H and S. ◆hqt46RawAo



これはまだ放送前の時刻である。


エリア【F-1】地区。市街地にて。
無人の民家が立ち並ぶ路上を歩きながら、魔術師エツァリは頭の中を整理していた。

数時間前まで、エツァリは他の参加者に出会うことも無く、その身に危険が迫る事もなく、ただ一人きりで歩くだけであった。
しかし彼はここ数時間の内に、実に様々な事態に見舞われる事となったのである。
知らされた想い人の死、発見した少女の死体、固めた決意。
そして、それを揺るがしかねない敵との圧倒的な力量差を知り、この島に来て初めて他の参加者と接触した。
これに加えて、最後には首輪を解除した女性を発見したのだ。

再び一人きりになった彼が、一気に得た情報を分析し、
自分がこれより何をすべきかに思慮を巡らせたのは至極当然の行動であり。
それによって、自身が置かれている状況を正しく理解する事も、また自明の理であった。


エツァリは市街地を進む。思考しながらも、その歩みはかなりハイペースなものだった。

(さて、それでは一つ一つ考えをまとめていきますか。正直…考えたくない事も多々あるのですがね……)

まず思考するのは主催者について。これから立ち向かっていく敵についてだ。

(異世界から人を集める力。……聞いたことも有りませんが、インデックスの魔道書の力であればあるいは……)

エツァリはヴァンとの情報交換によって、このゲームに参加している者の大半が、異なる世界より集められていると見当をつけていた。
ヴァンの言う事を完全に信用した訳ではないが、ヴァンが語った世界観には実感が込められていたし、無駄な嘘をつくタイプにも見えなかった。
それにもし間違っていても、後に他の参加者と交流すればすぐに分かることだ。実害は何処にもない。
故に、今はその前提で思考を進める事にする。

(しかし例え『異世界間の人物転送』が魔道書の力だとしても、インデックスを洗脳したものが別に居るはず)

このゲームが遠藤とインデックスの二人だけで企画された物とは到底思えない。
インデックスを操り、その力を利用している者が裏に居るはずだ。
それがエツァリが知る世界の人間なのか、それとも異世界の者かは判断できないが。

(今の時点では黒幕の正体なんて想像もできないですね……)

せいぜいが、あの漆黒の鎧姿の男を一参加者として捕らえる程に強大としか予想できない。
他の参加者と交流するなどして情報を増やし、推測していくしかないだろう。
あの男より強大など、エツァリには頭が痛くなる話であったが、いまだ正体が見えていない分、
彼は立ち向かう事にそれほど恐れを抱く事もなかった。

次に首輪について考えてみる事にする。

このゲームの主催者を殺し、死者蘇生の業をもって御坂美琴を生き返らせる。
彼にとっては、これが最終目標。
ならばいかなる行動方針で動こうとも、最終的には主催者達と戦わなくてはならない。
その土俵に立つ為には首輪の解除が必須な課題だ。
しかし、その方法を知っているであろう女は眠り続けるばかりである。
ただの眠りには見えず、いつ起きるかもわからない。
だからエツァリは一度、自分が持てる知識で解除法を推定してみることにした。
彼は、回収した首輪を触りながら思案する。

(この薄さ……学園都市の技術でも致死レベルの爆発物を仕込むには無理がある。ならば機能の大半は魔法で構成されているのだろうか?
 しかし、それならば上条当麻の右手で即解除されてしまう事になる。
 逆に『異世界の進んだ技術力』で説明をつける事もでますが、それだけだと今度は参加者の魔法や技術次第で、いとも容易く解除されるかもしれない)

幻想殺しと魔術師、その両方を縛るには技術力と魔術の両立が不可欠と考える。

(つまりこの首輪は複数に渡る異世界の魔法と、異世界の技術力を組み合わせて作られた代物。
 解除するにはそれぞれの世界に対応した魔術に精通する者と、それぞれの世界に対応した高度な技術力を持つ者、
 それらが複数人揃わなければならない。と言ったところでしょうか……?)

