は敵=駒。利用できる物は利用する。
5:スザク、C.C.、ユフィと合流したい。
6:南側の施設(ホール、タワー)を調査した後、政庁に向かう。
7:偽ゼロの放送を利用して、混乱を起こし戦いを助長させる。
8:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
9:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
[備考]
※R2の25話、スザクに刺されて台から落ちてきてナナリーと言葉を交わした直後からの参戦です。
 死の直前に主催者に助けられ、治療を受けたうえでゲームに参加しています。
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
※モモから咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※おもい蟹が怪異たる力を全てルルーシュに預けました。どんな力を使うかは後の人にお任せします。
※モデルガン@現実、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード、皇帝ルルーシュの衣装@コードギアス反逆のルルーシュR2、
 シティサイクル(自転車)、ジャージ(上下黒)、鏡×大量、キャンプ用の折り畳み椅子、消化器、ロープ、カセットコンロ、
 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、その他医薬品・食料品・雑貨など多数@ALL現実
 揚陸艇のミサイル発射管2発×2機、ミサイル×4発@コードギアス反逆のルルーシュ
 現在支給品バッグに入れています。
※揚陸艇の燃料…残り10キロ分 (E-5に放置されています)
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※Fー7ホールの平和の広間にてUSBメモリを入手しました。

【歩く教会@とある魔術の禁書目録】
 法王級の防御礼装。あらゆる物理、魔術的干渉を吸収する。
 しかし、その能力は大幅に制限されてしまっている。
 デザインはインデックスが本編で着ているものと同じ。
 しかし、誰でも着れるように御使堕し(エンゼルフォール)時の青髪ピアスのようなフリーサイズのものである。

※荒耶宗蓮とセイバーのデイパック、及びその装備品は回収されず、床に落ちています。

 卍  卍  卍



「あぁぁああぁああぁあー……もう、殺す殺す殺すッ!」


 物騒な声が、他に人影のない踊り場で響く。
 平沢憂。
 殺し合いに飲まれた殺人鬼の少女。
 あの後、頭を殴られて気絶した後、目が覚めてみれば、洗濯紐で縛られていた。
 敗北の証。
 ……まあ、それはいい。
 平沢憂は妥協する。
 一応、自分のやったことは理解しているのだ。
 拘束されるぐらいはやむなし。
 むしろ、それぐらいで済んだことを感謝すべきかもしれない。
 相も変わらず甘い、あの阿良々木暦に。

 しかし、
 何ゆえ、
 何ゆえ、亀甲縛りなのか?!

 なんか、動くと変なところに食い込んで……ああ、もう!
 ちょっと変な気分に……。って、そんな場合かー!


「殺す殺す殺すぅ……絶対に、殺してやるっ!」


 じたばたと暴れてみるものの拘束は解けず。
 ますます阿良々木暦に対する怒りは募るばかりだった。

【D-5/政庁4-5F間の階段踊り場/1日目/昼(放送直前)】

【平沢憂@けいおん!】
[状態]:健康、拳に傷、重みを消失、いらいらタイム、亀甲縛り(神原直伝)
[服装]:ゴスロリ@現実、洗濯紐@現地調達
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night、拳の包帯、おもし蟹@化物語
[道具]:基本支給品一式、日記(羽ペン付き)@現実、桜が丘高校女子制服、カメオ@ガン×ソード、
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・10発)@現実、
    包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor、双眼鏡@現実(現地調達)
    通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×10個
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。皆を殺す。阿良々木さんはもう絶対殺す。
0:とにかく、拘束をなんとかしたい。
1:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。お姉ちゃんは無理には殺さない。
2:モモさんはルルーシュさんが仲間だと言っているので殺さない。
3:阿良々木さんをブチ殺して、お姉ちゃんのギー太を返して貰う。

[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※ルルーシュがデパートから回収した雑貨の中から双眼鏡を受け取りました。
※おもし蟹は大量の家具、家電等で押しつぶされています。そのダメージがどの程度かは次の書き手に任せます。

 卍  卍  卍



 荒耶宗蓮の肉体は死んだ。

 体を両断されて、胸にナイフを突き立てられ、どうしようもないまでに、死んだ。

 だが、荒耶宗蓮はそれだけでは終わらない。

 そう、予備の肉体さえあれば、この魔術師は意識を移し生き延びることが出来る。

 用意周到なこの魔術師が……保険も容易していないわけがない。

 そうだ。それは、予備の体は、存在する。

 だが……そんなことを主催者側が許すのか?

 一度しかない命を奪い合うから面白い。そうではないのか。

 主催者の一員だからと、そこで特別扱いはしない。

 違うか。

 然り。

 しかし、気付かれなければいい。

 それが、荒耶宗蓮の予備の体だと、気付かれなければ、いい。

 使わないで済むのなら、それに越したことはなかったのだろうが。

 この期に及べば仕方はない。

 そう。それはもう登場している。

 我らの前に、登場している。

 君ももう、知っているはずだ。

 誰の意識もない。人形のような体で。荒耶の予備とはとても思わない肉体を。

 そう。

 それは―――『蒼崎橙子の人形』である。


【荒耶宗蓮@空の境界   蘇生】



【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:新しい体への適合中
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。しかし今は参加者たちを扇動する
0:新たな体に適合する。その後、状態の把握。
1:殺し合いが動きやすくなるようにする。
2:必要最小限の範囲で障害を排除する。
3:機会があるようなら伊達政宗を始末しておきたい
4:利用できそうなものは利用する。
5:会場の結界を修復する
※首輪はダミーです。時間の経過と共に制限が緩んでいきます。
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉があります。
※蒼崎橙子の人形は、荒耶に適合するように改造がしてあります。その詳細はのちの書き手に任せます。


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163:徒物語~ももこファントム~(上) 平沢憂 177:状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察
163:徒物語~ももこファントム~(上) ルルーシュ・ランペルージ 177:状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察
163:徒物語~ももこファントム~(上) 東横桃子 177:状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察
163:徒物語~ももこファントム~(上) 阿良々木暦 177:状況説明と亀甲縛りの構造に関する考察
163:徒物語~ももこファントム~(上) セイバー GAME OVER
163:徒物語~ももこファントム~(上) 荒耶宗蓮 175:H and S.



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最終更新:2011年08月11日 05:52