それなりに形になった首輪への考察を基盤に、今度は具体的な解除法を考えていく。

(使われている魔術の中には当然僕達の世界の魔法も混じっているはず、これは上条当麻と合流できればイマジンブレイカーで打ち消せるはずだ。
 問題は他世界の魔法と技術力か……。魔法はすべて上条当麻が消せると楽観的な仮説でいったとしても、技術力だけはどうしてもネックになりますね……)

エツァリ自身や彼が知る人物に、機械工学に対応できる人間がいない以上、この島の中で技術力に秀でた人間を何人か見つけるしかないだろう。

『上条当麻』か『魔術に秀でた者』、それに『異世界技術に対応した複数の技術者』を一同に揃える必要がある。

これが、エツァリが彼なりに考えて出した首輪解除法の結論だった。
この仮説が正しいとすれば急がねばならない、解除に必要不可欠な人物が全て死亡してしまったら、首輪を解除する手段が消え果る。

(そうならない様に、この人には早く起きてもらいたいんですがね……)

心の中でボヤキながら、エツァリはディパックの中の女に思いを馳せる。

(この女の人が目を覚まして、ハッキリとした首輪の解除法を示してくれれば、あるいは簡単に……ん?)

そこまで考えたとき、彼はどこかに無視できない引っ掛かりを覚えた。
今しがたの首輪に関する考察。
それが的を射たものであると仮定して、眠る女が首輪を解除した言う事はすなわち……。

「…………ありえない」

エツァリの口から呟きがもれる。
予兆のような危機感に見舞われ、思わず足を止めていた。

「たった十二時間、いや六時間以内に『魔術師』と『技術者』を揃えた?」

ヴァンの話ではこの女を最初に発見したのは、第一回目の放送より前の事だったらしい。
それまでににエツァリが考案した条件を満たすことなど到底不可能だ。
もし、他に方法があったとして、それが例え単独で行える物だとしても。
六時間以内に条件を満たして首輪を解除し、にも拘らず市街地の真ん中で眠りこけて起きない。
そんな状況がありえるだろうか?
今しがたエツァリは上条当麻などの要因を考えて、首輪の強固さをよく理解した。
それを踏まえて考えてもみれば、そもそもこの短時間で首輪を解除できる事の方が既に異常。
これではまるで、最初から首輪を着けていないほうが釈然とするような。
つまり――

「この女はまさか……」

参加者ではない、主催者側に属する人間。と、考えたほうが自然ではないだろうか?

「―――ッ!」

その直感に、エツァリの全身を強烈な悪寒が走り抜けた。
背負うディパックがやけに重く感じる。無論錯覚だ、何を詰め込もうともディパックの重量に変化は訪れない。
彼はようやく、自分がどれほど異質な存在を背負っていたのかを理解したのだ。

(この女は何者だ?自分は一体なにを背負っている?)

あふれ出した焦燥と寒気を押さえつけ。
エツァリは他の全てを思考からそっちのけて、女の正体を推測した。


(有り得ない短時間で首輪を解除せしめた人物。
 あるいは参加者外、主催者かそれに繋がりうる人物)

思い浮かんだのはその二択。
どちらにしても、全力で警戒しなければならない不確定要素だ。
まるで死神を背負っているような感覚に囚われる。
とはいえ、放り出して逃げるわけにもいかない。
この女は主催者への重要な手がかりになるかもしれないし、首輪を外す事が出来るかもしれない要員をここで手放わけにはいかない。
膨大な危険が伴おうと、ここは接触しなければならないだろう。
いざとなれば此方には、切り札のトラウィスカルパンテクウトリの槍がある。
しかし、もしもこの女が主催の一味ならば、ただディパックに入れて持ち歩くなど危険極まりない。
手足を縛るなどして、目を覚ました時のために備えるべきだ。

(ああ……しかし縄がない。もう一度ショッピングモールに行かなければなりませんね……。
 それに、この姿も不味い、主催者と繋がっている可能性のある正体不明の人物に、素顔を見られるのは避けたい)

落ち着きを取り戻しつつ、彼は判断をつけていく。

(この女が主催側の人間なら、恐らく参加者全ての情報も知りえているでしょう。
 そんな相手に正体を明かしては、同時に自分の手の内を全て明かすようなものだ。
 トラウィスカルパンテクウトリの槍も察知される……)

故に、この相手には他人の体で対応するべきだと、彼は判断した。
後に生じるかもしれない問題も、今は無視する。
本当の素顔を捨て去る事は出来ないが、貼り付けた仮面ならいつでも剥ぎ取る事が出来るのだ。
そして、仮の顔なら替えが効く、他ならぬ新たな素材こそ、この眠る女の皮膚である。

(焦らず、好機と捉えましょう。今の僕ほど主催者に近い参加者はおそらく居ない)

そんな確信を胸に、エツァリは取り出した護符を握り締めた。

(主催側に接触する一大事だとすれば。警戒に、護符の一枚くらいは安いものですね……)


時刻は放送後へと進められ、場所もエリア【F-1】地区ショッピングモールへと移される。

ほとんど廃墟と化した百貨店の三階にて、荒耶宗蓮は意識を取り戻した。
まずは現状整理。周囲の状況と、自身の状態の把握に努める。

(ふむ……)

自身の状態に関しては数瞬で理解した。
意識の転移は無事成功、代替の肉体的損傷は皆無。しかし適合率は最悪と言っていい。
やはり急ごしらえで偽装した人形だった為か、この肉体は魔力の廻りが驚くほど悪い。
これまでの制限とは比較にならない程の能力抑制を受けている。
使用する脳が切り替わった為にギアスの効力を逃れ、再び魔術の行使が可能になったのはいいが、
三重に展開したまま移動が可能だった結界も、この体では恐らく一重しか展開できず、また常時展開も不可能。
体が女性の物に変わったことで格闘能力も減少している。

(これは少し、想定外だったか……)

弱体化どころの話ではない。これでは場合によると、武装した一般人にすら殺されかねない。
早急に対策を講じなければならない。
これまでの様にサーヴァントに向かって正面切るような立ち回りは不可能だ。
以降は、やり方を変える必要がある。

(それを考える前に、やらねばならない事が有るな)

少し遅れて周囲の状況を理解する。
ここはショッピングモール三階の、とある販売店の中。
元々何を売っていたのか分からない程に店内は滅茶苦茶であったが、近くに転がっていた看板がその場所を示している。
どうやら『日曜大工屋』という店であったらしい。
その床に荒耶宗蓮の肉体は転がされていた。
彼はそのまま床に体を投げ出した状態で、眼球だけをギョロギョロと動かして索敵する。
果たして人影は――あった。

2メートル程左に、ロープを物色している少女が一人。
荒耶に対して背を向けており、彼が起きた事には気づいていない様子だ。
それ以外にはこの場に誰もいない。
ならば、彼にとってするべき事はまず一つであり、
これからの事について考えるのは、その後でよかった。

「蛇蝎」

女性の物でありながら重苦しい呟きが発せられ、結界が周囲に広がっていく。
踏み込んだ者に静止を強要する領域が、少女を絡め取る。

「――なぁっ?!」

少女が驚いた声を上げたが、それも一度まで。
結界に囚われた少女は、それ以降声も発せぬままに硬直する。

それを見越し、荒耶も一気に全身を起こした。
馴染まない体の違和感に耐えながら少女の背後へと詰め寄り、首根っこを引っ掴んで、うつ伏せに押し倒す。
女性の腕力になったとはいえ、相手も少女。彼がしくじる事など当然無く、制圧は滞りなく完了した。

「――――!」

未だ静止の結界に囚われている少女は悲鳴も上げられない。
ただ苦悶の表情を浮かべながら、荒耶を睨む。

(このあたりが限界か……)

展開された結界は、既に揺らいでいた。
やはり一重であっても、移動しながらの使用には限界があるようだ。
事は早々に済ませるべきだろう。
荒耶は少女の首を握る力を強めた。

「――」

そして、荒耶の口から短い呪文が発せられ、首を押さえていた彼の掌から、魔力が少女の首輪へと流れ込んだ。
流し込まれた魔力は首輪の外面を覆っていた魔力の流れに溶け込み、一つの効果を示し始める。

荒耶宗蓮はこの島の結界を配備する役を請け負うと同時に、首輪の製作に携わった者の一人でもある。
核となる内部機器を操作する事は出来ず、よって単独では首輪の解除までは出来ないが、
首輪に対する外部干渉を防ぐ為の礼装の製作における中心となったのは、まさしく彼の魔術である。

であるならば。触れる事によって、それらに干渉する事は当然可能であり。
それによって、首輪の機能を一部だが阻害することも出来るのである。
今彼がやった事こそ正にそれ。
首輪外面に流れる魔力をいじり、首輪に仕込まれた盗聴器の集音を阻害させること。

やがて結界は消滅し、再び少女の体に自由が戻る。
既に首からも荒耶の手は離されており、すぐさま少女は四つん這いで荒耶宗蓮から距離をとっていった。
そうして、真っ直ぐにディパックへと縋り付き、中に入っていた銃を抜き取った。

「すまなかったな、こちらに害意は無い。私は君の味方だ」

店内のテーブルに腰を掛け、こちらに銃口を向ける少女に暗く沈んだ視線を返しながら、荒耶は初めて会話らしき声を掛けた。
声だけは優しげな女性の物である。しかし本来の荘厳な質を失わない魔術師の声。
それに話しかけられた少女――加治木ゆみの貌をした者は緊張感を高める一方であった。

荒耶は銃を構える加治木ゆみの正体がエツァリであることなど、とっくに看破していた。
エツァリは橙子人形が放送前から眠っていた故に、荒耶が加治木ゆみの死を知らぬ物と思い込んでいた。
しかし、実際には第二回放送はともかく、第一回目の放送は荒耶も把握している。
死んだはずの人間の姿を騙れる者は参加者では限られてくる。加えて、新しい体の皮膚が一部切り取られているのを見れば瞭然だった。
しかし、ここはあえて騙されたフリをする。
荒耶とエツァリが対等なのだと錯覚させてやるために。

加治木ゆみ――の皮を被った魔術師エツァリの首輪に仕込まれた盗聴器は無効化させた。
これで会話を始めても、主催者側に荒耶の生存が知れる事は無い。

ここまで弱体化した荒耶では、単独で式を捕らえる事などもはや不可能。
この体が完全に馴染むまではまだまだ時間が掛かる。ならばそれまで座して待つ、というわけにもいかない。
万が一にもゲームに乗った者に出会う事は死を意味する。今度こそ保険は無い、これ以降は安全策で望むべきだ。
荒耶にとって、今は一刻も早くマンションへと向かう事が最優先だった。
そこならば体の適合も短時間で可能だろうし、主催の目と殺し合いに乗った者の目を同時に逃れる事が出来る。
しかし、そこにたどり着く為の道のりにも危険が伴うだろう。
なればこそ、彼が目の前の魔術師を利用しない手は無い。

(我が目的の成就のために利用させて貰うぞ、異世界の魔術師よ……。)

目的はただ根源へと至る為、荒耶宗蓮は厳かに言葉を紡ぎだす。

「私の名は蒼崎橙子、魔術師だ」

こうして、仮面を被った二人の魔術師が邂逅した。


「私の名は蒼崎橙子、魔術師だ」

嘘の名乗りが、荒れた店内に響く。
エツァリは未だ銃を下ろす事無く、それには応えない。
荒耶はさらに言葉を続けた。

「質問だが、君は殺し合いに乗っているのか?」
「乗っていません。貴女はいったい何者ですか?」

その問いに、ようやくエツァリも言葉を返した。
同時に自らも問いを投げ、答えを待つ。

「私は主催者側の人間だ」

エツァリは自分の予想が的中していた事を知り。
更に探りを掛けた。

「証拠は?」
「ふむ……確か、君の名は加治木ゆみだったな。特に親しい人間は、この島には東横桃子のみ。
 後何人か顔を知っている者もいるが、友人と呼べるのは東横だけだろう。こんな所でいいか?」

荒耶は『参加者の個人情報を知っている事』を証拠として示した。
正体を見破っている事は、悟らせない。
対してエツァリは、手に入れた「借りた顔の主の情報」を記憶に刻み込んだ。

(なるほど、では『加治木ゆみを殺した人間』か『東横桃子』にさえ出会わなければ、変装のボロが出る事は無い……か。)

そうすると当然、問題になってくるのは東横桃子であり、その特徴を知る為に更なる問いを投げた。

「確認の為に聞いておきます。東横桃子の外見的特徴は?」


その後幾つかの問答を終え、ようやくエツァリは銃を下ろす。
とりあえず、目の前の女が主催者側の人間で、本当に害意が無い事は分かった。
そして、彼は核心に迫る問いを投げる。

「貴女が主催者側の人間なら、一体なにが目的で接触してきたのですか?」
「それについては最初から話そう、まず私が何故このゲームに関わることになったのかだが……」

荒耶が語った経歴はまとめると大体以下の様な物であった。

  • 自分は主催者達の目論見を察知して、それを止める為にゲームに紛れ込んだ者である。
  • この島の結界の構築を請け負い、首輪の製作にも関わった。
  • 期を見てゲームを内部から崩壊させようと狙っていたが、主催者側から信頼されておらず、ゲーム開始と同時に殺された。
  • だが、間一髪で支給品に紛れ込ませておいた代替の肉体へと意識を移し、生きながらえた。
  • 今まで眠っていたのは体への適合がなかなか終わらなかった為である。

嘘が半分と本当が半分という割合だったが、エツァリにそれを判別するすべは無い。

「先程の無礼は盗聴器を止める為のものだ。主催者達に生存を知られる訳にはいかんのでな」

それでも、エツァリは納得する一方で、未だに警戒感を拭えずにいた。
確かに今現在は、目の前の女に害意が無いのは理解した。もし殺す気なら先程エツァリは死んでいただろう。
しかし、そうそう都合の良い存在が、都合よく自分の目の前に現れるだろうか?
最低でもこの女の言う事を全て丸々信用するのは危険すぎる、と判断する。
やはり、警戒心を保ち、正体は隠しておくべきだろう。
味方だと判断するには早過ぎると断じ、エツァリはポケットの中の黒曜石を握り締めた。
いざとなれはこれを使って打ち倒す、と言う意思をこめて。

「僕は自分の目的の為に主催者達を殺します」
「なるほど、君は主催者を打倒する為に行動するか……。なら我々は協力し合える関係かな」
「貴女はこれからどうするつもりですか?」
「『敵のアジト』に向かうつもりだよ、そこに幾つか主催に対抗する術を施してある……。
 君も来るか?あそこなら、あるいは首輪の解除も可能かもしれん」

その問いにエツァリは無言で頷いた。
目の前の女が敵か味方かはまだ判断が下せないが、主催者側であることは確実で、『敵のアジト』に何か在るのも確かだろう。
ならば、今はとにかく付いて行って、本当に味方であればそれでいいが、敵であれば撃退する。
リスクは承知だったがやるしかないだろう。
この女には油断せず、二度と先程の様な隙は見せまいと、彼は硬く心に誓った。


二人がショッピングモールを出た瞬間。
ショッピングモールの屋外駐車場にて、荒耶はそれを見つけた。

「加治木ゆみ、これが何だか分かるか?」

荒耶は駐車場の隅に取り付けられている二つの装置を指で指す。
近づいてみるとそれぞれに、『首輪換金装置』『無人自動販売機』と書かれている。

「ああ、蒼崎さんは放送を聞き逃していたんでしたっけ。
 先の放送で『首輪をペリカに換金するシステム』と『ペリカを使える自動販売機』が設置される事になったんですよ。
 しかし、考えてみると妙ですね。何故このタイミングで、こんなシステムが導入されたんでしょうか?
 首輪を持っていられると都合の悪くなる出来事でもあったんでしょうか?蒼崎さんは何か心当たりありますか?」
「いや……」

それとなく探りを入れるエツァリに、首を振る荒耶であったが当然彼にはその理由が分かっていた。

(魔術行使に対する防御礼装の停止。焦ったか……遠藤)

彼が意識を取り戻した後も、首輪への魔力流入は途絶えさせている。
当然そんな事をすれば主催側に荒耶の生存が知れることになるし、彼にはもう主催側に払う義理も無かった。
これをむしろ好機として行動する。
主催が彼の事を死んだと思っているのなら、これ以降は殺し合いの扇動に労力を割かれることなく自由に動く事が出来る。
問題は能力の低下だけで、それもマンションに着けば解決するのだ。
その為に、エツァリには武器となり、盾となって貰う予定である。

「首輪換金は論外として、自動販売機の方は……っと」

エツァリの言葉につられて、荒耶も販売機の方を見る。
そこに書かれていたメニューは以下の通りであった。
―――――――――――――――――――――――

ミネラルウォーター :120ペリカ
拳銃 (エンフィールドNo.2) :1000万ペリカ
散弾銃(モスバーグM590) :2000万ペリカ
バイク(V-MAX)         :3000万ペリカ
タコス移動販売車(片岡優希仕様):4000万ペリカ
ヘリコプター(燃料極小) :1億ペリカ
※時間経過で商品は増えていきます。
※各地の販売機によって、商品は多少変更されます。

―――――――――――――――――――――――

それを見て、エツァリの表情が僅かに曇る。

「僕の持ち金ではバイクまでが限界ですね。あと一千万あれば車を買えたのですが……」
「ならば二人乗りで行くしかないだろう。君は運転が出来ないか。」
「でき……あー、できません」

彼は運転出来たのだが、自分が加治木ゆみの姿をしていた事を思い出し、出来ないと偽った。

「……そうだったな、なら私が運転しよう。君は後ろに乗りたまえ」
「…分かりました」

そうして、エツァリは持ち金を全て使い、バイクを購入する。
すると一台も車が止まっていなかった駐車場の真ん中に、大型の黒いオートバイが出現した。
二人は一応警戒しながらも、特に驚きもせずに現れたバイクへと近づく。

「ふむ……これならば二人乗りでも問題ないな。君も早く乗りたまえ」

さっそく、荒耶がそれに跨り、後ろをポンポンと叩いた。
続いてエツァリも後ろから跨った。
ただ、そうすると当然、エツァリは蒼崎橙子の体を後ろから抱きしめる形となり――

(なんというか……二重の意味で心苦しいですね……)

女性化した自身の胸を、荒耶の背中に押し当てる体勢になる。
湧き上がる微妙な気持ちを押さえつけ、エツァリはポケットの黒曜石の硬さを意識することにした。

「では、出発するぞ……」
「……はい」

何はともあれ、バイクは走り出す。
むかう先は『エリアA-5にある敵のアジト』
姿かたちを変えつつも、譲れぬ信念を胸に、二人の魔術師が動き出した。


【E-1/屋外駐車場/一日目/日中】

海原光貴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(中)、加治木ゆみに変身状態
[服装]:白いシャツにジーパン
[装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭 包丁@現地調達 、黒曜石のパワーストーン@現地調達
[道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、衝槍弾頭予備弾薬35発   
    洗濯ロープ二本とタオル数枚@現地調達 、変装用の護符(蒼崎橙子)、加治木ゆみの首輪、変装用の衣類
[思考]
基本:主催者を打倒し死者蘇生の業を手に入れて御坂美琴を生き返らせる。
0:胸が気になる。
1:蒼崎橙子(荒耶)について行き、首輪の解除と、主催を倒す方法を見つけ出す。
2:蒼崎橙子(荒耶)に対して警戒を怠らないようにする。
3:上条当麻、白井黒子を保護
4:バーサーカー本多忠勝を危険視
[備考]
※この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師。
 現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。海原光貴の姿も本人の皮膚から作った護符で化けている。
※主催者は本当に人を生き返らせる業を持っているかもしれないと思っていますが信用はしていません。
※上条当麻には死者蘇生は効かないのでは、と予想しました。
※加治木ゆみを殺したのは学園都市の能力者だと予想しています。
※ヴァンと情報交換を行いました。
※東横桃子の外見的特徴を把握しました。
※『「上条当麻」か「魔術に秀でた者」、それに「異世界技術に対応した複数の技術者」を一同に揃える事』で首輪の解除が可能かもしれないと考察しています。
※荒耶宗蓮によって首輪の盗聴機能が無効化されています。破壊ではなく無効化なので、主催者側に察知される事はありません。
※蒼崎橙子の正体が荒耶宗蓮である事には気づいていません。
※加治木ゆみに化ける為に護符を使用しました。今現在の姿は加治木ゆみそのものです。


【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(低)、発現可能魔力大幅低下、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身状態
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン
[装備]:バイク(V-MAX)@現実
[道具]:オレンジ色のコート
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。しかし今は体を完全に適合させる事に専念する。
0:バイクの運転を続ける。
1:なるべくゲームに乗った者に出会わないよう、主催に気づかれないように行動する。
2:『敵のアジト』にむかい、体を適合させる。 (工房に寄っていくかは考え中)
3:道中の危険に対し、エツァリを利用して乗り切る。
4:必要最小限の範囲で障害を排除する。
5:機会があるようなら伊達政宗を始末しておきたい。
6:利用できそうなものは利用する。
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉があります。
※現在の状態で使用できる結界は『蛇蝎』のみです。常時展開し続ける事も不可能です。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※接触している加治木ゆみの正体がエツァリであることには気づいていますが、気づかないフリをしています。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。



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163:徒物語~ももこファントム~(下) 荒耶宗蓮 186:secret faces
148:それは不思議な出会いなの 海原光貴 186:secret faces



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最終更新:2010年01月23日 09:43